どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話   作:凍傷(ぜろくろ)

207 / 214
逸らし続けた先の『次』
振り返った高校生活


 ずっと変わらず、いつまでもそのままで、なんてものがいつまでも輝いたままでいられることはひどく少ない。

 ずっと友達でいようねっ、なんて無理な話だし、なんなら俺は友達なぞいないから話にすらならない。

 だがそんな、ぼっちな俺でも変わらないもの、変わるものはあるのだ。

 ただしそれは、変えなきゃいけないものや、変わらないのではなく受け取り方を変えただけ、というものが大半を占めていた。

 

「あ、ヒッキー! やっはろー!」

「おう」

 

 俺と由比ヶ浜の関係なんてその最たるものだ。

 いつまでも変わらず、なんてものが有り得ない、その代表例とも言える。

 された挨拶にぶっきらぼうに応えて、なにを話すでもなくそのまま擦れ違う。

 相手が何かを話したがっていようと、一方に話す気が無いのならそんなものは成立しない。

 俺も由比ヶ浜も自分の教室へと歩き、それで話す言葉もなにもなく終わる。

 高校3年。

 俺達は、とっくにバラバラだった。

 

   ×   ×   ×

 

 想いを向け続けて、その想いが報われることなく、逸らされた視線が逸らされたままだったら、果たしてそれをされた人間はどれだけそれに耐えられるだろう。

 どれだけ、そちらを向き続けていられるだろう。

 答えは簡単。その想いが続く限りだ。

 つまり途切れてしまえばそこで終わり。

 強制入部から始まったお節介活動は、二年の終わり、ひとつの依頼を受けたことで崩壊した。

 なにが出来たわけでもない。

 ただ、生徒の限界ってのがそこにあっただけだ。

 たまたま解決解消できた今までが運が良かっただけで、真剣に悩み、相談した生徒が依頼への失敗を周囲に語った。それだけの話。

 言ってしまえばそもそもが不自然な部活だったのだ。

 生徒は教師に相談しに行った。ああいう場に相談しに行くのは、案外勇気が要ることだ。コミュ症なら猶更な。

 普段から職員室に行き慣れている者や、教師相手に萎縮しない相手は度外視するが、基本は行き辛く、相談しようと踏み出すこと自体が楽じゃない。

 だというのに相談してみれば生徒三人を紹介された。

 その時点で“先生になら相談出来るかも”は裏切られたわけだ。

 紹介してくれたのに相談しないわけにもいかない。多少の失望はあろうと、この人が紹介してくれたのならと、そこでも勇気を出して口にしたのだろう。

 結果として、今まで面識もなかった三人に、自分の秘密を語らなければならなくなる。

 一人に語れば十人以上に伝わると想像が出来るようなこのご時勢、それだけでも相当に覚悟が要った筈だ。

 だというのに結果は失敗。

 教師を信頼して相談しに来た生徒は、普通ならば秘密を言う必要もなかった三人に打ち明けることまでして、それを語られやしないかという恐怖しか得ることができなかった。

 

「………」

 

 自分の席で溜め息を吐いた。

 今日も今日とてぼっちな俺は、なにをするでもなく奉仕部なんていう場所に入らなければそうなっていたであろう高校生活を、今さら満喫している。

 友達もなく知り合いもいないこのクラスで、女子に話しかけられることもなく、男子に話しかけられることもなく。

 言ってしまうなら状況は底辺に位置する。

 今までの解消の仕方の問題で、友達や知り合いは居なくても敵なら居るって状況。

 ただし相手も自分に関わり合いたくはないのか、近づくこともないが。

 奉仕部が無くなってからの日々は、まあ、平和的ではなかったと言える。

 俺と由比ヶ浜と雪ノ下が顔を会わせる機会は極端どころか一気に滅んだし、それを途切れさせないためにとケータイを手にしては、俺と雪ノ下に「部活はなくなっちゃったけど放課後に集まろう!」と誘い続けていた由比ヶ浜も、今では時折廊下で擦れ違う程度だ。

 材木座は部活という名目で小説を見せに来ることもなくなり、戸塚も3年になってからやることが増えたんだろう、俺に会いに来る機会も減りに減り、今ではめっきりだ。

 高校二年のあの時期が特殊なだけだったと言えばそれまでの話の、なんでもない……ただ何処にでもあるような高校の青春の話。

 

……。

 

 高校3年ともなると、さすがに遊んでばかりじゃいられなくなる。

 二年で得た経験をもとに、いつまでも同じじゃいられないと躍起になっては、数分後には“明日から本気出す”な自分が形成されるが、そんな自分がすぐに破壊され、また頑張ろうとする自分になった。

 何故かといえば……去年そこにあった筈の、思い出せば恥ずかしい、だが確かにそこにあった青春から逃げたかったからなのだろう。

 他人にご高説語れるほどの人間性などなかったくせに、たまたま歯車が噛み合ったからって自分の体験からなる予想を口にしては、解決解消出来ていた部活動。

 振り返ってみればひどい話だ。

 相談者が望んだ結果は、誰か一人が矢面に立って、その場が落ち着く、なんて周囲の汚い部分を目の当たりにするような世界じゃなかった筈なのに。

 

「……はぁ」

 

 考える時間が増えれば、結論に至る人だって増えてくる。

 あの時のあれってつまりそういうことだったんじゃない? えー? だってあの比企谷だよ? なんて言葉が聞こえ始めてくると、解決ではなく解消でその後を迎えた幾人かに遠目から見られることがあった。

 その目が言っている気がした。

 他にやり方があったんじゃないか、と。

 そんなことはない、あれがぼっちに出来る最善だった、なんて言わない。

 何故って、俺は既にあの時点でまちがっていたからだ。

 ぼっちだったなら確かに俺だけの判断で行動してよかった。

 だが部としての行動を語るなら、それは確実にアウト。やっていい行動じゃない。

 俺に任せてくれって言うなら、取る行動も手段もなんもかもを相談した上で口にする言葉だろう。

 それをしなかったツケが今さら解消の結果に現れて、友人を無くして一人で居る誰かを遠目に眺めた。

 

「………」

 

 平塚先生だって相談の全てをこちらに持ってきていたわけじゃない。

 一生徒が請け負うには重すぎる話は、きちんと自分で相談に乗った筈だ。

 だがそんな相談の重い軽いなんて、ちょっと話を聞いただけで全てを理解出来るわけでもないのだから、失敗だってそりゃああるのだろう。

 実際、話を聞いて“生徒に解決出来る域を超えている”と判断して、二人にやめとけ、受けるなと告げたこともあった。

 相手が欲するのが魚の捕り方ではない相談なんて、どうしろっていうんだ。

 そうした先に失敗があって、泣きながらの罵声を耳にし、やがて廃部に到る。

 それでも時間は待ってくれない。

 過去が潰れたなら今出来ることを探すしかないし、いっそ現状の周囲の声が聞こえなくなるくらい、なにかに埋没するしか取れる行動がなかった。

 

 逸らした視線は、いずれ前へ戻さなければならない。

 そんなことを思っていた自分は、何処へ行ってしまったんだろう。

 

   ×   ×   ×

 

 FROM ☆★ゆい★☆

 TITLE notitle

 ねぇゆきのん。あたしたちさ、このままでいるしかないのかな。

 なんかさ、全然だめなんだ。

 ゆきのんはさ、あなたらしくって言ってくれたけど、あたしらしくじゃ見向きもしてくれない。

 もう、高三だね。

 ずっと見ないフリされてさ、頑張ってあたしからって思っても空回りばっかでさ。

 もし、おんなじ大学いってもこのままだったら、あたし、それまでの自分に納得できるのかなって……最近かんがえるようになったんだ。

 勉強する人が増えて、やけっぱちみたく女子誘う男子が増えてさ、なんか……告白されることが増えてもさ。

 あたし、今のままでいいのかな。

 このままで、いいのかな

 

 

 FROM 雪ノ下雪乃

 TITLE 好きにしたらいいと思うわ

 自分の人生なのだから、好きに生きなさい。

 姉に憧れるでも反発するでも、世界を変えるでもない、あなたがしたいと思うことを、出来る内に。

 

 

 FROM ☆★ゆい★☆

 TITLE notitle

 だめだったらさ、これまでのこと、全部無駄になっちゃうのかな

 

 

 FROM 雪ノ下雪乃

 TITLE そうね

 恋愛なんてそういうものなのではないかしら。

 それを活かして次はそうならないように努めることしか出来ないでしょう。

 

 

 FROM ☆★ゆい★☆

 TITLE notitle

 ゆきのん……

 

 

 FROM 雪ノ下雪乃

 TITLE だから

 奉仕部のことは忘れなさい。

 人には現状で出来る限界と、想像の範疇を超えた悩みというものがあった。それだけのことよ。

 そして、言われてしまえば拒否出来ない人も居て、“この三人に相談しなさい”と教師に言われれば拒否できない人も居た。

 私たちはその人の要望には応えられなかった。それだけなのだから。

 

 

 FROM ☆★ゆい★☆

 TITLE notitle

 でもさ、部活がなくなっても、会うことはできるよね?

 すれちがってばっかだけど、会ってさ、また前みたいに話し合ったり相談したりとかさ

 

 

 FROM 雪ノ下雪乃

 TITLE notitle

 ……忘れなさい。忘れて、現状で繋がりを広げなさい。

 あの日にすがったところで、それ以上の広がりは先にはないわ。

 メールもここまでにしてちょうだい。

 これから家の用事があるから。

 

 

 FROM ☆★ゆい★☆

 TITLE notitle

 そしたらさ、前よりもっと楽しくなってさ、それd|

 

  編集中のメール

 

   保存する

 

  ⇒破棄する

 

             キャンセル

 

 

 FROM ☆★ゆい★☆

 TITLE notitle

 そしたらさ、前よりもっと楽しくなってさ、それd|

 

  編集中のメール

 

   保存する

 

   破棄する

 

            ⇒キャンセル

 

 

 FROM ☆★ゆい★☆

 TITLE notitle

 そしたらさ、前よりもっと楽しく|

 

 

 FROM ☆★ゆい★☆

 TITLE notitle

 たのし|

 

 

 FROM ☆★ゆい★☆

 TITLE notitle

 たのしかったじかん

 

  編集中のメール

 

   保存する

 

  ⇒破棄する

 

             キャンセル

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 なにも変わらないままの日々が続いていく。

 周囲は俺に関わろうとせず、俺もまた、周囲に関わらない。

 人は急には変われないというが、それは変わる状況に立っていないからだろう。

 人には変わらなきゃならん場面ってのが何度か訪れるもんで、多くの場合はそれに気づかず、またはあとで気づいて見送るばかり。

 あの時ああしていたらと思う時こそそれであり、多少タイミングを逃したと自覚している時でも、その自覚出来た瞬間を逃さなければ立ち上がることが出来たのだ。

 だから、人よ。時が来たなら迷うべからず。

 そして俺にはそんな瞬間はもう二度と訪れないだろう。

 高二に全てを見送って、俺はなにもしなかった。

 いずれ、平塚先生の言うとおり、あの二人にもそういう瞬間が来るのだ。

 今だよ、と言ってくれた平塚先生の言葉も受け取らず、結局目を逸らし続けた俺は、どこに落着することもなく、これからもそういった瞬間から目を背け、後悔し続けていくのだ。

 

「───」

 

 今立ち上がれば出来ることがあったとする。

 今走り出せば間に合うなにかがあったとする。

 今気まぐれにメールをすれば、喜ぶ誰かが居たとしたら、それは───

 

「………」

 

 ぽち、ぽち、と。

 暇な休み時間にメールを打つ。

 こんなもんはただの気まぐれだ。

 送る必要もなければ、いっそ書くだけで満足したっていい。

 逸らし続けているものをちらりと見たところで、相手に無駄な期待を持たせるだけなのだから。

 だがだ。実際俺はどうなんだろう。

 平塚先生の言う通り、あいつらがそういった瞬間を迎え、その隣に居るのが───

 

「おえ」

 

 気色の悪いものが喉までせりあがって来た時、拍子に送信を押してしまった。

 そういうことでいい。

 こういうものは確認の文字が出るもんじゃないか、なんてツッコミなんて、“取り消そうと思ったら、普段からメールなんて飛ばす相手がいないから、取り消しの位置間違えちゃった、てへっ☆”ってことでいいのだ。

 ただ、いつまでも自分からを続けるあいつを、無視し続けることに罪悪感を覚えていたのもある。

 知っていながら、気づいていながら視線を逸らすことは無視である。

 んーなことはぼっちであれば誰だろうと知っていることだ。

 そう知りながらも逸らしてきたなら、それは立派な無視行為である。

 あれ? これ普通に最低じゃね?

 

「あー……」

 

 送ったメールも小町に関することに、あいつに対する俺の心配を混ぜたもの。

 いや、小町があいつに用があるのは本当だ。

 ただ、それで俺からメール飛ばすのって変じゃね? とは思うわけで。

 なのでしきりに小町が、と強調したメールを飛ばしてみたのだが。

 

「……?」

 

 珍しいこと、あのメール好きのガハマさんがちっともメールを返してこない。

 何事か、と思いつつ、それでも何度も送る気にはならなかったから、そのままでいた。

 ……ただ、俺はひとつ勘違いをしていたのだ。そうなるわけがないを前提に置きすぎていた。

 俺や海老名さんという特殊な人物が、人からの過剰接触に対し“じゃあ、もういいや”とあっさりと縁を切ろう、断とうと思えるのと同じく、どれだけ“みんな一緒に”を信条に持とうと、その周囲こそが自分の行動に見向きもしなければ、人は誰だっていつか“じゃあ、もういいや”を使えるのだ。

 それを前提として置かず、知らずに……自分から行く、に甘えすぎていたのだと思う。

 

……。

 

 いつからか、やっはろーを聞かなくなった。

 廊下で会っても気まずそうに顔を逸らすだけ。

 声をかけられることもなければ、視線が合うこともない。

 メールが届くこともなければ、とうとう送ったメールがデーモンさんによる返信で戻ってくることになった。

 

「………」

 

 その動揺といったら、どう表せば人に届くのか。

 親しかった? それなりに付き合いがあった相手からのこの対応は、かつてないほど俺の胸を抉った。

 だが同時に自業自得だ、当たり前のことだとも納得していた。

 どれだけ頑張っても見てももらえない相手に、いつまでも自分の時間を潰していられる人間は多くない。

 それを一途じゃないなんて馬鹿にするヤツも居るが、じゃあ一途でいれば報われるのか? 違うだろう。

 それは正しい判断な筈だ。

 これからが大事なやつらが、過去に囚われて足踏みしたってしょうがない。

 だから……まあ。

 こんな動揺も後悔も、あの時ああしていたらも、いずれ時間が潰してくれるのだろう。

 

   ×   ×   ×

 

 春が過ぎた。

 なにも変わらない日々が続く。

 ただ通い、ただ勉強し、ただ帰る日々。

 小町が結衣さんのアドレスがどうのと言っていたが、変えた上に聞いてないからと告げて、それで終わり。

 周囲にもゆっくりと変化が浸透していくと、やがてそれが当然になって、自分もそれに流されていくのだ。

 世界ってのはそういうもんだ。

 そういうふうに、できている。

 

……。

 

 夏が過ぎた。

 図書館で涼みながらの勉強ばっかが記憶に残ってる。

 二人との縁が切れたからといって、小町が俺を嫌うようなこともなく、「ま、お兄ちゃんだもんね」なんて言って、それで完結した。

 慰めているつもりなのか、やたらと一緒に行動したがったが、まあようは勉強教えてなんだそうだ。

 一緒に川なんとかさんの弟のー……川崎大志か。がついてきたが、別に怒る理由も特にない。

 小町と大志がどこか無力を噛み締めるように俺を見ていたが、長いことは気にせず、勉強を続けた。

 

……。

 

 繋がりがなくなった関係はもろいもんだと思う。

 集まる理由もなくなり、メールする理由もなくなればこんなもんだ。

 いつまでも続くものなんてなく、その過程で得たものだって簡単に離れていく。

 高校三年間で得たものなど特になにもないことに気づくと、ただただ後悔ばかりが沸いてきた。

 何故って、捻くれ続けることよりも出来たことが確かにあったからだ。

 俺は結局、そういうのは俺みたいなぼっちの仕事だ、みたいに嫌な視線の集め方をしていたくせに、勘違いの方向を言い訳に踏み出さなかった。

 今だからこそ思う。“なんだそりゃ”って話。

 状況の中に巨悪を作って小さな悪を善に見せるだの、場の空気の流れを軽口で促して、自分に目を向けさせるだの。

 そんな視線を容易に受け止める覚悟があんなら、視線なんざ逸らさずに気持ちを受け止めることくらい出来ただろうに。

 自分で振り返ってみてもわけがわからない。いったい俺はなにをしたかったのか。

 そういう視線を向けさせることは出来ても、一時“は? 別に好きじゃないし、なに勘違いしてんの?”なんて言われることを恐れる? ……わからない。二年の俺はただのアホか馬鹿なのだろう。

 そして、それを取り戻すことも、視線を前に向けることももう出来はしない。

 何故って、向いた先にはもう、あの花火の日のあいつはどこにも居ないからだ。

 

 いずれ高校生活も終わる。

 振り返ってみてもなにもない。

 終わった先になにがあるのかを、俺はもう……高校入学の日のように、楽しみになんて出来なくなっていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。