どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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嘘も本物もあっての青春

 努力は報われるべきだ。

 報われない努力ほど虚しいものは無いし、努力が報われない物語ほど落胆を抱くものもなかなかない。

 その時点でざまぁみろと主人公を見下すのか、次頑張れば……と励ますのかで、それまでの主人公の性格がわかるってものだろう。あ、読者の心もか。

 

「……比企谷。この舐めた作文はなんだ」

「高校生活を振り返った結果ですね」

「………」

「………」

「……君は。成長したのかしていないのか」

「しましたよ。とりあえず物怖じはあまりしなくなりましたし、噛むこともなくなりました」

 

 高三も残り僅か。

 大学入試も余裕余裕なんてヤツは余裕そうに日々を暮らし、自信はあってもまだまだ勉強、ってヤツは図書館通いで日々を過ごしたりしている。

 授業があろうが予備校のワーク案内を広げるヤツもちらほら居たし、なんなら授業を聞かずに自分の勉強を一心不乱に続けるヤツも居た。

 俺も勉強組だ。組っつってもあくまでその枠ってだけで、ぼっちであることには代わりはない。

 そんなことを、他の誰も居ない空中廊下で話し合う。

 

「それよか平塚先生、平気っすか?」

「ああ、問題はないさ。相談しに来る生徒は極端に減ったが、あの生徒も自分で動かなかったくせに、他人に完全解決を求めるなんて、どうかしていたと言ってくれた。……情けないことだが、解決できなかったのは確かで、結果としてひとつの部が潰れたのも、問題を起こしておいてハイ異動、というわけにもいかなくなったのも確かだ。留任希望は出してはいたがね。……すまなかった、比企谷。あの部が残っていたなら、君は───」

「なんも変わりませんよ。結局俺がなにもしないで、見ない振りをしたまま、全部が終わってたっす」

「君が何もしなくても、彼女らが───」

「平塚先生。青春って言葉だけで輝けるほど、人の生活って眩しいもんじゃないでしょ。振り返ってみた生活から輝いてたもん探すほうが億劫な奴だって居ます」

「……。君は、そう思うかね」

「全部が全部ってわけじゃないって言わせたいなら、確かにそうです。けど───」

 

 けど、俺が何もしなくてもあの二人が、なんて願うのは、俺をあの部に入れた平塚先生の願いとは真逆なんだと思う。俺から動かないならなんの意味もない。

 それは、答えにはならないだろう。

 

「……あの二人にとっての君が、君にそうしたいと思えるだけの人間になっていたのなら、話は別だ。……別なんだよ、比企谷」

「………」

 

 言って、平塚先生は寂しそうに夕陽を眺めた。

 釣られて見る夕陽は、いつか見たものよりもずっと遠くに見えた。

 いまさらだ。なにかに気づけたところで、欲しいものも輝いていたであろうものも、手の届く位置にありはしない。

 無理に取りにいったところで、それはもうカタチを変えてしまっていて、やはりどうあっても綺麗に嵌まり合ったりなどはしないのだ。

 

「受験はどうにかなりそうか?」

「余裕、とは言いませんけどね。まあ、普通に合格は出来ると思います」

「そうかね」

 

 うす、と答えて、会話は終わった。

 そうかね、と言った平塚先生は、どこか楽しげだった。

 

   ×   ×   ×

 

 出願も済み、いよいよ勉強漬けになってくると、時折頭のリフレッシュをしたくなる。

 ここでハメを外しすぎて、勉強に戻りたくないでござる症候群に蝕まれるフレンズはたくさん居るので気をつけよう。すっごーいじゃ済まされないからね、いやマジで。

 勉強する場所を変えてみるのも気分転換になる。

 そんな理由でリビングで勉強していた時、ぽしょりと小町が漏らしたことがある。

 

「……ね、お兄ちゃん。家ってさ、こんな静かだったっけ」

 

 そうだったんじゃねーの? 変わりようがねーだろ、と返し、ストップウォッチ代わりのスマホに触れると、イヌリンガルのアプリアイコンが寂しそうにぽつんとそこにあった。

 ……そうだ、変わりようがない。結局は“こうなる”んだから。

 今は小町も遊びに出ていてここにはいない。

 後輩として元気に総武にやってきた妹に、部活をしている兄を見せてやれなかったのは、今でも小骨のようにしつこく刺さったままだった。

 

「………」

 

 なんの気なしにアプリを起動。

 省電力のために無効化されていたものが久しぶりに立ち上がり、自動アップデートを終了して最新版となって画面に映った。

 

「あー……わんわんわんわんわんっ!」

 

 少しの羞恥心を胸に、スマホへ向かって吼えてみた。

 結果は───…………

 

「…………はっ」

 

 笑っちまうような結果。

 それはない。そんなことはねーんだよ。

 俺はもう納得してるんだから。

 テーブルの椅子に座りながら、スマホをソファへと投げた。

 あんなものを見ないように。目に映らないように。

 電源も切られないまま投げられ、ソファで弾んだスマホは、寂しい、遊ぼう、帰りたい、と、ぼっちが吼えた結果を……やがて画面が消えるまで映し続けていた。

 

……。

 

 勉強漬けの日々を過ぎ、入試を迎え、やがて終了。

 合格発表までは多少あるが、まあそれも今まで通り適当に過ごしていればすぐにやってくる。

 溜め息ひとつ、雪が降る道をゆっくりと歩いた。

 知っている奴とは誰とも会わない。

 そりゃ当然か、相手が知っていても俺はほぼ知らない。

 しかも相手が知っている理由が、ほぼあっち方面の理由からだ。

 何が緩衝剤になったところで、一度出回った噂ってのは消えない。

 寒空の下、マフラーで口元を隠すようにしながら少し早めに歩いた。

 マフラーを深く巻いて、ニットを深く被って、死んだ眼で道を歩く猫背男……あれ? これ不審者じゃね?

 そんなことを考えながらコンビニに寄って、肉まんを買って食べながら帰る。

 もちろん妹の分も購入済みである。

 

「雪か……」

 

 こんな時期に雪とか、嫌でも思い出させてくれる。

 あの頃はほんと、いろいろあったわ。

 一年でこんなに変わるんだな、ってそりゃそうか。

 奉仕部に入ってからの一年であんなに変わったんだ、そりゃ変わる。

 環境も関係も。そして、やがて元に戻るのだ。

 必死に保とうとするやつの気も知らないで、どうせそんなもんだなんて、伸ばしてきた手から目を逸らしたままで。

 あいつは……いったいどんな気持ちだったんだろうな。

 突然無くなることが決定した居場所を前に、どれだけ必死だったんだろう。

 そんなことを今さら……本当に今さら思い返して、ただただ申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 なにかを終えたのなら、人はなにかの分だけ成長する。

 それに気づけるか気づけないかでその幅は変わって……俺はきっと、気づけても逸らしてきた分だけ、その成長を妨げ続けていたのだと思う。

 静かに降り、音もなく積もっていく雪を眺めながら、ふと……なにかに強く、深く謝りたくなった。

 ごめん、すまん、悪かった。

 口にするのは簡単で…………でも。

 相手が居ない謝罪ほど、行き場のないものなんてないのだと、その“孤独”を胸に刻み込んだ。

 あるだなんて自惚れることもできない、きっと許されもしない、そんな“次”のために。

 

   ×   ×   ×

 

 そして……合格発表。

 2月中旬の寒い日のことだった。

 なんの感動もなく、自分の番号とうざったらしいほどに飾られた番号とを見比べていく。

 喜びを分かち合う誰かも居ない。

 ウェーイと叫び、手を叩き合う誰かも居ない。

 泣きながら抱き合う誰かも居ない。

 ただ無感情に、自分の番号と同じ番号を見つけ、ま、こんなもんだろう、なんて頷いた。

 さ、帰ろう。

 そんで、卒業までのんびり過ごす。

 一年前がやかましすぎただけなんだ。

 俺は結局、なにがどうなったって結局はこうして、なにもないまま出来ないままに日々を送る。

 いいだろ、それで。

 それで……いいだろ。

 

「、っと、……小町?」

 

 突如の電話。

 もはや俺に電話する相手なんて一人しか居ない時点で、表示される名前も確認せずに電話に出た。

 

「おう、どしたー?」

『っ……ヒッキー!!』

「へ? ……あ? 由比ヶ浜?」

『~……ひっき、あたしっ……ぐすっ……あ、あたしっ……!』

「ぃ、や……おい、どうした? なんで───」

 

 なんで今さら。

 ああいや、今はそんなことはどうでもいい。

 なんでこいつは泣いて───

 

『あたしっ……あたしね、頑張ったよ……? いっぱいいっぱい頑張って、いっぱいいっぱい努力した……! 出来ないこと、いっぱい出来るようになるため、って……自分に出来ること、きっと出来るって信じて……!』

「おい……?」

『~……っ……合格っ! ヒッキーと同じ大学、合格出来た! いっぱいいろんなこと出来たと思う時間、たくさんたくさん無くしちゃったけど……もうその時に出来たこと、もう出来なくなっちゃったけど……でも、合格出来たから……!』

「合格って……お前……」

「『ヒッキー!!』」

「え───」

 

 合否の結果で喜びの泣き声と悲しみの泣き声とが行き交う場所。

 そんな人ごみが、つい、と逸れた時。

 そこに、黒髪の少女が居た。

 目、いっぱいに涙を溜めて、でも、笑顔で俺を真っ直ぐに見る、お団子のない……かつての部活仲間が。

 

「お前……」

「結果、出せたんだ……。もうね、大丈夫かなって心配する必要なんてなくてさ……。あたしね、奉仕部がなくなるの、すっごくすごく嫌だった。なんとかしようって思ってても空回りばっかで、頑張っても頑張り方なんてわからなくて、訊いても決まったことなんだって言われるだけで」

「………」

「ゆきのんにね、奉仕部のことは忘れなさいって言われたんだ。あの日にすがったところで、広がりなんてないって。……言いたいこと、すごくいっぱいあった。でも、なにも出来ないあたしじゃ、ただごねてるだけってのも……わかっちゃったから。だから……だからね?」

「おう……」

「だから……楽しかった時間に、さよならしたんだ。一度全部忘れて、全部断って、結果を出せればって。きっとさ、総武高校の入試の時と同じくらい……ううん、それ以上に必死だった。でも……」

「………」

「でも、やっぱり不安でさ。ほんとにこれでいいのかな、これこそ無駄になっちゃうんじゃないかなって思ってたら……ヒッキーからメールが来た」

「メール? ……って…………」

 

 そうだ、最後に由比ヶ浜に送ったメール。

 返信はこなかったけど、いつかの日に気まぐれに送ったメール。

 ……そか。ちゃんと見てはもらえてたのか。

 

「自分だけで頑張んなきゃって決めたのに、他の人の言葉で覚悟決めちゃうなんて、って思ったんだけどさ。でも……嬉しかったから」

「……そか」

「ん、そだ」

 

 涙をこしこしとぬぐって、にこっと笑う。

 

「ね、ヒッキー」

「お、おう……どした?」

「あたしね、合格できたよ」

「お、おう……らしいな」

「うん。だから……」

「だから……?」

「これからの、ヒッキーやゆきのんの残りの高校生活、今日まで無くしちゃった分……あたしがもらっても、いいかな」

「へ?」

 

 え………………いや、いやいやいや。

 え? なんでそうなる? いや、確かに無くしちゃったけど、なんでお前に?

 

「今日までゆきのんともヒッキーともずうっと連絡もしなかったから、今日から卒業まで、ううん、卒業してももっと楽しむんだっ!」

「いやその理屈は───」

「ヒッキー。あたし、自分から行くっていったよね?」

「え……おい。お前、俺のことなんてどうでもいいとかそうなってたんじゃねーの?」

「? なんで?」

「いや……だってメール送っても受信拒否になってたし」

「あ。ぁゃ、やー……だから、えと。ヒッキー断ちとかゆきのん断ちしなきゃ、勉強とか手につかないって思って……」

「廊下で擦れ違った時とか、“やだちょっと知り合いと思われたら恥ずかしいからこっち見ないで”って顔で目ぇ逸らしてただろ」

「そんなこと思ってないよ!? た、ただ自分の目的のために無視してごめんって思ってただけだよ!?」

「え?」

 

 なにそれやーだー、八幡ったらうっかりさん☆ じゃねぇよちょっとやだもう恥ずか死にそうなんですけどアホですかアホでしたごめんなさい。

 

「と、とにかくそれで、勉強のこととか平塚先生に相談したり、願書のこととかも話して……」

「………」

 

 あの日。

 相談する生徒が極端に“減った”と言った平塚先生。居なかったわけじゃない。

 入試はなんとかなりそうと言ったら、笑った平塚先生。

 あらやだあのティーチャーったら全部知ってやがったよちくしょうめ。

 

「───」

 

 だったら。

 だったら、もう二度と戻れない、逸らした目を前へ向けても誰も居ないと思った先には───

 

「? どしたの? ヒッキー」

「───……」

 

 ないと思っていた“次”があった。

 ……なんか、知らん。知らんけど、ほんと知らんけど……涙がこぼれた。

 

「え? わひゃあ!? どどどどしたのヒッキー!? どこか痛───あ、嬉しかったんだ! うんっ、あたしもだっ! 合格おめでとっ、ヒッキー!!」

 

 そうじゃねぇよ馬鹿。

 そうじゃないのに、この喉は、声帯は、それを声には出してくれない。

 どう足掻いたってこの喉は、確信を得られなければ無謀には飛び込まない“臆病”で出来ていた。

 だから俺は……スマホを手に、あるアプリを起動すると、スマホを由比ヶ浜に押し付けて───そして、叫んだ。

 

「わんわんわんわんわんっ!! ゔー……わ゙んわんわんっ!!」

「え、え? ヒッキー? ひ…………、…………ぁ、ぅ……」

 

 急に吼えた俺にわけもわからずおろおろして、押し付けられたスマホの意味に困惑しながらそれを見た彼女が、真っ赤になって声をこぼした。

 そんな彼女はそんな咆哮結果を自分のケータイでパシャリと撮ると、結果をリセットしてから俺にスマホを押し付けた。

 

「お、おい?」

「わっ……わんわんわんわんわんっ!!」

「え……、なっ───!?」

 

 顔を真っ赤にして吼えた彼女。

 何事かと思いつつもスマホを見下ろせば、好き、大好き、遊ぼう、帰ろう、と……そんな結果が並んでいた。

 ンバッとスマホから視線を戻せば、涙目で真っ赤な顔の由比ヶ浜。

 これって本当か、なんて訊くまでもなくて───

 

「~……いっぱい……逸らしたままで、その……悪かった。お前さえよかったら……今さらでもよかったら……俺と、付き合って───」

「ヒッキーぃいいっ!!」

「どぉわっ!?」

 

 言い切る前に飛びつかれた。

 抱きついてきた彼女の頬は冷たくて、でも……流れる涙は温かくて。

 相手が自分が好きかを確信できなきゃ、罪悪感があっても告白できない俺は、ようやく……きちんと、まともに相手のことを好きでい続けられるらしい。

 

「ヒッキーヒッキー! ヒッキー! ~……ヒッキーッ!!」

「ちょっ、やめろっ……! こんな人がいっぱい居る場所でヒッキーヒッキーって……!」

 

 どんだけ人を引きこもり千葉代表にしたいの。お願いやめて?

 しかし泣いた子供にはどころか、泣いた、えー、あー、そのー……こ、こここ恋人には、早速勝てない比企谷です。

 弱い俺を許してくれ。

 

「いっぱいいっぱいデートしようねっ! 行きたかったところ、いっぱいあるんだよっ……!? やりたかったことも、あの時しかきっと出来なかったんだろうなって思ったことも……! だから、だからっ……!」

「………」

 

 もっと早くに前を向けていたなら、出来たことはきっともっとたくさんあった。

 今じゃ出来ないねー、なんて寂しそうに終わってしまったものを眺めさせることもなかったかもしれない。

 だが───だからこそ、今から出来ることならなんだってやろう。

 ……おうとも、俺はこいつに、逸らしてきた分だけを存分に仕返ししてやる腹積もりだ。

 

  ───そういうのは俺のようなぼっちの仕事だ、なんてやり方でヘイトを集めたことがある。

 

 ならこれからは、恋人の俺になら出来ることを、こいつのために全力で叶えていこう。

 恥ずかしさなんて飲み込んでやる。

 人は急に変われない? 人から逸れたぼっちなら、んな常識くらい破壊してこそ超一流。

 そうだ、もう思い知ったのだから。

 俺はもう、俺の出来る限りの全力で、まだ俺を見ていてくれたこいつを───

 

「? ヒッキー?」

「あ、いや……その。お、おお、そういや、雪ノ下とはどうなんだ? ゆきのん断ちがどうとか言ってたけど」

「あ、うん。ゆきのんからはね? 奉仕部のことは忘れて、現状で広げられるものを探しなさいって。でね、メールもここまでにしてちょうだいって言われたから、丁度いいのかも、って……楽しかった時間に一時的にばいばいして、それから……うん、頑張った」

「お、おう。偉いな、おう偉い」

「えへー……♪ って、なんか馬鹿にされてるっ!?」

「いや、本気ですげぇって思うわ。本当に…………ああ。ありがとう」

「わっ……うう、なんかヒッキーに素直に感謝されるってくすぐったいかも……」

「なんだそりゃ……。ああ、じゃああれか。雪ノ下は一応、お前が連絡を断って一人で頑張るってのは知ってるわけか」

「え? なんで?」

「え?」

「え?」

「………」

「………」

 

 あ。なんかやべぇ。

 俺はその時、確かにそう思ったのでした。

 

   ×   ×   ×

 

 その後の話をしようか。

 結局……まあその。

 雪ノ下は第一志望で失敗した。

 結衣からの連絡が途絶え、メールを送ればメーラーデーモンさん。電話も拒否とくれば、きっと雪ノ下の精神的ダメージは相当なものだったに違いない。

 そうして頭の中が真っ白のまま勉強と入試を迎え、やらかした。

 第一志望は真っ白のまま、しかし滑り止めで俺達と同じ場所を選んでいたことで、そこで一時的に頭脳が復活。

 パーフェクト回答をしてみせたが、のちの滑り止めでも見事に失敗。

 結局は俺達と同じ大学に進むことが確定し───

 

「大学いったらサークルとかどうする?」

「あっ、あたしテニスとかやってみたいかもっ」

「「却下」」

「なんでー!?」

 

 俺と雪ノ下は、随分とまあ結衣に対して過保護になっていた。

 そりゃな、あんだけー……まあ、言っちまうなら馴れ馴れしかったのに、急に接してこなくなると、気になって仕方が無くなる。

 その反動か、とにかくこいつに構ってないと落ち着かないのだ。

 あとテニスサークルとかマジ勘弁。

 

「うー……じゃああたしたちで作るとか?」

「奉仕部のことは忘れなさい」

「うん、同じの作りたいとかじゃなくてさ、八幡とゆきのんとお茶してさ、たまに誰かがお邪魔しにきたりする、そんなサークルとかがいいなって」

「ふふぅんむっ! 話は聞かせてもらったぞ、八幡よぉおおっ!!」

「あ、部員は間に合ってますんで」

「ぶひぃっ!? ま、まだなにも言ってないであろう!?」

「あははっ、お待たせっ、八幡っ」

「おうっ、戸塚っ! ……材木座も戸塚の送迎、お疲れさん」

「ひどくない!? 我に対してだけ扱いが雑くない!?」

 

 ───あの日。

 全部を無くして、全部が元通りになったと思っていた日々は、どこにもない。

 無くしたと思っていたものは、動かなかった俺が手を伸ばしもしなかっただけで、スマホでも公衆電話でもいい、連絡をすれば……簡単に繋がる位置に、あったんだ。

 それぞれが勉強に集中していて、それぞれがそれぞれに気を使って、誰にも連絡を取れなかっただけ。

 人との関係にばかり臆病だった俺達が、今はそんな“俺達”の中で笑っている。

 なんの冗談なのか偶然なのか、全員が全員同じ大学に合格して。

 

「平塚先生ももう来ると思うから、そしたらさっ」

「あ、結衣。小町が大志捕まえたと。姉も一緒らしいからちと待て」

「近くかな。じゃ、えとー……迎えに行っちゃおっか?」

「まあ、そうね。小町さんのメールによると、位置的に目的地周辺のようだし」

「うんっ! じゃあ行こうっ!」

「きゃっ!?」

「お、おいっ、結衣っ!?」

 

 結衣が、俺と雪ノ下の腕を取り、笑顔で駆け出した。

 瞬間、雪ノ下は仕方の無い、といった感じに微笑み、戸塚が天使の笑顔で微笑み、材木座が眼鏡を鈍く輝かせて笑い、駆け出した。

 そんな、いつからか嫌っていた筈の“みんな”の中で、俺は───

 

「あ、危ないわ、由比ヶ浜さんっ……!」

「もー! ゆきのんっ! いい加減名前でいいってば!」

「ぇ、あ……ゆ、ゆい、さん……?」

「……えへー……♪」

「あ、そうだよ八幡。僕たちもさ、そろそろ……」

「はぽっ……!? は、八幡が、我の真名を……!?」

「おいやめろ顔赤らめるな」

「ほらほら八幡っ」

「お、おう……彩加?」

「うんっ、八幡っ」

「~……うー……!」

「あの、いたいっ!? ちょっと結衣!? 結衣さん腕腕痛い痛いあ、でもちょっとやわらか痛い痛い痛い痛い痛い!」

「ヒッキーの馬鹿! あたしの時はなかなか呼んでくれなかったくせに!」

「いやっ! あの頃の俺はほんと本気で頑張ってだなっ……! てか呼び方元に戻ってるぞ!?」

「あ、あのー……はちまん? 我の名前は……」

「……はぁ。まったく、結局いつもこうなのだから───」

 

 ───俺は。

 まちがえたからこそ経験できた想いを胸に、逸らし続けていた目を真っ直ぐ前に向けながら。

 残りの高校生活を───確かに青春って呼べる輝きの中を、笑顔のままで歩けている。




「Q:このお話、結局ガハマさんばっかが頑張ってるような」
「A:原作読み返してみて思ったんだ……。八幡さん、ほんと動かないし、積極的じゃないのはまあ性格的にもちろんですが、ヤバイ状況になってから動くor誰かに言われてからしか動かないなどばかりで……。うん、ほら……結局どんな本物欲しかったんだアータ」

 それをつついてみたかったSS

 うん、つまりは……原作でもいつものことだと思うのデス
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