どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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第三話 由比ヶ浜結衣は今を知り、受け入れる

 それからのことを話そうか。

 結果として、由比ヶ浜は隣に居る。

 由比ヶ浜は“あの瞬間に消えて”、雪ノ下は“頭に衝撃を受け”て、どうあれ目の前で起きたことを信じられなくて、“由比ヶ浜のことだけを忘れる”。

 で……で、なんだが。

 

「チャコフスキー……」

 

 目の前がゆりんゆりんです。

 連れてきた由比ヶ浜を見た途端、雪ノ下が号泣、抱き締めたまま離さなくなってしまった。

 

「あ、あのな、雪ノ下。ここまで実行しといてなんだけど、まだやらなきゃならんことがだな」

「ぐすっ……ふぐっ……う、うぅう……、……ええ、わかっ……ひっく……わかっているわ……」

 

 事情は説明した。

 由比ヶ浜にもわかりやすいように、簡単な図にしたりもして。

 で、だ。

 俺達がすることは、過去の俺達が知らない範囲で、由比ヶ浜を過去で暮らさせることだ。

 どうあれ俺が研究してタイムマシンを作った未来を作らなきゃ、最後の辻褄が完成しない。

 重要なのは俺が過去に行くためのタイムマシンを作るということ。あと、まあ。成長した俺達二人と居ても、こいつも居心地悪いだろうし───

 

「えっと……ごめんヒッキー、ゆきのん。それってさ? 過去に戻っても、あたしは二人に会えないってことなんだよね? ママにも会えないし、他の友達にも。ニュースとかであたしの顔を知った人が居たら、あたしだってバレた時点で無事が確認されて、ヒッキーがタイムマシン作らなくなる、とか」

「……比企谷くん」

「……、すまん。そこまで考えてなかった」

「少し思考を傾けすぎよ。目先の行動に目を移すと他を考えられなくなるのは、あなたのよくないところだわ」

「ぐっ……」

 

 まったくその通りだった。

 会うことは出来なくても、せめてその時代で、なんて思っていたらこのザマだ。

 

「ヒッキー今大学生なんだ」

 

 あれから少し身長も伸びた俺を、由比ヶ浜が興味深そうに下から上まで見まくってる。

 

「本当にね……タイムマシン、なんていうものをこの年月で作り上げてしまうなんて、どういう粘り強さをしているのか……」

「いや……年月は関係なかったっつーか、異次元的な骨が語りかけてきたっつーか」

「? ほね?」

「偶然の要素しかなかったって話だ。幻想空想を求めるあまり、ファンタジーに軽く首を突っ込みかけたってだけ」

 

 ようするに俺のはマシンなんてものじゃなく、そのどこぞの骨の助力あってのものってことだ。

 それでもこうして助けることが出来たなら───

 

「ね、ヒッキー、ゆきのん。あたしさ、この時代で暮らそうと思うんだ」

「え───」

「はぁ!? おまっ……本気か!? だって───」

「神隠しとか、えとー……あとはなんだっけ。りゅうぐうじょう? あ、ちがった、浦島太郎だ。それと似たようなもんだって思えばさ、ほら、パパとかママもおかえりーって言ってくれるんじゃないかなーって」

「いやでもお前……みんな成長しちゃってるんだぞ? いろんなものがあの頃とは違うし───」

「そんなの、あの頃に戻れてもみんなと一緒に過ごせないんじゃ同じじゃん。あたし、あの頃のー……せ、青春? ほど、楽しい思い出なんてないって断言できるもん。だから、あそこに居られない空白なんて、あたしはここで取り戻してやるんだ」

「………」

「………」

 

 やだ……この娘逞しい……!

 ああいや、でもまだ動揺しているだけってことも有り得るかもだし、数日様子を見るつもりで───

 

「……いいか? 雪ノ下」

「本人がそういうのだから、いいのではないかしら。ただし由比ヶ浜さん」

「は、はい」

「……まずはその“はい”、というのをやめてちょうだい。それと……両親には自分で」

「あ、うん。それはもちろん。じゃあ早速電話で───」

「待ちなさい。あなた、ここでいきなり電話をかけて、その、や、やっはろーするつもり?」

「え? だってさ、ほら。浦島太郎ならさ、急にこの世界にきて、なんも知んないで電話かけてみるほうがそれっぽいよね?」

「………」

「ゆきのん?」

「えっ? え、え───ぇえ、そう……そう、ね、ええ」

「………ぶふっ……!」

 

 時を経て、雪ノ下を言い負かすの図。

 あれだな、時の果てで友を負かす少女YUI。

 ……どうでもいいわ。

 

  さ、そんなわけで。

 

 由比ヶ浜にとってはほんの数時間程度? の、こっちにとっては何年もの時間をかけて、由比ヶ浜は普通に帰宅した。

 両親にはとんでもなく驚かれていたが、まあ実際行方不明時の容姿、格好のままだってんで納得する以外なく、ぼーっとしていたところを俺と雪ノ下が発見したって話になって、両親である二人にとんでもなく感謝された。

 これで、“行方不明の時から今まで、しっかり成長してました☆”な容姿だったら、確実に俺が監禁してたんですよ、なんて報告しにいくようなものである。雪ノ下が由比ヶ浜から両親に連絡するようにって言ったの、これのためだろうなぁ……だって俺、以前よりも目ぇ腐っちゃってるし。

 いや、確かにいろいろあったけどさ。嫌なこととか嫌なこととか。

 しかしどーにも小町が俺のアホみたいな努力を、それとなく由比ヶ浜マに話していたらしく、なんかめっちゃ好感触で……え? 時間超越者の扱いは腫れ物に触れるみたいなものだから周囲が信用ならない? その点、今日まで頑張ってくれた俺になら……ってちょっと待って?

 あの、なんばいいよっとか、いやそうじゃなくて。

 信じるんすか? いや、実際あの頃のままの由比ヶ浜が居るわけだが。

 今さら、行方不明になっていた娘が、当時の姿のまま現れました───で、そんな簡単に受け入れちゃっていいの?

 

「ヒッキーくん。もうあれから何年も経つけど……ちゃあんと理由も説明してくれたし、あの娘ったらあの日にママが持たせたもの、新品のまま持ってるんだもの。そりゃあね、疑う理由なんてなくなるものよ?」

「……。すいません。以前のママさんのこと思い出すと、どうしても……」

「……あの時は、ごめんなさいね。パパも、ママも……冷静でいられなかった。ヒッキーくんだってわけがわからなかっただろうに……」

 

 娘が、友人と出かけている時にいきなり行方不明になる。

 そんなもの、出かけた理由に対して当たりたくなるのは当然だ。

 実際に空白の数年は出来てしまって、今回はたまたま運がよかっただけで、下手すりゃもっともっと……それこそ一生と言えるくらい時間が掛かっていたかもしれない。

 平行世界の、自分自身がフィクションになった“俺達”や“骨”に感謝だ。

 

「あ……ところで由比ヶ浜……娘さんはこれから───」

「高校は中退、ってかたちになるわ。今さら通わせたって、周囲の目が気になっちゃうだろうし、あの娘にとっての高校生活は、ヒッキーくんとゆきのんちゃんが居てこその、あんな笑顔になれるものだったんだろうから」

「……、……」

 

 そう言ってくれる由比ヶ浜マに気の利いた言葉のひとつも返せず、俺は頷いて返すくらいしかできなかった。

 

「あ、じゃあこっちもところでなんだけどー……ヒッキーくん?」

「っ……な、なんすか」

 

 息が詰まるような、事故当時にその場に居られなかったっていう、“仕方の無い事実”が罪悪感として喉を絞め、嗚咽に変わろうとしていた時。

 ふと、ママさんが俺を見て、にこーっと笑う。

 

「これからの結衣のことを気に掛けてくれてありがとう。それでなんだけど───もし結衣が望むなら、ヒッキーくんが結衣の恋人とかになってくれると、ママとっても嬉しいんだけど」

「───エ?」

 

 罪悪感がヒャッハァーと裸足で全力疾走していってしまった。

 

「ほら、時間超越者への理解なんて好奇心ばっかりでしょ? 発見は絶望的だ、って探索さえ打ち切ってた娘が帰ってきて、報告しないわけにもいかないからってしてみれば、いろんな人がやってくると思うの。好奇心で」

「あ……」

 

 そうだ。発見できてはいめでたし、では終わらせてくれないのが世界だ。

 少しでも情報を寄越せと、ネタを求めて群がるやつらなんて何人でも居るだろう。

 それも時間超越者本人さまとくれば、超常現象そのものを求めてやまない研究者なんて、由比ヶ浜自身や、関わった人全員からの情報を醜いまでに欲する筈だ。

 ……それこそ、少しでもいいからと、事故現場の周囲に住む人に聞き込みをしまくった俺のように。

 

「だからね? なにも全部を受け止めてくれっていうんじゃなくて……せめてあの娘が“今”に慣れるまで、守ってあげてくれないかしら」

「………」

 

 ここであなたたち両親は守ってやらねぇんですか、なんて言うほどガキじゃない。

 自分たちが守れないところまでを、どうか守ってやってくれないか、と言っているだけだ。

 

「……っす。わかりました」

「ヒッキーくん……! じゃ、じゃあまずは結衣の私物を纏めて、ヒッキーくんの住んでる部屋に───」

「はいちょっと待ってください、なんすかそれ」

「なにって。結衣とヒッキーくんの同棲のために───」

「……。あのー、ええっと、その、なんです? ちょぉっと……待ってください? あー…………俺、いつ同棲を許可したんすか? てかそんな話しだったっけ」

「報告すれば、パパラッチとか……そういう関係のもの、いっぱいくると思うの。落ち着くまででもいいの、預かってあげてくれないかしら」

「いやそれ、それこそ雪ノ下に───」

「ゆきのんちゃん、たまたまこの町に来てるってだけで、今はべつの大学に通ってるんでしょ?」

「そう、っすけど……」

「お願い。まったく知らない町じゃなくて、面影がある場所で、知っている人と、この時代に慣れるまで、でいいの。無遠慮に話を聞かせてくれ、なんて踏み込んでくる人が来ないように、ここじゃないどこかの方がいいのよ……」

「………」

 

 そう言って見せるママさんの顔は、ひどく辛そうだった。

 ……考えてもみれば、捜索を依頼してそれで終了、なわけがなかったのだ。

 見つかったなら見つかったで、一言どうぞ、と言われるだろう。

 見つからなくても、“今の辛さは”とか、“捜索が打ち切られましたが、なにか一言”、なんて不躾なことを訊いてくるヤツも……居たのだろう。

 そんな人達でなく、俺達を信頼してくれているというのなら。

 

「……わかりました。絶対、なんて偉そうなことは言えないっすけど……出来る限りで守ってみせます。……あの、てか、話、娘さんには話、通してありますよね?」

「もちろんよぉっ、そのうっすい引き戸の裏で待ってるように言っといたもの」

「あ、そうだったんす───はぁああっ!?」

 

 前略・小町さん。

 ……女性っていくつになっても怖いです。

 

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