どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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食品売り場で黙礼する彼の事情②

 6月18日。

 いつしか心待ちにするようになっていた日付を指す。

 もう高校二年を何度繰り返したかは知らんがとかメタな発言はさて捨て、……いや、さて置いても話題に持ってくることもう無いだろうから捨てとくとして。

 ともかく6月18日である。

 今朝もはよからそわそわしている俺に、なんだか小町がニマニマしているが……もしや魂胆がバレてる?

 なら丁度いい。

 ゴクリと喉を鳴らしつつ、俺は小町に今日の朝食はいらないと告げた。

 

「え? いいの? そりゃまだ作ってないから小町としてはありがたいけど」

 

 そう、いいのだ。

 今日という日に食事はいらない。

 寝巻きのまま降りてきていた俺は、小町にそれを伝えると洗面所へ。

 顔を洗って歯を磨いてシャッキリすると、階段を登って自分の部屋へ。

 一つの行動に意識を向けて、しっかり着替えて、小さな鏡に映る自分を見てニヤリと笑ってみせた。

 いや、べつに今日もキマってるぜとか言いたいんじゃなく、笑みを抑えられなかっただけだ。

 そうしたソワソワ感はどうしても滲み出てしまうのか、階下にて二度目の邂逅を果たした小町は、やっぱりなんだかニマニマしてらっしゃる。

 

「お兄ちゃん、頑張ってね。小町なーんも訊かないけど、ただ頑張ってね!」

「お? お、おう。だな、確かに頑張る必要はあるよな」

 

 妹に純粋に応援されるとは、なんだかむず痒いもんだ。

 だがもはやこの震えるハートは燃えつきるほどヒート状態で、血液のビートを繰り返している。よし落ち着け。落ち着こう。落ち着いた。

 

「……行くか」

 

 逸る鼓動を抑えることもなく、一歩を踏み出し、早い時間だというのに登校を開始した。

 さあ……俺達の戦いはこれからだ───!!

 

   ×   ×   ×

 

 学校についてしばらくすると、当然人も集まり、やがては教師が来る。

 HRは静かに過ぎ、授業もそれなり。

 休み時間になれば一部の人はソッワァアア……! とそわそわしたり、一部の人は「ディャァ~ハハハハァ~ン? ウァ~リェヌゥェ~ィ? むぁズィプァヌェ~ンドゥェスケディョ~ン!?」と謎の言語を放つや、ゲラゲラと笑っている。

 知ってる中でのそわそわさんは……戸塚と、大岡と、大和と……由比ヶ浜か。

 由比ヶ浜はなんだかちらちら俺を見ているが、やめなさい、今ジュビ……もとい三浦が話してるでしょ?

 そんな中、こそりと戸塚が身を小さくしてひっそりと寄ってきて、話を振ってくるやだ可愛い。

 

「八幡……今日は……?」

「ああ、相当楽しみにしてる……」

「うん、僕も……! あ、材木座くんとも話し合ってあるから、詳しいことは……」

「お、おう……」

 

 にっこり笑う天使に心が癒される。

 あ、一応平塚先生にも意見を訊いておこう。

 あの人こういうの好きそうだし。

 ……ほら由比ヶ浜ー? いーから三浦の話に集中したげて。あんま無視すると泣いちゃうかもでしょちょっと。

 

「《ヴー! ヴー!》ん、っと。……材木座か」

 

 (ズィー)から連絡があった。落ち合うまではコードネーム的な名前で呼び合おう、なんて言われているからノってみてはいるものの、とどのつまりは材木座である。場所の用意とブツの確認は完璧らしい。

 あとはアレが必須なわけだが……いや、その準備もぬかりなく、だそうだ。

 よし、ならあとは授業が終わるのを待つばかりだ。

 男とのスマホのやりとりでニヤリと笑う男をどう思う? んなもん普通でしょう。ほら、あそこで海老名さんもぐふふ顔でこちらを……いや違うからね? そういう腐った感じのアレなアレとは違うから。

 ともかく準備は問題ない。あとは俺達が───

 

……。

 

 昼を迎える。

 普通ならばベストプレイスにてパンとマッカンでも頂戴するところだが、今日に限ってはマッカンのみ。

 じっくりちびちびと味わっては、天使の舞を材木座とともに眺めていた。

 

「……八幡よ。ついに、今日だな」

「おう。話を聞いた時は、まさかお前もとは思わなかったけどな」

「うむ。待ちわびた。想像を上回ることなどないとわかっていても、妙な期待が胸にある」

「だな。俺もわかってるつもりなんだけどな……どうしようもなく楽しみだ」

「フッ……」

「ふふっ……」

 

 珍しくも、俺達は不敵に笑って天使の舞を眺めていた。

 部員と軽く打ち合う戸塚。どうやら勝ったらしい。おお、すごいな戸塚。すご……すごい、まじすごい超スゴイスゴイしかないまで凄い。

 

「せっかくの誕生の日。今日という日を存分に祝おうではないか。無論我は意地を通す腹積もりである」

「男ならそりゃあそうだろ。無茶でも苦茶でも貫き通すのが意地ってもんだ」

「然り然り! 様々をいくら諦めようとも、諦められぬ、捨てられぬ矜持が男にはあるものだ……!」

 

 テニスを見ながらの話題がそれでいいのかとも思わないでもない。ないが、いいのである。だって俺達だけだもの、ここに居るの。

 

「八幡、お主に用事などは、よもやあるまいな。あ、あったら我、いろいろとそのー……都合つけるけど」

「ないからわざわざ素に戻るな素に」

「ふむそうか! では予定の変更は無しでいいのだな? ……いいよね?」

「おう」

 

 二人、やはり不敵に笑みを浮かべた。

 やがて昼休みも終わる。

 今頃二人で昼食を取っていたであろう雪ノ下も由比ヶ浜も教室を目指しているのだろう、なんてことを考えながら、俺達もそれぞれの教室へと歩いた。

 

……。

 

 放課後である。

 もはや待ちきれんとばかりに立ち上がると、早速廊下へと飛び出る。

 さあいざ益荒男どもよ、その心の猛り……存分に披露されませい!

 あ、でも廊下を走るの、メ。気配を殺しつつ、目立たないように、けれど早歩きで、待ち合わせの場へと急いだ。

 

「あっ、ひ、ヒッキー、今日小町ちゃんに───」

「ほら、なにしてんの結衣。あーしたちはこっちっしょ」

「えぁ、あ……う、うん」

 

 聞こえた声には、まあ、あれだ。

 まずは存分に祝われていればいい、と。

 あとでかいつかはわからんけど、ちゃんとあとで祝いはある。

 てか今小町とか言った? え? なにかあるの? いやいや気になるものの、今はあとでいい。

 

「おぉおお! はぁあちまぁああん!」

 

 ザカザカとステルス早歩きをしていると、あっさりと俺の姿を発見した材木座が、同じくざかざかと歩いてくるのを発見。

 横に並び、ざかざかとともに歩いた。

 

「む? 戸塚氏はどうした? 一緒ではないのか?」

「俺と一緒に歩いて噂になったら戸塚が可哀相だろ」

「八幡、それもっと女性にすればいい対応だと我思うの」

「いや、べつにいーだろこんなもん。俺にやられたって戸塚以外誰が喜ぶんだ」

「そこでしっかり戸塚氏はいれるのね」

 

 言いながらも歩く。歩いて、自転車乗り場に辿り着くと、俺は漕ぎ、既に別れていた材木座は別の移動手段で移動した。

 やってきたのは大型スーパーであり、人がごった返している、声の途切れない場のひとつだった。

 

「情報は確かなんだな、材木座……」

「うむ。コンビニではだめなのだ。7&哀、ラウソン、家族マート、ビッグストップ、そのどれもが期待外れ。だがここにはあったという情報を得ることが出来た……!」

「それ、何処情報? なんか物凄い不安なんだが」

「H教諭からの情報だ」

 

 あ、それ信じられるわ。確実だわ。無駄な心配だったわー。

 

「ってことは、既にH教諭は来たあとってことか」

「で、あるな。昼に来たのか、それとも朝には事前に調べておいてくれたのか」

「朝に調べたなら昼には連絡来てたんじゃないか?」

「む、然り」

 

 喋りながら、既に発見済みとの報告に、心が高揚するのを感じていた。

 逸る気持ちを抑えきれず、勝手に大股歩きになってしまうのを止められず、歩き、探し、やがて目的のブツを発見した。

 俺と材木座はやり遂げた男の……否、漢の貌になると、ゴヅゥと拳を叩き合わせ、胸を張った。

 会計を済ませれば、あとは約束の地へと向かうだけ。

 そこで待っているのは果たして、希望か、それとも絶望なのか───!?

 

   ×   ×   ×

 

 6月18日、月曜、放課後のとある公園にて。

 約束された地とは名ばかりのそこへと、俺、材木座、戸塚……そして多少遅れて平塚先生が現れた。

 

「例のブツは?」

 

 平塚先生が問う。

 

「ここに」

 

 材木座が眼鏡を鈍く輝かせつつ、(ひざまず)きながらブツを両手で差し出した。

 平塚先生はそれを受け取ると、ごくりと喉を鳴らす。迫力ゆえか、別の理由か。

 

「これが……。一応見てはいたが、手元に来ると迫力も凄まじいな……!」

「すごいよね、八幡……! あ、でも……ねぇ八幡、今日はここに来るの、これだけなのかな」

「大岡と大和がそわそわしていたが、あれは多分別の理由だな。近くでそれっぽいことを言ってみても、なんの反応もなかった」

「そっか……」

「それより戸塚は大丈夫なのか? 今回のこれは───」

「ううん、僕、ちゃんとやりたいって思うから! 僕だって男なんだって、証明するんだっ!」

「戸塚……」

「戸塚氏……」

「よし。では車にこちらで用意したブツが乗っている。持ってきてくれ」

「「「イェス・マム!!」」」

 

 男三人、綺麗に敬礼をして早速作業にとりかかった。

 今日という日になにがあるのか……それは、人によっては心底どうでもいいことで、人によってはとても大事なあること。

 誕生した日を祝うという意味で俺達はここに集い、どこで聞いたのか平塚先生がやってきて、こうして場は設けられた。

 個室が使えればよかったんだが、そんな場所もなかったのだ、仕方ない。

 

「これでよし、と……そういえば比企谷」

「はい? なんすか先生」

「君はいいのか? 今日、由比ヶ浜の誕生日だろう」

「いや、例の如く葉山グループと一緒に行動してたし、そもそも俺に祝われてもアレがアレでしょうから」

「君はつくづく、踏み込めない男だな」

「ほっといてください」

 

 6月18日は由比ヶ浜の誕生日。

 そんなことはわかっている。一応プレゼントも用意したし、俺がダメなら小町に渡してもらうつもりだった。

 当日になってみれば渡す機会くらいあるかと思えば、例の如く葉山グループとのお愉しみのようだし、ほれ、俺が出る幕なんて最初からないじゃない。

 だったら別の誕生を祝うことで、気を紛らわしましょうって魂胆だ。

 いや、魂胆云々は置いておいても、気になっていたのは事実なんだが。

 

「よし、時間だ」

 

 平塚先生がそう告げると、俺達は水飲み場の排水溝部分にサヴァー……とお湯を捨てた。

 そう……これは焼きそばである。

 ここに集い、ここに用意したるは焼きそば……6月18日に誕生した、ペヤングソース焼きそば超超超大盛GIGAMAXである。

 

「……、……」

「戸塚」

「だ、大丈夫、大丈夫だよ八幡……! 僕だって男の子なんだから、これくらいぺろりって……食べられるんだ……!」

 

 大量の麺にソースを入れ、混ぜる過程で戸塚の喉がごくりと鳴った。

 いい匂いに促された唾液を飲んだのか、迫力に負けそうになったのか。

 だが今さら退けない。

 食べ物は粗末にしてはいけないのだから。

 

「では実食しよう。いただきます」

「「「いただきます」」」

 

 早速割り箸を走らせた。奔らせた。噛んだ。味わった。咀嚼した。

 いつもの味、いつものペヤング。

 安心出来る味でも確かな予感。

 想像の域を出ることなど絶対にないと予測していた通り、いつも通りの味。

 

(((ああ、これ途中で味に飽きるやつや……)))

 

 恐らく戸塚以外が思ったであろうことを俺も思いつつ、ゾボボボと飽きる前に食い続けた。

 冷めてからが美味いという人も居るが、それが苦手な人には地獄が如き量。

 だが構いません、望むところだと食べる。喰らう。()み続ける。

 

「もぐもぐ……」

「……意外だ。材木座、お前、もの食べる時、姿勢とか綺麗なのな」

「ぶぼっほ!?」

「平塚先生、汚いです」

「べ、べつにいいであろう!? 姿勢とは全てにおいて大事なものなのだから! むしろ姿勢ひとつで胃に入る量も違ってくると云われているくらいであってだな……!」

「ウマイな」

「うん、美味しいねっ」

「聞いて? ねぇ聞いて八幡! ツッコんどいて聞かないとかひどいであろう!?」

 

 無言すぎたので気になったことを言ってみただけだったんだが、いい具合に力が抜けた。

 そうしてさらに食い続けて、食い続けて……

 

「うぶっ……うぅ……! か、完食、だ……!」

「「おぉおおおおっ!!」」

「わあぁあっ……! すごい! 平塚先生すごい!」

 

 ついに、平塚先生、完食……!

 

「ふ、ふふっ……うっぷ……! ま、まあ……やろうと思えば出来ないことなど……うっぷ」

「とりあえず確認出来たな」

「うむ……水分大事。後半になればなるほど、物凄い勢いで口の中の水分が吸い取られているような気分である……! だがそんな心配も水分さえあれば問題なぁあい! ン見よ八幡ンンッ! これぞ我が用意したトクゥホコーラであるぅ!」

「いや……この量の暴力に対して、腹が膨れる炭酸飲料とか持って来てどーすんだよ……」

「……はぽっ!?」

「き、気づいてなかったんだね、材木座くん……」

「ほら戸塚、飲んどけ、やさしいウーロン茶だ」

「わあ、ありがとう八幡っ」

「あ、あのー……八幡? 我にも……」

「おう。ここに集った同志を見捨てるほど、人でなしじゃねぇよ」

「八幡……!」

「平塚先生はどうします?」

「いや……今ものを入れると大変なことになりそうだから、今はいい……」

「一気に詰め込みすぎっすよ」

 

 それからも、ぞぼぞぼ、ずぞぞー、という音ばかりが耳に届く。

 巨大な容器には大量の麺。これでも大分減ったのに、まだまだ同じ味が続くと思うとさすがにこう、眩暈というか……頬の下あたりに謎の違和感が浮かびあがり、“もう咀嚼したくねッス”と言われているような、奇妙な気分になってくる。

 顎よ……耐えておくれ、これは試練なんだ。

 この量に打ち勝つ……それを為せる男でありたいと集った我らなのだから、ていうか一番最初に完食したのが平塚先生ってどういうことなの。

 俺てっきり材木座あたりがいくと思ってたのに。

 

「…………」

 

 あと。

 変わらぬペースでちるちる食べてる戸塚、可愛い。

 じゃなくて、つらそうな様子なんて全然ない。

 むしろこういうものを食べる機会がないのか、美味しいね、美味しいねと笑顔で食べている。

 あれ? もしかしてこれ、もしかするパターン?

 

「「………」」

 

 ちらりと見ると、同じくこちらを見た材木座と目が合った。

 よろしい、ならば───ここからは男の意地である。

 

「「…………!!」」

 

 戸塚はこの際順位には入れず、俺と材木座で敗北男を決めるという、奇妙な対決が始まった。

 大丈夫だ、こんなこともあろうかと朝からメシは抜いている。その代わり、腹が縮まってしまわないようにとマッカンや軽いものなら入れたのだ。

 準備はしてきた───が、それはおそらく材木座も同じ。

 

「「ムググォオオオーーーッ!!」」

 

 食う……食う、食う!

 しかし、すぐ傍でゆっくり美味しく食べている戸塚を見たら、なんだか俺達馬鹿らしくなっちゃって。

 

「…………ん、ぐ。……普通に食うか」

「……で、あるな」

 

 もう一度ここから。

 ペヤングの味に感謝しながら、ゆっくりと食べるのだった。

 

   ×   ×   ×

 

 で。

 

「美味しかったねっ、八幡っ!」

「お、お……おう……」

「はぽっふ……! むぐおおお……さすがに食いすぎた……!」

「ふう……私は少しは落ち着いた、かな……」

 

 ペヤングGIGAMAXを食べ終えた修羅たちは、今ようやく食後の休憩を終え、立ち上がるところだった。

 ええはい、例のごとくと言っていいのか、戸塚ったら結構食えるタイプだった。

 あの量を変わらぬペースで食べ続け、ついには残すことなく完食。

 俺と材木座、平塚先生、目を見開いて大驚愕。

 今度、美味しいラーメン屋に連れてってやると平塚先生が言うと、戸塚ったらそれはもう嬉しそうに本当ですかっ、って。やだもう可愛い。

 さて、そうして終わってみれば、修羅の宴のあとというのはこう、ものかなしいもので。

 後片付けも完璧にこなしたのち、何処に寄る気分にもならなかった俺達は、その場で解散というかたちになった。

 

「うぅっぷ……いや……ほんとさすがに食いすぎた……」

 

 食べる前は好奇心ばかりだったのに、食後はちょっぴり大後悔。いや、なんかそんな気分になるんだよ、ほんと。なんだそりゃって俺の方こそ訊きたいほどに、ちょっぴり大後悔。

 

「こりゃ家に帰ってぐったりモードなパターンか《ヴー! ヴー!》っと、材木座か……?」

 

 ぼふぅとペヤング味の溜め息を吐くと、スマホを取り出して確認。

 すると……

 

 “お兄ちゃんへ。

 

  黙ってたけど今日、うちに結衣さんと雪乃さん呼んで結衣さんの誕生日会するから!

  朝食べなかったんだし全然食べられるよね? いっぱいお祝い用のもの用意してあるからいっぱい食べてね!

  実はそれを予見して食べてなかったんじゃない? とか考えてる小町より。

  あ、朝言った頑張れってのはお兄ちゃんが結衣さんを誘うかなー、的な期待からだから、まあ予想通りだったのでほんとお兄ちゃんってお兄ちゃんだねって確認。”

 

「───」

 

 ───。

 

「───」

 

 ───目の前が暗くなるのを感じた。

 もうこのまま知らない街へ辿り着きたい。何処か遠くへ。

 でも小町頑張ったんだろうし、それを無視するとか最低すぎる。

 いやさ。そりゃね? 考えなかったわけじゃないよ? プレゼントだって用意してあるわけだし。

 でもそれで誘われるかな、とかソワソワしてたら中学の頃とかの巻戻しじゃないですか。

 なので食った。

 知り合いの誕生日に、俺は誘われるかなよりもペヤングを選んだのだ。

 男らしいじゃありませんか。

 だから俺は今、白の中に居る。

 男としての、正しい白の中に、俺は居るのだから───

 そうだ、もうなにもかもを受け入れるような悟りを開けばいいんだ。

 胃袋も死ぬほど解放しよう。

 お小言も受け入れよう。

 大丈夫、なんの心配もありませんよ。

 中学まで、近くの席の人の誕生日があるたびに誘われるかなとそわそわしていて、結局てんで誘われず、誘われても“あ、ほんとに来たんだ”な扱いを受けてきたプロボッチャーたる八幡さんが、今さら勘違いをするわけがないじゃないですか。

 

「………」

 

 とりあえず昔、人は姿勢で、ある程度の胃に入る量というのを調整出来る、というのを見たことを思い出し、スマホで調べながら帰った。

 自転車を押しながらだから苦労した。

 


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