どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話 作:凍傷(ぜろくろ)
そして我が家で始まった誕生会で、俺はもはや空気と化していた。
全てを許し、全てを許容し、ある意味腹がいっぱいすぎたのと、あの量を達成できた満足感で、奇妙な方向で賢者モードに到達していたのだ。
「小町ちゃん、ヒッキー、ありがとー! 家に呼ばれてまでなんて、えへへ、なんか照れるけど嬉しいっ!」
「いいんですよ結衣さんっ、こうでもしないと結衣さんてば同じグループの……なんでしたっけ? お兄ちゃんにオカンとか思われてそうな人に捕まったままだったでしょうし」
「あはは、みんなが騒いでる時に急に小町ちゃんからメールが来てびっくりしたよー。ヒッキーに確認取ろうとしたら、さいちゃんとなんか話してたみたいだし、お昼になったら居なくなるし、放課後はなんかどっか行っちゃうし」
「その……由比ヶ浜さん? 大丈夫だったのかしら、あちらのグループとは……」
「あ、うん。いいんだ。みんな理由にかこつけて騒ぎたかっただけって感じだったし」
「あー……なんかあのー………大岡とか大和とかがなんか張り切ってそうだったアレな」
ぽろりとこぼしてみると、由比ヶ浜が“え? 知ってたの?”と言いたそうな目でこちらを見る。
いや見てたでしょーが、アータもこちら見てたでしょーがソワソワと。
「由比ヶ浜さん?」
「あ、えと、うん。なんか予約取ってたっていうか、優美子に取らされてた大岡くんがね? あ、お店まで予約取りに行ってくれたみたいなんだけど、隣の部屋に別の高校の女子が予約とってたとかで、そっちのことで気合入ってたって……あはは」
「うわー……人の誕生日にそういう方向に期待持って騒いじゃいますか……。そりゃ結衣さんも居心地悪いですよね」
「ううん全然っ!? やー……考えてもみればさ? 高校にもなってさ、こうして祝ってくれるだけで全然ありがとうだよ」
「ふふっ……そうね。一人はこうでもしなければ参加しそうになかったから、小町さんはここを場所として提供したのでしょうけれど」
「そだな」
「───、……あの。比企谷くん? その……」
「なんだ?」
「………」
「あのー……ヒッキー?」
「?」
「ねぇお兄ちゃん」
「どした? 小町」
「え? いやー…………」
本日が誕生日というのなら祝おう。
場所が我が家というのなら、親が居ない今、その中での長たる立場の俺が、盛大に祝おう。
普段ならば面倒だと思うことだろうと、今の俺ならば出来る。
そう……なにかを為したあとの達成感を、無粋な感情で崩すことなど馬鹿げている。
故に言おう。
人よ、喜ばしいことがあったのならば、その気持ちを忘れず、たとえ嫌なことが起ころうとも喜びを分け与えられる者であれ。
この賢者モードが解除されればどうせ元に戻るだろうし、それまでのピュア八幡だろうと、分け与えることは出来る……そう、出来るのだ。
故にまず、ま○か食品さんに感謝を届けよう。
───感動させていただいた。
人は腹が空いた時は所詮
量の所為で、どうしても味に満足したまま食べ終えることの出来ない点だけは気に入らないが、戸塚と完食を喜び合えたことは純粋に嬉しい。
ぼっちの孤独を“感動”にする在り方には心から敬意を表するよ。
今……“幸せな”気持ちだ。
「お、お兄ちゃん、料理の追加くらい小町が───」
「やりたいんだ。やらせてくれ」
「───……わお」
満たされた幸福は、人を笑顔にするという。
自然と出た笑みとともに小町に告げると、小町は驚いた顔をしつつも、立ち上がりかけた体をとすんと椅子に座らせた。
そう、それでいい。動かさせてください。少しでも消化を早まらせるために。
そして準備を、用意をする者とは食事などをあまりしないもの。
こうしてテキパキと動くことで、怪しまれずに効率よく消化活動を促させ、さらにはあまり食さないという違和感に目を向けさせずに済む。
問題点としては、普段から動かない俺がこういうことをしている時点で、もうめっちゃ怪しいという点のみなのだが。
「……、……? ……? ……~?」
「……!? !? !? ……、……~……~……!!」
ニマニマした小町さんが由比ヶ浜にポショーリとなにかを囁き、その度に由比ヶ浜が俺を見て、小町を見て、わたわたして、やがてぷしゅううう……と顔を真っ赤にして俯いてしまう。
あの……なに? 雪ノ下? なんで俺のことそんな驚愕に染まった顔で見るの?
「意外ね。あなた、そんなにも誰かを祝いたい、なんて態度に出す人だったかしら」
しかしそこでさすがのユキノシタ=サン。
見事にこの怪しさ抜群空間へのツッコミを入れてきた。
だがそれも既に想定済みだ。
俺という存在をよく知るこの三人を前に、こういった状況を乗り切るのであれば、大事なのは意外性。
普段ならば考え付かないところをつつくことで、まるでキン肉マンキャラのごとく“ア、アアーーーッ!! そ、そういうことか~~~っ!”と思わせることが可能なのだ。……可能だよね?
「心境の変化ってやつだよ。その、なんだ。……祝いたいんだよ。悪いか」
そっぽ向きつつ頭をがりがり掻いて、言ってみる。
ほれ、思春期男子学生としては、誰かが喜ぶことをやってみたいなー、とか急に思っちゃうアレとかアレでして、って感じで。
戸部とかマジあれな。その筆頭とも言えるんじゃないだろうか。
いつも元気に騒いで燥いで、ノれる人ならしっかり騒げる場を完成させるプロ。
対する俺は、そういう方向に持っていくことは出来ても、決定打となる“盛り上げ役”が居なければそれが出来ない。
主役をそいつにすることで、場を一気に盛り上げさせることは出来ても、俺にはその主役ってのが出来ない。致命的に向いていない。
「………」
雪ノ下はどこか、ぽかんとした顔で少しの間俺を見ていたが、やがてくすりと笑うと、手伝うわと言って立ち上がった。
「お、おい、いいって」
「現状の家主に全てを任せて寛いでいる、というのは居心地が悪いものよ。あなたなら想定できていると思っていたけれど」
「ああそれわかるすげぇわかるわかりすぎるまである」
でもだからって手伝ってもらうのはなんか違う気がするの。
しかしここで拒否しまくっても怪しまれるので、ある程度を超えたあたりで素直に受け取っておいた。
「あ、じゃあ小町も手伝いますっ!」
「え、え? 小町ちゃ……うー……じゃ、じゃああたしもなんか手伝う!」
「「「いえそれはやめてちょうだい」」」
「みんなひどい!?」
俺、雪ノ下、小町の声が見事に重なった。
言うだろうか、に賭けてみただけなのだが、まさかこうも重なるとは。
しかし祝われる人を一人にしておくのは、なんて話になって、雪ノ下が相手をすることに。
「……んっふっふー、お兄ちゃ~ん?」
「……あのちょっとなに小町ちゃん。今とてもじゃないけどよそ様には見せられない怪しい顔してるよ? やめない?」
「そーゆーことはいーの! ……それよかお兄ちゃんお兄ちゃん、どういう心境の変化なの? あのお兄ちゃんが率先して祝いたいなんて」
「どうもこうも。そのー……なに? そういうこったろ(消化活性化と食事から遠ざかるため)」
「ほほう……つまりそういうことってこと?(結衣さんのためになにかをしたくなるほど意識しちゃった系のため)」
「そーだよ。いーでしょもうそういうことで。恥ずかしいからあんま言わせるんじゃありません」
「ほーん? ほほーん? ほほほほ~~~ん……?」
いやだから小町? 小町ちゃん? 今ほんとやばい顔してるからね? ニヤケすぎて怪しいなんてもんじゃない方向にまで達しちゃってるからそれ。
「でもお兄ちゃんがねー……。ねぇお兄ちゃん、ずばり訊くけどさ」
「ずばっ……おいちょっと待て。小町お前…………」
「んん~?」
小町が、まるで“なにを、どんな言葉で誤魔化す気?”みたいな顔で見てくる。相変わらずニヤケ顔だ。
あ、これもしやしなくてもバレてる?
「……もしかして気づいてるか?」
「そりゃ、こんな明らかに不自然な兄を見れば」
「OH……」
俺の努力は無駄だったらしい。
まあ、小町を誤魔化せたら俺の態度とかもうパーフェクトすぎただろうしな。
「で、いつから意識しちゃってたの? あ。当ててあげよっか。誕生日が近くなってきてからでしょ(結衣さんの)」
「……そりゃ、そうだろ。いろいろあったしな(ここ最近、ネタ商品ばっかのペヤングだったしなな意味)」
「そっかそっかー♪」
うわ、めっちゃ楽しそう。
くそ、そーだよ、ペヤング堪能してて知人の誕生日素直に祝えないでいるよ、正直すまんって気持ちでいっぱいだよ。
けど幸せな気持ちなのも確かなのだ。やった……やってやったぞ、みたいな?
「で、どんな気持ち? 小町、今こそ聞いてみたい」
「……幸せな気持ちだ」
「しあっ……ぅゎ、うわー……! あのお兄ちゃんがそんな……!」
あのとか言うのやめてくれません? それどの八幡? この八幡だよ。俺だった。
てかあのー……小町? さっきから気になってたけど、人と話をしている時にスマホいじったりとかやめなさい? あんまりにもお行儀が……あ、それ俺のぼっち族52の“間接”技のひとつ、話さっさと終わらせてくださいアピール・スマホ偏だったわ。
え? 話しかけてきたの小町ちゃんだよね? え? 終わらせたいの? お兄ちゃんショックなんだけど、今はちょっぴり助かるっていうか、でもやっぱりショック。
「で、で、気分的にはどう? そのー……あ、気持ちとはまた別っていうかこう……」
「気分……おー、なんつーかこう、言葉に出来ないほど……満たされてる感じ?(腹が)」
「……! ……!!」
小町。あの、小町さん。顔、顔がニヤケすぎてやばいです。
え? そんなに俺がペヤングギガマックスを制覇したこと喜んでくれるの?
やばい、うちの妹がこんなに兄思い。
でもさ、やっぱさ、きっかけっつーか、MAXとかついてたら手ぇ出したくなるじゃん? ほら俺とかマッカン大好きだし。
「あ、あのさ、あのさお兄ちゃん。もしさ、そういう気持ちが相手に届いてたとしたら、お兄ちゃん的にはどう?」
「届く? あー……」
そりゃもう、ま○か食品さんありがとうだろう。
あと最初、ペヤングってのが会社の名前だと思っててごめんなさいとか?
そんでもって制覇出来たことに対するそのー……なに? 勲章? 的な?
「一生大事にする、とかだな。この気持ちは絶対に無くしたくない」
「……! おぉおおお! お兄ちゃん! お兄ちゃーん!!」
「お、おう? どした? え? なに?」
小町大興奮! え? やっぱあのペヤングってそんなにヤバいもんだったの?
そりゃそうだって、完食した今なら頷けるけど、ま、まあ、だよな、俺頑張ったもの。
ところでさ、椅子に座ってる由比ヶ浜が、俺が喋る度に頭振ったり俯いたりわたわたしたり忙しいんだが。
今なんてなんか俺の方真っ赤な顔で見て、目まで潤ませて……え? なに? ほんとなに? 八幡わかんない。
てか雪ノ下までなに? なにその出来の悪い部員の成長を見た部長の目みたいな……あれ? まんま? もしかしてあいつらにもペヤングのことバレてた?
その試練を乗り越えたからこそ、俺の成長を喜んでくれてるとか。
ま、まあな。俺とかほら、挫折とか投げ出しとか多かったかもだし? 依頼とかも達成ってよりは解消ばっかだったし……あれ? なんか悲しくなってきた。
だけどそんな俺でも為すことが出来たから。
そんな成長を喜んでくれるとは……あれやばい、ペヤングのことなのになんか嬉しい。
俺の喜び、やっすいなおい。
だがいい。
わざわざそんなことを言って、自ら喜びに水を差しては結局成長出来ていないことになる。
これからはニュー八幡として、成長できる男であらねば……!!
きっかけはペヤングだったけど、戸塚と為した一歩は……戸塚の言う通り、確かに男としての成長を促してくれたのだろう。
ならば俺も、全てを許し、全てを許容し、包み込み守れるほどの男であらねば。
解消ばかりの日々にさようなら。
俺はここから、戸塚とともに男の道を歩む者なり───!!
「……!」
と、ここで由比ヶ浜が急に立ち上がる。
ソファではなく椅子に座っていたので、がたたんっと結構な音が鳴った。
心の狭い者ならばここで、人様の家の椅子をだのぶちぶち言うのだろうが、このニュー八幡は全てを許しましょう。
さあ由比ヶ浜、お前は立ち上がり、何を言おうと───
「ヒッキ───~…………ひひひ比企谷八幡くん!!」
「へ? お、おう?」
やだもうちょっといきなりフルネームとかやめてください、いや許すよ? 許すけど急に言われるとびっくりするじゃ───
「あたっ……あたしっ……あたし! いっつも一歩が踏み出せなくてっ、いっつもわかってくれたらなぁって伝え切れなくてっ……! だけどっ、だけどっ……!」
「………?」
ふ……ふむ? ええっとそのー……な、なる……ほど? 由比ヶ浜はなにかをいつでも伝えたかったらしい……んだよな? いやわかってるよ? ニュータイプですものわかってる、八幡とってもわかってる。
なんか俺の中で警鐘っぽいのが鳴ってるけど気にしません。
何故なら俺は、今なら全てを受け止め、包み込み許す余裕があるからです。
だよな、一歩、大事だもんな。
「……そうだな。いっつも一歩一歩って悩んでは、結局一歩が踏み出せなかったな」
「ヒッキー……うん」
「その……ほれ。踏み出してみればいいんじゃねぇの? 俺もさ、そうして得られたものを、これからも育んでいきたいって思うから」
「ヒッキー、それって……!」
もちろんギガマックス攻略の栄誉である。
そうして得た心の余裕を、これからも大事にしていきたいと……そう思うのです。
「由比ヶ浜、俺はもう踏み出した。今度はお前だ。お前は、どんな一歩を踏み出したい?」
「う、うん……うんっ……! そっか……もうバレてたんだね……まずはごめんね。こんなやり方で」
「? お、おー……いーだろ、べつに。やり方にだっていろいろあるだろうし、そうしないと踏み出せない一歩ってのはどうしようもなくあるだろ」
「それは、あなたのやり方、というものの───……いえ、ごめんなさい。忘れてちょうだい」
「お、おう」
いきなり“あなたのやり方”とか言われて、心がドッキリだった。
出来れば思い出したくない光景がよぎり、どうしても罪悪感に襲われる。
ほら見ろ、由比ヶ浜だって───、……え? 笑って……る?
「……うん。うん、ヒッキー、あたし、もう大丈夫だ。もう、笑って話せるよ。悲しいことではあったけど、辛い嘘ではあったけどさ。嘘でもいいって思ったのはあたしで、今は……そんな嘘の先にこんな結果があるんだから」
「由比ヶ浜……」
「ヒッキー、ううん、やっぱり……比企谷八幡くん」
「ぉぁ、あ、ああ、なん───」
「あたし……あなたが好きです。もう、誰かに遠慮して、伝えずになんて無理だから……。あたしね、あたし……本当に、あなたのことが好きです。大好きです。あたしをあなたの恋人にしてください」
「だ───」
瞬間、どっかーんと意識が飛んだ。
え? なに? え? 好き? 今俺に好きと? え? 由比ヶ浜が? 言った? 言っちゃった?
えーとえとえとなんて返せばいいんだ? えぇと俺はどうしたいんだっけ。
ああそうそう、許容の心、これです。
全てを受け入れ、抱き締め、慈しむ……そんなニュー八幡に、俺はなる!
「ああ。一緒にそのー……は、育んで、いこうな。この一歩で手に入れたあ、あのー……なに? 大事なものとかいろいろ」
「あはは……こんな時まで舌が回らないとか、締まらないなぁ、もう。でも…………うん。頑張ってこうね。あたし、絶対諦めないから」
「ぉ……おう」
感覚としては、こんなことが起こったら、そうして返す……いわゆる定型文みたいなものを体が行なっている感覚、といえばいいのか。
頭の中はパニック状態で、そのくせ冷静な自分も居て、それはだめだと叫んでいる自分が居て、告白されて舞い上がっている自分も居て。
ただ、雰囲気に流されるように……いや、いっそ小町の声に促されるように、身体が前へと歩き、告白のために傍まで来ていた由比ヶ浜を、俺は───
「由比ヶ浜」
「は、はいっ」
「───、……いろいろ落胆させる光景ばっか浮かんでくるけど、ぁ、あぁなんだ、あのー……な。……努力、させてほしい。いきなり全部を、とか無理だろうから、少しずつ教えてくれ。俺にそのー……どうなってほしい、とか。あぁいや、お前の好みの男になる、とかそういうやつじゃなくてだな、その。お前がどういうことをされると傷つくのかとか、そういうこと……教えてほしい」
「ヒッキー……?」
「……ごめん。すまん。傷つける気なんて、本当になかったんだ。いまさら謝られてもって思うかもしれんけど……お前が笑えるって言ってくれても、俺は───」
「……、……うん。ね、ヒッキー」
「お……おう」
「サブレを助けてくれて、ありがとう。あたしの所為で怪我させちゃって、ごめんなさい。入学、楽しみにしてたよね……きっとしてたよね。それ、ぜんぶ壊しちゃって……ごめんなさい」
「───、……」
「ヒッキーだけじゃないよ……謝りたかったのは、ごめんって届けたかったのは」
「………」
とても特殊な出会いと、続いてきた関係だったんだと思う。
三人が三人ともとんでもない出会いをして、知るきっかけとなって、それをわざわざ口には出さず、けど……認識の仕方ひとつで、そんなものは変わってくるのだと。
だから、今まで何も言わずに見守っていた雪ノ下が立ち上がった時、俺も由比ヶ浜も、ただ静かに耳を傾けていた。
告白劇場のあとにこんなことになるなんて、きっと予想もしていなかっただろうが、結論を言おう。
人の青春なんていつだって突然で、心の準備もろくに出来ていないことの方が多いからこそ、いつしかそれが忘れられない思い出になるのだと。
……な、なんかそういうもんだってどっかで読んだか聞いたかしたよ?
いや、俺に訊かれても青春の文字とはほとほと縁遠い男だし俺。
「……由比ヶ浜さん。比企谷くん。あ、の……私……私は───」
「迷惑被った相手が俯くとかなんなの。もっと胸張って堂々としてりゃあいいんじゃねぇの?」
「……、けれど、私は───」
「あぁちなみに、俺のことなんて知らなかったもの、なんて言葉や認識は、俺は勝手に“俺の全てを知らなかっただけ”ってことに書き換えさせてもらったから、そういう“あ、やーだー、私ったらあの人に嘘ついちゃってたわー、てへ☆”的な言葉は受け取らん」
「ヒッキーキモい……」
「いやお前、ここでそれ言うか?」
「───……」
あんまりにも普通のやり取りに、雪ノ下はぽかんと停止した。
けどまあほらそのあれだよあれ。
「お前ね、ひとつ勘違いしてることがあるぞ」
「え……か、勘、違い……?」
「ぼっちは基本、自分から人には近づかない。適度な距離を保ちつつ、相手から話し掛けてきてくれるのをじっと待つんだ。そのくせ自分から離れるのも妙なプライドが邪魔してほぼしない」
「ヒッキー……」
「いやちょっと待って頼むから今はキモい連発とかやめて? ほんとお願い」
「……つまり、何が言いたいのかしら」
「ゃ……だから。嘘をついたことなんてない、なんて言葉は、誰だって使ったことのある言葉だろ。誰だって使ったことがあって、誰だっていつかはバレて笑われるか怒られる。みんなやってるからお前もやれってんじゃなくてだな、ほれ、あのー……」
「あ……」
なかなか次が出てこない俺に、しかしそれまでの言葉でなにを拾ったのか、由比ヶ浜が俺を見て「えへー♪」と笑う。
小町は小町で、俺を見て“しょうがない兄だなぁ”みたいな顔をして。
どんな答えを得て笑んでくれてるのか知らんけど、ぼっちの先を読んで察するとかやめて? うっかりすると“この人は俺の全部をわかってくれてる”とか盛大な勘違いしちゃうから。
「その……し、心配とかせんでも、ぼっちはぼっちのくせに人恋しい存在だからな、理由でも作らん限り離れることなんかしないんだよ。言った言葉が嘘になるからその人から離れますとか、嫌われたらどうしようとか、それこそないわって感じになるまである」
「そうだよゆきのん、嘘なんて誰でもついちゃうし、なんならほらっ! その時はヒッキーのこと、車で跳ねちゃったくらいしか知らなかったんだから、詳しくは知らなかっただけってことにすればいいし!」
「お前それただ俺が撥ねられるためだけの存在みたく聞こえるからやめて?」
「そんなつもりないよ!?」
あなたのことなんて知らなかったもの(撥ねられた存在ということ以外)とか、とってもぐっさり胸に突き刺さる。
他にもいろいろあるからね? 八幡それだけの男じゃないから。
ほら、たとえば中学の時は女子に告白するたびフラレてたとか、勘違いして散々っぱら恥をかいてきたとかやだもう死にたい……!
「うーん……小町にはちょっと距離のある会話だけど、でも確かに───」
「いや、お前は菓子だけ食って由比ヶ浜が挨拶しに来たことも忘れたことを、まず反省しような」
「うぐっ……ごごごごめんなさい結衣さん、雪乃さん……! なんか小町の所為で結構こじれたみたいで……!」
「大丈夫よ小町さん。こじれたのは事実でも、その事実のほぼ大半はこのゾンビが謎の理論を盾に先走ったために起きたことだから」
「……なんかすまん。ああいや……結局いろいろタイミングずれて、言う機会もなかったよな」
え、とこちらを見る面々。
由比ヶ浜、雪ノ下、小町の視線が俺に集中したところで、俺は深呼吸のあと、頭を下げた。
義務的にしたものじゃなく、心から謝るために。
様々を経験して、その経験から得たものを武器と盾にして、ぼっち理論を作り上げてきた。
それを利用しての解消なら任せろ、なんて、人の心をよく知ろうともせずに“こういうもんだ”と決め付け、なまじっかそれがある程度当たってしまったから天狗になっていた。
それを今、謝った。迷惑をかけた分はもちろん、そのために傷ついたことの様々も含めて。
……あ、この流れで、ペヤングからどうして告白になったのかを訊くのはまずいでしょうか。
いや、それが踏み出したい由比ヶ浜の一歩だったってのは、まあよくわかっているんだが。