どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話 作:凍傷(ぜろくろ)
あれから、たくさんのことを話してきた。
互いを許し合った俺達は、それよりも近い距離で様々を話し、時にふざけ、時に罵られ、時に呆れられ、しょっちゅう苗字をもじった謎ネームを唱えられ……って俺のことばっかじゃねぇか。
なんにせよだ。
一番これが変わったっていうなら、由比ヶ浜と俺の関係だろう。
これまでどこか一線を引いていた……ほれ、たとえるなら、ヒーローに憧れる少年が一歩踏み出せず、遠くから眺めてる~みたいなのがどこかしら滲み出ていた由比ヶ浜だったが、もうほんとぐいぐい来るようになった。
喩えるならこれ。主人にべったりのお犬様。
もうね、由比ヶ浜の家に行った時のサブレの反応にそっくり。
ちなみにそれを言ってしまうともうやらなくなるだろうから、敢えて言ってない。
八幡、無粋なことはもう言いません。言いたいことがあってもよく考えてから発言しなさいと、僕たちは先人に学びましたね。
でもよく考えても、よく考えてから発言しなさいって先生に怒られたことあるし、なんなら考えすぎて逆に言えなくなることだってぼっちあるあるである。
ならもういっそ言わないほうがいいだろうって構えている時ほど、想定していた嫌なことは起こるもので。
で、はい、決まり文句。
「なんで言ってくれなかったの!?」
はいお疲れさん。
「なんでってほらあれだよお前。サプライズ?」
「だだだってあたし、こんなの……!」
「や、いらんのだったらいいけど」
「いるっ! 超いるからっ! 返せって言ったってヤだし、ずっとずっと大切にする! でもあの……いいの?」
「どこまで想像が斥候してやんちゃしてんのか知らんけど、まあ……」
「えへへー……ぼっちは自分から離れたりなんかしない、だよね?」
「~……」
当てられて、恥ずかしかったので恥ずかし返しをすることにした。思い立ったらすぐ行動。ニュー八幡に隙はありません。ないよな? ないといいな。
───そんなわけで。
由比ヶ浜の誕生日から少し経った現在、休日に早速デートしようってことになり、それはもう誘う文句を徹夜で考えて実行、なんか疑われまくったのちに、その悲しみも消し飛ぶほど喜んでもらえたので張り切って服を選ん───だら、小町に溜め息を吐かれた。それはない……デートにそれはないよお兄ちゃん……と、心底悲しそうな声で言われた言葉は、今も俺の胸の中で心臓をさくさくと定期的に貫いている。
そういう理由もあって、ガッコが終わってから小町と服を買いに行く、なんてことになりそうだったのに、落ち合ってみれば小町じゃなく由比ヶ浜。
小町からは“どうせなら結衣さんの好みで行こうってことになったから”とメールが……!
理由をつけて帰ろうとしたけどあっさり掴まり、「ダメ?」と上目遣いで言われたらもう無理だったんや……。
だって、恋人とは大事にするものであり、愛しき者とは一緒に居たいものだから。
放課後になるや、いそいそと教室出ていっちゃったこいつを見て、俺がどれだけ悲しかったのか、お前達にこそわかるまい! などとカルガラやってないで。
それが、実は俺との服選びデートにわくわくそわそわしていたからと知ってしまっては、俺の気分なんて青天上にございます。
だ、だってね? ほらね? この娘ったら胸にくること言うんだもの。
……待ち合わせ、してみたかったんだって。照れ笑顔で言われちゃあもう八幡許しちゃうしかないじゃない。
とまあ、そういったことがあったわけで。
由比ヶ浜の好みで選ばれた服を着て、一緒に立てたプランでデートをして、食事もしたし、見たいものを見てひやかしもした。
で、現在は広い公園のベンチで、二人横に並んで座りながら……こう、噛まないように注意しつつ、結局当日には渡せなかったプレゼントを渡したってわけだ。
中身は……まあ、いいだろべつに。
今日になるまでのほぼ一週間には、本当にいろいろとあったのだ。
遠慮をなくしたこいつはほんと近いし、なんなら近いし、近すぎるまである。
遠回りになるってのに朝起こしに来るし、俺が行くって言ったって「えっとね、なんかね、じっとしてらんなくて……だからあたしが行くよ」だって。
え? 嫌なのかって? 大変嬉しいです。
朝目が覚めたら恋人が居る生活って凄まじいです。
しかも面倒くさそうに起こすんじゃなくて、嬉しそうに起こしてくるんですもの。
一度早起きして待ってたら「なんで起きてるのー!?」って悲しそうな顔で驚かれた。
その時は少々してやったり顔とかしてたのに、この娘ったらぽしょりと「……頬にキスとかしたかったのに」とか言ってて、それ聞こえちゃって。
早起きは三文の徳とかあれ嘘な。損したわ。
さて。
そうして現在に戻るわけだが、恥ずかし返しに俺が選んだ大胆行動とはこう……おもむろに抱き締める、といったもの。
いや、言い訳をさせてほしい。
最初は手を握るくらいにしとこうって思った。おう思った。
しかしながらGIGAMAXを制した男がそれでいいのかと、なんか背中をつつかれたような気がして、ならばもう10歩くらい踏み込んでみても……いんじゃね? と若者がアヤマチを起こすこと大前提な言葉が俺の中に浮かび上がったわけで。
「………」
「うひゃっ……!?」
そしたらこの娘ったらなにも言わずに抱きしめ返してくるし! いい匂いするし! なんかやばくてやばいがやばい!
ともかく、俺はそんな一歩も二歩も進みまくった人生を歩むこととなりました。
きっかけがなにか? それはもちろん……MAXの文字を愛したあの頃までに遡るのだろう。
あれからというもの、店でペヤングを見かけるたびに軽く黙礼をしていることは内緒だ。
そして今だからわかるが、ペヤングから始まった誤解で結ばれた関係とか、絶対に口にしない。墓まで持ってく。もう絶対。
なんか変だと思ったよ、うん。絶対に秘密。
いいじゃないのこんな関係があっても。
奉仕部も随分明るくなったし、なんか雪ノ下さんが驚いた顔で「へえ……? そっか。やめたんだ、ああいうの」って笑顔で言うような関係に到れたんだと思う。
だからまあ……
「あんがとな、一歩、踏み出してくれて。てか、自分から来てくれて」
「え? えへー……♪ 来てくれたのはヒッキーからでしょ? あの一歩、嬉しかった」
「お、おう」
ほんと、内緒な。閻魔に舌抜かれたって明かしません。
「だからさ、その……ヒッキー、ぁ……ううん、八幡」
「ぉ、ぉおおおおぅ、その……どどどした?」
「もう一歩……いい、かな。もっと、近くに……とか」
「ゆっ……由比ヶ浜……」
「また……さ? わかってほしいな、伝わってほしいな、で……ごめん。でもあたしさ───」
「───、結衣」
「……! ……、~……ぁ……ぅ、うんっ! うんっ、八幡っ!」
なんとなくは、届いていた。
そう、伝えようと必死だった。
でも言えなくて、伝わってたらいいな、わかってくれたら嬉しいなが、俺には届きまくっていた。
だってこいつ、由比ヶ浜って呼ぶと寂しそうに笑うんだもの。
頃合を見て、さらっと言うつもりだったのに……ああ、もちろん今日。
催促されるまで待たせてしまうとは、ニュー八幡ともあろう者が情けない……!
よ、よしいいぞ、ゆいがは───結衣、次は絶対だ。何かを待ってそうとわかったら、即行動するから。
それはこのニュー・ヒキガヤーの名において約束を───
「……ぁ、の…………~……はち、はち……まん……」
「───」
嬉しさを隠そうともしなかった結衣が、そっと座る位置を狭め、密着してきた。
その顔は赤、というよりは桜色に近く、見ている者をときめかせるくらいに綺麗で、それでいて可愛らしく俺を見つめてきていて。
すぐに“あ、これは”とわかってしまったからには、もはや躊躇することもなかった。
ただし雰囲気は大事。自分の恋人が、自分との時間をかけがえの無いものと思ってくれるよう、俺ももっと頑張らないと。
そう心に決めて、俺は───俺の手の上に、不安を混ぜたまま乗せられていた結衣の手をやさしく握り返し、俺を見つめる結衣の顔へとゆっくりと近づき、やがて目を閉じるのだった。
……すまんペヤング。
本当なら今日、家に帰ってから“名前で呼べましたおめでとう八幡の宴”として、ペヤングを食うつもりだったのに。
こんな幸せな密着を覚えてしまったら、迂闊に歯に青海苔をつけることすら叶わない。
なのでしばらく食べられそうにないが……ありがとう。俺、幸せになるよ。
えー、はい。
みなさん、GIGAMAX食べました?
もう気持ち悪くなるくらいの量でしたね。
食べた後の気持ち悪さとか、最中の頬の下のじんわりとした重たさとかは、とどのつまりは凍傷が実食して経験したものです。
うーんまいったぞ、こいつはどれだけ食べてもペヤングだ、というゴローさんのような感想しか出てきません。
あと水分が欲しかったのにトクホコーラしかなかったのも実話ですorz
そんなわけで、GIGAハMAXなお話でした。
焼きそばから始まる愛があってもいいじゃない。
そんなお話。