どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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お題:こもれびさんがあるイベントのことをスコーンと忘れていたので、久しぶりになんかお題ものを書きたいなぁとか思ったけど今日既に誕生日なんですがどうするのちょっとこれと焦りつつとにかく即興で一本あげた八結物語やべぇ仕事遅刻する


うっかり忘れてやっはろー

 人間。

 それは経験し、記憶し、蓄積し、やがて忘れていくものである。

 多くの場合は記憶したものを思い出せなくなるが、実際は忘れているのではなく記憶を引き出せないだけなのだという。

 ならばどうすれば引き出せるのかといえば、都合のいいきっかけが必要だったりする。

 好きな歌だったのに、ある日思い出して頭の中で歌ってみれば、途中で歌詞がわからなくなるなど、よくあることだろう。

 そういった場合は幾度も覚えているところまでを歌い直し、それが無意識に近い状態にまでなると、自然と忘れていた部分を歌っていたりする。

 それは意識した時点で脳が“思い出すこと”に意識を向けすぎているため、意識が記憶の部分まで辿り着けないのだ。

 だからこそ無意識に頭の中で歌っている時ほど、するりと歌詞が蘇ったりする。

 ……。ちなみにこの考察は適当なものなのでアテにしないように。

 

 

  ■既に当日なのに特になにも書いていない状態から、ツイッターでのメッセやりとりにてこもれびさんがアレしたことから始まる八結物語■

 

 

 きっかけはいろいろあったんだと思う。

 しかし時の運というか、巡り合わせってのは案外複雑というか意地悪なもので、そうであってほしいと誰かが強く願う時ほど、その反対の結果を出すものだ。

 ようするに俺は悪くない。とか思いたいお年頃。

 まあ、無駄なわけだが。

 

「…………はぁ」

 

 溜め息ひとつ、少し本日を振り返ってみる。

 朝、目が覚めてダイニングに行ってみると、小町が居なかった。

 随分のんびりしてんのなと考えつつも朝の準備。

 料理が出来上がった頃に小町を起こしに行ってみれば、なんか熱だして寝込んできゅきゅきゅ救急車ァァァァ!! 救急車を呼べェェェェ!!

 などと割とマジで叫んだら声も裏返って、余計にパニックになる兄。

 その声に起きたらしい小町が、うわごとのように「だいじょぶだから……」と繰り返す。え? なに? 大丈夫ってなにが? 八幡わかんない。

 なのでガッコに電話して休むことを伝えようとするも、それこそ小町に止められた。

 ならばと小町のガッコには電話をして、妹の欠席は成った。

 よろしい次は看病だ、と腕まくりをしたら、やっぱり言われる「大丈夫だから」。さっさと学校へ行け、ということらしい。

 

「今日、だいじな日、でしょ……? こまちなら、へーきだから……」

 

 そのようなことがあろう筈がございません。日陰よりもひんやりしてそうなプロボッチャーの八幡さんより活力の劣る現在の小町が、なぜ看病要らずの状態などと……。

 てか大事な日ってなに。なんかあった筈なのは確定的に明らかなんだが、小町が熱出して寝込んでるってだけで忘却の彼方なんだが?

 

「いーから、はやくがっこ、いって……! おかゆもたべるし、くすりものむから……!」

「いや、けどな」

「はやくいかないと、ひらつかせんせいにめーる、するから」

「おいやめろお前ほんとやめろ。やめ……やめて、小町ちゃん」

 

 ああ、やっぱり、今回もダメだったよ。あいつ(平塚先生)は話を聞かないからな。

 仕方ないので学校へ行く支度をして、何度も振り返り、何度も心配の言葉をかけ、結果、何度も怒られながら家を出た。

 その間も今まさに見送ったことで体力を使い果たして玄関で倒れてるんじゃ……! なんて考えて慌てて戻ってみれば、待ち構えてた小町にハリセンでコパーンと叩かれた。すげぇ読まれてる。お兄ちゃん行動読まれてる。

 それだけ意識がハッキリしているなら、と、俺もようやく学校へ。

 で、教室にたどり着いてみれば、「あ、ヒッキー! やっは」「あ、ちょい結衣ー? 話あるからこっち来い」「ふえっ? あ、う、うん……」まさかのやっはろーキャンセルである。やはキャン、とか略すとゆるキャンとか思い出せそう。キャンプに出てやっはろーするだけの簡単な作業です。

 そうして女王三浦に呼ばれたガハマさんは、こちらに戻ってくることもなく、俺は小町を心配するあまり幾度も感じる視線を気にしている余裕もなかった。そうしてそのまま授業へ。

 小町を気にするあまり授業を半ば無視してました、なんて状況になれば余計に小町に心労をかけることは想像に易い。なので普段よりも懸命に励み、その上で存分に心配してくれようぞと授業に集中。自分でも信じられんほどの集中力を発揮し、なんかやっぱ感じる視線を華麗に受け流していた。時は休み時間へ。

 

「妹愛すげぇなおい……」

 

 集中したためか脳が、というか頭が熱い。なんとなく額を拭う動作をしてみても、まあ別に汗があるわけでもなかった。

 しかし体は糖分を欲しているようで、気づけば俺はマッカンを求めて移動を開始していた。「ヒ、ヒッキ」「結衣ー? どしたん?」「ぁぅ……」なんか聞こえたけど、体は正直であった。とどのつまりはマッカン飲みたい。

 そんな調子で次も次もマッカンを求め、視線も感じるし勉強捗るしで、思い返してみれば俺も相当に余裕がなかったのだろう。

 昼休みには平塚先生に小町の状況を説明、一時帰宅許可を得て自転車をかっ飛ばした。なんか声かけられたような気がしたけど知らん。むしろそうである可能性の方が低い。大丈夫、なんの心配も要りませんよ。そもそも学校で声をかけられることこそが稀少であるプロボッチャーの八幡さんに、昼休みという貴重な時間を割く人なんて居るわけがないじゃないですか。

 なので気兼ねすることなくモードを立ち漕ぎに移行。

 正義を貫かんとする無免ライダーのように、帰路を駆けたのだった。

 

   ×   ×   ×

 

 経過報告。小町は部屋で寝ていた。やかましく帰るわけにもいかんかったからステルスモードをアルティメットにして、“忍者、人にして人に非ず”を“ぼっち、人にして人に非ず”と表すかのように……いや人間だからね? ぼっち、ちゃんと人間だから。

 ともかく静かに部屋に行ってみれば、穏やかな寝息とともに眠っていた。

 ヘンに寝苦しくするでもなく、呼吸も静か。汗もしっかりと拭ったようで、傍には使用したらしいタオルと洗面器。やだ強い、小町ちゃん強い。

 

(……まあ)

 

 そらそーだ。兄がこんな俺なのに、ひねくれないで中学生活を突っ切る猛者だ。

 兄の嫌な噂なんかを聞けば、普通は嫌な顔もするし嫌いにもなるだろうに、こいつは愚痴はこぼしても人を嫌ったりしない。心も体も強いのだ。……違うか、強くあろうとしている。誰かに心配かけないために。

 兄ちゃんにくらいなら、多少迷惑かけてもいーんだぞ、なんて言おうものなら、たぶんそれを一番したくない、と考えるのだろう。

 

「………」

 

 触れて起こしてしまうのもなんだ。安堵の息をひとつ吐き、俺は静かに部屋をあとにした。

 そして、こんな妹の強さに報いるためにも、残りの授業も集中してくれよう、ぞ。と無駄に心に覇気を抱き、自転車をかっとばしたのだった。……途中でスッ転びそうになったが。

 立ち漕ぎずーっと続けるの、結構足にクるよね。しかしその甲斐あって、余裕をもって学校へ到着。平塚先生への報告も済ませ、教室に戻───……る前にマッカンを購入、誰かに会っていろいろ訊かれるのもアレなので、時間を潰してから戻ることにした。

 ぼっち相手にそんなこと訊くヤツなんて居るのか? なんて疑うヤツも居るだろう。さらば答えよう。“居る”。自転車かっとばして昼休みに校外に出たヤツが居たとして、それがクラスメイトってだけで、根掘り葉掘りして話題にしようとする傍迷惑なヤツはマジで存在する。

 しかしその場合、戸塚のように心配して声をかけてくれる類は非常に稀であり、だからこそ戸塚は大天使でありトツカエルであることの証明にもなるわけで───一層の研究が必要とされる。

 と、そんなことをベストプレイスでマッカンを飲みながら考えていた。

 で、まあ。時間を確認しつつギリギリで教室に戻れば、つついてくるヤツが居るわけでもなく。教室に入る前に、どこぞのオープンフィンガーグローブ男が「何処へ行ったというのだ八幡よぉおーっ!」と叫びながら駆けていったくらいだ。え? なに? 俺になんか用でもあったの? 小説読んでくれとかだったら奉仕部部長を通してください、俺は知りません。

 

  …………と、そんなわけで。

 

 終始そんな感じで放課後に到り、奉仕部での活動は平塚先生に断りを入れて不参加。

 そのまま帰宅することとなり───まあ、ようするにだ。

 

「あれ? お兄ちゃん? なんか忘れ物?」

「おん? 忘れ物って? つかお前起きてて大丈夫なのか?」

「あーだいじょぶだいじょぶ、汗いっぱい掻いて寝たらもうすっきり。ってそーじゃなくてだよお兄ちゃん。今日結衣さんの誕生日で、放課後に奉仕部で祝うことになってる、とか言ってたじゃん」

「───」

 

 ひゅう、と呼吸が細くなった。

 ぁヤッベ忘れてたヤッベェエエエエエエエエエッ!!

 叫ぶならそんな絶叫。

 しかしあんまりにも衝撃が強すぎたため、言葉にもならなかった。

 

「小町大丈夫か大丈夫だな大丈夫だよなよし大丈夫ってことで行ってきます!!」

「はーいいってらっしゃーい」

 

 大切な日ってそういうことかよもぉおおおおおっ!! どうしてこういう時の誰かって、その大切な日ってのの明確な答えを言わないのかなぁ! フツーに“今日結衣さんの誕生日でしょ”とか言ってくれりゃあいいのにもぉおおおおっ!!

 などと供述しているのは自分の迂闊さを呪う、言い訳ばかりを考える弱い心でございます。

 もちろん言い訳をするつもりはないので、ただでさえ汗だくだった身を酷使し、学校へと戻るのだった。

 

   ×   ×   ×

 

 で。

 

「~…………」

「………」

「はぁ……まったく」

 

 予想通りと言えばいいのか、由比ヶ浜は頬を膨らませていた。

 事情が事情なだけに納得しなければいけなかった、という言葉を聞くに、しっかりと平塚先生の説明は終わったあとのようだった。それより早く来られたなら、“イッケナハァ~イ、遅刻しちゃっとぁ~っ♪ トゥェヘッ☆”で済んだのに、こういう時だけは行動が早いのは何故なのか。

 そしてそれだけだったら飲み込めた由比ヶ浜だったが、“俺がすっかり忘れていた”というのがそれはもう気に入らなかったようでして。

 うっかりぽろりと真実を語ってしまったからには、“や、やー、しょうがないよヒッキー、小町ちゃん熱出してたんならさ、あたしもヒッキーがなんかそわそわしてるの、知ってたし”だった彼女の態度が、そりゃあもう一変した次第でございまして。いやあの、はい、ごめんなさい。マジすんませんした。

 そりゃね、中学時代までのように、もののついで程度で誘われて、行ってみたら“あ、来たんだ、ふーん”って来ちゃいけなかったみたいな空気になるレベルならこうもならんだろう。

 しかし今回のこの、奉仕部で祝いましょうを提案したのは俺だったのだ。カラオケボックス行ったりサイゼ行ったり、誰かの誕生日の度にこれでは金がいくらあっても足りない。

 なんなら依頼ってことで奉仕部で祝ってみてもいーんじゃねーの? なんて冗談半分で提案したら、見事採用されてしまったのだ。

 “提案してくれたってことは、えと、ヒッキーもちゃんと祝ってくれるってことだよね?”なんてちらちらこちらを見ながら言うもんだから、“いや俺はアレがアレの用事がアレだから”なんて言い訳が通じる筈もなく。

 こうして、今日という6月18日の放課後にこの場に、ってことに……なっていたのになぁ。

 

「あたし、優美子たちからの誘いとかも断って、待ってたのに……」

「うぐっ……す、すまん。俺もちょっと、いやかなり朝っぱらから余裕とか無くて……ってのは言い訳だな。すまん、ほんとそれしか言えん」

 

 ソ、ソッカー、朝っぱらの“やっはろーキャンセル”はそんなきっかけがございましたのねん……。

 いや、これは本当にまずいことをした。いくらぼっちの八幡さんでも、自分から提案したのをバックれて“ハハン? それがどうしました?”なんて顔は出来やしない。ていうかむしろされる側だから、自分がやられて嫌なことなどしてたまるものか。

 ならばどうする? これからも平穏な毎日を享受するために、俺はここでなにをどうするべきなのか。

 や、だって自分で提案したんだぞ? 冗談半分とはいえ、女子がぱあっと笑顔になるくらいの提案をして、お、おうとか集合することを頷いてしまったんだぞ?

 そんなものを反故したことが我がクラスにジュビ……三浦経由で広まってみろ! 天使が……我が大天使が俺限定で堕天種へと変貌してしまうのでは……!?

 

(ひどいよ八幡……僕、信じてたのに……)

(ち、違うんだ戸塚! 俺は───)

(見損なった! もう八幡なんて知らない!)

(と、戸塚ぁああーっ!!)【以上、脳内劇場】

 

 グワーーーーーッ!!

 だ、だだだだめだ! いまさらアルティメットぼっちになろうがどうしようがそれはいい! だが戸塚は! 戸塚の信頼が滅ぶのは!

 それに───

 

「………」

 

 それに。ここで開き直って居直って、こいつらに軽蔑されるのは。

 

「…………すまん。都合のいいことを言うようで悪いが、俺に出来ることならなんでもする。だから許してくれ。いっそここで無視して出てって、本気でぼっちになっても、なんて考えがよぎったけど、俺……お前らに対して、そういうの、したくねぇみたいで。だから───」

「…………ヒッキー」

「……意外ね。あなたが自分の気持ちを素直に吐くなんて」

「あ、あー……ほら、な。妹心配するあまり、ちと心がそういう方向になってるっぽい。だから、出来ることならなんでも叶えてやる。時間のかかることでも絶対守る。だから……頼む」

 

 椅子に座りながら、頭を下げた。

 途端に由比ヶ浜が慌てた調子で止めに入るが、罪悪感が困ったくらいにあるために上げられる頭がない。

 むしろお兄ちゃんモードだからこそ、相手の希望を叶えるまで引けない、みたいな気持ちになっている。

 

「も、もういいってばっ! やめよっ、ヒッキー! あたしも悪かったからっ!」

「い、いや、けどな……」

「そんな簡単になんでもするとか言っちゃだめだよ! 女の子じゃなくても、男の子に対してだって悪いこと考える人って居るんだからね!? た、たとえばほらっ! あの、えと……つ、つつつ、つきっ……あたしとつきあって、とか、本気の恋人同士になってくださいっ! ……───ぁ、───と、とかっ! うんっ! いぃいい今のたとっ、たとえでっ───」

「ぇ? お、おう、わかった。付き合おう、由比ヶ浜。恋人になってくれ」

「───え?」

「え?」

「え?」

 

 ……。

 

「「「え?」」」

 

 ……。

 

 …………。

 

   ×   ×   ×

 

 ある日、一人のぼっちに恋人が出来ました。

 オチはといいますと……結局あのあと「こ、こんなのだめ! やり直し! こんな告白ってないよ! やだ!」などと言い出した由比ヶ浜によって告白のやり直しが提案され、なんの拷問なのか俺とともに理想のシチュエーションでの告白大会(やり直し無制限)が実施され…………晴れて、マジモンの恋人となりました。

 いや、だってさ、あんな必死にこれじゃやだとかこんなんじゃ伝えきれてないとか繰り返されて、何度思い切り、本気で、告白されたかわかったもんじゃない。

 勘違いとかする余裕ねーよ。だってあいつ俺のことだけ真っ直ぐ見て告白するんだもん。

 なんだかわからん内に巻き込まれた雪ノ下がブラックコーヒー飲みまくるほど甘々空間だったわ。

 

「えへー、ヒッキー?」

「お、おう、おはよー……さん」

「………………」

「……う……」

「それだけ?」

「うぐっ……」

 

 恋人になって、告白しまくってから、こいつはきっとタガが外れてしまったのだ。

 毎日家まで迎えに来るし、家を出れば腕に抱きついてきて超上機嫌だし、おまけにそのー……

 

「……だ、大丈夫だ。勢いもそりゃあったかもだが、俺もちゃんと好きになっていってるから」

「……うん。───うん、うん。……えへへ……えへー……♪」

 

 毎日俺の気持ちを聞きたいとか言い出した。

 で、素直な気持ちを伝える覚悟を決めた俺は、きっと周囲から見ればただのバカップルAなのだろう。

 今日も今日とて雪ノ下の周囲がブラックコーヒーの缶で埋まりそうな一日を、元気いっぱいに過ごすことになりそうだ。

 

「あ、そういや誕生日プレゼント」

 

 ハッと思い出して口に出すと、なんかもう超上機嫌なまま、腕に抱きついて頬をすりすりしてる。

 ……なんか、これだけでもう十分に幸せですって言われてるみたいで、俺もまあなんとも……顔がちりちりする。

 果たしてあの時、俺が誕生日を忘れたのは良いことだったのか悪いことだったのか。

 え? 今? …………幸せだよ、わりぃかよちくしょう。

 




「そういえばさ、アニメ公式ページって誕生日のたびに“ハッピーバースデー○○! って更新してたよね。今年はどうだろう」
「あ、そういえば。忘れてた」
「アニメ3期の発表もあったし、いろはの絵があったりしたね、懐かしい」
「あったねー。さーて、どらどら? …………」
「? どしたん?」
「“ハッピーバースデーいろは!”で終わってる」
「………」
「………」

 それから二日ほど通ってみてもなにもなかったという悲しみ。(6月20日追記)
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