どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話 作:凍傷(ぜろくろ)
なので久しぶりに適当にお題決めて、プロットなんぞ一切なく、てけとーに書いてみよう! な執筆。
あ、かかった時間は1時間と13分です。
よし安心した。
お題/一時間くらいで頭カラッポ状態からどげなこと書けるかな的なお話
高校を卒業して、大学がどーだこーだとあってしばらく。マッカン好きが高じて“やってみよう!”と、ほぼ単純な勢いで描き出した喫茶店の夢。
正しいより楽しいだとばかりに、それこそ“やってみよう”なノリで歩いてみれば、その道は決して楽ではなく、苦労の先にようやく落ち着けたかと思えば、トラブルの方が自ら人の安息へ土足で上がり込んでくるから、まったくこの世の中ってのは腐っている。
あ、腐ってるのは俺の目だった。
「……はぁ」
そうして夢を叶えて完成した喫茶店。
現在、お客さんはゼロである。静かなもんだ。
「お客さん、こないねー」
「そだなー」
隣では若奥様がぐでーっとカウンターに突っ伏して……いることもなく、涼しい季節ってこともあってか、人の腕に抱き着きすりすりしている。くすぐったい。つか心地よい。天国が隣にある。
改造型ベスト付きエプロンと落ち着いた栗色に近いシャツを着て、下は動きやすいように広がりのあるキュロット。エプロンより少々長いのがポイントらしい。……用意したの雪ノ下さんだから、俺の趣味とか言われるのは心外だ。つか、最初に結衣にこれ渡してきた時、ひどくニヤニヤしてたよなぁあの人。
なんでだ? なんて思ってたら……あの人、現実で仕事の制服に乳袋処理を施しやがったのだ。
お蔭で結衣の胸が強調されること強調されること。
ちなみにその後、俺はフツーに結衣にベスト付きエプロンをプレゼントした。……おう、エプロンだけは俺がプレゼントしたものだよ。ただまあその、なんだ。……正直、ああまで合わせてくるとは思ってもみませんでした。
乳袋……侮りがたし。
まあそれはそれとしてだ。
「ま、店が軌道に乗るまでは暇なもんだってのはよくある話だしな」
ラビットハウスとかラビットハウスとか。
……俺もカフェ・ド・マンシーでもやってみようかしら。コーヒー飲ませて、その飲み痕から相手の運勢を占うー、とか。
「仕込んだものが無駄になるのは……少々悔しいわね」
「そういう日はそういう日だって割り切るしかねぇだろ。だからって仕込みを減らせば、その時に限ってそれがいっぱい出るのが世の中ってもんだ」
「ええそうね。本当に、上手くいかないものだわ」
俺と同じく黒のベストと白のシャツ、黒ズボンを着た雪ノ下が、茶葉が入った容器を手に寂しそうに溜め息を吐く。
一色が仕切っているケーキ制作場、その名も一色工房からは、注文用の内線から引っ切り無しにコールが。
どんだけ暇なのちょっと。いや実際暇だけど。やめて? 俺に文句言われても注文取ってあげらんないから。
「おう、どしたー」
『どしたー、じゃないですよーせんぱーい……暇です、とっても。ケーキの注文取ってくださいよー』
「客が居ないんだからしゃーないだろ」
『開店当時はいっぱい来てくれてたじゃないですかー! 詐欺ですよこんなの! この集客率なら今後も安心だーって思ったわたしの安心、返してくださいよー!』
「おい、物騒なこと言うのやめろ。まるでこれから潰れるみたいだろが」
開店当時は、そりゃあ混んだもんだ。
しかし少し月日が経つと、客は減った。今ではとっても暇である。
そりゃなー、喫茶店なんて今時流行んねーなーとは、俺もまあ思ったりはするけどさ。
しょーがないじゃないの、こいつらとこういうことしたいって思っちゃったんだから。
『はるさん先輩に知り合いを紹介してもらって、サクラしてもらうとか出来ないんですか?』
「美味しく感じてもらって来てもらわなきゃ意味ないだろ。なにお前、自分の自慢のケーキ、金掴まされたから食べに来ましたとか言われたい?」
『いやですキモいです冗談じゃありませんごめんです絶対嫌ですごめんなさい』
「ついでで振ってくなよ……」
内線繋ぎながらも隣の妻を愛でまくっているので、まあ学生時代に比べりゃちぃともこたえないが。
好きな人が明確って、素敵なことだ。しかし、そんな好きな相手が自分と連れ添ったことで破滅するとか、そんな未来があっていい筈がない。
なんとかしなければ。
「でも、お客さんが急に減った原因ってなんなんだろうね」
「ああ……そだな」
そう二人で話し合うと、雪ノ下がちらりと結衣を見た。……詳しく言えば、結衣のお腹だが。
「……その。大きくなってきたわね、お腹も」
「え? あ、うん、だよねっ! 双子なんだって!」
「………」
「? ゆきのん?」
雪ノ下、溜め息。
なに。どったのちょっと。
「看板娘が急に妊娠とか、それはね……多かった男性客もこぞって絶望するわよ……」
「ゆきのん、今なんて?」
「逞しい双子が産まれるわと言ったのよ」
「わっ……えへへー、うんっ、ありがとうゆきのんっ!」
そして今日も百合百合し……くはないな。結衣が腕を離してくれん。結果として、結衣が俺と雪ノ下の腕を抱き寄せる形になった。
「うん、だいじょぶだっ! あたしたちが集まれば、こんな困難なんて飛び越せちゃうんだからっ! きっとほら、お客さんのお財布のじじょーとかアレがああなってアレなだけだから!」
「……由比ヶ浜さん。あなた、比企谷くんの思考回路に引っ張られてはいないかしら」
「え? ……えへへ、そんなゆきのん、似た者夫婦なんて……えへ、えへへ……えへー……♪」
「………」
やめて。そこで心底疲れた顔で俺を見るの。
いいじゃないの仲良し夫婦。俺達ゃどんだけ歳取ってもお互いに遠慮なく好き合える夫婦を目指してんだから。つか、知る度好きになる相手をどう嫌いになれっての。
『あのー? あーのー? それで結局この暇さ、どうするんですかー?』
「メシ食うか」
『え? どうしてここでご飯の話に───』
「まあほれ、安心しろ。こういう暇な時に飯をって思考を働かせるとだな、それが本気であればあるだけ客が来るもんなんだよ。たとえばだな、あー…………」
結衣の手料理。俺のために作ってくれた料理。
食べたい。食べ……むしろいちゃいちゃしたい。もっとくっつきたい。つかもう客来ないよきっと。寝室戻って抱き締めていい? つかする。しまくる。愛し合うまである。
からんからーん♪
……本気で、真剣に、真顔で看板下げようとしたら客が来た。所詮そんなもんである。ほんと世の中腐ってる。
「ほれ、客が来たぞ」
『……先輩。今食事どころか、べつのものを召し上がろうとか考えてませんでした?』
「なにお前。エスパー?」
いや、俺よりも、ちょっぴり赤い顔して頬を膨らませて、客を軽く睨んでしまっている奥さんがめっちゃ可愛いんだが。もう抱き締めていいだろうか。俺の嫁さん超可愛い。
「言うまでもなく確認するまでもなく、似た者夫婦じゃない……はぁ」
そしてまた雪ノ下に溜め息を吐かれた。
……結局、客が来なかったのは一時的なもので、少しののちに店は客で溢れた。
結衣が出産のために入院する頃には客の入りは凄まじいの一言で、慌ただしい喫茶店なんて喫茶店じゃねぇ! なんて叫んだものだ。
それが、今となっては懐かしい。
……だって、忙しいのが普通になってるんだもの。
……。
……と。
「そんなこともあって、実はヤバかったこともあったわけだ。まあ、今じゃ客の入りも安定してるけどな」
「なるほど! その時の子供というのがわたしと美鳩と言うワケですか!」
「大変興味深い……。自分のルーツを知る、というのはなんというか……深い……。とても、とてもジャスティス」
「あの時は大変だったよねー、このままダメになっちゃうのかな、なんて不安になっちゃって」
「知らぬは本人ばかりなり、ね。男性客が由比ヶ浜さんのお腹を見て、ぼそぼそと話し合うのをよく見るようになってからだったもの」
「……そういや雪ノ下、お前は仕込んだものの心配しかしてなかったな……」
「当然でしょう? 味が確かなら、客というものはいずれ戻ってくるものよ」
まあ、そうな。
俺も新しい店が出来たとしても、やっぱりなんだかんだ、馴染み深い店の味を思い出して戻ることとかあったし。
「もはははは! そしてこの絆が看板娘として立った日から、この喫茶店も軌道に乗ったってわけだねパパ!」
「いや、俺の中じゃ結衣が永遠の看板娘だから」
「ぬ、ぬぅ、ママが強敵すぎる……! パパー、たまには絆にもやさしくなってくださいよー」
「パパ呼びしながら一色の真似はやめろ、なんか怪しい感じがして怖い」
「あら。それならこうして余裕の笑みで翻弄したほうがいいのかしら、やめろ谷くん」
「雪ノ下の真似もやめろっつーの」
「あー……そういえばきーちゃんは人の真似が好きですけど、みーちゃんはそれほどでもないですよね? そこのところ、親としてはどうなんですか? 先輩」
いや、どうとか言われても。
「ふふり。たった今話題に出たこの美鳩も、実は人の真似は好きだったりする」
「そうだったんだ。じゃあみーちゃん、誰かの真似してみて?」
「……! すっ……好き、とは言ったけど、出来るとは言ってない……」
「……なんかこういうところ、地味に先輩ですよね」
「地味とか言うな」
自分で、“まあわかるけど”とか思っちゃったら、いろいろと救いがない。
けどまあ、賑やかなのはいいことだ。
「ねぇパパ? それはそうと、はるのんの誕生日を七夕と一緒に祝ってから、もう一週間経ちそうだよ?」
「月日が経つのは早い……」
「あ、ちなみにきーちゃんみーちゃんはどんなこと短冊に書いたの? あ、ハチ兄さんと結衣先輩は想像がつくんでいいです」
「なんでここで敢えてハチ兄さん呼ばわりしたんだよおい……」
「あ、わたしは当然世界征服! いつかこの喫茶店の味で世界の喫茶店の頂点に立ってやるのだフワァーハハー!!」
「Si,それは野望とも取れるとっても大切な大願。いつかパパとママが隠居しても、きっと叶えたい夢……!」
「うんうん、わたしが紅茶とケーキを作ってー♪」
「美鳩がコーヒーと軽食を頑張る……」
「葉山さん家の翆ちゃんが働いてくれるようになったら、接客を手伝ってもらってー♪」
「美鳩も可能な限り手伝ったり、新作を考えたり……」
「当然この絆も手伝って、客が美味しさと接客の良さに感動して打ち震えて───」
「「そこを我が殴る蹴るの暴行よ……!」」
「やめい」
二人してどうしてかワイルドワイルド・プッシーキャッツだった。
やめなさい、我ーズブートキャンプは基本、拷問にしかならないから。
「さ、明日も早いのだから、あまり長く話し合っていても仕方ないわ。今日はもう終わりにしましょう」
「はーい! 雪乃ママ!」
「そういえば、最初の頃はゆきのんもママじゃないのよ、とか言ってたね」
「……言っても聞かないのだから、仕方がないでしょう」
「お前それ、昔からだろ。結衣との関係も、押し切られるままだったわけだし」
「!?」
「ゆきのん!? なんでそんなショック受けてるの!?」
「ていうか気づいてなかったんですか、雪ノ下先輩……」
「パパ! お風呂入ろ!」
「絆、あなたにはまだ危ない……。ここはこの美鳩に任せて……!」
「お前らはまず脈絡から考えような」
なんで唐突に風呂の話になるの。
そりゃ入るよ? 入るけどさ。でも娘と一緒ではない。
「パパが好きだから脈絡なら最初から十分! じゃあGO!」
「GO……!」
「会話させろっつーとるんだ馬鹿娘ども」
「あ、じゃあ結衣先輩、今ですよ今今」
「? え、と? んと……ヒッキー? 一緒に、入ろ?」
「おう入るか」
「パパ!? 会話は!?」
「どこに入るかすら言ってないなら、会話じゃない……! ノンジャスティス……それはずるい……!」
「いやこれあれだから。恋人や夫婦に許されたアイコンタクトとか雰囲気コンタクトだから。言葉にしなくてもわかることの中の一つだからいいんだよ」
「と言いつつ、あなたたちのことだから、二人きりの際には思う存分に話し合っているのでしょう?」
「ゆきのんなんでわかるの!!?」
「「「「わからいでか」」」」
娘二人と馴染深い二人にきっぱり言われた。
まあ、俺でも言うわ、それは。
けどほれ、あれだ。知り合っているからってなんでも言わなくてもわかる、は、破滅にしか向かわんからだめだ。
むしろなんでも言い合わなきゃ心が通わない。
だから俺達は遠慮することなく気持ちをぶつけ続け、そのたびに好きになっている。
「はぁ……このままだと話も終わりそうにないし、私は先に失礼するわね」
「いつも通りですもんねー。あ、わたしも失礼しますね」
「ではこの絆もこれで。あ、パパ? あとで着替え持ってお風呂に突入するね?」
「せんでいい」
「ママも。震えて待っていてほしい。大丈夫……美鳩も必ずかけつけるから……」
「美鳩? 駆け付けなくていいからね?」
娘が親が大好きすぎて辛い。
いやまあ、可愛いもんだけどな。
「……んじゃ、行くか、結衣」
「うん、ヒッキー」
「フッフフ、どぅれ、この老骨も腰をあげるとするか……」
「師父だけに任せて先になど行けませぬ……! この美鳩も───!」
「ノリで混ざれば行けるとかないから、いーから部屋戻っとけっての」
「パパはケチです!」
「ケチでいーから。俺ゃ基本結衣に自分の全部を置いてんだから、いーんだよ他へはケチで」
「その分の愛情が、ママから美鳩たちへ……!?」
「あ、えとー……あ、あはは……ごめんね? ほぼ、ってか大体、ヒッキーに……」
「ママもケチだー!」
「ケ、ケチじゃないから! これケチとかそーゆーんじゃないから! だって夫婦だもん! こんくらい普通なんだってば!」
娘と同レベルで騒ぐ奥さんが可愛い。
つい目を細めて見つめてしまう。
まあ……そうな。明日も早いし、そろそろ。
「んじゃ結衣、今度こそほんとに行くぞ」
「あ、う、うん。……えと……うん。はい……えへへ……」
声を駆けられれば頷いて、手を伸ばしてきて、掴んでやればどうしてか“はい”って返して、赤くなって。
まあ……こうなると、風呂の中でも布団の中で……なぁ。
「パパ! 年頃の娘が居るので、ジョージ的なあれは───」
「断る」
「「即答だ!?」」
絆と結衣の声が重なったあたりで、結衣を引っ張って歩いた。
好きな人を存分に愛でることは悪ではない。
青春ってのはまあそのー……ほれ。嘘であり悪ではあったのだろうがな。
「……美鳩。レコーダーを手に待機です」
「Si」
「だからやめろっつーの」
それはそれとして、宅の娘たちは誰に似たのか自由である。……誰に似たのかって、喫茶店に関係する様々な人を思い浮かべれば、その全てなんだろうなって思うのは……娘に“絆”って名前をつけた甲斐もあるってもんだと笑えるものだった。
皆を結ぶ絆であったり、離れたと思った心でもいつかひょいと戻ってくるような想いを込めて名付けた鳩だって、実に自由。