どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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真・母の日で父の日なある日②

 ガヤガーヤと皆が騒ぎ、カラオケセットで戸部が歌う中、俺は俺で気になったことを小町に訊ねた。

 ていうか戸部よ、祝いの席とはいえ、朝っぱらからアルコールとカラオケって……喉死なない?

 

「そういや小町、今日は川崎は?」

「あー……大口の依頼が来ちゃったとかで、大志くん捕まえて作業中。小町───こほん。私も途中までは手伝ってたんだけど、あたしらの分まで、って、こうして」

「その中でサプライズ用意するって、どんだけ計画立ててたのキミら」

「スケジュールなんて、計算し尽くせば案外どうとでもなるよ。問題になってくるのは、そのスケジュールを自分の不手際出潰しにかかる仕事仲間だけだし」

「うひゃー、留美ちゃんズバっと言うなぁ。でもその言葉には小町も賛成。大事な用事がある時に限って、失敗やらかす仕事仲間が居るわけですよ。進捗がよろしくないのに当日付近まで隠して、どうしようもない状態になってからわざわざ伝える。もうね、それで何度沙希さんが激怒したか……!」

「服飾の世界はよく知らんが、そんなにやばい?」

「やばいってもんじゃないってばお兄ちゃん! だってオーダーメイド頼まれてて自分の担当部分は完成! さああとは───ってところで、他の部位が全然進んでませんでした、って地獄だよ!? しかもそうなっちゃう前に進捗状況訊ねておいたのに、ただの見栄だった時なんてさぁ!」

「お、おう……まあその、わかった。小町がそこまで声を荒げるってのは相当だ。……その、お疲れさん」

「はいお疲れさん!」

 

 ほれ、と近くにあった飲み物を渡してみれば、ぐいーっと飲んでしまう小町ちゃん。

 しかし炭酸だったためか一気に飲みで悶絶。その頭を久しぶりに撫でると、結衣を伴って……むしろ抱き締めたまま移動を開始。

 歩きづらさ? そんなものはもはや克服した。つまりは毎度のことである。

 

「留美、妹のことをよろしく頼む」

「嫁に出すみたいに言わないでよ。でもまあ、コマさんのこういう所、ほっとけないしね」

 

 え? ……え? なに? もしかしてあれなの?

 大志とともに、小町を巡るデッドトライアングルな関係が「馬鹿じゃないの?」……あるわけないね、ごめんなさい。

 てか人の視線でいろいろ察してそういうこと言うのやめてください。

 

「じゃ、弟くん、こっちこっち」

「へ? なんすか? 俺とうとう、ずっと待っててくれた戸塚のところに───」

「その前に静ちゃんが待ってるから。ほらほらー? 長女を待たせるもんじゃないぞー?」

「よしはる姉ぇ、それを平塚先生の前で堂々と言ってみてください。戦闘コマンドに“にげる”はつけない方向で」

「あはー……ちょっと身の危険を感じるからやめとく。長女~とか、待たせるもんじゃない~とか、そういうの敏感に拾いそうだし」

 

 あの人、世が世ならブリュンヒルデとか呼ばれてIS操縦してたんじゃないかね。

 歩く途中で材木座に訊ねてみれば、「つくづく然り……!」と冷や汗垂らしながら同意してくれた。

 つまりは逆もありえるってことで、ブリュンヒルデの婚活がマジでヤバかった件について。

 

「どもっす」

「ああ。勝手にやらせてもらってるよ。誕生日の度に休みにするなんて、まったく不真面目な社長だ。私が上司ならば叱りつけているところだ」

「従業員なら諸手挙げて喜んで、酒飲んでるんじゃないですか?」

「……。まあ、否定はしない。だが稼ぎが少なければ、そんな酒宴も出来んのだ、やるせないものだな。君の場合は家族でやっているからいいものの、そうでなければとっくに潰れているんじゃないか?」

「不吉なこと言わんでください」

「っと、ああすまない。古い友人が仕事をやめたと聞いてな。少し思うところがあった。大丈夫だ、由比ヶ浜。ここはそう簡単には潰れやしない。そんな悲しそうな顔をするな───っと、すまん比企谷、させたのは私だったな。悪かったから目を濁らせるな、真正面からその目は、久しぶりということもあってなかなか怖い」

 

 まあ、休みは欲しいけど休みばっかじゃ金入らんし。

 忙しすぎても、金はあっても使う暇がないし。

 何事もほどほどが一番なわけで。

 ……それ考えれば、常連客が客席にあるカレンダーを見て「明日は○○○ちゃんの誕生日休みかぁ……」なんて口にする店、他にないだろう。

 

「? あ、お、お? どどどうした結衣、そんな怒った顔して」

「やっちゃだめって言ったのに……ほら、ヒッキー」

「え? あぉ───ふぐっ!?」

 

 え? なに? と戸惑っていると、顔を両手でやさしく包まれ、キスをされた。

 少し背伸びをしなきゃ届かないキスが、俺の頬をやさしく引っ張り、彼女がくんっと背伸びをすることで成立する。

 なにをされたのかをきっちりと認識すると、途端に濁り始めていた視界がクリアになって、つまりは綺麗な視界に結衣のドアップ。

 愛しくて、気づけば再び抱き締めておりました。

 

「……陽乃。付き合え。酔いが吹き飛んだ。……まったく、目の前でなんてものを見せるんだ……!」

「静ちゃん、顔赤いよ~? もー、いくつになっても初心なん───」

「あ゙?」

「だ、か…………あ、あはっ、あははっ、ははっ……!?」

 

 のちにはる姉ぇは言った。

 私を眼光だけで仮面ごと引き攣らせるなんて、年齢のことを持ち出した時の静ちゃんくらいだ、と。

 

「はぁ……まあ、年齢のことなどこの際どうでもいい。諦めてみれば案外すっきりと視界が広まるものだ。後に残るのが、義理とはいえ家族や元教え子たちの笑顔が広がる未来、というのも……これで嬉しいものさ」

「しず───」

「あ゙?」

「まだなにも言ってないでしょー!?」

 

 いやわかります。どうせお爺ちゃんみたいとか言うつもりだったでしょ。口には出さないけど、俺も結衣もそうだったし。

 てか、そういう予想が出来るなら、そんなことを言わないでもらいたい。

 

「はぁ……あぁほらほら、このシュテンドルフは私が押さえておくから、弟くんも妹ちゃんも行った行った。主役はちゃんと挨拶。これ、社交界の常識」

「うんざりしそうですね」

「うん。うんざりするよ? 経験者は語れるから。言っちゃえばこのパーティーなんて天国だよ? 仮面なんて必要ないって、それだけで幸せなんだから」

「……っす。なんか……わかります、そういうの」

「ん。“比企谷くん”だからわかること、あそこには嫌なほどあるから。キミはそういうのを敢えて知らないまま、ここに居るべきだよ」

 

 にこーと笑う笑みに、いつかの仮面くささはない。

 ただ、それが本物なのかどうかは……平塚先生に頭を撫でられ、きょとんとしてから崩れ、笑いに変わるのをみれば、ああ、やっぱり、とも思えるのだ。

 仮面なんてひとつじゃない。

 人間関係の数ほど作られていくものだし、一人一人のために用意されたものだって腐るほどあるのだろう。

 たぶんだけど……その仮面の中でも一番脆いのが、平塚先生の前でつけるもので。あの笑顔はきっと───

 

「ヒッキー?」

「んや。行くか」

 

 酒宴を始めた二人を視界から外して、改めてぽすりと結衣を腕の中に招き入れ、視界に入るや笑顔で手を振るマイエンジェル戸塚に手を振り返す。

 いや、ほんと……あの細身、あの長い髪、あのスマイルを持って生まれて、何故男なのかが未だに謎である。

 声とか秋津洲だし、いっそ影では材木座に胸のない秋津洲って呼ばれているまである。

 

「八幡っ! 比企谷さんっ!」

「おう戸塚」

「やっはろー、さいちゃんっ!」

 

 いつになっても幼さの残るこの美しさといったらどうだろう。

 一緒に働いている人とかいろいろ大変なんじゃないでしょうか。

 しかし天使というのはいつになっても天使である。ああ尊い。

 けれども八幡動揺しません。しても表に出しません。

 俺は───

 

「……ヒッキー、心臓ドキドキしてる」

 

 いや違うんですよ結衣さん誤解です。

 これは大事な友人に出会えたことが純粋に嬉しくてですね?

 浮気とかじゃ断じてないんです信じてください!

 もはや八幡的生理現象といいますか、自分ではどうすることも出来ないのです!

 

「……ほんと、さいちゃんが女の子じゃなくてよかったかも」

「ばかいえ、戸塚が女だったら、そもそも俺なんざ相手にされないどころか話すきっかけすらなかったまであるわ」

「テニス部の依頼で話してたかもしんないじゃん?」

「女の戸塚が部長で、男子どもがやる気出さないって?」

「…………ないね」

「だろ?」

 

 たとえばだらける男子部員どもに、戸塚が“み、みんなっ、真面目にやろうよっ!”と言ったとする。

 そしたら男子ども、張り切って真面目にやってたろ。

 え? それが俺だったら?

 ……それが、不思議と自分が参加する光景が浮かばないとくる。

 まあ、あれだ。戸塚は男で、なのに分け隔てなんかがなかったからよかったのだと思うわけだ。

 もし本当に女だとしたら、俺は確実に距離を取っていたと思う。

 何故って? 戸塚相手にちょっかい出そうとする男どもに、嫌な目で見られたくないからだ。

 ぼっちならそうする。俺だったらそうする。

 女子を思う男子のやっかみほど、鬱陶しくも理不尽なことってそうそう無いからなー……ああほんと、男子高校生ってのはめんどい生き物である。。

 

「二人とも、相変わらず仲が良いねっ。僕の中の理想の夫婦像って、もう八幡達で定着しちゃったよ!」

「ぬむんふっ! それは実に然りである……! ていうかここまで来ると、盛大な夫婦喧嘩とか見てみたいでござる」

「やめとけ、材木座。それ以上催促みたいなことすると、後ろの娘二人が黙ってないから。あと急に現れるな」

「はぽんっ!?」

 

 慌てて振り向いてみれば、コーヒーを構える美鳩と、「人の道を教えてやる……!」とか言って拳をペキコキ鳴らそうとして、コパキッと小気味のいい音を指が鳴らした途端、結構マジで痛がる絆。

 あー、あるよなー、ペキッと鳴るだけのつもりで圧迫してみたら、超激痛が襲ってくること。

 「~……ッッ……ツァッ……!」とか言ってる。ああ、あれは本気で痛いパターンだ。

 

「うむ。しかしつい先ほどまではあちらに居たかと思えば、我が背後を取るとは……!」

「二人とも、たまに八幡みたいに気配消しちゃう時があるからね。話してる相手が自分から意識を外した途端に消えちゃうから、すごいよ?」

 

 戸塚がわざわざ俺の特徴を覚えてくれた……!

 やだ嬉しい、八幡嬉しい……! うれ……ハッ!?

 イヤアノアノ……ちちち違うんですよ結衣さん? これ浮気とかじゃなくて……!

 だからじと目とかやめてください……! 浮気のつもりもないのに浮気を疑われるなんて、俺にとってそれはダメージがデカすぎる……!

 いや、結衣だってもちろん冗談でやってるんだろうけど、冗談でもダメージがきついとなると、実際もしそんなことになったら…………俺ショック死するんじゃなかろうか。

 

  死因:浮気死に

 

 ……シャレになってない。

 余計に心配になってきた……冗談の段階でさえ解消……もとい解決出来ないんじゃ、俺っていよいよもってやばいのでは?

 話題を逸らそう。思考と一緒に。

 

「とっ……とと戸塚は今日、平気だったか? 朝からじゃなくてもよかったんだぞ?」

「大丈夫だよ八幡。前から6月18日にはお休みを、ってお願いしてあったんだ。てっきり渋られるんじゃ……とか思ってたら、編集長が普段は見せない笑顔で“お父さんに任せなさい”って。あれ、どういう意味だったのかな」

「「「………」」」

 

 俺と結衣、材木座、顔を見合わせて少し編集長を思うコト。

 たぶん、中々にお歳を召したお方なんだろうな。

 わかるよ、編集長。きっと上目遣いでお願いされちゃったんだろ?

 で、普通なら“毎年6月18日に休む……まさか誰かの誕生日だからとかぬかすんじゃあねぇだろうなァ~!”とか言いそうなものを、ついぽしょりと戸塚が“父の日が……”とか漏らそうものなら、なんかそれっぽいことしてやりたくなっちゃったとか。

 戸塚の祖父とかやったら、自分用の金を持ってても全部貢いじゃいそうで怖い。やだ、マジ怖い。でも戸塚なら許せる。そんな切ない思い……!

 いやまあ喩えであって、そんなことをすれば戸塚が頬を膨らませて怒るのはよーくわかるので、やったりなどしないわけだが。

 

「……さいねーちゃんは少し、自分の可愛さと向き合うべきだと思うな」

「Si……無知で純粋な武器は時に恐怖に繋がる」

「え? あ、もしかして絆ちゃんと美鳩ちゃんは理由とかわかるの? あれ、どういう意味なのかな。お父さんに相談してみたら、普段は見せないくらい怒り顔になって───」

「「「………」」」

 

 俺と結衣、材木座、あー……とばかりに納得。

 というか、そうか。戸塚は両親と暮らしてるのか。いや、それも両親が超絶心配して許さなかったんだろうなぁ……一人暮らし。

 だっておかしすぎるもの。

 俺や材木座なんか、確かに大人になっていってるなぁ……とか、まあぶっちゃけてしまえば歳とってってるなぁ、なんて思ってるのに、戸塚の場合はこう……知人枠の女性陣の如く美しいままなんだもの。

 さすがに学生時代とちっとも変わらない、なんてことはないが、幼さの中に美しさが滲み出る容姿は今尚健在である。

 材木座情報だが、他の担当作家から告白されたことがあるとかなんとか。……え? ああ、もちろん男から。大丈夫か、その会社。

 絆と美鳩がかつてない焦った顔で、懸命に説明をしているが、その合間にもチララチラチラ、チッラァアアア!! って感じでこちらを見てくる。いや見すぎ。それもうチラ見の域を超越しちゃってるから。

 

「助けてあげないんですか?」

「っと、一色? いや、助けるもなにも……って、お前それ」

「はい、バスターです。朝っぱらからの宴ってこともあって、長時間かかろうがチャレンジしたいっていう声を、作戦会議中に結構聞いちゃいまして」

「……勇者だな」

「ゴローさんに星を取られちゃった有敗ワッフルですけど、まだまだ現役です。味を損なわない程度に強化もしたので、手強いですよ?」

「お前、それを俺達に聞かせてどうしたいの……」

「? どうって。チャレンジしてください。食べてもらえない食べ物ほど悲しいものはないと思います」

 

 あの……それの材料費、我が家持ちだってわかってる?

 まあ、美味しいものやコーヒー紅茶に合うものを作るためなら、経費も惜しまないって研究費用を負担したのは俺達なのだが。

 実際、こいつの作る菓子には助けられまくってるしな……。

 

「……いつもあんがとな」

「期待に応えられる後輩ですからっ」

 

 胸張らんでいいから。

 

「というわけで材木座、第一号行ってみるか?」

「なぜ真っ先に我に!? ……い、いや。ここは店長が行くべきではないか? 我としてはそのー……無粋なことはしたくないなー……とか」

「まったくです。相変わらず先輩は逃げるのが好きなんですから。感謝するならまず食べてみてくださいよー」

「うぐ……」

 

 正論である。

 腕の中の結衣が、思わずくすくすと笑う程度には、正論である。

 なので、ミニサイズのワッフルを一つ取って、ザクッと半分に割る。

 で、俺の口と、結衣の口にひょいと放り込むと───悶絶した。

 

「……悶絶しようと離れぬ二人は時に目に毒であるな……。暴れ出したい衝動を互いに抱き合うことで耐える恋人同士……これでネタになるだろうか」

「感想を口にして離れようとしているところアレですけど、一つは絶対に食べてくださいね?」

「はぽっ!? い、いぃいいや、わわわ我は甘いものを食べたら死んじゃう病で……!」

「そうなの!? さっき僕が持ってきたお菓子、勢いよく食べてたのに───!」

「ぶひぃっ!?」

 

 そして、材木座の逃げ道が潰れた。

 なにお前、戸塚の差し入れ、一人で全部食べちゃったの?

 よろしい、ならばワッフルだ。

 

「あ、戸塚先輩はこれどーぞ♪」

「うっ……ぼ、僕もこういうチャレンジはちょっと……」

 

 と、ここで戸塚が俺を見る。

 途端、ぎゅっとガッツポーズみたいなのを取って決意の表情を見せると、目をきゅっと瞑って渡されたワッフルを食べた。

 やだもう仕草とかいちいち可愛い……!

 そしてやっぱり甘いのか、口を開かずに搾り出したみたいな、きゅううう……! って高い声が漏れてくる。

 しかし俺達ほどの反応じゃないところを見ると、一色め、さてはあれだけ、言うほど甘くないな?

 じとりと見れば、にっこりと“なんですかー? せんぱーい♪”なんて言い出しそうな顔で微笑まれた。こんにゃろう。

 

「ぬ、ぬう……! 戸塚氏が勇気を見せたならば、供に歩むが筆者の務め……!」

 

 周囲の人が次々に勇気を見せると、男として踏み出さぬは恥、とばかりに流されるやつ、居るよな。

 俺も材木座も、きっとそういうタイプでして。

 最後まで意地を張って食べない、勇気を見せないヤツとかも居るが……まあ俺もどっちかっていうとそっち寄りだが、半分ずつで誤魔化したわけだし。

 

「じゃ、先輩? 結衣先輩? さっきは半分だったので次は一個ずつどうぞ?」

「「………」」

「あぽろぉおおおおおおおおおっ!?」

 

 一口バスターワッフルを一気に食った材木座が悶絶する頃、俺と結衣は誤魔化せなかった現状を思い、薄い笑みを浮かべて硬直するしかなかった。

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