どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話 作:凍傷(ぜろくろ)
それからの奉仕部は、いつかをなぞるみたいに流れていく。
奉仕部に中二が来て、今度はあたしも読んで、つまらないってきっぱり伝えて。
さいちゃんの依頼で、部員が真面目に練習してくれないから手伝って欲しいっていうのを受けて……あれ? 前のは上達すればーって話じゃなかったっけ。
あ、そか。さいちゃんだけが上手くてもダメだったんだ。
じゃあ、えと。どうすればいいのかな。
この世界でのゆきのんは、さいちゃんがちゃんと実力があることは知ってる。だから死ぬ寸前まで体を鍛えてーとかは言ったりしない。
するべきことは───部員を叩き直すこと。ってゆきのんが言ってた。
で、日を改めながら部員一人一人とテニスコートで話し合って、やる気を出させるってことをやってたんだ。うん、やってた。
そしたら三日目くらいに優美子が来て、テニスをやりたいって言い出して。
少し見ない内に、優美子が女王様になってた。
カーストトップのプレッシャーに負けちゃったのかな……そこに、前まで話してたやさしい笑顔はなくて、そうしなきゃいけないみたいな尖りを見せた女王様が居た。
「ごめん三浦さん、僕達、遊びでやってるんじゃないんだ」
「あ? なに? はっきり言えし」
「……っ……!」
高圧的な優美子の声に、さいちゃんが体を震わせた。
そこに、前みたくヒッキーが声を挟んで、今回は傍に居たゆきのんも参加して……結局、テニス対決は始まった。
結果は……
「ゆ、雪ノ下さん、由比ヶ浜さんペアの勝利!」
……勝っちゃった。
えと、なんてーのかな。……体力のあるゆきのん、無敵。
「葉山くん。聞けばあなたは部で国立を目指すと言ったそうね。そんな志があるというのに、他人の部の邪魔は平気でするのね」
「……! ゆ、雪乃ちゃっ……雪ノ下さんっ、それはっ……!」
「こちらはあなたの言う“みんなで”が問題になって時間を取られているのよ。こちらの問題も正確に把握しないまま、必要ではない余計な“みんな”を増やす気なら、そんな気遣いは要らないお世話よ」
「…………」
「結衣……あーしは……」
「……ん。やー、最近さ、ほら……あんま話せてなかったし……ね。また遊べて楽しかったよ。でも……」
「……ん。ごめん」
「……うん」
優美子は真っ直ぐに言ってくれた。
最近いろいろ重圧みたいなのがあって、気づけばこんな位置に立ってて、対等に話せる相手も居なくて、いろいろ溜まってばっかで、って。
そしたらあたしがテニスをしてたから、いつかみたいに話して、テニスとか出来たら、って。そう思ったらそれしか見えなくて、って。
「今度さ、一緒に遊ぼ? やっぱりお金を使うのは無しだけど、遊ばなくても一緒に勉強するのでもいいしさ」
「それって……結衣の彼氏も?」
「あ、うん。優美子はそれで……いい?」
「………」
優美子がちらって“葉山くん”を見る。
葉山くんはゆきのんを見てて、優美子の視線には気づいてない。
「隼人も……って言いたいけど。たぶん、無理だね、あれ」
「優美子……」
「ん、平気。こんくらいじゃ折れねーし。わかった、んじゃ、次の休みにでも」
「あ、ていうかさ、優美子」
「ん?」
……。
……。
放課後……の、奉仕部。
「…………うわ、なにこれキッショ……」
「《ゾブシャア!》ぶひぃいいーーーーーっ!!」
さいちゃんの依頼も無事に済んで、授業も終わった放課後。
優美子を奉仕部に誘って、勉強会しよう! ってことになったんだけど、そこに中二が強引に混ざってきたからちょっと……うん。
「性懲りもねぇな……だから完結してねぇのを見せるなって言ってるだろうが……」
「い、いやこれはだな……! こ、好評なら続き書く! という戦法で……」
「そう。ならば続きは結構よ」
「《ザグシャア!》ぐわぁあーーーーっ!!」
「うん。つまんない。言い回しがキモい」
「《ズァゴシャア!》グワーーーーッ!!」
「ああでも、パクリが無くなったのは高評価だな」
「げふっ……お、おおお……お主は解ってくれるのか、見知らぬリア充男よ……!」
「お前にリア充とか言われる日がくるとはな……いや、確かにペアで困ってなかったからお前とは面識なかったけどよ」
「はぽん? なにを言ってい───……いや、そうか。フフフ、よもやこの場に我以外にも“目”を持つ者が居たとはな───!」
「いや、そういうのないから」
「《ぐさぁっ!》はぽっ!?」
あ、そっか。前の時も中二のヒッキーに対する反応がヘンだなーって思ってたけど、こっちだとヒッキーのペアにはさいちゃんが入るから、中二と面識がないんだ。
「てゆーか、マジなんなの? ほーしぶ? 結衣、あんたこんなとこでなにしてんの?」
「え? えっと……お魚で釣ってお悩みを聞き出す……だっけ?」
「由比ヶ浜さん、それはまったく違う見解よ。三浦優美子さん、ね?」
「……。雪ノ下雪乃」
「ええ。お互い自己紹介が必要ないようでなにより」
そう言って微笑んで、小さくこほんって可愛い咳払いをしたゆきのんは、
「簡単に言うと、悩んでる生徒に俺達なりの解決方法の閃きに対する助力? みたいなのをする場所だ。解決はしない。解決は本人の力で、っていうのだな」
「───…………」
「……ちょ、ヒッキー……! ヒッキー……!」
「《くいくい》ぅぉっ……ど、どした?」
「だめだよ……! ゆきのんが言おうとしてたのに……! ゆきのん、咳払いまでしたのに黙り込んじゃったじゃん……!」
「へ? ……あ、あー……でもなぁ。あれ、正直争いの種にしかならないぞ? 俺、“最初”に言われた時、何様のつもりだって思ったし」
実際、ヒッキーが“こんのアマ……!”って言うくらいに腹が立ったそう。
うーん……その一番最初の……二年生ゆきのん? に会ったことないから、ちょっと想像つかない。あたしが会ったのは、ヒッキーっていうクッションがついてからのゆきのんだし。
確かに、そりゃもう、ドがつくくらいストレートな物言いとかすることもあったけどさ。そんな姿が格好いいとか思ったこともあったけど。
「ふーん? てか、生徒が生徒の願いを叶えるとかアホくさくない? 自分でなんとかしろって話じゃん」
「その二歩目を挫こうとしたあなたが言う台詞ではないわね」
「っ……だ、だから、あーしはっ……!」
「ま、あれだ。三浦もそれがどんだけ大変か味わってみりゃあいい。ほれ、お悩み相談一号様のお悩みの素だ。きっちり読んで、感想を言う。それだけだ」
「は? なんであーしが」
「優美子。……それ、だめ。やらないのに文句だけは言うなんて、そんなのずるいだけだ」
「結衣…………ん、解った、読めばいーんしょ? やってやろーじゃん……」
「ええ。最初から、きちんと最後まで、ね」
「るっさい、あーしは結衣と話してんの。邪魔すんなし」
言いながらも優美子は中二が書いた小説の原稿用紙を手に、一枚一枚ちゃんと読んでいった。
なんか、珍しいかも。こんな優美子、初めてみる。
途中、何度も「読み方イカレてる」とか「脱ぐ意味あんの? きも」とか言って、それを聞いた中二がはぽんはぽん言って苦しがってた。
「はぁ……」
とりあえず数枚読んで、顔を上げた。
「無理。読むのが苦痛。これ読まなきゃいけないなら退部扱いでも喜べんじゃないの?」
「《ぐさり……》……《どさぁっ……》」
丁寧に、言葉の刃が中二を倒した。
「つーかさぁ、あーし勉強するっつーからここ来てんだけど? やらないんなら帰るし」
「そうね。私も由比ヶ浜さんに言われて、そのつもりでいたのだけれど。比企谷くん、とりあえずそこの依頼人にはお帰り願ってもらっていいかしら」
「あいよ。ほれ起きろ、ジャイアントハポリコ。部長が出ていけだそうだ」
「うぐぐぐぐ……イケメンよ……! 男のお主に訊きたい……! お主ならば、お主ならば男が憧れるこんな物語……解ってくれるな!?」
「無理だわまったく憧れん」
「《トチュッ》…………ぶひっ……」
……中二が、静かに出てった。
それからは静かに勉強。
優美子に勉強出来るなんて意外だとか言われた。
これでも頑張ってるから、当たり前。でも認められるとやっぱり嬉しい。えへへぇ。
……。
それから、暇な放課後には優美子が奉仕部に来るようになった。
勉強したりお話したり、ゆきのんと口論したり、負けて泣かされたり。
今日は静かだ。
このままなんも起こらなければなー、とか思ってると、優美子のケータイにメール。
……ついに、あれが来た。
「……はぁ。またこれ? めんど」
チェーンメールだ。
そろそろ職場見学の時期だから、そろそろだったっけとか思ってたけど。あたしは今回はあまりアドレス交換とかしてないから、あたしのところには来てない。ていうか男子のアドレスはヒッキーだけ。
あ……そういえばこれの犯人、結局誰だったんだろ。
ぽしょってヒッキーに訊いてみると、「彼女が三人も居るのって、ある意味すごくない? 彼女居ないやつは羨ましいだろうな」って。
……あ。そういえば、そうかも。
で、いつかの日。
葉山くんがチェーンメールについて相談しに来たから、すぐに提案。
葉山くん、さいちゃん、ヒッキーで班を組むことになって、あたしは元々ヒッキーと同じ班だから、べつに困ることとかなかった。うん、スピード解決!
でも葉山くんのグループにはほんと近寄りづらくなっちゃった。
あのあとヒッキーが、「ラフプレーをしたっつったって、相手校に確認取れば本当かどうかも解るから、これも案外意味がない」とか言ってたから。
ただ、とべっちのカラーギャングについては否定してた。ん、これはあたしも。
とべっちはたまにアレだけど、そういうことはしないと思う。
噂に流されやすいのに、噂の中心にはならない人っているよね。そういう人だ。
「じゃ、勉強の続きしよっか」
「ん」
「……なんか普通に馴染んでるな、三浦」
「あ? なんか文句あんの?」
「いや。葉山のことはいーのかってな」
「!? っ……は!? なななに言ってんの!?」
「様子見てりゃどう思ってんのかくらい解るだろ。なに言ってんのはこっちの台詞だ」
「~~……あ、そ。ま、さすが結衣が選んだだけはあるってこと?」
「そういう基準は知らんけど」
ヒッキーが赤くした顔を逸らした。可愛い。
やっぱりヒッキーって、たまに見せる隙とかが結構可愛いんだよね。
猫っぽいって言ったらアレだけど……うーん、犬っぽいところもないかなぁ。
……。
勉強会を続ける中で、小町ちゃんがヒッキーに沙希のことで相談を持ち掛けてきた……けど、スカラシップの案であっさり解決。
お礼を言いに沙希が奉仕部に来て、あたしたちが勉強してるとこ見たら“気になるところがあるから”って、一緒に勉強をすることになった。
それからは、時間がある時には一緒に勉強してる。なんかいつの間にか勉強部みたいになってる。
そうやって……いつかみたいに依頼をこなしていって、バイトもして、運動もして。
わんにゃんショー。
普通にデートして、騒いで燥いで。
あたしの誕生日にはヒッキーがいつかみたくサブレの首輪をくれて、それとは別にチョーカーを買ってくれた。
な、なんか首輪してるみたい。えと……えへへ、なんかちょっと嬉しいかも。や、やー……ヘンな意味じゃなくて。
こっちではヒッキーと喧嘩してないから、すっごく楽しい。
ずっと一緒に居て、いろんなことで話し合って、ゆきのんも優美子も沙希も巻き込んで、奉仕部はすごく賑やかだった。
あ、うん。優美子と沙希は部員じゃないけど、なんだかんだ、いろいろ提案してくれるし。
遊戯部の依頼。
ヒッキーが先に中二のほうに手を打ってたとかで、なんも起こらなかった。
柔道部の依頼では頑張った。
いっぱいゆきのんに教え込まれたヒッキーは結構強くて、油断した先輩さんに勝っちゃった。
先輩さんは顔を真っ赤にしてたけど息を整えると落ち着いて、小さくなんか言って帰っちゃった。
林間学校のサポート。
今回はヒッキーも水着を持ってきて、一緒に遊んだ。
特別仲が悪い人が居るわけでもないから、ヒッキーも普通に楽しんでくれてたみたいで嬉しい。
うん、なにをするにもヒッキーと一緒だ。カレーも一緒に作ったし、夜の散歩も一緒にした。
いじめはやっぱりあったけど……それは、いつかみたいにじゃなくて、ちゃんと留美ちゃんに相談した上でやった。
……えと。
コスプレは、しなかった。ヒッキーが絶対だめだって。着たら俺は男子全員の目を潰すって言ってた。
隠れて、ヒッキーにだけ見せたのはゆきのんにも内緒。
……全部終わったあと、留美ちゃんのヒッキーへの懐き方がすごかったけど、気の所為だよね?
サブレをご近所さんに預けて、あたしの家とヒッキーの家とで旅行。
前は家族とだけだったこれも、パパとママがお義母さんとお義父さんと相談して決めたんだって。
で、ここでもあたしはヒッキーと一緒になって楽しんだ。
楽しんで楽しんで……宿泊先で、部屋があたしとヒッキーで一部屋取られてたことに驚いて。
「結衣? ママね、孫の顔が───」
「やめてったらもぅ!!」
ママは諦めてなかったみたい。
そ、そりゃ憧れないわけじゃないけど、高校で妊娠なんてしたら、友達とかに白い目で…………あれ? うん。
なんだ、それって結局周りの評価だけだ。
自分が欲しいって思ったら、そんなの……関係ないよね?
う、うん。でもまだだってばママ。さすがに無理だし。
ヒッキーと夏祭り。
陽乃さんに会わないように行動して、ヒッキーとゆっくり花火を見た。
帰り道のあの場所で、改めてヒッキーが告白してくれて、嬉しくて泣いちゃった。
最初、もうこっちに家はないのにって思ってたのに、なにかと思った。
ずるいよこんなの。反則だ。
文化祭準備。
文化祭では実行委員長をさがみんに任せないで、あたしとヒッキーが二人でってことで立候補。
陽乃さんに会ってないからって、ゆきのんが無茶しないとも限らないから、出来るだけあたしたちで頑張ろうって。
結局陽乃さんと会うことにはなったけど、耳は貸さなかった。
さがみんみたいに言葉を鵜呑みにして、まちがった受け止め方をして、サボったりなんか絶対にしない。
そうしてちゃんと、きっちり、ばっちり全員で進めていったら、なんの問題もなく文化祭は始まった。
人が集まれば当たり前みたいにトラブルはあったけど、全員が力を合わせて一日目も二日目もこなして、大盛り上がりのまま文化祭は終わった。
体育祭もそのままの勢いで全力で楽しんで、青春してるねって感じであたしたちは毎日を楽しんだ。
毎日来てんだし、って優美子が奉仕部に入ったり、いつの間にか大岡くんと大和くんがグループから離れてたこと以外は、いつかとあまり変わってない。
あ、うん。つまりあたしの周囲は結構変わった、のかも。
で……うん。
とべっちが来た。あの依頼だ。
あの時になにがあったのか、もうヒッキーから全部聞いてる。
葉山くんのことも、姫菜のことも。
だからあたしはこれを受けるかどうかを考えて───
「戸部。あんたマジなん?」
「ちょ、なんで優美子がここ居るわけ!? 俺こんなん初耳だわぁ!」
「部員なんだから当たり前だっつの。んで? 正気?」
「うわ……真正面から正気疑われた……ないわぁ、マジないわぁ」
「……隼人?」
「いや、すまない優美子。一応止めたんだが」
「いやぁ、なんかこの奉仕部? って願い叶えまくってるらしーじゃん? したら俺の告白もバッチサポートしてくれないかなぁって。オナシャッス! 絶対フラレたくないんスわ!」
ぱんっ、て手を叩いて拝むみたいに、とべっちは言った。
……うん。とべっちの想いは本気のものでも、それは……ちょっと違うよね。
あたしもまちがっちゃったけど、これはほんと、違う。
「……だめだよ、とべっ……くん。好きなら、ちゃんと自分で届けないと。失敗したくないとかじゃなくてさ。好きなら、自分だけの想い、ぶつけなきゃだ」
「うぅ……ゆーてもほら、失敗して気まずくなったら、もう話も出来ないっつぅかぁ……なぁ、比企谷くん」
「……え? 名前間違える基準ってなんなの?」
とべっちに声をかけられたヒッキーが、純粋に驚いてた。
あたしもちょっと驚いたけど……そうだよね。ヒッキー、こっちじゃ有名人だもん。格好いいし運動出来るし勉強出来るしやさしいし。
「とりあえず、アレな。恋愛相談は受けてねぇよ。失敗したらこっちの所為にする気満々なの?」
「いやいやいやぁ、そんなつもりは無いってばさぁ。自分の失敗他人に押し付けるとか最低でしょー。ただほら、ちょっとこう、手伝って欲しいっつーことでひとつっ!」
「いやなんも伝わってこねーから。なにがひとつなのちょっと」
「比企谷くん、格好いい顔して言うことキッツいわー……」
「あー……ひとつ訊きたいんだが。戸部、お前が告白することで、グループの空気が微妙になっても後悔とかねぇの?」
「いやぁ、だから失敗したくないっつーか、絶対にフラレたくねぇし? わかるっしょ?」
「葉山。お前はどうだ。嘘とか無しで頼む」
「………俺は」
「優美子はどう?」
「あーしは……」
「あー……最近優美子ってば付き合い悪かったけど、部活やってたん? や、俺も隼人くんも部活やってっからそもそも付き合いどころじゃねーけどさ」
「………」
優美子は少し黙って、それからとべっちを見て、口を開いた。
出てきた言葉は、やめとけ、だった。
「へ? な、なんで? いや俺マジよ? 本気で海老名さんのこと───」
とべっちは食い下がったけど、優美子は男子のことをどう思っているのかを伝えた。
それにヒッキーも混ざって、男子のカップリングが好きなのは、男子を近寄らせないためだってことも話す。
「は? なんで比企谷がンなこと知ってるし」
「推測だ。たまに見る目が、そんな感じだ。……それに、葉山も海老名さんも、ついでに三浦も、今のグループが好きなんだろ? 告白したら今まで通りってのは絶対無理だ。どうしても告白したいなら、グループ抜けて、ただの戸部翔として告白するしかねーだろ」
「お、おい比企谷、それは」
「大体な。今がいいとかどーのこーの、そんなもんで壊れる関係ならそれまでだろ。今がいいからって、仲間にその気持ちは我慢しろとかどうなんだ? お前たちが逆に我慢しろって言われて出来ないものを、多数決で戸部に押し付けんのかよ」
「それはっ……!」
「人の感情が強く出る依頼は、出来れば勘弁してくれ。俺達にその気はなくても、巻き込まれれば嫌でもしこりが残るだろ。告白に失敗したのは奉仕部の所為だとか、奉仕部が受けた所為でグループが崩壊したとか。……戸部。俺が言えた義理じゃないけどな、男なら自分で伝えないとだろ。むしろなんで葉山に相談したんだ」
「へ? いやほら、隼人くんてばいろいろ慣れてるし、女子にモテモテだし?」
「……断る方法は知ってても、付き合い方なんて知らないだろ」
「え…………あ」
「言っちゃなんだが、葉山に相談した時点で賛成は得られなかっただろ。三浦にしても同じだ」
「いや、そりゃそうかもだけどさぁ」
「……じゃあ、そうだな。俺の見た感じじゃ、海老名さんは誰に告白されても断るぞ。今は誰とも付き合うつもりはない、って。誰に告白されても同じだって感じで。三浦の話を聞けば予想くらい立てられる。男を紹介されて“じゃあもういいや”なんて言えるなら、押しつけも変化も嫌ってる証拠だ。恋愛は望んでない。遠巻きにして、男子が騒いでるのを眺めるくらいが丁度いいって、そういう人なんだろ」
「え、えー……マジ?」
「優美子から見てどう?」
「……そう、かも。たぶん、いや絶対に無理だ。やめとけ」
「……まじ?」
「ねぇ、とべっ……くん。それならさ、もっと仲良くなってからでいいんじゃないかな。ほら、想い続けるのは自由だし。でも───」
うん。でもだ。
「どうしてもさ、どうしても想いを押さえつけられなくなっちゃったらさ、グループを抜けて、ぶつかってもいいんだと思う。だって、それは戸部くんの大事な気持ちだから。たとえさ、それでグループがヘンになっちゃってもさ。きっとまた、手はつなげるんだ。大丈夫。人の誰かを思う心って、そんなにやわじゃないよ」
「───………………由比ヶ浜さん…………う、わ……やっべ……すげぇ胸に来た……! あ、ありがとな、由比ヶ浜さん! 俺、俺なりに頑張ってみるわ! あ、依頼は無しで! これで立たなきゃ男じゃないでしょお!」
「お、おい戸部っ……!?」
「……隼人くん。俺、隼人くんがどう思ってても、やっぱ告白はするわ。今がいいって気持ちは解るけどさ、俺……ちゃんとぶつかって決着つけないと、その整理も出来ないんだわ。だから……ごめん」
「戸部、あんた───」
「優美子もさ……好きなのに、我慢、出来ねっしょ? 誤魔化してずっととか、グループ解散するまでやんの? 無理っしょ。大和も大岡も離れて、あっちこっちで楽しそうにやってるわ。なにが足りなくて俺達がこうなったのか知んないけど……俺さ、ここに相談してよかったわ。もしかしたら由比ヶ浜さんが居てくれりゃ、もっとみんなで盛り上がったかなーとか……ま、言ってもしゃーないことっしょこれ」
「………」
優美子は、なにも返さなかった。
とべっちが出ていって、葉山くんも何も言えず、静かに出ていって。
そのあとに少しだけ話したけど……その日は結局そこまでで、あたしたちは帰った。
そして、修学旅行。
いつかを依頼で潰しちゃったあたしたちだけど、今回は割り切って本気で楽しんだ。
ゆきのんが用意していたガイドブックで何処に行くかを念入りに決めて、ヒッキーと腕を組んで、どこまでも元気に。
ヒッキーももうあたしの隣を歩いてくれるのに慣れてるみたいに、騒ぐ時も遠慮とかしないで楽しんでる。
班行動なんて案外自由なもんだから、集合時間を決めちゃえばあとはほぼ自由行動だ。
あっちこっち騒いで歩いて、とべっちと姫菜を気にするばっかで見て回れなかったところをいっぱい回って、嬉しくて、楽しくて。
完全自由行動になれば、ヒッキーの左腕とゆきのんの右腕を抱いて、三人一緒に歩いて回って。
……優美子は葉山くんのところだ。
あの奉仕部での一件以来、優美子とはまたあまり話さなくなった。
また話せて嬉しいなっていうのはあったけど……仕方ない、のかな。
でもやっぱり……悲しいな。
……。
いつかの竹林を歩く。
周りには誰も居ない。
とべっちはきっと、誰の助言も受け取らないで自分だけで、姫菜に告白してるんだと思う。
あたしは……いつかと同じこの場所で───
「“ずっと前から好きでした。俺と付き合ってください”」
───ヒッキーに呼び出されて、告白されていた。
あたしは……ふふって笑って、舌をべっと出して言ってやる。
「ぜ~ったいやだっ!」
って。
そしたらヒッキーはちょっと泣きそうな顔をしたあとに、咳ばらいをしてから言ったんだ。
「結衣。お前が好きだ。これからもずっと、俺の傍に居て欲しい」
……ん。そうだ。
誰かのために使った告白なんて要らない。
あたしは、あたしのためにヒッキーが考えた言葉が欲しい。
だからあたしは笑って、その言葉を受け止めた。
誰も居ない夜の、ぼうっとした燈籠が並ぶ景色で……あたしは。
いつかの泣いちゃった過去を、ようやくだけど……前向きに受け止められたんだと思う。
「……ヒッキー、泣いてる?」
「いや、ちょ……絶対やだとか、まじやめろ……本気で泣きそうだった……」
「わわわ、ご、ごめんねヒッキー……! でも、でもさ、あたしも……」
「……すまん」
「……うん。許すから、許してね」
「……ん……本当に、悪かった」
「うん……えへへ、やっと、ちゃんとやり直せるね」
「……葉山グループのことは、よかったのか?」
「前のあたしだったら、きっと全部欲しがってた……かな。でも、今は違うんだ。あんなことがあって、あたしたちは死んじゃってさ。大切なものをどれだけ集めても、あっさりなくなっちゃうんだって知っちゃったから。だから……」
嘘だ。本当は全部欲しい。
でも、そんなものは無理だって解ってる。
ヒッキーを助けたいと思った瞬間、あたしはゆきのんだけでもって突き飛ばしたから。
ここにあっちのゆきのんが居ないのは、つまりゆきのんは助かったってことで……あたしは、自分の手で持てるものの限界っていうのを、知っちゃったんだと思う。
あれもこれもを欲しがったって、笑顔でくれる誰かは居ない。
子供の頃みたくパパやママがハイってくれるわけもないし、手を伸ばさなきゃ手に取れないもので溢れていて、手に取ったってこぼれるものだっていっぱいだ。
頭がよくなれば解ることはたくさんある。
それはとても悲しいことで、いっそ馬鹿だったらなって泣きたくなることもあって。
それでもさ、手放したくないものだけは、あるから。
その答えだけは、今もずっと見つめたまま……あたしはこうしてあたしを生きてるから。
「《くしゃり》あ……ひっきー……」
「無理すんな。体、震えてるじゃねぇか」
心配そうにあたしを見下ろして、頭を撫でてくれる。
心地いい……けど、やっぱりちょっと悔しい。なんでもお見通しだ。
「……あはは……や、やー……だめだね、あたし。隠し事とか全然無理だ」
「その……な。なにもかも救うなんて、絶対に無理だ。欲しいものはどんだけ答え合わせをしたって削らなきゃいけねぇし、全部が、ってのは……難しい」
「ん……そうだよね」
「ただ、救うとかじゃねぇなら……出来るところまでは出来るだろ。最初っから葉山達を友達だって考えるから全部が増える。今の由比ヶ浜結衣として生きてきたお前が、この世界で欲しい全部ってのはどれだ?」
「………言わない。言ったらヒッキー、絶対無茶するから」
「…………だな。けど、それでいいのか?」
「うん。こっちで欲しいものは、きっともうすぐ近くにあるんだ。あっちで手に出来なかったものぜんぶ、こっちにあるから。だからさ、あたしも……我が儘な子供から成長しなきゃなんだ」
「大人だって欲しいもんは欲しいだろ」
「でもだめ。欲張ったら、未練ばっかりになるって……向こうで知っちゃったから」
「結衣……」
「だから……さ」
「おう」
「ヒッキーは……居なくならないでね?」
「まあ、事故とか病気でもない限りは俺だってそれはごめんだ」
「うんっ」
頷いた途端ぎゅうって抱き締められた。
安心する、いつもの温かさ。
一度死んだらいろいろなものを冷静に見れるかっていったらそうじゃない。
死んでしまうのならって手を伸ばしたくなっちゃうし、我慢なんてきっと出来ない。
それなら、って……欲しくなるものに近づかないことを選んだ。
そんなのまちがってるって解ってるけど。“今”は、それでいいんだ。
もっともっと大きくなって、自分ってものにもっと余裕を持てたら……全部をって。
たぶんその頃にはもう、いろいろなものが手を伸ばしても仕方ないところにあるんだって解ってるけど。
それでも、あたしは……。
───……。
……。
修学旅行が終わった。
なにも変わらず、なんてことは無理で、少しの間とべっちが奉仕部に遊びに来るようになって。
いろはちゃんが依頼に来た時には、葉山くんのグループを離れて、サッカーもやめてた。
奉仕部に入部して、なんか吹っ切れたーみたいな顔で「っべー!」って言ってる。
「戸部……その、よかったのか?」
「お? それってばグループ? サッカー?」
「そりゃ、どっちもだろ」
「あー……んー……まあ、やっぱほら、あそこってば隼人くんのグループじゃん? 職場見学の時にちょっとひっかかってたけど、最初は俺も大和も大岡も別に仲が良かったわけじゃなかったし、隼人くんが大事にしたいグループなら、そこを壊す俺が居たってしゃーないっしょ。あ、サッカーも似た感じ? みたいな?」
「……まあ、そうな。お前、葉山の隣に居るよりも、一人の方が目立ちそうだし」
「お? まじでまじで? いんやー比企谷くん解ってるわー! あ、っつーことでこれからオナシャス!」
「とべっ……くん、海老名さんとは……」
「あンッ……え、と……ああ、はは……見事にフラレたわ~……。あ、けどべつに由比ヶ浜さんの所為じゃねーし、気にすることなっしんぐってやつで!」
「そう……戸部くん、紅茶でも飲みなさい。温まるわ」
「おー!? この部ってばこんなんまで出んの!? 至れり尽くせりじゃないのこれってばさぁー! サッカー部ではプロテインしか出なかったこと考えると、マジで……ほんと………………~~……あったけぇ……」
『………』
とべっちは、紅茶が入った紙コップを持って……静かに泣き出した。
聞けば、断りの文句はあの竹林でヒッキーが姫菜に言わせた言葉と一緒だったって。
振ってくれるならくれるでそれでよかったのに、ヒッキーが予想として伝えた言葉とまるで同じだったことが、“ただ用意された言葉を言われた”みたいで、とべっちにとっては凄く悲しかったんだって。
だって、あれ……言葉通りだ。
誰に告白されたって、って言うなら、返す言葉も同じなんだ。
それがとべっちには悲しかったんだ。
そんなことがあっても、依頼は続く。
結局はいろはちゃんの考え方次第ってことで、勝手に推薦されて嫌々やるのが嫌なのか、それとは関係なく自分でやるって決めて受けるのかをいろはちゃんに訊いた。
いろはちゃんは迷ってたけど……そこで、とべっちが「あ。なんなら雪ノ下さんとかやっちゃえばよくね?」なんて軽く提案。
そういえば前のここでは、ゆきのんが生徒会長になりたがって……あ。思い出した。
奉仕部が無くなっちゃうって考えてたけど、それって───
「……まあ、少しは考えなかったわけでもねぇけど。雪ノ下、生徒会をやりながら奉仕部をやることは可能か?」
「───……!!《ぱああっ……!》え、ええ───ええっ、問題ないわ。任せてちょうだい」
───わ。ゆきのん、すっごい嬉しそう。
え? でも、え? 奉仕部、なくならないの?
「《ぽしょり》生徒の願いを聞いて、って時点で、生徒会も奉仕部もあんま変わらねぇんだ。いや、そもそも……あの時点で俺はまちがえていたんじゃねぇかって。雪ノ下の“やってもいい”は、陽乃さんに対抗心を燃やしたものじゃなくて……本音だったんじゃねぇかって」
「《ぽしょり》あ…………」
思い当たるものはあった。うん、あったんだ。
ゆきのんは素直じゃないから。
だから、もしかしたらあの時も。
だから、今はこんなにも。
「《ぽしょり》ヒッキー……! あたし、なにしたらいいかな……? ゆきのんのために、なにかしてあげたい……!」
「《ぽしょり》副会長に立候補するだけでいい。俺は……まあ、そだな。庶務あたりでいいんじゃね?」
言って、ヒッキーは何かを思い出すみたいに笑った。
なんだろ、って思っても……今のあたしはゆきのんのために! ばっかりで、そこまで気にならなかった。