どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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責任はとるって言ったんだしな④

 

 ……。

 

「はぁ……しっかし……葉山への行動がフェイクとか、女子怖いよ女子……」

「比企谷先輩の場合、気づく必要がなかっただけですよ。自分がそんな風に思われるわけがない、って決めつけてたんでしょうから」

「あ、そだね。ヒッキーってほんとそうだったし」

「あの膝枕の一件がなければ、どうせ結衣さんの想いに目を向けることさえしなかったのでしょうね」

「あの、やめて? 三人がかりで一人をいじめるとか。なにお前ら、鬼なの?」

「遠慮を無くしていくんですよね? だったらこれくらい当然じゃないですかー」

「女子が三人で姦しいって、あれほんとな……」

「あら。深い関係をと近寄る女性に対して、やかましいとは随分なお言葉ね、八幡くん」

「基本俺にしか罵倒が来ねぇだろうが……いや、今じゃそれも言葉遊びみてぇなもんだからいいんだけどよ。俺じゃなきゃもう心折れてるからね? そこんとこきちんと汲んだ上で考えてみろっての」

「……そうね。あなただからと寄りかかっているところはあるわね。ごめんなさい」

「あ、じゃあヒッキーも遠慮しないでいろいろ言ってみればいいんだよ!」

 

 この関係が始まってから、結構言いたいことは言ってくれるようになったけど、大切にされてるんだなーって思うことはあっても、やっぱりちょこっとだけ線引きを感じるなって思う時はあったんだ。

 だからもっと、遠慮を無くしてくれたらなって。

 そう言ったら、なんかヒッキーが「本気?」とか言ってくる。

 え? うん、本気。遠慮とか今さらじゃん? って感じで言ってみると、ぎゅうって抱き締められて頭を撫でられた。

 ふえっ!? えっ!? えぇえっ!? なななになになにっ!? ヒッキー!?

 

「あー……そりゃそうですよねー。恋人に遠慮は無しとか許可出されちゃったら、友達さんが近くに居るから遠慮しちゃうこととか、やっちゃいますよねー」

「……べつに普段から抱き締めるなんてことは、日常的に見ているのだけれど」

「あ、じゃああれですよきっと。口出ししないで、ちゃんと見届けてくれたお礼とか。普通、自分の恋人が今から告白されますって時、何も言わずに我慢するとか出来ませんよ。それが嬉しかったとかなんじゃないですかね」

 

 え? そ、そうなの? そうなのヒッキー。

 いろはちゃんの声が聞こえたからか、ヒッキーは一層にあたしを抱き締めてきて、でも……頭を撫でる手は、どんどんとやさしくなってく。

 あったかくてやさしくて、なんか……不安とかもやもやしたものが、ぶわーって消えていく。

 あたしって単純だー……でも、それでいいんだよね。無理に別の自分を演じたって、ヒッキーはそんなものはいらないって突っぱねるだろうし。

 うん、あたし、ヒッキーが好きだ。好きだから、あたしが持ってるもの全部で幸せにしたい。初恋は実らない~なんて言葉をやっつけるつもりで、ううん、なかもう叩き潰しちゃう勢いで、成長していくんだ。

 

「でも、隠し事とかあんまりしないでいいのは、気が楽かもですねー。あ、でもそれなら……雪ノ下先輩、前から気になってたんですけど、葉山先輩となにかありました? えと、たぶん昔とかそっちの過去なお話で」

「……。そうね。あなたが言った通り、一人を見ずにみんなを見たために、人が救われなかったというそれだけの話よ。面白くもなんともない、今思い出せば、本当にくだらない子供の話」

「えと……雪乃、それってせーさん? できないのかな」

「清算……あの男と和解、いえ。話をつけろと?」

「結衣。ハッキリ言うがあのタイプは“自分が望む結果”じゃなけりゃ清算されたって納得しねぇぞ? 言っちまえば、“子供の頃のように仲良く出来なきゃ、清算されたなんて言えないさ”とか平気な顔で言うくらい余裕だ」

「あー……今だからこそ言いますけど、簡単に想像できますねー……」

 

 言われて、あたしも想像してみた。

 …………。

 うん、確かに言いそうだった。ていうか言う。

 で、とべっちとかが“それだわー、ハヤトくんマジ冴えてるわー”とか言って、“それな”“確かに”って続いて……な、なんだろ。今だから思うけど、グループの会話ってこんな薄っぺらだったっけ……。

 

「でもですよ? 今後のことも考えると、片づけられるものは片づけておくべきだと思うんですよー」

「そうね……まったく、とても、呆れるくらいに嫌だけれど、困ったことに親同士で無関係ではないから無視し続けるというのも不可能なのよね……」

「えと……じゃあ、隼人くん呼ぶ?」

「……つーか、結衣自身はどうなんだ? 最近俺達と一緒のことが多いけど、あっちのグループとは」

「うーん……ちょっとよそよそしい……かな。ヒッキ……八幡から事情聞いてからだと、余計にさ。姫菜もそれが解ったのかな、ちょっと距離取ってるところがあって」

「? 事情ってなんです?」

「あーうん、ほら、八幡の噂でさ、文化祭とか修学旅行のやつとかあったでしょ?」

「あー、ありましたねー。まあわたしはわたしが見て感じたものしか信じないので、噂とかどーでもよかったんですけど」

「そっか。うん、そこでいろいろ誤解があったんだ。あたしも雪乃も知らなかったそれを、八幡が話してくれてね、それを姫菜がなんとなーく察しちゃったのかなーって」

 

 知らないことを知ることが出来た日から、変わったことは結構あって。

 たぶんそれを、あたしはあのグループにこそ感じてる。

 確かに八幡の言う通り、直接的に頼んだわけじゃないから“どう動くか”は八幡任せだったのかもしれない。

 でも、じゃあ八幡だけに言う必要がどこにあったのかなって。

 相手に任せるだけなら、あたしや雪乃にも話したってよかった筈だ。

 ある日にそう思っちゃってから、あたしの中に隼人くんと姫菜への嫌ななにかが生まれてて。

 やだなって思うのに、それはちっとも消えてくれない。

 

「あの、結衣先輩? そこに居ることが辛いなら、無理して居る必要なんてないですよ? 誰々に恩があるから~とか、そんな気持ちがあるんだったらそんなものはその件でチャラじゃないですか。結衣先輩だけじゃなくて、奉仕部全体に亀裂が走って、かといってそっちのグループはなにもしてくれない。どーせ比企谷先輩あたりに“わたしたちの所為でぎくしゃくしてない?”なんて声かけてきたんじゃないですか?」

「いやなんで知ってんのお前。エスパー?」

「まじですか……。あのですね、比企谷先輩。絶対にそうだって言うわけじゃないですけど、察しがついてるんじゃないですか? そういうのって先手打たれたら大体負けるんです。私達の所為で~なんてトップカーストグループに言われて、“あなたたちの所為で”なんて言える人が居るわけないじゃないですか。相手に本当にそのつもりがなくても、それってすっごい失礼な質問ですよ?」

 

 また、ずきんって痛んだ。

 解ってたけど、言わなかったけど……痛いな、これ。

 姫菜にはそんなつもりはなかったんだと思う。

 ただ本当に心配だったから、声をかけただけなんだ。

 でも違う。いろはちゃんの言う通りだ。カーストってものがあるから男子に告白されることが少なくなった経験、あたしにもある。だから自覚しなきゃいけないことだってたくさんあった。

 八幡が言うように、トップがあるなら底辺がある。八幡がそれだなんて、誰が言ったって頷かないけど、それでもあるものはどうしてもあるんだ。

 そのトップってものに立ってるなら、勝手な言葉で相手の言葉を言わせないようにする、なんてことはしちゃいけない。

 やさしい人に“自分の所為で”なんて言い出したら、“そうじゃない”って言うに決まってるんだから。

 

「………」

 

 今もきっと笑ってるんだろうな。

 楽しそうに、“みんな”で。

 サッカー部の部活が無い日だから、“みんな”で。

 ───隼人くんはなんとかするって言って、とべっちに告白を諦めるように言うことしかしなかった。

 連れてきといて、紹介しておいて、回る場所とか考えたり応援したり、とべっちと姫菜が二人で組めるように動いてたあたしを見て、どう思ってたのかな。

 ───姫菜は最初から断ることしか考えてなかった。

 今が好きだから、壊したくないから。

 でもさ、じゃあとべっちの今はどうなるのかな。

 気づいてたなら、最初から答えが決まってるなら、どうしてちゃんと最初から向き合って言ってあげなかったのかな。

 恋ってさ、そういうのじゃないと思う。

 断わるなら、自分がちゃんとその人に言ってあげなきゃだと思う。

 友達なら、グループなら……仲間ならなおさらだと思う。

 ───優美子はなにかがあるって気づいてて、コンビニでたまたま会った八幡に姫菜のことを話したんだって。

 なにかしてるならやめろって。今が好きだからやめろって。

 そう思ったならどうして自分が動かなかったんだろう。

 隼人くんがどうにかするなら大丈夫、なんて信じて、それで…………それで。

 ……じゃあ、あたしは?

 あたしも同じだ。

 グループの仲間だから、恋愛ってものが眩しかったから、もっと仲良くなってくれたらって思うと嬉しかったから。

 だから頑張った。どうすればいいか考えて、場所も行動も出来るだけ二人が一緒になるようにって。

 でも……最初から答えが決まってる隼人くんや姫菜や優美子が、そんな行動を許すわけがなくて。

 ……結局、あたしととべっちだけが空回って、それで…………それで。

 

  ……グループってなんだろね。

 

 決まってたなら最初から言ってくれたらよかったんだ。

 グループだけの問題にして、依頼なんてしなければよかった。

 自分たちの勝手は許しても、とべっちやあたしの勝手は許さなかった。

 “俺はいいけどお前はだめ”……そっか、これがそうなんだ。

 あたしはもう、“今のまま”なんて嫌だから。

 空中廊下で雪乃に言った通りだ。

 あたしは変わりたい。進みたい。成長したい。

 知りたいから話し合って安心して、たくさん知ってから、言わないでも解る関係まで辿り着きたい。

 だから……進むために、“今のまま”を選びつづけるそれを、置いていく。

 全部が欲しいって思ってた。

 願えばきっと、それはいつかは手に入るんだって。

 でもそれじゃ、あたしも……あのグループも、変わらないし進めないから。

 

「ねぇ、みんな」

「ん? どした?」

「結衣さん?」

「結衣先輩?」

「───話があるんだ。えと、その……結構さ、大事な……話」

 

 あたしは、静かにその一歩を踏み出した。

 

 

───……。

 

 

……。

 

 八幡と雪乃といろはちゃんに相談して、実行して……あたしは、グループを抜けた。

 抜けるって言葉をすっごくあっさり受け入れて頷いた八幡たちは、どうすればいいのかもひどくあっさりと教えてくれた。

 真っ直ぐに、抜けるって言えばいい。これだけ。

 「ちゃんと三浦と話し合ってな。間違っても葉山に相談とかやめろ」っていうのは八幡の助言。

 優美子を呼び出して、いつかの日みたいにすっごい重い空気の中で、でも……あたしはもう躊躇したりしないで、言いたいことを真っ直ぐにぶつけた。

 優美子も遠慮とかしないで……うん、遠慮するタイプじゃないとは思ってたけど、ほんといろいろ言い合って、最終的には引き留められたりしたけど……無理だって言って。

 泣きそうな顔の優美子に、ごめんは言わなかった。

 優美子とは席が近いからどうしても気まずくなるって心配も、八幡の隣のコに席交換してって言ったらすっごいあっさり変えてもらえた。そのコ、すっごい喜んでた。

 ……あたしは嬉しいけどなぁ、八幡の隣。

 

「はぁ……うん、よしっ」

 

 翌日なんて言わないで、その日の帰りに染髪剤を買って、髪の毛を黒く染め直した。

 決別の証のつもりだった。

 翌日の朝にはお団子も解いて、ただのサイドテールにする。

 “ヒッキー”がサブレを助けてくれた時まで、そうしていた髪型だ。

 これもなんだか懐かしい。

 鏡に映る自分に笑いかけて、「じゃあ、行くね」って言って歩き出す。

 

  さあ、知る努力を続けよう。

 

 知りたいことをもっと知るために。

 知って安心して、その上で、もっともっと知って、安心以上のなにかを掴むために。

 それがなんなのかーって言われると、あたしもまだ解ってない。

 おぼろげだし、カタチなんてないし……なのに欲しくて、求めて、目指しちゃうなにか。

 きっとグループのみんなにも、目指してたなにかがあったんだ。

 最初はそれが眩しくて、みんなで頑張って組み立てていくんだ。

 たぶんそれは、出来上がりを喜ぶようなものじゃなくて、気づいたらいつの間にか出来てるもので。

 そういうのがあったからみんなが集まって、そういうのがあったから隼人くん……ううん、葉山くんもそれを守ろうとしてた。

 やっぱりそれがなんだったのかなんて、あたしには解らない。

 解ろうとして踏み込んでも、葉山くんは教えてくれないんだろうなって思った。

 べつにそれが悪いことだなんて言わない。“普通”に考えれば、なんでも言っちゃえるほうが“普通じゃない”んだ。

 そう、言わないんだ。言わないけど……語られない何かを信じ続けて、傷ついた人を見ないフリをする、なんてことは出来ないから。……もう、周囲に合わせて笑うなんてこと、したくないから。

 あたしはこの道を歩いていく。もう、決めたから……迷わない。ま……迷わない。つもり。

 ……や、迷わなかったらいいなーって。

 いきなり断言は難しいけど、努力からってことで。

 

   ×   ×   ×

 

 教室内で八幡と話すことが多くなった。

 隣の席なんだから当たり前だけど、そうなってくると普段から教室で八幡と話すさいちゃんとも会話の量が増えてくる。

 相変わらず八幡はさいちゃんには弱い。

 話しかけられるとドギマギしてるし、キョドりまくっててキモい。

 でもそれも、段々と落ち着いていって……今では結構普通に話せてる。

 さいちゃん見てると、裏表とかそういうのとは無縁って感じ、するもんね。ちょっと羨ましい。

 ……ていうか教室だとまだ八幡って呼ぶの難しい。結構ヒッキーになってる。

 

「ヒッキー、どうかした?」

「ああいや……葉山のグループも、相変わらずだなってな」

「うん、そだね」

 

 離れた位置……教室の端から見つめるかつての場所は、全員笑って話してて、見てるだけで楽しそうだ。そこにあたしが居ないだけ。

 とべっち……戸部くんが盛り上げて、大岡くんと大和くんが同意したりツッコんだり。

 男子が仲良くしてると姫菜がいつも通りああなって、優美子が世話をして。

 そういうのを外から見てると、なんだか少し安心する。

 自分が居なくてもちゃんと回るものなんだ、って。そりゃそっか、空気読むばっかだったもんね、あたし。

 

「……ヒッキーから見て、どう?」

「明らかに無理してるな。“相変わらず”を演じてるようにしか見えん。なにより戸部が動揺してて、騒ぎ切れてねぇのが痛いな。大岡も大和もあれだ、状況を把握できてねぇ」

「……うん、そだね」

 

 人が離れるってことは、それだけのなにかがあったってこと。

 言われなくたって解るし、たぶん何があったってあの二人が訊いても、戸部くんはどれが原因かなんてことまでハッキリ言えないだろうし、葉山くんも優美子も姫菜も全部は話さないと思う。……ひどい言い方だけど、話せるなら最初から仲間全員を頼ったと思うから。

 全部が欲しいって思ったら、全部に手を伸ばさなきゃって思ったことはある。

 でもそれって、なんにも解決できないくせに手だけを伸ばして、全部壊しちゃうだけだって知ってる。

 伸ばしすぎた問題は解決じゃなくて解消しか出来なくて、それで傷つく人が居るなら……あたしはその幾つかを諦めなきゃいけない。

 ……もっと単純ならいいのにな。

 仲良くしたいから一緒に居ようって言って、解り合いたいから話そうって言って、“うん、そうだね”って笑い合えたらな。

 優美子には断られて、姫菜には苦笑いしかされなくて、葉山くんは首を横に振るだけだった。

 決めたとか決意とか、そんな覚悟なんて持たなくてもいい、もっとやさしい世界だったらよかったのに。

 優美子はグループのままでいいじゃんって言って、姫菜はさすがにそれは無理かなって笑って、葉山くんはそれが出来たら、なんて言って……やっぱり進むことはしなかったんだ。

 居心地が良い場所が出来たら、それが変わるのは嫌だなって……あたしも思う。

 あたしだって、あんなことがあって……ヒッキーとキスをしたりしなきゃ、踏み込んだりすることが出来たかどうかだ。

 

「お前も、無理すんなよ」

「うん……でも、難しい、かな」

「……。そもそもだ。俺みたいなやつが居るわけでもねぇのに、同じグループ内で隠し事がありすぎるのがいけねぇんじゃねぇの? もっとオープンなマインドを心がけてフレンドリィなライフを送ってればノープロブレムだっただろ《くねくね》」

「ヒッキーきもい」

「あのちょっと? 元気づけたかったんだからストレートにキモいはやめない?」

「あははっ……うん、でも……ありがと」

「……おう。その、あれだ。グループ抜けたなら、無茶かもしれねぇけどあんま気にかけてやるなよ。そうするくらいなら最初から抜けるなって相手は思うし、お前だって中途半端な気分から抜け出せねぇだろ」

「うん……そだね。解ってるんだけど」

「……お、おし。なら、そだな。気分転換にそのー……あー、あれだ。ほっ……放課後、ディェッ……でーと、でも……すすすするか?」

「えっ……?」

 

 え? ヒッ……八幡、今なんて?

 

「あ、いや、すまん……悪い。お前ならこっちの言い方の方がよりょっ……喜ぶ、と思ったんだが……うわはっず……! “え?”とか返されちゃったよおい……! 遊びならいいけどデートとかねぇよな忘れてく《がしぃっ!》」

「行くっ!!」

「……れ……、お、おう……」

 

 顔を覆ってた八幡の手をがっしって掴んで、引き寄せて言う。

 ……、ちょっと切り替えるの大変だけど、そうだ。未練とか残したくてグループを抜けたんじゃない。

 抜けといて気にするのは何がしたいんだって話だし、それじゃあ抜けた意味だって全然ない。

 今すぐにはやっぱり無理だけど、あっちが頑張って“相変わらず”をしてるなら、あたしは変わんなきゃだ。

 頑張ろう。

 こういうの、頑張るのはどうかって思うけど、今のあたしはどんどん頑張ってかなきゃ、動けそうにないから。

 

……。

 

 デートした。四人で。

 雪乃は遠慮してたけど、あたしと八幡とで連れ回した。

 元気出したいなら四人でだ。二人でのデートは心に余裕が出来てから。

 じゃないと寄りかかりすぎて、なんかちょっと違うなにかになっちゃいそうだった

 ちなみに、デートの内容はいろはちゃんのお手伝い。

 “デートの定番ってなんだと思うー?”って八幡に訊いたら、“買いもしないものを見る時間つぶしみたいなものに付き合わされて、男が重いものを持って歩かされるものとか?”なんて言った。

 そう、デート場所は生徒会室だ。

 買うわけがない書類と睨めっこしたり、重いものが入ったダンボールを八幡が運んだりした。うんデートだ。

 

「そういえばさ、ヒッキーはさいちゃんを誘おうとか思わないの?」

「戸塚を? この集まりにか?」

 

 そんなわけで、いろはちゃんが言う“ちょっと面倒なもの”を一通り先に済ませて、あたしたちは生徒会室の椅子に座って“はふー”って一息ついていた。

 

「うん。さいちゃんなら喜びそうかなって」

「ん……そりゃ思ったことがねぇとは言わんけど。それはちょっと違うんじゃねぇかなって」

「そうね。結衣さん、私達はお互いを深く知ろう、知った先に目的があるから、と集まっているわ。けれどそこに自分が好きだからと人を集めては、ただの薄っぺらな関係にしかなれないと思うの」

「あー、そうですねー……いくら誰かが“この人は信頼できる”って断言しても、他の人から見れば知らない人なわけですし」

「戸塚くんのことは、依頼などを通じて多少は知っているけれど、それだけ。知る努力から始めるにしても、とりあえずはまだ、男と意識して付き合うのはこの男だけで十分だわ」

「お前もうちょっと言葉選ばない? この男で十分とか、なんかものすんげー引っかかるんですけど?」

「まーまーいいいじゃないですかー比企谷先輩っ♪ それよりほんとによかったんですか? 手伝ってくれるのはそりゃ嬉しいんですけど。楽ですし」

「お前ほんと遠慮なくなったな……」

「いーじゃん。そういうの望んでたんだし、あたしはこっちの方が好きだな」

「……そか。んじゃ、楽しんで生徒会するか。っつーか副会長はどうしたんだよ」

「用事があるとかで帰りました」

「おい」

 

 用事かー……うん、それじゃ仕方ない。

 それにそのー……あたしも雪乃も、そっちの方がやりやすいし。

 

「お前結構律儀だよな……副会長帰ってんのにお前は残るとか。なに? 俺達来なかったらお前だけで片づけてたの? この量を?」

「間に合うようなら比企谷先輩を顎で……お願いしようと思いましてっ♪」

「やだこの子今顎で使うとか言おうとしてたよ怖いよ後輩が怖い」

「まあ、今さら取り繕ったってしょうがないですし。というわけで、せっかく来てくれたのでお願いしますねっ?」

「へいへい……」

「うん、どーんと任せてよっ! それでゆきのん、これどうすればいいの?」

「……何を任せればいいのかを考えるところから始めましょう……それと、雪乃よ」

 

 くすくす笑われた!? う、うーん……まあいっか、笑えてるなら。

 

「そういえば……今だから訊きますけど、雪ノ下先輩は生徒会長になって、なにがしたかったんですか?」

「なにを……? ……そうね、きっと誇れるような志があったわけではないのよ。守りたいものと、信じたいものがあっただけ。全部子供の独りよがりで、思い返せば赤面もするような内容だけれど」

「それって、今からでも叶えられることですか? でしたら、今だけは生徒会長になりきっちゃうとかどうでしょう!」

「……、そうね。ではこの放課後だけ、権限を譲ってもらえるかしら」

「えっ!? 乗り気ですかっ!? 意外です……てっきり仮初めのものになんて興味がない~とか言われるかと」

「甘いな一色。“今の雪乃”ならこうだ。“───一色さん? 仮にその提案に乗ったとして、私になにをしろというのかしら。そもそも既に席が埋まっているものを譲られ、喜ぶほど子供ではないわ”」

「うーわなんだか妙に熱が籠っててキモいですありえないですキモくてキモいですやめてくれませんかわっ……笑っちゃい、ます、のっ……ぷふふはははは! あはははははっ!」

 

 あ。笑顔。

 なんか、久しぶりに見たって気がする。

 そうだよね、気持ちの整理なんて、なかなかつけらんないし……無理に笑うのとも違うし。

 

「……八幡くん? 私は、きちんと、譲ってもらえるかしらと、言ったはずだけれど?」

「い、いやそんな、ある意味噛み砕いた言い方しなくても……待て、からかうつもりはなかった、なんか知ってるお前を真似てみたかったっつーか……!」

「《ムッ》……そう。それなら……そうね。私もあなたの真似をすれば仕返しになるのかしら」

『むしろ見てみたい(です)っ!!』

 

 あたしといろはちゃんの声が重なった。

 雪乃はビクッてしてたけど、八幡を見てからとほー……って溜め息を吐いて、

 

「こほんっ、……ええぇと……その。あ、あー……あれ、あれな。あれ。……あれしかないまである」

 

 声を頑張って低くして、顔を真っ赤にして、そう言った。

 途端、生徒会室は賑やかになった。

 八幡が顔を真っ赤にして頭を抱えて、雪乃が「わ、笑わないでちょうだい……!」って怒って、あたしといろはちゃんは笑って笑って、お腹かかえて、苦しくて、楽しくて。

 

「はー、もう……なんなんですか先輩方……。これじゃあおちおち悩み事でくよくよもしてられませんよー……」

「その割には遠慮のない笑い方だったようだけれど……?」

「お、怒らないでくださいよー、こっちだってそう簡単には切り替えられなかったんですから……」

「? そう言うってことは、もう切り替えられたの?」

「訊かれてはいそーですってとこまでは、まだちょっと。でも、もう一歩を踏み込みたいとは思いました。なので雪ノ下先輩、比企谷先輩」

「なにかしら」

「ん?」

「ええっと……すーはー……ヨシッ、名前で呼んでもいいでしょうかっ! 呼んでもらってもいいでしょうかっ!」

 

 いろはちゃんの提案は、それだった。

 うん、あたしもちょっと気になってた。

 せっかくこんな関係になれたんだから、もっと遠慮とか無くしていこうよって。

 

「……、……べつに、構わないわ。むしろ遅かったくらいね」

「おう、まあ、いいんじゃねぇの? つーか、お前がいいのかよ。俺に名前でとか」

「むしろ葉山先輩がアレなのに八幡先輩が一色っていうのが、今の関係では結構気に入りません。なのでお願いします」

「……そか。んじゃあ───」

「はいっ」

「───雪乃からな」

「……うっわほんと流れぶった切るの好きですねなんですか水差し大好き人間ですか転生してジョウロになってやり直してきてくださいよこのヘタレ」

「なんでそこまで言われてんの俺…………ったく。いろは。ほれ、これでいいか?」

「心がこもってません。やり直しを要求します」

「…………結衣が好きだ」

「そっちに心こめてどうするんですかー! ていうか顔隠して真っ赤になるくらいなら言わないで下さいよ!!」

 

 うぅう……顔、あっつい……!

 も、もうなんでいきなりあんなこと言うかな……!

 その、嬉しいけど……嬉しいけど、さ……!

 

「う、うるせー……今まで出来なかったこと、全力でやってみてんだよ……。青春してみてんだよ……恥ずかしいけど嬉しくて楽しくて、テンションおかしくなってんだからそっとしといてくれ……」

「───《ピンッ♪》……じゃあそんな照れ屋さんをつつくのは後輩とか周囲の人間の青春ですよねー? 恥ずかしいですか? 恥ずかしいですかハチせんぱーい♪」

「いやちょっ……やめろつっつくなそれ物理攻撃だから……! つか、なにそのハチ先輩って……」

「八幡先輩じゃ長ったらしいので」

「比企谷先輩言うのと一文字たりとも変わらねぇんだが……?」

「そうね。ハチではあの有名な忠犬のようで、犬に失礼でしょう」

「え? 失礼の点そこなの?」

「もっと猫らしい名前にしましょう。そうね……ごめんなさい猫に失礼だったわ」

「考えてからそれ言う方が失礼ってもっと早くに気づいて欲しかったわ……」

「そうね、ごめんなさい。犬と猫に謝るわ」

「いや違うからね? 謝る方向さえ違うから。つーか、いい加減に話とか戻さない? 雪乃、お前生徒会長になってなにしたかったの」

 

 八幡がとほーって溜め息を吐きながら言うと、雪乃はハッとして椅子に座り直して、あたしと八幡を見て、言った。「生徒会執行部ではなく、生徒会奉仕部が作りたかったのよ」と。

 

「あの時はごめんなさい。知っているつもりになって、解っているつもりになって……解ってもらえるものだと思い込んで、あなたたちに……いえ、“私達の関係”に勝手に失望をしたわ。多少の擦れ違いも、新しい関係から始めれば何度だって構築できると思い込んでいた。……私は、それをきちんと謝りたかった」

「ゆきのん……、───あ、あたしもっ……あたしも、解ってあげられなくて……ごめんね」

「結衣さん。歩み寄りもしないで解った気になっていた私が悪かったのよ。私はあの時の自分を後悔している。だから……その、ええと……これからは、~~……あ、歩み寄れたら、と……」

「ゆきのんっ……!《ぱああっ……!》」

「雪乃、よ《ぴしゃり》」

「今は見逃してよぅ!!」

 

 嬉しくて、抱き締めた。

 そしたら顔を赤くするのは前と同じだったけど、ゆきのんもおずおずって感じで抱き締めてきてくれて。

 それが嬉しくて、抱き締めて、抱き締められて。

 

「生徒会長になったら、結衣先輩を抱き締めたかったんですかね……」

 

 いろはちゃんの声が聞こえて、あたしとゆきのんは余計に真っ赤になった。

 

「それをツッコんでやるなよ……いや俺も思ったけどさ。思っちゃったけどさ。……たぶん、その立場になってたら、自分はどうしてたんだ、とか考えたじゃねぇの?」

「……えと。でもですよ? それって……」

「ああ。たぶん無理だ。当時の段階で考えて、俺か結衣が副会長とかってのは現実味がない。面倒事を押し付けるって意見が集中するか、現副会長が辞退するかしないと無理だっただろ」

「そこはなんとかしちゃいそうですけどねー、奉仕部なら」

「……まあ、考える時間があればどうとでも出来たかもだけどな。俺の評判とかもあったし、難しいってのは事実だよ。……ま、それを逆手に取って、“俺に面倒を押し付ける”って意識を向けてやれば、いっそ生徒会長にもなれただろうけどな」

「うわー、手段を選ばなければ確かにって思えちゃうから、ほんとハチ先輩ってアレですよねー」

「うっせ、アレとか言うな。内容が気になるだろが」

 

 またへんなこと考えてた。ほんと八幡ってヒッキーだ。言っててわけわかんないけど、なんかそんな感じ。

 八幡の声が聞こえたから、じとーって睨んだらそっぽ向かれた。

 

「ハチ先輩って、気まぐれ屋さんで無鉄砲なのに、怒られるとしゅんとするとことかって犬と猫を混ぜたみたいな感じですよね。あ、でも気づけば化かされてる~みたいなとこありますから、キツネですね。キツネなんて飼ったことないから知りませんけど」

「……俺も知らん。つーか、そういうのいいから手ぇ動かせ。お前全然進んでねぇじゃねぇか」

「えー? だってー、頼りになる先輩方がいらっしゃいますしー」

「あ、そ。んじゃああとはお前が頑張れ。俺達もう頑張ったみたいだから」

「うぐっ……こ、ここまで来ちゃったら一蓮托生とか……だめですかね? ほらほら、可愛い後輩のお願いですよー?」

「あざとい。やり直し」

「今のはほんと素ですよ!」

 

 仕事して、騒いで、仕事して、騒いで。

 そうして、あの時は知りもしなかった“生徒会の仕事”を片づけてみて───あたしも雪乃も八幡も、たぶん同じこと考えてる。

 “なんだ、自分たちにも出来たんだ。自分たちでもよかったんじゃないか”って。

 もしあの時、雪乃を応援出来てたら。

 もしあの時、守ることしか考えなかった自分を変えようって思えてたら。

 ……そんなことは今さら言ってもしょうがないって思っても。

 

  やっぱりちょっと、そんな関係に憧れた。

 

 これからもこんな、隠し事をしちゃうよりも話しちゃって、難しいと思ってたことも四人で解決して、なんて楽しい日々が続いていくんだろう。

 もちろん喧嘩もする。しないんじゃなくて、ちゃんと自分の中にある不満をぶつけるつもりで。

 「たまにはゆきのんから抱き締めてくれるとか!」って言ったら、「努力はするから、そうしたいと思える事態を用意してちょうだい」って言われた。すぐに「いや、単に雪乃先輩が抱き締めればいいだけの話じゃないですかー」っていろはちゃんからツッコミがあって。

 いっそのこと、っていろはちゃんから提案されて、生徒会と奉仕部をくっつけてみたり、そうすることで副会長さんといろいろあったり。

 でも、結構、ううん……かなり楽しく青春してる。

 時間が経って、三年になって、それと同時にさいちゃんがテニス部をやめて生徒会奉仕部に入ってきたり、隠し事とか無しでぶつかるあたしたちの関係に目を輝かせたさいちゃんが全力でぶつかってきて、なんかいろいろ考えてたのが馬鹿みたいに馴染んでって……───あたしたちは。

 

「………」

「三浦さん? 少しくっつきすぎなんじゃないかしら」

「は? べつに雪ノ下さんに関係ねーっしょ」

「うわー、見てくださいよハチ先輩、修羅場ですよ修羅場。彼氏としてどうですか、この状況」

「八幡、止めなくていいの?」

「俺にどうしろっての……氷と炎を鎮めるとか俺には無理だからね? っつーかあいつら結衣のこと好きすぎでしょ……」

 

 三年になって、“今のまま”を望んでた筈の優美子は、違うクラスになっちゃったことがきっかけで、近寄ろうと一歩を踏み出して……挫かれた。

 偶然が重なって二人きりになって、いい雰囲気になって……踏み出してみたら、ダメだったって。

 どんだけ今のままがいいって思ってても、恋してるんだもん、自分からいかなきゃって思うよね。あたしはキスしちゃうなんて結構卑怯な方法でいっちゃったけど……。

 

  でも、そんなことがあっても葉山くんは変わらなかった。

 

 変わらず、教室では普通だし、優美子に会えば普通に声をかけるしで、優美子は“変わらないこのまま”っていうのが怖くなったんだって。

 そうなれば自然に、別のクラスになってたってことも助けて、優美子は葉山くんのところに行くのをやめた。

 あのグループからあたしと優美子だけが別クラスになって、少しずつだけど話すようになって、それで……

 

「結衣、このあと31行くし。思い出したらムカついてきた」

「このあとは私の家で泊まり込みの勉強会よ。部外者は出て行ってちょうだい」

「は? 男も混ぜて?」

「下種な勘繰りはやめてもらえるかしら」

「下種っ……!? ちょ、あんた……!」

「結衣さんと八幡くんの間はべつとして、私と戸塚くんに部員に対するそういった類の感情は存在しないわ」

「……ふん、どーだか。……友達とか仲間なんて、ちょっと離れりゃ簡単に……そう、簡単に崩れるだけだし……」

「それは単にあなたたちに踏み込む勇気と変わる覚悟がなかっただけのことでしょう?《ドヤァアアン!》」

 

 うわー、ゆきのん嬉しそう。

 ゆきのん、たまにこうして急になにかを自慢したくなるから可愛い。

 本人気づいてないみたいだけど、そういう時に褒めたりすると、その時に見せる“ぱああっ……!”って感じの笑顔がすっごく可愛くて。

 

「見てくださいハチ先輩、褒めるなら今ですよ」

「なにを褒めろってのお前。あの時のはたまたまだろ」

「あ、でも八幡に褒められると嬉しいっていうの、解るなぁ。僕も八幡に褒められたりすると、すっごく嬉しいし」

「さいちゃん先輩はちょっと特殊なんですよきっと。いえ、純粋って方面で」

「楽しそうに話してないで助けてよー!」

 

 両脇を雪乃と優美子に抱き締められてるあたしに出来ることは、机を挟んだ対面に座ってる三人に泣きつくだけ。なきつくってゆーか、動けないから助けてって言うだけだけど。

 

「え、えとー……そんでさ、優美子。どうするの? 葉山くんのこととか」

「……。ちょっと引きずってっけど……まだ好きだけど……ちょっと見つめ直してみたいっていうか。あーしが考えてた“今がいい”と、隼人の“今のままがいい”って、なんかちょっと……あ、いや……“全然”、違うのかなって……」

「……あのー、三浦先輩? ちょっといいでしょうか」

「……あ?《ぎろり》」

「ちょっ……にに睨まないでくださいよー……! 一応は同じ人を好きになったよしみっていうことで、ちょっと話し合いましょう。一度冷静になって、文字通り恋に恋する乙女から卒業した目できちんと見た、葉山先輩の印象とかばっちり教えますんで」

「………」

 

 ムッとしてた優美子だけど、あたしの腕を離して椅子に座り直すと、話を始めた。

 話して、否定して、迷って、頷いて、怒って、泣いて。

 全員で意見交換をしながら見る優美子は、本当に感情をそのまま出してるみたいで。

 それだけ好きだったんだろうなって……もしあたしも八幡と……とか考えると、泣けてきちゃって。

 そこから、千葉村での雪乃の言葉についての疑問を優美子が口にして、小さい頃にいろいろあったって話が出て、「雪ノ下さんとのことが解決されてないから隼人が踏み出せないんじゃないの?」って話になって───葉山くんが呼び出された。

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