どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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こちらはショート劇場となります。
ひとつひとつは……他のに比べれば短い、かと。たぶん。
昔っからどれくらいが長いか~とか考えずにズヴァーと書いていたから、何文字からが長いものなのかとかいまいちピンとこないのです。
えー……随分前に書いたオリジナルが大体全千話くらいで、一話が8千~二万五千文字くらいで……う、うん! 二万文字で完結なんてショートショート!
4千字とかショートよショート! ヴェリィイ~~~ショートよシーザーちゃぁ~~~ん!
では始まります。



ショートガハマさん
たまには強引なSSを


 高校入学の朝、俺はいつもより早く家を出た。

 新しい環境、新しい人間関係にわくわくしていた、ということもあるが、なにより───

 

「入学祝いの自転車が道端に落ちてた釘一本でオシャカって! どんなギャグ漫画だっ、くそっ!」

 

 わくわくは出発から数秒でボッと破裂した。

 なので、まだ余裕ではあるけど走ることにした。

 たまにはこんな青春もいいだろう。

 なにせ自転車で出ようとした時間は早すぎたため、むしろ歩いて行っても余裕なくらい。

 しかしこのむしゃくしゃをなにかにぶつけたくて、走った。

 途中、なんかパジャマで犬の散歩をしているえらい可愛い子を発見した。が、俺の腐った目なんかで見たら怯えられるだけだと視線を逸らし、そのまま走る。

 

「サブレッ!?」

 

 ……筈だったんだが。

 美人さんの手から離れたお犬さまが、なにを思ったのか道路に飛び出すのを見た。

 しかもなんというタイミングだろうか、黒塗りの高級車が丁度向かってきており、このままでは犬が轢かれる───そう思ったらじっとしていられなかった。

 うちも猫を飼う身であり、犬の可愛さも経験済みだ。動物が動かなくなってしまう瞬間なんて見たくない。

 気づけば走っており、車のクラクションに驚いてしまい、逃げずにその場に伏せをしてしまった犬を走りながら抱きかかえた───瞬間には、もうすぐ傍に車。

 

  あ、やばいこれ死ぬ。

 

 そう思った瞬間、せめて犬だけはと犬をやさしく放り投げ、漫画とかラノベみたいに衝撃を殺せないかなあと“自ら後ろへ飛ぶ”みたいな状況を作り───ドグシャアと車と衝突した。

 後ろに飛んで威力を殺すとか、あれ嘘な。

 自分の跳躍速度と人が思い切り拳や武器を振るう速度とか、なにかが自分にぶつかる速度がその威力を決定的に殺す要因になってくれるわけないじゃん。

 ええつまり、人の跳躍速度程度で車が近づく速度とかの威力を殺すとか無理。

 吹き飛ばされ、やがて地面に激突───するかと思いきや、ご近所のゴミ袋の山に落下することになり、それがクッションになって落下ダメージはほぼ殺せた。ありがとうゴミの日!

 

「い、つつ……あ、あれ? 痛いけど動ける……」

 

 もしや足を折ったり、どころか死すらぞわりと頭に浮かんだのに、案外平気だった。

 放り投げた犬も無事着地したみたいで、ひゃんひゃん鳴きながら俺のもとへと走ってくる。それを追うように、飼い主の女の子も。

 

「だっ───大丈夫ですかっ!? ごめっ……ごめんなさいっ! ごめんなさいっ! あたしっ、あたしっ!」

 

 よっぽど動揺しているんだろう───ってそりゃそうだ、人が目の前で轢かれたんだから、そりゃ動揺もする。

 だが心配はいらない。なにせゴミ袋さんのお陰で怪我なんてどこにも《ぶらんっ……》

 

「あ、いや、大丈夫ですから───ぶらん?」

「………」

「……オワッ!?《ぶらぶら》」

 

 左腕が変な方向に曲がって、ぶらぶらしてらっしゃった。

 この日、俺と、初対面の女の子は顔を見合わせて悲鳴をあげた。

 

……。

 

 その後運転手さんに病院の手配をしてもらい、どころか車に乗せてもらって、元から乗っていた雪ノ下さんという女の子と犬の飼い主である由比ヶ浜さんと一緒に病院に行くことに。

 運ぶと言ってくれたのは雪ノ下さんらしい。

 急に飛び出したのはこっちなのに、やさしい人だ。

 由比ヶ浜さんもべつにいいって言ったのに付き添ってくれた。この人もやさしい。

 でもパジャマであることを今さら思い出したのか、なんかDなフラグの船堀さんのように唇を歪ませながら真っ赤な顔で涙目になっていた。

 そんなことがきっかけで入学からよくつるむようになって、三人ともクラスは違うものの、友達って関係になった。

 ……すげぇ、友達一気に二人出来たよ。高校生ってやっぱりすげぇな……。

 

「ヒッキー、ほら、おべんと食べさせてあげる。口あけて?」

「ひ、ひやっ……おりゅはべちゅに、ひとりゅでたべりぇりゅし……!」

「ハチ、そのカミカミ言葉は正直気持ち悪いわ」

「ユキ……頼むからちょっとは歯に布着せてくれ」

「あら嫌よ。“友達になるのならなんでも言い合える関係を目指してみたい”と言ったのはあなたじゃない」

「い、や……確かに言ったけど……これ、ちょっと違いません?」

 

 呼び方は友達らしくを目指し、愛称で呼ぶことに。

 俺がヒッキーとハチ、結衣が……まんま結衣。もしくはユイユイやゆーさん。ヒッキーって言ってきたからユッイーって返したら怒られたんだよ。

 ユキはゆきのんかユキで。こちらもユッキーっていったら怒られた。なにそれ理不尽。

 そんな俺達は奉仕部というものを設立、気楽な付き合いのまま、部活を続けている。

 

「だだだ大体、結衣はどうして俺にそんなやさしくするんだ? べつに俺、そういうの狙ってやったわけじゃないから、そういうのだったら───」

「狙ってたってどうしたって、あたしの所為だから……だからね? 気が済むまでいろいろやらせてほしいんだ……だめかな」

「い、いやっ……だめってこたぁない、けど……」

「……!《ぱああっ……》う、うんっ! うんっ! あたし頑張るねっ、ヒッキー! あ、ほらほらっ、あーんして、あーん!」

「え? いや、これはべつに……」

「……ひっきぃ……だめ?」

「……や……だ、だから」

「ひっきぃ……」

「………………~~……イタダキマス」

「……! ひっきぃ……!《ぱああっ……!》」

「ハチ、毎度どうせ頷くのなら、最初から受け入れなさい」

「たまには助けてくれよ……恥ずかしいんだぞこれ……」

「ええ、見せられるこちらも恥ずかしいわね。友人として忠告するけれど、あまり日常化させないほうが身のためよ」

「だから、そういうなら助けてくれ……」

 

 小町が作った弁当が取り上げられ、結衣がひとつひとつを箸でつまんであーんしてくる。俺はそれを、動かせない腕をもどかしく思いながら受け入れた。

 口に含んで、もぐもぐ、ごっくん。

 それを何度も羞恥に耐えながら繰り返して、ようやく終わる頃には肉体よりむしろ精神がぐったり。

 今初めてリア充を尊敬する。こんなんやっててよく元気でいられるな。いや、これが本当に恋人相手なら俺も喜べるけどさ。

 

……。

 

 それからというもの、ええ、まあその、

 

「ヒッキー、腕動かせないと階段も怖いでしょ? 肩貸すよ」

 

 そんなことが、

 

「ヒッキー、鞄開けづらいなら開けるよ?」

 

 腕が治るまで、

 

「ヒッキー、マッカン欲しいの? だいじょぶ、あたしが代わりに買うから」

 

 続いたわけでして。

 

「ヒッキー、他にしてほしいこと、ある?」

 

 その笑顔が、行動が眩しくて、

 

「ヒッキー?」

 

 毎日毎日勘違いしそうになる俺を無理矢理殺して、

 

「ヒッキー」

 

 健全なる友達付き合いといふものを構築しているわけでございまして、

 

「え、と……ほらその、俺からもそのー……プ、プレゼント」

「わっ……わぁああ……!《ぱああっ……》ありがとう、ヒッキー……嬉しいな、なんだろ……!」

「好きです付き合ってください」

「えぇええっ!?」

 

 無理でした。

 こいつ俺のこと好きなんじゃね? が押さえきれなくなって、腕が完治してから迎えた彼女の誕生日の日。

 場所として自宅を提供したとある日に、勢いのまま告白。

 プレゼントを渡した時の結衣の顔が可愛すぎて、抑えられなくなり、ユキも小町も居る前で堂々たる告白。

 ユキが驚き、けれど“やっとか”とばかりに溜め息を吐いて、小町が“おおおお兄ちゃんがいったー!”とばかりに叫び、やがて結衣が───

 

「う、うん……はい……! あたしも……あたしもヒッキーが好き……大好き……!」

 

 嬉しそうに、涙を溜めてまで頷いてくれたのだった。

 ……対する俺、大驚愕。

 言ってしまってから“ああ、やってしまった。せっかく出来た友人関係が壊れてしまう”なんて怯えていたのに、まさか……!

 

  そうして、俺達は恋人になった。

 

 結衣は骨折の時にしてくれていた世話焼きがすっかり板についてしまい、なにかというと俺の世話を焼くようになって、俺は俺でそんな結衣を真剣に想い、想ってくれている分を返すが如く努力をして。

 気づけば周囲からバカップル呼ばわりされるようになったんだが……お互いが好きで大事って思ってるなら、これくらい当然じゃないか? と首を傾げてしまう。

 

「ンブゥウッフェェッ!?《ゴプシャア!》」

「ヒッキー!?」

 

 でも料理の腕は相変わらずだった。いや食うけど。全部食うけど。

 昼時、もはや教室では皆様の視線が痛くって、奉仕部に来て結衣とユキと一緒に食べる日々。

 そんな、中学の頃からは考えられないくらいの穏やかな日々が続いていた。

 

「ヒッキー、もういいってばっ、美味しくなくてごめんっ! ぐすっ……つ、作り直してくるからっ!」

「だめだ……! 彼女の手料理は彼氏たる男の夢と浪漫が詰まったもの……! 残すだの捨てるだのなんて選択肢は、断じてない……! あぐっ、んぐっ…………んむんむ───ヴッ《ごぽり》」

「だったらせめて流し込んでよ! どうして味わおうとするの!?」

「……結衣が作ってくれたものだからに決まってるだろ」

「……ヒッキー……!」

(……お昼だけれど、依頼者こないかしら……。はぁ、紅茶、淹れましょう……渋めに)

「ヒッキー、あたし、頑張るから。ぜったいぜったい、美味しく作れるようになるから……っ!」

「ああ。楽しみにしてる。あ、それでも毎日作ってくれると嬉しい」

「え、だ、だめ、ちゃんと美味しくなってから───」

「他の男に味見とかさせたら、俺泣くからな?」

「あぅう……ヒッキー……」

(……ぶらっくこぉひぃってどんな味なのかしら……)

 

 奉仕部は今日も平和だった。

 依頼者? どうしてか話の途中で「コーヒー飲みたい」とか行って立ち去っていくんだよな。で、絶対戻ってこない。

 なんなんだろうな、ほんと。

 


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