どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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あわてないで、ゆっくりやってこい

 放課後。がららぁっ、と奉仕部の引き戸が開かれた。

 誰、と思う間も無く、ノックさえせず開かれた戸の先には、赤と白が映える温かそうな服を着た由比ヶ浜が居た。

 

「ゆきのんっ、ヒッキー! メリークリスマやっはろー!」

 

 いや、クリスマまで言ったならスまで言ってやれよ……。あけましてやっはろーと同じで、なんなのそれ。

 というかだ。

 

「あの……由比ヶ浜さん。クリスマスは明日なのだけれど……」

「え?」

「おい……日付くらい確認しろよ……」

「えぇえええっ!? だってみんな笑顔で送り出してくれたよ!? 姫菜とか耐え切れずに吹き出すくらいだったし! ……あれ? 笑われてる?」

「いや、まあその、なんだ。……似合ってるんじゃねーの?」

「えっ……そ、そっかな、そっかな、ヒッキー」

「おう。あわてんぼうのサンタクロースの格好」

「これただのサンタクロースだよ!?」

「そうね、クリスマス前に来たのだから、あながち間違っていないのではないかしら」

「ゆきのんまで! 違うったら! これただのサンタクロースの衣装でっ!」

「なにお前、鐘鳴らして煙突から落っこちたらいきなり踊り出すの? やだ怖い」

「こっ!? 怖くないし! ちょ、ちょっと間違えちゃっただけじゃん! ヒッキーのばか!」

「……もう一度来ればいーだろ。歌詞通り」

「え?」

「ええ、そうね。とりあえず由比ヶ浜さん、紅茶を淹れるから座ってちょうだい」

「あ、あー……うん。ありがとゆきのん」

「ふふっ、どういたしまして、あわてんぼうさん」

「それはもういいったら! ……って、あれ? これ、なに?」

「ああ、それはクリスマスを間違えたどこぞのゾンビが私たちにと買ってきたものらしいわ」

「ゾンビじゃねぇよ。つか、それもうゾンビ以外のなにものでもねぇよ? 谷どうしたの谷」

「……ヒッキーだって間違えてたんじゃん!」

「いや俺はほらアレだから。小町に騙されただけだから。それ言うなら雪ノ下だってクリスマスに発売のゆきんこパンさんが気になって、ケータイで時間調べてたくせに日にち間違えてたしな」

「……ゆーきーのーんー……?」

「い、いえっ……べつに騙そうとしたわけではなくて……!」

 

 その日、珍しくも彼女が拗ねることになり、これまた珍しくも俺と雪ノ下、二人でなんとかご機嫌を伺うこととなった。

 いやまあ実際は、雪ノ下はあっさり許されて、俺は何故か休日にちょっと出掛けて食事をおごるくらいで済むことになったんだが。

 …………あれ? なんか差が無い? ていうかこれってデート? いや違うか、ふう危ない危ない、また勘違いするとこ───

 

「……《ぽしょり》……ヒッキー。デートなんだから、そのつもりで用意してきてね?」

「!?」

 

 ───勘違いで済まそうとしたら、耳元でぽしょりと囁かれた。

 お、OKOK、これはあれだ、めかしこんでいったら笑われるタイプの罠だな。

 そう思いつつも家に帰り、小町に相談したら強引にいろいろされて、当日にはしなくてもいいのにビシッと決めた格好にさせられ…………待ち合わせ場所にて由比ヶ浜に笑顔で迎えられ、普通に行動し、いつの間にか楽しみ……気づけば夕暮れの綺麗な景色の中で告白され、戸惑っている内に口が勝手に了承を唱え、付き合うことになった。

 訂正しようとしたが、目に涙を浮かべて喜ぶ由比ヶ浜に二の句を告げられず、やがて俺は“どうせすぐ俺がフラレる”と思いつつ、だったらせめて“いい思い出”ってやつになろうと全力で付き合うことに。

 

 

 で……そんな日々をいくつも越えた今日。

 

 

「ねぇパパ」

「ん? どうした、[[rb:絆 > きずな]]」

「そういえばさ、パパってどんなきっかけでママと付き合うことになったの?」

「きっかけなら前に話しただろ。俺がママの犬を助けて───」

「あ、ううん、そうじゃなくてさ。えーと。こ、告白、とか……どっちがしたのかなーって」

「……結衣からだ」

「……パパのへたれ」

「やめなさい、パパ泣いちゃうぞ」

「ママ綺麗だから大変だったんじゃない?」

「そりゃな、俺なんかが告白されるとか、ただの罰ゲームだろとか思ったもんだ。けどまあその、その時からそれなりに大切だと思う相手だったからな……どうせフラレて笑われるのが俺だけなら、俺からは全力でいい思い出になろうって思ってな」

「で、全力出したらママも実は本気だった?」

「あれは驚いたな……。こいつになら騙されてもいいんじゃないかって次第に思うようになって、全力の真似事がこっちも本気になって、なにかする度に笑顔で喜んでくれるあいつに本気で惚れて……まあ、その……な」

「……ママ、苦労しただろうなー」

「やめろというのに……学生時代のパパはただの馬鹿だったんだ。今では本当に感謝してるし幸せだ」

「パパ、普段からママに好き好きオーラ出しまくってるもんねー。あれ、絆的にポイント高いよ?」

「仕方ねぇだろ、好きなんだから」

「恥ずかしかったりしない?」

「馬鹿言え、本気で好きなら恥ずかしさも躊躇もねぇよ。本気で好きで、伝えれば笑顔をくれる。こんな嬉しいことはねぇだろ」

「……ママもきっと苦労したんだろうなー」

「ああ、そりゃあまあ、なぁ。俺みたいなのが相手で、散々苦労かけただろうし。だから記念日になる日は欠かさず祝ったりプレゼントしたりだったな。まあ、それは今でも変わらん」

「や、そーゆーんじゃなくて。パパ、格好いいし」

「おうあんがとさん。言われて悪い気はしないが、それは一種の気の迷いだ。身内補正なんてあんま当てにならんから、美的感覚は磨いておけよ?」

「……これだもん。苦労するよ、ママ。パパって自分の良さとかに自覚とかないの?」

「結衣を幸せに出来るならその範囲だけで十分だ」

「むぅっ……私は?」

「娘として愛しているな」

「パパって、ドタコン?」

「やめなさい、何処で覚えたのそんな言葉。……俺のはただのユイコンだ。ほれ、さっさと飾りつけ終わらせるぞ。そろそろ帰ってくる」

「あ、うん。……毎年毎年飽きもせずよくやるよねー、ほんと。ママ絶対気づいているよ? 出かけるとき、笑顔だったし」

「それでもだよ。こういう行動が好きなんだ、結衣は。大事なのは祝う気持ちと動こうとする意志だ。んで、俺は結衣が好きだから、毎年誕生日は盛大に祝う。飾りつけとかは俺達祝う側の仕事だ」

「……パパの誕生日の時、ママも同じこと言ってる」

「うっ……そ、そか。…………そか《うずうずニヤニヤ》」

「パパ、にやついててキモい」

「おうキモいぞ、好きに言うがいい。結衣に言われない限り、もはや痛くも痒くもない」

「むー! 私も構ってよー!」

「あーはいはい世界一可愛いよ」

「うっは!? 全然心篭ってない!」

「っと、ほれ、帰ってきたみたいだぞ。行くぞ絆一等兵」

「あーもー! 解ったよぅパパしれー! はぁ……せーのっ!」

『お誕生日! おめでとう!!』

 

 扉が開いて、笑顔の妻が今日も俺に感謝をくれる。

 俺はそれだけでくすぐったくて嬉しくて。

 そんな積み重ねを何度もした先で、こうして幸せな日々を送っている。

 娘からは不思議なもので構って構ってとつつかれる日々であり、反抗期もなく、むしろべったり。

 夫婦仲は良好すぎて、娘にからかわれる毎日だ。おう、毎日だとも。

 

「で、結局本当のきっかけは? こう、付き合うってことになるきっかけとか」

「ん? あー……そうな。……あわてんぼうのサンタクロース」

「ちょっ!? ヒッキー!?」

「お前、いい加減その呼び方やめろ……」

「あっ……やー、これはたまに自然に出ちゃうっていうか……。ていうかあなただって、その、えと、よ、夜、とか、こう呼んでいいって……あぅ」

「やめなさい娘の前でなんてこと言うの」

「あーはいはい、パパとママがラブラブなのは解ってるってば……。でも、そっか。もしかしてクリスマスの前になんでか祝うのって、それが原因?」

「我が家のクリスマスは二度ある」

「忘れてって言ってるのに聞いてくれないんだもん……ヒッキーのばか」

「馬鹿で居りゃ祝えるなら馬鹿でいいな」

「~~~……あぅうう……!!」

「……ママ、ちょろすぎ」

「い、いーの! パパにだけなんだから! もう、ほんっとヒッキーは……!」

「ママ、顔ゆるみっぱなし」

「も、もうほっといてったら! ヒッキー、絆がいじめる!」

「おうよしよし、もうほんと、どっちが親だか」

「ヒッキー!?《がーん!》」

 

 そんなわけで。

 俺と結衣は、今日も平和な日々を送っている。

 あわてんぼうのサンタには、もうほんとマジ感謝。

 まあ、中身はこいつだったわけだが。

 

 

 

お題/歌をSSに2

 

 *題材:あわてんぼうのサンタクロース

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