どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話 作:凍傷(ぜろくろ)
メッセ内で、坂本ですがの話が出たことがきっかけで急遽書き上げたものです。
───市立総武高校国際教養科に、入学早々学校中の注目を集める生徒が居た。
日直さえもスタイリッシュ。
ランチタイムもスタイリッシュ。
犬を助ける少年を車で撥ねることさえスタイリッシュ。
その一挙手一投足が
Cool!
Cooler!
Coolest!
圧倒的にクールでスタイリッシュな学園生活を送る、その生徒の名は───
「───ゆきのんですが?」
───……。
「というのを妄想してみたのだが、どうであろうかっ!」
「いやどうであろうかじゃねぇよ。雪ノ下が居ない時とか見計らって、なに言い出すかと思えば。あとなんなの? 車で人を撥ねるのにスタイリッシュとかあるの?」
とある日の放課後。
いつものように奉仕部で依頼人を待っていると、めんど───もとい、めんど……面倒なことに、材木座がやってきた。で、なにを言い出すかと思えばこれである。
ちなみに雪ノ下は花を摘みに行っている。言わせんな恥ずかしい。
まあともかく、そういうわけで現在は俺と結衣の二人きりということになる。……材木座を除けば。
「いやしかしな八幡。我らはこう、何年も前から2年のまま、流れるように春から冬アニメを見送ってきたわけであろう? 2011年3月18日から既に5年。こんな時期にごちうさなんてやってるわけがないのに、我が“心がぴょんぴょんするじゃ~”とか言ってる時点でいろいろアレなわけだが」
「おいやめろ」
「ハヤテのごとくの世界でも大して時間が経っていないのに、カプコンさんが物凄く頑張って恐ろしい速さでモンハンを発売させまくっているであろう? あれと同じく、そんなことがあってもいいと思うのだ。……漫画内での3rdの発売の早さに驚いたものよ。あの世界のカプコンさん、仕事しすぎでしょ……」
「やめろっての」
いろいろ危ないから。
「そこまで来たら今さら“坂本ですが?”の話題で盛り上がるくらいいいではないか! というわけで、アニメ“坂本ですが?”のOPの全ての坂本くんを、雪ノ下嬢に置き換えてイメージしてみるというのをやってみたいのだ。むしろ我以外の意見を聞きたい。よい反応ならスマイル動画とかに投稿してちやほやされたいでござる」
「なんでわざわざ動画まで用意してんのお前……」
「ふふんむ! こういう時こそぬかりなし! というわけではいスタート」
わざわざノーパソまで用意した材木座がそれを開き、見せてくる。
となればこちらもせめて見るくらいはしなくては、文句も言えない。のでガタガタと椅子を動かして見る体勢を取ると、その隣にガタガタと椅子を持ってきて座る結衣。
「んんっ……ね、ヒッキー、もーちょっとそっち詰めて」
「いやお前はべつに見なくても……って近い近い近いっ」
「ゆきのんのことなら気になるじゃん。ってゆーか……その、いいじゃん? べつに……近いくらい、さ……」
「いや……~~……お、おう……」
「……なにこの空気。なんか我今すぐ帰りたい」
……。
───……。
“坂本ですが?”OP視聴中───……
「んーと、この男の子をゆきのんに置き換えるんだよね? ……ちょっとイメージしづらいかなぁ……」
「眼鏡あたりは俺が贈ったブルーライトカットの眼鏡でいいんだろうけどな。……ま、クールって点も多少は解るし」
<ハンパナンパネコゼハノーォオーーーッ!!
「あ、この猫背って部分でなんか反応しそう」
「サーフィンとか、やろうとすればすぐに出来るようになりそうだな……」
「んー……花束捨てるのは似合わないかなぁ」
<オーオーオーオーオー!!
「あっ、ステージの上でってのは文化祭のおかげでイメージしやすいかもっ。あ、でも一緒にステージの上に居たから、客側の目線とか難しい……」
「ステージの上で踊ってる最中、体力尽きてぜえぜえいってそうな。マジで」
<ミヒライテソラスナメヲー!
「このえっと、なんか光ってるところで、ぐったりして横になってる姿とかで?(眩しく孤高の新世界の部分)」
「……ぶふっ! た、立ってポーズ決めてたら、それはそれで……ぶふっ!」
「ぷはっ……ちょ、ヒッキー……! あんまりヘンなこと言わないでよっ……!」
雪ノ下が溢れる光の中、足をクロスさせて、まるで太陽賛歌をしているソラールさんのようなポーズを取る姿を想像したら、それは見事クリティカルとして俺達の腹筋を襲った。
「スタイリッシュって……! ぶはっ! ~~……れ、レペティション・サイドステップも先生が来るまで続けてられねぇんじゃ───……ぶはっ! くっ……くふふ……! い、いや待てっ……すぐに落ち着こう……! こういうパターンだとすぐ後ろに雪ノ下が来て、お馴染みのオチで終わるっていうことばっかり《ぐわしぃっ!》ああもう例に漏れねぇなぁちくしょう!」
その後たっぷり説教されたそうな。
……。
はぁ、と溜め息が聞こえた。
俺も吐きたいよ。つか吐く。
「それで? どういう経緯でそんなことになったのか。聞かせてもらえるのかしら」
「材木座が悪い」
「中二が悪い……かな」
「ぶひっ!? いやっ……わ、我はっ!」
───財津説明中……
「……スタイリッシュかどうかは別として、何故私が自ら“ゆきのんですが”などと名乗るのか。まずそこから説明してもらえるのよね?」
「そ、それは、だな……! つまりそのー……で、あるからしてー……!」
「俺じゃなくて雪ノ下見て言え」
「我にはやはり難度が高いから無理ィイ! そ、そう! こういう説明は得意であろう!? あとは任せたぞ八幡よ!」
「俺にそんなもん求めるんじゃねぇよ……俺に説明しろだなんて言われても、出来るわけが───……あ、じゃあ結衣、任せた」
「ふええっ!? あたしっ!? え、あ、え、えと、えとー…………ゆ、ゆきのんっ!」
「……なにかしら」
「ゆ、ゆきのんってさ! れ、れぺ、れぺー……」
「レペティション」
「そうそれ! レビテーション・サイボーグストーブって出来る!?」
空飛ぶ人工装置登載的人型ストーブの完成である。じゃねぇよ。
「ええと……その。レペティション・サイドステップ、といいたいのかしら……」
すげぇ! ゆきのんすげぇ! 今のでよく拾えたなおい!
「あ、うんそれそれ。できる?」
「……由比ヶ浜さん。それは私に運動が出来ないと言っているようなものよ」
「あわわ違くてっ! 中二が言ってきたことがそれっぽいことだったから、訊いてみただけってゆーかっ!」
ぱたぱたと胸の前で手を振る結衣を見て、次いで俺をじろりと見る。
もちろん俺は肯定の意を込めてこくりと頷いてみせる。
「馬鹿にされたものね……財津くん、あなたがどういった考えでそんな質問を投げたのかは知らないけれど、私は運動神経はとても良いの。反復横跳びくらいわけのないことよ」
「あれ? なぜか我が諸悪の根源みたいに……だが我、こういうノリとか雰囲気……嫌いではないぞ!?」
「んじゃ雪ノ下、一応依頼らしいからやってみてくれ。全部納得させれば依頼達成&材木座も去るわけだし」
「……そう、ね。解ったわ。その挑戦……ではないわね、依頼、受けましょう」
「あ、そだ。ゆきのんゆきのん、運動する前にさ、えっと……ブルーライトカットの眼鏡、つけて?」
「え……けれど運動の時につけるようなものでは───」
「ふぶっ、ふぶるくくコポポォ……!! どうやら雪ノ下嬢は失敗することが怖いと見え───」
「いいわ、付けましょう」
『早っ!?』
鞄からケースを取り、それをスチャリと装着。
徐に立ち上がると、その場に居た全員での耐久
「《ザムゥウ~~~ッ》うじゃああ~~~……」
で、ものの十数回で材木座が脱落した。
「って、いうかっ……だなっ……! なんだって、俺までっ……やらなきゃっ……!」
「それ、いうならっ、あたしもっ、だよっ!」
「あら。人のことを随分と話題にしてくれたくせに、早速息が荒れているわね」
「ゆ、ゆきのんすごっ!? 息っ、全然っ、荒れてなっ……はっ、はぁっ、はふはっ……!」
「ふ、ふふふっ……ふ、ふ───ふーーーっ! ふーーーっ!」
あ、なんかダメだ。怪我したところを蹴られたイチゴ味の聖帝様みたいな感じになってる。
それでもやはり負けず嫌いは発動し、反復横跳びは続き───
「んっ、うっ……ぁぅ……ひ、ひっきー……! あのっ……あ、あたし、胸いたいっ……!」
「なんでそれを俺に言う!? って、あ───」
体力が尽きてからは早かった。
雪ノ下、脱落。
───……。
……。
「そ、そう……つまり、この財津くんが持ってきた、その……坂本……くん? が出来ることを、私にしてみせろという挑発がそもそもだったのね……」
「いやおい待て、挑発って発想はどこから来た」
「うー……かかなくていい汗かいたー……。お風呂入りたいよー……」
「あー……そだな。結衣ももうこんな調子だし、今日はもうお開きにして───」
「待ちなさい。それが依頼だというのなら、解決せずに帰るのは失礼というものでしょう?」
「やめとけ雪ノ下、その負けず嫌いは絶対に後悔しか生まない」
「なにを言っているのかしら引き下がりくん。受けて立ちもせずに敵前逃亡でもするつもりなの? あなたは」
「挑まれてるわけでもねぇのに勝手に対抗心めいたもん燃やしたってしょうがねぇだろ。やめとけ、後悔するから」
「……やるわ。いいから見届けなさい比企谷くん」
「えー……」
やることになったらしいので、仕方なく……まずは“坂本ですが?”を見せることから始まった。
「…………《カタカタカタカタ…!!》」
「雪ノ下」
「《ビビクゥッ!!》へひゃいっ!? な、ななななにかしらっ!?」
「………いや。あー……マジでやるのか? 人間業じゃないことばっかやってるけど」
「や……や、やる、わ……! ええ、やってみせるわよ……!」
「結衣……」
「あ、あはは……こうなっちゃうとゆきのん、全然話聞いてくんないから……」
「……OH」
翌日から、YUKINONの挑戦は始まったのだ。
……。
スタイリッシュ1。落下する黒板消しを華麗にキャッチ。
先に奉仕部の鍵を受け取り、部室で待つこと数分。引き戸が開かれ───
「由比《ボスッ》ヶ…………」
キャッチどころか黒板消しに気づかなかった。
……。
スタイリッシュ2。机と椅子が無いので窓枠の上で優雅に華麗に。
「~~~…………!!《かぁあああ……!!》」
「雪ノ下さん? 窓の前でどうしたの?」
「机がないみたいだけど……」
やる勇気が出せなかったそうだ。
国際教養科の教室でそれが出来たら勇者な。マジ勇者。
……。
スタイリッシュ3。咄嗟の超空気椅子。
奉仕部にて紅茶を淹れたのちに座ろうとした際、椅子を取られても対応出来「《ドテッ!》きゃんっ!?」……る、か……。
「………」
「………」
「………………《スクッ! ババッ!》」
「ああっ! 空気椅子やり直した!」
「ゆきのんすごい! めげない!」
出来なかった。
……。
スタイリッシュ4。蜂の襲撃に冷静に対応し、マナービーンズが出来るか。
「………」
「………」
「…………蜂、こないね」
「…………だな」
そうそう来るわけがなかった。
……。
その後も雪ノ下は様々なスタイリッシュに挑戦しては顔を朱に染めることになり、しかし決して諦めようとはしなかった。
やがてその努力が実を結び、次第に体力がついてゆき、様々なスタイリッシュな行動にも対応出来るようになり、総武高校にその人ありとまで言われるほどの圧倒的COOLでスタイリッシュな女子高生として有名になった。
「………」
「……なんつーか……ここも随分と静かになっちまったな……」
「そだね……。今日もゆきのん、ひとりで解決してるのかな……」
「かもな……。あいつ一人で解決できるようになってからというもの、手伝えることが無くなっちまって……」
「………」
「………」
「……ヒッキー。あたし、やだよ……。このまま、なんて……やだ……やだよ……」
「……けど、じゃあどうするってんだよ。あいつの真似して限界を越えろってか?」
「解んないよ。解んないけど……でも……!」
「結衣…………解った。俺だって、このままでいいなんて思ってねぇよ。だから……やるぞ、結衣。俺たちも行くんだ……あの高みに……!」
「ヒッキー……! うんっ!」
その日から、俺と結衣の努力は始まった。
出来ることを増やすことから始め、その全てをスタイリッシュに解決するための力をつけるためにも努力を続けた。
やがて俺達も同じ高みへと昇り詰め、追いつき、雪ノ下が生徒会に入るのをきっかけに、生徒会奉仕部を設立。
生徒の悩みをクールかつスタイリッシュに解決する、生徒会が誕生したのだった。
「ねぇ、ヒッキー《シャババババババスタァーン!》」
生徒会室の一角にて、結衣が書類の枚数を素早く数え、纏め、揃えて片づける。
窓からふわりと吹く風が髪を揺らし、とても美しく見える。
「なんだ、結衣《トタタタタタタンッ!》」
俺も速読の要領で書類を確認、料金確認などの書類に手早く印鑑を叩き、処理を完了させる。
「これ……なんか違くない?」
「……言うなよ」
「まったくあなたたちは……。私一人でもなんとかなったというのに」
「人のやり方には待ったをかけるのに、自分一人の行動は肯定、ってのは違うだろ。だからそれを止めるために、俺も結衣も来たんだ」
「そだよ、ゆきのん。同じ目線じゃなきゃ届かないことってさ、あるよ。ゆきのんがどうとかじゃなくってさ、あたしたちが来たかったんだ。そりゃ、やっぱちょっと違うかなーとは思うけど」
「やれやれ、本当に仕方のない人達ね……」
「その坂本くんチックな返事の仕方やめろ……」
輝かしい高校生活。
俺達奉仕部は……今日もまちがった方向に全力でクールでスタイリッシュだった。