時は深夜、悪魔になった俺は下積みということで、チラシ配りをしている。配ると言っても昼間に街頭でやってるのではなく、携帯機器で地図を確認し、点滅している家のポストに投函するだけの簡単なお仕事。ただし自らの足で。自転車があったらしいのだが一台しかないらしい、だから今回はイッセーに譲った。次は俺が使わせてもらいたいが。まあ、なまった体を鍛えるにはちょうどいい、深夜のランニングといった風情だ。
少し時は遡り、オカ研で全員顔合わせした日。俺は転生悪魔という種類に属されるらしい、そんな転生悪魔は転生させてくれた主のもとで、下僕をやっていくのが悪魔のルールらしい。なんで人を転生させて悪魔にしているのか? と聞くと、理由としては昔の戦争で、多くの純粋な悪魔が亡くなってしまったらしく、それで下僕を集めているそうだ。それならば、子供が出来れば万事解決なんじゃないか? と聞いたところ、悪魔は出産率が低いらしく、それでは堕天使に対抗できないから、素質のありそうな人間を悪魔側に引き込むことにしたそうだ。
そんで爵位の話に移った、生まれや育ちはあれど、成り上がりもいたりする、最初はみな素人なんだとか。んで昔のような権威を取り戻すためには力をつけなきゃなんないし、力のある悪魔も増やさなきゃならない、でも下僕が多いだけじゃ力のありそうな悪魔を再び存在すさせることにはならない。だから転生者にも力があれば爵位をくれるらしい、つまるところ、力があれば多少の権力も手に入るみたいだ。
正直に言ってしまうと、権力とか爵位とかどうだっていい。そんな雲の上の世界の話なんて知ったことじゃないし。しかしイッセーの方は超やる気だ、ハーレムとか言ってる、まだ諦めてなかったのか。
「イッセー、アク。私の下僕ということでいいわね? 大丈夫、実力があるならいずれ頭角を現すわ。そして爵位ももらえるかもしれない」
「はい! リアス先輩」
「了解っす、グレモリ―先輩」
そのあとは、呼び方をちょい指摘された。部長の方がしっくりくるし、学校を中心に活動しているからそちらの方がいいらしい。
夜に訪れていた謎の変化は悪魔の力だったらしい、悪魔だからこそ闇の世界になると力が増大する。その反面光が苦手になるそうだ、つまり朝の謎のだるさは、悪魔になったせいか。それに関してはちょいと腹が立った、悪魔は光を嫌う、光は猛毒。それが悪魔の共通認識と部長は言っていた。そのあとの話で驚いたのは、イッセーも同じ日に中さんから襲撃を受けたらしい、その時に部長に助けられたんだとか。俺は、とりあえず中さんに襲われたことを報告した。最初は中さんって誰よ? って顔をされたけど恰好を説明したらわかってくれた。因みに中さんの名前は、ドーナシークと言うらしい。超どうでもいいけど、だが卵の恨みは忘れんぞ。
さて、お仕事の話に戻ろう。眷属を呼び出すための魔法陣(部室の下に描かれていたアレ)が描かれたチラシは、一度使うともう使えなくなるらしいので使われたら、もう一度投函しに行かねばならない。いまだに召喚に応じたことがないのでわからないが、召喚されたら対価をもらい願いを叶える、もちろん願いと対価が釣り合わなければ契約は破談となる、部長曰く「人間の価値は平等じゃあない」だそうで、それを聞いた瞬間涙が出そうになった。
簡単なお仕事をそれなりにこなしていたとある日の放課後、いつも通り旧校舎に向かう。
「おはようございます」
俺のあいさつはいつもこうだ、もちろん理由はない。部室に入るとすでに全員揃っていたが、何故かイッセーが部屋の中央で涙を流して泣き崩れていた。何があった? と木場君に聞いてみると、イッセーにもとうとう契約を取りに行けるよう許可が出たらしいが、魔力が低レベル過ぎて魔法陣で依頼主のもとにジャンプできなかった、そして塔城さんに追い打ちをかけられたそうだ。そして泣きながら走って依頼主のもとへ向かっていった。辛辣だなぁ、もうちょいオブラートに包んであげてもいいのに。口には決して出さないけど。
「アク、あなたもチラシ配り御苦労さま、悪魔としての仕事を本格的にはじめてもらうわ」
姫島先輩が何か、呪文のようなのを詠唱し始める。それとともに床の魔法陣も青白い光をともす。なんでも俺の刻印を読み込ませているらしい、床の魔法陣は「グレモリー」を表すもので、いわゆる家紋のようなものらしい。
「アク、掌をこっちに出して」
手を差し出すと、部長が俺の掌をなぞる。すると手のひらに青白い魔法陣が光る。曰く転移用の魔法陣を通って依頼主の所に瞬間移動するためのもので、契約が終わると自動的にこっちに帰ってくるのだそうで。ちなみに今回は準備だけ、俺様チャンには依頼は回ってきてないご様子、あとは念のために魔力を検査された。まあ、イッセーには悪いが出来なかったやつがいたんだ、検査するのも頷ける。因みに魔力の方はというと良くも悪くも普通くらいだそうだ。
翌日、部室の空気がひどかった。なんというかぴりぴりしていた、部長に至っては怒ってるし。もう、このまんま何か適当に理由をつけて、帰ってしまおうかと思ってしまいたくなった、実際思ったけど。それを実行しようとしたら木場くんに食い止められた。なに? 君はそんなに俺の進路を邪魔したいの? と素で思った。だから諦めて鞄から文庫本を取り出して読みふける。そして待つこと十数分、イッセーが部室に来た。申し訳なさそうな顔で。
昨日の契約は破談に終わり、そのケアとして朝までドラグ・ソボールごっこをしていたらしい、そして依頼主にアンケートを取っているらしいんだが、その内容は『楽しかった。こんなに楽しかったのは初めてです。イッセーくんとはまた会いたいです。次はいい契約にしたいと思います。』だそうで。こんなことは初めてだったらしく反応に困ってたらしい。反応に困っただけであんなに空気が悪くなるとは……恐るべし部長。
今日は、俺にもお仕事が来ていた。イッセーは汚名返上のために張り切ってチャリを漕いで行った。
「では、部長行ってまいります」
部室の魔法陣の上に立つ、すると魔法陣が強く光る。驚いて目をつむると、何とも言えない浮遊感のような感覚が全身を襲い、すぐに浮遊感が無くなる。目を開けると、そこはおよそ12畳ほどのぬいぐるみが大量におかれたファンシーな部屋だった。
「俺を召喚したのは君か? ……って川平さん?」
「あれ、大禍くん!? なんで、私は悪魔を呼んだはずなのに……ということは……」
「そう、残念ながら俺がその悪魔なんですよ」
まさか最初の依頼主が、前の学校のクラスメイトの川平さんだとは思わなかった。
「久しぶりだね、冬休みが終わって学校に行ったら、大禍くん、いなくなってたからどうしちゃったんだろう? って思ってたけど元気そうだね」
「まあ、色々とね。川平さんはこっちに住んでたんだ、少し驚いたよ。さっそくお仕事の話になるけど、今回はどのようなご依頼で?」
「うん。その……ね、お料理を教えてほしいの」
「料理? うん、わかった。ちょっとまって、対価の方を調べてみる……okそう大した対価じゃあなさそうだし、その依頼お受けいたします。でもなんで料理なんか、悪魔じゃなくて母さんに教えて貰ったらいいのに」
「うちのお母さんもお父さんも仕事が忙しくて、いつも夜遅くに帰ってくるの、それでお母さんとお父さんを驚かせたくて、こっそり覚えようと思ったんだけど……」
「なかなかうまくいかずに、悪魔を呼んだと」
「うん」
しかし俺でいいんだろうか? 料理なら姫島先輩や塔城さんの方が、良かったりするんじゃあないだろうか。まあ、受けたのは俺だから精一杯やるけど。
結果しんどかった、こんなに川平さんが、ドジっ子属性を持っているとは思わなんだ。まあでも、本人が納得できるものを作れて何よりだと思う。俺も契約を取れたわけだしね、イッセーより一歩リードだ。
「それじゃあね親孝行がんばってね」
「うん、ありがとう。でも意外だなぁ、大禍くんが料理できるなんて」
「まぁ、只今絶賛一人暮らし中だしな。しかしそんなに以外か?」
「うん結構。なんか、全部コンビニのお弁当で済ましちゃいそうなイメージ」
「あぁ、最初の方はそうだったんだけど、少ししてから自炊した方が安上がりだと気づいて、自炊しだした。最初に作ったのが不味いのなんの、そんでどうせ食うなら、うまいもんが食いたいと思いながら作ってたら、いつのまにか上達してたのよ」
「そうなんだ。私も、おいしく作れるよう頑張る。あの……また呼んでもいい?」
「いいよ、次もお役に立てるかは、わかんないけどね」
そう言って俺は部室に帰還していった。ちなみに対価はぬいぐるみ二つだった。翌日、部室でであったイッセーはものすごく眠そうだった、また徹夜だったらしい。詳しく聞くと筋骨隆々の男がゴスロリ衣装を着こんで、魔法少女にしてほしいとのたまったそうだ、それはきつい、二つの意味で。しかもすでに異世界に転移したこともあるそうだ、一体何者なんだ。そのあと、魔法少女モノのアニメを朝まで見ていたらしい。
「なんつーかドンマイ」
とりあえず俺は、慰めておいた、慰めに入るかは知らんけど。昼間の部活が終了、イッセーとともに帰ろうと思ったが、晩飯の買い物があるので途中で別れて帰った。卵が完全になくなってしまったしな。
「二度と教会に近づいちゃだめよ」
夜の部活のために部室に入ってきた瞬間、部長がいつになく険しい顔でイッセーに警告していた。いろんな意味でタイミングがちょうどよかったみたいだ。
「教会は私たち悪魔にとって敵地。踏み込めばそれだけで神側と悪魔側の間で問題になるわ。今回はあちらもシスターを送ってあげたあなたの行為を素直に受け止めてくれたみたいだけれど、天使たちはいつも監視しているわ。いつ、光の槍が飛んでくるかわからなかったのよ?」
へぇ、教会とかと仲が悪いって言ってたけどそんなに悪いのか。当り前か戦争してたんだし、つかイッセーは何をやらかしたよ。
「教会の関係者にも関わってはダメよ。特に『
うへぇ、悪魔祓いマジ怖えぇ。つか俺にも気づいたみたいだが、すげえ眼力だ、そんだけ心配なんだろう。
「人間としての死は悪魔への転生でまぬがれるかもしれない。でも悪魔祓いを受けた悪魔は完全に消滅する。無に帰すの。――無。何もなく、何も感じず、何もできない。それがどれだけのことかあなたたちにわかる?」
正直にいえばさっぱりわからない、人間としての死のイメージとなんら変わらない気がする。人間だって、死んだら天国やら地獄やらに行けるとかあるけれど、実際にみてきたわけじゃあない。人間が死んだら自分の意識はどうなるのか? それこそさっき部長がいったような、無に帰るような気がする。肉体的には骨は残るけど。
俺の思案顔、イッセーの反応に困った様子を見て、部長は我に返ったように首を横に振る。
「ごめんなさい、熱くなりすぎたわ。とにかく、今後は気をつけてちょうだい」
「「はい」」
俺とイッセーはほぼ同時に返事をした。若干の沈黙が訪れてしまったので、何をやったのか聞いてみよう。
「そういや、なんでこんな話になっているんだ? 教会がどうのとか」
「おう、実はさ、途中まで一緒に帰ってただろ? そのあとシスターさんにぶつかってな。その子が、俺の理想の女の子像まんまの金髪碧眼の美少女だったんだよ! それでその子、今日からこの町の教会に赴任するみたいで、言葉も通じず教会を探すのに手間取ってたみたいなんだ」
「ほぅ、金髪のシスターさんか。なるほど、それでさっきの教会の話につながるわけか」
「おっいつもは反応の悪いアクでも、少しは興味がわいたか?」
「いや、全く。それに、お前の理想がどんなものかがわからん。イッセーが好みなタイプでも、俺の好みのタイプというわけでもないからな」
「あらあら、楽しそうですわね。お説教は済みました?」
いつの間にか姫島先輩が、俺たちの後ろでいつものニコニコ顔で立っていた。気配を感じなかっただけにビビった。
「朱乃、どうかしたの?」
姫島先輩は、表情を曇らせながら答えた。
「討伐の依頼が大公から届きました」
討伐。その言葉に、ものすごいいやな予感を感じ取った。悪魔のお仕事は、今までみたいな平和なものだけではないのかもしれない、いや平和なものだけであってほしい。