―――はぐれ悪魔。
そんなのがいるらしい。爵位持ちの悪魔に下僕としてもらったのが、裏切りもしくは主を殺して主なしとする事件がまれに起こるらしい。
悪魔の力は強く、大きい。人間とは比較にもならないほどに、だからこそ自分のために使っていたくなるものもいるそうだ。そいつらが主のもとを離れ、各地で暴れまわる。そいつらを「はぐれ悪魔」と呼ぶ。この前、中さんことドーナシークに襲われたのも、はぐれ悪魔と思われたようだからだ。多分、そうじゃなくても攻撃を仕掛けられてたがするけど。
やつらは野良犬のようなもの、野良犬は害をなす。見つけ次第、主人もしくは、他の悪魔が消滅させることになているらしい、それが悪魔のルール。
他の連中にも、危険視されて天使、堕天使も「はぐれ悪魔」を見つけ次第ぶっ殺すそうだ。制約を逃れて、野に放たれた悪魔ほど、怖いものはないらしい。話を聞く限りじゃ周りの被害関係なく暴れそうだしな、なんつーか良心がなさそうなイメージ。でもはぐれって言うくらいだ、きっとワイバーン・クエストのはぐれジュラルミンとか、バブルクリスタルとかの半液体みたいなものに違いない。
オカルト研究部一同は、町はずれの廃屋に来ていた。毎晩、ここで「はぐれ悪魔」が人間をおびき寄せて食らっているそうだ。それを討伐するように上級の悪魔さんから依頼が来た。これも悪魔のお仕事だそうで。もっと平和なお仕事でいいです、マジで。
てか、悪魔になると味覚も変わったりするんだろうか? そもそも雑食動物の肉は臭いが酷くて不味いらしいし。
「なぁ、なんで人を食うんだ? 美味いのか?」
ふっと出てきた疑問を口にしたら、オカ研の皆さまからため息をもらった。
「さあ? 少なくとも、人間を食べてるはぐれ悪魔からしたら、美味しいんじゃないかな」
木場君からそんな答えをもらった。なんか変な空気にして申し訳ない気分になってきた。しかし変な臭いがするな、なんというか生臭いというか形容しがたい臭いというか……。
「……血の臭い」
塔城さんが制服の袖で鼻を覆う、なるほどこの臭いは血の臭いか、覚えておこう、何かの役に立ちそうだし。
「イッセー、アク、いい機会だから悪魔としての戦いを経験しなさい」
無茶言わんといてください部長、イッセーの籠手ならともかく、俺の神器は物理攻撃力皆無の首輪なんだから。
「マ、マジっスか!? お、俺、戦力にならないと思いますけど!」
「右に同じく」
「そうね。それはまだ無理ね」
まあ、わかってたけど直に言われるとちょい傷つく、たとえ事実でも。
「でも、悪魔の戦闘を見ることはできるわ。今日は私たちの戦闘をよく見ておきなさい。そうね、ついでに下僕の特性を説明してあげるわ」
「「下僕の特性?」」
「主となる悪魔は、下僕となる存在に特性を授けるの。……そうね、頃合いだし、悪魔の歴史も含めてその辺を教えてあげるわ」
やめてください勉強なんてしたくないですめんどくさい、高校の勉強で十分です。しかし悲願も空しく部長達が歴史のことを話し出した。要約すると、三勢力で大掛かりな戦争をしたけれど、勝者は居らずただ疲弊しただけで終結した。そんで、爵位を持った悪魔の方も軍勢を保てないほど失った。だけども他の勢力のにらみ合いは続いている。他の勢力も疲弊しているとわかっていても、隙を見せたら潰されるかもしれない。だから……。
「そこで悪魔は少数精鋭の制度を取ることにしたの。それが『
「「イーヴィル・ピース?」」
なんか、めんどくさそうな話だけど、聞いといた方がよさそうだ、後のために。
「爵位を持った悪魔は人間界のボードゲーム『チェス』の特性を下僕悪魔に取り入れたの。下僕となる悪魔の多くが人間からの転生者だからって皮肉も込めてね。それ以前から悪魔の世界でもチェスは流行っていたわけだけれど。それは置いておくとして。主となる悪魔が『
「好評? チェスのルールがですか?」
「競争心が出てきた。とかじゃあないか? 強い下僕をもってれば、その主も評価も上がりそうだし」
「そのとおりよアク。その結果、チェスのように実際のゲームを、下僕を使って上級悪魔同士で行うようになった。駒が生きて動く大掛かりなチェスね。私たちは『レーティングゲーム』と呼んでいるけれど。どちらにしてもこのゲームが悪魔の間では大流行。今では大会も行われているぐらいだわ。アクが言ったように駒の強さや、ゲームの強さが悪魔の地位爵位に影響するほどにね。優秀な下僕はステータスになるから」
なるほど、強ければ爵位がもらえるってのはこういうことなのか。しかし悪魔のゲームに駆り出される人間か……ちょい複雑な気持ちだ。
「私はまだ成熟した悪魔ではないから、公式な大会などには出場できない。ゲームをするとしてもいろいろな条件をクリアしないとプレイできないわ。つまり、とうぶんはここにいる私の下僕がゲームをすることはないってことね」
「じゃあ、木場たちもそのゲームをしたことはないってことか?」
「うん」
木場君はイッセーの質問に頷いて答えた。
「部長、俺の駒は、役割や特性って何ですか?」
イッセーが聞く。俺はとりあえずスル―。後でもわかるし。
「そうね―――イッセーは」
そこまで言って話が止まる。理由は簡単、さっきの血の臭いと殺気が濃くなってきたからだ。プレッシャーのようなものを感じる、押しつぶされそうな威圧感、感じたことのない感覚だ。
「不味そうな臭いがするぞ? でも美味そうな臭いもするぞ? 甘いのかな? 苦いのかな?」
低く震える声、恐怖感が募る。こいつは味云々人を食っているのだとわかった、限りなく悪魔のイメージに近い邪悪な存在だ。
「はぐれ悪魔バイサー。あなたを消滅にきたわ」
部長が堂々と言う、この人には恐れるってことは……同じ悪魔だしほとんどないか。次の瞬間謎の笑い声のようなものが響く、確実に人間じゃあ出せないような奇怪な音。
ズズンと廃屋が揺れて、バイサーが姿を現す。宙に浮いた上半身裸の女性だった。俺はあわてて手で目を覆う。
「何だこいつは! このド変態がはぐれ悪魔か!? 破廉恥な!」
はぐれじゃないやん。誰だよはぐれジュラルミンみたいな半液体だなんて言ったの、いや俺だけどさ、でもこんなの予想しないじゃん普通。
「落ち着きなさい、あいつは人の形はしているけどただの化け物よ」
そうだあれは人じゃあないんだ。ただの化け物ただの化け物、いわゆるアレだ、犬とか猫とかを普通に見てるのと同じだ。犬猫の裸でなんかで恥ずかしくなったりしないぞ。頭の中で暗示をかけようとブツブツ呟いていると、木場君がポンと俺の肩をたたく。
「大丈夫だよ、主を失って好き勝手生きる悪魔は、肉体も心も醜悪になるから。ほら、あんな風に」
木場君の言葉を信じて目の前の手をどけると、先ほどまで暗くて見えなかった下半身がよく見える。冒涜的、という形容がとても似合っていた、例えるならケンタウロスの様な風貌に、下半身は獣の様に毛むくじゃらだが足は馬ではなく人の足。しかし一つ一つが太く指には鋭い爪が生えている。そして何よりでかい、主に体全体が、少なくとも身長172cmの俺のおよそ3~4倍くらいはある。だが木場君にはお礼を言いたい、あれは完全に化け物だ、もう恥ずかしさのかけらもない、怖いけど普通に。
「主のもとを逃げ、己の欲求を満たすためだけに暴れまわるのは万死に値するわ。グレモリー公爵の名において、あなたを消し飛ばしてあげる」
部長カッケー何かファンタジー小説の主人公みたい。
「こざかしい小娘がぁぁ! その紅の髪のように、お前の体を鮮血で染め上げてやるわぁぁ!」
こっちも、ものすごく悪役チックな叫び、漫画とかの一番最初の敵みたいだ、言葉のセンスがちょっとおしゃれ。
「雑魚ほど洒落たセリフを吐くものね。祐斗」
部長の命令を受けて、木場君が剣を鞘から引きぬいた瞬間姿が掻き消えた。
「イッセーさっきのレクチャーの続きをするわ。祐斗の役割は『騎士』、特性はスピード。『騎士』になったものは速度が増すの」
早い、目で追うことすらできない。次の瞬間バイサーの両腕が、血しぶきを上げながら宙を舞い埃まみれの床に転がる、グロい。
「これが祐斗の力。目では捉えきれない速力と、達人級の剣さばき。二つが合わさることで最速のナイトとなれる」
ナイトはスピードか。残るはルーク、ビショップ、クイーン、ポーンか、チェスのルールは全く知らんから予想ができない。両腕を切られてのたうちまわるバイサーを見ながら思案していると、その足元に塔城さんが近づいていった。
「次は小猫。あの子は『戦車』その特性は――――」
部長の解説の途中でバイサーが塔城さんに標的を変える、いつの間にか顔が人間の女性の美しいそれではなく、おぞましい化け物の顔になっていた。巨大な足を振り上げ全体重を乗せて踏みつぶしていた。しかしよく見ると、足が床にくっ付いていない。むしろ少しずつ浮き上がってくる。
「見た感じ、異常なまでの力と防御力って感じだ」
完全にバイサーの足を持ち上げて、余所へ抛り高くジャンプ。丁度腹付近に到達すると、俺も食らった覚えのある拳を抉るようにねじ込んだ。その瞬間バイサーは、はるか後方へと吹っ飛んで行った。あの巨体であれだけぶっ飛ぶってことは、前に食らったあれは、どれだけ手加減されていたものなのだろうか、想像するだけでゾッとする、あなおそろしや。
「最後に朱乃ね」
部長に指名されて吹っ飛んで行ったバイサーに、ゆっくりと近づいていく姫島先輩。
「危ない! 部長」
急にイッセーが叫んだ。その叫びにギョッとして振り返ると、先ほど木場君が切り落としたバイサーの片腕が、部長に向かって動いていた。
「
イッセーは
「あ、ありがとう」
「ああ、いや、体が勝手にっていうか……」
「ナイスイッセーかっこいいぜお前」
俺はイッセーに、思ったことと同じ言葉をかけてサムズアップする。実際その場から動けなかった俺から見たら普通にカッコよかった。
「朱乃、やってしまいなさい」
「あらあら、部長に手をかけるなんておいたする子は、お仕置きですわぁ」
姫島先輩は両手を前に広げて、手と手の間で雷をバチバチと鳴らせる。電気を出せるのかオカ研の人ら……つか悪魔ってみんな怖いのばっかなのかよ。
「彼女は『
「あらあら、まだ元気そう。これならどうですか?」
バチバチと両手から
「ギャアァァァァ!」
ジュゥゥゥ、と叫びをあげるバイサーの、全身の肉がところどころ焦げてぴくぴくと痙攣している。
「あらあら、まだ元気そうですわね? まだまだ行けそうですわね?」
二発目の電撃。焦げてない部分を探すのが難しいくらい黒焦げになる。
「アバババババババババババ」
三発目。なんだ、電撃受けても相手を馬鹿にする余裕はあるみたいだな。ちらりと姫島先輩をみると恍惚とした笑みを浮かべていた。怖いよ、つか絶対楽しんでるよアレ。
「朱乃は魔力を使った攻撃が得意なの。雷や氷、炎などの自然現象を魔力でおこす力ね。そしてなによりも彼女は究極のS」
S、俺はその手の性癖を持った人はあんまり関わりたくない、他人がSだと評価する人は別にかまわないのだが……。大体自覚がない奴ならまだしも、自分をドSだというやつは総じて性格が悪い。ソースは俺。つかドSとか言っておけば何やっても許されるみたいな思考を持ってることが腹立つ。まぁ、俺の出会った人間がそんなんだったから誰にでも当てはまる話じゃあないが、と思考に邪念という名の悪意が入った。
それから数分の間、姫島先輩の電撃攻撃は続いた、ぐったりと突っ伏してだらしなくよだれを垂らす姿を、部長が確認して頷いて手をかざす。
「最後に言い残すことはあるかしら?」
「最後の……晩餐だあァァァァァァ!!」
どこの筋肉を使ったかはわからないが、突如ものすごい勢いで、俺に向かって顔面から飛びかかってきた。突然ことでイッセーも、木場君も、塔城さんも、姫島先輩も反応できなかった、部長はこちらに手を向けるが、俺にも当たってしまうと思ったのか攻撃することをためらった。
「
戦うならなら覚悟を決めろ、ただで殺されるくらいなら、悪あがきくらいはしてやる。
「オルァ!!」
偉い人いわく人間は声を出した瞬間、結構な力か出るんだとか出ないんだとか、そんなことを聞いた覚えがある。それはさておき、見事にバイサーの鼻っ面に膝蹴りが直撃し、元の場所へと吹っ飛んでいく。つか膝いてぇぇ! あいつ顔面硬すぎだろ膝の皿が割れるかと思うくらい硬ぇ、涙が出てくるよ。
「消し飛びなさい。慈悲の隙をついて、私の下僕に不意打ちをかけるなんて、万死に値するわ」
部長はバイサーに掌を向ける、ドス黒い魔力の塊がバイサーを飲み込む。魔力の塊が消えると、もうそこにはバイサーの姿はなかった。消し飛べの言葉通り消え去った、骨の一かけらどころか塵すらも残っていない。や、残ってても困るんだけど。俺は落っことしたカチューシャを拾い上げて、前髪がすべて後ろにいくようにつける。
「討伐完了ね。みんな、ご苦労さま。アク、大丈夫?」
「えぇ、まぁ、なんとか」
まだ膝痛いけど。張りつめた空気も無くなって、いつもの平和な空気に戻るこれで場所さえ良ければと言っちゃあいけない。
「部長、聞きそびれてしまったんですが、俺の駒……下僕としての役割はなんですか?」
と、役割についてイッセーが口にした。残りは『
「『
デスヨネ。