「俺の役割か……」
そんなことを考え、呟きながら晩飯を作る。平和に安息な日常を、ただただ過ごして生きていたいのが俺だ。ただしそれは母親の交通事故や、急な一人暮らしと転校、しまいには悪魔やら堕天使やらの非日常でファンタジーな連中に破壊され、なおもその非日常の渦中に足どころか肩まで浸かっている。ならばいっそ平和に生きたいという自分の心と行動指針に反旗を翻して、非日常に染まってみるのも悪くはない、悪くはないだけでそれを納得できてなおかつ面白いかは別だしやらないけど。
「はぁ……幸せだ……ただし膝が痛くなければだけど」
晩飯が完成してコーヒーを飲みながらのんびりと夕餉を楽しむ、今回はドリアに挑戦してみたが味は及第点と言ったところか、悪くない。ただ、少し焼きが甘かったかホワイトソースの焼き色が良くない、少々残念だ。
深夜、本日の契約のために魔法陣に乗る。いつもの浮遊感とともに眩い光に包まれてジャンプする、地に足がついた感覚を確かめ目を開くと、一軒家の玄関の前に立っていた。春先の微妙にひんやりとした風と共に前に嗅いだ事のある異臭がする、血の臭いだ。緊急事態の可能性もある、玄関のドアに手をかけるとスッと開く、その瞬間更に濃い血の臭いが鼻孔をついた。靴も脱がずリビングらしき場所に飛び込むと、若い白髪の男がおそらくこの家の世帯主であり、俺の依頼主であろう傷だらけ男性の髪をつかんで持ち上げていた。
「んーんー。これはこれは。悪魔くんではあーりませんか」
白髪の男は持っていた男性を壁に投げつけて、フラフラと酔っ払いのようにこちらに歩み寄ってくる。直感が告げているこいつはヤバい、心の中で警鐘がガンガン鳴り響く。得体のしれない悪寒のようなものが背筋を走りぬける。
「俺は神父♪ 少年神父~、デビルな輩をぶった斬り~、ニヒルな俺が嘲笑う~お前ら、悪魔の首はねて~俺はおまんま貰うのさ~」
急に歌いだした白髪の男、だがこいつは今自らを神父だと歌った、つまりこいつは
「俺のお名前はフリード・セルゼン。とある悪魔祓い組織に所属してる末端でございますですよ。あ、別に俺が名乗ったからって、お前さんは名乗らなくていいよ。俺の脳容量にお前の名前なんざメモリしたくないから」
「ケッ同感だ。テメェみてぇな人の皮かぶった、糞みたいな神父の名前覚えさせられた俺の身にもなりやがれよ。吐き気を催すぜ」
「言ってくれるねぇクソ悪魔の分際でよぉ!」
俺の安い挑発に乗って神父が走り出す。右手に筒のようなものを、左手には拳銃を懐から取り出す、ヴンという音ともに白っぽい光が筒から飛び出し刃を形成する。光の剣を振り上げて袈裟切りの様に斜め上から斬り下ろす。
ギリギリのところで回避したが、右ふくらはぎに焼け焦げるような激痛が走った。神父の持つ拳銃の銃口から煙が上がっていた。
「ぐあああっ!」
この痛みを俺は知っている、光の槍を受けた時と同じだ!
「どうよ! 光の弾丸を放つエクソシスト特製の祓魔弾は! 銃声音なんざ発しません。光の弾ですからねぃ」
「……痛くも痒くもねぇよ、テメェの腐った弾丸じゃあな」
ゴボリとふくらはぎの銃創から血の塊があふれ出す、正直額からじっとりと脂汗がにじみ出てくるほど痛い。
「あぁん? なんかそのセリフ聞き覚えありますなぁ、なんだっけ? ああ! あーあー思い出した! 前にここらへんでぶっ殺したクソアマが言っていやがったんだ。チッ! 思い出すだけでむかっ腹立つぜ! 念入りに殺してやったけどな。んーんー? つかよてめぇあのクソアマに似てんな」
何だこいつは、誰のことを言っている。俺に似た女性、この辺り。二つのワード、ふと母さんが交通事故で死ぬ前日の会話を思い出した。
『ごめん、明日隣の町まで仕事に行かなきゃならんくなっちった。時悪が帰ってくるまでに帰ってこれるかわかんないけど、晩御飯時までには帰ってこれるから待っててね、年末だし買い物してこなくっちゃ』
隣の町とは今この町である。そして俺に似ている、母さんからも若いころの私によく似ていると言われたこともあった、白い髪も含めて……。ふつふつと業火の様な怒りが湧いてくる、死因を交通事故と聞かされていた母さんがエクソシストに殺されていた。理由は分からない、悪魔に関係していたなんて聞いた覚えもない。だが一つだけわかったことがある、こいつは母さんの敵だ、そして間接的に俺を悪魔にした。
俺は
『ほう、お前が今回の相方か。しかも適正者ときたもんだ、こいつは面白い』
誰だ、お前は? 今回の相方ってなんだ。
『そんなこと、今はどうでもいい。それより最初の邂逅だ、俺から一つ今を生き残るためのアドバイスと現状を打破するために、お前の持つ力を導いてやろう。生き残ることができたなら、俺のことを教えてやろう』
一方的に会話を打ち切られて巨大な影が消える、すると灰色の世界が急に晴れ、元のリビングに戻されふくらはぎの痛みも戻る。だが、いくばくか状況が変わっていた。クソ神父が光の剣を振り上げているが、膝をついている俺の目の前に修道服? を着て、ヴェールの内側からキラキラときれいな金髪を揺らす女性が俺を庇うように立っていた。シスターのはずだが、なぜ俺を庇ったりするんだよ。
「……おいおい。マジですかー。アーシアたん、キミ、自分が何をしているのかわかっているのでしょうかぁ?」
「……はい。フリード神父、お願いです。この方を許してください。見逃してください」
「必要ねぇ、このクソ神父は俺が殺す!」
歯を食いしばって立ち上がり、アーシアと呼ばれたシスターの肩を掴んで端へどける。
『まずは、お前の持つ力を導いてやる。
謎の灰色空間で聞こえた声が、直接頭に響く。俺が今、最も欲するもの。それは、このクソッタレ神父をぶん殴るための拳だ。
『強く、強くイメージしろ。そして叫べ! カオス・クリエイタ―と!』
「
『Dragon Creator!!』
さっきまで頭から響いていた声が、現実にも発せられる。暗かった部屋に、
『Creation!!』
首の後ろ辺りから音声が発せられ、右腕に銀色の光に包まれる。強く拳を握るとミシッと軋んだ音を立てる、右手を見ると少しくすんだ銀色の
『ふっ、最初にしては上出来だ。ここからは今を生き残るためのアドバイスだ。今のお前の心には、奴に殺されるんじゃあないかという恐怖がある。だがそれとは別にお前の心は、怒りと復讐心に満ちている。怒れ、怒りで恐怖を抑え込み、怒りで痛みをねじ伏せろ』
そのアドバイスに俺は従った。
「フリィィィィドォォォォ!!」
「真正面から突っ込んでくるとか頭イカれてんじゃねーの? バイバーイ! クソ悪魔くーん」
フリードが銃口を俺に向ける、だがそのスピードはゆっくりだった。フリードが遊んでいたり、ふざけているわけでもない、すべての動きがスローモーションに見えていた。トリガーに指をかけて握りこむ、その時の銃口の一直線上には俺の眉間が狙われていた。首を左に思いっきり捻り回避を試みる。光の弾丸が右側頭部を軽く掠める、ジュウと肉が焦げるような音が聞こえ、ピリリと痛む。距離を詰めるためにさらに一歩踏み込むと、フリードは肩口まで光の剣を上げ切っ先を俺に向ける。
「いらっしゃーい、クソ悪魔くんの串刺し、いっちょアガリィ!」
光の剣をまっすぐ俺の眉間に突きを放つ。俺は突きの軌道を予測して、左掌を刃に無理やり貫通させて、フリードの右手と光の剣の柄ごと握りこみ剣を封じる。
「バァァァァァァカ! そのまんまさっさとくたばっちまいなぁ! おまえのドタマにフォーリン―――グベ!」
フリードが喋っている最中に、文字通り鉄拳をフリードの顎に右下から掬いあげるようにぶち込む。グラリと吹っ飛ぶようにのけ反るが、吹っ飛ばすようなへまはしないようフリードの拳を砕かんばかりに握り締める、むしろ握りつぶしてやろうとさえ思った。
「チョーシぶっこいてんじゃあねぇぞゴミクズがぁぁぁ! 死ね! 死ね死ねクソ悪魔!」
俺の脇腹に二発ほど祓魔弾を受けたところで、肘打ちを拳銃に打ち付け拳銃をたたき落とす。そして思いっきり振りかぶり鼻っ面に拳を突き刺したところで、鎧が砕け、急激に全身の力が抜けて掴んでいた左手を放してしまい、フリードが吹っ飛んで行ってしまった。足がもつれ膝から崩れ落ちてうつ伏せに倒れる、指一本動かない。
『残念だが光を食らいすぎたな、それに血も流しすぎだ。そのままだと失血死するぞ』
マジかよ、ふざけんなよ? まだあのクサレ神父を二回しかぶん殴れてないのに、ここで死ぬとか冗談でも笑えねぇぞ? 血とか作れないのかよこれ? 頭がちょっとぼうっとしてきた。
『正直、難しいな』
『Creation!!』
一応、脇腹とふくらはぎの銃創は能力を使って塞ぐことができた。しかし辛うじて首と視線を動かすと、もうすでにフリードが起き上がり光の剣を構えて近づいてくる、万事休すか。クソッタレと心の中で吐き捨てた時、床が青白く光りだしとある図形をかたどる。グレモリーの魔法陣だ、眩い光を放ち魔法陣から移動してきた、誰かの足が見えた。
「大禍くん、助けに来たよ」
木場君ごめん、ぎりぎり視界から外れてるから見えないんです。グイッと誰かが俺の腕を引っ張られた。視界が上がり光の中から出てきた人が見える、部長とイッセーの姿が見えないがオカ研の方々だ。軽く首を傾けるとイッセーが俺の肩を担いで持ち上げてくれていた。
「大丈夫か?」
「大丈夫なら、こんなとこでぶっ倒れてないと思うんだ俺」
ちょっと安心したせいか、軽いジョークを言ってみる。するとイッセーは、まったくこいつはと言わんばかりに苦笑いしていた。
「イ……イッセーさん?」
「アーシア……なんで」
イッセーがアーシアさんを見て、酷く驚きそして動揺していた。その証拠に肩を貸してもらっていた俺を床に落としやがった。
「なになに? アーシアたんこのクソ悪魔と知り合い?」
光の剣を木場君に向けていたフリードがおかしそうにアーシアさんに問う。このクサレ神父め余計なことを。
「イッセーさんが……悪魔……?」
「ごめん……アーシア、騙すつもりなんてなかったんだ、だから……」
イッセーが言い淀んでいるとドゴン、とものすごい音がした。残念ながら俺には何が起こってるのかわかんない、だって見えてるの床だし。
「アク、ごめんなさい。まさか、依頼主のもとに『はぐれ悪魔祓い』の者が訪れるなんて計算外だったの」
この声は部長の声だ、てことはさっきのは部長が魔力の塊か何かをぶつけた音なのか。
「アク、ケガをしたの?」
返事できない。表情がわからないから下手なこと言えない。
「私のかわいい下僕をかわいがってくれたみたいね」
怖いです、声音が低くて怒気を孕んでいて怖いです、つか超怒ってんじゃん。
「はいはい。かわいがってあげましたけど、それが何か?」
もう一度ドゴンと派手な音がした、さっきの音よりずいぶんと大きい。
「私は、私の下僕を傷つける輩を絶対許さないことにしているの。特にあなたの様な下品極まりない者に自分の所有物を傷つけられることは本当に我慢できないの」
背筋がゾッとするぐらい迫力と殺気のこもった声が聞こえた、今部長の姿が見えたなら背景にゴゴゴゴゴゴゴゴって擬音が見えるくらいの迫力だ。
「……堕天使複数」
塔城さんがソファーを担いだまま、鼻をスンスン鳴らして他の人たちに警告する。堕天使って中さんみたいなのがたくさん来るのかよ、それって不味くない?
「……朱乃、アクを回収が専決の様ね。ジャンプの用意を」
姫島先輩は、はいと小さく頷き呪文を唱えだす。塔城さんは担いでいたソファーをフリードに投げつけて、俺の方に小走りで駆けつけアルゼンチンバックブリーカーの様に持ち上げる。木場君はイッセーを連れて姫島先輩の方へ下がる。
「部長! あの子も一緒に」
イッセーがアーシアさんに目を向けたあと、部長に対して叫んだ。しかし。
「無理よ。魔法陣を移動できるのは悪魔だけ。しかもこの魔法陣は私の眷属しかジャンプできないわ」
「アーシア!」
イッセーがアーシアさんに向かって声をかける、そしてアーシアさんはとても悲しそうな笑顔で言った。
「イッセーさん。また、また会いましょう」
魔法陣の青白い光が、俺たちを包み込み、視界が白く塗りつぶされた。
視界が戻ると、そこはいつもの部室だった。ただこのままアルゼンチンバックブリーカーの体制を維持するのをやめてほしいな、ちょっと苦しくなってきたし、軽く絞まってきた。一応、ある程度は傷口に栓はしてあるけど、左手はまだ血が流れ出てるんですよ塔城さん。
塔城さんにソファーに下ろしてもらうと、部長が穴のあいた俺の左手を包み込むように握る、その手にほのかに暖かい赤い光がともり、傷が除々に塞がってゆく。
「なんなの? これ?」
部長が脇腹と右ふくらはぎから突き出た、黒ずんだ銀色の物体を見て小首を傾げる。
「
「いえ、少々奇妙だったけど、変じゃないわ。これ引き抜いても?」
いい、と返事をする前に引っこ抜かれた。塞がれていたふくらはぎから、少し血が溢れ出るが何とか傷は塞がった、ただ脇腹のを引っこ抜かれた時は死ぬほど痛かった。血が出すぎたからレバーとか晩飯に出した方がいいかもしれない。
「
俺が涙目で脇腹を押さえていると部長が急に話し出した。
「ひとつは神の祝福を受けた者たちが行う正規の悪魔祓い。こちらは神や天使の力を借りて、悪魔を滅するの。そして、もうひとつ。――『はぐれ悪魔祓い』よ」
はぐれすぎだろ、悪魔とかエクソシスト。そのうちはぐれ天使とか出てこないだろうな。
「悪魔祓いは神の名のもとに魔を滅する聖なる儀式。だけれど、悪魔を殺すこと自体を楽しむようになるエクソシストがたまに現れるわ。悪魔を倒すことに生き甲斐や悦楽を覚えてしまった輩のこと。彼らは例外なく神側の教会から追放されるわ。もしくは、有害とみなされて裏で始末されるか」
「教会、ちゃんと始末しろよ。そのせいでこっちが被害受けてんだから」
次見つけたら全力でミンチにして生きてきたことを後悔させてやる。思い出しただけでイライラしてきた。
「でも、生き延びる者もいる。そういう輩はどうなると思う? 簡単よ。堕天使のもとに走るの」
「堕天使ってあのカラスみたいな羽根生えた奴だろう?」
イライラしていたせいか、少し言葉が粗暴になってしまった。だが、部長はそれを咎めたりはしなかった。
「ええ、そうよ。堕天使も天から追放されたとはいえ、光の力――悪魔を滅する力を有しているわ」
「悪魔を殺したいエクソシストと悪魔が邪魔な堕天使の利害が一致して結託したわけですね」
「その堕天使が背後にいる組織の連中を総称したのが『はぐれ悪魔祓い』ってわけですか」
「正規の悪魔祓いではなくても危険極まりないわ。いえ、リミッターが外れている分、普通の悪魔祓いよりも相当危ないわね。関わり合いになるのは私たちにとって得策ではないわ」
リミッターが外れてるってのは理解できた。悪魔になったおかげで人間だった時よりも数倍は筋力が増しているし、材質は不明だが金属の拳で顎と鼻っ面を、思いっきりぶん殴ったはずなのに俺が倒れた後もピンピンしていやがった。
「部長! 俺はあのアーシアって子を助けてあげたい!」
イッセーが涙を溜めて部長に進言した。
「無理よ。どうやって救うの? あなたは悪魔。彼女は堕天使の下僕――」
「あの子は、もしかしたら堕天使の下僕じゃあないのかもしれない」
あの子には借りがある。意識がなかった間俺を庇ってくれたんだ、せめて借りだけでも返したかった。
「どうしてそう言えるの?」
「うまくは言えない、だけどあの子は知りもしない俺に涙を流して助けてくれた。あれが演技だとは思えないし、仮にそうであっても、あそこであんな奇行走るか全く理解できない。仮に彼女が堕天使の下僕で、脳のイカれたエクソシストだったら、俺はとっくの昔に消滅させられていたと思う」
「アクを助けて、自分を無害だと思わせておいて、内部分裂を誘っているのかもしれないのよ?」
「……すみません、そこまで考えが至りませんでした」
そう言われると、その可能性も有り得る。むしろそれが一番有ると思えてしまう。
「アーシアはそんな子じゃありません! この前公園で出会ったときだって、目の前で子供が転んでけがをしてた、それを自分から
このまま話していても時間の無駄だな、話を一旦切って部長を納得させられるほどの理論か部長をその気にさせる何かを探して、考えてこなくてはならない。
「このままじゃあ、らちが明かない。話し合っても平行線で時間の浪費だ……うわっ」
ソファーから立ちあがろうとしたが、右足にまったく力が入らずよろめいて倒れてしまう。小さく舌打ちして
『Creation!!』
イメージ通りの松葉杖を作り出し、それを支えに出入り口へと歩く。
「あのはぐれ悪魔祓いの光の濃度が濃いようね、完治するのにまだ時間がかかるわ。それよりアク、それがあなたの
先ほどの言い争いの時とは違う落ち着いた声を、部長にかけられて振り返ると、イッセー以外のオカ研一同が驚いた様子でこちらを見ていた。
「あぁ、はい。『
「ふふ、あなたが堕天使に危険視されて、殺される理由がわかったわ」
部長がクスリと微笑んで
「その
あのカラスどもが危険視するほど、すごいもんなのかこれ。と思いながら首についた
「その『
「強かったなんてレベルじゃないよ。ドラゴンは最強の生命体、力の塊が好き勝手動いてると言っても過言じゃないくらいだよ。その中でも『
木場君が俺の質問に答えてくれる。ドラゴン自体が最強の生命体なんて知らなかった、知らないワードが出てきたがそれよりも気になることがあった。だから一度に聞いておこう。
「二天龍ってなんだ? それと、らしいってどういうことだよ。言い伝えとかにないのか?」
「二天龍っていうのは、ドラゴンの中でも最強クラスの二匹のドラゴンよ。三勢力が力を合わせてようやく
つまり、最強クラスのドラゴンに引け劣らないほど強いけど、戦った記録が残って無いから本当かどうかは判断できないってことか。またひとつ疑問が出てきた。
「魂が
「残念だけど、それも記録に残っていないんだ。だから真相は闇の中ってことさ」
そっか、と頷いて皆に挨拶してから、俺は部室から出る。松葉杖を突き、四苦八苦しながら帰路につく、その間に
『ん? ああ、ドライグやアルビオンとはタメを張れるほど強かったのは本当だぞ。ただそいつに封印された時のことは覚えていない、気がついたら封印されていた。あとドラゴンさんはやめてくれよ、俺にはリンドヴルムって名前がある』
二天龍の名前はドライグとアルビオンっていうのか。それにクリエイト・ドラゴンは二つ名ってことか、リンドヴルムは長いし語感があまり良くない気がするから、親しみと敬意をこめてリンドさんと呼ぼう、よろしくリンドさん。
『あぁ、よろしく相棒。結局俺が話すべきことは、あのお譲ちゃん達に大体は聞いてしまったな』
話す手間が省けて良かったじゃない、そういえばリンドさんは思い通りに物を作り出す力を持ってるんだよね? じゃあ二天龍のドライグとアルビオンは、どんな力を持ってるの?
『そいつは出会ってからのお楽しみだ。お前さんが現赤龍帝や現白龍皇に喧嘩を売りに行く時が来るやもしれないからな』
多分、そんな時は来ないと思うけど。その赤龍帝と白龍皇ってのはドライグとアルビオンの二つ名みたいなもの?
『二つ名、というより悪魔社会での通り名だ。
出会って、対峙して喧嘩売るまでは絶対起こるの? 出会うのはいいけど対峙すんのはいやだし、喧嘩を売るなんてもってのほかだよ? 最強クラスのドラゴンを見に宿してるとか、そんな化け物に喧嘩なんか売ったら、骨どころか塵も残らないぐらいに粉々にされちゃうよ。
『起こる。なぜなら歴代の所有者が必ずそうだったからだ。二天龍のどちらか、あるいは両方に出会い、戦う。あいつらはいろんなものを呼び寄せる、それが悪しきものであれ善しきものであれな。所謂、業の様なものを背負っているのさ、俺の宿主であるお前も、同じように。それにお互いが吸い寄せあって奴らに出会う、これはよもや世界の理といっても過言ではない。だが案ずるな、その最強クラスの連中に引け劣らないのを、体に宿しているのはどこのどいつだ?』
ありがと、そう言われると、少し気が楽になるよ。いつも以上に時間がかかってしまったが、ようやく家にたどりついた。リンドさんと話していたおかげであまり苦にはならなかったけど。自分の部屋に戻りリンドさんにお休みを言ってから、床につくことにした。
翌日。
「まずい……うまく食材が切れない」
朝の食事のために、台所に立った俺だがうまく切れないことに四苦八苦していた。その原因は大きく分けて二つ。一つ包丁を右手でないとうまく使えないため、左腕でなんとか松葉杖を支えていること。二つ食材を支えることができないから、うまく切れないこと。はぁ……手が治るまでコンビニ飯復活か、久しぶりにジャンクフードでも食いに行こう。オーブンにバターを塗った食パンを二枚入れて数分焼き、粉チーズをかけて完成。包丁が使えないから朝はこれで精いっぱいだ。大事を取って部長に安めとのお達しが来た、なので一応教諭には風邪で休むと電話で伝えておいた。トーストをかじりつつテレビを眺める。
ピンポーン。
呼び鈴が鳴った。こんな時間に誰だろう? なにか通販で頼んでいたっけか。松葉杖を取ってインターホンの方へ向かい、受話器を取る。
「はい、誰ですか」
『アクか? 俺だイッセーだ』
「どうした? こんな朝早くに、学校は行かなくていいのか?」
『塞がったとはいえ、まだ足と手が痛むだろ? だから心配で手伝いに来たんだ』
「助かる、昼間に新しい本を買いに行くつもりだったんだ、悪いが荷物持ちを頼まれてくれないか? もちろん昼飯はおごろう。中に入ってゆっくりしていってくれ」
玄関を開けてキッチンに招く、朝は食ったかと尋ねるともちろんと返ってきたのでコーヒーを淹れて、俺とイッセーの前に置く。俺はそのまま、イッセーはミルクと大量の砂糖を投入する。一口コーヒーを含んだ後、神妙な面持ちでイッセーが問いかけてきた。
「なあ」
「どうしたらアーシアさんを助けに行けるかって聞きたいのか?」
どうしてわかったって顔してやがる。わからいでか、顔つき見ればわかるさ。
「方法は二つ浮かんでる。一つは部長の考えが変わるくらいの情報を持ってくること。二つ目は最終手段だが事後承諾だ。ことをすべて終わらせて報告にいく、ただし、何が起こっても自己責任だ。神父に殺される確率も跳ね上がるし、仮に成功して戻ってこれても、確実に部長からお叱りを受けることになる。最善は部長の考えを変えることだな」
イッセーは、だよなぁと呟いてしょんぼりしている。こいつは俺の家に落ち込みに来たのかよ。
「さて、そろそろ行くぞ?」
「行くってまさか教会に!?」
「阿呆かお前は。本と治るまでのレトルト食品を買いに行くんだよ。さっきも言っただろそいつは最終手段だって、外で待っててくれ財布を取ってくる」
出したコーヒーを一気に飲み干して、できるだけ早く、財布を取り外に出る。杖を突きながら本屋へ向かう。何かを考えているのか、家を出てから一言もイッセーが話しかけてこない。
「……アーシア?」
近所の公園に通りかかるとイッセーが何かに反応した。イッセーの見ている方に視線を向けると話の中心人物であるアーシアが居た。しかもバッチリと目があってしまったこれじゃあ見なかったことにもできない。
本屋に行くのを中断して俺たちは昼食を取るために某ハンバーガーショップに立ち寄っていた、アーシアさんも含めて。ただ人生で一度見れるかどうかわからない不思議な光景を目にしていた。
「あうぅ……」
ハンバーガーショップのレジの前でシスターが困惑している。入る前は大丈夫です。一人でなんとかしてみせます、と胸を張って宣言したものの、この結果であった。俺たちとは普通に会話できているのになぜだろう? と思ったが悪魔になると、特典として聞いた他国の言語を自動で翻訳してくれる便利機能があるって、部長が言ってたなすっかり忘れてた。不思議だが少しほほえましい光景にクスリと笑って、イッセーと同じものを注文し俺はおよそ二人分の注文をする。おごると言った手前イッセーにだけおごるのも悪いからアーシアさんの分も出しておいた。
座席を探している間他の客がアーシアさんを目で追っていた。珍しいからなぁシスターさんは。座席を見つけて座る俺とイッセー、対面にアーシアさんの並びだ。イッセーもアーシアさんも俺のトレイの上の量を見て驚いている。
「何だ? やらんぞ?」
冗談で言ったら、いや、いらねぇからと期待通りの反応が返ってきた。反面アーシアさんは手元にあるハンバーガーをまじまじと見つめて、回してみたり持ち上げてみたりしている。
「姫君、こうやって包み紙を開いてかぶりつくんですよ」
イッセーが似非紳士になってアーシアさんに食べ方を教えている。今のイッセーを見ていると妹に何かを教えている兄に見えてくる。俺はハンバーガーじゃなくパテの代わりに揚げた鶏肉が挟んであるチキンバーガーを齧る。うむ久しぶりに食うとうまいな、サクサクの鶏肉の触感が。そしてアーシアが興味深そうに俺とイッセーが食っているところを見ていた。
「アーシアさんも食べたら?」
包み紙を広げて、小さな口でハンバーガーをかじる。すると目をキラキラと輝かせながら食べ続ける。
「おいしいです! ハンバーガーっておいしいんですね」
「ハンバーガー食ったことないのか?」
「はい、テレビでは見たことあるんですが、実際食べたのは初めてです。感激です!」
シスターさんの普段の食生活ってどんなんだろうか? 修行僧みたいな精進料理があったりするんだろうか。
「普段は何を食べてるの?」
「パンとスープが主ですね、お野菜やパスタの料理も食べますよ」
精進料理ってほどでもないのかな、しかし肉がないのか俺じゃあ絶対無理だなその生活。今でこそちゃんと考えて作ってるけど。
「アクはどうなんだ? 普段の食事」
「俺か? 料理の本買って、それで気になったもん作ってそれプラス野菜だな。できる限りバランス良く作ってるつもりだ」
「トキアクさんは自分でお料理を作ってるんですね」
「まぁな、一人暮らしでコンビニ飯ばっかりだと、金もかかるし不摂生だからな。一応は気にしてるつもりだ」
手があれだし、今後少しの間はレトルトだけどな。と言いたかったのは内緒だ、イッセーの言い分ではこの子はとても優しい子だ。おそらく自分のせいでけがをしたと思いこんでしまう。片手でチキンバーガーをもしゃもしゃ租借しているとアーシアさんがじっとこちらを見ていた。
「ん? 顔にソースか何かでも付いているのか?」
「その左手は……」
「これはアーシアさんのせいじゃあない、俺があのクサレ神父に個人的な恨みがあった、ただそれだけだ」
物を少しでも握るだけで痛みがする左手を、アーシアさんが両手で握る。何をする気かわからなかったが振り払おうとしたが、イッセーが俺の肩に手をおいて思いっきり握りつけてくる。まるで振り払ったりすんなよと言わんばかりに。こいつ、いつの間に俺の行動パターンを読めるようになった。
アーシアさんの薬指に、指輪の様なものが現れて緑色の光が灯る。ドクンと首筋のうずく、俺の
「痛みが……消えてる」
あれほどの刺すような痛みが、まるで初めから無かったかのようにきれいさっぱりなくなっている。
「よかったぁ……」
ホッと息をつき微笑んでいる彼女を見て、俺はこの時、確信した。彼女は演技なんてしていないと。