アーシア救出作戦が終わってからおよそ二回目の休日、俺は朝からレインを連れて大型ショッピングモールAIONに来ていた。理由はもちろんレインの生活用品の買い出しだ。おしゃれにそこまで興味のない俺の、白地に水色でデカデカと和と書かれたTシャツと灰色のジーパンにそろそろ嫌気がさしたそうだ。
「で、なんで最初にくる場所が財布売り場なのよ」
とても不満そうな顔でレインが文句を言う。
「なんでって、そりゃお前さん、財布持ってなさそうだったからよ。持ってるならズボンに膨らみがあるはずだし、一応それが見受けられなかったから、ここに足を運んでるのよ。レインの買い物に俺が隣にいる必要はないだろう? むしろ俺がいない方がのびのび動けると思ってな。んで、どれにする?」
相変わらずのムスッと仏頂面で軽く店内を見回った後、二つ折りの黒い財布をチョイスしたようだ。財布の支払いを済ませた後、その中に諭吉さんを十五人ほど入れてレインに渡す。レインは中身を確認すると驚きの声を上げる。
「ちょっと、いくらなんでも多すぎない?」
「そんなことはないと思う。言っておくが、衣類だけの分じゃあないからな? 考えて使ってくれ。終わったら、携帯に連絡を頼む。一応、俺にも買い物があるんでな」
ひらひらと後ろのレインに手を振りながら、俺は調理器具売り場に足を向けた。たしかこの区画からまるっきり反対方向にあったはずだ。しかし普通に歩いているだけなのに、他の人からの視線がこっちに全部向いてやがる。そんなに珍しいか白髪と金目は、学園に行った時も元浜に「いまさら高校デビューかぁ~?」と、妙に間延びした声で聞かれてその時初めて目が金色になっていることに気づいた。若干いらっとしたからギロリと一睨みした後「おうよ、似合ってるか? このカラコン」と、笑いながら聞いてみたが「それを似合ってるって言いそうなのは中二系女子位だろ」と、松田に言われてちょっとショックだったのは内緒だ。
「あら、奇偶ね」
調理器具売り場の入り口近くで、後ろから声を掛けられ振り返ると、美しい紅の髪で俺に集まっていた視線を奪ってくれた我らが部長、リアス・グレモリー部長がそこにいた。
「ですね、おはようございます」
軽く会釈をしてから挨拶をする。向こうもニコリと笑って挨拶を返してきた。
「おはよう、アクが料理をするなんて意外ね」
俺の後ろの調理器具売り場を見てとても意外そうな顔でこちらを見ていた。
「えぇ、まぁ。一応一人暮らし……いや、今は二人暮らしなんで、自炊した方が安上がりですし何より楽しいので。そんなに意外ですか?」
前にも同じことを言われた気がする、そんなに料理するイメージがないのか俺。
「ええ、とっても。それより彼女はどう?」
とても素晴らしい笑顔で答えてくださいました。彼女ってレインのことか、どう? とはどんな感じかってことなんでしょうね多分。一応害はないと報告されても心配なのだろう。
「レインなら、今服選びに没頭しているんじゃあないですかね。来てすぐは、話しかけてこなかったんですが、ここ最近は向こうからコミュニケーションを取ろうと話しかけてきくれていますし、ほとんど文句ですけど……。でも話しかけてくれているだけ進歩していますよ。険悪な仲ってわけじゃあないですし、少しずつ友好的な関係を築いていけられるはずですよ」
と答えた。レインの名前を出した時にやはり小首を傾げられたから、新しい名前の事も話しておいた。
「そう。反逆の意志がないのなら、引き続きあなたに彼女を任せるわね」
仮に反逆の意志が見える形でレインに現れていたのなら、俺に任せてくれなくなるのだろうか? もしくはその場で滅ぼされるか、どうなるのかは予想できそうにない。気がつくと部長は踵を返して別の所に向かっていた、通りかかっただけみたいだ。調理器具売り場で取っ手の取れそうでとれないでお馴染みのディーファノレと圧力鍋を購入して、本屋に向かおう、どうせまだ連絡は来ないだろうし。
本屋、というか書店にたどりつき暇つぶしのためのライトノベルを物色する。料理関連の本は、前回のがまだまだ作りきってないので、新しいのは必要ないだろう。会計を終わらせて店から出ようとしたら、また後ろから声をかけられた。
「よお、アク」
「トキアクさんおはようございます」
後ろにいたのはイッセーとアーシアだった、アーシアの手には『良い子の漢字ドリル1~6年生総集編+α』と書かれた、国語辞書みたいに分厚い本を持っていた。小学校1~6年生をまとめてもそんなに分厚くはならんだろう、+αがどんだけあるんだよいったい。
「おはよう、アーシアの漢字の教材を買いに来てたのか。勉強熱心でいいことだ」
「はい、会話ができても文字が読めないと不便ですので」
そう悪魔言語は聞く言葉は翻訳できても、書いてある文字は翻訳してくれない。だから現地の言葉を覚えないといけないらしい、本人はたどたどしく読んだと思っていても、他の人からは流暢に話せているらしい。友人曰く日本語は世界で最も難しい言語だ。と言っていた、なぜなら常用している当の日本人でさえ、まともに使いこなせていないのだから。
「そうだ、この後暇か? 松田達とゲーセンに行くんだけど一緒に来ないか?」
「魅力的なお誘いだがすまんな、今日は連れがいてな一日そいつに付き合うことになってるんだ。また今度誘ってくれ」
ポケットの中にある携帯が鳴る。発信者はもちろんレインだ。
「もしもし。あぁ俺だ」
『もしもし。今どこいるのよ?』
「書店だ、そちらの買い物は終わったみたいだな。そちらに向かうがどこにいるんだ?」
『二階のエスカレーター近くのベンチに座ってる』
了解した、と一言言って電話を切る。
「わるいな、連れから呼び出しがかかった。じゃあなまた明日」
軽くイッセー達に手を振ってのんびりとエスカレーターの方へ向かう、そうたいした距離でもないし急ぐ必要もない。ベンチの近くに大量の紙袋がちらりと見える、たくさん買ったんだな、とほっこりしながら見ているとレインがこちらに気づく。心なしか上機嫌なようだ俺を見た瞬間仏頂面に戻ったけど。
「遅い」
開口一番がこれである。まったく、もうちょいソフトな反応をしてくれないだろうか、俺の心が折れちまうよ。折れないけど。
「たまには待つことも大事だぞ? 生き急いでたら早死にしたり老後にやる気が起きなくなるぞ?」
軽く人生のアドバイスを送ると、こちらをジト眼で見ながら。
「あなた、時折年寄りくさい事いうけど、ほんとに高校生?」
「そりゃそうだ。悪魔になったからってそんなすぐに年を取ってたまるかよ、時が加速するわけじゃあるまいし……まてよ、寿命が伸びるってことは、その分身体変化が乏しくなるわけだから……レインもしかしたら俺……」
「はいはい、馬鹿なこと言ってないでこれからどうするの?」
「そうだな、布団は後にして先に飯にするか」
俺のボケに乗ってこないレインを横目に、スマフォの時計を確認すると12時半を回っていた。
「なにか希望はあるか?」
「なんでもいいわよ」
そのなんでもいいが一番困るんだがなぁ。まぁいいや、俺の食いたいもんで。大量の紙袋の三分の二ほどを片手で持ちフードコートに向かう。天面堂と書かれたうどんや、面の字が間違ってるんじゃあないかと思うが気にしなくてもいいだろう。
「うどん二つ、あとトッピングにかしわ天とかきあげ、それとれんこん天を一つずつ」
総計1500円程度、うん? 少し高くないか? と小首を傾げたが10分近くで出来上ると言われ、ブザーの様なものを手渡されて思考を断たれ、仕方なく引きさがり適当なテーブルに座って待つ。なんでもいいと言ったせいなのか、レインが全く文句を言わなかった。てっきり文句を垂らしてくると思ったのだが。ブザーが鳴り出来上がったうどんを取りに行く。そしてそれを見て軽く戦慄しそのままレインの待っているテーブルへと持っていく。
「ねぇ、多くない?」
「すまん、これは俺のせいだ素直に謝る。すまなかった注文の仕方が悪かった」
トレイが二つ、うどんが二つここまではいい、ただ問題はトレイの横、うどんの器の隣の皿にならんだ三つずつの天ぷらである、俺は何ら問題ないが女性にはちと重たいかもしれない。
「うむ、美味い。いい食感だ」
かしわ天を一かじりしてから、麺を啜る。レインも諦めたのかうどんを啜りつつれんこんの天ぷらをかじる。
「美味しい」
「だろう?」
ニコリと笑ってドヤ顔してみた、もちろん相手は仏頂面に戻る。自分の言えた義理ではないがもうちょい愛想というものをだな。
ふぅ……と一つため息をつくとまたもや見知った顔と白髪が映る。今日はオカ研の面々とのエンカウント率が高いね、他の人たちはレインと一緒なのを見られてないからいいけど。気づかずに通り過ぎてくれという思いも空しく白髪の主、小猫さんがこちらに気づく。
「こんにちはアク先輩」
「こんにちは、小猫さん。小猫さんも昼食?」
手元を見ると俺達と同じく天面堂のブザーの様なものを持っていた。こっちで食べる? と聞いてみたら、ちいさくハイと答えて俺の隣に座る。そして小猫さんの視線がレインのトレイを捉える。
「……よく食べるんですね」
「違うわ、ちょっとした手違いよ」
「面目ない。レイン、天ぷらどれだけ食える? 食えない分は俺が食うが?」
と提案をすると食べきれなくなったらあなたに渡すわ。と言ってうどんを啜る。少しして小猫さんのブザーのようなものが鳴り、うどんをとってくる。どうやら小猫さんが頼んだのは、天玉うどんの様だ。
「そういえば、今日はオカ研のみんなで買い物にでも来てるの?」
今日のオカ研メンバーの異常な遭遇率のことを、小猫さんに聞こうと思った。小猫さんは器の中のかき揚げを一口サイズにちぎってぱくりと食べた後、小首を傾げて俺に言った。
「……いえ、特に連絡は来ていませんが」
よかった、俺にだけ連絡なしでみんなでデパートに来てたとかだったら昔のトラウマを刺激されて泣いてしまいそうだ。
「よかったわね、ハブられてなくて。でも実際はあなたにだけ連絡が来てなかったのかもよ?」
「おい人の傷口を抉るのをやめろ。割とデリケートなんだぞ、俺は」
苦い顔をしながらまた一口、かしわ天をかじり麺を啜る。かきあげを半分にちぎり、汁に浸しかきあげをかじる。
「……仲がいいですね」
「まぁ、それなりにな。ほら、一緒に暮らしているんだしお互いギスギスしてたら楽しくなからね」
「待遇は悪くないし、ある程度の自由もあるから文句はないわ」
「と、こういう愛想のない反応だ。ごちそうさま」
会話に集中していたはずなのにいつの間にか、麺も天ぷらもなくなっていた。器には天ぷらの衣が融けた汁だけが残ってる。
「はい、これ」
天ぷらの乗っていた皿の上に、三分の二ほどに切られたかしわ天と半分くらいのかきあげを載せてくるレイン。
「ありがたく頂戴いたします」
パパッと渡された天ぷらを平らげて、一息つきスマフォの時計を確認する。13時15分、休憩には
なったし、今日はほかのオカ研の人によくエンカウントする早めに切り上げて早いうちに帰ろう。
「さて、そろそろ行くか」
「……先輩たちは何を買いに来たんですか?」
「ん? 布団とかレインの服とか俺のフライパンとかだ。レインが来てお客様用のがなくなっちまったからな。新しく買っておかないと困りそうだ」
「……そうですか。ではまた明日、学校で」
あらま、別段興味があったわけでもないのね。まぁ、コメントしようもないんだけどね。
そのあとは、布団一式を買いそのまま帰宅した。そして夕方になる前、レインはソファーに座ってテレビを俺は今日のチラシの確認をしているとタイムサービスのチラシが目に入る。
「近所のスーパーで鶏肉もも肉のタイムサービスがある。悪いが来てくれないか?」
「ふーん、一人いくつ?」
「2パックまでだそうだ。ほかにも野菜が安くなっていることだし今日は煮物にでもするか」
財布を持ってエコ的な鞄を持って玄関に行くと、もうすでにレインが待っていた。玄関に鍵をかけて歩き出す、買い物の移動の際はお互い無言のことが多い、会話が始まるとすればレインの文句か俺の話題にレインが応答するかの二択だ。向こうから世間話を振ってこないし、まだまだ壁というか溝がある。しかし個人的には溝は狭くなってるとは感じている。少なくとも反応してくれているだけましな気がする、単純にうっとうしいから仕方なくという可能性も否めないが。
「うむ、今日もよい買い物をした」
「あんなセール品の確保の仕方はないでしょう」
手元のエコ的な鞄の中には戦利品の鶏もも肉4パック、里芋、サヤエンドウやニンジンが入っている。
「確かに店員君には目をつけらてしまうかもしれないな。もう少し目立たないようにやるべきだった」
「あんな曲芸みたいなことやらなくても、普通に私が取りに行けばよかったじゃない。ほかの人からの視線があれほど痛かったのは初めてよ」
「よかったじゃあないか貴重な―――――」
「「あーーーーーーーー!!」」
会話を無理やり途切れさせるほどの野太い叫び声が、後ろのほうから聞こえた。声と反応で大体誰だかは予想ができた。
「公衆の面前で叫び声をあげるのはやめてくれ松田、元浜」
丸坊主の友人松田とメガネの友人元浜だ。少し前にレインがイッセーに近づいた時とおんなじ反応をしている。
「これが叫ばずにいられるか! 俺たちとの遊びの誘いを断っておいて!」
「こんな美人のお姉さんとデートしているなんて!」
「「これは裏切り以外の何物でもないぞ!!」」
わざわざ半分ずつ怒声を上げて、最後に同時に怒声を上げるという、なかなかうっとおしいことをやってきてくれた。しかしイッセー達がいないのはある意味好都合か、レインを俺の手元に置いているのをイッセーは知らない……はずだ。
「松田元浜お前たちは何を勘違いしているんだ? この人は俺の従姉だぞ」
「そんなわけあるか! 見え見えのウソをついたところで切り抜けられると思ったら大間違いだぞ!?」
「や、ガチだから。母さんの姉の娘さん。就職が決まってこっちのほうが通勤も楽だからって理由で、伯父さんに頼まれたんだよ」
ちらりとレインに目を向けて、合わせてくれと訴えかけてみる。
「初めまして、暁レインと申します。松田さんと元浜さんですね? いつも時悪がお世話になっています」
どうやらレインは合わせてくれるようだ、ちょっとほっとした。てっきり俺を困らせるために乗ってこないと思っていた。そこからうまいこと話を合わせて松田元浜両名をなんとか追い帰した。完全にいなくなるとレインがふっと息を吐いて口を開いた。
「これで貸一ね」
「わかった、今夜のおかずを一品追加してやるよ」
しょうがないな、と言わんばかりに提案するといつも通りレインは顔をしかめた。
「そんなのはどうでもいいからこれ、どれでもいいからひとつ外しなさいよ」
そう言って自分のブレスレットを指差す。リンドさん特製の呪いのアイテムを。
「あーたぶん無理。そもそもそれを作った時は、体の一部をドラゴンに変えて初めて使用できた能力だから、どこまでできるかわかんない。下手にいじると二度と戻んないなんてことになったら嫌でしょう? 外すなら万全の状態で、絶対の自信を持ってからってね」
にっこりと笑いながらレインに言うと盛大にため息をついた後、何のコメントも無しに歩いて行ってしまった。だから俺も小さくため息をつき、我が家に向かって歩を進めた。夕食時、貸し借りの話なしでレインのおかずを一品増やしておいたら、目を白黒させていたのはまた別の話。
一応番外編は終わり次回から原作二巻フェニックス編になります。今回のように話の切れ目にオリジナルの番外編を入れようと意気込んでいましたが、たぶん無理そうです。