サヤンは、ナディアの棺の前に立っていた。
「ナディア!
出てきて!
ナディア!」
すると、ナディアの霊がふわりと現れた。
「サヤン、どうしたの?」
「フィリップが杖を持ってるって、本当!?」
「誰から聞いたの!?」
「人魚姫…リリアからよ。
『フィリップが最も愛する人に
危機が迫ったとき
王子は現れるだろう』って。
それって、…この棺を壊すこと…。
私には、できないわ!」
「………なら………」
「なら………?」
目の前に氷付けの少女が現れた。
「………!?」
見間違うはずがない。
捜索していたドラグマの娘・リリアン。
「私は、この娘にとりついて、あの方と再会するわ!」
そう言うと、ナディアは凄まじい速さで氷に迫っていく。
(まずい…!)
サヤンは、とっさに棺の蓋を開いた。
予想通り、中に納められたなきがらは、一瞬で灰になった。
「…………ナ…………ア……………」
「!?」
ナディアの耳にかすかに声が届いた。
「……ナディア……!」
「…フィリップ様…!?」
どこからともなく、カエルが現れた。
「ナディア!
もうやめてくれ!」
そのカエルは、人語を話した。
このカエルこそ、伝説のカエルの王子・フィリップなのであろう。
「ナディア!
お前の抜け殻を永遠に封じたことで、
お前の魂を縛ることになったんだ!
自分に相応しい姿の少女を探していたなんて…。
すまない…。
ナディア、共に昇天しよう…」
「フィリップ様…。
でも、あなたは永遠に生き続ける呪いを…」
「呪いを乗り越える方法を見つけたんだ…」
どこからか杖が現れた。
「サヤンといったかな?ずっと見ていたよ。
あなたには、魔力がありますね?
あの杖を使って、私を魂と体に分離してほしいのです…」
「えっ…」
フィリップの言うことは…、失われた秘法を使えということ。
「待って!
分離の魔法は、失われた魔法よ!
使えるはずが…」
「使えるんだ。
僕は、分離の魔法を復元したんだ。
さあ、僕の言う通りに詠唱して」
杖を持ったのを確認すると、穏やかな声で詠唱を始めた。
『姿と心 相入れぬふたつ』
「姿と心 相入れぬふたつ」
『共に宿すもの 別つなり』
「共に宿すもの 別つなり」
すると、カエルがふわりと浮いた。
『汝の名は、フィリップ・フォン・トルニア』
「汝の名は、フィリップ・フォン・トルニア」
『サヤンの名において命ず 器と心よ、分離せよ!』
「サヤンの名において命ず 器と心よ、分離せよ!」
すると、カエルの体がピカッと光った。
白い球体が体から抜け出た。
カエルは、ゆっくりと地面に降りていく。
球体は、次第に形が変わっていく。
「…………フィリップ様!」
ナディアが抱きしめた。
腕の中には、フィリップの姿があった。
「さあ、ナディア。
彼女を解放するんだ」
「ええ」
その言葉と共に氷が割れた。
「私は…?」
「リリアン、大丈夫?」
「あなたは?」
「私は、サヤン。
あなたの父親に捜索を頼まれた者よ」
「サヤン」
フィリップの声がした。
「やっと昇天できます。
……ありがとう」
二人の霊は、寄り添いながら消えていった。