ウェルキンは、シグルズを連れ、国王の間に入った。
「古い記憶の中、
鍛冶屋が私に不思議なハンマーを渡した。
私は、それを見つからぬように隠した。
娘は、鏡の奴隷となっている。
救うには、ハンマーを見つけなければならない。
あのハンマーだけが、鏡を完全に破壊できるのだ…」
二人は、広い部屋をくまなく探した。
(………ズさん!
皆…無事…す!)
ふと窓に目をやると、外でアルティスたちがシグルズを呼んでいた。
「アルティス!
今すぐ逃げるんだ!
門でお前の父親が待っている!
俺のことはかまわない、すぐに逃げろ!」
「わかりました!
どうかご無事で!
………皆、走るよ!」
子供たちが去るのを見届けていると、
「ハンマーを見つけた!
あとは、鏡の間に向かうだけだ!」
「よし、行こう!」
―――――――
「ちょっと!
離して!」
「…………」
ゲルダは、薄暗い部屋に連れてこられた。
「………!?」
ゲルダの視界にあの棺が入った。
「しばし待て」
雪の女王は、ゲルダを棺の前に座らせると、壁にかけられた鏡を取り外した。
(……死んでいるの?
でも、生きているみたい……)
女王が棺の前でひざまずくと、中の少年を慈しむように見つめた。
(女王の…息子…?)
「鏡よ、
《これであなたの息子は、眠りから醒めることができるのです。
さあ、涙をください。
涙で私を癒せば、息子を同じように癒します》
ゲルダは、直感した。
鏡の言葉が偽りであることを。
「
たった一粒でよい…。
それが欠片に落ちるとき、お前を解放する」
同時に直感した。
彼女…雪の女王は、鏡の言葉を信じきっていることを。
「………嫌よ。
鏡の言葉は、偽りのもの。
私は、決して涙を流さないわ!」
その言葉に雪の女王は、一瞬驚いた顔を見せた。
「………」
何かを唱えると、その手にはつららが握られていた。
「…流せ、流すのだ!
さもなければ、お前を殺す!」
女王は、ゲルダを持ち上げ、首もとに鋭く尖ったつららの先端を突きつけた。
「スノー!
やめるんだ!」
「……お父様」
ウェルキンの姿を認めると、ゲルダをおろした。
「私は、大馬鹿者だったのだ!
鏡がお前の息子を救うことはない!
全てを思い出した!
その鏡は、『偽りの鏡』!
鍛冶屋によって壊されたのは、恐ろしい鏡だからだ!
けれど、割るだけでは不完全だったのだ!
今、完全に壊さねばならぬのだ!」
「お父様!
私たちは、長い間、何のために苦労してきたの!?
今、願いが聞き届けられるのよ!」
「涙をください、早く早く!」
「鏡は、憎悪にまみれている!
世界を苦しみで包もうとしているのだ!
それでもよいのか!?」
「………………鏡よ、本当なの……………?」
《…………気づかれてしまったか…………。
まあよい。
スノー、お前の
すると、雪の女王がしていたネックレスが輝き出した。
「ウッ!
…アアッ!」
「スノー!
探偵よ!
早くそのハンマーで鏡を壊すのだ!」
ハンマーを受けとると、棺に向かった。
《邪魔はさせぬ!》
「スノー!」
ウェルキンは、娘を押さえつけた。
「ウェルキン!」
ウェルキンの体は、スノーの体に触れているところから氷漬けになっていく。
「何をしている!
早く壊せ!」
シグルズは、ハンマーに両手をかけ、勢いよく降りおろした。
ガシャン!
鏡の四方にヒビが入った。
ガシャン!
さらに、細かく入る。
ガシャン!
《アアアッ…!
悔しい!
私が…滅せら…な…》
鏡は、粉々に砕け散り、風に乗って、消えていった。
すると、ビーストと同じように雪の女王も黒い靄に包まれた。
靄が晴れると、若い女性が立っていた。
「………私………。
…………!
なんて恐ろしいことを…!」
「スノー、もう息子を諦めよう…」
「………ええっ………」
二人は、涙を流した。
そんな二人を見て、ゲルダは、一粒の涙を流した。
それは、ガラスの棺に落ちた。
すると、瞼を閉ざしていた少年がゆっくりと目覚めたのだ。
「………お母………様……?」
「よかった!」
「よしよし!
祝いの宴だ!」
スノーとウェルキンは、ゲルダの手をとった。
「恐ろしい目に遭わせてごめんなさい。
でも、あなたのお陰で息子が目を覚ましたわ。
ありがとう………」