とあるギルドナイトの陳謝【完結】   作:皇我リキ

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【四章五節】とある商人の事案

 飛行船はランポスが見付かった現場の近くに着地した。

 ここなら滅多な事が起きない限り人に鉢合わせる事はない。

 

 

「じゃ、降りて下さい」

「こんな所でなんの話をするって───」

「そうですね。死後の世界ってどうなってるか、とか?」

 腰から銃を取り出しながら、ウェインはそれを突き付けて早く降りろと二人を急かす。

 言葉も出なくなった二人は言われるがままに地面に震える足を着けた。

 

 

「だ、騙したのか! ちょっと話を聞くだけって言ったじゃないか。僕達を殺す気なのか? モンスターを密猟したくらいで!」

「密猟したくらい? 充分重罪ですよ。そもそも下らない事して僕達を欺こうとした人が、騙したのか? それなんのギャグですか? あ、そこに座って下さい」

 反抗的な態度を取るアルト君だけど、言われるがままに座る事しか出来ない。

 

 

「それじゃ、まずはアルト君。言い残す事とかありますかね?」

「なんで……なんでモンスターを殺しただけで……僕はハン───」

「言い残す事があっても聞くなんて言ってませんよ? 死んでください」

「待って!」

 突き付けられる銃。直ぐにでも引かれような引き金に掛けられた指。

 私はそんなウェインの手を掴んで持ち上げる。銃声が空に響いて、途端にアルト君は言葉にならない悲鳴を上げながら頭を抱えてしゃがみ込んだ。

 

 

「……邪魔ですね」

「……罪を償う事だって!」

「モンスターを殺しただけ。彼はそう言った。命を軽んじた奴が罪を償うなんて無理でしょ」

「でも!!」

「う、ぅぁぁああああっ!!」

 ウェインと言い争っている間に、立ち上がって走りだすアルト君。

 その一瞬の隙で林の中に姿を隠してしまえる理由は、ハンター生活で培ってきた瞬発力だろう。

 

 

 

「……あちゃぁ」

「私にやらせて」

 ウェインの持った銃を無理矢理奪ってから、私は一人青ざめた表情で取り残されたタリバン氏に向き直った。

 

 

「……お願い」

「えぇ……。先輩、なんとか言ってやって下さいよ」

「んー、まぁ。いいんじゃねーの? お前が嫌なら止めれば良い」

「……はぁ。もう、ご自由に」

 ありがとう。

 

 

「タリバンさん」

「は、はい……」

「犯行に至った目的と理由を教えて下さい」

 私は彼の目の前に立って、確りと銃を握ったまま彼に問い掛けた。

 銃口は彼の眉間へ。弾は確りと入っている。

 

 

「……お金が欲しかったんです。必死だった。商品の取引で失敗して、大赤字になって、でも私には家族が居た。なんとかしなきゃいけなかったんだ」

 後悔か。流れる涙は止まらない。

 

 

「必死になってハンターの皆さんに商品を売っている最中に、彼に出会った。そうしたら彼は、上手く儲ける方法があると、いけない事だとは分かっていた。でも、彼は絶対にバレないと……」

「分け前は?」

「半分だよ。それでも充分だった。モンスターの素材はとても高く取引されるからね」

 良くある理由だ。

 

 

 お金が欲しい。それも、簡単に。

 

 

「命は重い。それでも、簡単にお金に還元する事が出来てしまう、でもそのお金は命の重みには釣り合わない」

「……そうだね」

 引き金に触れる指を見て、彼は観念したのか目を伏せる。

 

 

 

 後悔している筈だ。

 

 

 反省している筈だ。

 

 

 彼は、罪を償える筈だ。

 

 

 

「私は、今からあなたを殺します。……言い残す事はありませんか?」

「……妻と子供には、私は事故で死んだと。それと……どうかご慈悲で、二人の生活を」

「それは───」

「……っ」

 彼の頭を無理矢理引き上げて突き付けた銃に視線を合わさせる。

 瞳孔が開く。次の瞬間奪われるであろう命に彼は身構えた。

 

 

 

「───あなたの責任です」

 次の瞬間、私は銃を横にズラして引き金を引いた。火花と飛び出した銃弾がタリバン氏の頬を焼く。

 

 

「……ぇ」

 素っ頓狂な表情。両手で身体中を触る彼が生を実感したのは、私が銃をウェインに返した所だろうか。

 

 

 

「タリバンさん。……罪を償って下さい。あなた達が奪った命にも家族は居た。その家族も、今は飢えてるかもしれない。分かりますか?」

 ランポスは群れで狩りをするモンスターだ。その群れが減れば、必然的に狩りは失敗しやすくなる。

 

「彼らも、私と同じなんですね」

「そうです。守らなきゃ行けない家族が居るんです。……それを知ったなら、これからは家族を確り守って下さい。……それが、あなたへの罰です」

「ぁ、ぁぁ…………わ、私は……私は……」

 これで良い筈だ。

 

 

 

 彼は、罪を償える。

 

 

 

「ウェイン……」

「そんな、どう? みたいな顔されても。……タリバン氏」

「は、はい……」

「ギルドは犯罪を表に出す訳には行きません。この事は御内密にして下さいね。もし表に出るようなら、あなたを救った彼女の眉間に穴が開きます。……それだけは、お忘れなく」

「そ、それは……。私の罪を……彼女がなぜ……?」

「そういう物なんですよ。……シノアさんも、わかってますよね?」

 ウェインは目を細めて私にそう言った。

 

 

「それが、私の咎だから」

 きっと、私が人を殺した咎はいつか受ける。

 

 

 その理由がこの事なら、良いのかもしれない。

 

 

 

「だから、私はアルト君も救ってくる。先輩、タリバンさんを宜しくお願いします」

 そうとだけ言って、私は彼が走って行った方角へ足を向けた。

 

 

 

 彼だって、後悔してる筈だ。

 

 

 罪を償える筈だ。

 

 

 だから私は走った。

 

 

 

「くそ! くそ! 死ね! 死ねぇ!!」

 聞こえる声。アルト君の声か。

 

───ギャィ!

 続いて聞こえた鳴き声は、ランポスの鳴き声。

 走り去った先で遭遇してしまったのだろう。急がないと。

 

 

 

「くそ! なんでだよ! 僕はモンスターを殺しただけだ。お前らなんて生きてたって何の価値もないじゃないか! それを殺しただけでなんで僕が死ななきゃならないんだ!!」

 視界に入ったアルト君は、十匹程のランポスに囲まれていた。運悪く大きな群れに捕まってしまったらしい。

 

 なんとかしなきゃ。

 

 

「伏せて!!」

 確りと聞こえるように言ってから、私は大剣を抜いて地面を引きずる。

 

 そのままアルト君の前に出て、地面ごと大剣を切り上げた。

 削られた地面がランポス達を怯ませる。

 

 

「ランポス達、待って……。お願いだから」

 そうしてランポス達とアルト君の前に立って、私はランポス達に語り掛けた。

 

 あの子に感化されてるのかもしれない。

 大切なのは、素直な想いを伝える事。だっけか。

 

 

「待って欲しい。……でないと、私はあなた達全員を殺さなきゃいけない」

 私の言葉に、顔を見合わせるランポス達。

 

 気持ちが伝わったのか、はたまた私の威圧か。

 前者だと嬉しいけど多分後者だろう。ランポス達は文字通り尻尾を巻いて林の中に消える。

 

 

「た、助けてくれるのか?」

「あなたを殺すのは私だからね……」

 そう言いながら、私は倒れているアルト君の眉間に銃を突き付けた。

 

 

「……ひっ」

「あなたは許されないよ」

 あくまで、私は彼の罪を償わせないといけない。

 

 だから、限りなく本気の殺意を彼に向ける。

 後悔して、償いたいと思わせないと意味がない。

 

 

「お金が欲しかったの?」

「そうだよ……。僕の家族はモンスターに皆殺しにされて、一人で生きて来たんだ。大変なんだ。だから僕はモンスター殺してお金を手に入れる。……それの何が悪いんだよ!」

「そのモンスター達にだって家族が居るんだよ。それをお金なんかの為に殺す権利は貴方にはない!」

 そんなのは、ハンターじゃない。

 

 

 ハンターは自然と生きて行くんだ。

 

 

 殺戮者ではなく、共存する者として。

 

 

 

「……っ」

「貴方がした事は、貴方がされた事と変わらない……。……いや、貴方の方がよっぽど酷い理由だよ」

 モンスターだって生きる為に戦っている。

 

 

 でも、貴方は少し違うよ。

 

 

 

「僕が間違ってたって……いうのか?」

「そうだね……。だから、罪を償って。……言い残す事はある?」

 それが分かったなら、貴方も罪を償える筈だ。

 

 

 私は、貴方を信じるよ。

 

 

「……僕は───」

「……うん。僕は?」

「───僕は、僕はこんな所で死ぬ訳にはいかないんだぁ!!」

 腰の片手剣に伸びる手。その手首を回して、私に向けられる片手剣はなんの迷いもなく真っ直ぐに私に向かって来る。

 

 

「お前が死ね!!」

 そうか、これが私の咎か。

 

 

 

 鮮血が視界を覆った。吹き出る血液が地面にシミを作る。

 

 

 

「…………つぇ、ぇ……あぇ!?」

 片手剣と一緒に地面に落ちる、アルト君の左手。

 

 その左手を切り落とした大剣を、私は地面に突き刺した。

 

 

 

「……貴方は、償えないね」

 そうだよね。そんな簡単な事じゃないよね。そんな事は分かっている。

 

 

 でも、私達は犯罪を見逃す訳にはいかない。

 

 

 

「あー、もうこんな所にって……シノアさん!?」

「ウェイン?」

「肩どうしたんですか……? そいつに?」

 私を追ってきてくれたウェインに言われて気が付いたけど、アルト君の片手剣が届いていたのか、私の肩は白いシャツごと真っ赤に染まっていた。

 気が付いてから初めて鋭い痛みが走る。こんなに痛いのは何時ぶりだろう。

 

 

 本当に、痛い。

 

 

 

「う、ぅぁ、ぅぁぁああああっ!? 僕の腕、僕のぉ!! なんで!? あぁぁあああ!?」

 左手を失ったアルト君は、躓きながらも必死に走った。

 

 生きる為に、必死に走る。

 

 

 

 生きる為に。

 

 

 

「うわぁぁぁ!?」

そんな彼の前に、再びランポスの群れが現れた。

血の匂いに我慢が出来なくなったのか。一瞬でアルト君を囲んだランポス達は、その鋭い爪と牙で彼の肉を削いでいく。

 

「辞めろ!! 痛───痛い!! 辞め、辞めて!! 辞めてくれ!! 許して痛い辞めて辞めてよ辞めてよ辞めてよ痛い痛い痛い嫌だ嫌だ嫌嫌だ嫌だぁぁあああぁぁああ!! 嫌だぁぁあああ!! 嫌───ゔぇ、うぉ───ゔぁぁあああ!!!」

 左手を失った彼にはランポスの一匹にだって抵抗する力は残っていない。

 

 

「死にたくない! 助けて! 助けてよ!! なんでだよ!! 僕は……僕は…………死にたくない!! 嫌だ!! 嫌だって!! やめろ、やめ───ゔぇ……ぉっ、やめ───ぁぁぁああああ!!!」

「きっと、貴方が殺したランポスもそう思ってたよ」

 襲われるアルト君に近付いて、私はそんな言葉を落とした。

 

 するとランポス達は私の事が怖かったのか、後退りしてその場から離れていう。

 

 

「た、助け……て。何でも……す、る。……死にたくな……い」

「そうだね、誰も……死にたくないよ」

 右手で力強く私の足を握る彼の眉間に、私は銃を突き付けた。

 

 

「いや……だ。死にた……く、ない。おね……が、い……。助け、て。いやだ……死にたくない……!」

「……ダメ、死んで」

「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ───」

 歪んだ眉間に、鉛玉が穴を開ける。

 

 

 途端に消えた声の次に、力の抜けた手が地面に落ちた。

 

 

 

「うん。後は……好きにして」

 そんな光景を木陰から見ていたランポス達にそう言って、私は彼等に背中を向けて冷たい銃を腰に戻す。

 

 

「……はい」

 振り向いた先で、短い言葉と一緒に突き出される回復薬。

 

「傷残りますよ……。女の子なんですから」

「そんな歳じゃないよ。……ありがと」

 後ろから聞こえる、肉が引きちぎられる音。

 

 

 気分が悪くなる、嫌な音。

 

 

 

「分かってたでしょう? こういうもんですよ。……いつかシノアさんが死にますよ?」

「うん、そうだね」

 きっと、私はいつかウェインの言う通り死ぬかもね。

 

 

 

 でも───

 

「だったら、こんな無茶な事態々せずに───」

「辞めないよ」

 ───でも、これが私の咎だから。

 

 

 

「これが私の咎だから。いつかその咎を受けるまで、辞めないよ」

「……そうですか」

 それが、私の罪だから。

 

 

 

 

 

 

 

 アルト・ハーレイ氏は商人の護衛クエスト中、ランポスに襲われ死亡。

 

 それが、私がその日ギルドに提出した報告書だった。

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