とある女性ハンターに同行した男性ハンターが一週間前に一人、昨日もう一人、狩りの途中で死亡した。
被害者は二人共、ディノバルドというモンスターに敗れて亡くなったという報告がある。
ディノバルドは二回目のクエストで討伐されたが、これは別によくある話だ。
「ミンチよりひでぇや」
被害者の死体を見て、ウェインはそんな言葉を落とす。
被害者は二人共、火球が直撃し遺体はバラバラになっていたらしい。
実際、今目の前にある被害者の遺体も、身体のパーツがどれがどれだか分からない。ふと、親友の遺体を思い出して吐きかけた。
「このディノバルドと戦ってる最中に、被害者はブレスでバラバラにされたと?」
「そ、そうです……。私、助けたかったのに、何も出来なくて……!」
涙を見せる少女は、
一人目の被害者は彼女が受けたディノバルドの討伐クエストに同伴し、クエスト中に死亡。クエストはリタイア。
二人目の被害者も同じく彼女が受けたディノバルドの討伐クエストに同伴し、クエスト中に死亡。クエストはディノバルドを討伐してクリア。
彼女は一度狩りで仲間を失ったにも関わらず、その一週間後に同じクエストを受けた。
そうして二度目も被害が出てしまったが、彼女だけは無事でクエストもクリアしている。
その他の情報は移動中にウェインが一通り目を通して、彼はここに着く前にこう言った。
「───これ、黒かもですね」
こういう時、彼の予想は大体当たるらしい。
「殺したの、貴女ですよね?」
「───ぇ?」
そもそも今回の事件。
もしこれがハンターによる殺人なら、容疑者───犯人は一人しかいない。
もしこれがただの事故なら、私達はここに来ていない。
「クエスト出発前に資材に入っていた大タル爆弾はどこで使ったんですかね? ギルドはハンターが持ち込むアイテムを確り記録しているんですよ」
とある商人と狩人が関わった密猟事件でも彼が言っていた通り、ハンターは狩りに出向く際所持するアイテムをギルドに提出する義務がある。
「ディノバルドには大タル爆弾による損傷は見られなかった」
あらかじめ資料で大タル爆弾の所持と仕様を確認していたウェインは、現場に着くなりディノバルドの死体を観察していた。
ディノバルドの死体には大タル爆弾で受けたようなダメージが見当たらない。なら、大タル爆弾を何に使ったのか。
「まさか大タル爆弾に使われていた魚が腐っていて勝手に爆発したとは言いませんよね? さて、あなたは大タル爆弾をどこで何に使ったのでしょうか」
大タル爆弾が人を殺す事が出来る兵器なのは、私も知っている。
「───アハ、そんな所まで確認する人いたんだ。すっごーい、大当たり。その汚いのを殺したのは、私だよ。勿論、一週間前に一緒にこのディノバルドの討伐クエストを受けてくれた人を殺したのも私。殺した後大タル爆弾で木っ端微塵にして、ディノバルドがやった事にしたの!」
少し見開いた表情で、簡単に自白するメアリー。そんな彼女にウェインは銃を突き付けるけど、それでも彼女は随分と余裕な表情で私達を睨んだ。
「シノアさん、コレは救えませんね。やっちまいますよ?」
「ウェイン───ちょ、待って!」
「はぁ? 誰がやっちまいますよ、だ!」
ウェインが私を横目で見て隙を見せた瞬間、メアリーは肘で銃を押し退ける。
驚いて引き金を引いても、弾丸は明後日の空気を貫くだけだった。
刹那、メアリーは背中に手を伸ばす。
防具と同じく千刃竜の素材で出来た双剣。その片方が、身を反らすウェインの横腹を斬り裂いた。
「───っ!?」
「ウェイン!!」
咄嗟に大剣に手を伸ばして、二人の間に振り下ろす。
しかしメアリーは軽々と後ろに跳んでそれを交わし、歪んだ表情で私達を嘲笑った。
「アッハハ、そんな重い武器で人とヤり合おうなんてギルドナイトも底が知れてるね。銃ってのもボウガンと比べまたら威力もなくて防具すら貫通しない」
双剣に着いたウェインの血を舐めながら、メアリーは私達を見下してそう言う。
その剣で何人殺して来たのだろうか。そう思わせるような狂気的な目が、私達を捉えていた。
「ウェイン! 確りして、大丈夫?」
「か、擦り傷ですよこんなの……。いや、油断しました。これだから金髪ロリ幼女は……」
うん、大丈夫そうだね。
「私がなんとかする……」
まさか相手が対人慣れしてるなんて、誰が思うだろうか。
多分彼女は私より慣れてる。双剣を構える姿が、それを証明していた。
モンスターと戦う為の構えじゃない。人を殺す為の構え方。
対モンスター用の武器はモンスターの強靭な甲殻や肉を切り裂く斬れ味を有している。
それでも私達人間はひ弱で、力一杯剣を振るわなければモンスターに傷をつける事が出来ない。
だけど彼女の構え方に、そんな力は何処にも入っていなかった。
力を抜いて、軽く持ち、素早く動く為に踵を浮かせている。
人間程度なら、軽く当てるだけで肉まで持っていくのが対モンスター用の武器だ。確りと構える必要なんてない。
「斬竜、ディノバルドの武器かぁ。斬れ味良さそうだよねぇ。凄く斬れそう。でもさぁ、当たらなきゃ意味がないよね!」
言うか早いか、彼女が話している間に私は大剣を振り下ろした。しかしそれを難なく交わすメアリー。
だけど───甘い。
線がダメなら、面の攻撃。
大剣の振り下ろしは隙が大きい上に範囲が狭い。少し横に動いただけでこうやって交わされてしまう。
だからジャギィのようなすばしっこい小型モンスターに、大剣の振り下ろしは当てにくいんだ。
だから、普通のハンターはこうする。
「……そこ!」
地面に叩きつけた大剣を引き上げながら、右足を軸に身体を回した。
回転斬り。悪いけど足を落とさせてもらう。
「甘いんだよ!」
しかし、メアリーは後ろに跳んでそれを交わした。
回転斬りの反動で動けない私に向けられる刃。それが喉元に届く瞬間、私は引き上げた大剣を背負いながら身を翻して刃を背負った大剣で受け流す。
「イナシ!?」
「そうだね、甘いね」
対人なれしているからだろうか、動きは完璧だ。
だからこそ読みやすくて、単純。確実に避けられない距離で私は大剣を振る。
瞳を見開いたメアリーの口元が、歪んだ気がした。
死にたくない。皆そう思ってる。貴女が殺した人だって───
「ヴァァァァカッ!」
「───っ!?」
突然メアリーが目の前で回り出す。まるで大剣の挙動に合わせて動くその動きには見覚えがあって、回転しながら私の背中を取った彼女が剣を払うと同時に───私の腹部と右足と左手から鮮血が散った。
「───っぁ゛!?」
千刃竜の鋭い鱗で出来た刃の切れ味は、私の肉を簡単に切り裂く。
油断した。カウンターが決まったと確信していたから。
だけど、相手は人間。
私と同じ事くらい考えている。カウンターへの、カウンター。
「ブシドースタイル……。ジャスト回避……。攻撃をギリで避けるならお手の物。もしかして私がただ人殺してるだけの奴だと思った? ちゃんとハンターもしてるんだよ。このディノバルドだって真面目に自分で倒したんだから!」
「……っ、ぅ、な、なんで。なんでそんな力があるのに、その力を人に向けるの!」
「それはこっちの台詞だよ
目を見開いてそんな言葉を落とすメアリー。
「は? 王族? な、何言ってるの?」
だけど、私は彼女が何を言っているのか理解出来なかった。何か、勘違いされているのだろうか。
「シノアさん、多分勘違いされてますよ」
ウェインの言葉通りだけど、何か引っ掛かる。私の母と父は、普通の人だった筈だ。
「あ、そう。素っ惚けるんだ。良いけど。……私はね、他人が嫌いなんだ」
「他人が嫌い……?」
「ギルドも王様も、誰も私を助けてくれない。男達は皆私の事を肉便器としか思ってない。他だって見てるだけ。だから殺してやるんだ! 私の身体を見て嫌らしい眼をする男とか、さっきまで必死になって腰振ってた男が───私に刺された瞬間死にたくない死にたくないって、必死な顔で訴える。私の声なんて聞いてなかった癖に!! 私の事なんて見てない癖に!! だから殺してやったんだ!! 悪いかよ!!!」
彼女はそう続けて、近くに転がっていた被害者の死体を蹴り飛ばす。
彼女はきっと不幸だった。
誰にも助けて貰えずに、ずっと独りだったんだと思う。
やっぱり私達は間違っていて、それでも私はもう後戻り出来ない。それは、彼女も───
「この世の理を教えてあげる、ギルドナイトさん。この世界は弱肉強食。強い者が弱い者を食う。ハンターになる前に教官に教わらなかった?」
その言葉を聞いて、ふと誰かの言葉を思い出した。
──この世界は強く無いと生き残れないって意味だ。死にたくなきゃ、強くなれ。死にたくなきゃ、俺が強くしてやる──
そうだね。
「……貴女は許されない」
「あんたの目、私と一緒だよ」
「……そう」
「
そうだね。
きっと私は、今───貴女と同じ眼をしてる。
「シノアさん?」
私は、傷口を押さえて座り込むウェインから銃を一本引き抜いて腰にしまった。
自分の持ってる銃には弾が入ってないから、彼女を
「借りるね」
「シノアさん、辞めた方───っぅ」
横腹の傷が痛むのか、お腹を抑えて蹲るウェイン。
ちょっと待っててね。直ぐに終わらせるから。
「何度も言うけど、そんなデカい得物とちっちゃな銃じゃ私には勝てないよ。まぁ、それでもやるってんなら私を楽しませてよ。……ほら、全力でさぁ!! アッハハ!!」
「……っぅ!」
向かってくる一対の刃を大剣の腹で受け止める。力は弱いけど、何度も放たれる連撃を受け切れる訳がなくて、私は徐々に大剣を持つ手を緩めざる得なかった。
「オラオラ! いつまで持つかなぁ!!」
「舐めるな!!」
力を溜め、大剣を振り払う。
後ろに跳んで避けるメアリーを追って、私は溜め込んだ力で地面を削った。
削った地面ごと、大剣と岩盤を眼前の犯罪者に振り上げる。
「ブレイヴスタイルも使えて狩技まで二つも使えるなんてやるじゃん。でも、やっぱり大剣は遅い!!」
それを大きく交わしたメアリーは姿勢を低くし、回転しながら跳躍する。
両手の刃が向かって来た。彼女が持つ一対の双剣が私を切り刻まんと回転する。
「……っぅ!!」
イナシ。からの攻撃で大剣を振り下ろした。
でもこれだけならさっきと同じだ。
その回転に合わせて、私も身を捻って攻撃を避ける。悪いけど、
「は!? ブシドースタイル!?」
「そこ……っ!!」
回避の着地から力を溜めて地面を引きずった大剣を振り上げる。
メアリーの眼前を斬り裂いた大剣は、申し訳程度にガードに使った双剣を切り飛ばして彼女の可愛い顔を焼き切った。
「ゔぁぁぁああああ!?」
痛みに叫ぶメアリーの腹を蹴り、飛び上がる。
背後を取って、私は力を溜めた。
「う、嘘。どこ、私が負ける訳、まだ、避けて、次の攻───」
悪いけどもう回避はさせない。死角からの空中溜め切り。
これで───終わり。
振り下ろした愛剣がメアリーの右肩を切り落とす。
吐き出す鮮血。声にならない悲鳴。
可憐だった少女は身体中真っ赤にして地に伏して、血と涙でぐちゃぐちゃになった表情を私に向けた。
なんで? そんな事を聞きたそうな顔。
「何……それ…………ずる……くね?」
「この世は弱肉強食だからね……」
彼女の正面に立って、私はその頭に銃を向ける。
貴女は殺せないと言ったけど、今なら殺せるよ。
「私は…………私はただ……人生を楽しみたかっただけだったの! 女で、家族も居なかったから強くなるしかなかった。一人で生きるには強くなるしかなかった。バカな奴を身体で騙して、殺して、強い武器と防具を手に入れて、お金もその方が儲かる。だって、弱いままじゃ遊ばれて捨てられて、売られて玩具にされるんだ!! 弱い奴が悪いだろ!! 私はそうだった!! 私だって散々強い奴に痛ぶられて来たんだ。やり返して何が悪いんだよ!! 男はどーせ女の事苗床だとしか思ってないんだ。私が悪いのかよ!? なぁ、私が悪いのか!? 誰も助けてくれなかったくせに、お前らギルドナイトってのは人が死ななきゃ動かないのかよ!! 死にたくない? 私も死にたくなかったよ。必死で助けを呼んだよ! 誰も助けてくれなかったから強くなった。強くなったんだ。この世界は弱肉強食なんだろ!? なぁ!! お前みたいな裕福な王族の娘には分からないよな!! 私がどんな目にあったか!! 私がどんな生き方をしてたか!! お前みたいな王族じゃ想像もつかない酷い人生だった!! お前らは誰も助けてくれない!! 誰も私を見てない!! なぁ!! 何とか言えよクソがぁああ!!!」
「そうだね、この世界は弱肉強食だよ。貴女が大変だったのは分かった。私に貴女の気持ちは分かってあげられないけど、それだけは分かった。……私は確かに幸せだった」
クライス先輩が拾ってくれなかったら、私も彼女と同じになっていたかもしれない。
だから私は幸せだし、彼女は不幸だ。
それは分かるけど、彼女は許されない。してはいけないことをしてしまったのだから。
「……ごめんね」
静かに引き金に手を乗せる。
この引き金を引けば彼女は死ぬし、私は彼女の言う通り人殺しだ。
「なら…………た、助けてよ。私……死にたくないよ。もうこの身体じゃ悪い事出来ないよ? また男の玩具にされても良い。だから、だからお願い。それでも良い。この身体をどうしたって良い、だから、だから、助けて。死にたくない!!」
「一つだけ、教えてあげるね」
「……ひっ!?」
表情が歪む。背中に隠していたのだろう剥ぎ取りナイフを持つ彼女は、歪んだ表情のままそのナイフを───
「この世界は強くないと生き残れない」
「クソがぁぁぁぁあ───」
───ナイフを落とした。
力の抜けた身体が地面に横たわる。額に開いた穴から垂れる液体が床を濡らした。
「それはね、この自然の話で。人間には確りとした理性とルールがあるの。……私達人間の世界では強い者が弱い者を食って良いなんてルールはない」
でも、強くないと生き残れないのは確かな事。
この子も多分、間違ってない。
ギルドナイトが正しい訳じゃない。
この娘がこうなる前に、ギルドナイトが動いていれば救えたかもしれない。
私達は───私は何をしてるんだろうか。
「シノアさん……」
「あ、ごめん。忘れてた。……はい、回復薬」
私は正しい事をしてるのだろうか?
今はただ、その言葉を信じるしかないのだろう。