【幕間】ウェイン・シルヴェスタの独白
ギルドナイトという人達を知っていますか?
「たしかに、君達は正しいのかも……しれ、ない」
両腕を切断され、地面に伏せる男が口を開く。
正しい。
正しさ。
正義。
血みどろで倒れている彼や、彼の返り血で真っ赤な男や、
正しいなんて曖昧な言葉で測れる程、人間は簡単ではない。
悪意が正しさに繋がらないとは限らない。
善意が悪にならないとは限らない。
「でも、彼女は……この世界に居てはいけない娘なんだ。それがギルドの、世界の秩序の答えなんだ。分かるだろう? 王族の隠し子なんてあってはならない。僕がしなくても、他の誰かが彼女を殺す。いずれ、誰かが───」
「ごたごたうるせぇよ」
飛び散る血飛沫。声にならない音が、首に槍を突き刺された男の喉から漏れた。
「返事はモスだ。……あの時にそう言った筈だろ」
「いや、もう喋れないでしょうに」
法に。
正義に、秩序に。
それら全てに従う事が、きっと純粋な正義なのだろう。
ただ、本当にそれが正しい事なのだろうか?
その法が、正義が、秩序が、完璧な正義なのだろうか?
その正義を作り出した存在が完璧でないのなら、その正義も完璧ではない筈だ。
「ウェイン、後片付け宜しく。綺麗に殺害現場にしとけよ」
「この後はどうするんですか?」
だからといって、自分が正しいなんて思った事は一度もないのなけども。
正義って、なんなんでしょうね。
「やっちまった以上、俺も腹をくくるしかない訳だ。シノアに容疑を擦りつけて、ネタばらしをしてから俺は殺されるとするかねぇ」
「そこまでして彼女を救いたいんですか? 自分の生を捧げてまで守る価値が、彼女にあるんですか?」
だからこれは僕の物語ではない。
「黙って言うこと聞いてりゃ良いんだよ。……お前もモスみたいになりてーか?」
「モス。……いやー、ご遠慮したいですね」
とある時代、とある場所。
答えを見つけ出せなかった僕とは違う、一人の少女がいた。
「それじゃ、迫真の演技を期待してますよ。もう一度聞いておきますけど、本当に何があっても、先輩を助ける必要はないんですね?」
「あぁ、俺が何を言ってもだ。泣き叫ぼうが喚こうが、ほっときゃいい。……ただよ───」
少女を助けようとした、一人の悪党がいた。
「───今後のシノアの事を、お前に頼む」
「……モス。まぁ、僕も彼女の事は……嫌いじゃないですから。安心して死んでください」
これは、一つの
正しさとはなんだろうか?
世界の法を守る事も、正しい事だと思う。
自らの正義を守る事も、正しい事だろう。
とある少女の解答は、とても幼稚で罪深い物だったけれど。人として綺麗で純粋で真っ直ぐな正しさだった。
どいつもこいつも、善人ばかりでどうしようもない───バカばかりだ。
羨ましいね。
もし少女の解答が物語になったのなら、それは少し泥臭い美談になるのではないだろうか。
己の正義をぶつけ合い、仕組まれた勝者は仕組んだ敗者に謝罪した。
唐突過ぎて伏線もなんの捻りもないその物語のタイトルは、そうだな───とあるギルドナイトの陳謝なんてどうだろうか。
とあるギルドナイトって誰だって。
そりゃ、仕組んだ人と仕組まれた人の二人だよ。
結局二人は全く思惑通りに進まずに、お互い謝って終わる美談。
我ながら臭い、臭過ぎる。こんなの売れないね。
僕はそんな二人が実の所嫌いだった。
純粋過ぎる少女は、この世界の暗い所を少し見ただけで立ち直れなくなってしまうし。
子供みたいな正義感を持ったおっさんは、悪党のくせに自分の身なんて簡単に投げ出せる善人だ。
見てて心配になるよね。いや、大丈夫かこの人って思うんだよ。ほっとけないんだよ。
これを人は善意と言うなんて話もあるけれど、僕はそうは思わない。
僕はただ、そんな危なっかしい人を見ていたくないだけなんだ。
見るに耐えないから、手を差し伸べていただけなんだ。
自分の事しか考えていない僕は、そんな二人が大嫌いだった。
さて、もしあの二人の話が物語になるとしたら。あとがきという物を書かなければならないと思う。
そういえば、プロローグにあたるお話もしておかなければならない気がする。
さしずめエピローグの後についたプロローグという名のおまけ。番外編。幕間。
これはとある少女の物語の前日課。
それじゃ、そろそろ始めようか。
そうだなサブタイトルを付けるなら。
───とある
◆ ◆ ◆
初めて人を殺したのは十代の半ばだった。
全くもって才能がないのにハンターを目指していたのは、憧れていた父に追いつくため。家で待つ加工屋を営む母の手伝いをする為。
勉強は得意だった。運動はまるっきしダメだった。いざモンスターを目の前にすると武器を持つ手が震えるんだ。ダメだこりゃ。
ある日帰宅すると、母と加工屋の従業員が皆死んでいた。
焼き切られた皆の身体が転がる自宅で、僕は涙を流す事もなくただ犯人を憎んで、探し出そうと必死に死体を漁った。
この時点で既に頭のネジがイかれていたんだと思う。
普通大切な家族が死んだら犯人を探す前に泣き崩れて何も出来なくなるよ。
さて、犯人は簡単に調べがついてしまった。
その頃僕の村に火属性の武器を持った人はそう居なかったし、加工屋には作った武器の領収書が保存されている。
その中から火属性の武器を持った人を割り出して、ガンナーは勿論叩き斬る大剣やハンマー、小回りの効かないランス等を抜くと自然と犯人が絞り込める。
その犯人を村で探し出して、僕はその男に狩人の誇りを向けたんだ。
母が作ってくれたライトボウガンを犯人───父親に向けたんだ。
気が付いたら血だらけの部屋で僕は眠っていた。
両脇に死んだ両親が並び、それでもなお瞳は涙を浮かべない。頭のネジが飛んでるんだと思う。
モンスターも殺せないのに自分の父親を殺したんだ。当たり前だ。
さて、僕は悪だろうか。
僕は正しい事をしたのだろうか。
答えをくれたのが、一人の男だった。
「ハンターがその誇りを人に向ける事はな、ギルドが禁止している。その理を破った者に与えられるのは、極刑よ」
それが、この世界の答えだ。ルールだ。法だ。
ハンターはモンスターに向ける武器を、その誇りを人に向けてはならない。
当たり前のことだ。
「だがな、その法を破っていい存在が二つだけある」
男は口角を上げて僕に手を差し伸べる。
これは僕がギルドナイトになった時の話だ。
「自分の正義を貫かなければならない者と───俺達
これは、僕がギルドナイトになった時の話。