海風が心地よい、タンジアギルドの集会所。
「それ、なに?」
「今回の事案の報告書、ですよ」
朝早く、私は他に誰も座っていない酒場で紙とペンを持つウェインに話し掛けた。
アレから一晩が明けて、船はやっとタンジアに辿り着く。
タンジアギルドはタンジアの港にあるシー・タンジニャというレストランをギルドが間借りして運営しているギルドだ。
クエストを受ける事と、シー・タンジニャの美味しいご飯が食べられるとても機能的な場所である。
そこへ私は私服を着てやって来たのだけど、時間はまだ太陽も登っていない午前。
シー・タンジニャは疎かギルドの職員までも働いていない時間に起きてしまって一人かな、なんて思ってたんだけど。
ただ一人、ギルドナイトのコートを着て帽子を机の横に起き報告書にペンを走らせるウェインの姿があった。
「昨日の?」
「そうですよ?」
「昨日からずっと書いてるの?」
「いえ、さっき起きたので今書き始めた所です」
なんだそれ。って、その格好で寝てたのかこの人は。
「シノアさんも今起きた所で?」
「あ、うん。ちゃんと寝れなくて」
「昨日の事でモヤモヤしてると」
「そ、それは……」
そうではないとは、言えない。
私がした事ではないのだとしても、人を殺す所に出くわしてしまったのだから。
どうしても、家族の事が頭に過る。
「嫌なら、続けなくて良いんですよ? クライス先輩に無理矢理連れて来られたんでしょ?」
「ぇ……そ、それは」
そうだけど。
私は昨日から一つ、思う事があったんだ。
ハンターを狩る、ハンター。
罪を犯したハンターを取り締まる、ギルドナイト。
そんな存在で居られるなら、私は家族の仇を取る事が出来るのかもしれない。
「ねぇ、ウェイン」
「なんでしょ?」
「私……家族を密猟者のハンターに殺されたんだ」
「そうですか」
「いきなりこんな話して、ごめん」
迷惑だよね。
「いえ、丁度報告書に行き詰まったので。暇潰しにお話お聞きしますよ」
この人は本当にデリカシーがないのか。でも、その方が丁度良い。
「ハンターってさ、自分で言うのもなんだけど化け物だよね」
「そうですねー。空飛んだり地面潜ったり火を吐いたり雷出したりする化け物をその腕一つで狩ってしまうような人外。それがハンター」
言い方が辛辣過ぎる。
「そんなハンターを止めるには、それ相応の人外が必要だって……そういう事なのかな?」
「お、理解が早いじゃないですか。あなたもその人外に選ばれただけはありますね」
「これでもあのクライス先輩の弟子で、上位ハンターだから」
私はこれでもこの歳で上位ハンターをやっている狩人だ。師匠である先輩の教えが良かったから、それなりの実力を身に付けている。
だから、私にはこの仕事が適任だ。
私をハンターの道に、ギルドナイトの道に誘った師匠の目が節穴である筈がないのだから。
「ねぇ、なんで殺さなきゃいけないの? 罪を償わせる事は出来ないの? それだけ、教えてくれないかな……」
でも、それだけがどうしても納得出来ない。確かに人殺しは許される事ではないけど、それでもなんらかの方法で罪を償う事は出来ないのだろうか。
「これ、見ます?」
ウェインはそう言って私に
「オーウェン氏、ガイエン氏死亡事案の報告書。二人はアオアシラ討伐後突如乱入して来たセルレギオスの攻撃により死亡───え?」
彼が書いていた報告書。そこに書いてあったのは、全くの
「どういう……事?」
「シノアさんって、ハンターによる殺人ってギルドナイトになる前に聞いた事ありますか? あー、あなたの体験談はなしで」
報告書をしまい、彼はこめかみを指で突きながら私にそう質問して来る。
ハンターによる殺人事件。
ふと思い返した。
私の家族が殺された事件。その現場を見た事はあっても、ハンターが人を殺したなんて事は私の知る限り聞いた事がない。
「ハンターは恐ろしい力を持っています。その力は本当に化け物と言っても差し支えないですからね。でも、実はハンター自身はそんな事思ってもないんですよ。しかし、やろうと思えばハンターは簡単に人を殺せてしまう」
「やろうと、思えば」
「そう。ハンターによる殺人が明るみになれば、ハンターが簡単に人を殺せるというのがこの世界の常識になってしまう。するとどうなるか? ハンターによる殺人は飛躍的に伸びるでしょう。人は自分が出来る事を理解するとどうしても手がそこまで伸びてしまう」
「そんな事───」
「あるんです。だから、ギルドはハンターによる殺人を公表出来ない。闇に葬るしか、ないんです」
それが───
「───それが、ギルドナイトの仕事なの?」
「それも、ギルドナイトの仕事ですね」
そう言い終わると、ウェインは報告書を何枚か重ねて立ち上がる。
これでこの話は最後だとでも言うように。
「あなたに出来ますか?」
私の答えは決まっていた。
「そうしないと、ハンターが人を殺す事件が増えるんだよね?」
「……はい」
「……私、もうこんな事起こっちゃいけないと思う」
ハンターによる犯罪。
それを止める事が出来るなら、私は───
「だから、私に出来る事ならするよ」
「ギルドナイトの仕事は甘くないですよ」
「私をそこら辺のハンターと一緒にして欲しくないかな」
「へぇ、そりゃ……気に入りました」
そう言うと、被った帽子を態々取って手を差し出してくるウェイン。
「これから僕達は仲間、パーティです。ギルドナイトだろうがハンターだろうがパーティの意味は同じ。分かりますね?」
「仲間は信じて、助け合う物。狩場でも何処でも、それは同じね……」
私もその手を取る。
「宜しく、シノア」
「宜しく、ウェイン」
これが、私達が出会った時の事。
私がギルドナイトという立場になった日の事だった。