ーー昔、ひとりの少女がいた。
岩に刺さった
当時のブリテンに必要であった『完全なる王』の象徴になるべく少女は性別を偽り、ひとりの王となった。
王となった彼女は各地の争いや怪物との戦いを経て、人々からの称賛からより『完璧な王』となっていった。
だがそれも束の間、余りにも完璧で合理的なその生き方に民は恐れはじめ、騎士達との心の距離も次第に離れていった。
それでも彼女は構わなかった。たとえそれが『滅びを約束された国』の為だとしても。
その時に彼女が思ったことは「
故に彼女が聖杯に望む願いは『王の選定のやり直し』である。
◇◆◇◆ ◇◆◇◆
「ムツキ、貴方のいた世界ではこの聖杯戦争が作品として世に出回っていたと言っていましたね。その中の私は何を思い、何の為に戦っていたのでしょう...」
「んー、なんだろうなぁ。でも俺が知ってるセイバーはいつでも真っ直ぐでいて、最後にはちゃんと笑顔でいれた筈だぜ」
第五次聖杯戦争において聖杯を破壊した彼女が見せた表情は、第四次の時の悲哀に満ちたものとは違い何かしらの答えを得た顔をしていた。
「気持ちでは分かっているんです。聖杯が汚染されている聞いた時から、私の願いはまた叶う事はないと。だから切嗣はあの時、令呪を使ってまでも私に聖杯を破壊させたのですね」
そう、彼女の願いは叶わない。汚染された聖杯が叶えるのは、どんな願いであれ人を殺す形でしか叶えられないのだから。
「なぁセイバー、イリヤを覚えているか?」
「イリヤ...切嗣とアイリスフィールの娘のイリヤスフィールの事ですか?彼女が何か?」
「イリヤは今回の聖杯戦争におけるバーサーカーのマスターだ。しかも切嗣を恨んでいて、その息子の士郎も殺す気でいる」
「なっ..!では、彼女とも争う事になるという事ですか?」
セイバーにとっては、前マスターとそれ以上に共に戦場に立った女性とのたった一人の愛娘。そんな彼女と争いたくはないのが本音だろう。
だがそんな事以前に俺が争いたくない。
「いや、俺はイリヤともバーサーカーとも戦う気はない。彼女が切嗣たちを恨む気持ちも多少解るつもりだ。だがそれでも...それでもあんな少女を手にかけれるかよ!俺はハッピーエンドが欲しい!可能な限り誰もが助かる大団円だ。その為にはセイバー、アンタの力が必要だ」
そうだ、イリヤも桜も救えるのなら救ってやる。その為の知識も可能性も俺にはまだある。
「私はまだ自分の願いを諦めることは出来ません。...ですが貴方の話を聞いて、汚染した聖杯やイリヤスフィールを放っておく訳にもいかない。それにこの戦いを経て私の中の何かが変わるかもしれない」
セイバーは立ち上がりこちらを向くと、その真っ直ぐな瞳で俺を見つめる。
その瞳は先程までのような不安の混じったモノではなく、決意を決めた王のモノだった。
「ならばこの聖杯戦争において、私はマスターであるシロウ、そしてムツキ..貴方達の剣となろう」
「あぁ。よろしく頼む、セイバー。そうと決まったら少しくらい眠ろうぜ、俺もお前さんもちょっとは魔力温存した方がいいだろう」
こうして俺は無事に3人の頼もしい仲間を得られ、やっと安心して眠りに入ることが出来た。
◇◆◇◆ ◇◆◇◆
だがその安眠は2時間足らずで終わりを迎えるのだった。
「シロウ、起きてください!朝の鍛錬を開始しますよ!」
士郎の部屋から比較的近くの部屋で寝ていた俺は早朝からのセイバーの声に起こされる。
決心がついた事によりやる気も一気に向上したようだ。だがまだ朝の5時だぞ。士郎も気の毒に...さて、二度寝二度寝。
「ムツキ、貴方も起きてください!昨日の戦いを見ても貴方は動きに無駄があり過ぎる、さぁ士郎と一緒に道場に行きますよ!」
嘘...だろ...?いやいやいやいや、そういうのは先ずはマスター優先にしておけって!俺なんか昨日ランサーとセイバー、2人と戦ってるんだぞ!更に深夜3時くらいまでお前と話してたじゃん!辛いわー2時間しか寝てないから辛いわー!
などという俺の抵抗も虚しく、俺と士郎はそのままセイバーに引きずられながら道場へと連れて行かれた。
◇◆◇◆ ◇◆◇◆
「身体中が痛ぇ..サーヴァントって筋肉痛とかなるのかよ。しかし士郎はよく根をあげなかったな」
「昔から身体だけは鍛えてたからな。それでも相当にキツかったぞ」
セイバーによる朝練を何とか終えた後、遅れて起きてきた凛を加えて4人で朝食を取り、男ふたりで食器を洗っているところだ。
セイバーは居間で食後のお茶を飲み、凛は荷物を取りに一旦家に帰っていった。女の子は何かと必要なものが多いらしい。
「とりあえず士郎にはこのままセイバーによる訓練に続き、凛から魔術面も指導してもらうつもりだから。多少キツいだろうが頑張ってくれ。あと勝手に夜とか出歩くなよ、マジで」
現在、敵に襲われて一番危険なのは間違いなく士郎だ。日の昇っている間ならまだしも夜の間の単独行動はまずい。
「分かった。ムツキは今日一日どうするんだ?」
「俺は今日中に行っておく場所があってな、これから少し出るよ。夕方には帰ると思うから凛が帰ってきたらそう伝えておいてくれ」
家主に伝言の言付けを頼み、俺は先ず商店街へと向かった。
「さて、お目当ての店は..あったあった!」
早速店に入り目的の品を購入する。もちろんお金は凛から借りたものだ。後から倍返しにしろとか言ってこないよな、アイツ...。
店を出て商店街を抜け、次の場所を目指す。今から向かう先が本命という訳だ。
だがその途中、公園でひとりベンチに座る少女を見つけた。
「やっ!久しぶり!」
「アナタは...。また人違いですか?私はマシュ・キリエライトさんじゃないですよ」
公園でひとり佇む少女。第四次聖杯戦争の生き残りにして、はぐれサーヴァントである盾の少女。
「いや、今回は君と知って声をかけたんだ」
「そうですか。そうだとしたらアナタはやっぱりおかしな人ですね」
こうして、