盾の少女 アルとの再会と、アサシンのサーヴァント 佐々木小次郎との出会いから早一日が経った。
今日も早朝からセイバーによる剣術指南を受け、普段使っていない筋肉が悲鳴を上げてある。しかしその分、朝食がより美味しく感じるのが困りものだ。これがアメとムチというやつか..。
現在食卓には、この俺の他に凛、士郎、セイバー、桜、そして、
「いやぁーいつの間にか大所帯になったねー!けど遠坂さんも佐久間くんもセイバーさんも遠慮なんかしなくていいからね!あ、士郎 おかわりー!」
この一際騒がしいのが藤村大河。穂群原学園の教師であり、士郎からすれば姉のような存在だ。しかし、いざ本物を目の当たりにするとすげぇ騒がしいな、このタイガーは。
俺と凛、そしてセイバーの三人が衛宮邸に住むことになった経緯については、凛が上手いこと誤魔化しを入れて説明したらしい。
その結果、大河こそ納得したようだが桜に至ってはどうも腑に落ちないものがあるといった表情をしていた。だがそれももう少しの間である。大河が先に学校へと向かった後に、桜へは真実を打ち明けるつもりだからだ。
そう、間桐桜を縛るしがらみは全て今日中に終わらせると決めた。
俺達は今日、御三家の一角を落とす。
◇◆◇◆ ◇◆◇◆
「そんじゃ先にいってくるわねー!」
その元気な声と共に
「それじゃあ私たちもあと片付けをして学校に行きましょうか、先輩」
「それなんだがな、桜。今日はこのまま学校を休んでくれないかな?これからちょっと大事な用があるんだ」
桜以外のメンバーには昨日の夜のうちに今日の行動について伝えてある。そのまま俺達は桜を連れ、居間へと戻っていった。
「あの...遠坂先輩、これはどういう事でしょうか?大事な用っていったい..」
「ごめんね、桜。貴女の為と思って信じてほしいの。ライダーを呼んで頂戴」
間桐桜は聖杯戦争においてライダーのマスターだがその権利を放棄し、現在は桜の義兄である間桐慎司が代理のマスターを務めている。しかしそれは令呪の代用品とも呼べる『偽臣の書』の力によるものであり、未だにライダーとのパスは桜へと通っている筈だ。
ならばサーヴァントとの念話によりこちらに呼び出すことも可能だろう。
「そっか...もうバレちゃってたんですね。分かりました..ライダー、私の所に来れる?」
これで暫くすればライダーも来てくれる筈だ。さて..それまでの間に先に桜に説明をしておくか。
「心配いりませんよ、サクラ。私なら霊体化して屋敷の外に待機していましたから」
と、桜の背後に当然現れたのは妖艶な雰囲気を持つ長身長髪の美女。彼女こそが間桐桜が召喚したライダーのサーヴァント、ギリシャ神話に登場するゴルゴン三姉妹が末妹である怪物、メデューサである。
「お早い登場だな。まぁ二人一気に説明できるからこちらとしては助かるんだが」
「どういうつもりですか?サクラ、彼とあちらの女性は私と同じサーヴァントです。ここは危険だ、一旦ここを離れましょう。私が彼らの相手をしますから、アナタは逃げてください」
彼女の得物である鎖のついた杭を取り出し臨戦態勢に入るライダー。まぁ直ぐに信用してもらうのも難しいか..。
「ちょっ..ちょっと、ムツキ!向こうは戦る気じゃない!どうするのよ!」
「おちつけ、凛。桜、ライダー、単刀直入に言おう...俺は今から君の身体に埋め込まれている聖杯の欠片を抜き取り、間桐臓硯の手から解放させようと考えている」
「なっ...!」
「聖杯の欠片って..いったいどういう事なんですか?」
二人が驚くのも無理はない。ライダーが如何に桜のサーヴァントだとしても聖杯として発動する前の状態なのだから、気づく事も難しいだろう。
「君の祖父...間桐臓硯は前回、第四次聖杯戦争において聖杯の泥である『
「桜、ムツキの言っている事は残念ながら真実よ。お願い、私たちを信じて」
「遠坂...先輩..」
未だ俯き答えの出ない桜だが、そんな少女の前にひとりの正義の味方が立つ。
あぁそうだ、頼むぜ...主人公。
「聞いてくれ、桜。俺達は桜を助けたい。正義とか悪なんて関係なしに俺が、俺達が桜を救いたいんだ。どうか、協力してくれないか」
「先輩...わたし...」
その真っ直ぐな瞳で桜を見つめ気持ちを伝える士郎。うーん、さすがFateという物語の主人公を張るだけのことはある。俺が話すのとはひと味もふた味も違うな。
「サクラ...」
ライダーの方はというと、先程まで俺達にむき出しだった敵意は薄れ、今は主を心配するひとりの従者となっていた。
少しの沈黙の後、少女は決意を固め 深呼吸ののち俺たちをしっかりと見つめて口を開いた。
「わかりました。皆さんにこの身体をお預けします。どうか、どうか私を間桐の..お爺様からの呪縛から解放してください!...ライダーも協力してもらってもいいかな?」
「えぇ。元より私のマスターはサクラだけですから」
よし..!これで条件はクリアした。ここにいる戦力は俺と凛、士郎とセイバー、そしてライダー。
桜とて今はしっかりと前を見ている。そして、その先に見えているのはきっとこれからの未来だ。
これで残るピースはあと一つ。いや、あと一人だ。
「ーーーカッカッカッ、何やら面白い事を言っておったの。ワシの手から桜を解放するとな?えぇ、小僧?」
庭から聞こえたのは、今にも朽ち果て乾涸びそうな老人の声。その声の主こそ倒すべき敵にして、最後のピース。
「どうせアンタのことだから最初っから聞いてたんだろ?それとも耳が遠くなって聴き取れなかったか、蟲爺よぉ」
ーー間桐臓硯、五百年の時を生きる魔術師。人外となった妖怪。蟲の翁。
聖杯戦争を作った御三家の内の一人であり、今回の間桐桜救出においての最後にして最大の難所になるであろう人物だ。
「ふむ...遠坂のよ。お主のサーヴァント、ちと躾けがなってないようじゃのう。代わりといってはなんだが、ワシが少し躾てやろうか」
「御託はいいからさっさと桜を解放しなさい、間桐臓硯。私も、桜も..もうとっくに覚悟は決まってるんだから!」
「そうかい..。ではお主らを殺してから桜を連れ戻すとするかのぉ。なぁ、桜?」
ジッ..と桜を見つめるその瞳の奥はまるで底無しの闇のようだった。沼のように深く、決して獲物を離さないような、そんな欲深い深淵の眼。
「おー怖い怖い。だが悪いな、爺さん。俺らこれから聖杯戦争終わらせる為に色々と忙しいんだわ。老兵は死に逝くのみっていうじゃん、ちょっと若者に道譲ってくれよ」
「聖杯戦争を終わらすとな?カカッ、また珍妙な事を言う。だが主らはここで終いじゃ、蟲共の餌と成り果てるがよい」
臓硯がパチンッと指を鳴らすと何処からとも無く現れてくる大量のむし、虫、蟲。その羽は刃となり獲物を切り裂く、その牙は獲物を引きちぎり喰い尽くす。ヒトを殺す為だけに産まれた蟲。数にして百は軽く越え、未だその数を増やし続けている。
そして、それら翅刃虫たちは瞬く間に臓硯の周りに群がりその牙をこちらに向け、今にも軍を成して飛び掛る勢いである。
「如何にサーヴァントとて、これだけの数の蟲...マスターを守りながら戦えるかのぅ」
点ではなく面、質ではなく量による攻撃。更にはサーヴァントではなくマスターを狙う戦法。聖杯戦争を作った御三家の一人というだけの事はあり、戦い方に関してはやはりよく分かっている。
「セイバー、ライダー...十分でいいから皆を守り抜いてくれるか?士郎と凛は自分の身をひたすら守れ、決して死ぬなよ。俺は今から十分間はろくに戦えないと思うから、そこんとこ宜しくな」
「オーケー...しくじったら許さないわよ、ムツキ」
そう、これでしくじりでもすればそこで俺達の聖杯戦争は勿論、命共々お終いだ。
それぞれがゆっくりと得物を手に持ち、身構える。
「桜よ、お主の姉や友人共が目の前で喰われる様をとくと見ておくがよい。喰らえ、蟲どもよ!」
その言葉を皮切りに襲いかかってくる翅刃虫たち。
それを迎え撃つは、二人の魔術師と二体のサーヴァント。剣により薙ぎ払われ、鎖で貫かれ、魔弾に撃ち抜かれていく蟲たち。だがその数は一向に減ることはない。
「さて...俺も頑張りますかね!」
三枚ある内の一枚のカードを取り出し、魔力を込めていく。これから行うのは通常の宝具発動ではなく、『
シャツの袖を肘まで捲り、前腕部を露わにする。その両腕にゆっくりと浮かび上がってくる青い紋様。右腕に七画、左腕に三画の刻印が刻まれている。
「これって、令呪..?」
桜が見間違うのも無理はない。色こそ違えど、その美しくも禍々しい刻印はまるで令呪のようであった。
だがこれは令呪と似て非なるものであり、俺にとっての聖杯戦争を生き抜くための切り札と呼べるものだった。
「いくぜ!『
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ーーー第四頁の能力「■■■■■、■■■■■■■」を発動