間桐臓硯との戦いから一日、あの後俺は当事者である間桐桜を中心に彼女の身に何をしたのかを『
そのまま桜には衛宮邸に泊まってもらう事にし、大事をとって一室を借り身体を休ませるようにした。ライダーも傍にいるし一先ずは問題ないだろう。
それから先の事だが、実はあまり覚えていない。今回使用した能力のどちらかの影響か、それともその両方か。どちらにせよ魔力をごっそり持っていかれたようで俺はそのまま倒れ込み、次の日の昼まで丸一日眠っていた。
重い体を起こし布団から出て居間に向かう。そこにいたのはひとり暇を持て余した青王ことセイバーのみだった。
「おはようございます、ムツキ。昨日はお疲れさまでした。もう身体の方は大丈夫ですか?」
「あぁ、心配かけたな。セイバーだけか、士郎達はどうしたんだ?」
「シロウ達なら学校へ行きましたよ。本来なら私も着いて行きたかったのですが、霊体化できない私は駄目だと断られてしまいました..。代わりにライダーがサクラの傍に着いて行っています」
そうか、そういえばみんな学生だったな。ライダーには学園の結界を解くように頼んでいるし特に問題はないだろう。
ならば今日は一日ゆっくりさせてもらうか。今後の事についても考えないといけないしな。
とりあえず現状でどうにかしないといけない問題は三点ある。先ずは柳洞寺のキャスターとアサシン。次にイリヤとバーサーカー。最後に言峰とギルガメッシュだ。
正直いまの戦力でバーサーカーとギルガメッシュと戦うのは得策ではない。現在俺の手持ちのカードは今朝生成分の一枚を入れて全部で三枚。彼らと戦うにしても五枚は欲しいところだ。いや正直戦いは避けたいとこだが。
ならば先に柳洞寺の二人から手を出すべきだろう。出来ればこちらも戦闘は避けて説得したいところだが、果たして可能だろうか...。うぅ、胃がキリキリする。
ーーピンポーン
などと考え事をしていると玄関の呼び鈴が鳴る。困ったな、家主はいま留守なんだが。まぁ宅配便くらいなら受け取れるか。
「セイバー、誰か来たみたいだからちょっと見てくる」
セイバーに一声かけ玄関へと向かう。
廊下に出ると暖かい居間と違い急に冷える。家の中といえど今は二月の上旬だ、Tシャツ一枚は流石に寒い。士郎が帰ってきたら男性モノの上着でも借りるとするか。
「はいはーい、今出ますよっと」
鍵を開けて扉を開くとそこには、
「こんにちは、お兄ちゃん」
雪の妖精が立っていった。
ーー否、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンがそこにいた。
◇◆◇◆ ◇◆◇◆
「ど..どうぞ、粗茶ですが」
台所からお茶っ葉を探し出し、お茶と茶菓子をイリヤに差し出す。
まさか向こうから、しかもバーサーカーは疎かメイドの護衛もつけずにやって来るとは思ってもいなかった。
「ありがと、これジャパニーズティーね!知ってるわ、チャバシラっていうのが入ってると良い事があるんでしょ?でも残念..これには入っていないみたいね」
博識な事で。こうしていれば可愛いものなんだがなぁ..。やはり争うことになるのだろうか。嫌だなぁ。
「アナタとはハジメマシテね。ホント、凛ってばおかしなサーヴァントを召喚したものね。私はイリヤ、イリヤスフィール・フォン...」
「知っているよ、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。バーサーカーのマスターだろう。俺は遠坂凛のサーヴァント、佐久間 武月だ。よろしくな、イリヤ」
「ふぅん..それももう知っているんだ。えぇ、よろしく ムツキ。セイバーに会うのは十年振りくらいかしらね?」
セイバーとイリヤスフィールは十年前の、第四次聖杯戦争の開始前に出会っている。だがその時は味方として、父親のサーヴァントとマスターの娘として。
しかしその関係は第四次聖杯戦争の終結と共に変わった。
「本当に貴女なのですね、イリヤスフィール...」
「えぇ、見た目が殆ど変わってないから驚いた?だって私、ホムンクルスだもの。アナタだって選定の剣を抜いて肉体の成長が止まっているのでしょう、ブリテンの騎士王さん?」
やはりセイバーの真名も分かっているか。ここまで来たのならばもう小細工は無しだ、真実を打ち明けるしかない。
「イリヤ、聞いてほしい。聖杯は汚染されている、この聖杯戦争の勝者が勝ち得る聖杯には万物の願望を叶えるようなチカラはない。これ以上の被害を避ける為に俺達は聖杯戦争を解体したいと考えている。力になってくれないだろうか?」
「昨日の間桐臓硯にも似たような事を言っていたわね、使い魔を通して聞いていたわ。仮にそれが真実だとしても、残念ながら返事はノーよ。私が、アインツベルンが求めているのは万能の釜としての聖杯ではないもの」
そう、アインツベルンが聖杯戦争で求めるモノ。それは万能の願望機である聖杯などではない。それはあくまで表向きの理由、アインツベルンや過去の間桐臓硯が求めたモノはサーヴァントとして召喚した七基の英霊が座に再び戻るときに生じる孔から『根源』へと至ること。そして第三魔法の再現である。故に表向きの聖杯など特に気にする必要はないのだ。
「しかし...だからこそそれに気づいた衛宮切嗣は聖杯を破壊したんだ!これを外に出してはならないと!」
「あの裏切り者の名は出さないで!」
それは悲痛にも似た叫びだった。最愛の母を裏切りアインツベルンを裏切った
「キミがアハト翁に何を言われたのかは知らない。だが切嗣はあれから何度もアインツベルンの城の近くまで来ていたんだ。だが裏切り者と見なされた彼に森の結界は開かず、最愛の娘であるキミを迎えに行く事は出来なかったんだ」
「知った様なことを言わないで!それもどうせ口からのでまかせに決まってるわ!いい加減にして!」
「嘘じゃない、切嗣は本当にキミを愛していたんだよ!胡桃の冬芽探しの時だってあんなに幸せそうに笑ってたじゃねーか!」
Fate/Zeroで見たあの時の光景、あれは紛れもなく一人の父親と娘の微笑ましい姿だった。
「なんでそこまで知っているのよ...まさか本当に..いえ、きっとセイバーが話したんだわ。ねぇそうなんでしょ、セイバー?」
「いいえ、イリヤスフィール。私はムツキにそのような事を話したりはしていません。私自身も彼がそこまで知っているという事に驚いているのですから」
「そんな...」
その間、数秒足らずの沈黙であったが その数秒はとても重く、永く感じた。
「今日はね、サクラの様子を見に来たの」
イリヤスフィールが顔を上げる。先程までの動揺は消え、どこかスッキリした表情が伺える。
「あの子の中に聖杯の欠片があるのは知っていたわ。でもそれが昨日の騒動で急に消えたんだもの、流石の私も驚いたわ。だからその目で確かめに来たの」
「成程、それで今日の突然の来訪という訳か。桜が帰ってくるまであと二時間はあると思うがどうする、このまま待っておくか?」
「ううん、今日は帰るわ。そしてムツキ、アナタをアインツベルン城に招待するわ。さっきの話、日を改めて話しましょう。明日の夕刻にでも郊外のアインツベルンの森の入口で待っていなさい、迎えの者を寄越すわ。勿論リンを連れてきても構わないわよ」
それは俺からすれば嬉しい誘いであった。話に応じて後日席を作ってくれる。それだけに可能性があるという事だ。まぁ罠かもしれないし、そのままバーサーカーとの戦闘になるかもしれない不安は拭えないが。
「それじゃあまたね。シロウにもよろしく伝えておいて」
「あぁ、お前さんの唯一の
立ち上がりセイバーと共に玄関までイリヤを送る。
「そうね、セイバーはしっかりとシロウを守るのよ。他のサーヴァントなんかに負けちゃダメなんだからね!」
「えぇ、ご心配無用です。私は彼のサーヴァントですから」
「あとムツキ、今度はちゃんとチャバシラの入ったジャパニーズティーを入れてよね!約束!」
そんな一方的な約束をして、イリヤスフィールは去っていった。茶柱って偶然立つからこそ縁起がいいんだがなぁ..。
◇◆◇◆ ◇◆◇◆
「イリヤスフィールがやって来たですってぇ!!!」
数時間後、衛宮邸に響き渡る凛の声。だが叫ぶのも無理はないか。
バーサーカーのマスターであり、御三家が一角アインツベルンの魔術師であるイリヤスフィール・フォン・アインツベルンが自分の留守中に家にやって来て、更には後日自らの城に自分たちを招くなどと突拍子のない事が起こっていたのだから。
「いやー俺も驚いたよ、いきなり来るんだもんなー。なぁセイバー」
「はい、突然の事でしたが荒事にならなかったのは幸いかと。それとイリヤスフィールがシロウによろしく、と言っていました」
「ん、なんで俺に?同じマスターとしてって事かな」
ここでイリヤと士郎の関係について教えてやっても良かったのだが、俺は黙っておく事にした。
「なぁ士郎、悪いが何か上に羽織れるものないか?この恰好だと少し寒くてな」
「俺のだと少し小さいんじゃないかな。切嗣が昔使っていたものがあるからそれを見てみるか」
確かに切嗣なら俺の身長と殆ど同じだった筈だ。俺と士郎は居間を離れ別室へと向かった。
その時に後方から聞こえたのは凛の「いきなり明日なんて、戦闘用の宝石用意しておかないと!他の礼装もいるかしら、アゾット剣は!」という慌てふためいた声だった。
「爺さ..切嗣が亡くなってから遺品を整理しちゃったから表に出てるのはあまりないんだが、コートとかあったかなぁ」
タンスの中を物色する士郎。その中からふと一着の着物に目がいく。
「士郎、この着物は切嗣の物か?それにしては随分と派手だなぁ」
それは着物にしては派手だが下品まではいかない、黒みがかった赤の着物だった。
「あぁ、それは藤ねぇが切嗣にって持ってきたんだよ。結局派手だからって一度着ただけだったんだけどな。他にも虎柄とか豹柄とかもあるぞ」
似合う似合わない以前に完全に趣味で持ってきたな、タイガー。
だが...うん、これは悪くない。
「こいつを借りていいか?着物にしては厚手みたいだし羽織るとなかなか暖かいしな」
「ムツキがいいなら構わないぞ。着物も着てくれる人がいる方が嬉しいだろう」
赤い着物をシャツの上から羽織る。厚手生地だが動きにくいという事は全くない。むしろマントみたいでカッコいいな。
ふと赤い外套の弓兵の姿が思い浮かんだ。彼の代わりに凛を守っていく為にも。まぁ外見から入るのも大事だよな?
◇◆◇◆ ◇◆◇◆
佐久間 武月が召喚されて6日。始まりの御三家、遠坂凛から召喚を受け、間桐臓硯を討ち滅ぼし、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンとの会合を果たした。既に変わってしまった聖杯戦争。
そしてこの日の夜、奇しくも偶然に三人の魔術師が冬木へと足を踏み入れた。