借りモノの英雄譚   作:とらまる@

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13︰人形遣いと魔眼遣い

 

「なぁ凛、それは流石に大袈裟すぎなやしないか?」

 

 マスターである遠坂凛が朝から家に帰り持って来たもの、それは大量の宝石や魔術礼装の数々だった。中には何に使うのか全く予想もできない道具もあったが、それらをコートやスカートの中に仕込み、残りは登山にでも行くのかという程の大きなリュックサックに詰めていった。

 

「アインツベルンの城に乗り込むってのよ!準備に越したことはないわよ!ムツキ、アンタも見てないで少しは手伝いなさい!」

 

「いや、乗り込むんじゃなくて話し合いな..。せっかく向こうから招待してくれたんだからそんな装備で行ったら失礼になるだろう」

 

 俺達は今日、アインツベルンの城に招待されている。結果的に戦う事になるかもしれない、だがこんな重装備で行っては相手だって警戒してしまうだろう。

 

「甘いわよ、ムツキ!相手はあのアインツベルンよ!それにアナタの話じゃバーサーカーってあの大英雄ヘラクレスだっていうじゃない!アンタの宝具はただでさえ不安要素が多いんだから」

 

 ぐっ...それを言われると反論に困る..。いや、逆に考えるんだ。可能性に溢れた宝具だと!

 

「そういえばアンタの宝具の能力だけど全部で四つあるのよね?あと一つ使ってない能力があるじゃない、先に教えておきなさいよ」

 

 凛が言った通り『英雄譚(ストーリーオブグローリー)』には四つの能力がある。先ずは基となる自身に英霊のチカラを借りる能力、次にその英霊の宝具を使用する能力『一握りの幻想』、三つ目が普段はランダムに選ばれる英霊を指名することが出来る『英雄は三度、その声に応える』、そして最後の能力は、

 

「最後の能力だがな...正直他のに比べるとハズレ能力なんだよ。英雄譚第三頁『六百六十秒の威光』は俺の身体に英霊のチカラを借りるのではなく、カードを媒体にしてランダムな英霊を六百六十秒間現界させる能力。ただし実体ではなく幽体としてだ。つまり攻撃は疎か触ることすら出来ない。出来るとすれば英霊との会話か囮に使うかくらいだな」

 

 そんなことの為に貴重なカードを使うのならば普通に使った方がまだマシだろう。

 

「うーん..確かに使いどころなさそうね、それは。よしっ、こっちは準備完了よ!かなり量は減らしたけど、あとは最低限の装備ね!」

 

 荷物は巨大なリュックサックから比較的小さなショルダーバッグへと変わっていた。これくらいならばまぁ問題ないだろう。俺も昨日士郎から借りた着物を上に羽織る。

 

「よし、じゃあそろそろ出るとするか」

 

 いざ行かん、風雲イリヤ城へ。

 

 

 

  ◇◆◇◆ ◇◆◇◆ 

 

 夕刻。陽は沈みかけ辺りも暗くなってきたというのもありアインツベルンの森への道中、街は賑わいを見せずに息をひそめていた。

 いや、だとしてもこの人気の無さはおかしい。まるでこの一帯のみに人が寄り付いていないような...。

 

「凛っ!!」

 

「えぇ..分かってるわ。結界が張られている、魔力のない人間には侵入の出来ない人払いの結界ね。誰だか知らないけれどもとっとと出て来なさい!」

 

 魔力のない人間の進入を拒む結界...つまりは魔術師狙いということ、一体誰が?タイミング悪すぎるだろ、コノヤロー!

 

「ハッハッハッー!釣れた釣れたァ!しかも遠坂のマスターとサーヴァントが引っかかるとは!なんと幸先の良い!いやぁ僥倖だ!」

 

 ご機嫌な声で建物の陰から出てきたのは一人の外国人。歳は三十半ばくらいといったところか、銀髪の髪をオールバックにし眼鏡をかけたその男はヘラヘラと笑いながらこちらへ近付いてきた。

 誰だ..原作にこんなキャラなんていなかった筈だぞ。

 

「はじめまして、ミス遠坂 そしてそのサーヴァントくん。私の名はカイゼル・ファルク・ユグドミレニア、気軽にカイゼルと呼んでくれたまえ!」

 

 ユグドミレニア...その名前には聞き覚えがある。そう、Fate/Apocryphaだ。あの作品に出てくる黒の陣営のマスター、その一族の名前がユグドミレニアだった。だがそのユグドミレニアがなんで第五次聖杯戦争に?それにFate/Apocryphaでもカイゼルなんて名前のキャラはいなかった筈だ。

 

「ユグドミレニアっていったら数年前に魔術協会から離反した一族の名前よね?それで結界まで張って私達に何の用なの?」

 

「いやなに、我が一族の当主がこの聖杯戦争というシステムにひどく興味がお有りでね。代表としてこの私がわざわざこんな島国まで出向いてやったのだよ。そして手始めにサンプルとしてマスターとサーヴァントの検体を手に入れようと思ってね」

 

 ーーパチンッ とカイゼルが指を鳴らすと建物の陰から十数体の人形が姿を見せた。外見はそこらのマネキンと殆ど大差のないシンプルさであったが、その無機質な表情は少し不気味さを感じた。

 

「これは、人形師...!」

 

「正確には『人形遣い』と呼んでほしいね!安心しておくれ、殺しはしないさ!検体として一生を終えることになるかもしれないがね!それに検体は君達だけではない、きっと寂しくはないさ!」

 

 くそっ..これからバーサーカーと戦うかもって時に、カードはなるべく温存しておきたいんだがな。ん...俺達だけじゃない?つまりは..

 

「なぁおい、カイゼルさんよ。その言い分だと他にも誰か捕まえてる言い振りだが?」

 

「そうとも、ただしこちらは予想外の収穫であったがな!まさか受肉を果たした英霊を手に入れる事が出来るとは!サンプルは多いに越したことはない!」

 

 物陰から新たに出てきた人形、それが抱えていたのは武月の見知った人物だった。第四次聖杯戦争の生き残りにして盾の英霊、アル。恐らくは気絶しているのだろう、意識を失い項垂れている。

 

英雄譚(ストーリーオブグローリー)ーー発動!!その子を、離せえぇぇ!!」

 

 意識より先に身体が動いていた。この後のアインツベルンの為に温存しておこうとしたカードは既にそのチカラを発動しており、そこには狂戦士の姿が描かれていた。

 その手に現れたのは鎖で連結された二本の魔剣。それぞれ名を赤原猟犬(フルンディング)鉄槌蛇潰(ネイリング)という。その身に宿す英霊は英文学最古の叙事詩の主人公、真名をベオウルフ。

 目の前の邪魔な木偶共を斬り伏せ叩き潰し最短距離で進む武月。しかし人形は壊しても壊しても次々と湧き出てくる。

 

「人形陣形ーー"城壁"」

 

 カイゼルの指示を受け、人形達は武月の前に集いその密度を限界まで固めていた。見るものを圧倒すらするソレは、小さなネズミの一匹すら通さない まさに分厚い城の壁と化していた。

 

「もう一度改めて名乗りあげましょう。私の名はカイゼル、カイゼル・ファルク・ユグドミレニア。"人形遣いのカイゼル"だ」

 

 

 

  ◇◆◇◆ ◇◆◇◆ 

 

 

 佐久間武月と遠坂凛がカイゼル・ファルク・ユグドミレニアとの戦闘が始まったのとほぼ同時刻。衛宮士郎と間桐桜は衛宮邸へとやって来た一人の魔術師からの襲撃を受けていた。

 だが敵は一人にしてこちらはセイバーとライダーも含め四人。勝負は直ぐに決まると思われた。しかし先に地に膝をついたのは..

 

「くっ...身体が、重い..!」

 

「セイバー!」 「ライダー、大丈夫!?」

 

 見えない何かに押し潰されるように身体を地に沈めるセイバーとライダー。それを見下ろすかのように二体のサーヴァントの前に立つ魔術師は言った。

 

「アンタ達の敗因は二つの油断よ。先ず一つはこのアタシが一人だということ。四対一なら勝てると思った?でも残念、アタシこういう局面わりと得意なの。そして二つ目はアンタ達サーヴァントが持つスキル『対魔力』、そのお陰で大体の魔術が効かないと思ったのが間違いよ。だって今まさにアタシの『重圧』の魔眼によって動けてないじゃない」

 

 オネエ口調で話すその男の左眼が輝いている。『重圧』の魔眼、文字通り重圧により相手を沈め押し潰すという能力を持つ。しかし魔眼とて一介の魔術である。対魔力Aを持つセイバーや対魔力Bを持つライダーには効く筈もないのだが。

 

「んじゃ、このままお目当てのモノを頂いちゃおうかしら♪」

 

 魔眼を維持しつつ、そのまま二体のサーヴァント達へと距離を詰めていく男。そして彼が右手の革手袋を外そうとした時、右側から衛宮士郎が飛び出してきた。その手には、毎晩遠坂凛から師事を受け訓練を重ねた投影魔術で作り出した短剣が握られていた。

 

「うおおおおぉぉ!!」

 

「シロウっ!」

 

 突然の事に思わずセイバーが叫ぶ。が、彼の判断は間違いではなかった。あの眼さえどうにかすればいい、そう思った彼はすぐさま敵の死角へと飛び込んでいった。

 このまま自分が敵を斬りつけ注意を外らすのもいい、仮に魔眼の能力がこちらに来たとしても、自分が押し潰される前に重圧を逃れたセイバーたちがどうにかしてくれる。だから彼は、自分の仲間を信じて飛び込んでいった。

 だがその刃は相手に届くことはなく、直前に衛宮士郎は見えないナニかによって吹き飛ばされた。

 

「先輩ッ!」

 

「びっくりしたわぁ~でも残念、それじゃあ足りないわ。アタシの眼からは逃れられないわよ」

 

 革手袋を外した右手、その手の平と甲に一つずつ、そこには眼が"埋まっていた"

 

 更に左手の手袋を外すと、そちらにも同じく二つの眼が付いていた。

 

 

「自己紹介がまだだったわね。私はサミュエル・E・ブラッドベリー、"魔眼遣いのサミュエル"よ」

 

 

 

 

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