もう何十体の人形を斬り伏せ、潰し、壊してきただろうか。幾度と無くその壁を崩しても新しく人形達がすぐに湧き出てくる。絶えることない無機物の波に無情にも時は経ち、宝具の効果が切れるのと同時に俺の中のベオウルフのチカラも消えていった。
「おや、先程までの勢いはおしまいですか?ではそろそろ締めにかかりましょうか」
まだまだ!っと二枚目のカートを取り出そうとした時に突如襲ってきたのは猛烈な疲労感だった。
「ムツキ!変な汗かいてるけど、ちょっとアンタ大丈夫なの!?」
なるほど...これがバーサーカークラスの代償か。何かしらあると想定してはいたがこれ程の反動がくるとは。だが..まだだ!こんな中途半端には終われるかよ!
「
残る三枚のカードのうち一枚を取り出し、新たな英霊のチカラを借りる。この現状を打破できる英霊よ、来てくれ!!
ーークラス︰アーチャー
ーー英霊︰ニコラ・テスラが選ばれました
雷電の使い手 ニコラ・テスラ、これならば!両の手の平に雷の力を集め、前方の人形たち目掛け撃ち放つ。
その青い雷光は目標を貫き、一度に三体もの人形を焼き焦がしていった。
「これは、先程とは違う能力なのか!成程..複数の能力を使い分ける英霊か、実に興味深い!」
再び何処からか現れる数多の人形。だがコイツらも無限にいるわけじゃない!体力的にもこのカードで決めなくてはマズいだろう。だから今は只々ひたすらに、この雷電の力を持って目の前の敵を穿ち貫いていった。
カードの効力はせいぜい残り十分といったところだろう。それまでに相手のストックが切れるのが先か、こちらの能力が終わるのが先か。
だが結果はそのどちらでもなく、俺自身の体力の限界という余りにも呆気ない幕引きとなる。
時間はまだ五分も経過していない、たが今の佐久間 武月はその場に立っていることさえも辛かった。
臓硯戦での疲れの残りがあったのか、それに加えバーサーカークラスを含む今日の宝具連続使用。身体がまともに動かない...くそぅ、ここまでやったのに!
「どうやら限界のようですね。こちらもかなりの数の人形が削られてしまいましたが、まぁ良いとしましょう。ではマスター共々頂くとしましょうか」
「はっ、舐めんじゃないわよ!アンタなんか私一人で十分だっての!かかって来なさい、ケチョンケチョンにしてやるわ!」
両手に宝石を握りしめた凛が俺の前に立つ。その握りしめた拳が微かに震えているのが分かった。彼女がいかに優れた魔術師だとしても、自分のサーヴァントが敵わなかった相手に挑むのはやはり怖いものがあるのだろう。
そして俺は、自分のマスターも守れずに何を倒れているんだ..!アル、出会って話したのは二度しかないがそれでも一緒の時間を過ごした大切な友人だ。その子すら守れずに何が聖杯戦争を終わらすだ、ふざけるな!!俺は三枚目のカードに手を出した。ここで、ここで終わる訳にはいかないんだ...
「ふむ、成程。降霊魔術と自動人形との応用か、面白いことを考えるな」
その声は俺でも、凛でも、カイゼルでもない、全く新しい第三者の声だった。だが俺はこの声を知っている。
曰く、プロフェッサー・カリスマ
曰く、マスターV
曰く、グレートビックベン☆ロンドンスター
曰く、女生徒が選ぶ時計塔で一番抱かれたい男
「私を呼び出したのは君だろう。そんな地べたに這いつくばっている姿を見せるために私をロンドンから呼んだわけではあるまい」
「へ...あったりまえよ。ただ来て早々悪いんだが、ちょっと手ぇ貸してくれると有難いんだが」
魔術協会時計塔の現代魔術科学部長、十二の
「時差ボケで余り体調が優れないが..いいだろう、先ず手始めにこの人形達と魔術について、手ほどきするとしようか」
名を、ロード・エルメロイⅡ世という。
◇◆◇◆ ◇◆◇◆
衛宮士郎は自分の身に何が起こったのか理解出来なかった。
ほぼ死角状態への奇襲攻撃、今まさにと剣を振り下ろした瞬間 彼の身体は破裂音と共に後方へと吹き飛ばされた。
「これがアタシの右手の魔眼そのいち、『炬爆の魔眼』。今回のアタシの雇い主様からの先払い金で手に入れた、アタシの最新の魔眼コレクションよ」
右手の手の平にあるその瞳はまるで生まれた時からそこにあるモノのような、それ程に自然とその『魔眼』は男の手についていた。
「ウフフ、見事なものでしょ。昔こそ専門家に移植を頼んでいたけれど、今じゃ自分ひとりでの移植も可能となったのよ。まぁ
これ見よがしに手を広げ自慢げに語るサミュエル。しかしその魔眼は決して目の前のセイバー達から離れようとはしなかった。
「それじゃ早速お目当のモノ、頂くとしますかね。今回の依頼とは別クチにアタシ本人としての標的、そう..アナタよ」
魔眼の使い手は歩みを進める。ずがずがと、まるでこれからパーティーにでも行くかのように浮き足立った足並みで。そしてひとりのサーヴァントの前で立ち止まった。
『重圧の魔眼』の影響で地に垂れた紫の髪を、豊満で美しいその身体を、そして眼帯で隠されたその瞳をーー舐め回すかのように、まるで蛇のように獲物を捉えていた。
「『
魔眼にはその能力に応じて様々なランクがある、その中でも『石化の魔眼』は最高ランクである『虹』の次に位置し、その能力は大魔術や現在では再現できないような神秘が秘められるモノが多い。
その眼の持ち主であるライダーの顔へと、サミュエルはゆっくりと手を伸ばしていった。
「うおおぉぉぉぉ!!!」
先程の攻撃で吹き飛ばされた士郎が立ち上がり、再びサミュエルに斬り掛かる。
「やだ、もう立ち上がったの?元気な男の子は嫌いじゃないけどもう少しお寝んねしときなさいな!」
再びサミュエルの右手の『炬爆の魔眼』が光を放ち、士郎の目の前の空間が爆発する。更にダメ押しのように二発、三発と繰り返し少年は再び地に伏した。
「先輩っ!!」 「シロウ!!令呪を使ってください!」
「あらやだ、令呪を使われるのは流石にちょっと厄介ね。先にセイバーのマスターを片付けようかしら。この『炬爆の魔眼』は使い勝手はいいけれど殺傷能力がイマイチね。まぁ並の人間ならもう一、二発で死ぬでしょ」
右手の平を倒れている士郎に向けとどめを刺そうとするサミュエル。身体中が軋み激痛で意識の飛びそうになる中、衛宮士郎の耳に届いたのは小さな少女の声だった。
「確かに並の人間相手ならその魔眼程度で十分かもしれないわね。でも相手がサーヴァントならどうかしら...ねぇ、バーサーカー?」
「■■■■■■■■■■ーー!!!」
そこに立つのは、白銀の少女と鈍色の巨人。イリヤスフィール・フォン・アインツベルンとそのサーヴァント、バーサーカーであった。
「こんばんわ、おにいちゃん。ムツキ達が遅いから迎えに来たんだけれども、なんだか面白い事になってるみたいね」