「おー寒ぃ!こういう時、霊体になれれば便利なんだろうけどなぁ」
佐久間 武月は屋根の上にいた。
現在、凛は衛宮士郎、そしてそのサーヴァントであるセイバーと共に衛宮邸の中にいる。事情もろくに分かっていない素人である衛宮士郎に聖杯戦争について教えているところだ。
そして俺は見張り役として屋根の上で夜風に吹かれながら温もりに飢えている現状だ。
「あと1枚か...とりあえず今日はこの後バーサーカー戦も控えてるんだよなぁ。うーん、どうするか..」
『
正直、今バーサーカーと戦うのは厳しい。選ばれた英霊次第では何とかなるかもしれないが、ギャンブル過ぎる。アイツと戦う時はもっと余裕のある状態で挑みたい。いや、むしろ戦いたくない!
「おーい、ムツキー!こっちの話終わったわよー。ちょっと降りて来なさーい」
下の部屋の窓の開く音と共に凛からの呼び出しを受ける。やっと暖かい部屋に入れるというわけだ。
◇◆◇◆ ◇◆◇◆
「来たわね、改めて紹介するわ。コイツが私のサーヴァントのムツキ。で、こっちがマスターの衛宮くんとサーヴァントのセイバーね」
「佐久間 武月だ。こうして面と向かって話すのは初めてになるな」
「そっか、校庭にいたのはやっぱりアンタだったのか。衛宮士郎だ、よろしくな」
こうやって目の前に立ってみて、実際に話してみてよく分かる。ゲームやアニメで見た通りの、本当にお人好しが服を着たような人間だと。
「あの...ひとつよろしいでしょうか?」
隣にいるセイバーに声をかけられる。今は銀の甲冑はなく、その下の青いドレスのみの状態となっている。改めて明るい場所で見ると、凛とは違った美しさがあるよなぁ。
「サーヴァントの私から見て貴方の霊基は非常に曖昧な状態に見えます。それこそサーヴァントと疑うレベルです。ですが先程の凛の紹介、更に短時間ながらの私との戦闘。いったい貴方は何者なんですか?」
うーん、いきなり直球の質問で来るなぁ。セイバーらしいといえばらしいが。
「凛、聖杯戦争については粗方の説明は済んでいるんだよな?」
「え、えぇ。一通りのルールは話したところよ」
まぁ頃合いだろう。原作ではまだここは物語の序盤も序盤、プロローグ後の一幕にすぎない所だが...俺は今から聖杯戦争の根底に手を出そうと思う。
「セイバー、士郎、そして凛、聞いてほしい。少し長くなるが今から話すことは全て事実であり、今ならまだ未来を変えられるということを」
こっちに来てずっと悩んでいたこと。その答えが出たのは本当についさっきの事だった。寒空の下で冷静になれたのが良かったのかもしれない。だとしたら凛にも少しは感謝だな。
なぜ俺が
佐久間 武月は...聖杯戦争についての自分の知識を、そして自分の正体を全てを話すことに決めた。
◇◆◇◆ ◇◆◇◆
「今話した事が俺の知る全てであり、恐らくは今後起こるであろう事実だ」
聖杯の汚染、言峰の暗躍とギルガメッシュの存在、間桐桜の事、そして俺がそれを知る理由、全てを話した。
暫くの沈黙。無理もない、信じられないような事を突然いくつも同時に話されては考えも纏まらないだろう。その中、最初に沈黙を破ったのは凛だった。
「私たちの存在がゲームやアニメの媒体になって世界中の人々が見ているなんて...。でもそれならアンタの言うことも納得いくわ。だってそうじゃないと私と桜の事なんてアンタが知る訳ないもの。それにそういう並行世界があっても不思議じゃない筈よ」
この順応性の高さと理解力、流石というべきだろう。第二魔法である『並行世界の運営』の使い手であるゼルレッチを大師父持つだけのことはある。
「なぁ、ムツキさん教えてくれ!桜を救う方法はあるのか?俺はアイツを救いたい...だけど俺じゃ力になれそうにない」
「可能性なら『有る』さ。桜に関しては近いうちになんとかしてみよう。ただし可能性の問題だ。それがダメならまたみんなで頭を悩ませようぜ」
そう、間桐桜についての問題は一応ながら解決策を考えてある。成功するかは五分五分といったところだが。
その言葉を聞いて少し安堵を浮かべる士郎、そして凛。だが残りの一人は未だ俯いたままだ。
「セイバー...?」
「ムツキ、貴方が今話したことについては私も信じよう。その上で貴方は今後どうしたいのだ?」
俯いた顔を上げ、こちらを見つめ問いかける。その瞳は先程より少し虚ろとした不安の混じったモノだった。
「さっき話した通り、この聖杯戦争は俺の知っている聖杯戦争とは違ってきている。これから先も俺の知らない事態が起こるかもしれない」
これは一つの重大な決断だ。これから行う事はこの先、約10年後に行われる事だ。だがそれさえも本当に起きる事になるのかが分からない現状だ。
だから俺は...
「俺はこの聖杯戦争を最後に聖杯を解体したいと考えている。だがこれは俺ひとりの力では到底無理なことだ。どうか、俺に力を貸してほしい!」
そんな俺の言葉に始めに応えてくれたは、マスターである遠坂凛だった。
「聖杯が汚染されてるなんて聞いちゃったら
あぁ、正直お前がいれば百人力だよ。心強いことこの上ないね。
次に口を開いたのは衛宮士郎。どうしようもないお人好しの正義バカ。だからこそ聖杯戦争を勝ち抜いていった、正義の味方だ。
「俺も...アンタの言うことは正しいと思う。それにその汚染した聖杯ってのが原因で10年前の大火災が起きたっていうのなら尚更だ。微弱ながら力にならせてくれ!」
良かった...最初の難関としては、なんとか一山越えたようだ。ここで反対なんてされたらどうにもならなかったからな。
......いや、もう一人の、最後の意見を聞いていなかったな。彼女の協力無しでは全く安心なんて出来ない。
「セイバー、最後にキミの意見を聞きたい。どうか聖杯戦争の解体に協力してくれないか」
「私は...」
顔は俯いたまま、言葉も詰まっていた。無理もない、彼女は聖杯に託す願いの為にこの聖杯戦争に応じたのだから。それが例え汚染された聖杯といえど直ぐには答えは決められないだろう。
「すいません...少し時間を頂けないでしょうか..」
申し訳なさそうに彼女は言う。
それを俺は受け入れ、次の行動を優先させることにした。
「よし、今日はこのまま凛も俺もこの家に泊まるぞ!さっき話した通りこれから教会に行くと帰りにバーサーカーとそのマスターに襲われる。それは今の戦力的にも避けたい。更に言峰と会うのも現在得策ではない。つーわけでよろしくな、士郎!」
「あ..あぁ、分かった。幸い部屋は沢山あるから自由に使ってくれ」
「はぁ!?急に泊まるってそんなの聞いてないわよ!何も準備してきてないじゃないの、こっちは!」
士郎の落ち着きようと凛の慌てよう。これはこれで見ていて面白いな。
「仕方ないだろ、凛。俺たちだけで帰るってのも何が起こるか分からないんだから。用心するに越した事は無い」
「ぐ..ぐぬぬぅ...」
◇◆◇◆ ◇◆◇◆
それから暫くの間、凛はギャーギャーと雌猫のようにあれやこれやと文句を叫んでいたが、ようやく静かになったようだ。
時刻は夜の2時。マスターの凛と士郎は今日一日の様々な出来事に疲れ果ててぐっすり眠っている。
その点、サーヴァントというのは便利だ。英霊という霊体である為に、基本的に食事や睡眠を必要としないという利点がある。...しかしその霊体化が出来ない俺とセイバーには関係のない話であるが。魔力温存も兼ねて飯も食べるし布団で寝たい。
だがまぁ、今夜だけはそうもいかない。今、この屋敷で起きている人間はいない。
縁側にひとり座る少女に声を掛ける。
「よぅ..セイバー。少し、話でもしないか」
——ここにいるのは、ひとりの元一般人サーヴァントくずれと、今は亡き国を想うひとりの王様だけだ。
これは第五次聖杯戦争であり、聖杯解体戦争である。