できれば前話と続けて読んで欲しいです。
神裂さんと不良神父さんは星になりました。
「としき!」
突然現れた神槍に上条は固まってしまったが、インデックスは彼の無事な姿を見てすぐに名前を呼んだ。
『インデックス……、良かった。どうにか間に合ったか』
彼はホッとしたような表情で布団のすぐ傍にしゃがみ込み、汗で額に張り付いてしまっている彼女の前髪を優しい手つきで払ってやる。
インデックスはそれに笑顔で応じた。その顔には喜びの他にも安堵の色も見て取れた。心配していたのだろう、神槍の事を。頭を圧迫されロクに動かす事も出来ない自分の身体よりも。
自分の事など、蔑ろにして。
『ごめんな、インデックス。もっと早く帰ってこれれば……』
いいよ。そんなこと、と彼女は言った。
笑顔で――言った。
『っ……。すぐに、こんな事終わらせるからさ。もう少しだけ、待っててくれるか…』
もしかすると、当人のインデックスよりも実際に痛みを感じていない神槍の方が、酷い顔をしていたかもしれない。
それを見上げていたインデックスは、むしろ彼を気遣うような音色で、
「……うん、待ってる。だからね…」
――どこにも行かないで。
と、言って、笑って、ゆっくり瞼を落として、
「……」
ぱたり、と音を立てて。インデックスの手から力が抜けて、布団の上に落ちた。
再び意識を失ったインデックスは、まるで死人のようだった。
「いん、でっくす……?」
今まで呆然としていた上条が我に返り彼女の名を呼ぶが、応答はなかった。返事はないくせに、その顔には悲痛の表情が張りついていた。
ついに頭の圧迫が限界を超え、脳が本来の仕事を放棄したのか。
想像を絶する激痛に精神が持たなかったのか。
そんな事は分からないし、分かる必要もない。
彼女が苦しんでいて、救いを求めている事さえ分かっていればそれでいい。
『……』
神槍はピクリとも動かないインデックスの小さな手を取った。
その手は温かかった。彼女と過ごした時間は楽しかった。
その事実をもう一度噛み締めて、
『……当麻、今からインデックスを助ける方法を教える。いいか、一言でも聞き逃すな。集中力を欠くな。もうタイムリミットは過ぎてるんだ、二度説明している暇はねえ』
「っ……分かってる。ああ、分かってるよ!!」
握っていた手を離して、そっと布団の上に戻す。そして上条と視線を合わせて、
『それでいい。それでこその上条当麻だ』
カエル顔の医者いわく。
人間の脳は元々一四〇年分の記憶が可能との事。一〇〇年程度しか生きられない人間がどれだけ知識を溜めこんでも、容量をいっぱいにする事はできない。残りの四○年分はどうやったって埋められない。日々『覚える→忘れる』のループをしているのだから尚更だ。
なら、『覚える→忘れる』のループができない完全記憶能力者の場合はどうだろうか。記憶力にモノを言わせて一○万三〇〇〇冊もの本の内容を全て記憶したらどうだろうか。
それにしたって答えは変わらない。そもそも人の記憶は一つだけではなく、言葉や意味を司る『意味記憶』、運動の慣れを司る『手続記憶』などがある。記憶の種類によって入れ物が違うのだ。
頭に強い衝撃を受けて記憶喪失になっても、赤ん坊のようにハイハイから始める訳ではないのと同じように。
“どれだけ本の内容を覚えて『意味記憶』を増やした所で、思い出を司る『エピソード記憶』を削らなきゃいけないなんて有り得ない”のと同じように。
ここまで話して、神槍は床に散らばっている本の大群を見た。彼が三日間の間読みふけっていた医学書の山だ。
(そもそもあれだけの医学書に名前すら載ってない時点で気づくべきだったんだ。医学書に載せる必要がないぐらい、“無害な体質”だって事に)
「けど、何で?完全記憶能力が原因じゃないなら、何でインデックスはこんなにも苦しんでるんだ……?」
『あるだろ、当麻。この世界には無害な体質を不治の病にしちまえる技術が。不可能を可能にしちまえる文化が』
そこまで言われて、上条はハッ、と息を詰まらせた。
そう、あったではないか。この数日『それ』にどれだけ困らされたか。
「『魔術』か…!いや、でも待ってくれ。魔術が原因なら一体誰がインデックスをこんな風にしたって言うんだ、ステイル達が嘘を言っているようには見えなかったぞ」
『アイツらは嘘は言ってない。間違った情報を真実として話しただけだ。前にも言ったろ?「あんな下っ端キャラ」って。そしてアイツらの上司はインデックスをどうしたいんだっけ?インデックスの何を恐れてるんだっけ?』
「そりゃ『反乱』に決まって……ッ!」
『やっと気づいたか。頼むからもう少し勉強しような?』
そうだ、教会はインデックスに『首輪』をつけたがっていた。
一年おきに教会の術式と技術(メンテナンス)を受けなければ死んでしまうような、首輪を。
一〇万三〇〇〇もの爆弾とも言える魔導書を記憶しているインデックスが絶対に裏切れないようにするための、絶対的な拘束を。
ここまで話せばもう分かっただろう。
教会がインデックスの頭をいじって、『たった一年分の記憶で頭がパンクする』ように細工をしたんだ。
おそらく――いや絶対に魔術的な一品を使ったのだろう。魔術と言われて一般人が真っ先に思い浮かべる有名どころの一角、呪いだ。
禁書目録の反乱を防ぐための
絶望だ。失敗だ。不可能だ。玉砕とさえ言っていいかもしれない。
かくして少女は救われる事なく、覚えている事を許されず、このクソッたれなループに囚われてながら
……“しかし、それは”、
“
相手が体質や病気なんていう普通のモノじゃなくて、『魔術』という『異能の力』であるならば、
――上条当麻の右手は、たとえそれが神様の
「……」
――そんなに自分の力を信じているなら消してみろよ、
ついさっき自分自身を散々に打ちのめしたステイルの言葉に、上条は小さく笑った。
「
上条は笑いながら、右手を覆い尽くすように巻いた真っ白な包帯を解いていく。
まるで、右手の封印を解くように。
「――主人公に、なるんだ」
言って、上条はボロボロの右手をインデックスのおでこの辺りに押し付けた。
…………。
…………、
…………?
「―――――――って、あれ?」
起きない。何にも起きない。
インデックスは相変わらず苦しそうに眉を寄せている。呪いが解けたようには見えない。
「…………………………………………………………………………………………としきサン?」
『……分かったから捨てられた子犬みたいな目でこっち見んな。異能の力に触れてないだけで、仮説が外れてる訳じゃねーよ。……たぶん』
ぼそっと弱気発言しながら、神槍は改めてインデックスの全身を見た。
『一年間も記憶なんつー複雑な構造を制御する呪いだ。呪文を唱えてハイおしまいって訳じゃないだろうから、呪印か何かがある筈だ……』
「けど、そんなモンどこにも……あー」
神槍と同じように怪しい模様とかがないかインデックスを見ていた上条の視線が、ある一点で止まった。具体的には首から下にあって腹より上にあるヤツ。
『……』神槍は思わず手を止めて
『……当麻?こんな時に発情するとかテメェは万年発情ネコの進化形か何かですか?』
「いやそれは流石に言い過ぎじゃね!?ほっ、ほら上条さんだって由緒正しき男子高校生の一員な訳で少しだけそういう興味を持っちゃっても見逃して欲しいっつーかしょうがな――ってさりげなく詠唱始めてんじゃねーよ!」
慌てて止めに入る上条だが、変態にはヤサシーオシオキが必要ですとばかりに神槍はぶつぶつと詠唱を進めていく。
まさかの仲間割れエンドでせうかっ!? と冷や汗ダラダラ上条が仙人ばりの悟りを開く一歩前で、地獄へ誘う呪文を唱えていた(上条にはそうとしか聞こえない)神槍が一旦詠唱を中止して訊いてきた。
『Hei当麻、
「意味分かんねーけど上条さんの直感が逃げろと叫んでいるのは気のせいか!?」
『失礼だな。ちゃんとお前にも選択肢を用意してあげてるだろ?前者は焼死コース後者は凍死コースって感じで』
「俺の予想これ以上ないほどばっちり当たってんじゃん!」
『ダイジョブだって。運が良ければ血が噴き出すぐらいだって』
「死!!」
時間がないのも忘れてぴーちくぱーちく騒ぐ二人だったが、インデックスの事を思い出し呪印探しに結局戻る。
当事者であるインデックスが気づいていないという事は、彼女本人では確認できない場所にある事になる。
(インデックス本人が気づけない場所……つむじ、後頭部、身体の内側……内側?体の中か!)
と、神槍はもう一度インデックスの顔を見る。
苦しそうに動く眉毛、硬く閉じられた瞳、粘着質でベタベタしている汗が伝う鼻――それらを無視して、神槍は浅い呼吸を繰り返す小さな唇に視線を落とす。
体内、と言っても怪しい場所なんて五万とある。それら全部を探すには時間が足りない。しかし頭の中身に関する呪いなら、当然頭部に近い方が効率がいいに決まっている。頭に近く、インデックス自身では確認できず、さらにメンテナンスの時に作業がしやすい場所。
『……口の中か?』
神槍は両手の人差し指を彼女の唇の間に滑り込ませて無理矢理開かせ、顔をぐっと近づけて覗きこむ。
「お、おい……」
二人の顔がほぼ零距離になって上条は慌てたが、神槍は無視した。変態と喋る趣味はありません。
喉の奥。
直線距離ならつむじより『脳』に近く、滅多に人に見られない場所。そしてそれ以上に人に触れさせない場所。
その赤黒い喉の奥に、数字の『4』にも似た不気味なマークが刻まれていた。
『あった、「呪印」だ。……お前の出番だぜ、幻想殺し』
ああ、と返事と言うよりは自分に言い聞かせる調子で言ってから、上条は意を決して少女の口の中に右手の人差し指を一気に押しこんだ。
ピリ、と。静電気のような感触を指先に感じ取ると同時、
バギン!、と。上条の右手が勢い良く後ろに吹き飛ばされた。
「がっ……!?」
『当麻!?』
元々ボロボロだった右手の包帯の傷が開いて、ボタボタと音を立てて血の滴が畳や布団の上へ落ちていく。
そして、血で汚れてしまった布団。
そこでぐったりと倒れていた筈のインデックスの両目が静かに開き、その眼は赤く光っていた。
しかしそれは眼球の色ではない。
“眼球の中に浮かぶ、血のように真っ赤な魔法陣の輝きだ”。
(まずい……ッ!!)
上条が本能的な背筋の震えに、壊れた右手を叩きつける前に、
ゴッ!!、という凄まじい衝撃が二人の体を壁まで吹き飛ばした。
『がっ、は……』
壁を突き破らなかったのが奇跡に思えた。それくらいの激痛が全身に走る中、二人は何とか立ち上がる。力加減を間違えたのか、握っていた鉄パイプから嫌な音が聞こえた。
「――警告、第三章第二節。Index-Librorum-Prohibitorum――禁書目録の『首輪』、第一から第三までの貫通を確認。再生準備……失敗。『首輪』の自己再生は不可能、現状、一〇万三〇〇〇冊の『書庫』の保護のため、侵入者の迎撃を優先します」
のろのろと。インデックスは、まるで骨も間接もない、袋の中にゼリーが詰まっているかの不気味な動きでゆっくりと立ち上がる。その両目に宿る真紅の魔法陣が二人を射抜く。
そこに人間らしい光はなく、そこに彼女らしいぬくもりは存在しない。
中身が丸ごと入れ替わっているかのような彼女を見て、二人は本能的に同じ事を考えていた。
――魔力がないから、私には使えないの。
『……そうだよな。考えてみればおかしな話だよ』
神槍は背丈ほどの長さの鉄パイプを胸の前へ横水平に持って来て、口の中で小さく言った。
『“超能力者でもないお前が、一体どうして魔力がないのか”。もっと早くに気づくべきだった』
教会は二重三重のセキュリティを用意していた。もし仮に、誰かが『完全記憶能力』の秘密に気づき、『首輪』を外そうとした場合。インデックスは自動的に一〇万三〇〇〇冊の魔導書を操り、その『最強』とも言える魔術を使って、文字通り真実を知った者の口を封じる。
その自動迎撃システムを組み上げるために、インデックスの魔力は全てそこに注ぎ込まれてしまったのだ。
その証拠に、魔法使いである神槍が探ってもまったく感じられなかった筈の魔力が、今ではどうしようもないぐらい伝わってきている。ロボットがプログラムに従って精製しただけのような、気色悪いほど清潔で透明で――感情という色がまったく混ざっていない魔力が。
「――『書庫』内の一〇万三〇〇〇冊により、防壁に傷をつけた魔術の術式を逆算……失敗。該当する魔術は発見できず。術式の構成を暴き、対侵入者用の
インデックスは、吊り人形のように小さく首を曲げて、
「――侵入者個人に対して最も有効な魔術の組みこみに成功しました。これより特定魔術『聖ジョージの聖域』を発動、侵入者を破壊します」
バギン!、と凄まじい音を立ててインデックスの顔の前に、直径ニメートル強の魔法陣が二つ、重なるように配置された。それはインデックスの両眼と連動しているようで、彼女が軽く首を動かすと空中に浮かぶ魔法陣も同じように後を追った。
「 。 、」
インデックスが何か――もはや人の頭では理解できない『何か』を歌う。
瞬間、空中に浮かんでいた二つの魔法陣がいきなり輝いて、爆発した。飛び散ったのは炎ではなく真っ黒な雷。インデックスを囲むように走り抜けたそれは、空間を直接引き裂いたように見えた。
めき……、と。何かが脈動するように亀裂が少しずつ『開いて』いく。わずかに開いた漆黒の亀裂の隙間から覗いたのは、獣のような匂い。
『ッッ!!』
それを『見た』神槍は即座に動いた。『アレ』は……“ヤバイ”。危険すぎる。理屈うんぬんの前に『アレ』だけは止めるべきだ。
片方の少年が畳の地面を踏みしめ、片方の少年が右手を強く握りしめたその瞬間、
ゴッ!!と亀裂の奥から光の柱が襲いかかってきた。
もう例えるなら直径一メートルほどのレーザー兵器に近い。太陽を溶かしたような純白の光が襲いかかってきた瞬間、上条は迷わずボロボロの右手を顔の前に突き出した。
じゅう、と熱した鉄板に肉を押しつけるような激突音。
……消えない。
異能の力相手なら無敵とも言える効力を持つ右手で触れているのに、『光の柱』は消えてくれない。
ステイルの魔女狩りの王のように、消しても消してもキリがない感じ。畳につけた両足がじりじりと後ろへ下がり、ともすれば重圧に右手が弾き飛ばされそうになる。
「ぐっ……ッ!?」
上条は思わず空いた左手で吹き飛ばされそうな右手の手首を掴む。掌の皮膚がビリビリと痛みを発した。“魔術が喰い込んできている”……右手の処理能力が追い付かず、ミリ単位で光の柱が上条の方へと近づいてきているのだ。
(単純な『物量』だけじゃねえ……ッ!光の一粒一粒の『質』がバラバラじゃねえか!!)
ぐちゅ、と。光の柱を受け止めている右手の掌が裂けて、血飛沫が舞った。二本の脚がズズっと後ろへ押される。
このままでは少女を助ける以前に、殺されてしまう。
(……いや、んな事ァどうでもいい!今度こそ…俺が、他の誰でもねえこの俺が!インデックスを助けると決めたんだ!!もう絶対に――)
――逃げないと、決めたんだ。
犬歯を剥き出しにして光の柱に喰らいつく上条だが、想いだけでは誰も救えない。抗えない。
そんな上条に、禁書目録はさらに牙を向く。
「威力強化の必要性を確認。特定魔術『聖ジョージの聖域』の術式を組み替え、出力上昇を試みます……成功。第二特定魔術、命名『罪人は笑わない』」
轟ッ!!と大気を吸い込むような音を立てて、今まで白い輝きを放っていた光の柱が真っ赤に変色した。しかし色が変わっただけだ。その筈なのに、上条の右手に生じていた痛みが倍増した。
「がっ…ぎ……ッ!」
「……」
インデックスの真っ赤に輝く瞳が、獲物を仕留めた狩り人のように上条を射抜いた。
『
このまま聖ジョージの聖域の派生術式『罪人は笑わない』を発動し続ければ侵入者の撃破を達成できる。一〇万三〇〇〇冊の知識がそう判断を下した。あとは第二迎撃目標・神槍トシキを始末し、修復不可能なダメージを負った『首輪』に応急処置を施す。それで終了だ。『自動書記』は目次を確認するように、自身の役割を整理していく。それ以外の事は何も考えないし、考える為の感情も持ち合わせてはいない。
「?」
と、整理の途中で自動書記は首を傾げた。真っ赤な光の柱越しに対象の位置情報を確認する。上条当麻の位置を……ではない。それは取得済みでコンマ単位の更新も滞りない。今も理解不能なあの右手を使って耐えている姿が視える。だから、上条当麻に関してではない。もう一人の方の……、
聖ジョージの聖域発動前は上条当麻の隣にいた、神槍トシキはどこへ行った?
「――『書庫』内の一〇万三〇〇〇冊の中から、魔力感知式の最適術式を割り出します……成功。該当する魔術数、一万一〇〇二。その内、今この場で即時に発動できる魔術から最も最適な感知術式を選出……成功」
神槍の位置を探るための準備を進めながら、自動書記は半分『既に撃破』という判断を下していた。紅い光の柱は決して無視できない威力を持っているし、光の柱と壁の隙間は『亀裂』が埋めている。こちら側へ来て危害を加えられる事はない。大方、光の柱に巻き込まれて消失したのだろうと。
あくまで九九パーセントを百パーセントにするための確認。自動書記は優先度は低いと判断しながらも準備を完了させた。
ヒュン!という虚空を突き破るような音が響くと同時に、インデックスの頭上に天使の輪のようなモノが現れた。それは常に回転しているようで、窓から入ってくる月明かりを浴びて白いボディがひと際輝いて見える。
インデックスは抑揚のない、不気味なほど冷静な声で、
「――これより魔力感知式魔術『神の目は全を見抜く』を発動、侵入者の位置情報を取得します」
『天使の輪』から次々と情報が送られてくる。しかし自動書記が求めているのは神槍トシキの居場所のみ。それ以外の情報は無視していく。
そして、天使の輪から求めている情報が伝えられて来た。
神槍トシキの位置情報……自身より後方約三〇センチ。
つまりは、“背後”。
『――
「!!」
背中からの敵の声に、自動書記というシステムが緊急事態である事を知らせた。回避もしくは迎撃せよ、という命令文が飛んでくるが、インデックスは振り向けない。『光の柱』は彼女の眼と連動しているため、動かしてしまったら“最優先”迎撃目標に自由を与えてしまう。
それはいけない。あくまで“第二”目標のためにそこまでのリスクは侵せない。
その隙を突くように神槍は手に持っていた鉄パイプで、彼女の両足を右から左へ払った。武術で言う『足払い』。突然に体の支えを失ったインデックスは後ろへ倒れ込む。彼女の眼球と連動していた魔法陣が動き、上条を押さえ付けていた『光の柱』が大きく狙いを外す。
まるで巨大な剣を振り回すように、アパートの壁から天井までが一気に引き裂かれた。『光の柱』が夜空に漂う雲を貫く。
引き裂かれた壁や天井は、木片すら残さない。代わりに、破壊された部分が光の柱と同じく純白の羽となった。はらはら、と。どんな効果があるかも分からない光の羽が何十枚と、夏の夜に冬の雪のように舞い散る。
『――
魔法使いの少年が口の中で唱えるとその右手に『剣』が生じた。『剣』と言っても柄はなく、光り輝く刀身が手首から掌を包むようにして直接生えていた。
『あらゆる個体と液体を強制的に気体へ変換する剣《だんざいのけん》』を真上から真下へ、勢いよく振り落とす。狙うのはインデックス自身ではなく、顔の辺りにある真っ赤な魔法陣。アレさえ破壊してしまえば『光の柱』は消せる。
剣の切っ先が魔法陣に届き、その紅いボディを真っ二つにした。魔法陣は再生する事も叶わず、紅い霧となって消えて行った。
瞬間、天空を貫いていた『光の柱』が呆気なく消失した。
光の羽が舞い落ちる中、神槍は倒れている少女に手を伸ばす。まだ『自動書記』モードを解除した訳ではないが、一番の難関だった光の柱は既に消した。あとは適当に気絶させてしまえば終わりだ。
そう思い、少年の手が小さな少女に届く“一瞬前に”、
『がっ……ッ!!』
自動書記が目覚めた時と同じように、突然に凄まじい衝撃が走り神槍の体が吹き飛ばされた。
“ここまでが限界だった”。
自動書記というシステムの不意を突く事でエラーを引き起こさせ、その隙に動いていた神槍だったが……間に合わなかった。
「……」
エラーを克服した自動書記はスッ、と吊り人形のような動きで起き上がる。その眼には相変わらず感情は灯っていなかった。
――“いや”、この時に限り『驚愕』という感情を表していたのかもしれない。
何故ならば、
上条当麻の右手が、視界を埋め尽くしていたからだ。
光の柱が上空に向かった瞬間から上条当麻はインデックスへ向けて足を動かしていた。神槍が足を払った瞬間も、断罪の剣を振り下ろした瞬間も。彼が吹き飛ばされたその時も。
ただ、それだけの話だ。
それだけの事に気づけないまで追い込まれていた事にやっと気づいた自動書記は、
「――警、こく。最終……章。第、零……。『 首輪、』致命的な、破壊……再生、不可……消」
プツン、と。インデックスの口から全ての声が消えた。
両眼の真っ赤な輝きも消え、部屋中に走った亀裂が消しゴムで消すように消えていく。
また後ろに倒れてしまったインデックスを上条は抱き起こす。少女の穏やかな寝顔を見て彼の表情も緩み、
その時、上条当麻の頭の上に、一枚の光の羽が舞い降りた。
『当麻!!』
金槌で頭を殴られたように、全身の、指先一本に至るまで、たった一撃で全ての力を失った。
上条は未だ床の上に倒れているインデックスに覆いかぶさるように倒れこんだ。まるで、降り注ぐ光の羽から彼女の体を庇うように。
この夜。
上条当麻は――死んだ。
作者的魔法解説のコーナー(需要ゼロ)
断罪の剣
『あらゆる個体・液体を強制的に気体へ変換する剣』簡単にするとこんな感じ。
「気体にする」とはすなわち、「蒸発させる」という事なので強烈な破壊力を秘めている魔法。
見た目はまんまビームサーベル。
すげー簡単に言うと、とにかくよく斬れる剣(えっ
上条さんは救われず