とある魔法の魔導司書(ブックキーパー)   作:神の槍

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祝☆お気に入り200突破!!
ええもうほんと、信じられなくて二度見しちゃいましたよ。
こんな文字数だけは多い駄文にお気に入りしてくれるなんて……ぐすん、ひっく。(って作者は作者は感動にむせび泣いてみたり!!)チラッ

今回はシリアスとギャグっぽいモノがごちゃ混ぜになっています。混乱しないように頑張りましょう!



とある代償の過去放棄(タイムオーバー)

「ふむ。怪我の回復速度がいささか早すぎるね。一体どんなトリックを使ったんだい?」

大学病院の診察室で、小太りで顔立ちがカエルに似ている医者はそう言った。

診察室は壁・床・机全てが真っ白だった。清潔感をアピールしたいのは分かるが、ここまで白尽くしだと距離感までおかしくなりそうだ。

そんな純白部屋に拒絶されるような赤髪の少年、神槍(しんやり)トシキは真正面に座っているカエル顔の医者のそっぽを向きながら、

『魔力で細胞組織に働きかけて回復を促す……って言っても分かんないだろ?聞くだけ無駄だって』

例の事件でそれなりにダメージを負った神槍だが、驚異的な回復力でほぼ全快していた。何も魔力の使用用途は攻撃だけではない。そもそも魔力は生命力を具現化したモノであって、傷の回復などに使うのが本来の使い方である。『何もないところから炎を出す』などはその意味を湾曲させ、意図的に歪ませているに過ぎない。

しかしこんな事を科学まみれの医者に一から一〇まで説明しても理解して貰えないだろう。知識うんぬんの前に分野が違いすぎる。

と、さっさとこんな純白部屋から出て行きたい神槍は本題に入る。

『で、“アイツ”はどうなった?』

「……うーん」

問いに、カエル顔の医者は黙り込む。言うかどうか迷っている様子だった。

「あの患者のケースは僕も初めてでねぇ。しかもかなり繊細なモノだからあまり他言したくな――」

『いいから話せ』神槍は遮るように言った。そして医者の目を見据えて、

『“アイツ”は……どうなった?』

 

 

 

神槍トシキは病院の廊下を歩いていた。

カツカツと小気味いい足音を立ててこれまた真っ白な通路の曲がり角を右に曲がる。そうしながら、先ほどカエル顔の医者から聞き出した(あくまで合法的に)事について考える。

――変に取り繕うのもおかしいから、率直に言うよ?彼は脳に重大なダメージを負った。

一定の間隔を開けて配置されている窓から四角く区切られた日差しが入ってくる。それは白い床を反射して通路全体を照らしていく。

――でも頭蓋骨が砕けていたり中身がグチャグチャになった訳じゃないんだね?不思議な事にある一か所を除けば何の異常も見られなかった。だから命に関しては安心していいね?日常生活を送る分には大丈夫だろう。

通路を抜けて木々が植えてある中庭に出る。今はなんとなく自然がある場所にいたかった。

――でも、そのある一か所というのが問題なんだね。そこはいわゆる『記憶』を司る場所でね、脳細胞が徹底的に破壊されていたよ。アレじゃあ記憶喪失とも呼べないね。そうだね、あえて言うなら……『記憶破壊』かな?

患者の心のケアのためだろうか、ちょうど木陰になる場所に木製のベンチが置かれていた。神槍はゆっくりとそこへ腰を下ろす。

――記憶喪失と違って、アレじゃあ思い出す事は絶対にないね。僕でも治せなかった。アレはもう記憶が『死んで』しまっているね。僕でも一度死んだモノを生き返させる事はできない。認めたくないけど……お手上げさ。

背もたれに完全に体重を預けて、ふぅーと息を吐く。上を見上げると葉と葉の隙間から木漏れ日が差し込んでいた。

――もう分かってると思うけど、一応言っておくよ?今彼は真っ白……いや、白とも呼べないほど空っぽの状態なんだね。かろうじて一般常識は残されているようだけど、それだけだよ。自分の名前も分からない。……今の彼は、透明だ。

眩しさに思わず目を細める。それだけでは足りずに右手を顔の前に持ってきて日光を防ぐ。

――これから彼に会いに行くんだろう?君が彼とどういう関係かは知らないけど、本人の前でショックを受ける事は許さないよ?今の彼に会うのなら、今すぐここでいつも通りに接すると誓え。そうじゃなければ身を引け。これが僕の仕事だからね。さぁ、話す事は全部話した。あの少女は前に進む事を選んだ……君はどうする?

(どうする、だと?あの両生類め、そんなの決まってんだろ)

一度両足を空中に上げて、戻す勢いで立ち上がる。それから通路に戻るために歩き出す。

そもそも彼とはよく分からない関係だった。偶然出会って、なし崩し的に行動を共にして、最後には共闘のような事もした。

異世界に落とされて出会った、二人目の知人。

相手がどう思っていたかは別として――その答えはもう聞けないけど――『友達』だったんだと思う。そうなりたかったんだと思う。

『……行くか』

自然に包まれた中庭から、病院内の白尽くしの硬い通路へと移動してさらに歩を進めていく。

向かう先には、透明な少年がいる。

 

 

と思っていたけれど、先に暴食暴飲少女ことインデックスに遭遇してしまった。

「まったく!とうまと来たら凄くとうまなんだからっ!」

十四か十五歳ほどの銀髪に緑色の瞳の目の前の少女はただでさえ『外国の匂い』を振りまく容姿をしているのに、修道服という何だかよく分からないアイテムのせいでついに『外国文化の擬人化』レベルまで到達してしまっていた。

既に上条当麻と会ってきたらしい少女は腰ほどまである銀髪を振り乱しながら腰に手を当てて、いかにも怒っています空気を演出しながら、

「とうまったら酷いんだよ!?こっちは涙が出るくらい心配したって言うのに、『引っかかったぁ!あっはっはのはーっ!』って笑い飛ばされるし!!全然元気そうだったしっ!ねぇこれ酷いと思わない思うよね!?」

そんな事言われても神槍には『……あー、うん。それは良かったねインデックスサマ…』とぎこちなく返すしかない。

言っている事は全然分からないが、とにかく今は彼女の衣服に数本くっ付いているツンツン毛質の髪の毛の存在がデカ過ぎた。アレは間違いなくKA・MI・TU・KI☆をやった証拠だ。

アナタは病人にナニやってるの?という疑問が浮かんでくるが保身のためにここは黙っておこ、と心に誓うビビり魔法使いだった。

『そ、それでさインデックス。俺も当麻に会ってくるから売店かどっかで待っててくれるか?』

「??? それなら私も一緒に会いに行けばいいかも」

『いやいやいやいや!いいよ俺一人で会ってくるからっ!ほっほら男同士で積もる話もあったりなかったするからさ!!』

(こ、これ以上噛みつかせたらアイツマジで死にかねねぇぞ――ッ!!)

じゃあそういう事で!、と言い残し逃げるようにその場を後にする神槍。

どんどん遠ざかっていく彼の後ろ姿に、インデックスはキョトンと首を傾げるばかりだった。

 

 

(な、なんとか誤魔化せたか。病院の立ち話で人命救助とか……俺ナニやってんだろう)

げんなりとした様子で重い足を動かし、あの少年の病室へと向かう。

と、休憩室を横切った時に気付いた。

なんか物凄く日本文化に喧嘩を売っているような神父が座っている事に。

というか、ステイル=マグヌスだった。

「やぁやぁ奇遇だねぇコノヤロー。死んでやがってなくて何よりだよマホーツカイ」

『……たった一回の挨拶でそこまで憎まれ口叩けるって、もはや才能だろ』

呆れ顔で呟きながら、放っておく訳にもいかず休憩室に入る。

手近なイスに腰を下ろしつつ、神槍は意外そうな顔で、

『まだ帰ってなかったのか。帰ってないにしてもこうやって直に会ったりするのは神裂の方だと思ってた』

「僕も最初はそのつもりだったさ」ステイルは火をつけてもいない煙草をゆらゆら揺らし、

「あれでも神裂は忙しいんだ、世界に二十人といない聖人の一人だからね。あの子の監視役だって相当無理を言って請け負ってたんだ。教会が判断を下した今、もうこんな島国にいる暇なんてないよ」

『でもお前は暇でこうやって病院の休憩室の片隅でスネていると』

「スネてない!きちんとした用事があってここにいるんだ勘違いしないでくれ!」

珍しく慌てた様子で言い返すステイルに、神槍はしれっとした調子で言う。

『用事?何、インデックスに会いに来たのか?それならたぶん売店にいるぜ』

「いや、会いに来たのはあの子にじゃない。今僕と話している人間、つまり君にさ」

は?俺に?と返した神槍は何かを察したような顔をして、ややステイルと距離をとりつつ、

『……うわ、お前そっち(ボーイズなラブ)の人だったのか。ごめん俺そういう趣味ないからさ…』

「一体ナニと勘違いしているんだ君は!ああもう本当にムカツクな君って奴は!!」

ステイルは煙草を吸えない原因である病院の内装を睨み付けながら、

「君に聞きたい事があるんだよ。言っとくけど、これの返答次第では君とあの子を引き離す事になるからな?」

『……』

なんか急にシリアスになったなと、とりあえず座り直す神槍。

魔術師ステイル=マグヌスは言った。

 

「お前は何者だ」

 

彼らしい会話の順序をすっ飛ばした聞き方だった。それ故に、その言葉は神槍の核とも言える部分に突き刺さった。

気のせいか、休憩室内の温度が二、三度下がったように感じる。

彼は憎らしい笑みを伴って続けた。

「教会はあの子を学園都市に留まらせる方針を決定した。まぁ確かに、常に魔術師に狙われているあの子を隠すには学園都市は絶交の場所だ。あの子の安全を考えればここにいた方がいいのかもしれない。そこは認めてやるよ」

でもね、とステイルは一度言葉を区切って、

「何故あの子の隣に、正体不明身元不明の危険人物であるお前を置いていかなくちゃいけない?幸いあの子の保護者役になりうる人間は二人いるんだ。一人ぐらい欠けても問題ないだろう?」

『……』

「黙るなよ魔法使い。どこの教会の所属だ、それとも流れの魔術師なのか。どこで生まれどこで育ちどこで魔術を学んだ。神槍トシキなんてふざけた名前ではなく本当の名前を言え。これだけの情報提供をしてやっとあの子の隣にいる事を許してやる」

ステイルの掌で炎が吹いた。蝋燭などのチンケな炎とは違う。人を殺すのに特化した、それを目的として振るわれる炎だ。

答えれば良し、そうでなければ殺す。

きっとステイルは、その理念を一秒と迷わずに実行するだろう。

『……俺は』

魔法使いの少年は考える。

これを断るとなればあの少女との平穏な生活を棒に振る事になる。守るどころか、逆に争い事に巻き込んでしまうかもしれない。

正直に答えた方がいいに決まっている。

“でも”。

“アノ事”だけは、絶対に知られてはならない。“アレ”はもう見たくない。

神槍トシキ個人の問題ではなく、“訊き出す方に関わる問題”だ。

神槍トシキが。神槍トシキという一個人が。この世界の人間ではない……、

つまり。

『転生者』だと言う事実だけは絶対に知られてはならない。

神槍トシキは答える。この世界で神槍トシキと名乗る事にした少年は、答える。

『……えない』

「……なに?」

『教えてやらない。何も喋ってやらない。俺は俺だ、魔法使いだ。これ以上は何も教えない』

考える余地はなかった。

ステイルは一瞬で立ち上がり、何時どうやって出したのかも分からない炎剣を真横に振るう。

ちょうど、自分と同じ赤色の髪を持つ少年の首を跳ねる形で。

「……オーケー。さっさと死ねよ薄情者が――ッ!!」

『“けど”』

ガキィィン!!という音があった。振り抜いた筈の腕に衝撃が走った。

見れば、少年の首より数センチ手前で炎剣が停止していた。少年の体に動きはない。本当に座ったままだ。

魔法障壁。

彼を守る最後の砦にして全幅の信頼を寄せる防壁。それがステイルの攻撃を完全に防いでいた。

「くっ…!!」

(な、に!?爆破もできないだと!?)

ステイルの炎剣は本来、『切断』ではなく『爆発』によって人を殺す武器だ。受け止められても、紙一重で避けられても関係ない。当たったかどうかも関係ない。爆発の射程距離まで潜り込めればそれで勝ち。そういう武器だ。

しかしどういう訳か、爆発せよという命令文を送っても炎剣は爆発してくれなかった。目の前の少年に何かされたとしか思えない。

(コイツっ、一体どれだけの力を隠し持って――ッ!!)

驚愕に目を見開くステイルを他所に、指一本動かさずに炎剣の無力化を実現してみせた少年は言葉を選ぶようにゆっくりと口を動かす。

『けど。あの子には――インデックスには絶対に危害を加えない。加えさせない。これだけは約束する、俺の命に代えても』

座ったまま、見上げるようにステイルに視線を向ける神槍は言い切った。

何の躊躇もなく。

何の戸惑いもなく。

「ふざっ――」

ステイルにとってその姿は眩し過ぎる。

その姿は、ステイルが死ぬほど望んで手を伸ばしても、届かなかった姿だったから。

そしてもう二度と、なれない姿だったから。

だから――だからこそ、彼は完全に無力化されてしまった炎剣を握る手にさらに力を込める。

「――けるなよ!!ならば何故正体を隠す!?本当にあの子の事を想っているなら話せる筈だろう!!」

炎剣を持っている右手に左手を重ね、全身全霊の力を持って振り抜き、目の前の男の首を切断しようとする。

「あれだけあの子が望んでいたモノを与えておいてッ、僕達が果たせなかった事を簡単に成し遂げておいてッ!“僕達のチャンスを勝手に奪っておいて”!!」

轟ッ!!と炎剣に力が戻る。術者から受け取った魔力を熱エネルギーに変換し、熱量を増大させていく。見た目にも変化があった。赤から白に近い青へと、炎の色も変わっていく。

炎は温度が大きく変化すると色を変える。確実にレベルアップした己の武器を手に炎の魔術師は吠える。

 

「お前がいなくなったらあの子が泣いてしまうだろ!!それだけの力を持っていながら、あの子の顔を曇らせるような事をほざくなよ!!」

 

ステイルは悔しい。

インデックスを助けられなかった事も、そのポジションを他人に奪われた事も。

自分がどれだけ手を伸ばしても届かなかったポジションにいる人間が、インデックスを傷付けるような事を言っているのが。

『――』

そんな事は神槍はとっくに知っていた。思い返せば誰でも分かる。彼らの行動は一見インデックスを苦しめるだけに見えていたが、実際は誰よりも彼女の事を想って、優しく抱き締めたい心を殺して。自分を殺す覚悟で取っていた行動だった。

そんな事は分かっている。その上で、彼は言う。

『それでも俺は何も話さない。もしそれが原因でインデックスが傷つくなら、俺は身を引く。それでいいか?』

しばしの沈黙があった。

それからゆっくりと……“炎剣が下ろされた”。

「……そうかい。その言葉、死んでも忘れてくれるなよクソヤロー」

そう言い残し、魔術師は立ち去った。

カツカツという彼の足音が完全に聞こえなくなるまでその場に残っていた神槍は椅子から立ち上がる。

ああ、結局俺はこうなるのか――最後にポツリと呟いて、休憩室から出て行った。

無人となった休憩室には、空気が焼けたような虚しい匂いだけが残った。

 

 

ガラララーッ!と豪快な音を立てて病室のドアを開けて中に入る。

やっと上条当麻の病室にたどり着いた。道中に色々あった、白い悪魔に遭遇するわ赤い彗星に脅されるわ病院内で走るなとナイスバディ看護婦さんにキレられるはその後何故かメルアド聞かれるわで……本当に色々あった。

そんなこんなで疲労困憊な神槍は膝に手をついて乱れた息をどうにか整えようとする。

一方その頃、突然病室に入ってこられた上条当麻は混乱していた。インデックスほどではないが、神槍も十分『外国の匂い』を纏う見た目をしている。赤髪にやけにボロボロなローブ。そんな人物が唐突に現れたらフツーの高校生である上条も当然ながら萎縮してしまう。

しかし根がお人好しの彼は自然と口を開いていた。

それに。

彼も知り合い“らしい”から黙っている訳にもいかないだろう。

「……だ、大丈夫か?」

『だい、じょうぶだ。悪は去った』神槍はよく分からない事を言って、

『へぇー。思ったより元気そうだな。……特に頭とか』

「え?なんか言ったか?」

いーや何にも、と答えた彼の顔には笑みがあった。何かを嬉しがっていて、何かに落胆したような――そんな笑みだった。

『ところでだ当麻。お前……記憶がないんだって?』

「っ……」

核心的な質問だった。それこそ、あの少女との会話で手に入れた、薄っぺらい上条当麻という存在そのものを揺らがすような。

だが止まる訳にはいかない。見破られる訳にはいかない。

「インデックスにも言ったけどさ、それは間違いだよ。そりゃ、あんな不気味な羽をモロに喰らっちまったらそうなるんだろうけど」

上条は己の右手をもう片方の手で指さして、

「俺にはコイツがある。ダメージが届く前にコイツを自分(テメェ)の頭にぶち込めば万事解決だ。ったく、あの医者大袈裟なんだよ入院なんて」

『そっか。それは良かった』神槍はやけに落ち着いた様子で、

 

『じゃあ、お前、インデックスとどこでどうやって出会ったか言ってみろよ』

 

言ってて、自分でも突き刺すような言葉だなと神槍は思った。

「ッ!そ、それは……」

しかし神槍は続ける。

分かってしまったから。彼は嘘をついているだけだと。

優しい優しい嘘を。

『“覚えてない”んだろ?全部忘れちまったんだろ?俺やインデックスの事だけじゃなくて、今までの人生全部を』

「ち、違う!さっきも言ったろ?羽のダメージは俺の右手で打ち消し――」

『いーや違わないな。お前の右手はそんなに便利なモノじゃねえ。羽そのものを消す事はできても、そこから派生したダメージを打ち消す事なんて、絶対にできない』

神槍の言葉の一つ一つが、上条当麻になりきる事を誓った少年をズタズタに切り裂いていく。

『いい加減に仮面の被り合いはやめようぜ』

言いながら、神槍は透明な少年に近づいていく。

「は、はあ?さっきからおかしいぞお前。ナニ言ってんだ、冗談もほどほどにし

 

『いい加減にしろっつってんだよ!!』

 

な……、と上条の吐息が停止した。

黒どころか白にもなれない透明な少年の胸倉を掴み、神槍は怒号をまき散らす。

『お前はもう上条当麻じゃねえだろうが!病人なら病人らしく弱音の一つも吐いたらどうだ!!一人で何もかも抱え込みやがって!!』

「……ぁ。な…」

されるがままな上条は何かを言おうと口をパクパク動かすが、言葉が出てこない。もうどうすればいいか、完全に見失っている様子だった。

神槍は腹立たしい。

彼がそんな顔をする事が。

記憶を失ってもなお、他人を泣かせまいとする彼の在り方が。

あの時あの瞬間、彼を助けられなかった自分自身が。

『何で怒らねえんだよ、俺は!俺はあの時ッ!見ている事しかできなかったのに!!なんで!?』

なんで、

なんで、

なんで!!

『なんで“俺にも背負わせてくれないんだ”!!あの子を泣かせたくないのは俺も一緒なんだよ!!』

「……?」

スッ、と。静かに胸倉を掴んでいた手が離された。ボフンとただひたすら困惑している少年の体がベッドに沈む。

そして。

手が、伸ばされた。

まるで握手を求めるかのような動きで伸ばされたその手の持ち主は言った。

『――ちっとは俺にも背負わせやがれ、親友』

「……」

混乱している上条は、差し伸べられた手と持ち主の顔を交互に見やる。彼は今空っぽな状態だ。とても人を心の底から信じられる状態ではない。あの少女に嘘をつけたのも、本当になんとなくの直感に従っただけだ。

ただ。

その手は優しかった。

その手は力強かった。

だから上条は、その手を掴む事ができた。

「……トシキ、だったよな?」

『ああ。神槍トシキ、ファミリネームは東洋系だけどハーフじゃない。純血の英国人だ』

そして、と彼は続けて、

『“魔法使い”だ。これからもよろしくな、当麻』

 




めでたしめでたし。
今回は地味に重要な回でした。隠せてもいない伏線もピーーーーー!!
いやぁ、やっと終わりました原作一巻分。一巻にどんだけ話数つぎ込んでんだって話ですね。
次回!猫語アロハ男が登場したりしなかったりするかも!!(と、作者はドヤ顔で筆を置きます)

魔法解説コーナー
雷の暴風(いかずちのぼうふう)
強力な旋風と雷を発生させ、竜巻状にして発射する魔法。今の神槍にとっては切り札的呪文。
逆を言えば、これを出す時は相当ピンチだという事。
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