とある平日の右往左往(アイキャッチ)
『当麻……』
何の変哲もない学生寮、その一室。まだ太陽も半分ほど隠れている時間帯のせいか薄暗いその部屋に、神妙な声が響いた。声の主の名は
「……どうした……」
先ほどとは違う声。
ベッドに腰掛けている神槍を見上げるように床にあぐらを欠いているツンツン頭のもう一人の少年、上条当麻だ。一応この部屋の家主だが、自由奔放な居候によってその僅かばかりの尊厳は崩壊を帰していた。
だがしかし、今この時だけは神槍の後ろで安らかな顔で眠りについているシスター少女の事を、彼は心の底から羨ましく思った。
何しろ、この絶望的状況と向き合わずに済むのだから。
『……何か方法はないのか?』
「スマン。あれこれ試してはみたんだけど……限界だ」
『そうか。じゃあ、絶望――だな』
くそッ…!!、という意図せずして出た呟きがやけに大きく感じる。声こそ出さないものの、神槍も相当沈痛な表情を浮かべているのが分かった。
無意識に溜息をつく自分に嫌になりつつ、上条は目の前に鎮座している紙の束におそるおそる目を通す。そこにはおびただしい量の数字が並んでいた。そしてその数字たちの最後には必ず『円』マークがくっついていた。極め付けに一番上の紙にはお世辞でも綺麗とは言えない字で『上条家・家計簿』と表記されている。
まあ、つもり、そういう事だった。
「まさか退院してたった数日で金欠パラダイスとは……不幸だ…」
『ぶっちゃけ入院費が効いた結果だろうけどな』
言うなよ、それ……、と天を仰ぐ上条だが、それで目前の問題が解決する訳がない。奇跡も魔法もねえじゃん、と愚痴ってみるが部屋を支配するドヨーンとした空気は健在だ。
(いやね、でもね、上条さんも頑張ったんですよ?考えた事もなかった家計簿戦略をやってみたりね?でもダメだったんだなぁコレが)
そもそもオトコ一人分しか送られてこない仕送りで三人養えってのが無理な話だろ、と上条は正直な気持ちを吐露する。特に食費、想像以上にインデックスさんはカロリー消費大魔王らしかった。
『「…………」』
二人はげんなりとした様子で首だけを動かし、ベッドに目をやる。
「zzz~…むにゃ、んんっ……はんば…ぐ…zz――」
そこには幸せそうに眠る銀髪緑眼の女の子がいて、規則正しい寝息にときおり願望を交えつつ微笑ましい光景を演出していた。あんだけ食ったのにまだ食い足りないんかい、という二人の少年の気持ちなどお構いなしである。
『知ってるか当麻……』
「何をだよ……」
『腎臓って二つあるらしいぜ?』
「売らないからねッ!?ナニ恐ろしいこと考えてんだ!!」
バシンッ!反射的に右手で神槍の頭を叩く。なんか『くそぅ、いくら幻想殺しがあるからって俺の魔法障壁をこうも軽々と…ッ』とか痛む頭を抱えて呟いてるがそんなものは知らん。
「っつーかお前働けよ!少しでも家主を助けようとは思わんのか貴様ァは!?」
『自宅警備なら喜んで』
「ニートまっしぐらかよ!!」
という上条当麻魂の叫びは今日も虚空に散っていく。今日も今日とて幸運ではない上条さんだった。
しかし、実のところ、神槍も少しは考えたのだ。一応居候の身だし少しくらい家賃払ってもいいかなぁーと。
だがそこで問題が発生した。
まず第一に神槍は正真正銘、嘘冗談なしに無一文な事。第二に学園都市の身分証明書であるIDを持っていない事だ。これでは履歴書も書けやしない。ていうか下手したら不法侵入で捕まる。新生活スタート早々に監獄コースは勘弁願いたい。
それに、せっかくインデックスとの生活を勝ち取ったのだ。それをみすみす手放すのは流石に癪だ。
そんな事を思いながら少女の寝顔を眺めていると、なんとなく幸せな気分になるのは気のせいかな、と神槍は優しい手つきでインデックスの頭を撫でる。すると彼女は『んんっ、おむ…らいすぅ……』とまた寝言(もしくは願望)を漏らした。お前はブレないのな、とここまでくると逆に感心してしまう魔法使いだった。
「……」
そしてそんな少年少女の青春物語を冷めた目で見つめる高校生が一人。今の彼にとって金欠問題以外は比較的『後回しでオーケーなこと』に分類されてしまうらしい。我ながら
そう、仕方が――ないのだ。世界は残酷ナンダカラ。
「食費、減らすか……」
『ばっ、当麻!?それは最終手だ――ッ!?』
「ッッッ!!!」
と、唐突に眠っていた筈のインデックスの瞳が大きく開かれる。キュピーンと両眼が光ったのは果たして気のせいか。
『食費』『減らす』というワードに反応したインデックスは、その小さな体ではとても想像できない俊敏な動きで上半身を起こし、『おっ、おおお落ち着けインデックス!は、話せば分かる、だから歯をカチカチ鳴らすのはやめてェ!』『たっ頼むお願いだインデックスっ、どうか当麻だけで勘弁してくれ!』『テメェ即行で親友売ってんじゃねえ!上条さんの事も少しは考えて!!――はっ!』などと、何故か冷や汗を流して怯えている少年二人を眼で捉える。
刹那、
朝っぱらから学生寮に少年二人の割と必死な叫び声が響き渡った。
『あーくそっ、暑ェ……』
時刻はちょうどお昼頃、季節が夏という事もあって太陽さんは必要以上に頑張っているようだ。せめて陽射しだけでも、と公園の木陰に逃げ込んでみたがあまり成果はなかった。木陰のベンチから恨めしげに太陽を睨みつける。
そもそも神槍が何故こんなところで油を売っている(比喩だよ、念のため)かというと、上条は例のごとく学校の補習へ、インデックスも最近すっかり日課となったテレビ視聴に夢中。暇を持て余した神槍は散歩に出かけてみた訳だが……この暑さは計算外だった。
『……多少の我慢はして貰うとしても、パンの耳生活は流石に可哀想だよなぁ』
ボロボロローブの胸元をパタパタしながら、今朝の金欠作戦会議を思い返す。やはりいつまでも上条のスネをかじっている(比喩だよ、念のため)訳にはいかない。かと言ってこの街のIDを持たない自分はアルバイトも出来やしない。詰んでるいや詰まれている。
どっかに一億円ぐらい落ちてないかしら、と思考が危ない方向へ飛びかけたその時、こんな『声』が聞こえてきた。
「ちぇいさーっ!」
……何だろうか、この意味不明としか表現できない叫び声は。声の高さが女子のソレという事実が余計に薄気味悪さを演出している。
何だろう、という感じで声の出どころへ視線を向けてみる。
そこには特に言うほどの特徴もない自販機と、一人の女の子がいた。
中学生ぐらいの女の子だ。肩ほどまである茶色い髪に灰色のプリーツスカート、半袖のブラウスにサマーセーターに身を包んでいる。おそらく学校の制服なのだろうが、遠目に見てもかなり良い材質である事が分かる。ブランド物の制服と夏休みなのに制服を着用している事から、お嬢様学校の生徒であると神槍は推測した。
茶髪の少女は自販機の前で腕組みをしてブツブツと何かを呟いているようだった。
「あれー?おかしいわねぇ、進入角度ミスったかしら。――よし、もういっちょ!」
ちぇいさーっ!というふざけた叫び声と共に、あろう事か少女はスカートのまま自販機の側面に上段蹴りを叩きこむ(スカートの下は体操服の短パンだった……ちっ)。
ズドン!!という轟音。次いで、自販機の中でガタゴトと何かが落下する音が響いて、取り出し口に缶ジュースが出現した。少女はそれを何やら手慣れた手つきで取り出し、グビッとこちらにまで聞こえてきそうなほど豪快に飲み始めた。……間違いない、常習犯だ。
どんな軽犯罪でも犯罪は犯罪なのだ。
一般常識に従い公安の皆様を呼ぼうとするが、携帯電話を持っていない事に気づき諦める。これで自分も傍観者として犯罪者の仲間入りか、と半眼で少女が美味しそうにヤシの実サイダーなるものを飲んでいるのをなんとなく注視してしまう。
「?」
と、少女が視線に気づいたのかこちらを見やった。やべっ、と神槍は身を強張らせるが、少女はこちらから目を外してもう一度「ちぇいさーっ!」と自販機を虐待して(やっぱり短パンだった…ちっ)缶ジュース(無料)を手に入れてから、神槍が座っているベンチにズカズカ近づいてきた。
うわぁなんか来た、と嫌そうな表情を隠そうともしない神槍に、少女は二回目の自販機虐待で手に入れた新品の缶ジュースを突き出しつつ、
「飲みなさい」
『は?いやこれお前のじゃ――』
「飲みなさい」
『だからいらな』
「飲・め♪」
……はい、と神槍は嫌々渋々缶ジュースを受け取り一口だけ飲む。仕方ないんだ、三回目の♪の時に少女の前髪で瞬いた電流の凶悪さに比べればこんな軽犯罪ごとき、と彼はさっきと真逆の意見を吐いた。一瞬だったので断言はできないがあの電流、軽く五億ボルトはあったと思う。脅迫材料には事足りる。
ゴクッ、と神槍が缶ジュースの中身を呑み込んだのを見て、脅迫少女はニヤッと口元を歪めた。そして得意げな声色で、
「これでアンタも共犯者よん♪」
『堂々と口封じ宣言しやがったぞコイツ』
「うっさいわね。結局アンタも飲んじゃったんだから今更ナニ言っても無駄よ」
そう言って、少女はドカッっと神槍の隣に腰を下ろした。神槍も特に何も言わず、グビッと缶ジュースの中身を飲み干す。一度も二度もおんなじだい、という犯罪者ルール発動である。
『でさー短パン少女』
「ゴハッ!?」
一体ドウシタト言ウノダロウカ。少女が突然飲んでいた物を吹き出し、ごほっごほっと咳き込み始めた。器官に入ったのか涙目になっている。
まだ涙目で咳が止まっていないのにも構わず、少女は赤みがかっている頬のまま聞いてきた。
「あ、アンタねぇ…!まさ、か見た…の……?」
『お色気ゼロの男の子級短パンならな』
「やっぱ見たんじゃない!こっ、の変態ヤローがぁああ!!」
『ぷぷぷ。脅迫少女がナニ言って――ぬあああっ!?』
ビリビリィ!!紫電一閃、少女の額から放たれた電撃が一直線に神槍へと襲い掛かる。危機一髪、顔目掛けて飛んできた雷撃は魔法障壁に阻まれ虚空へと拡散して行った。今度は魔法障壁で直に触れたので断言できる、今の当たってたら気絶じゃ済まない。
『て――めぇ…!パンツならまだしも、短パン見られたくらいで人殺す気か!?』
「んなぁ!?ふ、防がれた?――うっさいわね乙女の下着を軽視する奴なんて死ねばいいのよっ!」
『下着じゃないし、短パンだし!短パンなんてお色気ゼログッズ穿くくらいならスパッツ穿けこの脅迫少女!』
「黒子みたいな事言うな!それと私には
『はいじゃあその御坂さんに質問!短パンとパンツ見られるのどっちが恥ずかしい!?』
「そ、そりゃあパンツの方が恥ずかしいに決まってるじゃないっ」
『認めたね!短パンに色気がないって今認めたね!』
「うっさい!!!」
ビリビリィ!!先ほどより数倍強力な電撃の矢が放たれるが、やはり神槍より数センチ手前で何かにぶつかったように動きを止められ、虚しく大気へ散っていく。level5である己の能力を軽々と(美琴にはそう見えた)あしらう赤髪の少年に『あのバカ』が重なり、美琴は思わず叫んでいた。
「一体何なのよアンタ!何その無駄な防御力!?ああもう、学園都市にはムカツク奴ほど強いって法則でもある訳ぇ!?」
『ナニ意味分かんねえ事言ってんだ、それより今のはマジでヤバかったぞ。もう少しで障壁貫通されると思ったわ!』
ここら辺が引き際と見定めた神槍は瞬時に立ち上がり、割と本気な走りで逃亡を図る。『逃がすかぁ!』という野獣じみた叫び声と共に雷撃の矢が複数飛んでくるが、回避か障壁で防御してやり過ごす。よしこのまま逃げちゃおう、とさらに足に力を入れようとして、
『あ、そうだそうだ忘れてた』
「?」
突然足を止めた神槍に、逆に警戒して能力の手を止めてしまう美琴。彼はずっと持っていたジュースの空き缶を手首のスナップを使い、ポーイッと軽めに投げた。ちなみに彼はもう公園の出口付近にいるため、近くにゴミ箱はない。この公園には唯一自販機近くにゴミ箱があるが、あんな弱い投げ方では到底届かないだろう。
あんにゃろー今度はポイ捨てかっ!と数分前とは打って変わり正義に目覚めた美琴は、お得意の電撃を放とうとして――見た。
すぐに落ちる筈の空き缶は摩訶不思議な事に地面に落ちる事なく、自販機近くのゴミ箱に吸い込まれるようにして空中を移動していく。そう、まるで浮遊しているように。
「えー……」
超能力に日々触れている美琴だが、あまりの馬鹿々々しさにポカンと硬直してしまう。わざわざゴミを捨てるために能力を使うのもおかしな話だし、何故にこのタイミングで?
固まる美琴の前で空き缶は見事にゴミ箱へ到達、真上に来た途端落下し、ガタゴトと音を立てて他のゴミに揉まれて見えなくなった。
「まあそうなるわよね……はっ!」
空き缶に気を取られていた美琴は慌てて名前も知らない少年へと視線を戻すが……いない。どこにもいない。状況的に美琴が空き缶に気を取られている内に逃げたと考えるべきだ。
「あ、あの野郎……っ!」
怒りに打ち震える美琴だったが、ふと空き缶を投げるその時まで少年が立っていた場所に一枚の紙切れが落ちている事に気がついた。文字が書いてあるみたいなので、拾って中身を読んでみる。
そこには、
やっぱ短パンはないと思う(笑)
「ほっとけっ!!」
バシンッ!と紙切れを思い切り地面に叩き捨てる。それだけでは足りずに高級そうな革靴で踏みつぶしながら、美琴は心に決めた。
「ふふ、こうなったら戦争よ戦争。まさかこの世に『あのバカ』を超えるバカがいるとはね、うふふ。今度会ったらカエルみたいにヒクヒクさせてあげるわ、ふふふ……」
かくして、第一次魔法使い対超電磁砲戦争は幕を閉じたのだった……。
ちなみにこの数時間後、補習から帰ってきた上条当麻にこの事を話したらこんな言葉を頂いて激しく後悔したのは余談である。
「あー、それってビリビリ中学生の事だろ?学園都市に七人しかいないlevel5の一人の」
『……OH』
学園都市には窓のないビルがある。
ドアも窓も廊下も階段もない、建物として機能しないビル。level4の一つである
直径四メートル、全長一〇メートルを超す強化ガラスの円筒の中は赤い液体で満たされている。広大な部屋の四方の壁は全て機械類で埋め尽くされ、そこから伸びる数十万ものコードやチューブが床を這い、中央の円筒に接続されていた。
窓のないその部屋はいつも暗闇に満たされている。ただし、円筒を遠巻きに取り囲む機械類のランプやモニタの光が、まるで夜空の星々のように瞬いていた。
赤い液体に満たされた円筒の中には、緑色の手術衣を着た人間が逆さで浮かんでいた。
学園都市統括理事長、『人間』アレイスター。
男にも女にも、大人にも子供にも、聖人にも囚人にも見えるその『人間』は自分の生命活動を全て機械に預ける事で、計算上ではおよそ一七〇〇もの寿命を手に入れていた。体だけでなく、思考の大半も機械によって補助されている。
(……さて、そろそろか)
アレイスターがそう思った瞬間、タイミングを合わせたように円筒の正面に、唐突に二つの人影が現れた。一人は小柄な空間移動能力者の少女、そしてもう一人は彼女にエスコートされるように手を繋いだ大男だ。
空間移動能力者は一言も言葉を発さないまま会釈すると、再び虚空へと消える。
闇の中には大男だけが取り残された。
その長身な男は短い金髪をツンツンに尖らせ、青いサングラスで目線を隠した少年だった。アロハシャツにハーフパンツという、こんな場所にはそぐわない恰好をしている。
「どういうつもりだ、アレイスター」
土御門は雇い主であるアレイスターに向かって苛立った口調で言った。彼はアレイスターの従属的な部下ではないのだ。
土御門の口調には突き放すような響きがあり、普段の彼を知る者なら驚きに身をすくめていただろう。これが彼の『仕事の顔』だった。感情を隠そうともしない土御門に、アレイスターは淡く淡く笑って、
「何の事かな?」
「とぼけるな。貴様ともあろう者が“この由々しき事態”を把握していない訳がないだろう」
「分からないな。もっと具体的に言ってくれないか」
態度を変えないアレイスターに土御門はチッと吐き捨てるように舌打ちして、話し始めた。
「『神槍トシキ』。七月二十日未明にこの街に侵入した魔術師の名だ。本名どころか所属・出身地全てが不明、情報工作にも程がある人物だ」
土御門は数日前から彼のことを徹底的に調べた。イギリス政教から直属の依頼が出たのだ。
彼は多角スパイとして世界のあらゆる方面にパイプを持っている。情報屋としても一流と言える。そんな彼は自慢のパイプをフル活用して『神槍トシキ』の情報を捜した。世界広しと言えどこれほどまでのパイプを有しているのは彼含め10人といないだろう。
“そんな彼が、全力で情報を探ったと言うのに”、
“一つの情報も出てこなかったというのは、もう――”
「『異常』だ、平常を逸脱している。いいかアレイスター、自慢じゃないが俺は情報関係に関しては相当な腕を持っていると自負している。そんな俺が万に一つの情報も掴めない人物など……ッ!」
何かを耐えきれなくなった土御門は、円筒のガラスに書類をバンッ!と叩きつけた。逆さに浮かぶアレイスターに書類の内容がガラス越しに露わになる。赤髪に白い肌、中性的な容姿の少年の顔写真がクリップで止めてあった。妙な角度から撮られている事から盗撮である事が分かる。
「答えろアレイスター、こんな危険人物をなぜ野放しにしている?貴様ならいつでも奴を始末できた筈なのに」
「……ふむ」
しばし沈黙が続き、不意にアレイスターが閑念したように視線を土御門から暗闇が広がる虚空に移した。途端、アレイスターが見つめる虚空へモニタが複数現れ、映像を再生し始める。
「これは……」
映像を見て、土御門は眉をひそめた。全ての映像が角度こそ違うものの、同じ場所を映しているからだ。しかもそこは土御門にとってもとても見覚えがある光景だった。
彼自身も暮らしている学生寮の前、隣接している学生寮との間を固定カメラで捉えた映像だ。普段ならこの場所には何の変哲もない、マンションのような学生寮に挟まれているだけのありふれた道だった。
土御門は素直に自分の疑問を吐露する。
「これがどうした」
「まあ見ておきたまえ。君にとっても『これ』は面白いと思うがね」
なに?と土御門が聞き返す前に、映像に変化が起きた。突然、全てのカメラ……映像にノイズが走り、遂には完全に真っ暗になり機能停止に陥ってしまった。しかしそれは一瞬の事で、一秒とかからず元の鮮明な映像が流れ始める。
「……おいアレイスター、悪ふざけなら付き合わんぞ。確かに全てのカメラが同時に故障したのは気になるが、それだけだろう。珍しいが、ない事じゃない」
「私は同じ事を言うのが嫌いだ。……よく見てみたまえ」
言われ、土御門はもう一度故障した後の映像を凝視してみる。
そして……気づく。
ノイズが走り一瞬だけ暗闇に包まれた、前と後の映像。その二つの『違い』に。
「なんだ、これは……」
驚愕に目を見開く。青いサングラスに守られた土御門の瞳に、映像が映り込む。『いた』のだ、彼が。映像が途切れた一瞬にも満たない時間に現れたごとく。
特徴的な赤い髪に男とは思えないほど白い肌。一見では性別を判別しにくい顔立ち。茶色いローブに包まれた細見な体。
神槍トシキ、そう名乗る人物が。
「先に言っておくが、『この現象』はいま映しているカメラだけではない。衛星、掃除ロボット、人の目……私が有する『特殊な情報網』、彼が現れたであろうその瞬間だけ“全ての目が遮断された”」
なっ…!と冗談なしに土御門の吐息が停止した。今も映像は再生され続けていて、画面の中の話題の人物は、キョロキョロとまるで知らない場所に来てしまったかのように辺りを見渡し、真上から落ちてきた禁書目録に気づくと、ジャンプして抱え込み土御門の部屋の隣……上条当麻宅のベランダに着地し、フレームから出て行った。
「分かっていないのなら丁度いい。私からも依頼しよう、彼が何者か調べて欲しい。期待はしないがね」
そんなアレイスターの戯言も今の土御門には届かなかった。科学サイドの長たるアレイスターを出し抜く人物、そんな存在が実在するとは夢にも思わなかったからだ。彼の頭の中では様々な思考が渦巻く。どう利用する、いやその前に危険性の確認を、そんな事をしている間に他者に取られてしまったらどうする……。
いや、そんな事より……。
これほどまでの危険人物を野放しにしている目の前の人間は、一体何を考えている……?
「ふっ。決まっているだろう?」まるで土御門の思考を読んでいるように、『人間』は言った。
「プランの短縮、それ以外に私が望むものはない」
そう、目の前の人間はいつもそればかりだった、と幾分落ち着きを取り戻した土御門は冷静に分析する。アレイスターは『プラン』と呼ぶ計画を最重要視していて、その達成を果たすためならどんな犠牲もいとわない。それが例え、自らの家族であっても……。
「……さて、どうしたものかな」
言葉を隠そうともせず呟く『人間』アレイスター。そもそも彼の言う『プラン』には神槍トシキなる人物は一切登場しない。完全にイレギュラーな事態だった。本来なら急ぎ始末して、少しでも誤差を抑えようとするだろう。
しかし、アレイスターはさらにその先を見る。
イレギュラーならイレギュラーなりの役割がある。プランに一切関わらない筈の人物をあえて関わらせる事で、大幅な短縮を望める場合もある。それを見極めるためには、まずはあまりにも欠如している彼のデータを集める必要があるのだ。
データ。
過去のデータが一切手に入らないと言うならば、今の、最新のモノで補えばいい。
だがデータと言うのはやはり量が不可欠だ。それには測定するだけの時間がいる。今すぐ手に入るデータというのは限られてしまう。
なら、その今すぐ取得できるデータの中で最も有益なモノと言えば……。
『戦闘力』。それ以外にない。
「始めはお遊びだ。なに、聖人に傷をつけた君ならば余裕だろう?」
モニタに映っている赤い髪の少年に語り掛けるように呟く『人間』。男にも女にも、大人にも子供にも、聖人にも囚人にも見えるその顔が僅かに笑みらしいものを見せた。それを見て、何か生理的な嫌悪を感じた土御門は僅かに眉間にシワを寄せる。
学園都市統括理事長『人間』アレイスター、彼の気まぐれ一つで地球すら破壊されかねない。彼は円筒の水槽の中で僅かに、震えとも取れるほど小さく右手の小指を動かす。
たったそれだけの動作で、
やっちまったぜ……。主人公のキャラが制御不能です…。
まぁ土御門さん出せたからいいかな、うん。
コメント、質問(ネギま関連でも可)なんでもどうぞ!作者なりに頑張って答えます!
なんか納得できなかったので、前やった魔法の解説をちょっと変えてやります。
↓
魔法解説コーナー
『魔法の射手(サギタ・マギカ)』
魔法の矢(下位精霊)を指定した本数だけ放つ呪文。呪文そのものは初歩中の初歩レベル。
しかし撃つ本数によっては大呪文なみの威力を持たせる事も可能。
掌から全ての矢を撃ち出すパターンと術者のまわりで滞空、その位置から撃ち出すパターンがある
矢には様々な属性があり、主人公は好んで光を使う。また属性によって効果が違い、光は打撃、雷なら麻痺、氷なら凍傷など。
詠唱内容も短く、使い勝手が良い魔法。