はっ、これはもしや禁書系ssにありがちな暗部入――ピィィィィィィィ!!
工事中のためこの道はご利用できません。
夕暮れに包まれた散歩からの帰り道。なんの気もなしに踏み入れた公園で遭遇した短パン少女からステキに逃げ切った
『工事中って……さっき通った時は何もなかった筈だけどなぁ…』
彼はポツリと呟いて、小さく息を吐いた。黄色を基調とした看板の先の道路に目をやると、確かに工事中のようだった。作業服を着た数人の男性と重機がきびきびとした動きでアスファルトを砕いたり固めたりしている。アスファルトを重機で豪快に砕いているというのに機械音が一切しないのは、学園都市の科学力ゆえだろうか。
しかし困った。これでは『行き』と同じルートで帰れない。
――いや、一度迂回すればいいだけなのは分かる。それは分かっている。しかし学園都市新参者の神槍はまだまだ土地勘がないため、できれば知っている道から外れたくないのだ。この歳で迷子とか恥ずかしくて死ねると半分以上本気で神槍は思う。それに最終的に公安の皆様の厄介になったら最悪だ、とある事情でこっそり不法侵入者の彼にとって警察関係の出来事には敏感だった。
いっそ
『……仕方ないか。消去法だ、一番穏便そうなやり方で行こう』
神槍はクルリと右に九〇度体を反転させた。そこは大通りからそれる道すじのようだ、一気に道幅が狭くなっている。
看板の隅っこに書いてある迂回ルートの矢印に従い、彼は再び歩き出した。
<……目標、予定通りに移動開始。地点Bへ向け移動中、準備されたし。繰り返す…>
工事員の男が、不審な言葉を襟元に潜ませておいた通信機へ向けて送っているのにも気づかぬまま……。
この数分後、工事員も看板も重機も工事跡も最初から何もなかったように姿を消していた。もちろん通行も可能で、夏休みという事もあって外に出ていた学生たちが賑やかに通り過ぎて行く。その光景の変わりようは、もしその異常さを正しく認識できた人間がいたとしたら寒気を覚えるレベルだった。
友人と何かの話題で盛り上がっている学生の足が、ついさっきまで工事現場だった筈のアスファルトを踏んでいく。その時に蹴飛ばされた小石がカツン、カツンと音を立てて転がり、不自然に残されている小さな窪みにはまった。さらにその上を学生たちの足が踏み越していく。
ピキッ、という断末魔のような小さな音を残して、度重なる衝撃に耐えきれなくなった小石は無残に砕け散った。その砂のようになった残骸も風に持ち上げられ、どこかへ消えてゆく。
まるで罠に嵌りそのまま無残に死に絶えたエサのように。
まるで、
とある少年の未来を暗示しているかのように。
『……?』
突然頬に走ったサラサラとした感触に、神槍は思わず足を止めた。どうやら風に巻き上げられた砂か何かが当たったらしい。なんとなくその不快感を許せない彼は、あろう事か魔法障壁を全身に展開した。術式に『異物』と判断された砂は一つ残らず頬から綺麗に弾かれ、また風に乗って視界から消えていく。
美琴嬢の気を逸らすために簡単な浮遊術を使ったり頬の汚れを取るために障壁を展開したりした所を見ると、どうやら彼には魔法を安易に使う悪癖があるらしい。
(……それにしても、おかしいだろ。ちゃんと矢印通りに進んできたのに何でこんなトコに出ちまうんだ…?)
首を回して改めて辺りを確認すると、ここは人気のない空き地のようだった。四方をほとんど廃墟と化したビルに囲まれていて、出入り口は神槍自身が入ってきた細い路地裏しかない。
つまりは行き止まり。つまりは……絶賛迷子だった。
(いや待て、待って。その活字説明はおかしいだろ。俺は矢印通りに進んだんだ、それでこんな所に辿り着いたって事は看板の方が間違えてたって事だ、うん、だから俺は悪くない)
悪くないんだってばッ!!と誰に言う訳でもなく飛び出した言葉は虚しく辺りに響いた。
だーもう無駄足喰わされた、とばかりに怒り心頭な神槍は名前も知らない工事会社に思い切り殺意をぶつける。そんなんだからブラック企業なんて言葉が生まれたんだ。
『く、くそぅ、こんな事になるなら最初から飛び越えてれば良かった…』
はあ、と声にもならない溜息をついて元来た道を戻ろうと、風で暴れるローブを従えて踵を返す。
瞬間、
神槍の側頭部にトンカチで殴られたような衝撃が直撃し、その華奢な体を空中へ吹き飛ばした。
『――がっ!?』
あまりの突然の事態に脳の理解が追い付かない。だが体の芯まで染みついている『経験』が四肢を動かす。
目前まで迫っていた汚い地面に両手をついて、側転の要領で一気に逆になっていた頭と足の位置を元に戻す。地面に両足がついてやっと重力という感覚を彼は思い出した。そして一瞬の間もおかず右斜め上……一見何も見当たらない方向へ右手をかざす。
ブゥン、という虚空を突き破るような音を伴って一つの魔法陣が現れた。直後、その『壁』にさっきの衝撃が激突する、それも複数かつ連続でだ。
『くっそがっ、狙撃か!?』
空いた左手で調子を確かめるように己の頭を小突く神槍。魔法障壁がなければ完全に頭を吹き飛ばされていた。銃弾そのものは防げたが、日常レベルに設定していた障壁ではインパクトまでは殺せなかったらしい。
そうしている間も銃撃は止まず、右手の魔法陣は絶えず火を噴いているようだった。神槍の足元にただの鉛となった銃弾が次々と溜まっていく。
『!!』
魔法障壁は何も『壁』としての能力だけではない。その身に触れた攻撃を正確に分析解析し、術者に伝える。今回の場合は銃弾の進入角度、速度などだ。その情報から
敵は遠く離れた高層ビルのベランダからこちらを狙っていた。距離にしておよそ七〇〇メートル。ベランダの手すりにスナイパーライフルを固定して今も撃っている様子が見て取れた。全身黒ずくめと言った服装をしており、顔は銃身に隠れて見えないが体のラインからして男だろう。
(くっ、遠すぎて応戦できねぇ……ッ!)
そもそも七〇〇メートル先から撃ってこれほどまでの威力を発揮できるスナイパーライフルというのが信じられない。どうやら学園都市の科学力は化学兵器にまで及ぶらしい。それに加え敵の技量も上乗せされているだろう。自然と何者だという疑問がチラつくが今は無視する。今の状況で何を考えても仮説の域を出ない。
『……?』
と、初撃と同じように突然銃撃が止んだ。弾切れか?と思い敵がいる地点に目をやるが、その期待は裏切られた。――いない、逃げられた。銃口から煙を上げるライフルだけがベランダに放置されていた。
足がつくぐらいなら愛用の武器など持たない。
追跡する側としてはこの上なくやりにくい種類の相手だった。
『
神槍の言葉に反応した魔法陣は一瞬とかからずその身を消す。銃撃を止めた理由は分からないが、これから先ずっといつ胸を撃ち抜かれるか心配するリスクを考えると追うしかない。それに今回は自分だったが、次も同じとは限らない。周りの人物。そう、守り切ると誓ったあの少女に銃口が向けられる可能性だってある。
(誰だか知らねぇけど……あの子にとって危険だと思われるような行為をしたんだ。その分の責任は払ってもらわないとなッ!)
赤い少年の両目にギラッとした物騒な何かが灯る。その光を秘めたまま走り出そうとする神槍だが、それもまた先ほどと同じように妨害されてしまう。
狙撃ではない。体のどこにも変化は起きていない。そもそも攻撃ですらなかった。
それは音。正真正銘、ただの音だ。空気の揺らぎでしかない。
ただし、それが爆発音という分類に入るモノだったというだけ――
『……』
肌で熱風を感じ取った神槍は走るために前に出しかけていた体重を引き戻し、熱風の発生源へと向き直る。
この空き地の四方を取り囲む廃ビルの内の一つ、その外壁が爆発によって大きく抉れ、中を確認できるようになっていた。まだ黙々と上がり続ける黒煙の中を横断してくる歪なシルエット、それは砕けた外壁に空いた穴から飛び降りて、空き地に着地した。ズシンっ、という傍から聞いても鈍重そうな音が伝わってきた。
『なんだ、アレ……』
呆然と呟く神槍だったが、彼が置かれている状況は悪化する一方だった。爆発によって作られた粉塵の灰色のカーテン、その向こうから次々と歪なシルエットを有するそれらが這い出てくる。彼らは最初のそれと同じように外壁の穴から身を投げ出し、空き地という舞台に躍り出る。
それを認めて、神槍はもう一度呟いた。
『何なんだよ、“アレ”は……』
頬を伝って顎まで来た一粒の冷や汗が落ちて、地面を薄く濡らした。
駆動鎧とは西洋の金属鎧のように全身を特殊な装甲で覆い、なおかつ関節を電力駆動で動かす事によって生身の人間の数倍もの運動能力を叩き出す学園都市産の兵器だ。用途・規格によってサイズや戦力は様々だが、神槍の前に現れたのは全長二メートルほどの大きさの金属の塊だった。
灰色と白の特殊な迷彩を施された機体は、それぞれ二本の手足を持っていて指も五本ついている。しかしその駆動鎧を初めて見て『中に人が乗っている』とはまず思わないだろう。その原因は頭に当たる部分が巨大で、まるでドラム缶型の警備ロボットを被っているようにも見えるからだ。しかも首はなく、胸部に直接固定された『頭部』が回転している。
ギシギシギシ!!という音が一斉に溢れた。都合一〇機もの駆動鎧がその機械的な足を動かし、目の前で呆然とこちらを見ている少年へと迫る音だ。明らかに何百キロという物体が激しく動いているのに、金属同士がこすれ合う甲高い音しかしないというのは感心を通り越してもはや不気味そのものだった。
<――攻撃開始――>
それだけだった。たった数文字の機械音声がどこからか流れた途端、駆動鎧たちが一斉に神槍へ向け手に持っていたショットガンらしきモノを向けた。そして何の躊躇いもなく、機械らしく、プログラム通りに、その引き金を引く。
『ッ――
少年の口から独特の抑揚がある言語が放たれる。すると少年の体を球状の何かが包み込んだ。そこへ軽く二〇〇は超える銃弾が殺到する。
ドドドドドドッ!!という間隔なしの激突音が空き地全体にまき散らされた。致死量を遥かに超えている量の銃弾は神槍を包む球状の何かにぶつかり四散する。破片となった銃弾が少年の周りの地面に突き刺さり土を抉った。粉塵のカーテンが巻き起こるが、少年を守っていた球状の壁が崩壊すると同時に起きた突風によってすぐさま払われる。
<――ターゲット生存確認、二次攻撃を展開――>
駆動鎧たちはショットガンを腰にあるアタッチメントに固定する代わりに、背面にあった斧のような形状の武器を手に取った。そしてやはり常人とはかけ離れている速度で移動し、あっという間に神槍の周りを取り囲んだ。……どうやらショットガンを収めたのは親切ではなく同士討ちを防ぐためだったようだ。
『チィッ!こっちは忙しいってのにワラワラと……手加減は期待するなよ』
<――連携Cを選択、アタック――>
『ハッ、上等だ』
二機が弾丸のように飛び出した。刃の部分だけでも一・五メートルはある巨大な斧を頭上へ振り上げ、二体同時にそのまま振り下ろす。単純だが、重力の力を借りられるために強力な一撃を放てるやり方だ。しかも駆動鎧は電力駆動によって人間の筋力の数倍の力を扱える。
人肉など紙のように両断できるその一撃を、神槍はあえて駆動鎧に密着するほど近づく事で回避する。すぐ背後でザグンっ!!という斧が大地を抉った音が耳を撫でた。
『
燃えるような赤い髪を揺らしながら、少年は二機の駆動鎧の間に体を滑り込ませ背後を取る。ドラム缶のような頭部が回転し、少年の姿を再び捉えようとするが……遅い。
『――
神槍は胸の前で虚空を切るように右手を真横に力強く振った。刹那、右手が描いた軌跡を辿るようにして鋭い雷撃が生じる。ジジジジッ!と大気を焦がす雷撃は斧を模した形を成すと、雷特有の速さで二つの駆動鎧の装甲をあっさり引き裂いた。そのあと神槍はすぐさまその場を離れる。
新たな二つの爆発音が大気を揺らした。
(やっぱりな……無人機って奴か)
その通りだった。本来、人が乗る事によって機能する筈の駆動鎧には誰も乗っていなかった。だからこそ神槍はここまで接近を許してしまったのだ。機械には気配も魔力もない。
<――機体B、機体F反応消失、ロスト――>
<――爆散確認。ターゲットへの接近危険大、アタックプランの変更要請……承認確認――>
<――アタック――>
残っている駆動鎧が一斉に動き出した。武器についても斧を持っている機体もいれば、ショットガンを持っている機体もいる。全機が相当の速さで動き回っているにも関わらず、少しも衝突の心配はいらなかった。
当たり前だ、全てがプログラムによって制御された動きなのだから。緊張による失敗もなければ、感情に流される事もない。
だって、相手は鉄の脳に金属の皮膚を持つロボットなのだから。
そう、相手は機械。
ならば、
わざわざ敵の命を案ずる必要も――ない。
『……誰がこんなオモチャを送り込んできたかは知らない』
ふいに一機の駆動鎧が高速機動の包囲網から抜け出して、不敵に口元を歪めている少年へ襲い掛かる。
『あの狙撃がお前らに関係してるのかどうかも、俺は知らない』
少年は特に何もしなかった。ただただ突撃してくる駆動鎧を待ち構える。そして、あと一瞬で二つの影が重なる時の中で、
『たださ――
ベキベキベキッ!!という音が連続した。魔法使いの少年がカウンター気味に突き出した右拳が胸部装甲を貫き、続いての回し蹴りで駆動鎧を吹っ飛ばした音だった。二回、三回と地面をバウンドしたその金属の塊はそれ以降動く事はなかった。
<――理解、不能――>
<――強化装甲最深部までの貫通確認。復帰、絶望――>
<――情報、の更新要請……失、敗――>
残りの駆動鎧から聞こえてくる機械音声に、彼は言った。
『不可能を可能に、可能を不可能に……
ショットガンが火を噴いた。しかし、まき散らされた銃弾が届く頃には少年の姿は消えている。どころか、右手から生やした光刃で別の駆動鎧を両断している始末だ。どうにか攻撃を当てても彼を覆う膜のような何かに阻まれ、無力化される。
それは、科学的な視点から見て有り得ない現象だった。不可能な、現象だった。
一体どこでミスをしてしまったのだろうか。鉄の脳を持つ駆動鎧は目の前で次々に爆散していく仲間達を前に、いつまでもそんな思考をループさせていた。
そして、気がつけば仲間達はただのスクラップに成り下がっていた。
大胆にも真正面から赤い少年が迫る。最後の駆動鎧はそれでもプログラムに従って斧を振った。
勝敗など、もはや歴然だった。
ガゴンっ!という甲高い音を立てて、最後の駆動鎧が崩れ落ちる。何回かボディの各部でスパークを起こしたが、それが最後だった。何かが焦げたような臭いが漂う空き地に静寂が舞い降りた。
『しっかし、一体何なんだったんだ?これ』
そんな無音だった空間に、ジャリ、と大地を踏んだような無遠慮な音が割り込んだ。神槍の片足が金属片を踏んでしまった音だ、彼はそこら中に散らばっている鉄くずを見て、小さく溜息をついた。最近なんだかもの凄いスピードで厄介ごとに巻き込まれている気がする。短パン少女とか狙撃野郎とかロボット軍団とか短パン少女とか。
ともあれ、危機は去った。そして狙撃した敵も取り逃した。
時間がかかり過ぎた。今頃狙撃手は遥か遠く、ただの一般人に扮して優雅なティータイムに突入しているかもしれない。
(っつか、この空き地で待ち伏せしてたって事は……)
神槍はそもそもの始まりであるあの看板と工事現場を思い出す。おそらく奴らかその親玉がこの空き地に誘導して狙撃手とこのロボットを送り込んだのだ。それは間違いない。
だがしかし、今はそんな事はどうでもよかった。
真に問題なのは、
これだけの爆発騒ぎを起こしておいて、何の治安組織も出張って来ないことだった。
自分が起こしておいてなんだが、先ほどまでの連続爆発は相当のモノだったと思う。それこそこの街を守る治安組織の一つアンチスキルが全身武装して飛んで来ても驚かないぐらいには。
なのに何故、何もやってこないのだろうか。
『……』
神槍は答えを求めて、薄い赤色に染まる空を見上げた。もっと正しく言えば、その先、宇宙にある監視衛星。学園都市は常に空から街の様子を見張っている筈、当然今の戦闘行為も『見えて』いた筈だ。しかし何の音沙汰もないというのは――もう、
(学園都市そのものからの襲撃、って事だろうな、多分)
思考の闇に沈んでいた神槍だが、それはどこからか聞こえてきた、ピピピという電子音で一気に引き上げられた。「ん?」と辺りを見渡す彼を嘲笑うかのように、『声』は喋り出した。
<もしもし?もしもーし?聞こえてる?ねぇこれ聞こえてんのかしらぁ?>
まるでレストランでウェイターを呼ぶような口調の、女性らしき『声』だった。
慌てて声の発信源へ視線を向ける神槍の眼に飛び込んできたのは、地面に転がっている一機の駆動鎧だった。どうやら『声』は無事だった駆動鎧の通信機能を利用して喋っているらしい。
とりあえず神槍は返事をしてみた。
『……よく聞こえてるぜ。で、お前は……いや。お前らは一体何者なんだよ』
<こいつときたら!私はアンタと会話する気はないんだっつーのっ!一方的に連絡する事はあってもね!>
連絡?と神槍は首を傾げる。それと同時にもうちょっとこの大音量を落としてくれまいかとも思った。
<ちくしょう、何でこの私がこんな下っ端がするような雑務を……。言っておくけど、一回しか言わないから耳の穴かっぽじって聞きなさい!>
『前半で本音出ちゃってんじゃん』
<うるせー口答えすんなこいつときたらーっ!ったく、本当に何で私がこんな事……、だーもういいわさっさと言ってさっさと終わらせてやる!おいごら神槍トシキ!>
相手に己の名を呼ばれて神槍の眉が一瞬、ピクリと動いた。名前程度の情報は入手済みという事だ。
<今から三分三二秒前……つまりそこで転がってるスクラップどもを全滅させた瞬間に、アンタの名前が「
『??? いや、いやいやいや!待て待って待ちやがれ!それってつまり……どうなるんだ?』
まず書庫という単語の意味が分からない神槍にはさっぱりだ。うーん?と首を傾げる彼に気づいたのか、今にも通話を切る勢いだった『声』の主は感情のままに素直に叫び出した。
<はあ?何で理解できないのよ不法侵入者ならそうらしく敵地の情報ぐらい探っときなさいよ、困るじゃない!主に私が!>
『そんな事言われてもなー』
<そんな事じゃないわよこいつときたらーっ!この私の頭を悩ませるものは全て地球から消えてしまえば良いのだーっ!!>
がははははーっ!!という巨大武将みたいな笑い声が終わるまで、神槍は頭を抱え続けた。ダメだコイツ、早くなんとかしないと……。
『あーその、ええと、簡単でいいから説明してくれよ、頼むから』
こういうタイプの人間には嘘でもいいから下手に出よう、大変不本意ながら神槍は変人の扱いには慣れていた。
案の定、『声』の主は説明を始めた。それでもかなり機嫌は悪そうだったが。
<「書庫」ってのは学園都市に関するデータの集合体のことよ。そこにはあらゆるデータがあるけど、全てを見られる訳じゃあない。まあとにかく、学園都市のデータベースって考えればそれでいいわ>
『ふむふむ』
<んで。その「書庫」の中には当然、学生どもの戸籍・能力・所属なんかの情報もあってね。つまりこの学園都市における身分証明書……IDのリストもある訳よ>
『うんうん』
<それで私が言いたいのは、そこにアンタの名前をぶち込んだってこと。「上」の命令でね。これでアンタも晴れて学園都市の人間って訳、めでたしめでたし。どう分かった? >
『分からねえぞ!?ってかお前の説明は圧倒的に目的格が足りてないよ!!何でそうなったのかを言えっつの!』
思わず『声』の発信元である駆動鎧を蹴飛ばしたい衝動に駆られる神槍だが、なんとか思いとどまる。このままヌルッと終わって一番困るのは自分自身だ。
<いやそんな事言われても私知らないし>
『知らないのかよ!』
<私はIDリストの細工とアンタへの通達しか言われてないし。あ、ちょい待ち。今思えば他にもなんか言ってた気が……忘れちった☆>
『そこじゃね?なんか超適当に言われたけどそこなんじゃね問題は!?』
ぬ、ぬおおおおーっ、と本気で頭を抱えて唸りだす神槍に、『声』は言った。
<まったくこいつときたら!目的なんて大層なモノ考える暇があったら、さっさと学園都市の住人成りの身の振り方でも覚えなさいっての>
『……どういう意味だよ?』
<だからさ、いい加減に気づかない訳?本来、向こう側の世界の住人……魔術師であるアンタをこの街に取り込んだ無茶さと重大さに。「上」の老害どもはそうまでしてアンタを手元に置いておきたいのよ。理由なんて知らないし興味もないけど>
まぁガンバ★、と『声』の主は付け足した。
そうだ、この世界の定義に置き換えれば、神槍トシキという存在は『魔術師』に分類される。科学サイドと魔術サイド、世界を二分する境界線。今回の一連の出来事で神槍は『魔術師でありながら学園都市の住人』という奇怪なポジションに放り込まれた事になる。
それは、とても危うい。
互いに干渉しない事で成り立っている二つのサイドに、片足ずつ突っ込んでいるようなモノだ。地獄と地獄の境界線をまたぐような立ち位置。
『……おい、それって俺個人の範疇で終わる問題じゃないだろ。下手したら両サイドで「戦争」が起きるような、そんなスケールの話なんじゃねえのか……?』
<だから
ブツッ、という音を最後に通話は途切れた。再び空き地に静寂が戻る。
『……』
神槍は実感が湧かない顔で己の手に視線を落とした。何回か握ったり開いたりして、物思いにふけるみたいな表情をする。そのまま立ち去ろうとする彼だったが、またもやピピピという電子音に足を止められる。
なんだか凄く言いづらそうな声色で、再び回線をつなげた『声』の主は、
<……ええと、追加でいい?さっき思い出せなかった事思い出しちゃって……>
『はいはい、もう何が来ても驚きませんよーだ。早く言えよ』
<なんかね、アンタって
………………………………………………………………………………………………………………。
『………………………………は?』
……主人公が入るのはメルヘン冷蔵庫とかブチギレ女子大生(見た目)がいるとこじゃない!巨乳な先輩(と変態なツインテール)がもれなくついてくるあの支部さ!
……ちなみにあのスナイパーは砂皿さんだという事をここに表記しておきます。
魔法解説コーナー
浮遊術
文字通り人や物を浮かせる呪文。人が飛ぶ場合は、棒や箒にかける事が多い。別に衣服などでもいいのだが、棒や箒にかけた方がより早く移動できる。
箒術の補助呪文として下記の呪文が存在する。
『加速(アクケレレット)』『最大加速(マークシマ・アクケレラティオー)』
『急速停止(ラピデー・スプシスタット)』『高速機動(モービリテル)』……