「ええーっ!?し、神槍さんが新人の
『あ、やっぱり同僚さんだったのか。いやー突然悲鳴を上げられた時は焦った焦った』
「それならそうともっと早くおっしゃってくださいな。あやうく誤認逮捕しそうでしたの」
『いや俺何よりも早くそう言った筈なんすけど!?』
今日も今日とて科学の街は騒がしい。
目を見開く初春の前でひらひらと手に持った風紀委員の腕章を揺らす神槍。その傍では安易に騒ぎになるような事をするなと白井から注意を受ける真犯人…もとい佐天の姿も見える。
あの後、痴漢に間違われた神槍は自分が風紀委員でありただ道を訊きたかっただけだと説明をして、証拠品として腕章まで取り出してやっと誤解だと分かってもらえた。今ではもう、すっかり互いの自己紹介を終えて親しげに話せる仲だ。
つい数分前まで「捕まる捕まえる」の関係だったとはとても思えない。
なんかもう、そこら辺の経験値はカンストしてる魔法使いだった。
知らずの知らずの内に常識の線引きが破城している事に気づいていない神槍の前で、初春は口元に指を持ってきて不思議そうに呟く。
「でもこの時期に新人さんが来るなんて珍しいですねー。普通は春か秋の研修期間が終わったと同時、っていうのがセオリーなんですけど」
「まぁ何にせよ良かったですの。前から人手不足は感じていましたから。――はぁ、ホントに助かりましたのこれで固法先輩の小言の的が増えてわたくしの負担も……」
『ん?なんか言ったか?』
いっいいえ何も?ほ、ホホホ……とぎこちなく返事を返す白井に首をかしげる。なんだろうこの売られた感は、とさらに小首を傾げる神槍に突然横合いから声が飛んできた。
「――って、私を差し置いてナニ人脈広げてんのよこの変態が!!」
訂正。声じゃなくて電撃が飛んできた。
ジリィいいいいい!!と危ない音を発するそれを右手に展開した魔法障壁で軽く流した神槍は、出どころの少女の方へ振り向きながら心底迷惑そうな声音で、
『お前なぁ、電撃飛ばす以外にコミュニケーション方法がないのかよ?』
「うっさい!いいから私と勝負しなさいっ!コテンパンにしてやるから!!」
何故だか顔を真っ赤にして怒れる美琴嬢に、逆説的に神槍はより一層テンションを落とした。これで美琴と会うのは二回目の筈だが、どうしていつも怒ってらっしゃるんだろうと割と本気で考えてみるが答えは見つからない(※短パンです)。
とりあえずオトナな神槍はステキな対応をしてみる。
『待てって御坂。勝負とか以前にお前はこんなトコで戦う気か?少しは周りの迷惑も考えろっての』
「うっ……。っ、大体私をムカつかせるアンタが悪いんでしょうが!」
真っ直ぐな正論に捻じ曲がった自論を返した美琴は、様子を見る限り引き下がる気はないようだ。神槍は肩を落としやや呆れた口調で嘆息する。
そんな不毛な争いを察してくれたのか、白井が仲裁に入った。
「まぁまぁお姉様。先日からずっと楽しそうにお話に出ていた殿方と会って嬉しいのは分かりますが、ここは一つ抑えてくださいまし」
「ゴフッ!?がっ、は――なっ、なな何言ってんのよ黒子っ、私は別に嬉しくなんかないっつーの!」
「あ~ら~?そんなに必死に否定なさって、ますます怪しいですわね――はっ!?まさか既にそういう関係って事ですの!?この黒子がいながら……あんまりですのよお姉様!!」
「ア・ン・タ・はこんな女々しい奴が私の彼氏に見えんのかコォラ!!」
ヒステリックに取り乱す白井に噛み付く勢いで叫び返し、あろう事か電撃を浴びせる美琴。しかし白井は痛がるどころか嬌声を上げる始末だ。
そんな二人を見て神槍と初春、そして佐天はごく普通に同じ事を考えていた。
ああやっぱり、
ひと通り怒りは収まったのか白井への電撃飛ばしを終えた美琴が顔を上げると、どうしてかさっきより遠い位置に三人がいる事に気づいた。
「まったくアンタはいつもいつも――?ちょっと、ナニ微妙に距離取ってんのよそこの三人」
声をかけられた三人の肩が同時にビックゥ!!と大きくはねる。三人はどこかよそよそしい態度で話し出した。
『い、いや?別に?なぁ初春?』
「え、ええ。そうですよ、み、御坂さん、何でもありませんよ?」
「う、うん。何でもない何でもない、ホントに何でもないですってば!」
「何でもない訳ないでしょうが。目は泳ぎっぱなしだし、顔色も変じゃない」
『いや~……そういう趣味持ってる人はちょっと……なぁ?』
言葉の意味が理解できずしばらくキョトンとした表情をしていた美琴だったが、自分と白井の状態を何度か見比べる内にその意味がようやく分かった。
(もしかしなくても私……百合だと思われてる!?)
途端、美琴は顔を真っ赤にして弁解に舌を走らせる。
「なっ!? ちっ違うわよバカ!いや黒子はそうかもしれないけど!私は違うって!――だから距離を取るなァ!!」
『あー、うん。分かった分かったって。だから、な?無理すんなよ』
「分かったならこっち来いや!ほらほら、もっとこっち!こっち来る!!」
そうは言われても、一度起きたすれ違いはそう簡単には戻れないのだ。美琴が手で『こっちこっち!』とジェスチャーを送る度に、逆に三人はササッと離れていく。
結局、誤解を解くのにもう何十分か要した美琴だった。
「うわぁ~、すっごい人」
道すがらに通りかかった広場にいる大勢の人影を見て、佐天は目を丸くして言った。
誤解を解いた後の美琴の提案によりゲームセンターに向かっていた神槍たちだったが、その珍しい光景にふと足を止めた。別に人が大勢いる事など日常茶飯事だが、今回は少し事情が違う。
「なんでこんなに小っちゃい子が……」
思わずと言った調子で初春の口から洩れた言葉に、皆も頷く。彼女の言う通り目の前に広がる人々の内、約半数以上がまだ小学校の低学年といった背丈をしていた。
学生の街などと呼ばれている学園都市だが、年齢などによって学区ごとに住み分けが図られている。大学生なら第六学区、美琴たちのような中学生・高校生などはここ第七学区。そして目の前で無邪気に走り回っている子たちのような小学生は第十三学区と、丁寧に分けられているのだ。
なので、治安的な問題により第十三学区から基本的に出ない小学生(教員引率の社会見学などは別。しかしそれも高学年からの話であり今のようなケースはやはり稀)がこれほど大人数、しかも同時に第七学区に来ているのは珍しかった。少なくとも学園都市新参者の神槍が小学生を見るのは初めてなくらいには。
しかしその疑問も広場の中心辺りから聞こえてきたバスガイド風な容貌の女性の声で解決した。
「休憩は一時間ですー!あまり遠くには行かないでくださいねー!」
「何よ、ただの『勧誘』じゃない。さっ、早くゲーセン行きましょ」
勧誘――それは簡単に言ってしまえば学園都市に入学してください、という宣伝である。
定期的にこうして『外』から幼い少年少女を招き入れ、子供が好きそうなロボットなどを目に焼き付けさせて学園都市の学生になってもらおうという魂胆丸出しの手法である。けれどこれが効果抜群と言うのだから、世の中意外と単純だ。
なるほど、それなら第七学区に大勢の子供たちがいても不思議じゃないと自己完結した神槍たちは先に歩き出した美琴を追うように歩を進めようとして……また足を止める。
足を中途半端に出しかけた格好で立ち止まっている美琴に気づいたからだ。その視線は広場に止まっている車を改造したクレープ屋台に硬く固定されていた。ふと気になり、他の四人もクレープ屋台に目を向ける。
子供たちのおかげで大繁盛なのか、広場を横断するような形で長い列が出来上がっている。しかしそれだけで、別段立ち止まるほどの事は確認できない。
不思議に思った神槍は素直に尋ねる。
『御坂?何見てんだ?』
「へ?――な、なんでもないわよ。早く行くわよ」
「あっ。あのクレープ屋さん、オマケにゲコ太ストラップっていうのを配ってるらしいですよ?」
初春の言葉に、美琴の肩がビックゥ!!と震える。
その様子に気づいた神槍は試しに訊いてみた。
『ひょっとしてあのストラップが欲しいのか?』
「な、何言ってんのよ。私は別にゲコ太なんか……だ、だってカエルよ?両生類よ?どこの世界にこんなの貰って喜ぶ中学生が居――」
なんだか妙に言い訳がましい美琴のセリフは、初春と佐天の「「あっ」」という声に遮られる。見れば、二人の視線が美琴の学生カバンら辺で固定されていた。つられて神槍もそちらを見ると、ちゃっかりカバンの端からゲコ太ストラップなるものがこんにちはしていた。
あ…あ…と羞恥に震える美琴を見て、全てを察した神槍は苦笑しながら言った。
『居たな、すげぇ身近に』
「う、うううっさいわね!アンタには関係ないでしょうが!」
『そんな怒るなよ。ほら、早く並ばないと売り切れになっちまうぜ?』
「え…?」
キョトンとした表情で聞き返す美琴にじれったくなったのか、神槍は彼女の手を取って強引にでも列の方へ連れていく。
「え、え、はあ!?ちょ、いきなり何すんのよ!?」
『いいからいいから。さっさと並んでゲコ……ゲコ丸?まぁあのストラップゲットしてゲーセン行くんだろ?』
「ゲコ太だっつの!」
そこだけは譲れないのかきちんと訂正する美琴だが、結局手を振りほどこうとはせずそのまま大人しく列に加わる。周りの自分よりずっと小さい子に注目されて恥ずかしいのかぷいっと顔を逸らしつつ「ま、まぁアンタがそこまで言うなら付き合ってあげるわよ…」というツンデレ奥義を炸裂された。
はいはい御坂さんは付き添いですねそうですネー、と素直になれない妹を世話する兄のような心境で笑う神槍を、遠目に見ていた他の女子三人はやや呆然とその様子に見入っている。
「お、おっねえさまの手を握って…握って!やはりお二方はそういうご関係なのですわねッ!?」
ヒステリックなこの人は置いておくとして。思春期全開のお年頃な初春と佐天は目を輝かせながら、
「あ、あれが英国紳士って言うんでしょうか佐天さん!?」
「いやー。あれはどっちかって言うと天然ジゴロって言うんじゃ……うわ笑顔が眩しっ!」
本気なのか冗談なのか―おそらく両方だ―二人の女子トークは白井が「先にベンチを確保しますわよ」と声をかけるまで続いたらしい。
「お待たせしましたー。はいどうぞ、最後の一個ですよ?」
『どうも――って最後?』
やっとこさ列が進み注文も終えた神槍はクレープを受け取る。そして目的であるストラップも貰ったまでは良かったのだが、店員さんの営業スマイルから放たれた一言により固まる。
(最後の一個って事は……)
ドサッ。背後から何かが崩れ落ちるような音が聞こえた。
わざわざ確認するまでもなく想像できてしまった自分に嫌気を覚えつつ、意を決して渋々振り返る。
やはりそこには頭を垂れて地面に座り込みドヨーンとしたオーラを纏った美琴嬢の姿があった。
いやそこまで欲しかったんかい、という出かかった言葉を飲み下しながら神槍はゲコ太を乗せた手を彼女に差し出す。
『ほらよ、元々お前が欲しくて並んだんだろうが』
え?とゆっくり頭を上げて差し出されたゲコ太と神槍の顔を何度か見往復する美琴を見て、ふと悪戯心が働いた神槍はゲコ太を乗せている己の手を右、左と動かしてみた。すると美琴の顔も面白いほど同じように右、左へと追いかけるように動く。まるで猫じゃらしを追いかける子猫のような仕草だった。
『(何この子可愛い……)』
ややあって、
「……だーもうくれるのかくれないのかはっきりしなさいよ!」
『え?――ああ、やるやる。こんなの持ってても仕方ないし』
思わずそのまま数分間からかい続けてしまった神槍は、すっかり回復した美琴にゲコ太とクレープを渡して白井たちが確保していたらしきベンチに向かう。と、その途中で何が引き金だったのか美琴の口からマシンガントークが発射されてしまう。
「こんなのって言うな!いい!?そもそもゲコ太はケロヨンの隣に住んでいるおじさんで乗り物に弱くてゲコゲコしちゃうからゲコ太って(ry」
あーハイさいですか…と適当に右から左に聞き流しつつ、待ち組の女子三人にクレープを手渡して自分もベンチに腰を下ろす。ちょうど木陰なせいか列に並んでいた時より数段涼しい気がした。
パクッと一口ほうばった所で、さっきまで白井とクレープ片手に攻防を繰り返していた美琴がズイっと自分のクレープ(バナナチョコ味)を差し出してきた。
無言でそっぽを向いている所がやけにデンジャラス。
『えっと……御坂、さん?』
「っ……あーもう察しなさいよ!お礼よお・れ・い!ゲコ太のね!」
『いやお礼されるほど大した事やってないし。自分で食えよ』
「それじゃ私の気が収まらないでしょうが!いいから食べなさいよ!」
『だからいらな』
「食・べ・ろ♪」
……はい、と神槍は渋々顔を前に出してパクッと一口だけ貰う。なんだろうこのやり取り、激しいデジャヴを感じる……。
しばしそのまま「おっ、おおおおお姉様との間接キッスhshs!?」とか叫んでいる白井を眺めながらクレープの殲滅にかかる一行だったが、その平穏は一瞬にして破られる事になる。
きっかけは初春の何気ない言葉からだった。
「んー?」
「どうしたの初春?」
「いえ。大した事じゃないんですけど……あのショベルカー、なんで輸送車の荷台にも乗らないでそのまま道路を猛スピードで走ってるんでしょうか?」
「「「『は?』」」」とマヌケにも五人同時にキョトンとした声を出してしまう。
どうにも追い付いてこない脳に反比例して首と目は的確に初春が指さすそこへ向けられる。
そこには、確かに、建設重機の一つであるショベルカーがアスファルトの道路を爆走していた。思考が妙なベクトルに働いてキャタピラであの速度を出すのは不可能だと思ったが、そこは学園都市だから、という一言で決着だろう。この街で科学だとか機械関係でいちいち疑問に囚われていたらキリがない。
兎にも角にも、呆然とその光景に見入る一同を置き去りにしてショベルカーはそのまま爆走を続け……続けて、
コンビニのガラス張りの壁に頭から突っ込み、中にあるATMをズガガガガガッ!!と無駄に豪快な音を立てながら丸ごとかっさらった。
静まり返る広場に構わず、ATMに備え付けてある耐震補強具+盗難防止用固定具などを力技で突破したショベルカーは、そのショベルでATMを引っ掴んだまま道を曲がりその姿を消す。
えー……という声がどこからか聞こえた。普通なら子供がたくさんいる見ている中で行われた危険な犯罪行為の筈なのだが、あまりの強引かつバカっぽいやり方に風紀委員である白井と初春の思考は完全停止を帰していた。
しばらくして、やはり静まり返っている空気の中、ちゃっかりクレープを食べ終わった神槍はポツリと問いかける。
『……なぁ、学園都市の犯罪って全部あんな感じなの?俺的にはもっとこう、高度な電子戦みたいのを期待してたんすけど…』
「いえ……あんな類人猿でも出来そうな犯罪を見たのは初めてですの…。そういうスキルアウトの話は聞いていましたがまさか実在するとは…ええー」
我ながら信じられないのか、口の端をひくひくさせる白井。しかしその手は体に馴染みこませた動き……腕章を腕につける。
それからの仕事っぷりは流石だった。
「初春!
「はっ、はい!」と初春も腕章を身につけ、いつも持ち歩いている端末をセットして連絡などを図る。
と、ここで美琴が口を挟んだ。
「黒子!私も――」
「いけませんわお姉様、学園都市の治安維持はわたくし達風紀委員のお仕事。今度こそお行儀よくしていてくださいな?」
それだけ言うと、白井はベンチを飛び越えて車道に出る。おそらく空間移動でショベルカーを追跡するつもりだろう。一秒間に約288キロメートルもの距離をショートカットできる彼女ならばそれも可能だ。そんな後輩を見て諦めがついたのか、美琴も「分かったわ」と渋々頷いた。
自分が姉と慕うその人物が頷くのをきっちり見届けた白井は、すぐに空間移動しようとして――ふと思い出した。
「そうでしたの。神槍さん?貴方は新人なのですから今回は待機して――あら?」
そこまで言っておいて、白井は首を傾げる。
いない。ついさっきまでベンチでクレープをパクついていた筈の神槍の姿が、どこにもない。
「う、初春?」
「わ、私も知りませんよ!そんな……ついさっきまでそこに居たのに…」
本気で知らないらしい初春の次に佐天、美琴と訊いてみたが、誰も見ていないと言った。
どこ行きやがったあの泥棒猫、とすぐに犯人を追わなければならない白井にイライラが募っていく。
と、不意にさっきのクレープ屋の店員の一人が風紀委員の腕章を見てこちらへ声をかけてきた。
「あ、あの……」
はい?と聞き返すと、店員は困ったような表情を浮かべて続けた。
「さっき赤い髪の風紀委員の人に頼まれて、掃除用の
箒?と一斉に首をかしげる女子四人。されど答えは振ってこない。
ベチャっと。いつの間にか溶けてしまった誰かのクレープのクリームが、地面に零れ落ちた。
東京西部を切り開いて作られた学園都市を、一台のステーションワゴンが走り抜ける。乗っているのは三人の少年。
彼らはスキルアウトと呼ばれる、一種の不良集団に所属している。
ハンドルを握っている浜面は、どう見ても運転免許を採れる年齢とは思えない。しかしそんな事など気にも留まらないほどのルール違反が後部座席に収まっていた。重機で拾ったATMが丸ごと車内に転がっているのだ、もう運転手の年齢など霞んで気にもならない。
ショベルカーを盗難しそれを使ってさらにATMを盗難して極め付けに今乗っているステーションワゴンも盗難した張本人、浜面が運転するワゴンは風力発電のプロペラが並ぶ道路を勢いよく走り抜け、青空を漂う飛行船の下を潜り抜けて行く。
相も変わらず、車内はお祭りモードだった。
「これで当面ウハウハだな!!」という浜面と半蔵の二人のバカ笑いが車内に響きわたる。
何しろ後部座席にあるボロボロATMの中には二千万という大金が入っているのだ。もう笑いが止まらない。
「ガハハ!わざわざあの巨乳警備員が非番の日を狙った甲斐があったなあ!楽勝じゃん!!」
「……浜面、GPS発信機はどうした……?」
「モチのロン、さっきのショベルカーにプレゼントしといた。あとは金庫の蛍光塗料のトラップを始末すれば終わりって訳」
やっぱ最高だわお前ーっ!と浜面の背中をバンバン叩く半蔵。満更ではない浜面の顔もより一層得意げな表情になっていく。
彼らは半年ほど前にも同じような手段でATM強奪を試みたがとある女性の警備員により未遂に終わらされていた。その屈辱を忘れずに、彼らは無駄な情熱と世間に迷惑な決意を懸けて今ここにリベンジを果たしたのだった。
――気づいてないのだろうかこの少年たちは。例の警備員が非番の日を狙った時点で一番大事な何かが負けている事に。
そんな事考えもしない三人はこのままウキウキ気分で隠れ家に帰ろうと、ステーションワゴンをさらに走らせる。
しかし、
けれど、
正義の味方はやっぱり強かった。
――コンコン、と運転席側の窓から音がした。まるでノックされているような響き方。おかしい、今現在この車は時速八〇キロで移動中の筈なのに。
なにかゴミでも当たったのか?と前を向いていた浜面は何気なくそちらを見やる。
そこに、
こちらに向けて花も恥じらう美笑を送ってくる赤髪外人美少女の顔があった。
はあ!?と浜面の顔面が一気に青ざめた。残りの二人も言語を忘れてしまったかのように固まってしまう。
繰り返すようだが、今浜面たちは高速を走る車並みの猛スピードで移動している。なのに窓越しの外人少女は今こうしている間も車外に張り付いているようにそこにいるのだ、不気味にもほどがある。
(くっそ――ッ!発電系の能力でくっついてやがんのか!?)
アクセルを底まで踏みながら、浜面は視線を少女の顔からやや下へ下げた。磁力か何かで車体に貼りついていると思ったのだ。
しかし、違った。
――
なっ…!?と今度こそ浜面の喉が干上がる。後部座席にいる駒場からは、ローブまで着ている少女が箒にまたがっているのをダイレクトに見る事が出来たが、やはり信じられない表情で硬くなるばかりだ。
「おい駒場さんよ!こういう時ってどうすりゃいいんだ!?」
「……さ、さあ……?」
さあじゃねーっ!と浜面は思い切り叫んだ。その間も外の不思議少女はコンコンとまた窓をノックし、その口元をゆっくりと動かす。
柔らかそうな桜色の唇の動きから、浜面は確かに少女がこう言っていると確信した。
と め ろ。 じゃ な い と ご う い ん に で も と め る ぞ?
マズイ!なんだか分からないけどとてつもなくマズイ気がする!と狼狽える浜面は、最後の希望を託して隣に座っている頼れる相棒。半蔵へと視線を移す。
自称忍者という怪しすぎる彼だが、戦闘面に関しては無能力者の中でもトップクラスの実力者で意外と頼りになる事を浜面は知っていた。
そんな最後の希望を託され期待を一手に背負う本人は、どこか驚愕の事実に気づいてしまったみたいな表情で、
「浜面。やべぇ、俺……」
「あきらめるな!まだ方法はある!たとえ無くても俺が見つけ出してやる!」
「恋しちゃったかも」
ええーっ!?と浜面は思わずハンドル操作も忘れて、隣にいる窓越しの少女をぼーっと見つめる半蔵を凝視してしまう。吊り橋効果にも程があるわ!とツッコみたいが、目の前の男の目がマジなのを見て自重する。
(だめだこいつ、早くなんとかしねえと……!)
「な、なあ浜面。あの子年下かな?やっぱそうかな?あっちゃー、俺年上が好みなんだけど……まいっか。うん、この際なんでもいいやえへへ」
「あっちゃーはお前だよ!!おい半蔵っ、頼むからニヤニヤしてねぇで正気に戻れ!今は美少女と言えど構っている暇は――ん?」
そこまで言って、浜面は右半身が妙に肌寒い事に気がついた。
……なんていうか、とてつもなく嫌な予感をひしひしと感じつつ、ギチギチと。浜面は右側、箒少女がいる方へゆっくりと振り返る。するとあら不思議、いつ触ったのか窓のスライドボタンがONになっており、唯一の防御壁だった強化ガラスは隙間へ収まっていて速度の関係による強風が車内に流れ込んでいた。これが浜面の寒さの原因だった。
詰まる所、今の会話は全部筒抜けだったのだ。浜面の叫び声も。半蔵のニヤニヤ台詞も。
そして、浜面の『美
『――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――』
「えーと、その」
ニッコリ♪という効果音が合いそうな美しい笑顔――しかし目はまったく笑っていないむしろ据わっている――で固まっている神槍に、何かを察した浜面はもうなんか泣きそうな顔で必死に助けをこう。
「わっ、わわ分かった止める今すぐ止めるから助け――」
『
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!という凄まじい炸裂音が連続した。滞空する怒れる神槍から放たれた無数の光弾はワゴン、アスファルトを貫通し、ぶちまけ、辺りの景色を塗りつぶしていく。
二転、三転と横転した浜面たちを乗せたステーションワゴンはドンガラガッシャーンッ!!と面白い音を立ててガードレールと熱いキスを交わした。
ホモ小説にはならないよ?(断言)
あれは事故なんだよ主人公と郭さんをどう絡ませようか考えた結果があれだっただけなんだよあの三人の泥沼三角関係が書きたかっただけなんだよ!
ふぅ…以上言い訳終わり。
今回はちょろっとラブコメ回でした(筈……)。そして世紀末帝王との初接触イベント。
やったねトシキ君!
魔法解説こ~な~
白き雷 しろきいかずち フルグラティオー・アルビカンス
詠唱は「闇夜切り裂く一条の光、我が手に宿りて敵を喰らえ」。
強力な雷撃を放つ呪文。放射するパターンと接触した形からスタンガンのように雷撃を発生させる場合がある。
同格の呪文として炎属性の「紅き焔」があるが、白き雷の方が1フレーズ短い。