とある魔法の魔導司書(ブックキーパー)   作:神の槍

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虚空爆破編
とある事件の前兆活劇(ビフォーブル)


学園都市。

東京都西部に位置する科学の街の一角、そこにある何の変哲もないコンビニに押し入ってくるなり、一人の女子高校生らしき学生は緊迫した声を上げた。

風紀委員(ジャッジメント)です!この場から早急に避難してください!!」

店内にいた客が一斉に固まるのも構わず、声を上げた女子学生の後ろから緑色の腕章を腕につけた風紀委員たちがゾロゾロ店の中へ入ってくる。彼らはすぐさま避難誘導のために声を飛ばし始めた。混乱のせいか互いに混乱した顔を見合わせる客たち。

性別も年齢もバラバラな風紀委員達だがその表情が一様に真剣でとびきり硬いのを見て、固まっていた客も何かを感じたのか我先にと外に続くドアへ走り寄せる。数分も経たぬ内に人気のなくなる店内に、慌ただしい風紀委員らの声だけが響く。

そこまで来てやっと、店主らしき中年の男性は未知への恐怖で震える喉を叱咤して声を出す事ができた。

「あ、あの……ウチの店で何か……?」

最初に声を出した女子学生が凛とした声で応じる。

「この付近でグラビトンの爆発的な加速が観測されました。その為、私達は風紀委員の権限を用いて一時的な避難処置を取っている最中です、どうかご協力ください」

「グラ……?」

重力子(グラビトン)……」風紀委員の女子学生は片手に提げた透明軽盾を焦っているように揺らしながら、

「簡単に言うと爆弾が爆発する前兆があったという事です。この店に爆弾が仕掛けられたと思われます。捜索を急いでいますが爆発する可能性もありますので、さぁあなたも避難を」

爆だ…っ!?と店主の喉が一瞬で干上がる。指示を飛ばす目の前の女子学生の声がやけに遠い気がする。

ここは危険だと言われているのは分かるが、どうにも足が動かない。まるで恐怖に邪魔されて脳が上手く機能しないような感覚が全身を支配していた。

一方その頃、引きつった表情で立ちすくむ店主の姿により一層焦りを募らせながらも、他に残っている人がいないか店内を走り回っている風紀委員の少年がいた。

障害物となる陳列されている商品をうっとおしく感じながらまだ確認していなかった通路に顔を出す。

と、販売棚のせいで死角になる所で床に座り込んでいる女子が視界に飛び込んできた。

「どうした!?すぐに避難を」

「すみません、でも足が……」

注意して見てみれば、女子は座り込みながら片足の足首ら辺を弱弱しく擦っていた。どうやら逃げる途中で捻ってしまったらしい。

風紀委員の少年は思うように進まぬ避難誘導に心臓を鷲掴みにされているような焦りを覚えつつ、少女に肩を貸して急いで避難させようとする。

その――瞬間、

 

不意に、

ブン、という羽虫が耳のすぐ傍を横切った時のような不快な音が彼の耳を撫でる。

 

風紀委員の少年は音の発生元と思われる販売棚……の下に目をやる。

人目が届きにくい死角にポツンと置かれたウサギを模したぬいぐるみ。綿と布でしかない筈のその体が、不自然にグニャグニャにひしゃげ、メキ…メキ…という金属が押しつぶされているような音を発している事に気づく。

その様は悪寒がするほど、事前に目を通していた資料にあった爆発まじかの爆弾の動きに酷似していた。

「な、に!?これが……爆弾!!」

目を見開く風紀委員の少年。それでも驚愕と恐怖に縛られた体にムチ打って、咄嗟に少女を庇う恰好で爆弾に背を向けれたのは日頃の訓練の賜物だろう。

 

刹那、

轟ぉぉオオオオオオオオオッ!!!という爆発音が何もかもを呑み込み、爆炎が風紀委員の少年の背中を容赦なく覆い隠した。

 

「――くっ!間に合わなかったか……」

店主に避難を進めていた風紀委員の女子学生は吐き捨てるように呟いた。

強引に伏せさせた店主と自分の前に突き出した透明軽盾に、爆風とそれによって巻き上げられた商品だったモノがガツガツぶつかる。粉塵が店内に舞い上がり、彼女の視界を霧のように白く染め上げた。

爆風がある程度収まったのを皮切りに、彼女は不要となった盾を放り投げ怪我人がいないか確認に走る。爆発の直前、爆心地近くで同僚と一般人の少女の姿を見ていたのだ。

「っ――大丈夫ですか!?怪我は?」

予想は憎らしいほど的中した。汚い床にペタンと力なく座り込んでいる少女へ急ぎ駆け寄る。

粉塵と軽い火傷で汚れているその少女は、呆然とした、それでいて今にも泣き出しそうな表情で震えた声で答える。その視線を、床に転がっている人間くらいの大きさの物体に向けたまま。

「……わ、私は。この人が庇ってくれた、から……で、も――」

「ッ!」

その物体を目で捉えた風紀委員の女子学生の顔が苦しそうに歪む。

力なく床に投げだされた手足に、ボロボロで爆風を直接浴びたせいか黒くなった腕章。見るのもつらい、赤く紅く腫れ上がった背中、対するように見え隠れするピンク色のプニプニしたそれ……重度の火傷だ。

「ぁ……ぐっ…ッ」

その口から低く、しかし確かにうめき声が漏れた。その声を掻き消すように、風紀委員の女子学生が救急車を呼ぶ声が続く。

これが、連続虚空爆破(グラビトン)事件。最新にして最大の被害となった爆破事件の一連であった。

 

 

「――とまあ、以上が昨日の夕方に起こった事件ですの」

数週間前から発生し続け、しかも回数を重ねるごとにその威力・規模を増大させている連続虚空爆破事件。その事件の粗方の説明をし終えた白井黒子は、疲れ切った喉を休ませながら自分と同僚のいる支部をふと見渡してみる。

風紀委員第177支部。

それが白井が所属する支部の名だ。柵川中学の末端に位置し、第七学区の治安維持(と言っても本来の風紀委員は校内活動が主である)を担当する。支部などと銘打っても、四つのデスクと決して大きいとは言えないソファーで窮屈だと感じてしまうぐらいの空間と小さな仮眠室しかないこの部屋だ、文字通り首を一周させれば完全に見渡す事ができた。

「ひえー。風紀委員から9人も怪我人が出てるじゃないですか。うわぁこの人なんか全治二週間……溜まった宿題大変そう…」

などとパソコンの画面に映し出された被害者情報を見て明後日の呟きをしている少女の名は、初春飾利。頭に大量の花飾りを付けている事から、風紀委員仲間から密かに『歩く花瓶』と呼ばれている彼女のその反応に、白井は呆れた調子で、

「9人も怪我人が出ているからこうしてこちらの支部にも警戒が出たのでしょう?それに、そのおかげで民間人からは今話した女子学生しか被害者は出てないんですの。幸い、怪我も命には別状はないようですし」

『ん、風紀委員から9人も被害者が出てるのに民間人は一人だけ?なんかおかしくね、それ?』

と横合いから口を突っ込んできた女子にしてはやや低めの声――いや男子にしては高めの声に、白井と初春はキッチンの方を向く。我ながら狭いこの支部だが、申し訳程度に調理スペースが備え付けられている。

そんな小っこいキッチンに、ピンク色の簡素なエプロンと水玉模様のバンダナを何の抵抗も示さずに装備した少年が立っていた。肩口まで伸ばした真っ赤な髪をひと塊に結っている髪型に、病的なまでに白い肌、そして東洋のそれとはかけ離れた線の細い顔立ち。神槍トシキその人だ。

その細い手にはフライパン・包丁などの調理用具が握られており、絶えず動き続けている。誰がどう見ても料理している格好だった。

ピンクのエプロンを着ても何の違和感もないって……と、はんば呆れた呟きを女子二人は心の中でこっそり零す。神槍に少しでも『女っぽい』的な感想を抱いたのを知られたら大変な事になる、その事を二人はこの数日でたっぷり理解した否させられた主に肉体言語で。

さっきの呟きがバレてないか、内心ビクビクしながら白井は彼の問いに答える。

「そ、それは、それだけ大勢の風紀委員が体を張って一般人を守ったという事ですの。誇らしい事ではありませんか」

『そうか?ふーん……』と歯切れの悪い返事をした彼だったが、手元の食材の様子を見て『おっ、できたできた』と顔を明るくし、盛り付け用の皿を取り出していく。

途端、初春は物凄い速度でパソコンや広げていた資料を片付け、デスクの上に皿が置ける程度のスペースを確保した。どこから出したのか両手にナイフとスプーンも持っている。

「えへへ~」と涎をすすっている辺り、ごちそうになる気満々であるこの女。

「……初春?あなたいい加減に胃袋を掌握されている事に気づきなさいな」

「そう言いながら机の上片づけてる白井さんには言われたくないですよー。……これを見越してお昼を控えめにしてたみたいだし。はぁ~やっぱりお嬢様は体重維持に気を使うんですねー?」

「なっ!こ、これはたまたま……そうたまたま片付ける気になっただけですのよ!それと体重に関しては口にするなァ!」

ムキになって言い返している白井を尻目に、ホクホクと湯気を上げる料理片手にデスクに近づく神槍。次々と白井と初春、自分のデスクに皿を乗せていく。

キッチンとデスクを何往復かした後、神槍も自分のデスクの席についた。その頃には三人の前には淑女の敵、もとい美味しそうな色とりどりな料理の数々が並べられていた。

神槍は頭に巻いたバンダナを取りながら言う。

『えっと、右からヨークシャー・プディングのブレッドソース包み、フィッシュアンドチップス、生サラダ・サラダソースかけ。デザートはカスタードプティング、まぁプリンだな。はいじゃあいただき――』

「ぬぉおおおおおおこの魚フライうまあっ!なんて魚ですかこれむぐもぐむしゃむしゃ!!」

「こっ、これは…!乙女の敵ですわね!!」

『……うん、お前らはまず作り手に感謝する事から覚えようかコノヤロー』

ます、と言い終える前に勝手に食べ始めている女子二人に冷たい一言をきっちり放ってから、嘆息していた神槍も食べ始める。

フィッシュアンドチップス(初春いわく魚フライ)を神槍が呑み下した所で、ふと初春が疑問を口にした。

「あのー、何で神槍さんってたまに支部でご飯食べるんですか?わざわざ材料買ってきて料理してまで」

『い、いや、それは、……だって家にはつまみ食い大魔王が…』

「はい?だいまおう?」

聞き返してくる初春に『な、何でもない』と返して、これ以上追及されないように慌てて魚フラ……フィッシュアンドチップスを口に投入する。しかし計算以上にサイズが暴れん坊だったため、喉に詰まり『ゴっ、ゴフッ!?い、息できなっ、み、水……』と涙目で助けをこう始末だ。

とても世界を二分する両サイドにまたがる超不思議魔法ッ子少年には見えない。というか中学一年生の初春と白井からすれば年上にも見えない。

んー!!と本気で苦しがっている神槍に水入りのコップを手渡した白井は、不意に思い出したことを初春に訊いた。

「そういえば、明日どこかに出かけるとか言ってましたわね」

「はいっ!佐天と、それに御坂さんも一緒にセブンスミストにお買い物に行くんですよー。あ、良かったら白井さんもどうです?」

「残念ながらノーですの。風紀委員の仕事を放っておく訳にもいきませんし。お姉様にも誘われたのですけれど……お姉様にも!誘われたのですけれど」

「わー。お姉様を強調した辺り絶対未練たらたらですよこの人ー」

うるさい、と一刀両断してプロ顔負けの技術で盛り付けられた料理にフォークという名の侵略を再開させる白井。

ザクッ、という三つの突起がポテトを貫通する音がやけに生々しく耳に残った。

 

 

学園都市第七学区某所にある学生寮の一室にて。

支部からここ、上条当麻宅に帰還した神槍トシキは『うだー』と床に寝転びながら、かじりつくようにテレビを見ている少女の後ろ姿をぼんやり眺めていた。

少女の名前はインデックス。明らかに偽名だが、本名は本人も知らないと言うのだから仕方ない。

少女は白い肌、銀の長髪、緑の瞳という外国人ボディを誇っている。風呂上りなため今こそは水玉模様の簡素なパジャマを着ているが、普段は修道服なんていう超外国グッズを身につけているせいで外国の匂いをまき散らしているアイデンティティ重視のシスターさんだ。

そんなシスターさんはテレビにかじりついてフンフン頷いていた。

ちなみに、画面に映っているのは架空の(アニメな)魔法少女の大活躍だった。

「なるほど、この超機動少女カナミンは普段は学生になりすます事でローマ政教が誇る魔女狩り十字軍の目をごまかしているんだね。しかしあの虹色に光るステッキは一体――ハッ!五大要素における第五呪具『蓮の杖』をプラスチックで再現しているという事だね!むむ、流石は神秘の国ジャパン。素晴らしきかなジャパニーズスタイルなんだよ」

うーんおそらく全部間違ってるけど楽しそうだからいっか、とツッコみを全放棄したリアル魔法使いの少年は、ゆっくりと脱力した様子で上体を起こす。

すると今までインデックスの体に重なって見えなかったテレビの画面が直視できるようになった。箱の中のカナミンさんは相変わらず大袈裟な効果音とキラキラエフェクトを振りまきながらニッコリ笑顔で敵を爆散させていた。

(笑顔で極大呪文級の魔法ぶっ放すとか……やるなぁカナミン)

ふあーと思わず出てきたあくびを噛み殺して、神槍はコトンと銀色の髪に包まれているインデックスの頭に顎を乗せた。それだけではなく、膝の上にある彼女の体をズリ落ちないように自分の方へグイッと引き寄せる。

――お気づきだろうか。(幽霊写真ボイス)

そう。今もテレビに夢中なインデックスは当たり前のように神槍の膝の上に居座っており、その小柄な体はすっぽりと後ろの方から彼に包まれていた。そんな状況でもカナミンさんへの集中力が途切れていない事から、もう随分と慣れているように見て取れる。

これは別に、彼らが恋人になったとかお兄ちゃんプレイを楽しんでいるとかそういう爛れた事ではない。普通に、テレビの前を陣取る癖があるインデックスと自分もテレビを見たい神槍が編み出した独自のテレビ視聴フォームという事だけである。

他意はない。たぶん。

と、インデックスの頭の上でウトウトしていた神槍の睡眠を害するように、寮部屋のドアがガタンと安っぽい音を立てて開いた。

入ってきたのはこの部屋の主、上条当麻だ。

「またそんな二人羽織みたいな恰好でテレビ見てたのかよ……ホント仲良いなお前ら」

呆れたように呟きながらも、スーパーで買い足した食材を冷蔵庫に適当に入れていく上条。普通なら思春期真っ盛りの上条も神槍に対して羨ましいとか思うべきなんだろうが、少し想像してみて欲しい。

客観的に見てみると外国人少女二人がじゃれ合っているようにしか見えないのだ、これで羨め、と言われても実感が湧いてこない。

しかし超がつくほど鈍感な彼の意見などアテにならない。

自分の頭の上で、神槍がスゥスゥと穏やかな寝息をつきながら、完全に眠りこけている事に気づいた時のインデックスの満山でもなさそうな笑顔を見れば、誰でも分かりそうなモノだが……。

この気持ちを本人が自覚し、また相手がその事に気づくのは、

もっと

ずっと

未来のことになりそうである。

 




今回はちょっと少なめですね。主人公さんも大人しいですたい。
そして、何故だが知らないけど、ラブちゃってる!?

あるぇーそんなつもりなかったんだけどナァー
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