とある魔法の魔導司書(ブックキーパー)   作:神の槍

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とある純白の神羊少女(スケープシスター)

『へぶしッ!?』

長い長い落下状態がやっと終わったと思ったら、コンクリとの感動のご対面。

……惨めすぎんだろ俺…。これでも世界を救った英雄なのに…。

非常に暗い気持ちになりながら立ちあがり、周囲を見渡す。左右にマンションのような建物が見えた。日光が反射してきて暑い。どうやら夏のようだ。

てゆーか、今気づいたけど、

『赤ちゃんスタートじゃないの?』

てっきりまた赤ん坊からやり直すのかと思っていたが、今回はそのまま引き継ぐらしい。

マンションの窓で確認したら、容姿も何一つ変わっていない。自分から見ても中性的な顔が映っている。赤髪も健在だ。年齢は……16くらいかな。

茶色いローブを着てるから旅人に見えなくもない。

と、ここで不意に、

『そうだ魔力!確認しないと……』

…………えぇ~。マジで減ってる。いや、激減してる。ホントに10分の一ぐらいになってそうだ。

これじゃあ魔力の節約を第一に考えないとな。早速、常に纏っている魔法障壁を解除する。

はぁ、先が思いやられるなぁ。

『ってかここはどこなんだ?マンションがあるって事は街か何か?』

もう一度辺りを見渡す。だがここからではマンションに邪魔をされてそれ以外何も見えない。

もしかして案外、俺が住んでいた世界と似たような世界なのかもと希望が湧いてきた。

俺が密かに気合いを入れていると、

「きゃあぁぁああああああああ!!」

『へ?』

頭上から甲高い叫び声が聞こえてきた。慌てて上を見上げる。

そこにはおそらくマンションの屋上から落ちてきた少女――なにやら白い服を着ている。

『転生早々にトラブルかよ。いや、助けるけどさ』

軽口を叩きながら『戦いの歌』(肉体強化魔法)をしてコンクリートを踏みしめ飛び上がる。

楽々少女のいる高さまで到達し、抱き抱え、一番近くのベランダに着地。

魔力節約を思い出し、即座に『戦いの歌』を解除する。

ここでやっと少女が状況を理解したようだ。改めて抱きかかえている少女を見ると、歳は十四か十五くらいか。外国人らしく、肌は純白で髪の毛も白――ではなく銀髪だろう。かなり長いらしく、仰向けで抱き抱えられてる(いわゆるお姫様抱っこ)状態で分かりにくいが、腰くらいまであるのではないだろうか?

そしてさっき白いと表現した服装は、

『うわ、本物のシスターさんだ……って見た事あるがな。いや、白い修道服は始めてか?』

思わず自分ツッコみ。それにしても白い修道服とは珍しい。普通、修道服は黒だと俺の知識ではなっているのだが。

さらによく見ると、修道服の要所要所には金糸の刺繍が織り込まれている。同じデザインの服でも色付けが違うだけでこうも印象が変わるのかと思う。これじゃまるで成金趣味のティーカップみたいだった。

ピクン、と今まで硬直していた女の子の顔が動いた。顔を動かし俺の顔へと視線を向ける。

女の子は割と可愛らしい顔をしていた。白い肌に緑色の大きな瞳がアクセントとなっている。

と、ここでやっとこさ女の子の小さな唇が動いた。

 

「おなかへった」

 

『は?』

思わず俺は、この世界は俺の知らない言語が共通語として繁栄していて、それを俺が聞き間違えたかと思った。

しかし、そんな幻想は無残にも少女によって撃ち砕かれる。

「おなかへった」

『…………』

「おなかへった」

『………………』

「おなかへったって言ってるんだよ?」

ヤバイ。今すぐにでもこの子をここに置いて逃げたくなってきた。この子はアレだ、絶対にアレだ。関わったら厄介事に巻き込まれる奴だ。

俺が絶句しているとは知らずに、少女はどうにか自分の意思を伝えようとしてくる。

「もしかして日本語が分からないの?顔から見て英国人っぽいから英語の方がいいのかも」

『……………………いや、日本語で良い』

遂に耐えきれずに返事をしてしまった。少女はそれだけで表情を輝かせた。

俺は今にも逃げ出したい気持ちを抑え込みながら、

『あのー、今さっきお前屋上から落ちそうになってたんだぜ?それを俺が助けてこのベランダにいる訳で。その後の第一感想がおなかへったってどーゆー事?』

「だっておなかへったんだもん。あ、さっきはありがとうね。おかげで助かったんだよ」

……なんだろうこの子。今さっき死にかけたっていうのに恐怖がないのか?もしくはそういう状況に『慣れている』のか。

次の返答に困っていた所で、ガラッと窓が開いた。

音につられて俺も少女もそちらを見る。そこには布団を抱えた男――おそらく同い年ぐらいだろう。ツンツンに跳ねた黒髪が特徴的な少年がそこに立っていた。

『………………』

「………………」

「………………」

沈黙するベランダ。そりゃそうだろう。水知らずの他人がいきなりベランダに現れたら誰でも驚く。しかもお姫様だっこしているされている状態だったらなおさらだ。

あ、布団が少年の手から落ちた。

いつまでも続くと思われた沈黙を、白い少女は撃ち破った。

「おなかへったから、おなかいっぱいご飯を食べさせてくれると嬉しいな」

『「いや、意味わかんねーよ」』

見知らぬ少年と心が通じ合った瞬間だった。

 

 

 

「まずは自己紹介をしなくちゃいけないね」

『おう、そうだな』

「……いや、まずは何であんなトコにあんな恰好でいたのかを――」

もうメンドクサいから少女のペースに合わせる事にした俺。名前は前世と変えようと思う。スプリングフィールドとか長くてめんどい。

『先に俺が言うな。名前は神槍(しんやり)トシキ。ファミリネームは東洋系だけどハーフじゃない。純血の英国人だ』

「私の名前はね、インデックスって言うんだよ?」

「誰がどう見ても偽名じゃねーか!大体なんだインデックスって!『目次』かお前は!それとそこの男か女かわからない奴!先に性別を言いやがれ!」

『男です。それと今度俺のコンプレックスである女顔の事をいじりやがったらボコるので覚悟しろ』

「私は見ての通り教会の者です。ここ重要。あ、バチカンの方じゃなくてイギリス政教の方だね」

「ボコるとか意味わかんねーしシスターの方はこっちの質問は無視かよ!?」

『あ、ローブ脱いでいいか?もう暑くて我慢できないんだけど』

「うーん、禁書目録(インデックス)の事なんだけど。あ、魔法名ならDedicatus545だね」

俺は若干、魔法名という言葉にひっかかりを感じたが今は情報収集に徹する事に決めた。

「もしもし?もしもーし?一体ナニ星人と通信中ですかこの電波たちはー?」

聞き耳立てないツンツン頭の少年が小指で耳をほじくっていると、インデックスはガジガジと自分の親指の爪を噛み始めた。

癖、なんだろうか?

そもそも一体どうしてガラステーブルを挟んで、僕たち結婚します的な感じで正座で向かい合ってんだろうと思う。ちなみに俺と少女――改めてインデックスが隣同士で、ツンツン頭の少年があちら側だ。

ってかなんで俺がこんな電波シスターと仲間扱いになってるんだと思う。

……とりあえずローブは脱いでおこう。

「それでね、このインデックスと命の恩人であるこの人におなかいっぱいご飯を食べさせてくれると嬉しいな」

「何でだよ!ここでお前らの好感度上げてどーするよ?変なフラグが立って見知らぬ外国人二人組ルート直行なんて俺ぁ死んでも嫌だからな!!」

「えっと……流行語(スラング)、なの?ゴメンなさい。何を言っているのか分からないかも」

『俺は分かるけどいちいちツッコみに付き合うのがめんどいからパスで』

「ツッコみを根本から否定されたっ!!」

おぉ、意外とノリがいいじゃないかウニ頭くん(今命名)。

「けど、このまま外に出たらドアから散歩で行き倒れるよ?」

「……いや、行き倒れるよ?じゃなくて」

「そしたら最後の力を振り絞ってダイイングメッセージを残すね。君の似顔絵付きで」

「なん……ッ」

「仮に誰かに助け出されたら、そこの部屋に監禁されてこんなにやつれるまで虐め倒されたって言っちゃうかも」

『こんなボロいローブしか着るモノをくれなかったとも言うかもな』

「言うかもなじゃねーよ!ってかローブがボロいのは俺には一切関係ねえだろ!!」

「?」

インデックスが初めて鏡を見た子猫みたく首を傾げる。

……うん、やっぱこの子凄く腹黒いと俺は思うんだ。

やるよ、やってやるよーっ!とウニ頭くんはドカドカ台所へ向かう。

ウニ頭くんがフライパンに野菜を入れて、火で熱し始めた所でこう訊いてきた。

「でさー、何だってお前らはベランダにいた訳?」

「私の意思でいた訳じゃないんだよ?」

「じゃあそっちのお前は何で女の子抱えてベランダにいたんだよ?天から舞い降りたんかお前」

『……似たようなモンかもな』

冗談のつもりでいったであろうウニ頭くんは、フライパンを止めて思わず俺と少女の方を振りかえった。

俺が言う前にインデックスが言った。

「落ちたんだよ。ホントは屋上から屋上へ飛び移るつもりだったんだけど」

屋上?とウニ頭くんは天井を見る。

でも何でインデックスはそんな危険な事をしたんだだろう?と俺は首を傾げる。

ベランダを見ればわかる通りビルとビルの隙間はニメートルぐらいしかない。確かに、走り幅跳びの要領で屋上から屋上からへ跳び移る事もできるとは思うが……。

「でも、八階だぜ?一歩間違えば地獄行きじゃねーか」

「うん、自殺者にはお墓も立てられないもんね」インデックスはよく分からない事を言って、

「けど、仕方なかったんだよ。あの時はああする他に逃げ道がなかったんだし」

『逃げ、道?』

俺は思わず呟いた。不穏な言葉にウニ頭くんも眉をひそめると、インデックスは子供のように「うん」と言って、

 

「追われてたからね」

 

『…………』「…………」

フライパンを熱している音が、ピタリと止んだ。

「ホントはちゃんと跳び移れる筈だったんだけど、飛んでる最中に背中を撃たれてね」

インデックスと名乗る見知らぬ少女は、笑っているみたいだった。

「ありがとね。君があの時抱きかかえてここに着地してくれなかったら、危なかったかも。そっちの君もゴメンね。急にベランダに現れたりして」

自嘲でも皮肉でもなく、ただ二人の少年に対して頬笑みかけるために。

「撃たれたって……」

「うん?ああ、傷なら心配ないよ。この服、一応『防御結界』の役割もあるからね」

『ッ』

「?」

――『防御結界』。

その言葉に思わず俺は眼を見開く。やはりこの世界にも魔法は実在するらしい……この少女の言っている事が正しければ。

ウニ頭くんは何の事かわからず、「防弾チョッキの事か?」とか呟いている。

俺は、改めて少女を見る。やはり白い修道服を着ている事を除けばただの女の子にしか見えない。ついでに言えば魔力も感じない。

ホントに撃たれたのだろうか?何もかも戯言妄想ウソっぱちの方が現実味があると思う。

けれど、

この少女は、確かに屋上から落ちていた事だけは本当なのだ。

もし、仮に、この少女の言う事が全部本当の事だったら、

彼女は一体『誰に』撃たれたのだろう?

この世界に来たばかりの俺には推測する事しかできないが、考える。

追われてたからね、と。

そう言って微笑むインデックスの作る表情の意味を。

おそらく俺もウニ頭くんも、インデックスが一から十まで説明したって半分も理解できないだろう。

だけど、たった一つの現実(リアル)。

屋上から落ちかかっていたという、俺がいなかったら人体より固いアスファルトに叩きつけられていたという現実だけは、胸を締め付けるように理解する事が出来た。

「ごはん」

と、インデックスが凄い嬉しそうな顔でウニ頭くんが作っている野菜炒めを眺めている。

そこで何故かウニ頭くんが物凄いで身もだえてるのが分かった。

「ぁ、あーっ!け、っけどアレだ!そんなにお腹すいてるならこんな残り物ぶっ込んだいかにもまずそうな男料理じゃなくてキチンとファミレス行こう!何なら出前でもいいし!」

「そんなに待てないよ?」

『そこまで気回さなくて大丈夫だぜ?』

「……ぁ、かっ!」

「それに、私たちのために無償で作ってくれたご飯だもん。美味しくない筈がないんだよ?」

インデックスはグーで握ったハシでフライパンの中身をすくって口に運んだ。

 

ぱくぱく。

 

「ほら、やっぱりまずくなんかない」

「……ぁ、そうですか」

 

もぐもぐ。

 

「あれだよね、さりげなく疲労回復のためにすっぱい味付けしてる所が憎いよね」

「げっ!すっぱ!?」『ん?野菜炒めがすっぱい?』

おかしい。一通りウニ頭くんの調理は見ていたが、ドレッシングは使っていなかった。ホントにただ野菜を炒めただけの筈だ。

それなのに……すっぱい?

「君も食べるよね?」

満面の笑みでフライパンを差し出された。……なんだろう、とてつもなく嫌な予感がする。

もしかして、野菜炒めと称した生ゴミをぶち込んだんじゃ……?

俺はギロリとウニ頭くんを睨みつける。それだけで彼は悪戯がバレた子供みたいに体をビクつかせた。

ああ、これ当たりだな。

悟った俺は一層睨みを強くして彼を睨みつける。遂に耐えきれなくなったのか、彼は、

「……ぐ、…ぅ、ぅぅぉぉおおおおおおおぁぁああああああ!」

グバァ!と彼は音速でフライパンを取り上げる。ものすごく不満な顔をするインデックスに、地獄には俺が一人で落ちると彼は心に誓う。

「君もおなかへってるの?」

「……は?」

「そうじゃないなら、おあずけなんかしないで食べさせて欲しいかも。まだ命の恩人の人も食べてないし」

ちょっぴり上目遣いでハシの先をガジガジ噛むインデックスを見て、ウニ頭くんは悟りを開いた。

神様は言う、責任持ってお前が食え。

 

完全に、自業自得だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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