とある魔法の魔導司書(ブックキーパー)   作:神の槍

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突然ですが、作風を少し変えてみたいと思います。

一人称(?)から、神視点モドキに変わりました。


とあるシスターの虚栄笑々(ダミーフェイス)

我らが主人公、神槍トシキとインデックスと名乗る少女はビスケットをガジガジ噛んでいた。神槍は普通にパクパク食べているが、インデックスは小さなビスケットを両手で持っているため、どこかリスみたいな感じがする。

「で、追われてるって。お前一体ナニに追われてる訳?」

地獄から帰って来た上条は、とりあえず一番のネックを聞いてみた。

神槍もそれを知りたかったため、静かにインデックスが答えるのを待っている。

「うん……」ちょっと喉が渇いたような声で、

「何だろうね?薔薇十字(ローゼンクロイツ)か黄金夜明(S:M:)か。その手の集団だとは思うんだけど。名前までは分からないかも。……連中、名前に意味を見出すような人達じゃないから」

「連中?」

上条は神妙に聞く。という事は、相手は集団で組織だ。

うん、と当の追われるインデックスの方がかえって冷静な風に、

 

「魔術結社だよ」

 

魔術?魔法じゃなくて?と尋ねようとした神槍だったが、その前に上条がふざけた調子で言う。

「はぁ。まじゅつって……はぁ。なんじゃそりゃあ!ありえねえっ!!」

「は、え、アレ?あ、あの、日本語がおかしかった、の?マジックだよ、マジックキャバル」

必至にインデックスは理解してもらおうとするが、上条はやはり聞き耳持たないで、

「なに、なーに?それって得体の知れない新興宗教が『教祖サマを信じない人には天罰が下るのでせう』とか言ってお茶飲ませて洗脳したりする危ない機関の事?」

「…………そこはかとなく馬鹿にしてるね?」

「あー」

「…………そこはかとなく馬鹿にしてるね?」

「――。ゴメン、無理だ。魔術は無理だよ。俺も発火能力(パイロキネシス)とか透視能力(クレアボヤンス)とか色々『異能の力』は知ってるけど、魔術は無理だ」

一人、神槍は二人の会話を黙って聞いていた。とにかく今の神槍には分からない事が多すぎる。

なんで魔法じゃなくて魔術とインデックスが言っているのか分からないし、上条の言う発火能力とかいうのもまったく分からない。

そんな訳で、神槍は黙って二人の会話を聞いている事しか出来ないのだ。

「学園都市(こっち)じゃ超能力なんて珍しくもねーんだ。人間の脳なんざ静脈にエスペリン打って首に電極貼り付けて、イヤホンでリズム刻めば誰だって回線開いて『開発』できちまう。一切合財が科学で説明できちまうんじゃ誰だって認めて当然だろ?」

「……よくわかんない」

「当然なの!当然なんだよ当然なんです三段活用!」

「……。じゃあ、魔術は?魔術だって当然だよ?」

むすっと。お前ん家のペットは駄ネコだと言われたように、インデックスはふてくされた。

ここで神槍にも質問が飛んできた。

「ってかお前は一体なんなんだよ?見たトコ学園都市の人間じゃないみたいだし、それなのに女の子一人抱えて7階の高さまでジャンプしたらしいし。よく考えたらお前の方がわかんない事だらけじゃねーか」

『うーん』と神槍は困ったように唸って、難しい顔で、

『二人にそれぞれ質問するけど。まずインデックス、お前の言ってる『魔術』は『魔法』とどう違うんだ?』

インデックスは味方が現れた!とでも言うように顔を輝かせて、得意げに、

「要は言い方の問題かも。魔術って呼ぶ人もいるし、魔法って呼ぶ人もいるんだよ。ってどーしてそんな事聞くの?」

そりゃ、と神槍は当たり前のように。そんな事もわかんなかったの?と言っているように、

 

『俺が魔法使いだからだよ』

 

「げっ!やっぱお前もエセ魔術師の仲間なのかよ」

『違うっての。俺は魔法使いであって魔術師じゃねえ』

「そんなの一緒だろ?インデックスも言ってたじゃねーか。なぁお前さっきそう言っ――?」

上条は最後まで言えなかった。さっきまでふてくされていたインデックスが、まるで神槍と距離を取るようにして身構えていたからだ。

そこにさっきまでの彼女はいなかった。いるのはただ、『敵』から逃げようとする『餌』だけだ。

『ん?どうしたんだお前?』

神槍が尋ねると、彼女はより一層身構えた。上条は訳が分からずどうしようか迷っている最中だ。

ここでようやく、神槍は何故彼女が自分をこんなにも恐れているのか分かった。

彼女は今までずっと魔術師から逃げてきた……らしい。おそらく、一か月やそこらの話ではないだろう。

それだけ長期間魔術師から逃げていれば、敵意があろうとなかろうと恐怖の対象になるのは仕方がない。

だからこそ、神槍は落ち着かせるようなゆっくりとした口調で、

『あー、とりあえず落ち着けインデックス。俺はお前を襲ったりしねーよ。俺をどこぞの魔術結社の連中と一緒にすんな』

「…………」インデックスはたっぷり時間をかけて、

「………………ホント?私を、私の中身を狙ったりしない?」

『中身?それがどんなモンか知らねーけど。……約束する、俺はお前を襲ったりしない。ずっとお前の味方で居続ける』

神槍は何の躊躇もなく、戸惑いもなくそう言い切った。

上条はその様子をただ呆然と眺めているだけだった。眺めている事しか、できなかった。

神槍の纏う雰囲気が一瞬だけ変わったのが分かったからだ。どこにでもいそうな『一般人』から、自分には想像もつかないような戦いを潜りぬけてきた『何か』のソレへと。

インデックスもそれを感じ取ったのか、身構えるのを止め、神槍の隣へ戻った。その表情はさきほどと同じ、ただの女の子が笑っているようにしか見えなかった。

「…………初めてかも。こんな人……」

本当に嬉しそうに笑いながら、彼女は小さく、本当に小さく呟いた。だからその呟きは誰にも届く事なく、虚空へと消えて行った。

神槍は彼女の様子が戻ったのを確認すると、今度は上条に質問する。

『お前さっき超能力とか言ってたよな?それって科学的なモノなのか?具体的にはどんな『力』が存在するんだ?』

「え?あ、ああ」上条はやっと立ち直り説明していく。

「さっきも言ったけど、超能力はここ――学園都市じゃ珍しくもねーんだ。『ある例外』を除けばここで暮らしてる学生は『異能の力』に目覚めてる。炎を掌から出せる奴もいるし、風を操れる奴もいる。中には十億ボルトの電撃を撃てる奴なんかもいる」

『凄いな。十億ボルトか……雷と一緒くらいじゃねーか』

と、今まで話の蚊帳の外にいたインデックスが乱入してきた。

「魔術はあるもん!」

『…………』

「…………」

どうにか話を自分の専門分野にもっていきたいらしい。まぁ確かにツラいものがあるよな、話についていけないって。

上条が流石に可哀想になったのか、嫌々渋々切り出した。

「まぁ良いけど。で、何でソイツらがお前を狙ってるって――」

「魔術はあるもん」

「…………」

「魔術はあるもん!」

どうやら意地でも認めて欲しいみたいだ。視線で神槍に援護を求めているが、彼は無視した。いくらなんでもいきなりベランダに現われてボク魔術師です、と言っても信じてくれないと思う。

「じゃ、じゃあ魔術って何なんだよ。手から炎が出るのか、ウチの時間割り(カリキュラム)受けなくても出せんのかぁ?何ならそこで一丁見せてくれよ。そしたら信じる事ができるかもしんないから」

「魔力がないから、私には使えないの」

「…………」

『…………』

カメラがあると気が散るのでスプーンを曲げられません、というダメ能力者を見た気がした。

「そうだ!としきも魔術師だから何かこの人に見せてあげるかも!そうすれば、ばんじかいけつなんだよ!」

インデックスにすがりつかれる神槍。

無駄だと思うけどな、と呟きながら彼は右手の人差し指を立てて、

火よ灯れ(アールデスカット)

「えっ!?」

突如現れた人差し指の先に灯っている炎を見て、上条はギョッとしたが、段々と胡散臭いインチキを見ているような顔になった。

「発火能力者だろ、お前」

やっぱりなと、心の中で呟いて、神槍はインデックスに言う。

『インデックス、いくら何でもいきなり魔法を見せても信じてもらえないと思うぜ?超能力なんて言う逃げ場所があるなら尚更な』

「………けど、魔術はあるもん」

ハァ、と上条はため息をついた。

「じゃあ、“仮に”魔術なんてモノがあるとして、」

「“仮に”?」

「あるとして、」上条は無視して続けた。

「お前がそんな連中に狙われてる理由ってのは何なんだよ?その服装となんか関係あったりすんの?」

『それは俺も気になってた』

上条と神槍が言っているのは、インデックスの着ている純白のシルク地に金糸の刺繍という超豪華な修道服の事だ。

「……私は、禁書目録(インデックス)だから」

『「は?」』

「私の持ってる、一〇万三〇〇〇冊の魔道書。きっと、それが連中の狙いだと思う」

……………………………………………………………………………。

「……まーたまた、よく分からない話になってきたんですが」

「だから、何で説明していく度にやる気が死んでいくの?もしかして飽きっぽい人?」

「えっと、整理するけど。その『魔道書』ってのが何なのかよく分からないけど、とにかくそれって『本』なんだよな?国語辞典みたいな」

「うん。エイボンの書、ソロモンの小さな鍵、ネームレス、死者の書。代表的なのはこういうんだけど」

(どれもこれも聞いた事ない魔道書ばっかだ。やっぱ前いた世界とは違うみたいだな)

神槍が眉をひそめていると、上条は言う。

「いや、本の中身はどうでもいいんだ」

上条が言う前に、神槍が言った。

『一〇万冊って――どこに?』

最初は空間魔法でも使って、創り出した空間の中に仕舞っているのかと思ったが、彼女には魔力がない。つまり魔法が使えない

のである。その可能性はあり得ない。

それに一〇万冊なんて言ったら図書館丸々レベルだ。となると、

「どっかの倉庫の鍵でも持ってるって意味なのか?」

後は上条の言ったその可能性しかなくなる。しかし、インデックスはふるふると首を横に振って、

「ちゃんと一〇万三〇〇〇冊、一冊残らず持ってきてるよ?」

は?と神槍と上条は眉をひそめて、

「……バカには見えない本とか言うんじゃねーだろーな?」

「バカじゃなくても見えないよ。勝手に見られると意味がないもの」

インデックスの言葉は何故か飄々としていて、上条はバカにされた気分になってくる。

神槍は神槍で、理解できずに首をかしげるばかりだ。

ここで遂に上条は、

「………………うわぁ」

今まで我慢してきたが、これ以上は限界だと絶句した。

ここまでくると誰かに追われているというのも嘘なんじゃないかと思えてくる上条。

「……超能力は信じるのに、魔術は信じないなんて変な話」むすっと、インデックスは口を尖らせて、

「そんなに超能力って素晴らしいの?ちょっと特別な力を持ってるからって、人を小馬鹿にして良い筈がないんだよ」

…………。

「ま、そりゃそーだわな」上条は小さく息をつき、

「そりゃそうだ。お前の言う通りだよ。こんな一発芸を持ってる程度で、誰かの上に立てるだなんて考え方は間違ってる」

上条は自分の右手に視線を落とした。

そこからは炎は雷もでない。閃光も爆音も起きないし、手首に変な模様が浮かび上がる訳でもない。

だが、それでも上条の右手はあらゆる『異能の力』を無力化させる。力に善悪は問わず、神話に出てくる神様の奇跡(システム)さえ、問答無用で。

「ま、この街に住んでる人間ってな能力持ってる事が一個の心の支えになってっから、その辺は大目に見て欲しいかな。ってか、俺も能力者の一人なんだけど」

『へー、そうなのか。具体的には何が出来るんだ?」

「……えっと。何がって言うか」上条はちょっと戸惑った。

「えっとな、この右手。あ、ちなみに俺のはドーピングじゃなくて生まれた時からなんだけど」

「うん」

「この右手で触ると……それが異能の力なら、原爆級の火炎だろうが戦略級の超電磁砲(レールガン )だろうが、神の奇跡だって打ち消せます、はい」

『「…………………………………えー?」』

「……つかテメェら何だその幸運を呼ぶミラクルストーンの通販見てるみてーな反応は?」

「だってー、神様の名前も知らない人にー、神様の奇跡だって打ち消せますとか言われてもー」

『俺も似た様な能力は知ってっけど、そんなのは超希少なんだぜ?それを偶然落ちたベランダの住人が持ってるなんていう偶然は信じられねーよ』

「……くっ。む、ムカつく。こんな、魔法はあるけどアナタには見せられませんなんて言うインチキ魔法少女&発火能力者のくせにボク魔法使いなんて言う男に小馬鹿にされた事がここまでムカつくとは……」

と、上条当麻タマシイの呟きにインデックスもカチンときたみたいで、

「い、インチキじゃないもん!ちゃんと魔術はあるんだもん!」

「じゃあなんか見せてみろやハロウィン野郎!ソイツを右手でぶち抜きゃ俺の幻想殺し(イマジンブレイカー)も信じるしかねーんだろ、このファンタジー野郎!」

「いいもん、見せる!」むきーっ!という感じでインデックスは両手を振りあげ、

「これっ!この服!これは『歩く教会』っていう極上の防御結界なんだからっ!」

インデックスが両手を広げて強調しているのは、例のティーカップみたいな修道服だ。

「何だよ『歩く教会』って、もう意味わかんねーよ!さっきから聞いてりゃ禁書目録だのあーるなんとかだの訳の分からない事言いやがって、この不親切野郎!『説明』ってな何も分からない人に向かって噛み砕いて教えるモノなんだ、そこんトコ分かってんのか!」

「なっ……ちっとも理解しようと思わない人が言う台詞!?」インデックスは両手をブンブン振り回して、

「だっだら論より証拠!ほら、台所にある包丁で私のお腹を刺してみる!」

『はっ!?ちょ、インデックス!?』

流石に危険を感じた神槍が止めに入るが、既にヒートアップしている二人は誰にも止められない。

「じゃあ刺してみる!……なんて言う訳ねーだろ!火サスなんて展開は俺ぁ死んでも嫌だからな!」

「あ、信じてないね」インデックスはハァハァと肩を上下させ、

「これは『教会』として必要最低限な要素だけ詰め込んだ『服のカタチをした教会』なんだから。布地の織り方、糸の縫い方、刺繍の織り方まで全てが計算されてるの。包丁ぐらいじゃ傷一つつかないんだよ?」

「つかないんだよって……ハイそうですかじゃあ刺してみますねなんて言う馬鹿いるか。少年犯罪推進野郎かお前は」

「とことん馬鹿にして……。これはトリノ聖骸布――神様殺しの槍(ロンギヌスのやり)に貫かれた聖人を包み込んだ布地を正確にコピーしたモノだから、強度は絶対なんだよ?物理・魔術を問わず全ての攻撃を受け流し、吸収しちゃうんだから。……さっき、背中を撃たれたって言ったけど、『歩く教会』がなかったら風穴が空いてたところだったんだよ。そこんとこ分かって

る?」

あーあ、こりゃ止まんないな二人とも。もう好きにしやがれと丸投げした神槍は、黙ってジト目の上条の言葉を聞く。

「……ふぅん。つまりアレだ。それが本っっっ当に『異能の力』だってんなら、俺の右手が触れてだけで木端微塵、って訳だな?」

「君の力が本当な・ら・ね?うっふっふーん」

上等だゴルァ!!と上条はインデックスの肩をがっちり掴んでみる。

と、確かに雲を掴むような――柔らかいスポンジに衝撃を吸収されるような変な感覚がした。

『ん?仮に二人の話が全部本当だとしたら―――あれ?』

今まで傍観に徹していた神槍に、一つの疑問が浮かんだ。

もし『歩く教会』が『異能の力』で織りあげられてるとしたら?

その『異能の力』を打ち消してしまうとしたら?

つまり服がバラバラに?

上条もその事に気がついたようで、

「あれぇぇぇえええええええええええええーーーー!?」

あまりに唐突な大人の階段の予感に彼は反射的に絶叫する、が……。

………………。

………………、

……………?

「――――ええええええ、え……ってアレ?」

起きない。何にも起きない。

ふぅ~、一応ローブを用意していた神槍だったが、無駄だったなと一息つく。

「ほらほら何が幻想殺しなんだよ。べっつに何にも起きないんだけど?」

ふっふーん、という感じで両手を腰に当てて小さな胸を大きく張るインデックスだったが、

 

次の瞬間、プレゼントのリボンをほどくようにインデックスの衣服がストンと落ちた。

 

修道服の布地を縫っている糸という糸が綺麗に解けて、本当にただの布地に逆戻りしている。

一枚布の、帽子のようなフードだけは服から独立していたせいか無事で、頭の部分にそれだけがのっかていると逆に切ない気持ちになってくる。

はぁ、と声にもならないため息をついてローブをインデックスにかける神槍。

直後、ふっふーんという感じで両手を腰に当てて小さな胸を大きく張ったまま凍りつく少女。

詰まる所、見知らぬ少年二人に真っ裸を見られた少女だった。

 

 

 

 

 

インデックスと名乗る女の子は怒ると人に噛み付く癖があるらしい。

「痛ったー……。あちこち噛みつきやがって、 合宿ん時の蚊かお前は?」

「……………」

返事はない。ただのしかばねのようだ。

素っ裸にローブと毛布を巻いただけのインデックスは、女の子座りのまま解けた修道服を安全ピンでどうにか復活させようと(無駄な)努力をしている。

どーん、という効果音が部屋を支配していた。

「つーか何でトシキには噛みつかねえんだよ?アイツもお前の裸見ただろうが」

「トシキはローブ被せてくれたもん!ザ・英国紳士なんだよ!」

「出会って数分で格差が生まれてる……。ってかトシキ、お前やけに冷静だったよな」

『いや、お子様の裸に興奮なんかする訳ないだろ?ロリコニアの住人じゃあるまいし――って何故に戦闘態勢に移行してんのインデックスさんッ!?』

直後、キュピーン!とインデックスの両目が光り、神槍に飛びかかった。

 

 

 

 

『い、痛い……。これマジで痛い…。当麻、今ならお前のつらさが分かった気がする』

「おおっ!分かってくれるのか俺の気持ち(不幸)を!」

ガシッと力強く握手する少年二人。傷の舐め合いで友情が生まれた瞬間だった。

「できた」

ぐしぐし鼻を鳴らしながら、インデックスは地獄の内職で何とかカタチを取り戻した真っ白な修道服を広げて見せた。

……何十本もの安全ピンがギラギラ光る修道服を。

「………………………………………………………………………………………………………………………………(汗)」

「えっと、着るのか?」

「………………………………………………………………………………………………………………………………(黙)」

『着るのか、そのアイアンメイデン?』

「………………………………………………………………………………………………………………………………(涙)」

「日本語では針のむしろと言う」

分かったーッ!と上条は全力で床に頭突きして謝る。

「着る!シスターだし!!」

よく分からない叫びと共に、インデックスはイモ虫みたいに丸めた布団の中でもぞもぞと着替えを始めた。ぴょこん、と毛布から唯一出ている顔だけが爆弾みたいに真っ赤だった。

「……あー、なんかその着替えのプールの授業を思い出すなー」

『確かにな。こんな空気だった気がする』

「……何で見てるのかな?せめてあっち向いて欲しいかも」

「あんだよ別に良いじゃんよ。さっきと違ってエロくねーだろ着替えなんて」

『そもそもここからじゃ何にも見えないし』

「………………………………………………………………………………………………………………………………」

インデックスはもう色々と諦める事にした。毛布の中に意識を集中しているせいか、ローブとフードがぽてんとズリ落ちても全然気づいていない。

やや現実逃避を感じた上条の頭に、ようやく『夏休みの補習』という言葉が浮かんできた。

「ぅわっ!そーだ補習だ補習!」上条は携帯電話の時計を眺めて、

「えっと、あー……俺これから学校いかなきゃなんないけど、お前らどーすんの?ここに残るならカギ渡すけど?」

「……良い、出てく」

どーんという効果音をひきずったままインデックスはすくっと立ち上がった。幽霊のように上条と神槍の間をすり抜けていく。

『俺も出てくか』

続いて、神槍も立ち上がりインデックスを追うようにして玄関へ向かう。

二人ともフードとローブ、それぞれ忘れものをしているのだが気づいてさえもいない。上条はそれに気づいているのだが、下手に触るとまた何か壊してしまいそうで怖い。

「あっ、あー……」

「うん?違うんだよ」とインデックスは振り返って、

「いつまでもここにいると、連中ここまできそうだし。君だって部屋ごと爆破されたくはないよね?」

サラリと答えるインデックスに上条は絶句する。神槍はただ眉をひそめながらインデックスの背中を追うだけだ。

のろのろと玄関へ向かう二人を上条は慌てて追いかける。せめて何かできないかとサイフの中を確かめてみれば残金は三ニ〇円。それでもとにかく二人を引きとめようと勢いよく玄関を出ようとした所でドア枠に足の小指が音速で直撃した。

「ばっ、みゃ!みゃああ!!」

片足を押さえて奇声を上げる上条に、ビクンと二人が振りかえる。あまりに激痛に大暴れしようとした上条のポケットからスルリと携帯電話が滑り落ちた。

あっ、と気づいた時には固い床に激突した液晶画面がビキリと致命的な音を立てる。

「ぅ、ぅぅぅぅぅ!ふ、不幸だ」

『不幸っていうよりドジなだけじゃねーか』

「けど、幻想殺しっていうのがホントにあるなら、仕方がないかもしれないね」

「…………どゆことでせう?」

「うん、こういう魔術の世界のお話なんて君はきっと信じないと思うけど」インデックスはくすくすと笑って、

「神様のご加護とか、運命の赤い糸とか。そういうものがあったとしたら、君の右手は“そういうもの”もまとめて消してしまってるんだと思うよ?」

インデックスは安全ピンだらけの修道服をひらひらさせながら、『歩く教会』にあった力も神の恵みだからね、と言った。

「待てよ。幸運だの不幸だのって言葉は、確率と統計のお話だぜ?んなのある訳……ッ!」

言った瞬間、ドアノブに触れていた上条の指に壮絶な静電気が襲いかかった。な!?と反射的に体がビクンと震えると、筋肉が変な風に動いたのかいきなり右足のふくらはぎが“つった”。

~~ッ!と悶絶する事およそ六〇〇秒。

「………………………………………………………………………………………………………………………あの、しすたーさん?」

「なに?」

「………………………………………………………………………………………………………………………………ご説明を」

インデックスは当然のように、

「君の右手の話が本当ならね、その右手があるだけの『幸運』ってチカラもどんどん消してしまっているんだと思うよ?」

「………………………………………………………………………………………………………………………つまり、あれですか」

『お前の『右手』が空気に触れてるだけで、バンバン不幸になっていくって訳だな♪』

「ぎゃあぁぁぁああああああ!!ふ、不幸だぁぁぁああああああああああ!!」

にっこり笑顔で止めを刺した神槍に、思わず涙する上条だったが、ようやく話がズレてる事に気がついた。

「ち、違くて!お前ら、ここを出てどっか行くアテでもあんのかよ?事情はわかんねーけど、ウチにいればいいじゃねーか」

「ここにいると『敵』が来るからね」

「何で断言できんだよ?目立った行動しないで大人しく部屋ん中にいりゃ問題ねーだろ」

「そうでもないんだよ?この服、『歩く教会』は魔力で動いてるからね。つまり簡単に言っちゃえば、敵は『歩く教会』の魔力を元に探知(サーチ)かけてるみたいなんだよね」

「けどよ、俺の右手で『歩く教会』ってのはぶっ壊れちまったんだろ?だったら発信機みてーな機能もなくなっちまってんじゃねーか?」

『だとしても『歩く教会が壊れた』って情報は伝わっちまう。そうだとしたら『敵』は迷わず打ってでると思うぜ?』

「待てよ、だったらなおさら放っとけねーだろ。『誰か』が追ってきてるって分かってんのにお前らを外に放りだせるかよ」

インデックスはきょとんとする。

本当に、本当に。その顔だけ見ているとただの女の子にしか見えない。

 

「……じゃあ。私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?」

 

にっこり笑顔だった。

それはあまりにも辛そうな笑顔で、上条は一瞬にして言葉の全てを失ってしまった。

インデックスは優しい言葉を使って暗にこう言っていた。

こっちにくんな。

だが、そんな本人の意思を無視して声を上げる赤髪の少年がいた。

 

『良いぜ。地獄だろうが何だろうが、ついてってやるよ。お姫様?』

 

ひどく気軽に。場違いなほど楽しそうな笑みを持って、神槍トシキは白い少女にそう言った。

「な、んで……?」

言われたインデックスの方が混乱してしまう。

思えば、この少年はいつもそうだった。水知らずの自分を助けてベランダに降り立ち、一〇万三〇〇〇冊の魔道書を持っていると知った後も『あの約束』をしてくれた。そして今も、『約束』を守ろうとしている。

『なんでって……さっき言ったばっかだろ?“俺はお前の味方で居続ける”って。なのにハイもうさようなら、なんて出来る訳ねーだろ』

「………………………うん!」

言葉はいらなかった。

インデックスは分かってしまった。この少年はきっと何を言っても『約束』を守ろうとするだろうと。

なら、わざわざ拒絶する必要はない。

拒絶しなくても、いいのだから。

「お前は……。いや、もういいや」と上条は言葉を区切り、

「どこに行くつもりなんだ?」

「うーん。とりあえずは日本にあるロンドンの教会に行くつもり」

「教会か。それなら学園都市の外に行った方がいいかもな」

『「がくえんとし?」』

神槍とインデックスの声がピタリと重なる。

揃いも揃ってどんだけ世間知らずなんだと、ある意味感心しながら上条は言う。

「そ。東京の西地区の開発が遅れてる辺りを一気に買いとって作った『街』だよ。何十もの大学に何百もの小中高校がひしめき合ってる『学生の街』だ」

上条はため息をついて、

「街の住人の八割は学生だし、マンションに見えるのはみんな学生寮だよ」

勉強のみならず、能力や肉体までも開発する『裏の顔』もある訳だが。

「……街の様子がおかしいのもそのせいだ。生ゴミの自動処理(オートメーション)とか実用レベルの風力発電とか、ドラム缶みたいな掃除ロボとか、そーいう大学の実験品がそのまま街に溢れてやがんのさ。おかげで二〇年ばかり文明レベルが先に進んじまってる訳だな」

『……まさに『科学の街』って訳か。道理で超能力なんて馬鹿げたモンが一般化学として認識されてる訳だな』

と、唐突にインデックスが興奮した声を上げた。

「あっ、あれはもしや技術大国日本が作り出した電動使い魔かも!としきとしき、早く見に行くんだよ!」

『えっ、マジで?よし、捕獲して仕組みを解析しちゃおうぜえー!』

田舎者二人組は、階段のとこにちらっと見えた掃除ロボを見つけて、それを追いかけて行ってしまった。

「…………あー。何だかなぁ」

上条はインデックスのフードと、神槍のボロっちいローブが残された部屋のドアを見てから、通路の先を見た。もうあの二人の姿はどこにもない。別れも涙もあったもんじゃない。

なんていうか、ああいう姿を見ているとアイツら世界が滅んでもなんだかんだで生き残りそうだよなぁ、などと何の根拠もなく思ってしまうのだった。

 




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