とある魔法の魔導司書(ブックキーパー)   作:神の槍

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とある目録の秘密告白(シクレプレイス)

夜、表通りから消防車と救急車のサイレンが響き渡り――通り過ぎた。

学生寮はほぼ無人だったらしいが、火災報知機を鳴らしたせいで、消防車と野次馬で無人の学生寮はあっという間に人だらけになったのだ。

あの後、どうにか炎の魔術師をぶっ倒した上条は、部屋にあったフードの機能を右手で破壊してから持ち出した。魔力を生かしたまま適当な所に捨てれば追っての目をごまかせるのだが、インデックスがガンなに持っていくと言い張ったからだ。

上条当麻は路地裏で舌打ちした。血まみれの神槍も今だ抱えたままで――この傷口を、こんな汚い地面に触れさせる訳にはいかなかった。インデックスは今にも泣き出しそうな顔で、上条の背中に乗っている神槍を見ている。

神槍を救急車に乗せる事はできない。

学園都市は基本的に『外の人間』を嫌う傾向がある。そのために街の周りを壁で覆い、三基の衛星が常に監視の目を光らせるほどの徹底ぶりだ。コンビニに入るトラック一台にしたって、専用のIDがなければ話にならない。

そんな所に、IDを持たない部外者(神槍とインデックス)が入院したとなれば、あっという間に情報は漏れる。

そして、敵は『組織』だ。

治療を受けている最中、最悪、手術中に部外者に狙われたらもう防御手段なんて何もない。

「…………けど、だからってこのままほっとく訳にもいかねえんだよな」

『だい、じょうぶだ…ぜ?魔力で組織を、へい、さ…してるから……。血さえ…………止める事ができれば……』

「トシキ、お前意識が戻ったのか!?」

「喋っちゃダメだよ、としき!」

神槍の口調は弱々しく、そう一言だけ言った後にまた気を失ってしまった。

彼の怪我は包帯を巻いて済む素人レベルを越えている。ケンカ慣れしている上条は『人には言えない傷』は大抵自分で応急処置してしまう。そんな上条でさえ思わず取り乱しそうになるぐらい、彼の背中の傷は、酷い。

未だに信じられないけど、もはや信じる他に道がない。

「おい、インデックス!」上条は隣にいるインデックスを見て、

「お前の一〇万三〇〇〇冊の中に、傷を治すような魔術はねーのかよ?」

確か、インデックス自身には魔力がないから使う事ができない。神槍自身もこの状態では無理だ。けど、『異能の力』を扱う上条がインデックスから知識を聞きだせばあるいは――。

「あるけど」

一瞬呼びかけた上条は、『けど』という言葉が気にかかって、

「君には……無理」インデックスは本当に言いにくそうに、

「たとえ、私が術式を教えて君が完全にそれを真似した所で……君の能力(チカラ)がきっと邪魔をする」

上条は愕然と自分の右手を見た。

幻想殺し。そこに宿る力は、確かにステイルの炎を完全に打ち消していた。なら、同じように神槍の回復魔術も打ち消してしまう恐れがある。

「く、そ!またかよ……またこの右手が悪いのかよ……ッ!」

ならば、電話を使って誰かを呼べばいい。青髪ピアスか、隣人の猫語男か。こういう『事件』に巻き込んでも心配いらないタフな連中の顔がいくつか浮かぶ。

「…………?」インデックスはちょっとだけ黙って、

「あ、ううん。そういう意味じゃないよ」

「?」

「君の右手じゃなくて、『超能力者』っていうのがもうダメなの」上条は背中から熱帯夜なのに、真冬の雪山のような感触を感じながら、

「魔術っていうのは、君たち(エスパー)みたいに『才能ある人間』が使うためのモノじゃないんだよ。『才能ない人間』が、それでも『才能ある人間』と同じ事をしたいからって、生み出した術式と儀式の名前が……魔術」

こんな時にナニ説明してんだ、と上条が叫ぼうとした所で、

「分からない?“『才能ある人間』と『才能ない人間』では、回路が違うの”。『才能ある人間』では『才能ない人間』のために作られた魔術を使う事は…………できない」

「なっ……」

上条は絶句した。確かに上条たち『超能力者』は薬や電極を使い、“普通の人間とは違う脳の回路を無理矢理に拡張している”。体の作りが違うと言われれば、“確かに違うのだ”。

だけど、信じられなかった。信じたく、なかった。

学園都市には二三〇万もの学生が住んでいる。しかもその全てが能力開発の『時間割り(カリキュラム)』を受けているのだ。

つまり。この街にいる人間では、神槍を唯一救える『魔術』を使う事ができない。

目の前に人を救う方法があるのに、誰にも彼を救う事が、できない。

「ち、くしょう……」上条は犬歯を剥き出しにして、

「そんなのって、あるか。そんなのってあるかよ!ちくしょう、何なんだよ!何で、こんな……ッ!」

神槍の震えが酷い。インデックスもそれを感じ取ったのか、としき!と叫ぶが返ってくるのは浅い呼吸音だけだ。

上条が一番耐えられなかったのは、“自分の無能のツケが彼へ行く所だった”。

この街に住む二三〇万もの学生には魔術を使えない。というのは一番初めに叩きつけられた『ルール』なのだ。

「…………?」

と、上条は自分で思った事に、自分で違和感を覚えた。

 

“学生には?”

 

「おい、確か魔術ってのは『才能ない』一般人なら誰でも使えるんだったな?」

「え?うん」

「さらに『魔術の才能がないとダメ』なんてオチはつかねーだろうな?」

「大丈夫だけど。方法と準備さえできれば、あの程度中学生だってできると思う」インデックスはちょっと考えて、

「確かに手順を踏み間違えれば脳内回路と神経回線の全てを焼き切る事になるけど。私の名は一〇万三〇〇〇冊(インデックス)だから、へいき。問題ない」

上条は、笑った。

確かに、学園都市に住む二三〇万もの学生は、みんな何らかの超能力を開発されている。

だが、逆に言えば、超能力を開発する側の――教師はただの人間のはずだ。

「…………あの先生、この時間でもう眠ってるなんて言わねーだろうな」

上条当麻は一人の教師の顔を思い浮かべる。

クラスの担任、身長一三五センチ、教師のくせに赤いランドセルがよく似合う一人の先生、月詠小萌(つくよみこもえ)の顔を。

 

 

 

 

神槍(しんやり)トシキは、喉の渇きと体の熱で目が覚めた。

「としき?」

何だか古びた木造アパートの一室っぽいなぁ、と布団の上で思ったところで、顔を覗き込むようにしてインデックスが視界に入って来た。

『インデックス?ここって一体――』

みなまで言えなかった。彼女が突然神槍に抱きついてきたからだ。いや、神槍は寝たままなので覆いかぶさって来た、と言った方が正しいか。

『いっ、インデックス?どうしたんだお前?魔術師はどうなって――ん?』

ここでようやく背中の傷が消えている事に気が付いた。背中に手を回して確認してみたが、本当に綺麗さっぱり消えている。傷痕すら残っていない。

ますます混乱したが、インデックスは神槍の胸の上でひっく、ぐずっと嗚咽を漏らすだけでとても事情を聞ける雰囲気ではなかった。さらに見ると、その小さな肩が震えているのがわかる。

『?』

いよいよ本当に分からなくなってきた。記憶を辿ってみても、上条の背中で一瞬意識が戻ってまたすぐに気を失った所までしか思い出せない。

「おっ、やっと起きたかトシキ」

また新たな影が視界に入って来た。ツンツン頭が印象的な少年、上条当麻だ。桶を持っている所を見ると、水を汲んできたのかもしれない。

彼はインデックスの反対側に座ると、

「あれから大変だったんだぜ?お前の傷を回復魔術で治すは、そのために先生の家に転がりこむは」

先生?と神槍は首を傾げる。

確かにあの重症を一日で治すとなると、何らかの魔術を使ったんだろうとは思ったが、“先生”という単語の意味がわからない。

それから上条に大まかな説明をして貰った。その間、ずっとインデックスは神槍の上で小刻みに震えていた。

 

 

 

『あー、その。何だ、ほらっ。俺もうピンピンしてるし大丈夫だって!……なんかダルいけど』

説明を聞いて、事情は理解した。この街の学生に魔術は使えない事。なら能力開発を受けていない人――教師である月詠小萌にインデックスの頭から引っ張り出した回復魔術に協力して貰った事。傷は塞がっても、体力の回復には時間がかかる事。

……神槍が眠っている間、インデックスが付きっきりで看病してくれた事。

「ひっく、心配したもん」

『えーと――』

「心配したもん!」

今まで押しつけていた布団から顔を上げ、神槍に向かって叫ぶインデックス。その顔は涙を流したせいか頬は桜色に上汽しており、目は真っ赤に腫れていた。

「心配、したもん」

少女はもう一度、重ねるように言った。布団に寝ている神槍の体を、抱き枕のようにして一層強く抱きしめる。

『……ごめん』

神槍は自然と謝った。どうにか誤魔化そうとしたさっきまでの自分を恥ずかしく思った。

『……そういや、その小萌先生って人はどこにいるんだ?一言お礼が言いたいんだけど』

「ああ、小萌先生ならもうすぐ買出しから帰ってくると思うぜ?」

「今帰ったですー」

上条が言った直後、玄関のドアが開いて、部屋に小さな少女が入って来た。一三五センチぐらいの身長に、幼い顔つき。歳は……十二歳くらい?

どう見ても『先生』という単語には当てはまらない人物を見て、神槍はごく自然に、上条に疑問をぶつけた。

『その小萌先生っていう人の娘さんか?』

「え。……あー、いや。そうじゃなくて」

『それじゃあ、親戚の子供を預かってるとか?』

……あれ?なんか正体不明の少女(というより幼女?)がプルプル震えてるんだけど……と神槍が不思議そうにその様子を見ていると、幼女は突然声を張り上げて、

「私は大人ですゥゥうううううううううううううううーーッッッ!!」

ボロい木造建築アパートに、ロリボイスが響き渡った。

 

 

 

 

 

どうやらさっきの幼女が小萌先生本人だったらしい。

あれからたっぷりお説教をご教授した神槍は、まだ体が本調子ではないためまた布団に戻った。

インデックスいわく、三日もすれば完全に回復するらしい。

それまでは布団の上で生活しなきゃいけないのか……、とだだっこ少年神槍トシキは憂鬱な気分になっていたが、インデックスの健診的な看病(という名の羞恥プレイ)のせいで暇だなぁ~なんて思う時間は、一時もなかった。

上条は上条で、普段の不幸に対する愚痴の吐き口にされて色々と聞かされた。

と、そんな楽しい時間も終わりを告げ、小萌先生からの質問タイムに突入していた。

ちなみに血で汚れてしまったインデックスの修道服は、今洗濯してるらしく、彼女は小萌先生のパジャマを着ている。

「上条ちゃん、結局この子達は上条ちゃんの何様なんです?」

「妹&兄弟」

「大嘘にもほどがあるですモロ銀髪碧眼の外国少女と赤髪黒眼の英国人です!」

「義理と腹違いなんです」

「……変態さんです?」

「ジョークです!分かってるよ義理はマナー違反で実はルール違反ですよ!それと上条さんにはボーイズなラブの気は一切ありません!」

「上条ちゃん」

と、いきなり先生モードの口調で言い直された。

上条は黙りこむ。小萌先生が事情を聞きたがるのも無理はない。得体の知れない外国人を連れ込んで、しかも片方の背中には明らかに事件性を漂わせる刀傷、挙句の果てに『魔術』などという訳が分からないものの肩棒を担がされたのだ。

それこそ、今この瞬間まで何も聞かれなかった方が不自然というモノだろう。

「先生、一つだけ聞いていいですか?」

「ですー?」

「事情を聞きたいのは、この事を警備員(アンチスキル)や学園都市の理事会へ伝えるためですか?」

です、とあっさり小萌先生は首を縦に振った。

「上条ちゃんたちが一体どんな問題に巻き込まれてるか分からないですけど」小萌先生はにっこり笑顔で、

「それが学園都市の中で起きた以上、解決するのは私たち教師の役目です。子供の責任を取るのが大人の義務です、上条ちゃん達が危ない橋を渡っていると知って、黙っているほど先生は子供ではないのです」

月詠小萌はそう言った。

何の能力もなく、何の腕力もなく、何の責任もないのに。

ただ真っ直ぐに、あるべき一刀を通す名刀のような『正しさ』で、言った。

…………この人には敵わないと、上条は口の中だけで呟いた。

だからこそ、

「先生が赤の他人だったら遠慮なく巻き込んでるけど、先生には『魔術』の借りがあるんで巻き込みたくないんです」

上条は真っ直ぐと告げた。

もう、無償で誰かの楯になるような人間が、目の前で傷つく所なんて、見たくなかった。

「むぅ。何気にかっくいー台詞を吐いてごまかそうとしたって先生は許さないんですよー?」

「……?けど先生、いきなり立ち上がったりしてどこへ……?」

「執行猶予です。先生スーパー行ってご飯のお買いものしてくるです。上条ちゃんはそれまでに何をどう話すべきか、きっかりがっちり整理しておくんですよ?それと、」

「それと?」

「先生、お買いものに夢中になってると忘れるかもしれません。帰って来たらズルしないで上条ちゃんから話してくれないと駄目なんですからねー?」

そう言った小萌先生は、笑っていたと思う。

 

 

 

 

 

『…………これ以上、あの人は巻き込めないな』

小萌先生は『魔術』に巻き込まれる形でだが触れてしまった。科学一色の学園都市の教員なのに、だ。これ以上首を突っ込ませる訳にはいかない。

絶対に。

「うん……もうあの人はこれ以上魔術を使っちゃダメ」

布団の横で座っているインデックスの口調と表情が暗いモノへと変わる。寝転んでいる神槍も彼女の方へ目を向ける。

「魔道書っていうのは危ないんだよ。そこに書かれている異なる常識『異常識』に、違える法則『違法則』。そういう『違う世界の知識』って、善悪の前に『この世界』にとって有毒なの」

『違う世界』の知識を知った人間は、それだけで脳を破壊されてしまうとインデックスは言う。

それを聞いた神槍は、あれ?それなら(てんせいしゃ)ってどーなるんだ?と思ったが、今は黙っておく事にした。

「……魔術師は宗教防壁で脳と心を守ってるから問題ない。けど、宗教観の薄い普通の日本人

なら――もう一度唱えれば――、」

――“終わる”。

きっとそれは、人としても生物としても、本当の意味で、終末を迎えるという意味だろう。

『つまり、超能力と魔術は併用できないって事か』

超能力と魔術。同じ『異能の力』でありながら、その本質はまったく違う。使う回路も違ければ、『使う人間』も違う。二つを同時に使うという事は、脳のパンクを意味する。

「……知りたい?私の抱えてる事情(モノ)、ホントに知りたい?」

インデックスと名乗る少女は、絞り出すような声で訊いてきた。

本当に、私の全てを知る覚悟はあるか、と。

本当に、私の全てを知ってもなお、自分を受け止めてくれるかと。

『……なんていうか、これじゃ神父さんになった気分だな』

なんていうか、本当に。――今さらそんな事聞くまでもないだろ、と神槍は笑いかけた。

 

 

 

 

「十字教なんて元は一つなのに、何で別れちゃったんだと思う?」

『宗教に政治を混ぜたから、だろ?』

「うん……」と少しインデックスは疲れたように、

「そのせいで分裂し、対立、争い合って――ついには同じ神様を信じる人さえ『敵』になって。私達は同じ神様を信じながら、バラバラの道を歩む事になった」

神様の言葉で荒稼ぎしようと思った者、それを許せないと思った者。似通った様々な考えを持つ人間が生まれ、やがては話し合う事をやめ、同じ考えを持つ人間同士でグループを持つようになった。

「……交流を失った者達は、それぞれが独自の進化を遂げて『個性』を手に入れたの。それぞれの事情・問題に対応して、変化していったんだよ」インデックスは小さく息を吐いて、

「ローマ政教は『世界の管理と運営』を、ロシア政教は『非現実の認識と削除』を。そして私の属するイギリス政教は……」

インデックスは僅かに言葉を詰まらせた。まるで、それが苦い思い出のように。

「イギリスは魔術の国だから……イギリス政教は魔女狩りや異端狩り、宗教裁判、――そういう『対魔術師』の文化が異常に発達したんだよ」

元々は仲間であった者達に剣を向ける文化が発達してしまったイギリス政教は、いつの間にか『虐殺・処刑の文化』にまで発展してしまった。

「イギリス政教にはね、特別な部署があるんだよ」インデックスはそっと、本当に消えそうな声で、

「魔術師を討つ為に、魔術を調べ上げて対抗策を練る。“必要悪の教会(ネセサリウス)”」

敵を知らなければ敵の攻撃を防げない。かと言って、汚れた敵を理解すれば心が汚れ、汚れた敵に触れれば体が汚れる。

必要だったから。『必要な汚れ』だったから。

だから、『汚れ』を一手に引き受ける必要悪の教会が生まれた。

そして、その『汚れ』の到達点にして最たるモノが……、

 

Index-Librorum-Prohibitorum.

通称――禁書目録(インデックス)

 

 

 

 

 

 

 




ああ、シリアスだけじゃなくコメディも書きたい。
突然ですがここで一つ質問です、原作の名言をそのまま流用って……しても大丈夫なんですかね?
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