とある魔法の魔導司書(ブックキーパー)   作:神の槍

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インデックスさんのオチ要員としての優秀さがヤバイ。


とある噛みつきの定番定着(テンプレキャッチ)

「ざっけんなよテメェ……」

話を聞き終えると、上条は犬歯を剥き出しにしてインデックスを睨みつけた。神槍は口を挟む事なく、ただ黙って彼女の話を聞いていた。

「そんな大事な話、何で今まで黙ってやがった!?」

「だって。信じてくれると思わなかったし、怖がらせたくなかったし、その……あの、」

インデックスは顔を俯かせながらそう答えた。彼女の声は若干震えていた。その表情を、布団で寝ている神槍だけは見えたが、その顔は今にも泣き出しそうな子供のようだった。彼女の言葉は段々と小さくなっていき、最後の方はほとんど聞こえなかった。

それでも、“きらわれたくなかったから”という言葉を、二人は聞いてしまった。

「ふ、ざけんなよ。ざっけんなよテメェ!!」ブチリという音を、上条は確かに聞いた。

「舐めた事言いやがって、人を勝手に値踏みしてんじゃねえ!教会の秘密?一〇万三〇〇〇冊の魔導書?とんでもねー話だったし聞いた今でも信じらんねえようなおとぎ話みてーなお話だよ」

だけどな、と上条の怒鳴るような口調が優しいソレに変わる。

「“たったそれだけなんだろ”?」

インデックスの両目が、何か信じられないようなモノを見る目に変わる。

「見くびってんじゃねえ、たかが一〇万三〇〇〇冊を覚えた程度で気持ち悪いとか言うと思ってたのか?ざっけんなよ!そんな訳ねえだろ!」

と、今まで黙っていた神槍の右手が、インデックスの頭にポンと乗せられる。

『当麻の言う通りだ。それに見た事を一瞬で記憶できるなんて凄えじゃねーか。まぁそんな能力より、当麻の不幸能力(アンラッキー)の方が何倍も恐ろしいけどな』

「さりげなく酷い事言われた!?」

上条のツッコみが冴える中、インデックスの涙腺が一気に緩み、神槍に倒れこんできた。神槍が大怪我を負って目覚めた時とは違う涙の理由(ワケ)。きっと、今まで貯め込んできたものが溢れだしたんだろう。

嗚咽を漏らして布団に顔をくっ付けているインデックスの頭を、神槍はゆっくりと優しい手つきで撫でる。

「ほら!俺には右手があるし、魔術師なんか敵じゃねーっつの!それにトシキだって魔術師なんだろ?」

『だから、俺は魔術師じゃなくて魔法使いだっての』

「…………けど、ひっく。補習で学校に行かなきゃならないって言ってたから」

『ああ、確かに言ってたな』

過去の出来事を蒸し返され、さっきの格好よく決めた台詞が台無しの上条だった。インデックスは疑いの眼差しを彼に向ける。

「……あ、あっ。あーっ……」

上条はなんとか逆転出来ないか模索するが、まったく良い案が出てこない。むしろ噛みつき(バットエンド)な展開しか頭に浮かばない。その内にインデックスはチーター真っ青な俊敏さで上条の頭を両手で固定し、カバさんリスペクトを思わせる大口を開け、ツンツン頭の罪人に鉄鎚を下した。

神槍は上条から助けを求められるも、とばっちりが飛んできそうで嫌なので好きなようにやらせた。

人、これを生贄と呼ぶ。

 

 

 

 

「てかさ、インデックスの事は分かったけど、トシキの事は何も教えて貰ってなくね?」

『え゛?』

神槍の体がビクゥウ!!と震える。

絶望(しつもん)は突然、上条の口から降りかかって来た。

最初に言っておくが、神槍トシキは転生者だ。違う世界からここ――学園都市にやってきた(落とされた)。

だから魔法という別世界の技術を使えるし、この世界についての知識が異常なまでに乏しい。

「そういえばそうかも。ねえ、トシキはどこ所属の魔術師なの?さっき詠唱に古代ギリシャ語使ってたからギリシャ政教?」

……流石魔道書図書館。知識が豊富すぎて恐ろしく感じてきた。

『え、えーとですね。それは……なんというか、事情があって言えなくてですね』

「そういや、学園都市なんつー魔術から一番縁がない所にいる事からしておかしいよな」

なんか無駄に名推理しちゃってるよこの人!?と内心ビクビクで上条を見る神槍。だがインデックスから次々と追撃を喰らう。

「ギリシャ政教の魔術は動作魔術が主流だから、古代ギリシャ語の詠唱魔術なんて凄く珍しいんだよ。それを何でとしきが使えるのかな?そもそもこの前トシキが使ってた魔法の射手(サギタ・マギカ)って魔術だけど、私の一〇万三〇〇〇冊の中にも載ってないんだよ。こんな事初めてかも。ねえとしき、これって一体どーゆー事なの?」

『えーと、その……。それはですね……』

「「それは?」」

上条とインデックスにどんどん追い詰められる神槍。その顔は冷や汗がだらだらで、無理に作った笑みは引きつっている。

「と~し~きぃ~。早く薄情しないと噛みついちゃうかも」

「ほらほらトシキさんや。早く吐いちゃった方が身の為ですよ」

『いや、だから。それは事情があって言えな――――きゃー!ぎゃー!きゃー!頭に噛みつかないでインデックスさまァァァあああああああああああああああ!!!』

「…………(←合掌中の上条)」

『当麻テメ……目の前で泣き叫んでる人がいるのに何で助けねえんだよ!?って痛ァア!!』

「はっはっは。さっき助けなかった仕返しだコラ。いや~、それにしても人が泣き叫んでる所を見るのは心がイタムナー」

『めちゃくちゃ棒読みだよねそれ!!――あ、なんだろう。あっちに綺麗なお花畑が見える…………』

人、これを生贄と呼ぶ。

 

 

 

 

六〇〇メートルほど離れた、雑居ビルの屋上で、ステイルは双眼鏡から目を離した。

「インデックスに同伴していた少年達の身元を探りました。……あの赤髪の少年は?」

「生きてるよ。……だが生きているとなると、向こうにも複数の魔術師がいる筈だ」

女は無言だったが、新たな敵よりむしろ誰も死ななかった事に安堵しているように見える。

女は腰まで届く長い黒髪をポニーテールにまとめ、腰にはニメートル以上ある日本刀が鞘に収まっている。

神裂火織。正体不明の瞬殺斬撃で、神槍を殺しかけた人間。

不良神父さまのステイルと同様、まともな恰好とは思えなかった。

「それで、あの右手は何だった?」

「それですが、少年の情報はあまり集まっていません。それともう一人の魔術師の少年についてですが……」神裂は僅かに沈黙して、

「……戸籍、経歴、名前すら分かりませんでした。分かっているのは古代ギリシャ語を用いた魔術を扱うとしか。それも肉体強化・防御術式・魔矢……おそらく彼の実力はこの程度ではないでしょう」

神裂の言葉を聞いて、ステイルは首は動かさず視線だけを彼女に向ける。白い半袖のTシャツのすぐ下、脇腹辺りに包帯が巻かれていた。神裂が神槍の背中を斬った時に、唯一喰らった傷だ。

「君に一撃決めたって事は……相当の実力者という事か。それもあの子を守りながら…。どうする?どうやら火傷みたいだから僕でも治せるけど?」

「結構です」

神裂の即答だった。その返答にステイルは口角を吊り上げた。断られると分かっていてわざと聞いたのだ。

「にしても名前すら分からないとはね、情報の意図的な封鎖、かな。科学サイドに寝返った裏切り者か、どこぞの魔術結社のスパイか……そんな所かな」

裏切り者。スパイ。

極少数だがそういう魔術師も存在する。現に上条の知り合いにそういう人物がいるのだが……いや、今言うのは野暮というものだろう。

ここで彼らは『あの少年達は五行機関とは別の組織を味方につけていると踏んだ』。他の組織が、上条と神槍の情報を徹底的に消していると勘違いしたのだ。

「神裂、この極東の島国には他に魔術組織が存在するのか?」

「学園都市で動くとなれば、何人も理事会の網にかかる筈ですが」神裂は目を閉じて、

「敵戦力は未知数、魔術サイドなのか科学サイドなのかすら不明。対してこちらの増援はナシ。難しい展開ですね」

それはまさに勘違いだった。上条の幻想殺し(イマジンブレイカー)は『異能の力』を相手にしない限り効果はゼロ。つまり学園都市の“身体検査”に使う測定機械でチカラを測る事が出来ない。よって、不幸にも上条は最強クラスの右手を持っているのにも関わらずLEVEL0扱いなのである。

神槍に至っては全てが間違い。彼は七月二〇に“たまたま”学園都市に現われて、“たまたま”インデックスと知り合い、“たまたま”彼女を守る事にしただけなのだから。そこにどこぞの『組織』の後ろ立てなんてないし、そもそも科学サイドと魔術サイドのどちらの人間なのかもはっきりしていないという、神裂達からすれば迷惑極まりない立場の人間なのである。

「最悪、組織的な魔術戦に発展すると仮定しましょう。ステイル、あなたの刻印(ルーン)は防水性において致命的な欠陥を指摘された、と聞いていますが」

「その点は補強済みだ。刻印にラミネート加工を施した。同じ失敗は踏まないよ」まるでトレーディングカードのような刻印を手品師のように取り出し、

「今度は建物のみならず、周囲二キロに渡って結界を刻む……使用枚数は十六万四〇〇〇枚、時間にして六〇時間ほどで準備を終えるよ」

現実の魔術はゲームのように呪文を唱えてハイおしまい、という訳にはいかない。

神話や伝承に基づく魔術的意味を理解し、それを様々な道具や動作によって再現してやっと、魔術というモノは発動してくれる。魔術師の実力とは威力や規模というより、どれだけ相手に自分が組み上げた術式を解析させないか、というのが最も重要と言える。基盤となっている魔術的意味に対して対抗策を撃たれたら、もうその時点で魔術戦の勝敗は決したのと同じだからだ。

その点、呪文を唱えてハイおしまいで本当に『魔法』を扱える神槍トシキは、やはり『魔術師』とはどこかズレている存在なのだろう。

とにかく、『敵の戦力は未知数』というのは魔術師にとって大きな痛手だった。

「楽しそうだよね……」

ステイルはポツリと小さく呟いた。

「本当に楽しそうだ……。あの子はいつでも楽しそうに生きている。……僕たちは、一体いつまであれを引き裂き続けばいいのかな……」

「複雑な気持ちですか?“かつてあの場所にいた”あなたとしては……」

「フッ……いつもの事だろう?」

炎の魔術師は答える。まさしく、いつもの通りに。

 

 

 

 

 

「おっふろ♪おっふろ♪お・ふ・ろぉ~♪」

と、上条と神槍の間で、両手に洗面器を抱えたインデックスは歌っていた。バジャマから安全ピンだらけの修道服に着替えている。

上条はいつもの学生服だが、神槍は例のやけにボロボロの茶色いローブをはおっている、その下は黒のTシャツにジーンズなので、少々真夏にしては重装備の気もするが、まぁ普通の格好であった。

それにしてもあんなにバラバラな修道服をどうやって洗ったんだろうか?やはりパーツずつに分解したんだろうか?

「何だよそんなに気にしてたのか?正直、匂いなんてそんな気になんねーぞ?」

「汗かいてるのが好きな人?」

『うわ…お前そんな趣味があったのか……。ちょっと俺から離れてくれる?具体的には一億キロぐらい』

「地球から出て行けとッ!?ってか俺にそんな趣味はねえッ!!」

あれから三日経って、ようやく神槍があちこち出歩けるようになった時に言った彼女の願いが風呂だった。

ちなみに小萌先生のアパートには風呂がなく、管理人室のモノを借りるか、アパート最寄にあるボロッボロの銭湯へ行くという究極の二択しかなかった。

そんなこんなで、洗面器を抱えて歩く若い男二人(傍から見れば一人は男か女かよく分からないが)と少女がいた。

小萌先生は相変わらず何の事情も聞かずに神槍たちの事をアパートに泊めてくれた。神槍としても満足に動ける状態ではなかったので居候状態である。

「としき、としき」

人のローブの二の腕を甘く噛みつつインデックスがややくぐもった声で言う。噛み癖のある彼女にとって、どうやらこれは服を引っ張ってこっち向かせる、ぐらいのジェスチャーらしい。

『ん?どうした?』

神槍は呆れたように言った。同じように上条も呆れた様子でそれを見ている。

この三日間で二人合わせて六万回くらい彼女に名前を呼ばれたからだ。

「何でもない。用がないのに名前が呼べるって、なんかおもしろいかも」

たったそれだけで、インデックスはまるで初めて遊園地にきた子供みたいな顔をする。

インデックスの懐き方が尋常ではない。

流石に六万回も用もなく名前を呼び続けられたら鬱陶しくなってくるが、神槍たちは逆に今までこんな簡単な事もできなかった彼女の方に複雑な気持ちを抱いてしまう。

「とうまとうま、ジャパニーズ・セントーにはコーヒー牛乳があるって、こもえが言ってた。コーヒー牛乳って何?カプチーノみたいなもの?」

「……んなエレガントなモン銭湯にはねえ。んー、けどお前にゃデカい風呂は衝撃的かもな。イギリスってホテルにあるみたいな狭いユニットバスがメジャーなんだろ?ありゃ?インデックスだけじゃなくてトシキもか?お前あんま外国人って感じがしねえからさ」

『いや、確かにイギリスじゃユニットバスが主流だけど、俺は前に日本に住んでた事があるからあんま珍しくもねーかな』

神槍トシキが、トシキ・スプリングフィールドではなかった時。つまり今のトシキにとっては前世の前世は生粋の日本人だった。

「んー?……私はその辺はよくわかんないかも」

「あん?もしかしてお前日本(こっち)生まれ?何だ、ガキの頃からこっちにいたんじゃお前ほとんど日本人じゃねーか」

『それで日本語がペラペラなのか?』

神槍のその問いにインデックスは長い銀髪を左右に流すように首を横に振った。

「ううん。そういう意味じゃないんだよ。私、生まれはロンドンで聖ジョージ教会の中で育ってきたらしいんだよ。でも、こっちに来たのは一年前くらいかららしいんだね」

「らしい?」

上条が曖昧な表現に首を傾げたところで、

 

「うん。一年ぐらい前から、記憶がなくなっちゃってるからね」

 

インデックスは、笑っていた。

突然のカミングアウトに神槍も上条も、何も言えなかった。ただ、その笑みが完璧な笑みだからこそ、その裏にある焦りや辛さが見て取れた。

「最初に目が覚めた時は、自分の事もわからなかった。だけどとにかく逃げなきゃって思った。昨日の晩御飯も思い出せないのに、魔術師とか禁書目録とか必要悪の教会とか、そんな知識ばっかりぐるぐる回ってて、本当に怖かった…………」

「……じゃあ。どうして記憶をなくしちまったかも分かんねーって訳か」

「うん」

『チッ……』

インデックスの言葉に、上条は夜空を見上げ「くそったれ」と呟き、、神槍は荒々しく舌打ちした。

もっと早く――せめて一か月ぐらい早くに彼女と会えていれば……。

「むむ?とうま、なんか怒ってる?」

「……怒ってねーよ」

「なんか気に障ったなら謝るかも。とうま、何キレてるの?思春期ちゃん?」

「その幼児体型にだけは、思春期とか言われたくねーよな」

上条のその言葉にインデックスはムッとした表情をした。神槍も気持ちは分かるが、それを年下(おそらく)であるインデックスにあからさまに態度に出すのはどうかと思う。

「……何なのかな、それ?やっぱり怒ってるように見えるけど?それともあれなの?とうまは怒ったふりして私を困らせてる?とうまのそういうところは嫌いかも。少しはとしきを見習ったほうが良いんだよ」

「あのな……。元から好きでもねーのに、そんな台詞吐くなよな。いくらなんでも、お前にそこまでラブコメっぽい素敵イベントなんざ期待しちゃいねーからさ」

上条の言葉を聞きながら、インデックスの様子が変わっていく事に気づいた神槍は、フォローしようとさきほど思った事をそのまま口に出す。

『駄目だぞ当麻。インデックスはまだ“子供”なんだから、もっと優しく接しないと……ってあれ?なんで上目遣いで黙ってしまわれるのですか……?……姫?』

「としき!とうま!」

インデックスは頬を赤くしてぷくっと膨らませながら鈍感コンビを睨みつけ、

「だいっきらい!!」

神槍と上条は女の子に頭のてっぺんを丸かじりされるという、メタルレアな経験値を手に入れた。

 

 

 

 

 

「なんで俺がこんな目に……不幸だ」

『黙れ。お前に愚痴る資格はねえ。ってかお前はさっさと地球から出てけよ』

「それ本気だったのかよ!!」

『Good luck!!』

「スゲー良い笑顔で親指立てて“頑張れ”とか言ってんじゃねーよ!!行きませんからね、上条さんはずっと地球に居続けるからね!?」

そのまま二人で雑談(一方的な罵倒とも言う)をしながら銭湯へと向かっていた。インデックスは二人を置いてさっさと先に行ってしまった。それでも時々二人がちゃんと付いてきているか確認しているのが、神槍にしてみればかなり子供っぽい。

「あれ……?」

『………………あーぁ、また(・・)かよ』

そして、大通りの横断歩道の途中で、二人はある違和感に気がついた。

この感覚を――――神槍は知っている。

「人が……いない……?」

そういえば、インデックスと歩いていた時から一度も人とすれ違っていなかったか……。

 

「ルーン」

 

その時、コツコツと二人の背後から足音が響く。その感情が一切感じられない声に、神槍は背中の辺りに妙な疼きを感じた

「ステイルが人払いのルーンを刻んでいるだけですよ」

「……テメェは」

「……神裂火織、と申します」

人通りの全くない……人間の気配がまったくしない交差点のド真ん中にいたのは、以前インデックスと共にいた時に襲ってきた魔術師だった。

名は、神裂火織。

『……テメェか』

「トシキ、知ってるのか!?」

『ああ。俺の背中を……いや、インデックスの背中を斬ろうとした奴だ』

神裂はその時と全く同じ格好をしていた。相変わらずニメートル以上ある刀を腰にぶら下げており、その表情には『無』が張り付いている。

「改めて率直に言います。魔法名を名乗る前に、彼女を保護したいのですが」

「……嫌だ、と言ったら?」

上条のその言葉に、神裂は片目を閉じ、長い日本刀の柄に手をかけた。

「仕方がありません」彼女はもう片方の目も閉じて、

「名乗ってから、彼女を保護するまで」

ドン!!という衝撃が地震のように足元を震わせた。まるで爆弾でも爆発させたようだった。

真後ろの、蒼い闇に覆われていた筈の夜空が夕焼けのようなオレンジ色に焼けている。どこか遠く――何百メートルも先で、巨大な炎が燃え広がっているのだ。

例えば、インデックスがいる場所で、とか。

「イン、デックス……ッ!」

『駄目だ、当麻!』

神槍が叫んだその瞬間、ビュオッ!!と空気を裂くような不可視の斬撃が飛んでくる。その斬撃は鋼鉄で出来た風力発電のプロペラを、まるでバターでも裂くように切断した。除々に滑るように、プロペラの羽根が歩道橋に落下し、突き刺さった。

また、“斬撃”だ。

「何度でも問います」

その光景と夕焼けのような空を、ただ見ている事しか出来なかった上条の背中に、魔術師の声が響く。

「魔法名を名乗る前に、彼女を保護したいのですが」

「…な、なに、言って――やがる。テメェを相手に、降参する理由なんざ――」

そう言いながらも、上条の足はガクガクと震えていた。対して神槍は目を細くし、今は神裂の動きを観察している。

「幾度でも、何度でも問います」

神裂は刀を抜かない。ただ、刀の柄に触れただけだ。なのに、今度は斬撃が地を這うように二人に襲いかかる。

斬撃によって抉られたアスファルトが弾丸となり、衝撃波と共に二人の間を通過した。二人の遥か後方で、アスファルトが抉れられた音が響く。

「魔法名を名乗る前に、彼女を保護させてもらえませんか?」

「――っ」

上条は黙って自分の右手に視線を移す。それが異能の力なら善悪問わず触れるだけで打ち消す右手。魔術師にとっては天敵とも言える、右手。現にただの高校生である上条は、このチカラを使って炎の魔術師を倒した事がある。

だから大丈夫。勝てる――上条は自分に言い聞かせるように呟き、決意したように一歩前に踏み出すが、それを神槍はさらに上条の前へ立つ事で制した。

「……トシキ?」

上条は赤髪が印象的な少年に尋ねる。赤い少年はただ一言、振り返る事もせず、一言。

『お前はインデックスの所へ行け』

「ナニ言ってんだ!?そんな事できる訳ねーだろ!?」

上条は叫ぶが、神槍はやけに落ちついた声で、

『状況をよく考えろ。敵は『組織』だ。一人じゃない』

確かに神裂が囮となって二人をひきつけ、その間にステイルがインデックスを襲う可能性もある――けど、

「だからって……お前一人を置いて行けるかよ…!」

『当麻、いい加減にしろよ』神槍は鋭い眼光で魔術師を睨みつけながら、

『お前は“魔法使い”って言葉の意味をまるで理解してない。『魔法』ってのはな、“不可能を可能にする”為のモノなんだよ』

こんな時にナニ言ってんだ、と上条が叫ぶ前に、

『まだ分からないのか?“魔法使い”であるこの俺が、“不可能を可能に”しちまえるこの俺が――あんな下っ端キャラに負ける訳ねーだろ』

神槍は振り返らない。振り返って良いレベルなど、とうの昔に過ぎている。

最後に彼は小さく、“行け”と重ねるように言った。

「ちっ、きしょう…!――死ぬんじゃねえぞ、トシキ!!」

僅かに渋る様子を見せた上条だが、背を向けて夕焼けのように明るい夜空の方向へ走りだした。

「七――」

神裂は斬撃を放とうとするが、突如襲いかかって来た光の矢に妨害されてしまう。

「…………」

あくまで刀は抜かず、鞘のままの一振りで光の矢を撃墜し、神裂は攻撃の出所にいる少年を見た。

『さて、リベンジでもすっか。……魔術師』

少年はそれ以上なにも言わず、純粋な敵意を神裂にぶつける。

「……仕方ありません」彼女もまた、長い刀の柄に手をかけ、

「まずは、あなたの答えを変えてみせましょう」

 

おそらくこの世界で初めてであろう――魔法使いと魔術師の本気の戦いが幕を上げる。

 




次回はついに神裂さんとのバトルです!
“不可能を可能に”……原作にちょこっと出てきた言葉ですが、なんかカッコ良かったので使ってみました。……どうですかね?
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