とある魔法の魔導司書(ブックキーパー)   作:神の槍

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とある聖人の実力証明(インディード)

「私に勝てるとでも思っているのですか?以前敗北したあなたが」

『おいおい。“あの程度”の俺に勝っただけで天狗になってんじゃねーよ』

言いながら神槍は魔力を練り、自身の身体能力を向上させると同時に、魔法障壁で体を覆う。

「あなたがどこ所属の魔術師で、どのような目的で禁書目録(かのじょ)に近づいたかは知りませんが」神裂は相変わらずの無表情とよどみのない声で、

「手を引いて頂けませんか?相手が聖人だったと上司に伝えれば、納得もするでしょう」

聖人。

その言葉に神槍は眉をひそめる。言葉の意味は分からないが、おそらく強さの度合を顕わす何かだろうと神槍は推測した。

それも神裂の様子から察するに、かなり上の実力を顕わす意味だ。

『前にも言ったけど、俺はインデックスの魔道書を見るつもりなんかねーし、上司からの命令でアイツの傍にいる訳じゃねーよ』

それでも、神槍は闘うと告げた。相手がこの世界においてかなりの実力者だろうと関係ない。相手がかなりの実力者なら、こっちは世界一つ救った英雄だ。何を恐れる必要がある?

『――――』

自分の決意を見せつけるように、神槍は拳を握った。それを見て神裂は説得を諦めたのか、刀に手をかける。

「七閃」

再び、正体不明の斬撃が神槍に襲いかかる。その速度はまさに瞬速。瞬間と呼ばれる時間の内、七回殺せるというのも嘘ではないだろう。だが、どんなに早い攻撃でもあらかじめ来るのが分かっていれば避けるのは容易い。

横に半歩移動しただけで斬撃を避けた神槍は、そのまま神裂に突っ込む。

『質問するのは勝手だけど、答えは変わらねえよ』

「!……なら、変えてみせるまで」

神裂は斬撃を避けられ僅かに驚いた表情を見せたが、すぐに元の無表情に戻った。

拳が届く範囲までやってきた神槍は拳に力を集中させ、神裂に一撃を入れようとする。

『ッ!――――?』

だが、唐突に感じた肉を裂かれる痛みに、思わず距離を取った。

神槍は痛みの発生源――右の拳を見る。何か鋭利な刃物に切り裂かれたように肉が切れていて、血が垂れていた。

『……糸?――いや、ワイヤーか』

元々の細さに加え、夜の闇という事もあり全く目視できなかったワイヤーが、血がべったりくっついたため神槍の目に露わになった。

ワイヤーが斬撃の正体だ。ピンと張ったワイヤーを超高速で操る事で、刀の長さに関係なく斬撃に見せて切り裂いていたのだ。

普通のワイヤーならここまで早く動かしたらすぐに切れてしまう筈だが、そこは魔術で強化しているのだろう。

(当麻を行かせて正解だったな)

たとえ、魔術で強度を上げているとしても、ワイヤー自体は魔術でもなんでもない『金属』だ。上条の右手は異能の力ならなんでも打ち消せるが、逆に言えば『金属』のような異能の力ではないモノには何の効果もない。

本人には悪いけど残っても足手まといになってたな、と神槍は思った。

推測もそこそこに、神槍は掌を神裂に向けて口早に、

魔法の射手(サギタ・マギカ)光の20矢(セリエス・ルーキス)

「(詠唱が早すぎてっ、妨害が間にあわ……ッ!)」

四方八方から光の矢が神裂に襲いかかる。

が、神裂はそれを横移動しただけで避ける。しかし神槍は既に動き出していた。

『ほらよ、じっくり味わえロボット野郎』

神裂の眼前にまで来ていた神槍は、一般人なら即死であろう威力を持つ拳で彼女に一撃を入れる。

彼女は特に驚く事もなく、右腕でそれをガードした。しかし衝撃までは殺せず、ズズッ!と何メートルか後ろに下がる。

神槍は彼女が止まるのも待たず、無詠唱の限界本数である10本もの光の矢を放った。

芸がない、とでも言いそうな表情で神裂は鞘を振り回すようにして叩き落としていく。

「……あなたの実力は分かりました。詠唱による閃光術式を核とした臨機応変な状況に対応できる戦闘スタイルの様ですね」

神裂は称賛しながらも、冷ややかな目で、

「しかし、それだけでは私には勝てません。この程度で『聖人』に勝てるとでも思ったのですか?……だとしたらあなたは聖書を読み直すべきです」

『なるほど……これが聖人か。そもそも俺みたいな人間とは違う身体を持ってるみたいだな』

実力は十中八九神裂が上だろう。莫大な量の魔力を有していた全盛期ならともかく、僅か10分の1――魔法の射手五〇〇本分の魔力しかない今の神槍では到底敵わない。

何より、彼女はまだ魔法名を名乗っていない。

しかし、神槍は呪文を紡ぐ。今の自分に出せる最高の一撃を放つために。

来たれ雷精(ウェニアント・スピーリトゥス・)風の精(フルグリエンテース)――』

「させると思いますか?」

だが神裂がそれを許さない。彼の詠唱を止めるためにワイヤーによる斬撃が次々と飛んでくる。

神槍はそれを紙一重で避けながら、時には避け切れず額から血を流しつつも、詠唱を決して止めない。

雷を纏いて吹きすさべ南洋の風(フレット・テンペスタース・アウストリーナ)雷の暴風(テンペスターズ・フルグリエンス)!』

そして、神槍は全ての詠唱を完了させた。

 

直後。

神槍の突き出した右手から、雷を纏った水平に突き進む竜巻が神裂へと襲いかかる。速度は音速を超えている。その様はまさしく、暴風そのもの。しかも雷のオマケ付きだ。

 

聖人に激突した瞬間、ゴォォォオオオオオオオオ!!と爆音のようなものが響き渡り周囲の建物の窓ガラスが一斉に割れた。

『どうだ?ご要望通り本気って奴を見せてみた訳だけど。……ってか魔力の半分持ってかれたぞ』

神槍の足元から聖人までの地面が、飛行機が胴体着陸したかのように抉れていた。大気が焼けたのかコゲくさい臭いもする。

人間が喰らえば腕どころか原型すら残さないであろう一撃を受けて、無事でいられる筈がない。

神槍は目を細め、決して小さくない期待と共に事の成り行きを確かめようとする。

“しかし”、

 

「……閃光術式はあくまでフェイク、だったという訳ですか。まさかこれほどまでの一撃を隠し持っていたとは……撤回しましょう、あなたに聖書を読み返す必要はありません。ですが、やはり聖人(わたし)には届かない」

 

今だ晴れない土煙りの中で、二本の足で立っている影があった。

聖人――神裂火織。

突如、土煙が七つに分断され一気に晴れる。見れば、無傷という訳ではないらしい。身体のあちこちから血を流している。

彼女はドロリとした感触がする唇を動かし、

 

「七閃」

 

神槍は魔法障壁を前方に集中させる。ハナから防げるとは思っていない。少しでも食い止めて避けるまでの時間を稼げればそれで良い。

ギシギシ、と障壁の役割を補う魔法陣が立てる嫌な音を聞きながら、神槍が横に転がるように回避した直後――斬撃が通り過ぎた。

 

「七閃」

 

無機質な声とチン、という金属音。前方から合計七本もの斬撃が地を這うようにしてアスファルトを巻き散らしながら襲いかかってくる。

神槍はそれを見て回避は不可能だと判断すると、“斬撃に向かって自ら身体を前へ走らせた”。

当然、斬撃が人肉を切断しようと迫りくる。しかし神槍は飛んできた握り拳大のアスファルトの破片にわざとぶつかり、後ろに吹っ飛ぶ事で斬撃から身を守る。

『がっ――ハ……くっ』

地面に叩きつけられ、肺から酸素を吐きだされるのも構わず、神槍は立ち上がる。

 

「七閃」

 

聖人は刀を抜いてすらいない。魔法名を名乗ってすらいない。

なのに、斬撃は神槍を確実に追い詰めていく。

目の前から空気を裂いてやって来る斬撃――ワイヤーに神槍は手を伸ばすように突き出した。

ガギィィンンン!!という音が辺りに響き渡る。魔法障壁とワイヤーが激突した音だ。

先程の一連で、一秒にも満たない時間だが斬撃を受け止められる事は分かっている。その僅かな時間の中で、神槍トシキは確実に勝利へ向けての一歩――“ではなく”一手を差し出す。

ギシ、と神槍は一時的に食い止められているワイヤーを力強く握りしめる。掌の肉が裂けるのも構わず、握りしめる。

そして一言、

白き雷(フルグラティオー・アルビカンス)

 

瞬間、闇に包まれていた大通りに七本の光の筋が出現した。

 

神槍の掌から放出された雷撃が、ワイヤーをつたって闇を照らしているのだ。その時に起こる摩擦熱が、光となって二人の肉眼に映っているのである。

「なっ!?」

神槍はこの時、初めて完全に神裂の無表情が驚愕に染まる瞬間を見た。

七本の光の筋が、まるで導火線のように神裂の手元へ集結するように迫りくる。

さっきも言った通り、ワイヤーは金属だ。そして金属は電気をよく通す物質――導体として知られている。

なら話は簡単だ。

 

ワイヤーに高圧電流を浴びせれば、あとは勝手にコントローラーである神裂の手元へ雷撃を送り届けてくれる。

 

ジィィィいいいいいい!!と放電しながら自身を焦がそうと近づいてくる七本の雷撃を見て、神裂は苦汁を舐めさせられる気持ちで自ら七本のワイヤー全てを手離した。

今まで絶対的な威力を誇っていた、七閃を捨てる行為だと知りながら。

魔法の射手(サギタ・マギカ)雷の100矢(セリエス・フルグラーリス)!!』

神裂が慌てて敵に意識を戻してみれば、既に神槍は懐へ潜り込んでおり、拳を打ちこんでいた。そんな状況でも神裂は見逃さなかった、彼の拳に膨大な量の雷撃が吸収されているのを。

「ぐっ、ぎ――ッ!」

咄嗟に鞘を楯にして防いだものの、彼の拳から伝わってくる雷撃と衝撃が、その場で耐えきる事を許さなかった。

それこそ神裂の身体は砲弾のように吹っ飛び、何十メートルも先でやっと停止した。

 

 

 

 

『ハァ、ハァ……』

神槍は乱れた息を必死に整えていた。視界にチラつく星のような光を無視し、神裂の方を見る。

前を見た時には、神裂の蹴りが眼前に迫っていた。

『ぐっ……!』

人間には到底出せない力で放たれたその一撃は、魔法障壁で緩和されている筈なのに神槍の腹部に思い切りめり込んだ。

口から血がこぼれ出すが、それを手の甲で拭い、追撃に備える。

神裂は七閃を封じられると、すぐさま戦法を変えてきた。一刀両断の斬撃から、一撃粉砕の近接格闘へと。

手足に加え鞘を鈍器として攻撃を繰り出す神裂に、神槍は完全に防戦一方になってしまう。

ガードすれば痺れるような痛みが襲い、避ければ次の一撃が既に発射されている。

このままではジリ貧になる、分かっていても形成を逆転出来ない。焦りを感じつつも、神槍には何も出来なかった。

そしてついに、神槍の腹部に神裂の拳が命中した。

『ごっ……ぁ…ッ!!』

後ろに吹っ飛ばされ、口から血が漏れる。

それでも神槍は立ち上がり、口についた血を払って神裂を睨みつける。

「もう、良いでしょう?」むしろ痛々しそうな、小さな声だった。

「あなたが彼女にそこまでする理由はない筈です。聖人を相手にここまで生き残れれば上等です、それだけやれば彼女も責める事はないでしょう」

『…………………』

口の中の鉄の味を噛みしめながら、神槍は思い返す。

異世界に落とされ、最初に出会った小さな少女の事を。

少女は笑っていた。「おなかがへった」とか言って、笑っていた。

でもその笑みは……笑みであって笑みじゃない――幻想と虚勢で作り上げられた薄っぺらいモノだった。

白い少女はとある事情を抱えていた。特殊な体質を持っていて、頭の中に爆弾のような知識を溜めこんでいるという……“小さい事情”を。

そのせいで少女は大勢の魔術師から追われる身だ。ぶっ倒れるまで空腹に我慢しなきゃいけない立場にいる人間だ。

だからって、「たすけて」と叫ぶ事すら許されないのか?

だからって、人知れず泣いて、絶望して、いつまでも逃げ続けるような人生を送らなくちゃいけないのか?

(そんなのは……間違ってる)

だって、インデックスは何も悪くない。

生まれつきの体質を利用されただけで、自ら望んで魔導書図書館なんかになった訳じゃない。限られた人間に悪用されているだけで、世界全体から嫌われるような事をした訳じゃない。

(そんなのは間違ってる……!!)

きっと、神槍自身がサラリと何の気もなしに言った『約束』に、少女は歓喜したのだろう。嬉しかったんだろう。心の底から――笑えたのだろう。

『神裂火織。ひとつだけ答えろ――』

神槍は血にまみれた拳を握る。

握る!

『テメェは本当に――インデックスが核爆弾かなんかの危険物にしか見えねえのかよ?上司から命令されたって理由だけで――アイツに涙を流させても良いって思ってんのかよ?そんな素晴らしくて誰だって何だって救える力を――こんなつまんねえ形で振るっても良いとホントに思ってんのかよ!?』

『魔法使い』の少年は叫ぶ。血を吐くように、叫ぶ。

こんな事でわざわざ、不可能を可能にする必要なんてない。だって、少女は神槍がサラリといったあの『約束』に救われたんだから。

だから今度も、サラリとあのボロボロな少女を救ってやる。

『答えろよ、聖人』

最後に神槍は、重ねるように言った。

「……私。だって」

聖人は追い詰められていた。

今まで圧倒的な力で敵をねじ伏せていた、この世界で核爆弾と同等の扱いを受けるような人間が、だ。

「私だって、好きでこんな事をしている訳ではありません」

『?ナニ言って――』

「けど、こうしないと彼女は生きていけないんです。……死んで、しまうんですよ」

神裂は遮るように言った。その口調は、今にも泣き出しそうな子供みたいだった。

けれど、神裂火織は言った。

「私の所属する組織の名前は、あの子と同じ、イギリス教会の中にある――必要悪の教会(ネセサリウス)

血を吐くように、言った。

「彼女は、私の同僚にして――――大切な親友、なんですよ」

 

 

 




次回もちょっとだけ戦闘描写入ります。
感想お願いします、皆さんの評価が聞きたいので。
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