なんとか、続けていきたいと思っているので、
どうか、優しい目で見守っていただけると、嬉しいです。
輝く神槍が三頭龍の心臓に迫る。
ーー魔王を、"絶対悪"を舐めるでないわッ!!!
かわす、奴ならかわす、それがこの魔王、"人類最終試練"と呼ばれる最強の魔王だ。
十六夜は月龍となった蛟劉の背に乗り、黒ウサギと三頭龍が一直線上に並ぶ場所で待機する。
必勝の槍を五体で受け止め、返す刀で三頭龍の心臓を撃つ。
これぐらいしなければ、最強の魔王には勝てない。
(来る………帝釈天の神槍がーーーー!!!)
腕1本はくれてやるつもりで十六夜は事に臨む。
星1つ、或いは銀河すら砕く恩恵が、十六夜に死を呼び込む。
覚悟も虚しく、無残にも貫かれる心臓。飛び散る血潮。激痛で視界が紅く染まる。
愚かな挑戦をしたなと、三頭龍の嘲笑う声が聞こえる。
悲鳴を上げる久遠飛鳥と春日部耀の声が聞こえる。
途切れ往く意識の中ーーーー最期に、十六夜を殺してしまった黒ウサギの表情が映って。
「逆廻十六夜さん、ようこそ死後の世界へ。あなたはつい先ほど、不幸にも亡くなりました。短い人生でしたが、あなたの生は終わってしまったのです」
真っ白な部屋の中、十六夜は唐突にそんなことを告げられた。
そこは本当に真っ白な空間で椅子が1つ、ポツンと置いてあり、翼の生えた女性が1人そこに座っていた。
色々とばかげたものを見てきた十六夜だが、さすがの十六夜でも今の状況を飲み込むのは難しかった。
つい先程まで目の前に魔王がいたのだ。闘っていたのだ、魔王と。神槍が心臓を貫くあの激痛はまだ覚えている。しかし、ボロボロだった十六夜の身体には傷1つなく普通にここに立っている。
十六夜は一度大きく息を吐くと、すぐに落ち着きを取り戻す。
「まず始めにだ。お前は誰だ?」
「私は、女神のアンと申します。若くして死んだ人を導く仕事をしています。少しの間、私の話を聞いていただけますか?」
「……ああ。……いや、待て。話を聞く前に、俺から1つ聞きたいことがある」
「はい、なんでしょう?」
「お前は箱庭の世界を見てたのか?」
「人類最終試練《ラストエンブリオ》との闘いだけ見ていました」
「俺は死んだんだよな。ならその後どうなった?」
「あなたの後は死者は1人も出ておりません」
その言葉に十六夜は安堵する。しかし、そうなると当然の疑問が出てくる。
「誰がどうやって、アジ=ダカーハを倒した?」
「白夜叉と孫悟空という名の者たちです」
「白夜叉が?それに孫悟空だと?」
「はい。まあ、厳密に言えば倒したと言うよりも、封印しただけなのですが」
「封印だと?だが、封印じゃ解決にはならないだろ。今回みたいにまた封印が解かれるかもしれない」
「いえ、それはありえません。どうやら白夜叉、孫悟空もろとも脱出不可能な別の空間に閉じ込めた様ですので」
「待て。もろともだと?」
「はい。つまり、アジ=ダカーハ、白夜叉、孫悟空の3名はその命尽きるまで、その空間から出ることができず、生涯を終えることになりますね」
「……チッ。あの駄神が。カッコつけやがって。……それで?俺はこれからどうなるんだ?」
「はい。それを今から話させていただきます」
いろいろと思うところがある十六夜だが、死んでしまった自分がどうこうできることでもなく、自分のこれからについてに焦点を当てることにした。
女神アンによると、選択肢は3つあるようだ。
・記憶、容姿、とにかく全てがリセットされた状態で0から赤ん坊として生まれかわり新しい人生を始める。(この場合生まれるのは箱庭ではなく、日本のようだ)
・天国に行く(ただしアンが言うには天国には何もなく、ただフワフワボーっとするだけの退屈なものらしい)
・記憶、容姿、体力、腕力、とにかく全てそのままの状態で別の世界に転生し、魔王を討伐しよう!というもn……「それで」
即答。
「わかりました。しかし、せっかく転生したのにすぐに死んでしまっては困るということで、転生する者にはなにかしら、特典を選んでもらうことになります」
「いや、いらねーよ。俺を誰だと思ってるんだ?」
「仲間の攻撃を受けてしまい死んだ人だと思っていますが?」
「……」
なるほど、おそらくこの女神は、アジ=ダカーハとの闘いで本当に十六夜が死んだ場面とその後どうなったかしか見てないのだろう。
「それに、選んでいただかないと私が上から怒られます!なんでもいいですから!」
「なんでも?」
「はい!強い武器でも、莫大な魔法力でもなんでも!」
そこで十六夜はポケットの中に手を入れ、それがあるかを確認する。が、当然入っていない。
「それならギフトカードで」
「ギフトカード?買い物とかで使うアレですか?」
「違う。箱庭でいろんな奴が使ってただろ?俺も持ってたんだが今はポケットになくてな」
「あぁ、あの四次元ポケットですか」
「見も蓋もないが、それだ」
「んー、見たことがなく、新しく作ることができないので、以前あなたが使っていたものを召喚することになってしまうのですが」
「それでいい。むしろそっちの方がありがたい」
「……わかっていますか?ここにいるあなたはいわば、あなたの魂です。あなたの死体は向こうにありますので。つまり、あなたの死体のポケットにあるはずのギフトカード《遺品》がなくなっていたら、あなたのお仲間は必死に探すのではありませんか?」
それは考えていなかった。確かに黒ウサギあたりは、血眼になって探しそうだ。
「ギフトカードの中に入ってるものはどうなるんだ?」
「入ったまま召喚可能ですよ?空にして召喚することもできますが」
「中のものを選ぶことは?」
「可能です」
「なら、1つだけ入れてほしいものがある」
「1つだけでよろしいのですか?全て持ってくることができるんですよ?」
「オイオイ、お前が言ったんだろ?俺の遺品がなくなってたらアイツらが探しちまうって」
「?その1つは入れてもいいんですか?」
「ああ。アイツらなら、それでわかると思う」
「わかりました。ではその1つとは?」
「それはーーーーー」
「それでは、召喚します」
アンが手を前にかざすと、そこに光が集まり、やがて形を成してくる。そして、十六夜の目の前にはコバルトブルーのカードが現れる。
十六夜はそれを掴み見てみると、真ん中には”正体不明”《コード・アンノウン》と書いてあり、その下にはアイテム名が1つだけ書かれていた。
その名前の部分に触れると、”それ”が現れる。
十六夜のギフトカードには、水樹など、もっと貴重なギフトがいくつも入っていた。それらのギフトはおそらく十六夜の死体のそばに残されたままだろう。
きっと黒ウサギたちならわかるはずだ。貴重なギフトを残して、ギフトカードと”それ”だけを持っていくのは箱庭広しと言えど、十六夜1人しかいないだろうということを。
十六夜は猫耳の形になっている”それ”の側面を軽くタップし、元の形に戻すと”それ”を首からさげる。
「さて、それじゃあ行きますか」
「まずは、ギルドに行くと良いと思います。そこで、冒険者登録ができますので」
「はいよ。了解」
「あと、登録に必要な、資金です。向こうでは単位は円ではなくエリスとなっています」
そう言い、アンは十六夜にジャラっとお金らしきものを何枚か渡す。
十六夜はそれをギフトカードに入れるといよいよ出発に備える。
アンがまた前に手をかざすと十六夜の足下に魔法陣のようなものが現れる。
「それでは、逆廻十六夜さん。これからあなたを、異世界へ送ります。魔王を倒した暁には、たとえどんな願いでも。たった1つだけ叶えて差し上げましょう!……願わくば、数多の勇者候補の中から、あなたが魔王を打ち倒す者となることを祈っています」
「ああ。一度死んだ俺をまた、面白そうな世界に招待してくれるんだ。その分の仕事はしてやるよ」
魔法陣の光が増し、十六夜を光が包む。
目を開くと、そこにはまるでRPGの中のような街並みが広がっており、十六夜はワクワクを隠すことができない。そもそも隠すつもりもない。
「さよなら、第2のマイワールド。こんにちはニューワールド!此からは……此処が俺の世界だ!」
と、まあこんな感じでやっていきたいと、思っています。
「女神アン」というのは、アクアの後にあの場所をまかされたあの女性です。
なんか、「あの」ばっかりだ(笑)
十六夜がギフトカードに残した物は、猫耳といったら「アレ」ですよね。
では、次回からは、完全にこのすばの舞台でいきます。
ぜひ、ご感想お待ちしております。