サラザール・スリザリンの憂鬱 作:サラザール・スリザリン
創始者としてホグワーツの現状をしっかりと見極めていた私であったが、今は大広間にいる。
これから新入生の組み分けが始まるのだ。
いつまでもホグワーツの現状に頭を痛めていても仕方がない。
大広間は、新入生を迎えるため、そして新たな年度の始まりを迎えるために美しく彩られている。
輝く黄金の皿にゴブレット。
グリフィンドールの真紅と黄金。
ハッフルパフのカナリア・イエローと黒。
レイブンクローの青と銅。
そして、スリザリンの緑と銀。
天井には魔法がかかり、一面に星空が広がっている。
そして室内に浮く蝋燭の火。
そんな中、新入生たちの組み分けは始まった。
かと思いきや、いきなり訳のわからない帽子が置かれ、更には帽子が歌い始めた。
「グリフィンドールに入るなら、勇気ある者が住まう寮。勇猛果敢な騎士道で、ほかとは違うグリフィンドール。」
「ハッフルパフに入るなら、君は正しく忠実で、忍耐強く真実で、苦労を苦労と思わない。」
「古き賢きレインブンクロー。君に意欲があるならば、機知と学びの友人を、必ずここで得るだろう。」
「スリザリンではもしかして、君はまことの友を得る?どんな手段を使っても、目的遂げる狡猾さ。」
あまり長々と垂れ流すほど上手くはない、というか下手だ。
そういえば、私達の死後に組み分けを任せるという帽子を作った覚えがある。
それにしてもあの帽子、スリザリンに対して差別的ではなかろうか。
なぜ一つだけ疑問系なのだ、納得できん。
どうせ私がいなくなった後にゴドリックが手を加えたのだろう。
そういうところだけには無駄の知恵の働く奴だった。
そして、今度こそ新入生の組み分けが始まった。
とはいえ、一人当たり十五秒はかかっているせいか、待ち時間が非常に長い。
ハリー・ポッターは列車の中で一緒にいた友人らしき人物と話している。
しかし、私には話す相手などいないし、かと言ってせっかくの組み分けの儀から席をはずすのも考えものである。
適当に大広間の事について語るとしよう。
まず目を引く満天の星空に見える天井だが、この魔法をかけたのはヘルガである。
魔法の技術なら私やロウェナの方が優れているし、単純な腕っぷしでも他の三人には劣っていた彼女だが、こういう見た目重視の魔法に関しては強かった。
また、本人がロマンチックだと感じると、その構想をすぐに魔法にして見せた。
どんな魔法でも感覚的に使いこなす彼女は、ゴドリックとはまた違った才能の持ち主だと言えるだろう。
その才能のおかげか、ことさら感情を魔法に組み込むのは上手かった。
何しろ、私やロウェナが必死で感情を魔法理論に組み込み、ゴドリックがとにかく練習あるのみと手当たり次第に魔法を使う横で、次々と魔法を成功させるのだ。
それが無意識だとわかった時の、私達三人の気持ちを理解してくれるだろうか。
あれほど理不尽に感じたのは、私の千年を越す人生においても両手両足で数えられるほどだろう。
だが、そんな彼女の本当の恐ろしさはこんなものではない。
自身が強力な魔法使いであるにも関わらず、彼女はまったく後先考えず行動するのだ。
その性格ゆえ、あまり危険な魔法を好まなかったのが唯一の救いと言ってもいいだろう。
実は、この大広間に浮いている蝋燭は彼女のせいで私が考案、製作したものなのだ。
もちろん、当初は普通にシャンデリアや燭台を使う予定だった。
しかし、その予定を無視した彼女が天井一面に空が見えるようにしてしまったせいで、その計画は大きく変更になってしまったのだ。
そしてその尻拭いをしたのが私というわけである。
まあこの程度の理不尽など、両手両足の指で二進法を使ってちょうど表せるかどうかというほどには舐めさせられてきたのだが。
ちなみに、両手両足の指で二進法を使って表せるのは2の20乗−1、つまり1048575までだ。
む、こんなことを話していたらすでにハリー・ポッターの順番である。
あの帽子、よく見てみると開心術を使っているようだ。
元はゴドリックの帽子だし、私はよく知らなかったのだ。
どうせ、このあと校長に生徒たちの心でも話すのだろう。
さらによく見てみると、中にゴドリックの持っていた剣まで入っている。
やはり、あの帽子はグリフィンドールを優遇しすぎではないかと思わざるをえない。
私はともかく、女性陣に話を通していたのか甚だ疑問である。
私がこんなことを考えられるくらいには考え込んでいた帽子だが、やっとハリー・ポッターの寮を叫ぶ。
「グリフィンドール!!」
その瞬間、グリフィンドール寮から歓声が上がった。
私としてはスリザリンにして欲しかったが、ゴドリックと同じ臭いを漂わせるハリー・ポッターがグリフィンドールに入るのは私から見ても当然の流れである。
むしろ、あの帽子がそこまで考え込んでいたことに疑問を感じる。
案外、"臭い"などという曖昧なものには疎いのかもしれない。
その後、何の滞りもなく式は終了し、生徒たちは眠りについた。
気になったことといえば、クィリナス・クィレルとトム・マールヴォロ・リドルの件について、すでに校長が感づいていそうだったことだ。
どうやらあの校長、案外やり手の狸じじいのようだ。
魔法の実力も相当に高いとみていいだろう。
おそらく、技術だけならばトム・マールヴォロ・リドルよりよっぽど上だ。
戦闘能力でも勝っているだろう。
しかも、どうやらだいぶ長く生きている模様である。
少なくとも、何か不老不死に準ずることをしているのは想像にたやすい。
しかも、ホグワーツの校長ならば、私たち創始者たちの残した結界や遺産などもある程度操れるとみて間違い無いであろう。
私の存在に気づく可能性もある、これまでよりも警戒しなければ。
どうやら、少なくともこの先七年は退屈しないで済みそうだ。
続く可能性が無きにしもあらず。