どこにでもあるFate/のオリ鯖参戦系の他愛ないお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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気力充実の日々は過ぎて

 夏にはキャンプに行ったりもした。藤ねぇの来訪がきっかけだった。

 いつかこういうことやりたいですねーって、クロリストを通して相談に来たらしい。

 「ならばよし! 出来るだけいろんな経験をしといたほうがえーよ!」というクロリストの計らいで、夏に来ることになった。

 かといってヒロライン内ってわけじゃなくて、きちんと現実世界でだ。

 

「穏やかな山へ来て、綺麗な小川付近で野営……これは心が落ち着く。主、誘っていただき───」

「いいってばディルちゃん。ほっとけば一日中道場にこもってるようなキミなんだから、たまには羽を伸ばしなさい。あと感謝を、っていうのならもう散々聞いたからオッケイ」

「はっ」

 

 ディルムッドさんがクロリストを前に丁寧に頭を下げ、早速野営準備。

 かつての時代よりは楽に、かつ襲撃に備えすぎる必要もないので、準備自体はあっという間に終わった。英雄ってすげぇ。握力とかどうなってるんだろう。

 

「緊張してきました……いえ緊張ならずっとしていましたが、今まさにとなると余計に……。料理……料理ですか。己で己の糧を作る……これは緊張するなという方が難しい」

 

 今回は班分けをしてあって、適当に分かれての準備。

 男女が一緒なのは夫婦組くらいで、あとは当然男か女かで分けてあるそうだ。

 まあ、寝る時にテントを別にすればいいだけの話なんだろうけど。

 消壺持参を却下されたアルトリアは、自然と戯れ自然を愛し、自然に感謝をしたのちに釣りを開始。

 各々、今回はクロリストが料理をしないということもあって、美味しい食事にありつくために頑張っている。

 

「ふむ、やはり釣りはいい。座して待つだけで相手が勝手にかかるなど、我にうってつけではないか。そして手元には少年ジャンプ。これぞ王たる振る舞いというものよ」

 

 よくわからないけど、メソポタミアの王ってそれでいいらしい。

 釣り糸を川に垂らし、用意した黄金の椅子にドッカと座ってジャンプを読み、「っはっはっはっはっは!」と笑っている。

 

「おいウェイバーよ! 来る途中で熊に注意と書いてあったろう! 山を征服せんとするならば、まずは山の主を仕留めねばだ!」

「お前久しぶりの休暇に人を連れ出しといて、やることがそれなのかよ! 熊だって必死こいて生きてるんだろうからそっとしとけってばか!」

「んん? ならば食事はどうする。言っておくが余は、釣りのようなちまちましたのは好かんぞ?」

「糧を得るって状況で我が儘言うなよ……。米はクロリストが持ってきてるそうだし、あとはおかずになりそうなのがあればいいんじゃないか? 山なら山菜とかもあるだろ」

「余は肉が喰いたい!」

「熊を仕留めたって、処理の仕方なんて知らないんだぞ僕は! 日本料理だってそうだ! ていうかそもそも料理自体が……!」

「ほう、なるほどなぁ。これはいよいよもって手探りの野営となりそうだ。まあなんとかなるだろう! なんとかすればいい! どうとでもなる! 魚が欲しければほれ! そこの川に腐るほど泳いどるわ! 釣りが面倒であるならば、己が手を以て制圧、掌握すればよい!」

「あ、おい馬鹿っ! そんなばしゃばしゃ川に入るなったら! 今下流の方でギルガメッシュが釣りして───!」

 

 ……大方の予想通り喧嘩が始まった。

 釣りのなんたるかを説くギル兄ぃ(こう呼べって言われた)と、己が王道を自由に貫く征服王の問答に落着はなく、どこまでいっても平行線っぽかった。

 

「コォオッ……フッ!《ドゴォオオン!》……ふう」

「綺礼殿? 寸勁で木の実を落とすのは、動物もびっくりするので……」

「軽く揺らす程度では落ちてはこないだろう。昇れば楽だろうが、子供に見せる業とも思えん」

「カレン嬢なら、聖骸布で木の実を叩き落としておりますが」

「……あれには少し、聖骸布以外を使った行動を教えねばな」

「おっと、またカレン嬢を“あれ”と言っておりますぞ? 気を付けねば」

「む…………親とは、難しいものだな。教えてやれることは多々あれど、まず親らしい振る舞いを親が知らんとは」

 

 あちらこちらへ行けば、いろいろな人のいろいろな顔が見れる。

 概ねいつも通りだ。みんな自由だから。うん。ほんと。

 

「“騎士は徒手にて死なず(ナイト・オブ・オーナー)”……はぁあああっ!!《ザシャシャシャシャシャボワッ!》……ふう」

 

 一方ではランスロットさんが太めの枯れ枝と枯れ木の残骸をこすり合わせ、火をつけていた。

 純粋に摩擦だけで火が起こせるとか、ほんと英霊ってすごい。ていうか生前の知識とか使って火を熾したりはしないんだろうか。

 ……え? もしかして生前からあんな感じで?

 ルーンとか使ってたほうがまだ説得力ありそう。

 

「すまない、助かるよバーサーカー。クロリストにライターの使用は禁止されていて」

「いいや、これくらいはな。それより雁夜、いつまで私をバーサーカーと呼ぶのだ。ランスロットで構わない」

「あんたにも迷惑をかけた。償いってわけでもないが、勝手に呼び出した罪悪感みたいなものなんだ。受け入れてくれると助かる」

「《こくり》火……ありがとう。調理は、私がするから……」

「……そうか。ではアサシン、あとは頼む」

「むしろ誰にもゆずらない……任せて」

 

 で、あとはセレネさん無双。

 好きな人のための料理の腕は随分と上がったようで、てきぱきと採ってきたらしい食材で料理を作る。

 もちろん素手で掴んだりしているので、雁夜さん以外は食べられないオンリーワン料理。

 毒入りなのに幸せそうに食べられる雁夜さんは、ほんとの意味でアイアンストマックの持ち主だと思う。アイアンどころじゃ毒で腐敗しそうな気もするけど。

 ここはいいから、と促されて移動を開始すると、米を洗うジャンヌを発見。

 その近くではアルトリアが枯れ木と格闘をしていた。

 

「《しゃこしゃこしゃこしゃこ》米を……洗って……洗う……研ぐ……? くっ、農家の娘なのに米を知らないだけでこうも……! い、いえ、焼くだけなら! 焼くだけなら……!」

「火を熾すのは……木くずと摩擦熱、でしたね。くぅ、もっとなんでも自分でやる王であるべきでした。火、ひとつを熾すのに、こうも迷うとは……! ええい躊躇はいらない! 野営の基本は獣になることだ───! はぁあああっ!!《ゴシャシャシャシャシャシャボワッ!》……おお! つきました! ジャンヌ見てください! 火が熾りました!」

「えっ? は、はいっ、ではこのお米を焼いて───」

「何故そうなるのだ! ジャンヌ、あなたは間違っている!」

「なっ……食べるばかりだったあなたに言われたくありません!」

「ししし失礼な! 私とて芋を焼いたことくらいは!」

「わたしだって食材を焼いたことくらいは!」

「………」

「………」

「……聖杯は何故、現代におけるサバイバル知識を与えてくれなかったのでしょうね……」

「まったくです……。いえ、わたしの場合は聖杯は関係がないので、ヒロミツさん側なのですが……どうしてか料理に関しては特に知識が齎されず……。ああいえ、嘆いていても始まりません。それに、悲観は要りませんよアルトリア。先ほどは少々動揺してしまいましたが、ここに飯盒でのお米の炊き方が記されたメモがあります」

「おお……! では少なくとも炊けたお米は食べられるのですね!」

「そういうことです。メモをそっと握らせてくれた主に感謝しましょう」

「ヒロミツ……感謝します」

 

 二人してなんだか祈ってた。

 いや……たぶん心配だっただけなんじゃないかなぁ。

 というか、どうしてあのペアになったんだ。

 そういう俺も、子供組だったりするんだけどさ。

 枯れ枝探しと山菜などの調達を頼まれている。

 カレンは銛で魚獲り、桜は米炊き、イリヤは木の実探しだ。

 中でもイリヤはとっても得意そうな顔をしていた。

 木の実とか、そういうのを探すの、慣れてるんだろうか。

 

「吸水、とやらも完了しました。ふぅ、これで炊けますね。アルトリア、火の状態はどうですか?」

「始めちょろちょろ中パッパ……最初は弱火を当てるようですね。ええ、ぬかりはありません」

「では枝を組み立てて……飯盒を吊るして、と……これでよし」

「あとは火を調節、ですね」

「薪……ではありませんが、枯れ枝をくべて調節しながら……なかなか難しそうですね」

「薪を調達してきます。どうか、絶やさぬよう」

「ええ。身命に代えても」

 

 いやそれだめでしょ。

 命大事に! あとジャンヌがそれ言うとシャレになってない気がするからやめて! みんなの逸話とか歴史とか、クロリストに教えられたし調べてもあるから、そういう冗談がたまにつらい! どれだけご飯食べたいの!?

 こっちもこっちでやることあるのに、どうしても金髪コンビの様子が気になって仕方ない。

 俺達の組の焚き火ポイントも、そう離れてはないけど……あっちに居たんじゃ会話とか聞こえないから。

 

「沸騰しました!」

「ではここで火力を上げます。ジャンヌ、薪を。あ、ただしいっぺんに入れると逆に火力が弱まるそうです」

「わかりました。少しずつ、ですね。蓋に重石を乗せて、と」

「はい。あとは音を頼りに調節すればいいそうです。中の水が少しずつ蒸発して、グツグツがチリチリなどの焼ける音に変われば炊けた証拠です。もちろん音を聞き分けて火力を抑えるのも大事。音を聞き分け、燃えている薪を少しずつとどかしたりしましょう」

「ええ。……グツグツ、グツグツ~…………アルトリア? ぐつぐつが聞こえない場合はどうすれば?」

「え? いえ、そんなはずは。沸騰したばかりでグツグツが聞こえないなど」

 

 まさか嘘でしょう? と確かに見た目でも湯気を吐いて沸騰しているように見える飯盒に、アルトリアが近づくと、

 

『オォオ~……ヒロミツゥウ……! アツイィイイ……! ヒロミツゥウ……! タスケテェエ……ヒロミツゥウウ……! ヒロヒロヒロヒロ……!』

 

 グツグツどころか謎の怨念めいた声をゴポゴポと出して「ヒロミツゥウーーーーッ!!」アルトリアが風を纏って地面を蹴り弾いて疾駆した! その先にはカレンに銛の使い方を教えているらしいクロリストが「え? な、なにアルトリしぎゃああああっ!!」……やっぱりボコボコにされた。

 のちにずりずりと引きずられてきたクロリストが、ドチャリと飯盒の前に捨てられた。

 なのにシャキンとすぐに復活してみせるんだから、もう本当に、人をからかうのに命張ってるなぁと思うのだ。

 

「まったく! またくだらない悪戯を! 食欲がなくなるようなことはやめてください!」

「えっ……!? な、なくなる……の……!?」

「………」

「あ。……ジョワァーーーッ!!」

 

 ボコボコリターンズ。

 しかし彼は今回、クワッと気迫を見せるとその拳から逃れてみせ、不敵に笑ってみせた。

 

「ジョワジョワジョワ、ジョッ……ゲフッ……! ジョゲッホ……! ちょ、喉殴るのやめて……! キン肉マンを愛する者として、笑い方くらいは綺麗に真似たいのよ僕……!」

「知りません」

 

 無慈悲であった。

 ジリリと距離を詰めんとするアルトリアを前に、クロリストはサッと構えると、その眼光を以て近寄らせようとしない。

 

「ジョワジョワジョワ! 言い掛かりで人を───……あの、アルちゃん? ジョワジョワ言った途端に“またか”って顔するのやめて? 博光何気に傷ついちゃう」

「はぁ……今度はなんですか? 今の私たちはとても集中しなければならない状況下に居るのですが」

 

 見れば、飯盒がしゅんしゅん泡を吹いている。

 しっかり火力を調節しながら、きちんと様子を見たほうがよさそうだった。

 

「ジョワジョワ、どうやら飯盒が気になって仕方がないようだな~~~っ! だがそれはこの博光を倒してから心配することだ~~~っ!」

「貴方はここになにをしに来たのですか!」

 

 キャンプに来た。それは間違いないんだけどなぁ。

 

「ジョワラジョワジョワ! 甘いぜ正義超人! 動いた方がキャンプでの食事は美味くなるのさ! 俺は貴様らに美味しい飯を食べてもらおうと動いてもらってるんだぜ~~~っ!? 感謝してほしいものだなーーーっ!」

「いちいち声を伸ばさないではっきり喋ってください!」

「キッ……キン肉マンキャラに向かって言ってはならんことを! 貴様ゆるさん! 明日の朝刊載ったぞテメー!」

「えぇええええええっ!?」

 

 とんでもない理由で怒りだしたクロリストは、なにやらポケットから入れ歯みたいなものを取り出した。

 思わず構えるアルトリアはきっと正しい。クロリストの行動はいちいちおっかないから。

 

「ヒロミツ……まさかそれは……! エボリューションマウスピース!?」

「アルトリア、知っているのですか?」

「はい……! エボリューションマウスピース……私が博光の対処のために読み始めた、キン肉マン二世にて存在するアイテムで───」

 

 打倒するためとかじゃなく、対処っていうのがまた……さすがクロリストというか。

 ジャンヌが顔を赤くして申し訳なさそうにしてる。

 

「あれはただのマウスピースではありません……! 自らを加速させる魔術的能力があり、恐らくは固有時制御といった魔術というよりも、魔法的なものなのです!」

「…………アルトリア。なにげに楽しんでいませんか?」

「ななななにを言うのですジャンヌ! そんな、私が普通ならば見られる筈の無いものを前に興奮するなど! それよりも気を付けてください! あれは口に入れて噛みしめたのち、時間を加速することで体が時間にこそ溶け込むように溶けてゆき、消えたと思えば既に攻撃を完了しているようなアイテムなのです!」

「───! そんな道具まで……! さすがはヒロミツさん……!《ぱああ……!》」

「ここは信仰を深めるところではなくてですね!?」

 

 そうこうしているうちにクロリストはマウスピースを口に入れて、それを噛み締めた。

 邪魔すればよかったんじゃないかなぁと思っても行動しないあたり、二人も案外楽しんでいるのかもしれない。

 

「“加速能力(アクセレイション)”!《カチッ───ビシュワーーーッ!!》」

「───! ジャンヌ! 来ます! 貴女は飯盒の守りを!」

「はい!」

 

 クロリストの体が輝き、本当に溶けてゆく。

 これが時間に溶け込み加速する技───!

 知っているとはいえさすがのアルトリアも、……あれ? なんかすっごい目を輝かせてる。

 でも対処できるように鎧とかを召喚装着して、見えないけど剣も構えているようだった。

 

「時間超人の能力……見せてもらいましょう! そして打ち破ってみせます!《クワッ!》」

 

 目を輝かせ、見えない剣を握り込み、重心を低く即座に動けるように。

 一方のクロリストは輝きながらシュゴオオオと溶けてゆき、ついに───!

 

「………《どろり》」

 

 …………ついに。

 

『……《ドロ……》』

 

 ……。

 

「溶けるだけですかァアアーーーーッ!!」

『《ベボチャア!!》へきゃあーーーーっ!?』

 

 どろりとした輝く液体となって地面に落ちて、アルトリアに蹴られていた。

 五体の概念は残っているらしくて、蹴られた顔面らしい部分から血を吐いていた。見事なトーキックだった。液体も『カッ……カハーーーッ!』って痛がってる。

 

「おぉおおおおおあなたという男はいつもいつもいつもいつもォォォォ……!!」

『《メキメキメキメキ……!!》グアッ……! ゴゲッ……! アベシャリッ……! ゲリッ……!』

 

 さらにそんな輝く液体を片手ずつでしっかり握り締めると、丁度そこは首だったようで伸びる上に絞まる絞まる。

 右手を完全に握れるほどに締められて、さらにその下で左手がギウウと絞めているから、もうなんというか……その上の苦しんでる顔が外道・スライムみたいになって苦しみ震えているもんだから、いろいろとアレだった。

 

「あ、ジャンヌさん、もうチリチリなってきてるから、炊けてると思うよ?」

「あ、っと。ありがとうシロウ。あとは火から下ろして……蒸らすんでしたね。───主よ、今日も糧を頂けることを感謝します」

 

 ジャンヌが手を組み、目を閉じて祈りを捧げる。

 いや……その主神様、現在ものすごーく首を伸ばされながら絞められてるよ? 五体の概念はあるけど骨はないみたいだから、伸びること伸びること。《ガクッ》……あ、オチた。

 

……。

 

 食事が終わると自由行動。

 山の探索なんて初めてだからと張り切って駆け回った。

 もちろん、体力づくりの一環って名目もある。

 カレンと桜はクロリストと体術修行をしたりして、技を教えてもらっているようだ。

 

「よいですかな、お子めらよ。敵であるからには容赦は要りませぬ。特に目指すものが暗殺者とくれば、情報を聞き出す時以外の加減などは無用なのです」

「はいっ」

「わかりました、クロリスト」

「ようがす。では先ほど教えた技の実践にかかりましょうぞ。どこからでもかかってき《ガシィッ!》ハッ!?《グワキィ!》グワラア……!」

 

 構えた途端、カレンが動き、クロリストの右腕に飛びついた。

 次いで左腕に桜が飛びつき、二人の足がクロリストの首に絡まって───!

 

『雷三角絞めーーーっ!!』

「《グワァキィ! ガクッ》」

「落ちたーーーっ! ロビンがーーーっ!!」

 

 5秒で終わった。

 ザムゥ~と倒れたクロリストは、例のごとくグビグビと謎のロビン汁を吐いている。

 しかしすぐに復活すると、二人の容赦のなさを褒め称えつつ、次の訓練に移っていた。

 でも防御鍛錬とかになるとほんと容赦ない。外道を自称するだけはあって、投げ技とか組み技とか……なんでかキン肉マンの技ばっかだったけど普通にやってたし、目潰しのために毒霧とか普通に吐くしでいろいろととんでもない。

 俺ももっと頑張らないとだ。

 言峰さんに言われた鍛錬の途中だ、気をしっかり引き締めよう。

 

「トルネードフィッシャーマンズスープレェーーーックスゥッ!!」

「《ギュルルルドグシャアア!!》ふきゅうっ!?」

 

 ……カレンの潰れるような声が背後から聞こえたけど、気にしちゃいけない。

 次いで桜の悲鳴も聞こえたけど、先へ先へだ───!!

 

……。

 

 で。

 

「キャンプに来てどうしてそこまでボロボロになれるの!?」

 

 鍛錬ののち、戻ってみたら正座で叱られてるクロリストを発見。

 怒っているのはアイリスフィールさんだった。その後ろの方では、服が汚れたカレンと桜が藤ねぇに頭を撫でられている。

 

「コココ……なんにもわかっちゃいねぇぜこの人妻め《べぱぁん!》げひゅん!!」

「その人妻って言うのやめてって言ったでしょうもう!!」

「なんだと人妻てめぇ! 大体こんな河原の石ばかりの上に正座させるなんて、まったくなんのつもりだ! 私は高貴で気高い漫画家だぞ!?」

「いつ漫画家になったの!?」

「そもそも人を座らせておいてなにもないとは……おい人妻てめぇ、茶がねぇぞ茶が《べぱぁん!》げひゅん!!」

「叱ってるのにお茶が出るわけないでしょう!? もう!」

「な、なんて乱暴な人妻なんだこの人妻め……! 舞弥嬢にはマダムって呼ばせてるくせに、僕が人妻って呼ぶのは嫌がるなんて……!」

「あぅっ!? え、と……そ、それはっ……!」

「! ……ほォオオ~~らァァア~~~っ! そこんとこどうなんだよ~~~~っ! 説明しておくれよホォラァ~~~~ッ!!《べぱぁん!》げひゅん!!」

 

 優位に立ったと見るや、ここぞとばかりにふんぞり返った顔がビンタで曲がった。

 うん、あれはほんとビンタされても許される顔だった。顔がやかましいというか鬱陶しいというか。相手が嫌がる顔を熟知してるなぁほんと。

 

「ち、ちくしょー! ぽんぽん叩くんじゃねーざます! 大体鍛錬してるんだから服が汚れるくれー当然のことざます!」

「服が汚れるどころか体全体がボロボロだって言ってるの! あれじゃあ楽しめないじゃない!」

「汚れに反して傷はとっくに治療済みよ! この博光をおナメでないよ!?」

「だから癒せばいいだけの問題じゃなくて! もっと楽しいだけのキャンプに出来なかったの!? って話で!」

「ええいああ言えばこう言う! だからつまりですな!? 僕が言いたいのは───……お? …………ははははァ~~~ん? わかりましたよこのアレクサンドリア・ミートの頭脳を以てして~~~っ!」

「なっ……なに? 言っておくけれど、このキャンプに関してはわたしも怒って───」

「いくら欲しいんだよ~~~~っ!! えぇ~~~~~~~っ!?」

「カァアーーーーッ!!」

「《バゴシャア!》つぶつぶーーーーっ!?」

 

 ……横で見守ってたアーサー王の拳が、涎を垂らして財布から札束ちらつかせてた満面の笑みのクロリストの顎を砕いた。

 砕かれたクロリストは地面でのたうち回りながら、「うきっ! うきっ!? うきぃいーーーっ!!」と顎の大激痛に苦しんでいた。

 うん、でもまあ、ほんと鍛錬だから、べつに気にしなくていいんだけどなぁ。

 俺もカレンも桜も、全然気にしてないし。イリヤ姉ぇは気にしてるけど。

 

……。

 

 お説教タイムがクロリストの逃走によって終わり、現在はやっぱり自由行動中。

 川を上ってったところで滝を見つけたりして妙に興奮した。

 滝ってなんかいいよな。胸がわくわくする。

 

「ビィイイーーーッグ!!《ドッチュゥーーーン!》フォォーーール!!《だっぽぉーーーんっ!!》」

 

 ほら、クロリストだってビッグフォールグリフォンの真似して飛び込みとかしてる。

 ていうか滝壺から滝の始まりまで自分で飛んで、そこから落ちて飛び込みするとか常識的じゃないと思う。

 ちなみに何故か等身大マスオ人形を持ちながらの飛び込みだった。

 

「素晴らしき着こなしインド人……───博光です《バァアーーーン!!》」

 

 で、結構深い滝壺から浮いてくるなり、水の上に立ってポーズを取っていた。

 なんでインド人? 海パンとインド人なんて関係ないだろうし。

 そう、現在クロリストは海パン一丁だ。

 こうして見ると筋肉とか凄い。細マッチョってやつだろうか。

 かつて、精霊様に無理矢理全身筋肉痛地獄を味わわされ続け、完成した究極の筋肉バランスらしいけど。

 

「ほーらー、ジャンヌちゃーん、がんばれー!」

「へぁあああああのあのあのあのあ主よ、しゅしゅしゅ主よ、ヒロミツさん、あの、あののあのあの……! わわわわたしは、川は少々……!」

 

 一方のジャンヌはえーと。黒の……ビキニ、だっけ? と、その上にピンクっぽいパーカーを着ている。

 引け腰になってて、川の水を見るたびにごくりと喉を鳴らして、たまに「ひぃ」と声を漏らしている。

 

「大丈夫! このあたりまではきちんと足つくから! ごらんなさい少女たちを。きちんと足をつけているでしょう?」

「ジャンヌは怖がりすぎです。水がなんだというのですか。さあクロリスト、新しい水着です。どうですか?」

「え? うん。新しいね」

「いえあの、そうではありません。似合っているかどうかと───」

「ひ、博光さんっ、雁夜おじさんと買いに行ったんだけど……その、似合ってますか?」

「おぉ、おぉ、似合っちょーよ、めんこいめんこい。桜ちゃんはあれやね、将来おっきくなりそうね。この歳でもうそれほどの戦闘力とは……」

「?」

「クロリスト、セクハラです」

「セク……ハラ……はらたいらさんってセクシーだったのか……」

「いえ、そうではなくて」

 

 さすがに水に入るって時に聖骸布は持っていないらしく、絞めたくても絞められないカレンはちょっともじもじしてる。

 桜は褒められて笑顔だし、ジャンヌは……

 

「水、水……ひぃ冷たい……! こんなところに沈んで楽しむなんてどうかしているのですわたしはべつにこんなことはしたくないといったのにでも主の導きならばいかないわけにはでもでもあわわわわ……!!」

 

 目はぐるぐる、口は歪んで、やっぱり腰は引けていて、手は当てもなく彷徨っている。

 そんな彼女を前に、クロリストは「んもう仕方のない」とニコリとスマイル。

 

「いいかいジャンヌ、僕のやる通りにやってごらんなさい」

「……! は、はいっ、主よ……!」

 

 声を掛けられた途端、ジャンヌの顔が安堵と歓喜に輝く。

 見捨てない神の存在に触れたその聖女は、それはそれは可愛らしい笑顔を咲かせた。

 

「ではゆくよ? 肩~をほ~ぐしって、アッキレ~ス伸~ばし~てっ♪ も~んがもんがっ♪」

「え? あ、え?」

「準備運動終わりィイーーーーッ!!《ゴシャーーーアーーーッ!!》」

「ぇええーーーーーーーっ!?」

 

 肩とアキレスを伸ばしたと思ったら、なにやら小さな肉ダルマとなって飛んで行ってしまった。

 ご丁寧に足のつま先で水を切りながら、少しずつ浮上して。

 それを見た聖女、当然困惑。

 しかし主の命とあらばと、まずは肩をほぐす運動から───!

 

「か、肩を……ほぐ……!」

「ジャンヌさん! やらなくていいから! あれ真似るのは無理だから!」

「しかしシロウ……! 主が……! ヒロミツさんがやってごらんなさいと……!《ぐるぐるぐるぐる……!》」

「目が回ってますから! もうわけがわからなくなってるなら諦めていいんですって!」

 

 俺と、もはや元気に喋れる桜を前に、ジャンヌはあわあわと戸惑いながら運動を開始。

 しかし終えてみても空は飛べず(当たり前だが)、無力を感じてシャパァンと水辺に力なく座り込んでしまった。

 桜は思った。真面目なんだなぁ……と、しみじみ。

 やがてどういった原理で飛んでいるのかわからない肉ダルマがホバリングしつつ戻ってくると、彼は元に戻り……普通に泳ぎ方を教えた。

 ああ、うん、からかいたかっただけなのか。いつものクロリストだ。

 妙に安心した桜は、ジャンヌと倣うようにクロリストに教えを乞うた。

 

「……カレン?」

「いえ。祈りを捧げる修道女に水泳なんて必要ありませんから」

「……泳げないんだ?」

「泳げないわけではありません。きっと泳げます。経験がないだけで」

「泳げないんだよね? 一緒に教えてもらお?」

「…………桜は大物ですね。きっと大きくなりますよ、いろいろと」

「?」

 

 そうして水泳教室が始まった。

 手を引かれてぱしゃぱしゃバタ足をするジャンヌは、なんとも幼く見える。

 19歳でその人生を閉じたのだから、若いのは当然なのだが。

 

「農家の娘でも陸地に生きたの? キミってば」

「いえっ……それなりには泳げたのですが、遺灰を川に流された影響からでしょうか……! 情けないことに体が震えてしまって……!」

「うぬ、それは博光うっかり……。よっしゃ、じゃあゆっくり慣れましょう。この博光、基本は外道でございますが努力をする者は嫌いじゃござーません。キミに水の精霊、ウンディーネの加護を与えませう」

「《ホワ……》あ……あれ? 少し、なんだか水が……」

「恐怖が和らいだでしょ? んじゃ、ゆ~っくりね」

「は、はいっ」

 

 ジャンヌの水泳の特訓は続く。

 俺はといえば、クロリストに言われて桜の手を引きながら水泳の手伝い。

 カレンはカレンでクロリストへ背後から襲い掛かり、よじよじとその背中を上り始めた。

 背中が弱点らしい彼が「ギャアーーーッ!」って苦しがってたけど、肩車状態に落ち着くと、カレンはムフーンとドヤ顔をして落ち着いた。

 それを見た桜が頬を小さく膨らませてたけど……羨ましいのか、あれ。

 

 

───……。

 

 

……。

 

 家に戻ってからは、やっぱりいつもの日常。

 道場で剣術を習って、土蔵で魔術鍛錬をして、終われば料理の勉強をして。

 クロリストがクリスマスにくれたプレゼントは本当にありがたいもので、俺がもらったのは魔術回路だった。

 といっても、元々あの事故以来、俺の体の中……魂だっけ。には、アンリマユってやつの魂が混ぜられているらしい。

 悪であれ、って願われた少年は俺の半身兼魔術回路になって、会話をしようとすればきちんとできたりもする。

 一方で桜は“全ての悪”っていうのをプレゼントされたらしい。

 元々アンリマユが押し付けられたもので、それを乖離して、手に入れたものなんだそうだ。

 どうするか悩んでいたところ、桜の魔術師としての特性が“架空元素・虚数”ってものらしく、それを扱えるっていうので、プレゼントしたんだとか。

 最初の頃は扱えなくて苦労したらしい。

 

「……はぁ。いや、集中集中」

 

 今頃は桜も鍛錬中だろう。

 キャンプで思いっきり羽を伸ばしたし、俺も十分楽しんだ。

 楽しんだなら次は苦労をする。これがクロリストの教えだった。

 彼の場合は自ら突っ込んで苦労しまくって、けどその苦労まで楽しんでるようだけど。

 

「“投影、開始(トレース・オン)”」

 

 俺の魔術回路はアンリマユと、クロリストに貰ったもの。

 体にはよくなじんでくれたけど、正直あまり魔術は得意じゃない。

 それも仕方ない。ついちょっと前までは一般人だったんだから。

 魔術師の子として産まれた桜とかとはちょっと違う。イリヤ姉ぇは規格外だから気にしない。

 

「………」

 

 自分の内側にあるからっぽの荒野を眺める。

 固有結界、っていうらしい。

 使いこなせるようになれば面白いことになるから、って、もうちょい馴染んだら、クロリストが自分の“武具宝殿”っていうのを見せてくれる約束をしてくれた。

 それに対してギルガメッシュがぴくりと反応。

 「ふむ、良い」なんて言って、クロリストを連れてどっかへ行っちゃった。

 クロリストの話だと、それ以降はヒロラインで鍛錬をしているらしい。

 漫画の影響を受けて、“先に立つ男”みたいなのを目指してみてるんだって。

 だらだらと怠惰しきっている自分じゃなく、立派な自分を見た上で、俺に育ってもらいたかった、なんて暴露してた。……その後ろに血管ムキムキにして乖離剣解放してる彼が居ることを、彼はその時まだ知らなかったけど。

 そんなわけで、ギル兄ぃと呼べ、なんて言われるようになった。

 

「……ふぅ」

 

 ちなみにそんなギル兄ぃへのクリスマスプレゼントこそが、“頼れる兄貴、憧れる兄貴物語”っていう漫画だったそうだ。

 イスカンダルさんへのプレゼントは珍しい酒と、ゲームの中にダイヴ出来るアイテムだとか。

 アドミラブル大戦略にダイヴして自分で指揮を執った彼は、もうツヤッツヤになって戻ってきてたっけ。

 ただしやっぱりゲームだから完全自由ってところまでに手は届かず、勿体ないなぁ残念だなぁと言いつつ、やぱり普通にゲームを楽しんでいる。

 

「あ」

 

 どこかでまた爆発音。どうせクロリストだろう。

 今日は桜に架空元素とかの応用を教えるって言ってたから、なにか失敗して吹き飛んだんじゃないだろうか。

 架空元素、五大元素に含まれない、想像上のものを操る、みたいな能力らしいものだから、普通に学んだんじゃ活かせない。

 そこでクロリスト。

 架空や想像のスペシャリストであるモミアゲさんという人の知識のもと、クロリストはしっかりと桜を育て上げているらしい。

 しかし魔術の勉強だけでは堅苦しいので、そこはクロリスト、笑顔で出来る勉強を実行。

 最近の桜は、本当によく笑うようになった。

 その分クロリストにべったりで、「依存はいかんよ?」と言われてきちんとそれも受け取っているらしい。

 そんなわけで最近、桜の影からニョキリと黒いリボンが出てきたりするんだけど。

 あれってなんなんだろうな。

 

「武具宝殿かぁ……楽しみだな」

 

 俺の特性は、死にそうになったところにアヴァロンっていうのを埋め込まれた影響でちょっと変わったらしい。

 さらにそこにアンリマユが混ざったことで、ちょっと特殊な状態だ。

 なんにもない荒野に、これからゆっくりといろいろなものを貯蔵していくことになる、って言われてるけど。

 男ならエクスカリバーとか憧れる。言ったらアルトリアが胸を張ってドヤ顔してた。

 でもモミアゲさんのラグナロクにも憧れる。クロリストのジークフリードもいいよな。

 言ったら頬を膨らませて、「シロウは欲張りだ!」と怒られた。

 食事の際にジャンヌと喧嘩するあなたに言われたくない。

 

「っと、そろそろ昼ごはん───」

 

 土蔵に置いてある時計を見てハッとする。

 今日は子供たち、つまり俺と桜とカレンとイリヤ姉ぇで料理を作る日だ。

 比較されるのは仕方ないとはいえ、早くクロリストたちの料理の腕まで到達したい。

 

「よし」

 

 クリスマスプレゼントに一緒に入っていた白髑髏の飾りを撫でて、立ち上がり、土蔵を出た。

 騒がしさは相変わらず。

 苦笑を漏らして、今日も頑張りますかと腕を振るった。

 

───……。

 

 何年か経った。

 気づけば身長も大分伸びて、体つきも大分がっしりした。

 当然周りの人も大分…………いや、あんまり変わってないかも。

 成長がどうとか言ってたアルトリアも、聖剣の効果でそのままだし。

 ハッと気づいて手放そうにも、武装がないと落ち着かないとくる。

 彼女は彼女でいろいろ悩んでいるようだった。

 

「はぁああ…………!」

 

 土蔵での日課の工程を終えて、魔術回路を休ませる。

 結界から取り出した武器は様々。自分の手に馴染むものは案外と少ない。

 苗字が衛宮になってどれくらい経っただろうか。

 いまいち思い出せない……のではなく、思い出したくないんだろうなと思って、思い出そうとするのをやめた。

 

「固有結界かぁ……」

 

 自分にはそれを引き出すなにかと、それを安定させるなにかがあるって、いつか言われた。言われたのは、本格的に鍛錬をする前だ。

 なりたいものがあって、それになるためになにか一つを極めんとして、俺はそれを選び、今に到る。

 無限の剣製、なんて大袈裟な名前ではあるけど、無限ってわけじゃないし、作るっていうよりはコピーに近い。

 それの行使を続けて、魔術回路もヒロラインで育てて、自分だけでも結構制御できるようになった。

 おさらいみたいな話になるけど、俺の中にはアンリマユっていう、過去に存在した少年の魂が埋め込まれている。

 泥の汚染がひどくて、早急になんとかする必要があったとかで、丁度魂の形が似てたとかで……こうして、俺は生きている。

 一度心肺も停止して、危ういところで、あ、あー……アヴァロン? っていうのを俺に埋め込んで助かって、そのあとにアヴェンジャーの魂が埋め込まれたんだとか。

 その魂が馴染むとアヴァロンは抜かれて、俺自身の魂が癒される頃には、アヴェンジャーの魂は魔術回路になって俺に馴染んだ。

 お蔭で魔術行使もそう苦じゃなくなったものの、あくまで“そう苦じゃなくなった”程度。アヴェンジャーっていうのはべつに立派な英霊とかだったわけじゃないらしくて、俺と彼とでようやくまともな魂ひとつ、ってくらいの存在らしい。弱いな、俺。

 なので子供の頃から一時間を一ヶ月に変えるヒロラインでみっちり鍛錬、それを今も続けているお陰で、大分いろいろと安定してきた。

 

「日々の積み重ねも夢への一歩。頑張ろう」

 

 そう、俺には夢がある。

 なりたいものがあるんだ。

 必ずそれになる。なりたいだけじゃ足りない。なるんだ。

 

「───」

 

 息を吸って、精神を安定させる。

 自身を内側に埋没させるつもりで、そうした上で内側を外へと出すように。

 

 

 ───希望はハサンで出来ている

 

 いつでもハサン 誰でもハサン

 

 幾数の触媒を無視しハサン

 

 ただ一度の例外もなく 大魔術師だろうとやはりハサン

 

 担い手は常にハサン ハサンの山で自身を問う

 

 故に全ての障害に他愛はなく

 

 その希望は、無数のハサンで出来ていた

 

 

 ───……。

 

「はぁああ……!」

 

 意識を内側から戻す。

 すると、僅かながら広がっていた心象風景も内側へと戻って、滲み出ていた汗を拭うとどっと疲れが出てくる。

 さすがに日に何度もやるもんじゃない。

 ただクロリストには常に多少開いておけと言われていて、それをずうっと続けていた。

 なんでも、超野菜人1が通常の状態であるように振る舞おう大作戦、らしい。

 辛いものも日常化させてしまえば問題になんてならないってことだ。

 

「まあ、お蔭で」

 

 シャギンと両手の指の間に黒鍵を出現させて、構える。

 それをすぐに内側へ戻すと、次は別の武器を出現させては戻す。

 このように、素早い武器の抜刀も可能なわけで。

 ……内側にあるものを抜き出すことを、剣製なんて言わないよなぁ。

 ともあれだ。

 俺には目標がある。夢がある。

 あの日俺を救ってくれたザイードのように、俺もいつか……立派な、人を救える暗殺者に!《どーーーん!》

 

「初めて口にした時は、アルトリアがすっごい慌ててたっけ」

 

 “何故ですか!? シロウは騎士になるのでしょう!? そんな! よりにもよってアサシンだなんて!”とか言って、我が子が自分の手から離れた親みたいな顔をしてた。

 けど、困ったことにこの家には暗殺者向きな人が多すぎて、参考になることが多すぎて、そりゃあ誰でも目指すってってくらい、お手本が満載だ。

 その証としてクロリストに贈られたのが、“ハサンのしるし”と呼ばれる、ザイードの仮面が小さくなったような装飾だったりする。

 アバンのしるしがどうとか言ってたけど、気にしちゃだめなんだと思う。

 そんなわけでこの衛宮邸に住まう人達はみんな、暗殺者向きな人達だ。

 というかハサン・サッバーハを名乗る人がいっぱい居て、それら全員が暗殺者だっていうんだから、その時点で異常だ。

 俺も衛宮を名乗ってるけど、父親はハサン。ザイードだ。

 俺には人格の数だけ親が居るってことになるけど、まあそれも案外楽しい。

 いろんな暗殺術とか方法とか教えてくれるし、どうやら俺には弓術の才があるらしくて、それを上手く組み込んだ暗殺術を叩きこまれている。

 

「……ははっ」

 

 そういえば、駄々をこねるように“シロウは騎士に”って言ってたアルトリアが、クロリストと取っ組み合いになって暴れてたっけ。

 最後はマッスルミレニアムで窓ガラスをブチ破って、二人して庭でグビグビと泡吹いてたけど。

 いい場所だよな、ここ。

 昔の自分からじゃ想像できないくらいに。

 ただ、まあ、暗殺者一家だからって、カレンも桜もイリヤ姉ぇも暗殺者目指してるってところが、なんというかもう……。

 でもハサンのしるし持ってるし、俺よりも受け取るのが速かったしで、むしろ俺が真似てるみたいで恥ずかしい。

 けどいいのだ。正しく夢だし目標なのだから。

 現代において、目指してなれるものなのか、騎士と同じくらい謎が残るけど、俺の根底はきっとそれだから。

 

「……よし」

 

 剣の丘には、クロリストに見せてもらった武具の数々が突き立っている。

 その数は、数えるだけで馬鹿馬鹿しい。

 クロリストが世界を渡り、名前の通りに記録してきた分だけ、武具は存在していた。

 クロリストが持っていた武具だけでも呆れるほどに。

 まあもっとも、構造を読み取れないものもあって、それらは無いのだが。

 

「ラグナロクにジークフリードかぁ……欲しかったなぁ」

 

 とまあそんなわけで。俺の中には“この世界”の有名な武器なんてないし、あるとすれば言峰さんが見せてくれた黒鍵くらいだ。

 あとはほら、切嗣の起源弾とか銃火器とか。

 俺の属性はアヴァロンを埋め込まれて、死に面した時点で“剣”に変わったらしい。

 けどそこにアヴェンジャーが混ざって、またどうにも複雑になったそうで。

 ああ、言峰さんといえば、暗殺術を学ぶ一環でマジカル☆八極拳も習ったんだけど……あれほんと滅茶苦茶だ。

 ハサンの使徒は全員習ったけど、かなりしんどかった。

 イリヤ姉ぇだけがよく泣き言を言ってたな。それも仕方ない。

 イリヤ姉ぇは、カレンや桜や俺と違って、どこかがコワレるような経験をしていないそうだから、自身を痛めつけるようなことには慣れていなかったんだ。

 まあ、お蔭で中々太い木でも、寸勁で破壊出来るくらいには修めることが出来た。人体に使ったら多分死ぬ。

 

「よしっと」

 

 朝日が差し込む土蔵で立ち上がり、好きな形の武器だったからと取り出していた武器をしまう。

 土蔵から出ると、伸びをしながら空気をいっぱい吸い込む深呼吸。

 大樹に触れてマナを充実させると、魔術回路がドクンと躍動した。

 またちょっとレベルアップしたみたいだ。

 こういう朝は顔がニヤケる。

 男にとって、レベルアップとは嬉しいものなのだ。

 ゲームだろうと現実だろうと。

 レベルアップの瞬間のためにゲームをしている、という人だって居るくらいだ。

 

「……あ」

 

 耳に届く騒音に振り向くと、まあいつも通り、道場は賑やかだ。

 今日もディルムッドさんとランスロットさんが、互いの武を高め合っているんだろう。

 たまに違う人も混ざるけど。

 切嗣さんと言峰さんが、銃と黒鍵で戦ってたのを初めて見た時、体術すげぇって素直に口にしてたっけ。

 そう、体術すごい。

 マジカル☆八極拳の要領で鍛えた氣脈にもマナは充実するし、氣脈は魔術回路の代用品にもなる。

 正直魔術と氣で強化した朋拳とか、大砲の一発級の破壊力だ。

 人の頭など容易く飛ぶから注意しろ、って真面目に説明されたよ、言峰さんに。

 それでなくたって腕で銃弾をガード出来るって。強化繊維なんたらで出来た服とかを常に着ろとかも言われたけど、それにしたって腕で銃弾をとか。

 世界ってわからない。

 

「あ、おはよう、クロリスト」

「オウ? やあ、おはやう」

 

 そんな世界のこんな屋敷にあって、それらの大半を管理する男がコレだ。

 いや、コレでいいって言われたんだ。

 自分が助かった大元がこの人だって言われた時は驚いたけど、扱いなんぞ“コレ”で十分だって、他でもない本人に言われた。

 

「朝ごはん出来とるよ。他のやつら呼んできてくれる?」

「ああ、わかった」

「どおれ今日も我様英雄王を起こしてやるとするか~~~~~~~~っ!!」

「………」

 

 ギル兄ぃとクロリストの仲は、まあ、普通。

 ただ、神性を持つ相手には絶対優位な武具を持っているために、ギル兄ぃはクロリストをとっても苦手としている。

 一度とんでもない我が儘を言いだした時に、一度だけ見せたソレ。

 “比類無き神殺礼装”と呼ばれるものを、彼が霊章から抜き出さんとした瞬間……いわばそれが空気に触れた瞬間、神性を持つ者全員が大量の汗を噴き出させて彼から離れた。

 果たして、取り出されたものは……

 

  モビィイイイ……キャーーーーーーッ!?

 

 ……遠くからチェーンソーの音と、ギル兄ぃが出したのであろう女の子みたいな悲鳴が聞こえた。

 説明に曰く、神性を持つ者なら例外なくバラバラにする宝具らしい。

 神とて一発でバラバラになる。恐ろしい。

 そりゃあ、半分が神なギル兄ぃは文字通り半殺し、というか半バラバラ決定なわけで。

 触りたくもないだろうし、寝てるところにあの音を聞けば、女の子みたいな悲鳴だってあげるだろう。

 

「ギル兄ぃも一度で起きればいいのになぁ」

 

 それで起きないから、いつもあの音で起こされるんだ。

 

「おっと、おはよう士郎くん」

「あ、雁夜さん。おはようございます」

 

 歩く途中、間桐雁夜さんと顔を合わせた。

 穏やかそうな人で、セレネさんの夫だ。

 結婚してもう何年だっけ。癒しとマナの影響か、ここに住む人はほんと歳を取ったって感じがしない。

 なんでも、その気になれば全盛期の姿のままでいられる、なんてクロリストが太鼓判を押してくれて、雁夜さんはそもそも人前に姿を見せるつもりはないらしいから、そのままこの屋敷とヒロラインとで暮らしている。

 あ、きちんと仕事はしてるし、この家にお金も入れているのだ。

 仕事っていうのがヒロライン側のもので、換金してのお支払いってことになるんだけど。

 なにせセレネさんが毒持ちだから、前の家に戻って仕事を、なんてわけにもいかないらしい。どこで誰が毒で死ぬかわからないから、って止められたんだそうだ。

 

「桜を見なかったかい?」

「桜、は……今日はまだ見てませんね」

「そっか。ごめんよ、大した用じゃないんだけど」

「いえ」

 

 穏やかに笑んで、とすとすと歩いていった。

 その先は厨房。

 今日も雁夜さん用の食事はセレネさんだけが作る。

 お互いを支え合って好き合える、いい夫婦だと思う。

 セレネさん、雁夜さんの隣に居る時、すっごく幸せそうだし。

 だというのに同じ衛宮な切嗣は、女性に囲まれておろおろしてばかりだ。

 ああいうのを主人公的ななにかって言うんだろうな。

 ちょっと俺にはわからない。

 

 女性に取り合いされるのってどんな気分なんだろう。

 シャーレイさんにナタリアさんに舞弥さん。正妻としてアイリスフィールさん。

 のちにクロリストによって、舞弥さんとキスをしている場面が公開されてからは、シャーレイさんとナタリアさんも遠慮しなくなったし、一時期は切嗣がアイリスフィールさんの糸でぐるぐる巻きにされて、ジャイアントスウィングのように振り回されてたっけ。

 俺はもしそういう感じになっても、好きな人は一人がいいなと思うのだ。

 ほら、学校で会う遠坂とか、ちょっと気になるし。

 俺が衛宮って苗字であるって知ったら、なんでかやたら声かけてくるようになった。

 一応魔術師見習いであることは伝えてあるし、どうにも知っていたようだったから、今さらどうこうって話でもなさそうだ。

 むしろ家に遊びに行っていいかとか訊いてくる始末。

 

「なんでかイリヤ姉ぇと桜が丁重にお断りしてたな」

 

 “あなたなんかにシロウは渡さないんだから!”とか、“やめてください遠坂先輩には来てほしくないです”とか言って。

 俺の知らない過去になにかあったんだろうか…………いやまあ、踏み込むつもりはないんだが。

 

「ふう」

 

 さて、今日も一日が始まる。

 いい日になるよう努力しよう。

 そのためにもまずは知る努力からだ。

 

  玄関側から賑やかな藤ねぇの声が聞こえる。

 

 俺は、あの地獄からは考えられないくらいのあたたかな感情を胸に、笑いながら駆けだした。

 出迎えたらしい征服王が、「おお! 酒を略奪した際にどこまでも追ってきた娘っ子ではないか!」とか言っていたけど、うん、まあ、駆けだした。

 




◆ネタ曝しです。

*オオォ~~……ヒロミツゥウウ……
 KOF4コマより、呻く飯盒。

*エヴォリューションマウスピース
 キン肉マン二世より、時間超人のマウスピース。
 カチッと噛めば加速できる。
 大会委員長のハラボテマッスルって、なんでこういうの反則にしないんだろうね。

*雷三角絞め───いかずちさんかくじめ
 三角絞めのツープラトン。
 キン肉マン二世より、時間超人の技。
 やられたロビンマスクがグワキィガクッて感じで物凄い速さでオチていた。

*高貴で気高い漫画家
 うしおととら、単行本おまけ漫画より。
 そんな脳みそいらんわなぁ。

*ははははァ~~~ン?
 ミ~ト~ミ~ト~ドヘッドヘッ!
 キン肉マン二世にて、20世紀ミートがマンターロたちを疑ってかかった時に言った言葉。
 ものすごく悪い顔をしている上にねちっこさも兼ね揃えている。

*ビッグフォールグリフォン
 餓狼MOWにてグリフォンマスクの超必殺技的なアレ。

*着こなしインド人
 見える……全てが。
 神聖モテモテ王国より、新しい服を手に入れたファーザー。

*究極肉体バランス
 かつて中井出くんがスキルを使うたびに超筋肉痛というものに襲われた末に完成したもの。
 様々な行動、スキル行使に耐えうる肉体に仕上がっているものの、彼個人としてはレベルと武具の強さだけで行きたかったのでちょっぴり理想とは違う。

*はらたいらさん
 クイズダービーにて、圧倒的正解率を誇ったつわもの。
 彼の回答に持ち点を委ねることを“はらたいらさんに3000点”という。
 正解しなかったらはらたいらさんの所為。ひどい賭け方である。

*肩をほぐしてアキレス伸ばしてもんがもんが
 ザ・モモタロウより、もんがーストレッチ。
 使用後には海の上をつま先で滑走できるようになる。

*比類無き神殺礼装───ひるいなきしんさつれいそう
 チェーンソー。
 源典は魔界塔士SaGa。
 神を殺すのにこれほど有名な武器などないと、ヒロラインに生きる者全てに信じられているために宝具に到ったもの。
 神はバラバラになった!
 戦闘が終了すると「やっちまったな……」なんて仲間が言い出すもんだから、余計にソワソワする。
 ちなみに我が家にはまだゲームボーイがあって、SaGaが刺さりっぱなしで、起動すれば神と戦える。
 もちろん武器はチェーンソーだけ。
 鬼だ。


◆あとがき
 これにてzeroが終了となります。
 以降もノリは変わりませんが、よかったらどうぞ。
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