どこにでもあるFate/のオリ鯖参戦系の他愛ないお話 作:凍傷(ぜろくろ)
普通じゃない第五次
ナンでもない日が続いていた。
「たまァにさァ~~~、カレーショップとかで焼きたてのナンでカレー食うと、美ン味いんだッッ、これがッッ!!」
通行人がどこぞで味わったカレーとかナンの評価を口にしているのを聞いて、“たまにはナンでカレーもいいかな”なんて思った日。
学校帰りだった。
衛宮士郎と間桐桜は学校帰りに買い物をして、家に辿り着くと、士郎は───外に出ている間も少しだけ開いていた固有結界をようやく閉じると、長い長い息を吐く。
桜もなんでもない顔をしながら影を開いたままでいて、架空元素の安定を解除。
ドッと出てくる汗に、互いに苦笑をこぼして……それが癒しとマナで回復させられる前に、また能力を解放。
それは筋力トレーニングにも似ていた。
力み終えたら弛緩、そしてまた力む。
癒される前に限界まで頑張るつもりで、また力を込めるように。
そんな二人が、冷蔵庫に食材を入れてから向かった先は道場だった。
「ようするにさ」
「はい?」
「クロリストの武器をコピーしようとするから失敗するんだよな。いや、クロリストの武器って意味で、間違ってはいないんだけど」
「レベルの話ですか?」
「そう」
学校に通うようになり、士郎が桜に先輩と呼ばれるようになってからしばらく。
現在は穂群原学園にて、先輩後輩の間柄。士郎もイリヤを先輩と呼ぶことはあるが、家の中では変わらずイリヤ姉ぇ。
家の中で先輩と呼ぶと頬を膨らませて怒る。学校では先輩風吹かせてべたべたと馴れ馴れしく抱き着いてくるというのに。なにがどう違うのかは、イリヤ本人しか知らないのだろう。
「クロリストの武器の強化レベルはクロリストのレベルと同じで最大だ。なら、レベル1の状態でならコピーも出来るって思ってさ」
「まさか、学校の中で?」
「いやまさかっ、やったらイリヤ姉ぇに殺されるだろっ」
「そうですよね。イリヤ姉さん、先輩にべったりですし」
そんな学園での士郎を、“うふふ今日も見事な絡まれっぷりです士郎”と、笑んで眺めるのがカレンである。
年齢が桜より下ではあったのだが、身内おらずの一人での学校通いだとなにしでかすかわからんから、という理由で中井出がいじくり、桜と同年齢ということで過ごしている。
ヘンに優秀であったためにイリヤの仕事に巻き込まれることが多く、士郎たちと一緒に帰るという名目でとんずらしようとしたところをイリヤに捕獲され、連行された。
ちなみに士郎は料理当番を理由に逃走。桜は士郎の影に隠れていたので無事に逃れることが出来た。
(影に隠れる、の意味が文字通り影の中に隠れるっていうんだから、とんでもないよな……)
イリヤの仕事というのはべつにそれほど珍しいものでもなく、そろそろ生徒会云々が代替わりの時期だから~ってことでの、そういった仕事だった。
穂群原学園が誇る生徒会長な才色兼備さん、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは学園では頼れるお姉さん、家では士郎大好きだらだらお姉さんである。
ただし実家は何者かに強襲されて没落。関係者がアイリスフィールと、ギリギリ救い出せたセラとリズというホムンクルスだけだったりする。なお、ホムンクルスの二人はイリヤと同じく人間にされた上で、猫の里で療養中とのこと。
没落と聞いて真っ先につつきに行ったあかいあくまが、しろいてんしと殴り合いの喧嘩をした、というのは穂群原学園の伝説として知られている。
結果はしろいてんしの圧勝だったらしいが。マジカル☆八極拳、ずるい。
え? アインツベルンがどうして没落したか?
なんか天と地が乖離するほどの衝撃を受けたとかで、城が吹き飛んだらしいよ? 胸のおっきなホムンクルスと胸のちっさなホムンクルスをギリギリ助けた村人みたいな凡人が言ってた。
と、ここにはいない人のことはさておいて。
「影に隠れられるとか、自由だよなぁ桜は。俺もそんな能力があれば、イリヤ姉ぇからの無茶ぶりから逃げられるのに」
「大体コツも掴めましたし。先輩だって武器の貯蔵とか、羨ましいです」
「クロリストの武具宝殿、すごかったもん」
彼の中にはなんでもあった。
英雄王のように財宝だけがあるのではなくて、それこそ爪楊枝からエクスカリバーまで、どんなものでも貯蔵してあった。
彼の武器、ジークフリードの源典がグレートソードなんていう武器から始まっていたことも、基本骨子の解明から入った時に初めて知った。
最初に贈られた武器をとことんまでに大事にし、他の武器と合成、強化を繰り返した果てにアレへと到ったのだと。
故に、その武器との絆も相当。
意思としての関係も深く、命の預けあいをして、相棒どころか友達で仲間で家族として、信頼しきっていた。
当然、そんなものを完全にコピーできるわけもない。
だからこそ、そんな信頼もレベルもない状態。
レベル1のまっさらなジークフリードならばどうだろう、と思ったのだ。
「今から試すんですか?」
「一応。見せてもらいはしたし、読み取れるものは読み取った。魔力はマナの変換で十分だし、ハサンのしるしのバックアップもあるから」
言って、魔術回路を満たしてゆく。
「───“
難しくは考えない。
「───基本骨子、解明」
クロリストの教えとして、この世界の魔術師は物事を難しく考えすぎだ、というものがある。
「……構成材質、解明」
難しいと考えるから難しい。もっと単純に欲すればいい、と。
「───」
構造が読み取れない部分はあった。けど、それはおそらく膨大なレベルとしてのもの。
「全工程───完了」
様々が納まった───全ての武具の能力が納まったソレを読み取れなかっただけであり、
「───投影、完了」
この手には、
「……、先輩、それ……」
「……うん。ジークフリードだ。稀紅蒼剣ジークフリード。双剣化の能力もなければ、“
それはヒロラインの中の歴史として存在していたもの。
グレートソードから育て、合成され、強化を繰り返した末に昇華したものではない。
だから、そこに一つずつ“骨子を足して”ゆく。
「───構成材質、補強……」
一本一本、ひとつひとつ丁寧に。
彼が持つからこそ最強である武器に、大事に大事に。
だが。
「───、あ……」
ある工程で、それが止まる。
これ以上は無理だと、武器にこそ教えられた。
埋めるべき武具の能力が、明らかに士郎の能力を超えすぎていた。マナで補助するどころの騒ぎではない。
この武器は真実、精霊や妖精やらといった
自分でそれを支えるのは無理だし、精霊に頼んだところで今度は自分の世界に突き立てられぬ代物となる。
故に、多少の幻想を含んだ位置が精々。
「じゃあ───」
次いで、モミアゲさんが愛用したとされる剣、“
それ一本で光の武具という創造の武具を幾つも使用出来たとされる剣。
様々な幻想種を打ち下し、その素材をふんだんに使った竜王の剣だ。
レンジアロー、レンジブラストで剣が弓にも、レールカノンにもなるっていうバケモノウェポン。
それを、やはりレベル1で投影。
だが……やはり頼りない。
そもそもこれは、源典がゲーム世界で創られたものではなく、モミアゲさんが空間世界を友人を救うために旅をして、そこで実際に作り上げたものだ。
だからバケモノウェポン。
外見は似ているのに、中身は本当に空っぽだ。
ただ形状変化は出来るらしく、弓としては使えるということで、武具の丘に突き立てておく。
「……、はぁ……」
吹き出る汗を拭い、息を吐く。
紛い物を作るだけでもこれだ。本当に、普通じゃない。
「だめだ、やっぱり上手く出来そうにないや」
「それは……はい。そもそも博光さんたちが普通じゃありませんから」
「それ言っちゃったらなんにも学べないじゃないか」
元も子もない、ってやつだ。
しかし、言いつつも桜は自分の影から出た外套を纏って、くすくす笑っている。
制服の左肩から腋、手首までをすっぽり覆い、その先が中指までで繋がっている黒の外套。
「桜のその格好も、見慣れてきたな」
「全身を覆っちゃうと、思考が黒に偏っちゃいますんでここまでですけどね。その気になればサーヴァントでも飲み込んじゃうから、正気を第一に、って言われてます」
「……どんだけ恐ろしいプレゼントだよ、それ」
「モミアゲさんの親友さんの、トンガリさん推薦ですよ? 黒はええざんしょ黒は、って笑ってましたし」
トンガリさん。モミアゲさんが光で雷で神側なら、トンガリさんは闇で黒で死神。
元がそういう産まれらしく、産まれついての異能力持ち。
それがたまたま中井出の中学時代の友人だったという話で、同窓会でいろいろあった。
神と死神が混ざった人の家系として産まれ、一方は神の血が濃く、一方は死神の血が濃かった。それが親友だというんだから、なんとも面倒な間柄で産まれたものだ。
さておき、二人は早速道場に来た意味へと踏み出した。
士郎は意識を集中させて、桜は影をより大きくして。
集中する士郎の手の甲から黒の紋様がジワジワと浮かび上がり、それが少しずつ広がり、手から手首、腕へと延びてゆく。
桜の黒が桜の周囲を円で囲むように広がり、そこから黒と赤の色が混ざったリボンが伸びる。
「いくぞ桜!」
「はい! 先輩!」
実戦形式の鍛錬だ。
床を蹴って戦闘開始。
即座に黒鍵を手にした士郎がそれを投擲するも、それにはすぐに影から伸びるリボンが絡まり、溶かすように蔭へと引きずり込んだ。
桜は桜で魔術を行使。
次の瞬間には空中に結構な数の影の刃が召喚され、それがギルガメッシュの宝具のように幾重にも士郎を襲う。
「っ───」
体に走る一瞬の緊張は置いていく。
すぐに小さな世界から盾を取り出し、それで弾いてゆく。
正面戦士の盾。前方にだけ強い盾で、これも中井出の武具のひとつだ。
しかし当然見切られていて、桜が振るった手から出た、地を這い弧を描く魔術衝撃波が、正面からではなく横から破壊。
もちろん衝撃波が放たれていた時点でそうなるのはわかっていた士郎は、既に新たな黒鍵握り、影の刃を弾きにかかっていた。
両手で計六本。
それを魔術でブーストさせた腕を高速で動かし、いつか言峰が切嗣のキャリコによる銃撃を弾き落としていたように弾いてゆく。
弾き終えれば疾駆───した途端、視界の先には影から砲弾を放つ桜さん。
「ちょっ───!」
息を飲むよりも早くに手を動かし、黒鍵を手放しながら前に突き出した無手には、既にコンデンター。
引き金を迷うことなく流れるように引くと、そこから起源弾が放たれ、眼前で砲弾に直撃。
黒の砲弾は爆散して、弾け飛んだ先から黒の拳が自分めがけて飛んできたのには、士郎もさすがにビビった。
見れば、リボンが圧縮された巨大な手。
それを今度は身代わりの盾を投影、一発で壊れるものの、攻撃を一発防いでくれるそれを以て───殴られた。
ああ、うん、マズった。一発防いでくれるって、魔法一発とかならまだしも、振り被られて振るわれたものを防いだって壊れちゃあ意味がない。だって変わらず振るわれてるんだもの。
しかし勢いは殺せた。
ダメージはそこまで大きくないから、次はこちらの番だと疾駆《ぎゅむ》───……あ、終わった。
「……せ~んぱい?」
「な、なんでしょう桜さん」
巨大な黒の手にぎゅうっと体を掴まれ、にっこり笑顔ににっこり笑顔で返す。
「このまま気絶するまで掌握されるのと、チャン・コーハンばりの大破壊投げをされるの、どっちがいいですか?」
「降参するからこのまま解放、ってのは……」
「却下です」
「そっか……残念だ。じゃあ、俺もアルトリアに鍛えられた手前、負けず嫌いな性質だから───」
「え……逃れる方法があるんですか?」
「───至光にて万物を砕かん。満たし、さらに満たせ。その意が覇王の剣と化するまで───!」
「先輩!?」
口にしたのは魔術の詠唱。
魔導魔術と呼ばれる、元はヒロラインではなく空間世界で知られていた術である。
唱えるとともにマナの代用として魔力が急激に消費され、それとともに士郎の両手に極光が生まれる。
当然影でもある黒はこれを嫌がり、士郎の拘束を緩め、桜は来るかもしれない衝撃に備えた。
それは、空間世界の人物の中でも使う人が滅多に居ない魔術。
名前は格好いいが、失敗すれば両腕が炭化するというソレ。
制御しようとするが、当然のように失敗。
士郎の両腕が極光にて焼かれ、光が霧散すると、そこには両腕が焼けた士郎の姿が。
「先輩っ! 無茶しすぎです!」
「~~っ……わるい……その、負けたくなかった」
膝からドッと床に崩れた士郎は、荒い息を吐きながらその身から力を抜く。
桜が戦闘意識を外すと、すぐに士郎の腕は回復されてゆき、炭化も消えると炭だけが少し、パラパラと落ちた。
「っつは……! 光だけ出せればよかったのに、さすがにエクスカリバーは無理だった……!」
魔導極光剣。中井出の世界の住人ならよく知るものだった。
光を発する武具も当然あるんだが、困ったことに光系は属性としてランクが高い。
なにせヒロラインには馬鹿かと思うほど属性があり、四大元素より上の属性がなんだかとってもごっちゃりしているのだ。
で、光属性の武具が刀だったり篭手だったり具足だったり。
果たしてその武具で、桜の黒を退けられたかっていったら……微妙である。なので魔導極光剣。
見事に腕が焼けた。炭化する前に魔力を霧散できたから助かったものの、出来なかったら今頃ケシズミである。
「はぁ……やっぱり俺には魔術行使は向かないな。投影が一番安定してるみたいだ。まあ、これも魔術ではあるけど」
「向き不向きは受け入れろってあれだけ博光さんに言われたじゃないですかっ! 大体先輩はいっつもいっつも……!」
「わ、わるかったって、謝る、このとーりっ」
「…………そうやって謝ればいつも引き下がると思ってませんか?」
「桜だって。いっつもクロリストを引き合いに出せばいいとか思ってないか?」
「うぐっ……」
痛いところを突かれたって顔になった。
自覚しているのに、中井出離れが出来ないお子である。
何故って、自分を救ってくれたから、らしい。
「ち、違いますよっ!? わわわたしのは依存じゃないですからっ! だだだ大体先輩だって遠坂先輩になにか言われたらいちいちドギマギしたりして!」
「それは今関係ないだろっ!? ていうかいつまで喧嘩してるんだお前たち!」
「知りませんっ! ~~……あの人が魔術がどうとか、危険に関わろうとする限り、私はあの人のことを嫌います。……本当、とんでもないばかです。なんだって自分から危険に飛び込むんですか。信じられません。ずっと、ずぅっと……守られていればよかったのに……。そしたら……わたしみたいに、あんなことにはきっと……」
「……桜?」
「ぁ……な、なんでもありませんっ! とにかく! 私はあんな人、大嫌いなんですから! あの人が衛宮に関わるってことは、暗殺者と関わるってことと同じなんです! 先輩もそういうことはきちんと考えてください!」
「む───それとこれとは話がべつだろ。俺が俺として関わる分には関係ないし、魔術師と魔術師同士って話で済む筈だ」
「…………先輩知ってます? 世の面倒事を巻き起こす原因のほとんどって、色恋なんですよ……」
「そ、そうならないようにするからっ!」
「もう、知りません」
溜め息を吐いて、桜はてこてこと道場を出て行った。
ぽつんと残された士郎は一言、なんでさって呟いて座り込む。
あれで元は同じ家で産まれた姉妹だっていうのだから、世の中っていうのはどうにも、上手く回らない。
……。
癒しとマナの樹の下。
そこで旗を手に祈りを捧げているのはジャンヌ・ダルク。
クリスマスプレゼントとして貰った旗、ドリアードラポーを手に、日々祈りを捧げては旗を掲げ、薄く笑っていた。
「ジャンヌさん?」
「? ああ、桜ですか。お帰りなさい。となると、先ほどの道場からの音は士郎と?」
「はい。いつものです。ジャンヌさんはここで……?」
「贈られた旗とともに祈りを捧げていました。信仰が強いほどマナも蓄積され、強くなるというので」
慈しむように旗を撫でる。
見れば、掲げられた旗にマナの粒子が集ってゆき、薄ぼんやりと輝いていた布が輝きを増してゆく。
そしてマイナスイオン出る。めっちゃ出る。持ってるだけで癒される。
そんな巨大な旗を自分の中に溶け込ませると、ふぅ、と息を吐いて桜へと向き直る。
「今日はカレンは一緒ではありませんか? 少々用事があったのですが」
「あ、はい。ちょっとイリヤ姉さんに捕まって」
「なるほど。イリヤも自分で始めた用事くらい、自分でこなせるようになるべきです」
「仕方ないですよ、先輩も生徒会に入るって情報をどこかで聞いたみたいで、だから入るって言ったのに……実は先輩は入ってなかった、なんて」
「好きという感情は、そこまで弱点となり得るのですか。イリヤももう少し考える時間を作ればよかったのに」
「ばったり会って実はわたしも入ってましたー、とか言いたかったみたいです。言ってみたら“へ? わたしもってなんだ? 誰か入ってるのか?”って言われたって」
「……そのそそのかした生徒は平気だったのですか?」
「ある夜、ジョギングをしていたら何者かに襲われたらしいです。どんな目に遭わされたのかは知りませんけど、夜道恐怖症になっているとか」
「自業自得ですね」
きっぱり。
とほーと溜め息を吐いて、ジャンヌは歩き出す。
「では桜、わたしはこれからヒロミツさんに用事があるので、これで」
「はい。じゃあ一緒に」
「………」
「………」
「桜?」
「はい?」
「その。どういった用事が?」
「ただいまを言います。おかえりなさいを言われたいです」
「なるほど。ええ、それはとても大事なことです。煩わしい質問をしたことを謝らせてください」
「いいですよそんなっ」
そんな会話をして、二人で歩き出した。
今日のご飯を楽しみにしていますとか、テンションは博光さん次第ですと笑ったりとか。
一月が過ぎ、やがて二月が迫るような、そんな日々の中の出来事だった。
───……。
……で。時は2月。
なんか聖杯の力が戻ったから聖杯戦争が開催されることになった。
「監督役は僭越ながらこのわたくし、ジャンヌを広める聖女の使徒がひとり、ジル・ド・レェが務めさせていただきます」
前回の監督役を務めた綺礼の父、璃正がその座を綺礼に譲り、「いや、要らないのだが」と娘であるカレンに譲渡。「やっている暇などありません」と適当に選んだ先に、そういえば暇を持て余してるヤツが居る、と選ばれたジル・ド・レェ。
かつての聖杯戦争とは違い、血みどろでもなく陰謀も渦巻かないかもしれない聖杯戦争。
綺麗な聖杯が選ぶマスターとはいかに? とか思ってたら早速キャスターが外道なマスターを殺害したらしい。
「ジル……」
「いえジャンヌ! これは私の監督不行き届きが招いたものでは! むしろ聖杯が何故にあのような下郎を選んだのかが《ブスリ》グワォガァアアーーーーッ!!」
召喚の背景で監督役が事ある毎に負荷を背負うことになったものの、概ね順調だった。
召喚は。
問題は、そのキャスターを召喚した下郎である。
後処理に中井出が呼び出され、蘇生やら保護やらをやらされる羽目になり、一緒に出掛ける用事があったのに潰された聖処女は、そうであるが故に額に青筋を浮かばせながら、こうして教会を訪れたわけで。
「しかしご安心をジャンヌ。下郎に贄にされた子供たちは、みぃんなクロリスト殿が復活、ヒロラインに引き取っているそうです」
「言われるまでもありません。一にも二にも先に主より伝えられています」
「ではなぜ私の目を!?」
「私怨です悪いですかわたしの休日を返してください」
涙を滲ませ、口をへの字にするジャンヌを見て、ああ尊いと思いながら……ジル・ド・レェはボグシャーと殴られた。
そういうわけで、聖杯戦争は始まった。
衛宮士郎と間桐桜とカレン・オルテンシアがセイバーを引き。
「三人一画ずつの令呪って……ありなのか、こんなの」
「まあ、問題はありません。ようは勝てばいいだけの話です」
「そうですよ先輩。それよりこれが、半人前卒業試験扱いされていることこそが問題なんですから」
「……だよなぁ。けど、この聖杯戦争でいい結果が残せれば、晴れて一人前の暗殺者として認められるわけだ」
「ええ、頑張りましょう。ところでクロリストが居ないのですが、どこに行ったか知りませんか、士郎、桜」
「今日は朝から見ていませんけど……博光さんのことですし、どこかでアルトリアさんをからかっているかもです」
「そのアルトリアも居ないんだよ」
「……どこかで他人に迷惑かけていないといいですね」
「桜、それは無理です。彼は迷惑の塊ですから。恩人であり主ではありますが」
「で……モードレッドだっけ。アルトリアから話は聞いてる。よろしくな」
「え゙っ……あ、アルトリアって言ったか、今───! 父上が居るのか!?」
イリヤがバーサーカーを引き、
「アインツベルンが潰れたのは別に今さらどうでもいいんだけど……。母さまにもらった聖遺物で召喚して、なんでバーサーカー? 召喚の言葉、間違えたかな……」
「■■■■■!!」
「うるさい!」
「■……」
「はぁ……シロウもカレンもサクラも三人一緒なのに、わたしだけなんて。そりゃ魔術回路なら誰よりも凄いって自信はあるし? その気になればと~っても強い自信もあるけど……はぁ。もー! こんな時にヒロミツも居ないし! わたし一人でどうしろってのー!?」
「■!」
「いくわよバーサーカー! こうなったらシロウたちにちょっかい出してやるんだから! どんなの召喚したか知らないけど、ヘラクレスに勝てるやつなんてギルさんくらいなもんなんだろうし!」
「■」
「あ、なんだったら同盟とか結んじゃってもいいんだよね? んふふー♪ シロウたち、どんなの引いたかなー♪」
「■■……」
バゼットがランサーを引き。
「女がマスターとは、なんとも縁があるのかどうなのか。ま、よろしく頼む」
「ええ。ではこれからの身の振り方についてですが。まずはランサー、あなたには他サーヴァントと様子見として戦ってもらいます」
「全員とか? いきなり人使いが荒いねぇ。が、悪くねぇ。弱っちそうなら殺しちまってもいいのか?」
「言った筈です。様子見と」
「……そりゃ、また……ご無体だな。はぁ……あいよ、了解」
遠坂凜がアーチャーを引き。
「それでは凛と。……ああ、この響きは実に君に似合っている」
「そ。……その、悪かったわね、乱暴な召喚しちゃって。お父様にも気を付けなさいって言われてたのに」
「いや───うん? 父親が居るのかね?」
「居なかったらわたしはどっから産まれたのよ」
「…………?」
何故か選ばれたらしい間桐慎二がライダーを引き、
「オヴォァアアアア!!《ゴブシャア!》」
「……シンジ。あなたに召喚の維持は難しいのでは」
「うるさい! ぼぼぼ僕だって! ぼぼぼぼぼウヴォロシャアア!!《ゲボハァ!!》」
「……これでどう勝てと」
「ぼぼぼ僕はな……! サンタさんの落とし物で変わったんだ……! 輝く林檎を食べて、自分の体が変わったことを知った……! 嬉し涙が出たね……! 魔術回路の存在を自覚したんだ……! それからは必死だったさ……! 今日まで頑張ったんだ……! たしかに現界が精一杯かもしれないが、他のやつらが潰し合ってくれれば……!」
「せこいですね」
「うううううるさいうるさいウヴォロシャアアアアアア!!《ゴボボシャア!!》」
キャス子が葛木に引き取られ、そして───キャス子がアサシンを召喚した。
「……え? なにこれ」
「サーヴァントアサシン、ハサン・サッバーハ……推参」
キャスターの前にはハサンが居た。
黒い体、白の髑髏仮面。
それはいいんだが、なんかいっぱい居た。
「なにこれとは、また異なことを。このハサンめに落ち度でも?」
「落ち度というか、何故こんなに居るの!?」
「何故って我らこそがハサンでありアサシンであるからして」
「……知識として、様々なハサンが居る、というのは知っているけれど」
だったらそこの甲冑っぽいのを着たハサンとか、ゴリモリマッチョなハサンとか、黄金の鎧を着たハサンとか、明らかに槍を持ってるハサンとか、掴んだ枝を宝具に変えてるハサンとか、銃火器持ってるハサンとか黒鍵持ってるハサンとかいったいなんなの!?
「? ハサンですが?」
「“それだけで済ませられる状況を通り越してない!?”と訊いているのよ! 魔力も根こそぎ奪われたし! 門番として欲しかったのにどうしろっていうのよこんな数!」
「ぶちぶちと口やかましい女狐め……疾くその口を閉じるがよい」
「なっ! あなた……!」
「まあよいではないか! こうしてアサシンとして召喚されたのもなにかの縁! おいキャスター、それより敵は何処だ? 攻めてよいならば今こそ攻めよう!」
「魔力が根こそぎ取られたって言ったばかりでしょう!? 今戦われたら私が死ぬわよ!」
「なんだ、この程度でだらしのない。貴様それでも余のマスターか!」
「勝手に出てこられてそんなことを言われるこっちの身にもなりなさいよ!」
「む? 驚いたな、お前もこちらへ召喚されていたのかジャ───ダ、ダルク」
「それこそ無駄な驚きですディルム───ディル。主があるところ、その僕も歩むのが信仰というものです。……まあ、つい先ほどまでジルと話していたのですが。主が呼ばれたのなら座して待つ理由はありません」
「いやいや皆さま、ハサンとして召喚されるのは初めてでしょう? ならば不肖、このザイードめがハサンたる者の在り方をですね」
「だーーーっ! いいからちょっと黙りなさいこの暗殺者どもーーーっ!!」
キャスター、キレる。
こうして、暗殺者一家は召喚され、英雄でもないのに何故……と考える人間の何人かを巻き込んだソレは、始まった。
「おいおい彼女はなにをいきなり叫び出しているんだ? 大体横のカッパはなんだい」
「ヒロッ───こほん。ハサン、べつに横にカッパはいません」
ナムサン。
これからのキャスター=サンの心労が思いやられた。
───……。
現在、夜の穂群原学園のグラウンドにて、二人のサーヴァントが刃を交えている。
一方は双剣、一方は槍。
赤と青が動く度に剣戟が高い音を掻き鳴らし、しかもそれは常人では想像することもないであろう速度で繰り広げられていた。
秒にして4? 5? 音が重なりすぎてわからない。が、きっと、ちっとも足りやしない。
目で追えというのが無理な話なのだ。
数秒前に始まったというのに、既にその実、二百合は鬩ぎ合っているのだから。
「これが……サーヴァントの戦い……」
その戦いを見ていた遠坂凜は、思わず呟いた。
サーヴァントの戦いを見るのはこれが初めてではない。
おぼろげではあるが、彼女は見たことがある。
衛宮という屋敷。道場。
仕合とはいえ、あまりに速い攻防。
かのランスロット卿とディルムッドが木剣と棍を交え、舞うように戦った。
それがあまりに早かったためか、どれがどうしてどうなったのか、おぼろげにしか思い出せないが。
「っ───誰だ!」
「!!」
ランサーの声に、心臓が跳ねた。
なにを考えにふけっているんだ、今は戦いの最中なのに。
いやそれよりも、他に誰かが居た!? 居残り!? それとも───……思っている間にランサーは地を蹴り、逃げて行った誰かを追っていった。
思わず息を吐き、緊張が解けた身体を───って。
「アーチャー! 追うわよ! あのままじゃさっきの子───!」
「……、手遅れだと思うがね」
「それでもよ!」
ああ迂闊、失敗した、目撃者が居た? 始末するに決まってるじゃない!
苛立ちを息をともに吐き出し、凜は何度も地を蹴りあとを追った。
……追いは、したのだ。
しかし───
「ちょっと、ねぇ、アー、アーチャー? ちょっと!?」
「なにかね、凜」
「さっきの誰かもランサーも! どこに行ったのよ!」
「……私のほうが訊きたいくらいだが」
居なかった。
アーチャーが先導するから走ってみれば、なんか廊下の真ん中で突っ立って「なん……だと……」とか言ってるアーチャー。
そりゃ、荒れる息を整えながら、どこに行ったの、とか言いたくもなる。
(歴史が歪んでいる……? 彼女の父親が存命、というだけでもおかしいというのに。いや、それよりも教会の神父が言峰綺礼ではないことからも…………“ここ”は、いったいどこだ───!?)
アーチャーはアーチャーで混乱していた。
しかし状況は待ってはくれないのだ。
遠くから金属がなにかにぶつかる音を耳で拾い、アーチャーは凜を抱えて廊下を蹴った。
「きゃあっ!? ちょ、アーチャー!? ───…………居るのね?」
「ああ。どうやら、無謀にも戦闘を始めたらしい。一般人なのか、魔術師なのか───」
「魔術師ならサーヴァントが一緒に居るってことじゃないの?」
「さて。そんな気配も姿も、私は感じることも見ることもしていないのだがね」
アーチャーのクラスの目を馬鹿にしてもらっては困る、とばかりに彼は言った。
じゃあ、この先に居るのって?
不安はもやもやとなって思考回路と胸の内を埋めようとしていたが、とある教室に辿り着くと、彼女は軽く目眩を覚えた。
「チッ───! 魔術師が3人だと───!?」
「本命のサーヴァントであるオレを忘れるなよ!」
「《ゴギィンッ!》っ……チィイッ!!」
踏み込み、一閃。
弧を描く剣の一撃を防いだランサーの足は教室の床を滑り、しかしギシリと踏みしめることで踏みとどまった。
「セイバーのサーヴァント……それにマスターが3人だ……? おいおいどうなってんだ、令呪は三画、マスターは一人だろう?」
「一人前として認められてないからだろうさ」
「遺憾ですが、その通りと言っておきましょう」
「誰のサーヴァントかは知りませんが、覚悟してください……!」
衛宮一家だ。まちがいない。子供の頃に会った。
桜は当然知っている。カレンも、覚えてはいる。たまに学園で会う程度だが、覚えている。
衛宮くんは、苗字を知ってから問い詰めて、まあどうせ魔術師なんだろうことは想像がついたからともかく話をして、魔術師であることを伝えられた時にきちんと知り合って、それ以来の仲だ。
とはいえそれだけ。桜からは思いっきり避けられてるし、カレンは興味なんて示さないし、衛宮くんはまあ訊けば答えるくらいの人だし。
ていうかなんで戦争に参加してんの!? 経験者の後継3人が参加とか聞いてないわよなにそれずるい!
「っ……」
いろいろ思うことはあったが、とりあえず飲み込んだ。
そうだ、もうこれは戦争なんだ。甘っちょろいことを言っている余裕はない。
冷静よ、冷静。常に余裕を持って優雅であれ。
「ハッ、となると、予想通りさっきのはアーチャーかよ。弓兵に自分の技を剣で弾かれるなんざ……俺もヤキが回ったもんだ」
「セイバー、とにかく攻めてください。私たちはまだまだ未熟ですから、あなたの力をお借りしたいのです」
「任せろ! 父上が……父上が過去に戻った上で、オレを認めてくれた! そんなこと聞かされたら、直接会っていろいろ言いたくなるだろ! とりあえずお前! 槍の! お前邪魔だ!」
分厚いヘルムで覆われて顔は見れないが、とても陽気な声で言って、その剣のサーヴァントは無礼にもほどがある態度で剣の切っ先をランサーに向ける。
対する槍の英霊は口の端を持ち上げ、半眼めいた目でセイバーを睨んだ。
槍は肩にかけ、両腕を引っかけたような姿勢だ。
「ほーう……? 邪魔ならどうする」
「当然───」
たんっ、と。とても軽い動作だった。
何気なく、あ、どっか行くのかな? なんて平和に思ってしまった自分は、きっと敵対していたらもう死んでいた。
「───ぶっ殺す!!」
二歩目の速度が馬鹿げていた。
教室の床が爆発したんじゃないかって思うくらいの踏み込みと、前方への疾駆。
振るわれた弧が月光に撫でられ、ようやくその軌跡が見えるほど。
けれどランサーは槍を肩に担いだままそれの石突で剣を受け止めて、肩から抜けた槍を右手で持って反撃に出る。
一撃二撃三撃、連ねること四閃。
最初の刺突を手甲で逸らし、戻す動作で両手で握られての槍の二撃目を、振るう弧で弾いてゆく。
アーチャーの速度も大したものだったけど、さすがは剣のサーヴァント。槍が放つ点の速度についていって、的確に弾いてみせている。
「ところでランサー。現在セイバーとの一騎打ちをお楽しみのご様子ですが。そこにマスターが混ざることを良しとしますか?」
「死ぬ覚悟があるなら好きにしな!」
剣を躱し、弾き、逸らし、それらの騒音の中でもきちんと拾ったカレンの言葉に言葉を返し、受け身であったランサーがふいに、ざし、と一歩前に出る。
剣戟が増す。
騒音が重なり、聞いていると耳が痛くなるほど連ねられて。
セイバーが一歩下がると、そら、とばかりにその歩に合わせての点が、セイバーのフルフェイスのヘルムをかすめる。
「っ……てめぇ!」
声を荒げるはセイバー。
しかし剣に怒気は乗せず、あくまで冷静に反撃に出る。
「───……さて。どうするかね、凜」
「魔術師としての考え方なら、どちらかに協力してどちらかを早々に、ってところだけど」
どうせなら正面から戦ってどちらともぶっ潰す。
優雅ってのは、協力関係にないのに都合のいい時だけそんなことを口にするものとは違うのだ。
「戦って勝った方を潰すと。なるほど、疲れ果てた相手を潰すとは、なかなかにわかっているマスターで安心したよ、凜」
「あんた、わざとむかつく言葉探して言ってない?」
「そう思うのであれば、令呪でも使って“口の利き方に気をつけろ”とでも命令したまえ。まだ三つも残っている。君の自由だ」
「そんなことに使えるわけないでしょーが!」
娘のうっかりを見越してか、父にし~~~っかりとしつこいほどに言われたのだ。
ちょっとのことでカチンときて、うっかりをやらかしてはいけないと。
なので令呪はまだ三画。大事に使おう。
「桜、魔力のバックアップ頼む!」
「はい先輩!」
「───“
……は!?
その時、遠坂凜は目が飛び出そうになるほど驚愕した。
だって、魔術師だとは聞いてたけど、え? うそ! あれ投影魔術!?
驚いている内に、少年の手にはゴツい弓。そして番えるのは───槍!?
「“イーグルアイ”───! ぶち抜けぇえーーーーっ!!」
凜の驚愕なんぞに気づきもせず、士郎は士郎でヒロラインスキル“イーグルアイ”を発動。
射撃系統の攻撃力を高めるスキルであり、もちろん弓にも効果あり。
放たれた槍が光り輝き、三十もの鏃になるまでは、ランサーも大して気にもしていなかったのだが。
「!? 馬鹿な! これは!」
槍を高速回転させて、鏃を叩き落としてゆく。
───
名を、竜槍ゲイボルグ。
完全コピーとまではいかなかったが、たしかにクロリストの武具の中にある武器の内のひとつだ。
劣化コピーで、相応の威力もありはしない上に、イーグルアイを使っても叩き落とされる程度の威力。ランサーには矢避けの加護もあって、大した障害にもなりはしない。
だが。
相手の動きを止めるならそれで充分だ。
「桜!」
「はい!」
次いで、桜が触れていた髪飾り───髑髏の髪飾りから手を離す。
するとそこから闇が広がり、桜の服に赤黒いなにかがリボンのように現れる。
それが矢を生み影の剣を吐き出し、ランサーを襲う。
しかしランサーはこれを、危なげもなく全て槍の突きで刃を真っ向から破壊、全て落としてみせ。なお襲い掛かる士郎の鏃を落とし続ける。追加で放たれた同じ鏃が、再度彼を襲っているのだ。
そうしている内に桜は独特の詠唱を終えると、黒の衝撃波を魔術で発射。
それを跳躍で躱すランサーへ黒の砲弾を発射。
これに槍の打突を空中で放ち、真っ向から破壊。
さらに着地を狙われ、床を滑走するように影が伸び、着地地点間際で巨大な黒の腕を勢い良く突き出して拳を振るう。
「悪いな嬢ちゃん───とっくに間に合ってる」
しかし鏃を弾く右手の槍とは別に、左手で描いたルーンがその拳を掻き消してみせる。
「甘いなら慈悲はいりませんね」
「《ギュルばちぃっ!!》オゴッ!?」
で。
気を取られたところに、見事に口と腕を封じたのはマグダラの聖骸布。
男を拘束するための霊装がキツく絡まり、槍で切ろうにも腕が動かせやしない。
そこへセイバーが踏み込み斬撃を振るうが、ランサーはこれを半身の身のこなしのみで躱してみせる。
「ええ、そちらに逃げるしかないと思っていました。ご苦労様です。───ヒュウッ───!!」
「ムグァ!? オゴ《ドボォッ!!》ガッ───ア《ッホォンッ!!》がはぁあっ!!」
激突による轟音が響く。
踏み込み、避けた先には聖骸布を巻き取る動作とともに跳んできたカレン。
呼吸を整え、全身に巡る魔力を攻撃に乗せたマジカル八極拳による朋拳がランサーの鳩尾に埋まり、それでは済まさず半歩踏み込みめり込ませた寸勁が内部にめり込み、ランサーの体を教室の黒板へと叩きつけた。
吹き飛ばす際に聖骸布は解いて。
「しゅぅうう……!!」
大砲でもぶっ放した砲台が熱を吐き出すかのように、口から息を吐くカレンは、凜のよく知るどこぞの兄弟子のようだった。
ちょっと待って!? 魔術師が体術で人を吹き飛ばすって!
いやあるかもだけど! わたしでもキャスター相手ならいけるかもだけど!
あれで一人前として認められてないって、頭おかしいんじゃないのちょっと!
「くっ……クハハハハ……! 魔術師が体術ごっこか。いいねぇ、女に殴られたのは随分と久しぶりだ」
「……!」
「続きといきたいところだが、生憎うちのマスターは慎重でね。全サーヴァントと戦ってこいと来たもんだ。悪いな、お前らとの相手はここまでだ」
「逃げるってのか? あぁ?」
「預けるって言ってんだ、素直に受け取っておけよ。それとも───……本物を受けて、死んでみるか?」
ぎしり、と。空気が凍った。
謎は残る。が、目の前の槍兵は怒っていた。
───贋作だ。ああ、贋作だろう、と。
だが放ってみせた。鏃となる槍を。
ゲイ・ボルクではないだろう。だが、似たなにかを。
「魔術師、名前を訊いておいてやる。名乗れよ」
「名前を訊くときはまず自分からだ、バカヤロウ」
「…………ハッ! ははははは!! そりゃあそうだった! すまねぇなボウズ! いいぜ、絶対にお前は俺が殺すと決めた。だから覚えておけ。……クー・フーリン。それが俺の名だ」
「……衛宮士郎だ。名前に“りん”がついてるなんて、可愛い路線でも狙ったのか? 似合わないぞ」
「クー・フーりん☆とかそういう名前じゃねぇよテメェほんとブチ殺すぞ!?」
「そ、そっか。悪い。じゃあ俺も。……苗字は衛宮だけど、魔術回路は受け継いでない。俺の親はハサンだ」
「ハサン───……なにかひとつに秀でた暗殺者のアレかよ。その中でもお前さんは色物っぽいな。それに───そっちの黒髪の嬢ちゃん。そっちと二人でようやく一人前ってところか?」
「私を度外視するとはいい度胸です、槍の。《しゅるしゅるしゅる》」
「待てヤメロ、なんかその赤い布見てると心がしくしくしてくる」
三人とセイバー、そしてランサーは睨み合う。
士郎は既に魔力を充実させて両手に双剣を装備している。
魔力を使う度に体に黒い紋様が浮かび上がり、目つきも鋭くなり。
桜もひらひらと蠢くリボンをランサーに向けたまま構え。
カレンは聖骸布を盾のように揺らしながら、呼吸を整えている。
「なるほど、本気で三人で一人なわけか。“紋様”に“悪”に“聖骸布”。面白ぇ組み合わせじゃねぇか」
「べつにあなたを楽しませるため、こうなったわけではありませんが」
「いや、べつにそりゃ望んでねぇよ。ただどのみち、逃げさせてはもらう───ぜぇっ!!《ガコォッ!!》」
『───!!』
床を踏み砕き、瓦礫を槍で弾いて弾丸に。
一瞬気を取られた刹那、一連の行動のように振るわれていた槍が机を吹き飛ばし、回転させた体と振りぬかれた足が、同じく椅子を蹴り飛ばしてセイバーと三人を攻撃する。
セイバーは自分に飛んできた椅子を殴り落とし、そのまま疾駆したが───ランサーはそのまま窓を破壊、呆れた速度で夜の町へと消えていった。
「ちっくしょ……逃げやがった……! マスターどうする、追うか!?」
「……いえ、今はいいでしょう。それより」
「あ……遠坂」
「……、遠坂先輩」
ちょっと待ちなさい今気づいたの!?
そうツッコミたい気持ちを抑え、遠坂凜は三人と一人の顔を見た。
「こんばんは、衛宮くん、カレン、桜」
「……士郎、そこの逆髪マッチョスーツは私が拘束しますから、凜の始末を」
「悪い遠坂、見られたからには死んでくれ」
「あなたほんとに衛宮くん!?」
「……残念です、遠坂先輩。まさか参加してくるなんて」
「っ……桜……!」
「気安く名前を呼ばないでください。家族以外に名前を呼ばれるの、嫌いなんです」
「───!!」
思わず息を飲んだ。
衛宮くんやカレンを見る目はやさしいのに、自分を見る目は相変わらず冷たいままだったから。
それでも。間桐さん、なんて呼ぶ気はさらさらないのだ。
「拘束する、とは大口を叩いてくれる。キミのそれは聖骸布かな? 英霊でも拘束する力があるというのなら、期待しないほうがいい。クー・フーリンという大英雄ならば通用もしただろうが、生憎と私は英霊などと呼ぶには───」
「いえ、男なら誰であれ拘束します」
「ほう? …………ほう? いや、うむ? ……それで、かのクー・フーリンがあのザマ……かね?」
「そうですが?」
「………」
「………」
「よし、待て。落ち着こう。話し合おうじゃないか」
「大口と言われてしまっては是非もありません」
「待て! わかったすまなかった! 私は《ギュルバシィ!》ムゴアァーーーッ!!」
「アーチャーーーーッ!?」
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……《ジリジリ……!》」
「いやーーーっ!? ちょっとやめて衛宮くん! 両手に剣持ちながら呟いてジリジリ近づくとか普通に怖いからーーーっ!!」
ウカツ! トオサカ=サンはこんな時になってようやく父に言われていたことを思い出した!
衛宮には関わるな。あとアサシン怖いから気を付けてね?
この三人がなんか白い髑髏の髪飾りをつけてるのを見るようになった時点で、距離を置くべきだったのだ!
トオサカ=サンはそんなことをうっかり忘れ、逃げずに静観してしまった!
こうして二人は拘束され、衛宮邸へと連行されたのだった。
……。
結果からして、同盟を結ぶことになった。
何故って、帰り道にロースロース叫ぶイリヤに襲われたのがそもそもだった。
「見ぃーー-つぅーーーけたっ!!」
「■■■■■■!!」
「え? ふわうきゃあああああああっ!?」
どごーんどごーんと音が聞こえるなーとは思ったが、まさかそれが足音だとは誰が予想しましょう。
空から降ってきた巨体が地面を揺らし、道路をヘコませた。やだなにこれ怖い。
「こんばんわシロウ! お姉ちゃんも召喚終わったよー!」
「イリヤ姉ぇ! 召喚って…………イリヤ姉ぇ? …………この方、どちら様で?」
「え? ヘラクレスだけど。ほらほら、ヒロミツとやったあれ! 聖遺物魔法陣に置いてさ、マイティー……はーきゅりー! って牛乳飲んだらなんか出てきた!」
ちょっと待てぇぇえええ!! なにそれ!! そんなんでヘラクレスが出るって、聖杯の頭どうかしてるんじゃないの!?
「でさでさシロウ! お姉ちゃんも一人じゃ寂しいからさ、同盟とか結んじゃわないっ!? どうせわたしが勝つしさっ!」
「む。そんなのやってみなきゃわかんないだろ」
「わかるもーんだ。バーサーカーに勝てるやつなんて居ないんだから」
「……“
「うぐっ……! 確かにヘラクレスは神性が……! ず、ずるい! シロウずるい! なんでそういうことしようとするの!? 一緒にやろうって言ってるだけなのに!」
「イリヤ姉ぇはいっつも一言多いんだよ……」
「うー……!」
「………」
目に涙を溜めて、唸るイリヤを見て、アーチャーは呆然としていた。
あれが、イリヤ? あれが?
長い髪を三つ編みで後ろで結わって、服は軽めで動きやすそうなもの。
そんな服の上からでも解るたわわさん。
……ハテ。自分の知るイリヤスフィール・フォン・アインツベルンは、幼女であったはずなのだが。
「あ、ところでどうシロウ! 髪の毛三つ編みひと房に纏めてみたんだけど! どうどうっ!? ストレートもいいけど、こういうお姉ちゃんもいいでしょー!?」
「ジャンヌみたいだな」
「ジャンヌさんみたいです」
「同志ジャンヌですね。もしくはアチャ子」
「カレン! それ以上いけない!」
軽口を言いつつ、にっこり笑う。
さ、答えは? と促しているようだった。
「……イリヤ姉ぇ。遠坂も同盟に入れる方向で、って言ったらどうだ?」
「んー……本気? 衛宮でもないしハサンでもないのに?」
「先に遠坂が戦ってくれてなきゃ、気づけなかったかもしれない。調査のために学園に潜伏はしてたけど……まあ、こじつけかもしれないけどさ、恩人ってことで」
「ふーん、そっか。じゃあいいよ? シロウも人を思いやれるようになったかー、お姉ちゃんうれしい」
「え、ちょ……やめてくれよ、思いやりだなんて」
……。話を聞いて、アーチャーは虫唾が走った。
どの道衛宮士郎は衛宮士郎なのだな、と。
ハサンと聞いてまさかとは思ったが、所詮───
「だって、見えるところに置いておかないと、裏切った時に暗殺できないじゃないか」
───誰こいつ!? えちょっ……エミッ……誰!?
「そっかそっかー、やっぱりシロウはシロウだねー、あはははははっ」
「当たり前だろ? もー、イリヤ姉ぇはー!」
『あっはっはっはっはっはっは!!』
……。アーチャーは思った。私、もとい俺、ここに根を下ろしたい、と。
衛宮士郎が正義の味方じゃない。最高じゃないですか、と。
草葉の陰で切嗣が泣いてた気がするけど今となってはなんかもうどうでもいい。
「……衛宮士郎、といったか。キミは、正義の味方をどう思う?」
「え? 敵」
「即っ……───~~……キミとは、いい酒が飲めそうだ。仲良くしよう」
「? あ、ああ……」
そうして───彼は。
長い長い旅の先で……自分という親友と出会った。
……。
その後も。
「ち、ちくしょう! 僕を裏切るのか!」
「いえそんな、人が歩くだけで血反吐吐くような人と一緒に居ても、なにが出来ると……」
「よろしくね、ライダー」
「ええ桜、あなたは何故かほうっておけない。よろしくお願いします」
「返せ! 返せぇえーーーっ!! 僕のサーヴァントーーーッ!!」
ワカメがあっさり裏切られたり、
「おい……おいおいおいおいおい……! 様子見で戦えとは言われたが……!」
「ほう……? 貴様、半神半人か。良い、珍しいものも見れたことだ……喜べ、貴様はこの我が手ずから殺してやる」
「宝具があんなに……!? てめぇどこのアサシンだ……! 宝具を腐るほど持つ黄金の暗殺者なんざ聞いたことが───」
「おお! 丁度余も暇しておったところだ! どれ、ここは余に任せて引っ込んでおるがよい、英雄王よ!」
「引っ込んでいろよ征服王。奴はこの我が手ずからと王の命令を下した。なんなら征服王……いつかの宣言、今ここで実行してやってもよいのだぞ?」
「ほう! 貴様がそうと言うなら是非もない! 集えよ我が同胞……!!」
「アサシンが二人……しかも違う宝具だぁ!? ぁ、い、いやっ……これは……! 固有結界!? なんの間違いだ!?」
「貴様がそう来るならば我とてもはや容赦せん……さあ目覚めよ“
「ちょっと待てぇええ!! 仲間割れなら他所でっ……うおぉおあぁああーーーーっ!?」
英雄王と征服王がハサンとして大暴れしたり、
「宗一郎様、食事の用意がウヴォロシャアアアアア!!《ゲボハァア!!》」
「おおぉっ!? キャスターさん何事か!? そ、宗一郎兄! キャスターさんが!」
「……。どうした、キャスター」
「ま、魔力っ……! 魔力が、急激に……かっ……カハーーーッ!?」
キャスターが、無遠慮に宝具を使うサーヴァントに苦しめられたり、
「かっ……! くそがっ、ようやく撒けたが……あそこまで無遠慮に宝具を使うなんざ、よっぽどの馬鹿か魔力に自信のあるマスターを持つかだ……! それにしても対界宝具だ……!? アサシンにそんなものを持つ伝説なんざ───」
「ココニイマス」
「《ビビクゥッ!》おぅううわっ!? てめぇ、いつから!!」
「イツカラワタシガアナタノ影ニ潜ンデイタカ、ナドトイウ質問ハ……トリッシュ。二度トシナイデクダサイ」
「誰だよトリッシュってのは! ……と、いうかだ。その格好、てめぇもアサシンか? 今日はアサシン、それもハサンに縁があるな……!」
「お初にお目にかかる。ハサンが一人、クロリストの中井出博光と申す者」
「───、名を名乗るとはな。こそこそ殺しにかかるアサシンとは違うらしいな。で? 追ってきてまで俺に用があんのかい?」
「おうさ。実は提案をね」
「提案だ?」
「うす。……受肉して、強者と戦いたくはございません? あ、これは別に本当に提案であって、腹黒い秘め事一切なしです」
「…………それを俺に訊いて、なにが目的かは言わねぇのか?」
「名の通り、僕は日本国の存在にて候。そんな博光ですが、願う気持ちは英霊とともに楽しみたい、これだけなのですじゃ。あ、ちなみにキミがさっき戦ったハサンは前回の聖杯戦争の参加者ね? ギルガメッシュとイスカンダル」
「ぶっは!? なっ……!? ~~……おい、それじゃあなにか? お前が本体だ、とか言うつもりか?」
「ホホ、愚かな。我らはあくまでハサンとして召喚されし者。1にして57億。その全てがハサンであり、その全てが宝具を持つと知りなさい」
「───」
「どうじゃね?」
馬鹿者が、逃げるランサーを呼び止め、提案をしたり。
「死力を尽くした戦い。それが俺の願いだ。……お前はそれを、俺に提供出来るか?」
「死力を? おおそりゃだめだ、無理だよ」
「ハッ、なんだそりゃ。お前じゃ力不足だってか?」
「そうだ《どーーーん》」
何故って絶対にからかいに走るから。
提案から入った会話を前に、彼は胸を張って答えた。
「気配を気づかせねぇまま俺にここまで近づいておいて、実力がない? なんの冗談だ《スチャッばごぉんっ!!》ぶぉはっ!?」
言いながら、あくまで自然を装い武器を構えれば拳が飛んだ。
顔面を捉えたそれはランサーの体を首を軸に回転させ、しかしランサーはすぐに体を捻ると着地、バックステップで距離を
「《どすっ》あ? なに《がしぃっ!》オワッ!?」
「大人のジャーマン!!」
「《どごぉんっ!》ほぴゅうっ!?」
そのバックステップの最中にとっくに背後を取られ、太ももごと抱きかかえるような高速ブリッヂを実行され、ランサーが頭から石畳に落下した。
もちろん英霊とて石に激突させられて痛くないわけもなく、だというのにランサーはすぐに立ち上がり、距離を取った。今度は地から足が離れないよう、素早い体移動で。
「槍兵の動きについてくるどころか、背後を取るだ……? クロリストっていったか。てめぇ、どこの英霊だ」
「だから日本だってば。ちょっと変わった召喚のされ方をしましてね? 前回の聖杯戦争でいろいろやって、サーヴァント全員と友達になったのがこの博光よ《どーーーん!》」
「…………とも……だち?」
「そう! だからねぇねぇクーさん! キミも友達になっておくれよ!」
「……ハッ、やだね。どうしてもってんなら、実力を行使して夕焼けと男の喧嘩の条件でも満たしてみな」
「よろしいならば死ね!」
「おい!?」
友達になっておくれが死ねにクラスチェンジした! どうすればそうなる!
ランサーは叫びながら、突撃してきた馬鹿を槍と体術で軽くあしらう。
「てめぇ、もしかして得意なのは気配遮断だけか? 構えも攻撃もてんでなっちゃいねぇ」
「なぁクーさん。強いだけではつまらんぞ? もっと楽しいことをしよう!」
「だから、よぉ───言ってわかんねぇのか? 死力を尽くさせてみろって言ってんだよ!」
踏み込みと、刺突。
ひとつの完成された行動とも言える速度と技が、その気迫とともに放たれた。
真名なぞ解放する必要もないほど、それは必殺の一撃だっただろう。
相手がこの馬鹿者でなければ。
「《ゾス》ン~~~……」
「…………はっ!? え、おいっ!?」
ゾスッて。槍が胸に刺さってゾスッて。
痛がるどころか危機感さえ持たず、馬鹿者は槍の一撃を喰らってもどこぞのビスケットさんのように落ち着いた顔をしていた。
「その服、ただの服じゃねぇのか……!? それとも馬鹿げた防御力でも───!」
「フッフフ、どちらも正解である。さあ───存分に叩き尽くし給えッッッ!!《ズンッ!》」
馬鹿者が包拳礼の構えで両足を開き、ステータス移動をした上で攻撃を待つ。
一方のランサーはコメカミにミキリと血管を浮かばせ、「死力を尽くさせてみろと言ったぞ、馬鹿が」と呟いた。
「ならば逝け。───その心臓、もらい受ける!」
ランサーが傾けた緋槍から、赤い魔力が漏れる。
放てば必ず標的の心臓を貫くとされる魔槍が今、真名とともに───!
「“
狙うは地面。
しかし槍は有り得ぬ曲がり方で角度を変え、防御の姿勢で待っていた馬鹿者の心臓を───確かに、貫いた。
「………」
「………」
「……なぁ」
「え? なに?」
「お前が手に持ってるそれ、なんだ?」
「え? 僕の心臓だけど?」
「………」
心臓が貫かれた。
でもべつに胸は刺してない。
心臓だけ貫いた。
他に外傷ひとつもなし。
「んもう心臓が欲しいなら欲しいって言ってくれれば! 僕の心臓でよかったら好きなだけあげるよ!? だから僕と友達になっておくれよ!」
「ちょちょちょちょちょっと待てぇええええええええっ!! 心臓!? おまっ……おぉおおおおおおおっ!?」
今さらながらに、自分が戦っていた存在が常識の外どころか外宇宙あたりに居たことを認識したランサーは、思わず槍を引いてバックステップ。
当然ながら槍には心臓が刺さったままであり、『オォオ~……ヒロミツゥウ~……イタイィイ……ヒロミツゥウ~……』とか喋って「ぎゃああーーーっ!?」思い切り振り落とされ、ボチャアと地面で破裂した。
「ああっ! 僕の心臓が!」
「ててててててめぇてめぇてっ……てめっ……ほんとどこの英霊だ!? 心臓の取り外しが可能な英雄なんざ……しっ……心臓だぞ!? おまっ……誰!? いやマジで誰だよ!」
「博光です《脱ぎャアーーーン!!》」
「脱ぐな! っくそっ! 付き合ってられるか!《タンッ》」
「え? あぁっ! 待ってよぅ!」
大きくバックステップするランサーに、中井出はアニメ版ぬ~べ~の人体模型みたいな声で引き留めに入った。
当然聞く理由もないので、皮肉のひとつでも残してから離脱してくれようとするランサーだが、
「は、ははぁ~~~ん? なにが不満なのかわかったぞこの野郎~~~っ! 貰い受ける数が足りねぇんだな~~~っ?」
「あ? なに言って───」
「ならばくらえぇえい! 射程20メートル! エメラルドスプラーーーッシュ!!《ボチュチュチュチュチュチュチュ!!》」
「ほぎゃああああああああーーーーーっ!?」
大キョーフ!
皮肉の一つでも言ってやろうと睨んだ相手が、なんと胸から心臓を発射しまくってくるのだ!
「一分間に600発の心臓を発射可能! いつかは30㎜の鉄板を貫通できるかもしれないガトリングハートだ!! 一発一発の心臓がお前の精神を削り取るのだァアアーーーッ!!」
「ちょボブ待ブブボてめボブやめブボやめろてめぇええーーーーーっ!!」
「叫べ叫べヒィーーーホホホホホ!! ほら! ねぇ! これが欲しかったんでしょ!? 貰い受けたかった心臓だよ心臓! ねぇねぇ! ねぇえったらほらァアアーーーッ!!」
「ぎゃあああああうぜぇえええーーーーっ!!」
槍を高速で捌き、心臓を叩き落としてゆく。
そうして、学校でそうしたようにルーンを刻み、火のルーンを解放。
辺りが火に包まれると、当然心臓も焼かれてゆく。
「心が熱い……! こんな気持ち初めて! 私にもはや迷い無し! 俺、今とっても胸アツ!」
胸アツどころか心臓が燃えている。
(ちぃっ……! 厄介なのに捕まった……! バゼットには必ず帰ってこいと令呪で命令されてるから、それこそ死力を尽くしすぎるわけにもいかねぇ……! 集中して、一瞬の間でも見つけりゃすぐにでも離脱を───)
『ォオオオ~……ヒロミツゥウ……! イタイィイ……ヒロミツゥウ……!!』
『アツイィイ……ヒロミツゥウウ……! ヒロヒロヒロヒロ……!!』
「だぁあーーーっ!! 集中させろてめぇええっ!!」
叩き落として燃やしている心臓がいちいち存分にやかましかった。
もういい付き合ってられんとばかりに、どうせ生暖かいだけで痛くもないのだ、そのまま強引に逃走する───!
足元に溜まった心臓を文字通り蹴散らし、跳躍を以て離脱する。
着地してからは大地を這うような疾駆を繰り返し、戦場から脱してみせた。
……。
で。
「おかえりなさいランサー。首尾はどうでしたか?」
「……心臓、もういらねぇ」
「え?」
この日より、ランサーが宝具解放の際に“その心臓、もらい受ける”と言うことはなかったという。
「ま、まあいいでしょう。それより、貴方の戦闘で得た知識をもとに、まず誰と戦うかを決めましょう。アサシンはどうでした? マスター殺しに長けていると聞いているので、マスターが弱くなければ打倒は可能。まず十分に勝機はあるかと思うのですが」
「───」
「ランサー? ランッ───目が死んでいますよ!? ランサー!?」
女がマスターになってもつくづくついてねぇ。
ランサーに人権無し。こんなひどい話に誰がした。
……。
さらにさらに。
「ちょっとハサン!」
「え? なに? 今ちょっと心臓の回収で忙しいんだけど。いやさぁアモルファス使って影で食っちゃってもいいんだけど、無駄にグルメなもんだからさぁ、焼けたのならいいけど焦げたのはヤーとかいうのよね。ブラックホールで自分の心臓飲み込むのもアレだし」
「そうじゃなくて! ……その。休んでる最中にザイードってハサンに聞いたわ。えっと、あなたがクロリストのハサンでいいのよね?」
「いかにも? わたくしめがアサシンの中のハサンの中のクロリストの博光。して、ザイード殿に聞いたこととはいったい?」
「前の聖杯戦争でっ! ……じゅっ……受肉して、現代の人と結婚したサーヴァントが居るって! しかもそれをさせたのがあなただって!」
「………」
「どうなの!? 本当なの!? いいえ本当と言ってちょうだい! 言えーーーっ!!」
「真実にて候。この博光めが彼女、静謐のハサンめを受肉させ、結婚まで導きました。いやぁ、よい妻をしておりますぞ彼女は。カリヤンも日々デレデレでござった。子供もこさえて、これがまためんこいもので。毒も受け継がなかったそうでなにより」
「どどどどどどうすればいいの!? なにが欲しいの!? どうすれば私を受肉させてくれるの!? いくら欲しいのよーーーっ!! えーーーっ!?」
「ワーーーオ! 自分が言われるとは思わなかった! いやいやまあまあ落ち着いて? それには条件があるのよさ」
「条件!? 愛なら満たしているわよ!?」
「いや、そうじゃなくて。聖杯を諦めること。それだけ」
「魔女の血の契約及びギアススクロールで事足りるわね?《キリィッ!!》」
それはそれは、とても潔くも凛々しい顔での契約だったという。
……キャスター、脱落。のちに葛木宗一郎と結婚。
剣碑ジークフリードに葛木とともに記録される。
令呪は中井出に譲渡され、現在はヒロラインでハネムーン旅行中。結婚式の資金も旅費も全て中井出持ちであった。
◆ネタ曝しです。
*モミアゲさん
中井出の中学時代の友人。祖父を亡くした彼に空間世界での生活を奨めたとある神社の若き神主。
創造の理力という能力を持っていて、体力消費を条件に頭の中で思い浮かべたものを創造できる。
ただしハトだけは消費無しで創造可能。
あることがきっかけで親友のトンガリくんを救うため、空間世界で冒険をした。
モンスター倒したり竜倒したりフェンリル倒したり王様やったりと、ともかく経験豊富。
そんな彼の願望は、ただただ縁側でのんびりお茶飲みたい程度のささやかな物。
*正面戦士の盾
風来のシレンより。
変化の壺でマンジカブラ手に入れてからが頑張りどころだと思うの。
99にしてカブラステギにして、いろいろ合成させて……ステキ。
*チャン・コーハン
KOFシリーズより、韓国チームの囚人。
鉄球を軽々振るえる筋力と、自身を遥か高みへと跳ばすことの出来る跳躍力を兼ねそろえた巨漢。
鉄球大圧殺をカウンターでキメると二段ヒットして強かった。
最近、どうしてか大破壊投げのモーションが、甘々と稲妻のEDで動いている。
メイビ~きみ~の~すべてが~、って部分で、リズムよくチャンコがゆっくり敵を叩きつけてたりする。
消えてくれない。
*だいたい横のカッパはなんだい
今日から俺は! より。
結局トン……ではなくトムってどうなったんだろう。
最終話には根本さえ出てきたのに、トムは出てこなかったような……。
*なん……だと……
ブリーチ! このあとっすぐっ!
どんでんを返す人が居たとするなら、きっと仕事を降りたくなるほどに逆転劇が多い。
最初から全力で行かない、相手を舐めてた所為で仲間が危機に陥る、人の話を聞かないでピンチ。
そういう展開なのだからとわかってはいるのに、最初から全力であったなら、救えた危険がいくつあっただろうとどうしても思ってしまう。
*竜槍ゲイボルグ
ロマンシングサガ2より、下り飛竜とか使えそう。
*アチャ子
比村奇石さんの二次創作キャラ。
銀髪、赤い外套、後ろで束ねた長い髪に女性らしい体つき……いったい何ヤスフィールなんだ……!
*それ以上、いけない
もはや定番。孤独のグルメより、呉さん。
あいつ……あの目……。
*ココニイマス
ジョジョ第五部より、スパイスガール。
*大人のジャーマン
キン肉マン二世より、スカーフェイスのジャーマンスープレックス。
*どこぞのビスケットさん
バキシリーズより、ビスケット・オリバ。
最初の無敵感、好きだったなぁ……刃牙と戦い始めると、誰もが“魔法が解けた”みたいになるから困る。
*存分に叩き尽くし給えッッッ!!
田中さん……もとい、金剛拳・楊海王。
防御力が自慢だったのに、オリバにベッシァアアと潰された。
*人体模型
ぬぅ~べぇ~~~ぇぇえ。
人体模型がいやにリアルだった。そして声がステキ。
「待ってよぉぅ!」の声とか、「先っ生ぇえええええ!! みんっなぁああああ!!」の声とか。
でも個人的にはコサックダンス踊る佐藤はるおくんとかの方が心臓によろしい。
*エメラルドスプラッシュ
ジョジョ第三部より、花京院典明のスタンド、ハイエロファントエメラルド……もとい、ハイエロファント・グリーンの技である。
こちらでは射程20メートルとか書いてますが、正しくは半径20m。
*一分間に600発の心臓を発射可能!
一分間に600発の徹甲弾を発射可能! 30mmの鉄板を貫通できる重機関砲だ!
ジョジョ第二部より、シュトロハイムのセクシー機関砲。
◆あとがき
カレンの年齢についてはいろいろありますが、気にしない方向で。