どこにでもあるFate/のオリ鯖参戦系の他愛ないお話   作:凍傷(ぜろくろ)

13 / 17
英霊たちの夜

 ───衛宮邸、道場。

 

I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている)───!」

「希望はハサンで出来ている───!」

 

 二人が唱え、剣を取り出し、攻防する。

 内包した武器から経験を得られる能力を持つ二人であるが故、その技術も見事なものだ。

 士郎も生きた時間の割にはその技術は大したもので、まるで一時間で一ヶ月は学んでいるような速度で鍛錬し続けたような技量だ。

 この世界では相当に励んだのだろう、とアーチャーは感心した。

 なんでも彼を救ったのは切嗣ではなくハサンだという。

 故にその願望は正義ではなく悪となり、暗殺に曲がったのだと。

 それを素直に感謝する。

 そして、この現代には英霊を好き勝手に受肉させることの出来る英霊が居るのだという。

 もはや座に戻る必要もなく、召喚され、いいように使われる理由もないのだと。

 ならばこの聖杯戦争、凜の気が済むほどに思う存分協力しよう。

 その心が胸を占めた時、彼の顔には笑顔が浮かんだ。

 久しく忘れていた、皮肉も混ぜない綺麗なものだった。

 

「なんだよアーチャー……! 仕合中に余裕だなっ───!」

「ああすまないシロウ……! これは君を笑ったものではない───!」

 

 剣を合わせる。

 車輪と枯れた大地、そして剣が占める景色と、白い仮面の残骸と武具が存在する大地で。

 魔力は枯渇せず、常にマナから供給される。

 しかし、コピー出来ないもの、内包出来ないものは創り上げるしかなく、ゲイボルグも桜の魔力のバックアップなくして創り上げられなかった。そうまでしても劣化品だった。

 

「上手いものだな。自らの隙を、今出来る極限まで殺している」

「俺一人の力じゃ無理だったさ……! 俺には、アンリが居るから───!」

 

 魔力を込めるたび、士郎の体に黒い紋様が浮かぶ。

 その都度、己は武器ではなく体を振るい、隙を殺すだけだ。

 振るうその手に武器が届く。

 砕かれようと、次の動作には武器が手に納まって、相手の隙を叩いている。

 だから振り抜いた際、剣の重さを気にすることもない。いっそ一度振って捨てたっていいのだ。

 隙は殺す。得物はアンリマユが届けてくれる。

 俺とアンリ、二人で一人前の人間。そんな俺と桜とカレン、三人で一人前の暗殺者。

 そんな彼が、体を少しずつ紋様で埋めながら攻撃を繰り返す。

 紋様が増える度に手にする武器のランクが上がり、これにはアーチャーも「ほう……!」と目を開いた。

 やがて体の大部分が黒く染まると、握る武器から得る経験も向上し、前に踏み出す回数も増えた。

 

「その身の紋様は呪いか? 悪であれ、と───シロウ、つまり君は」

「いいや、呪いなんてものはとっくに解けてるさ、アーチャー。ただ、人を殺す者が、その先の“楽しい”を壊す者が、悪でない筈がない。ただ、それを受け入れただけだ───!」

 

 疾駆。

 仕合とは言うが、得物は真剣だ。

 それも本気で振るっているものだから、斬られれば当然切れる。

 しかし二人は、まるで同じ肉体を持つ一心同体の存在に出会ったかのように、じゃれ合うが如く攻防を続けた。

 故に、面白いと。

 彼は笑い、彼も笑った。

 英霊の身にどこまで迫れるのか。

 英霊の身をいつ追い越せるのか。

 互いに想いをぶつけるように鬩ぎ合いを続け、時に弓にて武具を放ち、迫るそれを起源弾で破壊して。

 

「なっ……銃まで!? なかなかに無茶苦茶だな、君は……!」

「俺はちょっと混ざってるから、属性は剣じゃなくて“武具”なんだ。武器であれ防具であれ、使えるものはなんでも使うさ! そうでなくちゃ、暗殺なんて出来やしないんだから!」

「そうだ! 正義など忘れてしまえ! あんなものがなにかを救うなど、傲慢以外の何物でもない!」

「言われるまでもない!!」

 

 そこからは滅茶苦茶。

 使えるものはなんでも使う同士の戦いが、二人の気持ちを受け止めたかのように激化。

 レールカノンはぶっ放すわロケットランチャーは発射するわ、黒鍵躱されれば空中の英霊にロックオンミサイルぶっ放すわ。

 

「ちょっと待てきみそんなもの何処で《ドゴォオオン!!》ウボアァーーーーッ!!」

「暗殺道大原則ひとつ! 殺したと思った時こそ灰燼と化せ!! マナ・フル装填! ハイペリオンミサイル!」

「だから待てと! これが仕合だということを忘れてはいないか!?」

「ハッ!? あ……わ、悪い、つい熱くなって……」

「ふぅ……。暗殺において、冷静さを欠くことこそしてはいけないことだろう」

「むぅ。言う通りだな。忠告ありがとな、助かるよ」

「………」

「? どうしたんだ?」

「……いや」

 

 私はこんなにも物分かりがよかったかな、などと。

 小さく思っては笑い、凜のもとへ歩いた。

 

「……おっどろいた。予想が正しければ、あんたアレでしょ? ……未来からなんて有り得るのね」

「───! ……まあ、同じような能力、魔術の始動言語を並べてしまっては解るか」

「そりゃね。衛宮くんは特に気づいたわけでもなさそうだけど」

「ああ。この身は衛宮士郎が英雄に到った姿だ。ただし、平行世界の、ではあるが」

「そりゃ当然でしょ。ていうか、そうだとしたらアンタはもうこの聖杯戦争を経験済みってこと?」

「経験はしているが、違いすぎる。まず前回の聖杯戦争において、衛宮以外は敗北した。切嗣も呪われ、死んだ筈だ。当然、君の父君も亡くなっていた」

「……それでか。質問された時、おかしいと思ったわ」

「そして彼女。カレン・オルテンシアは参加していなかった。間桐桜も間桐としてライダーを使役していた筈だが」

「すごいわね……そこまで違うの?」

「ああ。もとよりあの夜、衛宮士郎はランサーに胸を突かれて死んでいる。それを蘇らせ、使った宝石を置いていったが故に、私は召喚された」

「《チャラ……》え? え、うそ、これっ……」

「まだ礼を言ってなかった。君がその宝石を持っているのを見た時、これが縁というものかと笑ったものだよ。……ありがとう、“遠坂”。ようやく感謝を届けられた」

「…………ぷっ! あっはははははは! えっ、英霊になってまで、召喚されてまで感謝したかったって! あはははははは!!」

「……む。悪いかね。感謝というものは心に残っていれば、べつにいつ口にしてもいいものだろう?」

 

 あ、拗ねた。

 そう思うと、途端にこの男がかわいく見えるのだから不思議だ。

 へ~? ふ~ん? あの衛宮くんがね~?

 

「あ、でもどうする? 受肉する? たぶんクロリストに言えば一発で“えーよ?”って返事されると思うけど」

「……。その、クロリストというのは何者なんだ? とんでもない存在だということだけはわかるのだが」

「“常識から外れた人間”よ。相性としてはジャンヌとよく似てるのかも。彼の場合、人を信じた結果、裏切りしかなかったんだそうだけどね。って言っても、わたしジャンヌとは小さい頃にちょこっと会った程度なのよね。たぶん衛宮くんと入れ違いになって、わたしは父さんと衛宮邸を出たから」

「……ジャンヌ? ジャンヌ・ダルクか。神を信じ続け、神にさえ裏切られたとされる聖女。なるほど、それはまたいろいろと闇が深そうだ」

「闇ねー……。たぶんそんなの、とっくに晴れてるわよ。つまらないことが嫌いなあの人が、そんなのをほうっておく筈がないから」

「凜?」

「ふふっ、べつに、なんでもないわよ。さってとー、じゃあとりあえずどこと戦おっか? キャスター、アサシン、ランサー……ライダーは味方に出来たから、あとはその三つ。ねぇアーチャー? あんたの見た聖杯戦争では、他のサーヴァントってどうだったの?」

「ふむ。まず───キャスターはメディア。マスターは葛木宗一郎。工房は柳洞寺。そのサーヴァントとしてアサシンが召喚され、正体は佐々木小次郎」

「サーヴァントがサーヴァントを!? しかもメディアって……はぁ、いろいろ面倒になりそうね……工房が柳洞寺ってところとか特に」

「ランサーはクー・フーリン。マスターは言峰綺礼。監督役だったが、裏でいろいろと企んでいた。前回の聖杯戦争のアーチャーであるギルガメッシュとともにな」

「え? ギルさんと?」

「───。……その。凜? まさかとは思うが───」

「ええ、知り合いよ? お父様───こほんっ、父が召喚したサーヴァント。アサシンと全力で戦って負けたとかで友情が芽生えて、随分と落ち着いたって話。最後に会った時は、ジャンプ見ながら笑ってたわ」

「………」

 

 あ。頭抱えた。

 

「へー……それにしても綺礼がねー……! 娘のことで狼狽える姿、結構面白かったのに。そっちじゃそんな陰謀とか企んでるんだ」

「娘?」

「え? ああ、見たでしょ? カレンよ。カレン・オルテンシア」

「………」

 

 あ。また頭抱えた。

 

「なるほど。それらの大体の捻じれ具合の原因はつまり、クロリストという男にあると思っていいのだね?」

「違うわよ?」

「違うのかね!?」

「アーチャー、そっちの聖杯戦争でなにがあったのかは知らないけどね、こっちで起こる幸福への道標は大体ハサンなのよ。どんな絶望の前でもこう唱えればいいの。他愛ない、ってね」

「───……」

 

 今度は遠い目をした。なんなのよもう。

 凜はぶちぶち呟いて、いつかを思い出す。

 自分が持つ知識を惜しげもなく説いてくれた、あのクロリストの話。

 アサシンは冬木に愛されている。

 いつでもハサン、誰でもハサン。

 大魔術師が、たとえばお父様がギルガメッシュの聖遺物を用意したとて、枠が埋まっていれば出てくるのはハサンなのだ。

 これはつまり冬木に生きる者はハサンとともにあるということなのでは?

 そんなことを真顔で説いたクロリストの言葉を、このうっかりさんは結構真面目に聞いていた。

 だって実際そうなのだし。父だって、ハサンが仮死状態で生かしてくれたから今生の別れにならなかった。

 きっとアサシンには気を付けろと父が言ったのは、そういったことに関係があるのだろう。

 ああ素晴らしきハサン・サッバーハ。いや、崇拝まではしないけども、感謝はしてる。

 

「とりあえず言っておくわ。アサシンに対して油断はするなっていうのは、今やこの冬木の常識なのよ。言ってはみたけど、アサシンは出来れば最後にしたい。で、そうなると自動的にキャスターは最後になるわ。つまり───」

「初っ端からクー・フーリンかね。やれやれ、人使いの荒い……」

「出し惜しみしないで固有結界使って、勝てる見込みは?」

「さてな。負けるつもりは当然ないが、彼の宝具はちと厄介だ。……ゲイ・ボルク。心臓に槍が命中した、という結果を作ってから槍を放つという原因を作る、因果の逆転を発動させる呪いの朱槍。出会い頭に放たれれば為す術なく殺されるだろうな」

「あー……そうよねー、やっぱりそうくるわよねー……」

 

 別の宝具だったらよかったのに、と思わなくもないが、クー・フーリンの伝承に由来する宝具といったらとんでもないもの揃いなので、なにがいいとは一概に言えなかった。

 もちろん、言ったところで変わるわけでもない。

 

「まあなんなら、イリヤに頼んでバーサーカーに潰させるってのもありか。心臓狙っても12回刺さなきゃ死なないし」

「鬼かね君は」

 

 そもそも殺さなきゃ命のストックは尽きないのだから、心臓貫かれようが突進してそうなヘラクレスを殺し切るまで、果たして何度槍を心臓に到達させられるのか。

 筋肉分厚いし。

 易々と心臓に刺させてくれるわけがないし。

 

───……。

 

 その夜。

 

「どうもー♪」

「キャスタァアアーーーーーッ!?」

 

 ローブを身に着けた、明らかに人間超越してるって様相の女性が、葛木とともに衛宮邸へやってきた。

 なんでもハネムーンのお土産を持ってきたのだとか。

 しかも聞けば聖杯戦争降りたって言うし!

 

「約一年かけて、たっぷりと夫婦だけの旅行を楽しんできたの……。なんかもう、聖杯とか必要ないっていうか、十分幸せだし、あげるわ。むしろいらない《ぽぽぽ……♪》」

「えっ、え、えー……!? だってそのっ……えー……!?」

「あ、令呪なら要らないからアサシンにあげたわよ? 今頃どこでなにをしてるのか知らないけど」

「アサシンが支配下から外れた!? あ、あんた! 冬木のアサシンを野放しになんかしたらどうなるか───!!」

「え? なに? そんなにまずいの? いいハサンだったわよ? クロリストのヒロミツ、とか言って」

 

 どんがらがっしゃああんっ!! ……厨房から、鍋をひっくり返したような音がした。

 ひょいと凜が覗いてみると、どんよりお葬式ムードのセイバー陣営。

 

「アルトリア居ない理由、わかった……ギル兄ぃも、征服王も……」

「切嗣さんも居ませんし、ナタリアさんもシャーレイさんも舞弥さんも……」

「そういえば同志ジャンヌも居ません……つまり、アサシンとして呼ばれたのは───」

「え? ちょっとなに? もしかして……衛宮一家がアサシンとして召喚されたってことぉおっ!?」

 

 叫んだ。頷かれた。また叫んだ。

 

「じょぉおおだんじゃないわよ!! あんなバケモノ揃いの連中相手にどう勝てって、どう生き残れっていうの!?」

「凜? 衛宮一家とは、シロウと切嗣だけでは───」

「前回のキャスターを除いた全サーヴァントと、そこの三人を除いた関係者ほぼ全員よ……ああぁあ悪夢だわぁあ……! なんでこんなぁあ……!!」

「……シロウ。衛宮一家とはそんなに強いのかね?」

「全員が暗殺集団だよ。たまに白い髑髏の仮面つけて遊んでたけど、それが原因なのか、クロリストの思念が聖杯と混ざってたのが原因なのか」

 

 その言葉に、キャスターがうんざりって顔で言う。

 

「あー、そう、そういうことなのね。道理で魔力消費が激しいわけよ。我も強いし言うこと聞かないし、そのくせ人の魔力で好き勝手に宝具は使うし」

「ちなみにキャスター、こっちの陣営に協力───」

「死にたくないから嫌よ。願いなんかよりも大事なものを、私は手に入れたのだもの───!」

 

 正論であった。

 こればかりは凜もそりゃそうだと頷いた。

 

「じゃあ───」

「じゃあ? どうするんだ遠坂」

「……ランサー、けしかける」

「この人でなし、と言われそうだな、凜」

「なんかすっごい複雑なんだけどそれ! じゃあどうしろってのよ! ───あっ、そうだ! ヘラクレスなら案外───!」

「あ、無理だぞ遠坂。クロリストは比類なき神殺礼装を持ってるから。そうじゃなくても12回なんてアッと言う間で終わる」

「…………《こーーーん……》」

「あらら。体育座りで沈んじゃったわね。まあいいわ、私はお土産持ってきただけだから。ああ、あと。聖杯戦争始めてくれてありがとうね! 私、幸せになるから!」

「不幸になれー! うわーーーん!!」

 

 塩撒いた。凜が。泣きながら。

 

「あー、っと……とりあえずさ、遠坂。セレネさんなら同じアサシンだし、なにかこう、俺達にはない考えで解決策を見つけてくれるかもしれないし、相談だけでもしてみないか?」

「あっ───! そ、そう! それよ衛宮くん! それでセレネさんは!?」

「今別の厨房で雁夜さんの料理作ってるけど」

「言ってくるわ!《ダッ!》」

「うわ馬鹿っ! 止まれ遠坂っ! 素手で食材触ってるんだぞ!? 料理ってことは湯気とか出るんだぞ!? 遠坂ーーーっ!!」

 

 …………。

 

「《ちーーーーん……》…………うぇええぅう……」

「君はつくづく愚かしいな、凜」

「うっさいばかぁ~……! うー……ぎぼぢわるい……吐き気すごいぃ……!」

「まあ、気体となった毒が癒しとやらで浄化されていたようでなによりだ。踏み込みすぎれば死んでいたぞ」

「もうやだぁ~……優雅とか無理よぅ、わたしそんな落ち着きとかないもん……おとうさまのばかー……!」

 

 イジケ始めた。

 やれやれと溜め息を吐きつつ、癒しの大樹とやらに座らせ、隣に座るアーチャーは屋敷を眺めた。

 随分とまた、懐かしい外観だ。

 目を閉じれば、なにかの突端が思い出せそうな気がした───が、今の自分にはもう必要もないのだろう。

 ざぁ、と吹く風がどうにも心地よい。

 今までで負った、もはや癒えている傷も、摩耗していった心も、癒してくれるような気分だった。

 

───……。

 

 で。

 そんな夜の、違う場所で。

 

『狗と言ったな、貴様───!』

「なしてジャンヌまで怒るの!?」

 

 陣地を変えたアサシン勢を、ランサーが襲撃した。

 もちろんバゼットも一緒に。

 そんな中、ついゴリモリハサンが漏らした狗という言葉に反応し、ランサー、と何故かジャンヌハサンが怒りを露わにした。

 そこは第四次聖杯戦争にてアインツベルン陣営が使用していた城だったのだが、そこにピリリと刺激的な殺気が溢れたわけで。

 

「だめです、よろしくありません、犬なんて、犬なんて! わたしには犬小屋がお似合いと言うつもりですか! 語尾にワンとかクゥ~ンとかつけて媚びを売るのがお似合いだと! 犬耳とかつけて犬尻尾とかつけて露出度の高い格好で! 格好でぇええーーーーっ!!」

「……あー……なんだ、ヒロミツよ。お前んところのサーヴァント、ありゃあ……犬に嫌な思い出でもあるのか? 余はべつに深い意味を以て言ったつもりはなかったんだがなぁ」

「そげな記憶はなかったと思うんだけど。だ、大丈夫だよジャンヌ? 僕は貴様を犬だなんて言いません。キミはジャンヌだ。ただのジャンヌだとも」

「~~……《ぶわわっ!》うわぁああんヒロミツさぁあん! 悪夢が! 悪夢がわたしに媚びを売れと! 犬になれとーーーっ!」

 

 泣いて抱き着いてきたジャンヌを、おうよしよしと撫でまわした。

 そうしながら記憶を覗いてみると、路地裏の11という文字が出てきて、なんとも……悲しくなった。

 

「大丈夫、それジャンヌじゃないから。設定固まってない謎の神風魔法少女だから。設定がどうでもいいなら名前もどうでもいいんだよきっと。だからそのお犬さん、ジャンヌなんて名前じゃなかったのよ。犬小屋に書いてある名前も実はフェイク。だからなんかもういっそポルナレフ・ザンドリア・チャーリー・ドラッグソンでいいんじゃないかな」

「おい……よくわからねぇ話し合いはそれくらいにしてくれねぇか? こちとら暇じゃねぇんだ」

「おバカ! 一人の少女のキャラがかかっていることに対してなんという! キミだってもし召喚されるたびに自害せよとかひどい目に遭う宿命とかセオリーとか言われて、“ランサーが死んだ! この人でなし!”がテンプレみたいになったらどうすんの!」

「なんでそんな具体的なんだよ! ……とにかくだ。前にも言ったな? 俺の願いは───」

「心臓だよね!?《わくわく……!》」

「すまん違うあの時は悪かった本気ですまんもう勘弁してくれお願いだ!!」

「え、そ、そう?」

 

 なんか全力で謝られたので、上着を脱ごうとしていた馬鹿は留まった。

 抱き着いているジャンヌはいきなり服を脱ごうとした馬鹿を前に、顔が真っ赤だが。

 

「……死力、尽くさせてくれ。全力で、ただ一人の戦士として。願いがあるとすれば、それだけだ」

「ふむぅ。みなさま、よろしい?」

「は。主の命とあらばこのディルムッド・オディナ、いつでも」

「騎兵としてのその在り方、眩しく思いますクー・フーリン。ならば私もブリテンが王、アーサー・ペンドラゴンとして、全力で受け止めましょう」

「王が進むのであれば騎士もまた。このランスロット、王とともにゆきましょう」

「この数を前に死力を尽くしてとは! ふははははぬかしおる! ではランサーよ! この征服王イスカンダルも、死力を振りかざし全力を以て貴様を征服しよう! ……だがその前に、余の軍門に───」

「そこまでだ征服王。そこな男は我が手ずから殺すと決めたのだ。死闘の果てに友と認められるのならばそれも良し。そうであらず果てるのであればそれも良し」

「ならばわたしは主の御旗の下、皆様を鼓舞しましょう。さあ往きますよ槍の騎兵よ! 我ら主の御旗の下、汝の死力を受け止めて尚駆ける者!」

 

 ジャンヌがその手に旗を出現させ、地に突き立て吼える。

 ランサーはその気迫にニヤリと口角を持ち上げ、槍を手に構えた。

 

「いざ益荒男よ! ケルトに記したその雄姿! その全てを用いて剣にその名を刻みなさい!」

「神を信じた聖女がよく言った! この身を半神と知ってなお砕くなら、代わりにその命を置いてってもらうぜぇ!?」

「───聖女と言ったなランサー。よく言った。なら、お前が先に逝け」

「ちょ!? それ俺の台詞!」

「この身は剣碑を拠代に、剣とともに在る! 悪の剣に聖女などとよくぞ謳った! 我が旗よ! 我が敵を屠りたまえ!!《ダンッ!!》」

「は!? え、おい!? 鼓舞するだけじゃねぇのかよ!!」

 

 ジャンヌが行った!

 マナが全身を覆い、守りではなく破壊に特化した突撃を以て、ランサー目掛けて。

 

「《ごぎぃんっ!!》つぁっ……! マジかよっ……なんつぅ馬鹿力……!」

「名乗らせていただきましょう……! アサシンの中のハサンの中のクロリストが使徒の一、ジャンヌ・ダルク……! 聖女などではない、ただのジャンヌです!」

「ほう……? 鼓舞だけじゃなく突撃に長けてるたぁ……常に先頭を駆けたっつぅ逸話が具現化したのがその宝具か……!」

「ただの旗での殴打です失礼な! わわわわたしの筋力が宝具並みにあると言いたいのですか!?」

「───」

 

 ああうんちょっと待て。

 こいつら普段どういう生活してんの? つか、ジャンヌってマジでこんな腕力だったの?

 片手で空気抵抗が余裕である旗とか、こんな速度で振るっちゃってるんですけど!? どんなブーストされてんだよこいつ! ありえねぇ!

 ランサー、心の中で絶叫。

 しかしその旗のなんと美しいことよ。

 振るう度に緑色の粒子が舞い、傷を負ってもその粒子が傷を癒すとくる。

 加えてこの腕力。

 なるほど、死力ってほどでもねぇかもだが、悪くねぇ。

 そう思って笑い、ランサーは槍を奔らせ続けた。

 時に蹴りを、時にルーンを行使して。

 そしてそんなルーンが炎となって周囲を燃やした時、ジャンヌは前へ進む足を止めた。

 刹那、鋭い蹴りがジャンヌの鳩尾を穿ち、城の大きな階段へと激突させた。

 

「……こいよ。次だ」

 

 ランサーは息を荒げず、ちょいちょいと階段の上のアサシンらへと挑発を飛ばした───刹那、その眼前にジャンヌが。

 

「なに《ゴガガガガギィンッ!!》つおぉぁっ!?」

「次を欲するのはまだ早い!」

 

 振るわれた旗を槍で受け止めたのだが、その衝撃に歯を食い縛った。

 (有り得ねぇ! 力が倍になったどころじゃねぇ!)───槍から伝わるソレは先ほどまでとはまるで違う。

 旗が六つにブレて見え、ジャンヌ自身からは赤い光がボウと漏れ、

 

「“une”───!」

 

 地を踏みしめ蹴り弾く一歩のなんたる速さと力強さ。

 肉迫した状態で踏み込まれたその一歩が旗とともに繰り出され、勢いと力の全てが旗に預けられ、ランサーを襲う。

 ランサーはそれを槍と腕力だけで受け止めようとするが、すぐさま槍を地面に突き立て、その抵抗も利用し防いだ。防いだなら反撃、と出る筈が、

 

「“due”!!」

 

 即座に二歩目。

 武器を密着させているというのに、押してどうなる、馬鹿が───そう思ったランサーは、大きく背と脚を軋ませることになった。

 

「てっ───」

「“trois”───!!」

「───!!」

 

 次ぐ三歩。

 足が地を抉り離れた途端、振り切られた旗によってランサーの体は吹き飛んだ。

 

「っ……本気でどういう馬鹿力してやが───」

「力ではありません! 歩法奥義というものです!」

 

 地に足をつけ、吹き飛ぶ己を止めんとしたランサーは、離れた景色から吹き飛ぶ自分よりも速く迫るジャンヌに驚き、しかし口角を持ち上げる。

 振るわれる旗を槍で受け止め、それを利用し身を捻り、地に降りる。

 

「そりゃあどういった芸当だ? ジャンヌ・ダルクに武器を分裂させる能力なんざなかったと思うが?」

「借りものの力というものですよ。時間がないので全力でいきます」

「制限時間があるのかよ……いいねぇ、んじゃあ───楽しませてくれやぁ!」

 

 互いに地を蹴り、激突。

 やはりランサーの手には六度の衝撃が一気に走るが、その衝撃も、その身に走る振動も、自身を昂らせるものにしかなりはしない。

 ───そう。

 ジャンヌ・ダルクに、武器を分裂させる───そのような能力は存在しない。

 その正体は真実借り物の力であり、剣を拠代にしたからこそ引き出せる、中井出の能力であった。

 

  宝具の名を、剣碑を撫ぜる聖女は此処に(シュプリーム・ルーラー)

 

 拠代を通じて、ランクは下がるがスキルを使用できるというもの。

 その中でも身体能力ブースト系と六閃化を使用。旗に攻撃回数を六回に増やす能力を付加し、ジャンヌ自身も強化。突撃し、圧してみせているわけだ。

 ただし3分しか持続せず、その間に倒せなければ超筋肉痛、というものに襲われる恐ろしい能力。

 だが、サーヴァント同士の戦いだ。3分がどれだけ長いかなど、考えるまでもない。

 

「《ゴガガガガギィンッ!》……、《ガガガガガギィン!》……! ……!? 信じられねぇ……! 旗で俺の速度に迫るか───!」

「生憎と武器はこれしかないので、ね───!」

 

 無駄を殺した身の捌きで槍を弾く。

 旗、といっても、マナの粒子で編んだソレは風の抵抗などろくに受けず、捌いているのは槍だと思えばその速度も不思議ではないのだ。

 もちろん、身体能力強化のブーストがあって初めて対応できる速度ではあるが。

 

「面白ぇ! 旗風情と侮ったが、呼ばれるだけはあるわけだ! 聖女ってのも伊達じゃねぇ!」

 

 ランサーはさらに速度を上げ、連突を仕掛ける。

 しかしそれまでもが高速に振るわれる旗に弾かれ、相手に届かない。

 

「へッ! ならこれだ。死んでくれんなよ、嬢ちゃん!」

「───」

 

 踏み込む。

 速度重視ではない剛撃が、仕留めるための一閃が渾身で放たれ、

 

「“是・飛燕(フラッシング)───」

 

 その先ではジャンヌが、マナで編んだ布部分を巻いた旗棒を手に構え、

 

「───虚空殺(スローター)”!!」

 

 放たれるは一瞬にして十連撃を放つ奥義。

 やはり劣化能力ではあるが、六閃化にて強化されたそれが、制空圏に入ったランサーへと襲い掛かる。

 一撃を六撃に変える能力と身体能力強化による剛撃、秒とかからず十を連ねる技が60もの連撃となってランサーの一撃を弾き、まさか防がれるどころか自分の腕ごと後方へ仰け反らされるとは思っていなかったランサーは───笑った。それは喜び故だった。

 腕は肩ごと後方に持っていかれ、眼前には既に次を構える聖女。

 普通ならばやられる状況下にあって、口角は持ち上がり、目は期待で強く開かれ、強引に戻そうとする肩がミシミシと音を立てようが───喜びは浮かんだ。危機の無い戦いに、死力など尽くせるわけがないのだから。

 

「おぉらぁあっ!!」

 

 右腕は肩ごと後方へ。

 ならば、その勢いに逆らわずに回転し、その上で袈裟掛けの叩き潰し。

 それはジャンヌが咄嗟に構えた旗棒で弾かれたが、防御させておいて放たれた蹴りが再びジャンヌを襲い、彼女は吹き飛び、体勢を立て直すと地に足を置き、滑り、階段前で止まった。

 

「……、あん? なんだよ、もう終わりか?」

「ええ。わたしはここまでです。これ以上は恨まれそうなので」

 

 そう言うジャンヌの前に、スッと静かに降り立つはフィオナ騎士団ディルムッド・オディナ。

 ランサーと元ランサーの戦いは早速始まり、ジャンヌは中井出にしっかりと癒され、頭をなでくりされていた。……のちにしっかりと超筋肉痛には襲われ、涙を浮かべていたが。

 

「ほう? 俺の両手槍を片手ずつで防げるつもりかてめぇ」

「さてな。受けるだけが防御ではなかろう、光の御子よ。……御身と戦えること、光栄に思う」

「そうかよ。ならせいぜい粘れよ───!」

 

 踏み込みと同時に、線の束が襲い掛かったと見間違えるほどの連突。

 それをディルムッドは二槍を器用に捌き、回転させ、一方ではなく両端で弾くかのようにいなしてみせ、早さに慣れるや、同じく二槍にて連突を放ってゆく。

 それでもなお、二槍を一槍にて圧してみせるその姿はまさに大英雄。

 ディルムッドは「さすがに一筋縄ではいかんな……」と笑みを浮かべ、けれどそんな点のぶつかり合いに心の奮えを確かに感じていた。

 やがて鋭い突きがディルムッドの守りを弾いてみせると、ランサーはその隙を逃さず、朱槍をさらに染め、必殺の一撃を放つ───!

 

「心臓に来るのは知っている。後をねだるあまり、決着を急いだのは失策だったなランサー───!」

「なに───!?《ゾギィンッ!!》───! っ!? なんだと!?」

 

 朱き輝きを放っていた槍が紅の槍の穂先と触れた───刹那、込められた魔力も呪いも全てが断ち切られた。

 ただの刺突となったそれはそのまま紅槍に弾かれ、ならばと放った鋭い蹴りもまた、ディルムッドの腹に届きはしたのだが。

 

「その足、貰い受ける───!!」

「《ゾバァッ!》ぎっ!? がっ……! てめぇっ……!!」

 

 蹴り飛ばされ、ディルムッドもジャンヌと同じく階段へ。

 危なげなく身を回転させ、着地してみせたが……まだまだ戦えるだろうに、ここまでだと言ってリタイアした。

 

「ッチィ……! 治癒妨害の呪いか……! なるほど、これで次の相手と戦えってのは……」

「湖の騎士ランスロット。……参る」

「死力の尽くし甲斐、ってのがありそうだぜ───! おいバゼット! 余計なことするんじゃねぇぞ! 俺は今、最高に充実してんだからな───!」

 

 闘い、高揚し、まだまだあんなに敵が居るのならと必殺を急いだ隙を突かれ、左足を殺された。

 が、立っていられないわけではない。

 むしろこれが戦いってもんだろうと、一層に口角を引き延ばし、持ち上げ、相手を睨んだ。

 足はもはや棒であると断ずる。

 膝から先は機能せぬ。

 ならば足ではない、棒だ。

 

「っ……おぉらぁあっ!!」

 

 腱を斬られて尚、地を蹴り、弾かれたような疾駆。

 刺突ではなく、勢いをそのまま乗せた槍でのフルスウィングがランスロットへ向けられ、しかしそれが抜き出された黒い剣に受け止められ、風だけを巻き起こした。

 

「……おいおいなんの冗談だ……!? さっきまで、ただ腰にぶら下げてた宝具でもねぇ木剣だっただろうが……!」

「私が触れれば、たとえ木の枝だろうと宝具になる」

「そりゃすげぇな。けど、そんなもんで俺とやり合う気か?」

「いいや?《がしょんっ》」

「は? え、あ、おいちょ」

 

 構えたキャリコが火を噴いた。

 宝具として昇華されたそれは、高速回転させて銃弾を弾く槍を、激しく揺らしてくる。威力がもう連射銃の威力ではない。矢避けの加護を以て避けもするが、それが宝具級ともなれば難しくなってくる。

 騎士が銃とかふざけんなと言いたいが、この男、そもそもアーサー王に殺される以外になんの興味もなく召喚された男。

 その目的の王が自分を許すというならば、王の敵、とりあえず殺す。

 己はバーサーカーこそが己のクラスと断じ、今では暗殺者なのだから。

 

「私はな、槍の騎兵よ。騎士などになるべきではなかったのだ。誉れも憧憬も、今は王にこそ捧げよう。そして───」

 

 弾が尽きる。

 キャリコを捨てるランスロットと、ランサーが疾駆するのは同時。

 正面に投げられたキャリコが額に当たろうと走り、一気に間合いを詰めたランサーが最速を放つ。

 

「騎士を捨てんとした私を友と言った王のためにも」

 

 虚空に黒が集う。

 見えない何かに槍が衝突した、と思うや、なにもないそこに剣が出現する。

 

「私はもう、何者にも揺るがされぬ王の剣となり盾となる。そう───……裏切られるまで、裏切らぬのだ───!!」

「っ……!」

 

 口では笑みを浮かべ、目では相手を睨んだまま。

 クー・フーリンの身は汗を吹き出した。

 なるほど、こりゃあとんでもねぇ。

 足をやられた状態でどこまでやれるか。いや───やれなくてもやるんだよ。

 それが死力ってもんだ。

 

「おぉおおっ!!」

「はぁああああっ!!」

 

 やがて、剣と槍の攻防が始まった。

 

 

───……。

 

 

……。

 

 …………。

 

「がっは……! はぁっ、はぁっ……!!」

 

 保有スキルを駆使し、仕切り直しを何度して、戦闘続行を幾度繰り返したのか。

 左肩は砕け、足は動かず、右目は潰れ、右手の中指は折れている。

 「いっそ殺すつもりで戦ったとはいえ、この人数を相手取り、未だ生きているのは見事である」───イスカンダルがニカッと笑って言ってみせた。

 それぞれのハサンが馬鹿げた能力を持ち過ぎなのだ。

 言峰と切嗣のコンビには散々と不意を突かれた。

 ともかく切嗣が視界から外れるのが上手く、対象を目で捉えていなければ矢避けの加護は通用しない。

 視界の外から迫る、起源弾が宝具となったこいつの弾丸は実に厄介であり、槍で弾こうものなら確実に体勢が崩される。

 武器が破壊されることこそなかったが、砲弾を真正面から受け止めたような衝撃が、あんな小さな弾丸から走り、どうあっても体勢は崩され、そこへマジカル八極拳だ。

 マナと魔力を凝縮させて放つ朋拳が宝具扱いとなれば、避けるに限るのだが。キャリコで狙われ悠長に立って応戦していれば起源弾がくる。

 そうして無理矢理出された隙を縫っての朋拳が、槍を持った中指を破壊した。

 肩は遥かなる蹂躙制覇による破壊であり、目は王の財宝に持っていかれた。

 それでも生きて、一巡を抜けてみれば、

 

「では、死力を尽くしてください。これからが本番ですよ、クー・セタンタ」

 

 ジャンヌが旗を掲げ、鼓舞にて全員の能力を上げてみせた。

 これにはさすがのランサーも目眩を覚え、血を吐きながら「マジかよ……」と呟く。

 だがこれこそ死地、これこそ死闘。逃げるなどという選択肢はそもそもなく、自分はこうして全力で、全てを出し切って戦えれば───

 

「では二巡では我が最初であり───……最後としよう」

「───……」

 

 原初の英雄が、仮面を取って髪を逆立て、王の威とともに不敵に笑う。

 抜き出した“乖離剣(エア)”を見て、知らず口角が最高に持ちあがる。

 

「~……チッ……もう、槍に込める魔力も残っちゃいねぇ……。すまねぇなバゼット、妙な意地に付き合わせちまった……」

「……いいえ。ランサー、令呪を以て最大攻撃を命ずることも出来ますが、あなたはどうしたいのですか? これはあなたの戦いです。続行というのであれば───」

「ああ……俺の戦いだ。それは、いらねぇ」

「───……ええ、そうだと思いました。ではランサー、最後まで───あなたの戦いを」

「……、おう…………あんがとよ」

 

 全部出し切った。全力で、今持てる全てで。

 それで負けるなら。

 

「───っ───!」

 

 動かぬ足で疾駆。

 折れた指で槍を握り、砕かれた肩を筋肉で繋ぎ止め、潰れた目は探索のルーンで補助。

 さあいざ、死の果てへ。死をもたらす朱槍とともに───!!

 

「貫けェ! ゲイ・ボルクゥウウッ!!」

 

 真名解放する魔力はない。

 が、叫びし名は己の朱槍。

 

「その尽きぬ力に終わりを下賜する。夢より醒めよ、ケルトの猛者よ」

 

 だが。

 その朱槍の一閃が届くことはない。

 目が覚め体が竦み、震え上がるような大気の渦が、それを押し退けた。

 

「ちく、しょうが……っ……ははっ……まいったね……体が、もう───」

 

 動かねぇ。

 ぽつりと呟き、その青は陸地に在って大渦に呑まれ、姿を消した。

 

 

───……。

 

 

……。

 

 ザァッ───!

 

「───残像だ」

「ハッ!?」

 

 はっと気づくと、ランサーは五体満足でアインツベルンの客間に案内されていた。

 

「これぞ秘奥義幻影無光拳……!」

「いやちょっと待て! あんな生々しいのが残像だとか幻覚だとか!」

「まあま、細かいことなんざ遠投してしまえばヨロシ。というわけで」

「……あー、わぁったよ、存分に楽しめた。体力回復してるから仕切り直しだ、なんて恥知らずなこと言えるかよ」

「じゃあ僕と契約してお友達になってよ!」

「いや、契約はいらねぇよ。つまらねぇこと重ねるとろくなことにならねぇ。ダチと認めたからには遠慮はしねぇし、だからって敵に回れば親友だろうが心臓を貫く。俺のダチって考えはそれだ。それで文句がねぇなら好きにしろ」

「じゃあ友情記念に心臓───」

「いらねぇ」

 

 即答であった。

 

「ま、そうと決まりゃあ仲良くしようや。んで? バゼットはどうした?」

「え? ああバゼちゃん? 夕飯食べてなかったそうなんで、ご馳走したら夢中になって食べてます」

「……わりぃ。なんか早速身内の恥さらした気分だ……!」

「いやいや、うちのアルトリアちゃんもジャンヌもがっつがつ食ってるから」

「あー、かのアーサー王がアサシンたぁ驚いたわ。ギルガメッシュも、イスカンダルも。おめぇらほんとなんなんだ?」

「ハサンざます。まあそこはメシ食いながらでも説明するわい。あ、嫌いなもんとかある? 要望あればなんでも作るよ?」

「犬は生涯食わねぇ。あと一日に一人とのみ戦うってゲッシュ破らせやがって、どうしてくれる」

「呪いならもう解いたからオッケー。戦ってる最中も呪いによる負荷とかなかったでしょ?」

「……あーわかった。お前に常識とか言っても無駄ってことがよーくわかった」

「遅すぎたくらいさ」

「オイ。ちったぁ常識も考えろ馬鹿野郎」

 

 喋りつつも味方になれば遠慮なく馴れ馴れしい。

 肩とか組んで食事しに行くと、既にバゼットとアサシンたちが宴を始めていた。

 

「ヤーホーみんなー! ランサーが友達になってくれたよー!」

『……ようこそ、暗殺集団へ』

「アサシンになった覚えはねぇよ!!」

 

 迎えられた第一声からひどいもんだったという。

 

「いやしかしなぁランサー、これは乗っておいて損はないぞ? なにせ余らをいとも容易く屠る存在なぞ、腐るほどおるからな!」

「腐るほどってのは……あいつらがか? 征服王さんよ」

「いいや、やつらもまあなかなかの腕ではあるが、容易くとはなかなかゆくまい。まあ、招待されてからのお楽しみというやつだな! ふわあははははははは!!」

「……?」

 

 酒を片手に寄ってきた征服王に、肩を竦めつつ息を吐くが、理解には至らない。

 しかし奨められた酒を断る気分でもなかったので、渡されたものをくいっと一口。

 

「……! ……うめぇ」

「で、あろう? 美味い飯に美味い酒、鮮烈にして壮絶なる戦もあり、その戦は未知の領域をひた走ることで幾度なりとも行なえる! こんな面白い世界を征服せずして、いったいなにを楽しめと言うのだ。故にな、ランサーよ。あやつの傍は絶対に貴様を飽きさせることはない。好きな時に、また幾度なりとも挑めばよいわ。……彼方にこそ栄え在り。届かぬからこそ挑むのだ。そうして、今は見えん強敵に思い馳せておれ。ど~せすぐに思い知るだろうがな、むはははははは!!」

 

 言うだけ言うと、征服王はのっしのっしと歩き、アルトリアとジャンヌの大食い対決に混ざった。

 そんな様子をポケーと見ていたランサーだったが、後から混ざったというのに一番に食えなくなった征服王を見て笑った。

 なるほど、ここは随分と自由らしい。

 自分とて相当自由な性格な自負はあったが、それをこうまで受け入れてくれそうな場所も珍しい。

 

「……、」

 

 知らず、笑み、笑い、大笑いをして、そのやかましさに飛び込んだ。

 嫌がられるでもなく迎えられ、馴れ馴れしささえ普通ならば感じる態度もあっさり受け入れられ、腕が疼けば喧嘩相手は腐るほど。

 受肉の話も受け入れれば、彼はそうしてじわじわと衛宮一家に染められていった。




◆ネタ曝しです。

*路地裏11
 路地裏さつき11話。
 設定が固まっていなかったジャンヌがネタに走らされ、犬耳つけたり犬手袋つけたりワンとかクゥ~ンとか言って媚びへつらい、犬小屋で過ごしていたらしい黒歴史。泣いていい。
 ただしこんな悪夢を見たのは拠代として中井出の剣があった所為であり、そげな余計な思考がFateを知るお友達の意識から流れてこなければ、彼女がそげなものを見ることもなかった。

*ポルナレフ・ザンドリア・チャーリー・ドラッグソン
 もうすンごい! より、ポチのフルネーム。

*ランサーが死んだ! この人でなし!
 カーニバルファンタズムのランサーの悲しき扱い。とりあえず死ぬ。ファー様並みに死ぬ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。