どこにでもあるFate/のオリ鯖参戦系の他愛ないお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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笑顔を望んだ少女のお話

 ……時は流れる。

 かつてはランスロット卿の助力を得てなんとかしていた食料問題も、今では緑豊かなブリテンにはなく。

 農作業というものが盛んになったいつかからは、人は貧困の憂いもなく暮らしている。

 それは妖精や竜といった生き物も同じであり、ブリテンは癒しと緑の島となっていた。いや、妖精や竜が農作業をしているわけではなく、神秘を糧にしている、という意味で。

 不思議なもので、この頃にはブリテンは“見えている島”と“辿り着いた島”とが別物のようになっており、辿り着いてみれば国土の痩せた島に辿り着いた、なんて話がよくあった。

 王として立つのはモルガンという女性。

 ブリテンから神秘性の除外を願った者だけが“辿り着くブリテン”に残され、神秘の安定と安寧を願った者は“見えているブリテン”へ残った。

 それでも異民族は来襲し、しかしその数が半端なことから、異民族にも神秘を求める者とそうでない者が居るのだなと……アルトリアは目を伏せた。

 が、そうだとしても、国を侵す者を王は許さない。

 話し合いの場を設けようとしても異民族はこれを拒否。

 あくまで侵略をと突撃を仕掛けてきたので、迎え撃った。

 

「ギャヒヒィーーーッ! 懲りぬやつらよ~~~っ!! そげな貴様らには今日も今日とて力の違いというものを思い知らせてくれるわ~~~っ!!」

 

 元気に叫ぶのは中井出だ。

 霊章から鎖で繋がった二丁拳銃を取り出すと、それにマナを込めて空中へ放った。

 

「司令部! SUVウェポン起動を申請する!」

 

 途端、放った銃が空間の歪みへと消え、鎖で引っ張られるように……巨大な兵器を出現させた。

 それは足のない人型の巨大な兵器であり───

 

「巨大破壊兵器のSUVウェポン! マガス・マッガーナ!!」

 

 名を、マガス・マッガーナといった。

 次いで中井出はヒロラインで猫と談話していたザイードを召喚。

 困惑する彼を操縦席に乗せると、異民族討伐を依頼した。

 

「ほほう、このザイードに暗殺ではなく殲滅戦を依頼するとは! よろしい、承りましたぞ!」

 

 たまにはそんなのもいい。

 ザイードは仮面をクィイと上げ下げしたのちにいざ操縦! イスカンダルが羨ましがりそうな状況ではあるのだが、なにせ彼はウェイバーと冒険中なため、ザイードを召喚。

 この神秘大陸の中で、勝者というものはあくまで神秘側でなくてはならないため、人が勝ってはいけないのだ。たとえ乗り物が神秘側だとしても。

 

「さてさて操縦方法は……ふむふむ?」

 

 例によって操縦桿の隣にあったコマンド表を参考に、ザイードは適当に動かし始めた。

 するとどうでしょう、レーザーは撃てるわ瞬間移動はするわ、デカいくせに小回りが利いてとても楽しそうだった。

 

「他愛ない……! 異民族、なにするものぞ!」

 

 やがて十分もかからず、やってきた異民族は討伐完了。

 逃げ出したものも居るが、散ったとかではなく島の外へ逃げ出したので、それを追うことまではしなかった。

 騎乗スキルがそう高くもないアサシンでもこれなのだから、ライダーが乗るとどうなるのやら。

 ……そんな考えを持ってしまったら気になるので、後日再び来襲した異民族相手には、ライダー……メドゥーサを召喚。

 

「“騎英の手綱(ベルレフォーン)”───!!」

 

 初っ端からぶっ放した。レーザーではなく宝具を。

 元から硬いしデカいソレにブーストをかけて、最大出力でのぶちかまし。

 足の無い兵器ではあるが、デカいので近くを通り過ぎただけでも風圧が襲い掛かる代物。

 それが無遠慮にブーストされたままスッ飛んでくる様は実に脅威。

 真っ直ぐ自分へ飛んでくる流星を幻視したまま、来襲した異民族は塵となった。

 

……。

 

 今日も今日とて異民族退治。

 いったい、まったく、どこから湧いてくるのか。

 終いには当番まで決められて、本日の撃退役は……キャスターであった。

 

「いいところだったのに……! もう少しで、念願の“あ~ん”が出来たのに……! こんな時に! あなたたち!? 生きて帰れるなどと思わないことね! そして───これは私からの盛大な八つ当たりであると知りなさい───!!」

 

 宙に舞い、出現させた陣から、容赦なく魔術的レーザーを放った。

 マナならヒロラインから腐るほど引きずり出せるので、鬱憤……とはまた違うのだろうが、蓄積された感情を爆発させるように、キャスターは魔術をぶっ放しまくった。

 レーザーが大地を抉り、光の半球となって爆発し、異民族がギエーとかギャーとか叫んで消し炭になろうが、気の済むまで。

 ……全てが片付くと、少しだけツヤツヤしていたらしい。

 鬱憤……というよりは、やはりあと一歩がなかなか踏み出せない彼女の心境にこそ、なにかしらの蓄積されたものがあったのだろう。故に邪魔された怒りよりも、そのなにかを発散するために攻撃。であるが故の八つ当たり発言だった。

 

……。

 

 アルトリア達が国のため、民のためを執行する一方での異民族撃退は続いた。

 人間が出せないというので、やはり召喚されるのはサーヴァント。

 一万以上の敵を前に、ひとり召喚されたイスカンダルも軍勢で迎え、これを蹂躙。

 久しく大群とは戦っていなかったイスカンダルも随分と楽しそうであり、ヘタイロイたちも満足そうに帰っていった。

 ヒロラインでも軍隊戦は珍しい。そういった意味で、イスカンダルは次はより多くの敵の来訪時にこそ呼べ、なんて言って戻っていく始末。

 なので一万以下では呼ばず、比較的少ない時はランサーコンビなどに向かってもらった。

 

「槍兵にこんな数を任せるとか馬鹿なのかあいつは!」

「しかし、だからこそ信頼されている証というものだろう───! 主よ、感謝します───このディルムッド・オディナ、恐れずして立ち向かおう!」

「はぁ……ま、いいけどよ。んじゃあ千人……五千人斬り? くらい、やってみるかぁっ!」

 

 ディルムッドとクー・フーリンが駆けだした。

 敵の数、およそ8千。

 それを相手に、マナでブーストされた彼らは一切退くことなく戦い続けた。

 乱戦になれば点を穿つよりも弧で払うことが多くなったが、一撃必殺ならばやはり点。

 遠慮なく頭を貫かれた者は絶命し、心臓を突かれた者は、突かれたことにさえ気づかぬままぼてりと倒れ、動かなくなった。

 そうして乱戦に次ぐ乱戦を続け───ついには、これらを撃退。

 全滅とまではいけなかったものの、侵入を防ぐことはきっちり完了。

 

「だぁっは……! さすがに疲れた……! しかしまぁ、ありがてぇもんだ。ただ召喚されたんじゃ、こんな経験は滅多に出来やしねぇ」

「……こうなると、なにかしらの対軍宝具でも欲しいものだが……」

「ハ、そりゃ無理だ。ルーン使って適当な活用は出来ても、生粋の槍兵にそんなことが出来るかよ」

「騎士で王というだけで、聖剣からレーザーを放つのはありなのにか?」

「あれは考えるな」

 

 槍兵二人、背を預けながら座り、談笑。

 踏みにじられてしまった草花が、癒しとマナを吸って復活する様に息を吐きながら、次は万でも構わねぇぜ~、なんて暢気に言った。

 

……。

 

 その後も異民族は───

 

「■■■■■■■■■!!」

 

 ……来たのだが殲滅された。

 わざわざ狂化させられて突撃したヘラクレスさん、ご苦労様です。

 

……。

 

 そうした日々が続き、当然アルトリアが異民族を討伐する日もあり、そんな日は中井出もジャンヌも突撃。

 やはりまずは会話を試みるも、無駄に終わる。

 意思疎通を拒否した異民族は王と騎士により討たれ、戻れば王らは民に歓迎された。

 

族長(オサ)! 族長(オサ)! 族長(オサ)! 族長(オサ)! 族長(オサ)!』

「ヒロミツぅううっ!! 民に妙な呼び方を教えたのは貴方ですかぁあああっ!!」

「ゲェエーーーッ!! もうバレた!!」

 

 中井出は聖杯とともに現れたことから、聖杯の使徒として。

 ジャンヌはそのお供として扱われ、既に人前に立っていた。

 特に中井出は料理が上手いと言う理由でかなり歓迎されていた。主に王に。

 そして、そんな王も……笑みが似合う綺麗な王として知られるようになり、町を歩けば笑顔で挨拶をされるような……そんな王になっていた。

 

「……ヒロミツ。私は……まちがっていたのでしょうか。マーリンは私が不幸になれば民は幸せになる、と言っていました。けれど……私は、もっと自分というものを信じてみるべきだったのかもしれません。言われるままに動くのではなく。ただ民のため国のためと思うのなら、笑顔で……民と接してみるべきだったのかもしれません」

「そりゃね、しかめっ面をずーっとしてる王に話しかけるなんて、なかなか難しいでしょ。最近までだってキミ、しかめっ面ばっかだったし」

「そんなっ。私は日々、ヒロミツにからかわれて───……あ」

「ホ? どぎゃんした?」

「ヒロミツ……あなたはもしや」

「俺は俺のためにしか動かんよ。みんなが嬉しそうなのに、キミがしかめっ面してるのが気に入らなかっただけだから。キミの笑顔を僕が見たかった。そんだけ」

「……ぇ………………ぁ……、……私の───……」

 

 民の笑顔をと走った生涯だった。

 その生涯、心を許せた人はたくさん居たが、心が通じ合っていたかといえばそれは違った。

 自分が不幸になればなるほど、とマーリンの言葉を信じ、その果てで……こんな結末は受け入れられないと、到ったものがあった。

 そんな、自分の身命さえ民や国に捧げた自分の笑顔を見たいと言ってくれた。

 心が、小さく温かくなるのを感じた。

 マーリンに“恋をしていたのかも”と言ったいつかとは違う、やさしいなにかが。

 

「オウ? 顔赤ェェェェですよ? もしかして風邪?」

「い、いえそういうわけでは! ただあなたには……~……つくづく、いつもいつも……世話になってばかりだったのだな、と……」

 

 慌てて言うが、その手が伸ばされ、ひたっ、と額に当てられる。

 熱を計る行為だ。

 ここまで馴れ馴れしくなどされたこともないアルトリアは一瞬困惑したが、

 

「ひょっ!? すごい熱じゃ!」

「《メキメキメキメキ》いだだだだぁああーーーーーっ!?」

 

 その手が額をメキメキと圧迫した時点で困惑は消し飛び、代わりに彼への拳が炸裂した。

 しかしそのフルボコルボバルボは途中で止まり、アルトリアはフッ……と笑って言った。

 

「友とは……仲間とは、家族とは……いいものですね、ヒロミツ」

 

 と。

 そんなやさしい笑みを前に、中井出は───

 

「グビグビ……」

 

 殴り倒された際に背中を強打したため、謎のロビン汁を吐いて痙攣していた。

 アルトリアはぽかんとしたが、やっぱり笑った。

 騎士たちはそんな王を見て、随分とやさしい笑みを浮かべる。

 あの男が来てから、王は笑うようになったと。

 それ以上に怒るようにもなったし、殴るようにもなったが。

 しかし、そのどれもが人間臭くて、むしろそのことにこそサー・ケイは笑っていた。

 

……。

 

 戦のために村を干上がらせる必要もない。

 そこに敵が居るからと、村ごと焼く必要もない。

 ブリテン島は豊かで、争いはもちろんあったが、軍備のためだけに犠牲になるものはなにもなかった。

 

「ヒロミツ。その……皆、生きています。皆、ここに残ってくれています」

「うん、そうだね」

「それはとても喜ばしい。喜ばしいのですが……だとするなら、私はとてもひどいことをしています」

「………」

「……素性を。性別を明かそうと思うのです。騎士たち───友たちに。民たちに」

「アルちゃん……」

「これ以上、嘘をついていたくない……。私は、私を信じてくれる者に、同じだけの信頼を私のまま向けたいのです」

「拒絶されるかもしれんよ? 前王の願いだったって言おうが、じゃあ選定になんの意味があったんだって挑戦した人は怒るだろう」

「……。そうかもしれません。ただ、私が自己満足したいだけなのかもしれない。けど。それでも私は……」

 

 ……。中井出は考えた。そうした先でなにが待つのか。

 こうして、かつてでは叶えられなかった道は拓けた。

 このままいけば、かつて見られなかった光景へと辿り着けるだろう。

 けど、そんな世界をアルトリアは、アルトリウスとしてでなく、きちんとアルトリアとして歩きたいというのだ。

 彼としては頷いてやりたい。頷いてやりたいが……同時に、幸せが涙で濡れる瞬間なぞ、見たくもないのだ。

 

  人は、裏切るよ?

 

 かつて、そんなことを鬼に言った男が居た。

 人々を愛し、裏切られ、それでも信じ、裏切られたそいつだから。

 それでも最後に人を助け、死に、雑に燃やされ、捨てられた。

 男にとって、人は友達でも仲間でも家族でもない。

 認めた者だけをそう呼び、それはいっそ、木だとか虫だとか、いっそバケモノでもいいのだ。

 そうでないものは“その種族”でしかなく、その種族が“人”であったなら、人とは裏切るものだと口にする。事実、そうだったのだから。

 自分を忘れた友の一人が、未来の最果てで人の裏切りに絶望し、世界を破壊したから始まった連鎖があった。

 そいつが過去に───男たちがゲームを楽しんでいた時代に降り立ち、世界を変えようだなんて思わなかったなら、男だって普通の人間のままに死んでいたのかもしれない。

 愛する妻と娘とずっと一緒に、幸せに過ごしていたかもしれない。

 だが現実にそれは起こって、発端を辿ればすべては裏切りから始まっていたのだから。

 

「キミの愛したブリテンだ。キミの好きになさい。……竜の心ではなく、人の心を強く持って」

「はいっ!」

 

 笑顔だった。

 男はそんな笑顔にサムズアップを贈って、深呼吸してから───中井出博光に戻った。

 感情を、意思を殺してなにかを切り捨てることになんて慣れている。

 けど、もうそれは必要じゃないから。

 ただひたすらに信じていこう。

 誰にも忘れられることのないこの世界で、もっともっと自分の歩みに胸を張れるよう。

 そう、面白けりゃあそれでいい。だから、面白くしていくんだ。

 

……。

 

 アルトリウス……アーサー王の治世は十年続いたとされる。

 その中でアルトリアは己の素性を明かし、マーリンが「おあまあー!?」とか驚いて、ケイは爆笑していた。

 もちろんマーリンは何故だのどうのと言っていたが、

 

「女の尻を追うことしかしない、言い訳といえば“それが必要なこと”としか言わないあなたに、人の人生にとやかく口を突っ込む資格も権利も権威も人としての在り方も一切ない」

「《ゾブシャア!》ぐおはぁ!?」

 

 真正面から真顔で言われ、花の魔術師、痛恨の一撃。

 なにげにケイも胸を押さえて痛そうな顔をしていた。まあ、尻を追っていたわけだ、彼も。

 ともあれだ。

 神秘の世界の構築は進んでいった。

 協力的だったのは巨人族だったりする。

 妖精は裏の世界に自由に行けるらしいが、ゴーレム等は霊体化できないために、裏側へは行けないためだ。

 当然神秘が消えようとしている世界に残るしかなく、残っても滅びるしかないし、残りたくなくても滅びるしかない。

 ならば協力して神秘を残すことに全力を尽くす。

 竜種は体が滅びれば霊体になって裏側の世界に行けるらしい。

 わざわざ体を滅ばせなければいけないのは、さすが、竜種の強さといったところなのだろう。

 

『シカシ、神代、終ワッタ』

「自然と書いて神と読む。この世界じゃ自然ってのは神秘であり神でもあるんだってね。じゃあ───癒しとマナの大樹を植えまくってきたことに、確かな意味はあったわけだ。だから大丈夫だよゴーレムさん。神秘は、消えないから」

『……アリガトウ、汝ニ感謝ヲ』

 

 さて。

 今となってはブリテンのいたるところに存在する癒しとマナの大樹。

 それらに中井出の中のドリアードが力を送ると、大樹はさらに緑を増やし、マナを溢れ出させ、神秘性を確かなものにした。

 その気になればデリスカーラーンとか何度でも救えるよ! ってくらいにマナが溢れ、神秘を望む者を癒してゆく。

 それは、ブリテンそのものにも言えた。

 意思を通して感謝するブリテンとはべつに、ヴォーティガーンの体からは、彼に呑まれた白い竜の血が竜となって現れ、自ら地に潜り自然の糧となり、神秘性に己を捧げ、消滅した。

 残されたのは弱り切った老人だけだ。

 

「愚かな……。ブリテンは滅びねばならんのだ……! このような一時の救いに惑わされ、自ら糧になろうとは……!」

「ヴォーティガーン……あなたは……」

「アーサーよ……! どの道ブリテンは滅び去る……! 他ならぬ、人の時代が国を亡ぼすのだ……! 見届けるがいい、その目で……! 我が意思で最後ではないぞ……! 人が、“生きやすい世を”と願う限り、神秘を想い、穢されるくらいならばと立つ者が必ず蘇る……! その時まで、束の間の神秘に溺れておるがよい……!」

「ヴォーティガーン……」

 

 ヴォーティガーンは息絶えた。

 無意識だろう、アルトリアは中井出の服をきゅっと握り、これでよかったのだろうかと訊ね、安心を欲するかのように彼の顔を見上げた。

 中井出は穏やかに笑うとアルトリアの頭をさらりと撫でて───

 

……。

 

 キャメロットの外れにて、二度とヴォーティガーンが蘇らないように火葬した。

 

「たぶんヴォーティガーンはそういう意味で言ったんじゃないと思うなぁ……」

 

 マーリンにしみじみツッコまれたが、知らない。

 老人の遺体が完全に燃え尽きるのを見届けると、ブラックホールを創造して抹消。

 これにて少なくともヴォーティガーンが蘇ることはなくなったわけで。

 

「……しかし、白い竜も思い切ったことをする。が、それだけブリテンという島を愛していたのだろう。……しかしね、ヒロミツ。君がやろうとしていることは、世界の在り方を捻じ曲げるものだ。それは、紀元前が終わった時点で神代も終わりを告げたというのに、眠りにつこうとする者に剣を突き立て、眠らせようとしない拷問に近いと言える」

「ん? うん。ブリテンも喜んでおるからさ、神代がどうとかどうでもいいじゃない。もう神秘の世界ブリハザードでいいよこの世界のタイトル。理屈並べて捻くれた方向に思考を落としてないで、明るい方向へ黒いものも暗いものも引っ張っていきましょうぜ? キミさ、“完成している絵画”が見たいのか“どんな絵になるのかわからない未来”が見たいのかどっちなのよ」

「……、改めて訊かれると難しいものだね。その質問は少々、自分には厳しい」

「自分で難しくしてるくせによく言うぜよまったく」

「そうかもしれないね。だが、必要なことだと思っているよ」

「素直に楽しめばいいのに」

「楽しむ……か。そういえばあの娘は、君によく懐いているようだ。あの娘がああまで人の前で表情を崩すのも珍しい」

「自業自得だダァホ。珍しくもなんともねぇズラよ。言ったでしょうが、キミが勝手に難しくしてるだけだって。完璧な王だのなんだの、自分の理想を勝手に押し付けては“そうである存在”を願っといて、表情を崩すのが珍しいですって? 貴様がそれをさせなかっただけだろうが」

「……。真っ直ぐ叱られるのなんて、どれくらいぶりかな。まさか初めてなんじゃないだろうか。……ともあれ、あの娘があの娘として自然でいられる場所があることを嬉しく思う。ありがとう、ヒロミツ」

「ほんとに嬉しがってるか微妙だよ、キミ見てると」

 

 溜め息を吐いて、火を熾したあとを消す。

 中井出はそうして立ち上がり、丁度その外れにモードレッドとジャンヌが来るのを見つけ、手を振って声を張り上げた。

 

「モーちゃーん! 妖精にマナドリンクもらったから飲むべー!」

「おー! 父上ー! 父上も飲もうぜー! どこだ父上ー!」

「ジャンヌー!? ジャンヌやー! おやつにするよー! おいでおいでー!」

「《ギャオッ!》ヒロミツ! 当然私の分もありますね!?」

「速いよアルちゃん! 見える位置には居なかったのにどっから来たの!?」

 

 馬鹿者の周りはいつもやかましい。

 マーリンは“仕方のない”という顔をしながらも、中井出と言い合っているアルトリアとぱたぱたと駆けてくるジャンヌを見て溜め息を吐いた。

 それは、“現在”の先を知っている者の溜め息ではなく───不安も恐怖もあるけれど、それでも先に楽しみを見つけた子供のような困った顔だ。

 四人がざわざわ騒いでいると、騎士たちも寄ってきて、やがては賑やかに。

 もはや王が“人の心がわからぬ”と言われることもなく、必要以上に血が流れることもない。

 神秘は安定してゆき、やがて一つの魔術世界は封印された、と言えるのだろう。

 

 封印とは物騒な言葉だが、結界で覆われ神秘やマナが逃げないようにされたそこは、他の世界とは既に別次元と言っていいものだ。

 有り得ないことが有り得て、まさかと思うことが普通に起こる。

 それでも人々はやがて順応し、そんな世界での生き方を自分で学んでゆくのだ。

 時間はかかるかもしれないが、人とは順応できる生き物だから。

 人間が霊長の頂点に立ったことで、地球が人間が一番生きやすい世界になるためにと変わってゆき、終わってゆくのが神秘だという。

 ならば、神秘が人間に合わせるのではなく、人間が神秘に合わせればどちらも滅びはしないのだ。

 中井出はそうブリテンの意思に語り掛け、結界世界を神秘と癒しとマナで満たしていった。

 

  しかしそれが続くと、神秘はむしろ有り余ってしまう有様で。

 

「というわけで、余った神秘でブリテン島を浮かせてみました」

「神秘ですね」

「神秘だよなぁ!」

「いやいや王!? モードレッド!? 神秘って! 浮いているのですよ!? どうかしているとはっ……!」

「ガウェイン卿、騎士たる者がそう取り乱すものではない。神秘とはつまり、そういうものだと受け入れればいい」

「神秘は、というか、クロリスト殿がそういう存在だというのであれば物凄い説得力なのですが……そ、そういえば彼の者は聖杯の使徒だったか……なるほど」

 

 円卓の騎士は真面目さんが多いが、結構お茶目さんも居る。

 サー・ケイなどは真面目で堅物そうに見えるが、なんだかんだ女の尻追ってるし。

 アルトリアも、素性を明かしてからは肩の荷が下りたみたいに笑顔だ。

 一度、きちんと女性らしい騎士礼装で騎士たちの前に立ってみせたんだが、みんな口をあんぐり開けていた。

 それというのも、今一度とアルトリアが懇願し、成長した姿で立ってみせたからだ。

 ……うん、トリスタンとランスロットの目がヤバかった。

 ガウェインは我が世の理想に出会えた……! とか呟いてたし、ケイなんて「あるっ……アルッ……!?」なんて、めっちゃ動揺していた。

 一言。

 この円卓、アルトリア好きだらけである。

 ランスロットとかそもそも、アーサー王に構って欲しくていろいろやらかしていた感あるし、モードレッドは言うまでもなく。

 義兄であるサー・ケイも王とはいえ義妹が気にかかっているようだ。

 ガウェインはアーサー王万歳さんであるわけで。

 トリスタンは王がもっと人間的であったなら、かなり惚れ込んでいたんじゃないかしら。むしろ素性を知ったら今でも───

 

「───《ファサァアーーーンヌ!!》」

 

 ……早速流し目で殺しにかかっていた。あっさりスルーされたが。

 そういうこともあって、その姿で居ると男性諸君らが集中できない……もとい、別のことに集中しちゃうので、やっぱり元の姿で。

 と、中井出が言うと、やっぱり「待ってくださいせっかくまたこの姿になれたのですからもうちょっと───やーーーっ!」と、子供っぽい悲鳴とともに元の姿に戻された。

 ……それから、騎士たちがアルトリアに対してとてもやさしくなったそうな。

 

 

───……。

 

 

……。

 

 アーサー王の治世、十年目。

 浮遊島となったブリテン島はついに平行世界へ飛べるほどの神秘に到達し、一つの世界として完成したと言える。

 根源に辿り着かんとする者が時折、なにかの間違いで迷い込んだりするが、基本は他者の侵入は成功しない。

 神秘世界は既にヒロラインに記録されたため、なにかが原因で崩壊しようとも復元が可能とくる。

 もちろん復元にはとんでもないマナの消費が必要となるだろうが、そこに在ることが重要なのだから、どれほどマナが必要だろうが関係はないのだ。

 そもそも壊れる気が全然しない。

 ただ、その世界が平和しかないかといったら……そうでもない。

 神秘は人の心の闇から魔物を作ったりするし、そういうものと獣が混ざったりすると、それこそよくない魔獣とかが産まれたりする。

 それらを滅ぼすのは騎士の役目であり、キャメロットがそうであるための在り方というものだった。

 

「王! 魔物が徒党を組んでキャメロットへ向かっております」

「迎え撃つ! 朋友たちよ! 剣を持て!」

「王! 魔獣が空より飛来! このキャメロットを───」

「武器の解放を許可する! 撃ち落とすのだ!」

「王! 出来たてが一番美味しいプリンが出来たぜ~~~~っ!」

「うぐぅっ!? あ、あうう……!?」

「王! 魔物が!」

「王! 魔獣が!」

「ホラホラど~すんだよォオオ~~~ホホホォオオ~~ィ! 食べるの? ねぇ食べるの? でも味わって食べないともったいないよ? 一口で食べる? じゃないと間に合わないよ? ねぇねぇどうするの? 食べたい? 食べたいんだろ~? え~~~っ?」

「~~~っ……あなたはいじわるだ!! 行くぞ騎士たちよ全力全速でぶっ血KILL!!」

『ハッ!!』

 

 王と騎士たちが物凄い速さで駆けていった。

 こんなことはよくあることで、平和続きとはいかないが───

 

「ブリテンを侵す者たちよ───その身を地に埋め、せめて大地の糧としよう!」

 

 信じる者に力は宿るとはよく言ったもので。

 きっともう使う機会などはないのだろうが、サーヴァント・セイバーに、新しい宝具が追加された。

 “神秘に集う十三英雄(ナイツオブラウンド)”。

 彼女が信じた騎士らと、彼らが信じた王とともに戦う固有結界がそれだ。

 文字としての彼女の幸福はそこに。

 使わずとも解る信頼はそこに在り、戦いを終えた彼女は今───「さあヒロミツ! プリンをください!」───……笑顔だった。

 

───……。

 

 というわけで。

 

「あれから一週間か。クロリストたち、ブリテンがどうとか言ってたけど───」

「シロウ~、お茶~」

「イリヤ姉ぇ、家の中だからってごろごろするなって」

「だぁって退屈なんだもん。いつもならイスカンダルとかギルさんとゲームするのに、この一週間ず~っと居ないし」

「俺はアーチャーと鍛錬してるから、べつに退屈ってことはないけどな」

 

 現代、日本。

 冬木ののんびりとした団欒は続いており、サーヴァントの大半が居ない衛宮邸は案外静かなものだ。

 どこでなにをしているのか、もう一週間も帰らない者達を思い、ハサンの一人、セレネは縁側にて雁夜とともに座り、ふむー……と考え込んでいたりした。

 

「でもさー、日本人ってニュース好きだよねー。なにもさ、外国の事件とかまで放送することないと思わない? わざわざ現地まで取材班とか送り出してさ」

「ああ、それはわかるなぁ。なんでそっちの方までって時、あるし。藤ねぇも言ってたよ、いいニュースをてんで流さないで、なにが明るい社会づくりだー、って。朝から暗いニュースばっかで嫌になるってさ」

「もっと誰もがこう、わっと驚くニュースとか出ないかなー……あ、シロウ、チャンネル変えてー?」

「リモコン目の前にあるんだから自分でやれよ……、ほら」

「えへへー、なんだかんだやってくれるシロウ、好きだよー?」

「からかってないでテレビ見ろったら。じゃ、俺アーチャーと道場行ってくるから」

「いってらっしゃーい。……あーあ、やっぱり変なニュースばっかり。蓋をしろーとは言わないから、朝くらい楽しいニュースとかで埋めればいいのに」

 

 ぶちぶちぼやくイリヤを横目に、セレネとは別の女ハサンはふむふむとニュースを見ていた。

 行方不明がどーのこーの、どこぞで事件がー、だの。

 まあ、今日もまたいつも通りにどっかで何かが起こっている。

 平和ではあるが、刺激が無さ過ぎるのも問題だ。

 テレビが消され、ぐでー、とテーブルに突っ伏すイリヤは実に退屈そうである。

 そんな時だ。外が騒がしくなった。

 

「ふわ?」

「……?」

 

 イリヤと女ハサンは同時に目を外へ向け、耳を傾けてみれば、どうやら……“空に大陸が浮いている”とハサンの一人が叫んでいるようだ。

 慌てて外に出てみれば、衛宮邸からも見えるほどの巨大な大陸があった。空中に、確かに。

 

「ななななななななっ……なんじゃありゃぁああーーーーーーーっ!!」

 

 年頃の女の子らしくもない絶叫で、イリヤはそれはもう驚いた。

 声を聞いて切嗣とかが来たって知らない。ていうか切嗣もアイリスフィールも、言峰さえも驚きに声をあげていた。

 早速使い魔を飛ばして様子を見に行かせてみれば、視覚共有させて飛ばしていた使い魔がベシームと何かに叩き落とされた。

 いや、叩き落とされたというか……結界?

 

「イリヤ姉ぇ! なんかアーチャーが空がおかしいってなんじゃありゃあああーーーーーっ!!」

 

 戻ってきた士郎も絶叫。

 きっと、寝坊している凜も、起きてこの状況を見れば「なんじゃありゃぁああーーーーーーーっ!!」……ああうん、丁度叫んでいた。

 

「ちょっとイリヤ! あれどうなってるの!?」

「知らないわよそんなの! 知るワケないじゃない! こっちが訊きたいくらいなんだから!」

 

 困惑は溢れるばかり。

 しかしそんな騒動を一気に沈めるソレは、突如としてその大陸そのものから発せられた。

 

『アーアー! テステス! こちら博光! こちら博光! 地上の諸君? チャーオー!!』

 

 なんだクロリストか……。

 その声が聞こえた途端、庭に居た全員はそう思い、思い思いの行動に戻った。

 なるほど、あの馬鹿者ならばその気になれば惑星を降らすことさえ出来そうだもの。無理に刺激してややこしくすることなんてない

 

『これなるは過去より今へ生き繋いだブリテン島である! ブリテンは不滅が故に、それを証明するためにこの地へ参った!』

 

 空中に巨大な映像が出現、城の中のような場所を映し、喋っている男を映した。何故か劇的ビフォーアフターの“TAKUMI/匠”をBGMに。

 ……ああ、あの馬鹿だ……。

 庭に居た誰もが、またあいつがやらかしたか……と半分諦めモードで納得。思い思いの行動に戻った者はちらりと視線を戻してみたが、やっぱりダハァと溜め息。

 しかしここからが普通とは違った。

 円卓が映され、そこに座る13人が居て、騎士たちが立ち上がると、ゆっくりと立ち上がった王に対して礼をする。

 カメラが固定され、女性だけを映すと、彼女は威厳ある表情で自らをアーサー・ペンドラゴンと名乗った。

 これには様々な人が驚き、遠坂のパパりんなどは「秘匿ゥウウウ!?」と叫び、飲んでたワインを盛大に吐き出していた。

 

『突然の来訪を許してほしい。同時に、安心してほしい。我々にあなた方に危害を加える意思はなく、ただ報告したいことが一つだけ』

 

 そこまで言うと、ふっと笑う。

 

『ブリテンは滅びません。今なお健在であり、人が描く歴史という辞書と、地球が人間に望んだ精神性というものに勝利しました。ああ、安心してほしい。この映像は魔術を噛んだものにしか見えず、大陸も同様だ。平行世界への移動と浮遊を可能にし、いずこへにも行けるブリテンは、今や幻想の楽園となった。過去よりこれまで、とても長かったが……私は現在までのブリテンを見届けることが出来たことを嬉しく思う』

 

 王が、鞘に納められた聖剣を構え、抜き放つと───映像が引き、騎士たちを映し、騎士たちも王に倣い、刃を円卓の上へと翳した。

 その際、守りの姫としてジャンヌも紹介されたが、それに際してジル・ド・レェが「おぉおおおおおーーーぉおおジャンヌウゥウウウウッ!!」と絶叫して喉が破けて血を吐いていたりしたが、気にしちゃいけない。

 

『神秘の代償として、王と円卓に関わる者は不老となった。だが、そこに間違いはなかったと信じている。あの日に見た民の笑顔を。覚えている幸福の眩しさを。我々は守り、紡ぐことが出来た。……魔術師たちよ。神秘は死なぬ。今もここで生まれ続け、育まれ続けている。神代は終わったのかもしれない。だが───』

 

 それでも、神秘は、ブリテンは滅びぬと。

 彼女はそう言って、王が放つべき威圧を聖剣とともに鞘へと納め、少女然とした笑みで笑った。

 そうして……映像が消えるとともに、浮遊大陸も姿を消したのだった。

 

「………」

「………」

 

 当然ながら、魔術師やサーヴァントたち、呆然唖然。

 買い物をしていたカレンと桜も、買い物袋を腕に通した状態でぽかーんと立ち尽くしており……

 

「えぇと、桜。……ブリテン、というか。アーサー王の伝説は、何年前の話でしたか」

「……えっと」

 

 いきなり言われても、まだ頭が追いつかない。

 え? 伝説の物語とかで済まさず、そのまま生きてここまでたどり着いちゃったの? とか、じゃあ何年生きたのとか、思うところはいろいろあるのだけれど。

 とりあえず一言。

 

「魔術協会と聖堂教会……荒れますよね」

「ええ絶対に。むしろざまぁありません」

 

 桜の言葉に、カレンはフンと鼻を鳴らした。

 その横を、「そうだ! 魔術は死なないんだ! うおおやるぞぉおおお!!」と、買い物袋からネギを生やしたワカメが駆け抜けていったが、二人は気づかなかった。

 ……ちなみに。

 彼の憧れの人物は、魔術師としての歴史も浅いのに時計塔の講師になったという、ウェイバー・ベルベットだとか。

 

───……。

 

 その後のお空の上では。

 

「オォーーーゥルハァーーーィル!! ブリタァーーーニアァアーーーッ!!」

 

 馬鹿者が両手を頭上へ大きく広げ、腰を“ニッポンポン!”と叫びつつ横に振った。

 ここは浮遊大陸ブリテン島。

 もはやラピュタの技術力にも負けない神秘性を得たブリテンは、島そのものがひとつの魔法として完成していた。何度でも言おう。魔法だ。神秘の世界ブリハザードだ。なんかもうこれ自体が魔法でいいんじゃないかな。

 

「しかしここまで長かったねぇ。えーと1500年くらい?」

「ブリテン人が神秘に順応するまで、何度抑止力の使徒に襲われたことか……」

 

 “人の世”が神秘を無くすというのなら、人だけじゃなく、“人と妖精と竜とゴーレムとかそういう世界”にすればいい。そんな意見が出てから今日まで、それはもう時間がかかった。

 なにせ人の在り方のみで進めようとすると、物凄い勢いで神秘性が滅んでゆくのだ。

 現代知識に頼った生き方は出来ぬと知ると、中井出は即座にそれを切り捨てた。

 なので神秘に頼った知識で道を拓き未来を拓き、それに生き物や自然が馴染んでくると、ブリテンは濃厚濃密な神秘に包まれるようになった。

 相変わらず連鎖というものがあるし、ブリテン人が魔物や魔獣に襲われることはあるが、だからこそ成り立つ世界でもある。

 しかしそんな成り立ちの裏を掻いて、それだけでは飽きたらず常識を壊したり穴を突いたりと外道の限りを尽くした彼は、神秘の中でも美味い料理の作り方を開発。

 現代にも活かせるかもしれない様々な知恵も編み出すと、自然をより育み、島と、神秘と、そこにある生命たちと長い時を生きた。

 

「ヒロミツ……貴方に、心からの感謝を。私だけでは到底叶えられぬ夢でした」

「いやいやァ、僕も滅びないブリテンは見てみたかったから。相当強引な手段になったけど、きちんと無事でなによりサ」

「……神秘を欲し、聖杯を欲し、様々を失ってしまったあの日の私は……なにをしていたのでしょうね。笑顔を守りたかったから王になったのに。笑っていたあの顔を覚えているから、王になったのに。私は村に生きる人々の笑顔を崩して糧にし、軍備を整え、戦を繰り返したのです」

「アルちゃん、それに関してはウーサーとマーリンとモルガンが悪いだけだから、気にしつつも自分だけが悪いとかは思わんでいいのよ?」

「……はい。なぜでしょうね。貴方に言われると、簡単に納得できる。貴方はふざける時はひどくふざけるが、その行動は人を元気にする。元気の方向性が大体怒りなのはどうにかならないものか、とは思いますが」

「博光ですもの、からかって殴られる覚悟なんざとっくの昔に出来ているさね」

「ふふっ……ええ、そうですね。随分と遠慮なく行動させてもらっています。貴方に対して、私はいつの間にか遠慮や躊躇いというものを失くしてしまっている。それについて王らしくないと言われようと……ええ、そうですね、全部ウーサーやマーリン、モルガンが悪いんです。そうでしょうとも、ふふふっ」

 

 モルガンといえば。

 “ブリテン島の加護”を得て産まれた彼女は、神秘となったブリテン島ではなく本来のブリテンの王として立派に役目を果たし、欲しかった愛も受け取り、邪魔な妹も居ない世界で満足した生を謳歌したらしい。

 騎士としてでなく魔術師として国を治め、剣を叩きこまれ始めてからは、こんなものを十年も続けてきた妹に同情。

 言った通りアルトリウス育成計画一週間コースで胃の中のもの全部を吐き、一緒に黒いなにかも吐き出したのだろう。

 魔術も剣も修めてみせ、王として駆け、民からの信頼も得ていた。

 三つの顔があるといわれるモルガンだが、様々なものと係わることでいつしかそれが混ざり合うと、人外の力を得るに至った。

 アルトリアのような竜の力はなかったが、妖精や戦乙女といった側面が混ざり、魔女としての側面を安定させ、立派な王になったのだとか。

 聖剣に頼る形でヴォーティガーンを退け、その後、凶作に次ぐ凶作で国土は保たず、アルトリアの時のように十年を待たずして国には滅んだ。

 ランスロットのような他国に頼れる相手もおらず。

 けれど、凶作は王の所為ではないと民は理解しており、それでもなんとかしようとした王の姿に、人々は感謝を届け、やがて静かに、ゆっくりとブリテンは滅んだのだという。

 聖剣と鞘を持つモルガンは死ぬことがなく、その滅亡を見届けた。

 国の最後を看取ったのち、湖に聖剣を返却し、自らも眠るように死亡したというのが、その世界のブリテンの歴史だ。

 のちにサクソン人が七王国を築く世となるが、そのサクソン人もモルガンという人物をやさしき王であったと褒め称えたという。

 

「さて、ヒロミツ。こうして姉の先も伝記として見ることが出来ました。こうしたものを見てしまうと、王になるべきはモルガンだったのでは、と思わずにはいられませんが……」

「そりゃ無理だ。だって、魔術教えたのマーリンだし、アルちゃんに嫉妬しなけりゃモルガンってばマーリンに教わろうとさえしなかったもの」

「……、そして、武はヒロミツが教えたものでしたね。王の愛が、私ではなくモルガンに向かっていれば、別の未来もあったのかもしれません」

「その流れでモーちゃんを王にしたから、キミは町娘やってたんだけどね」

「モードレッドが号泣していた理由はそこらへんですか? まったく、貴方という人は」

 

 そう言うアルトリアは穏やかな笑顔だ。

 浮遊大陸の崖の端、冬木の地を見下ろしながら。

 

「夢を叶えてしまった。英霊として、これ以上の喜びや誉れはありません。もはや誰に呼びかけられようと応じられる自信がない。愛着が……出来過ぎてしまいました」

「んじゃ、キミはここに住むかい? 竜とブリテン人の混血であるキミには、ひどく心地よい世界だろ、ここは」

「……。確かに、私にとってこここそが理想郷です」

 

 鎧もなく、ドレスのような姿で微笑む姿は、いつかサー・ケイが見た通り、きっと───そこらの町娘とそう変わらないものだったのだろう。

 王となるべく産まれただの、作られただの。

 そんなことを意識せず、ただ一緒に町を歩き、他愛ないことで笑っていれば、ブリテンは滅びようとも彼女は普通に笑って居られたのだろう。

 けど、そんな笑顔を守りたかったからこそ、彼女は剣を取ったのだから。

 

「神秘を願ったというのに、その神秘が人の不安から化け物を生み出すなど、本末転倒ですが……ええ、それを斬り、国を守るのも我々の役目であり誉れです」

「そか」

「朋友たちが妻を娶り、夫を得て。子を授かり孫を抱き、その先の光景を見届け、自らより先に逝く子を見届けもしました。ふふっ……なぜか、親である朋友よりも私が号泣してしまいましたが」

「守ってきた笑顔がひとつ消えたんだ。泣いていいに決まってるじゃない」

「…………ありがとうございます、ヒロミツ」

 

 それでも笑顔で逝ってくれたことを誇りに思い、胸に刻み、彼女は今までを生きてきた。

 朋友である騎士たちに、王は連れ添いを招かないのか、と言われたことがある。

 が、彼女は首を横に振った。

 こんなつまらない女と連れ添ったところで、なにも得られず一緒に歳も取れず、虚しさを抱き死するだけだと。

 

  「ならば相手も歳を取らぬのであれば、問題はないのでは?」

 

 そんな時、ひょいと投げられた言葉に、ウカツにも反射的に馬鹿者へ目を向けてしまった。

 途端、円卓の騎士たちは“ははァ~ン?”といった顔になるわけで。

 

「なっ……なんだその目は! 言っておくが私は───!!」

 

 顔を赤くして言い訳を並べる王は、実にかわゆいものであった。

 ランスロット卿は、のちにそう語ったそうな。

 

  不老だ不死だと言ってはいる。

 

 けれど、そんな神秘は別に、手放してしまってもいいのだ。

 のちにブリテンを守れる者を後継として座につかせたなら、今の騎士たちも、いっそ王も、居なくなったって構わない。

 アルトリアは……少女が見た夢は、いま、もうここにあるのだから。

 そう、夢は叶ったのだから。

 のちに後継がどう失敗したとしても……そうなのだ。今こそ征服王の言った言葉が胸に響く。

 自分が先に立ち、ここまでを生き、夢の果てまで辿り着いたのだ。

 叶ったのなら、あとは残照だ。

 任せて滅びようと、それは夢のあとの物語。

 そう。

 悼みもしよう。涙も流そう。だが決して悔みはしない。

 愚かであった頃もあったのだと頷ける。後悔を向けるのなら、竜であり続けた自分の心にのみだろう。

 聖杯を得て、選定のやり直しなどを望み、叶えてしまえばこれまでのすべてが消えるというのなら、悔いもする。

 けど。

 王としての在り方を語り、そんなものは人ではないと言われようと、心がわからぬといわれようと。

 始まりは確かに眩しさであり、憧れであり───

 

 

  ───多くの人が笑っていました。

 

     それはきっと、間違いではないと思います。

 

 

 温かく、やさしさに溢れた理想であったのだから。

 だからきっと、なにかひとつを足してあげれば、その足し算は民にも届いた筈なのだ。

 温かな理想を受け止め、辛くとも、静かに滅びる世界を満足して見届ける。

 そんな未来も、或いはどこかの時間軸にはあったのだろう。

 だが、そんな理想も、静かなる荼毘でさえも、神秘や人の世は許してくれなかった。

 心を竜にして接すれば接するほど王は孤独になり、代わりに人は人の世に愛され幸福となってゆく。

 自分のことなど後回しでいたのに、周囲は王をほうってはおかず、やがて大きな亀裂となり……幸福は崩れた。

 ようやく手に入れた勝利も無意味に塗り潰され、アーサー王が生きている内は、ブリテンには攻め込まないと制約を交わした異民族は、彼女が死んだのちにどうしたのだろう。

 紐解けば解る歴史もあるのだろう。

 だがそれをせず、繰り返しを望んだ。

 やり直したところで自分の過去は消えやしない。

 臣民の心はそこにある。

 新たな時間軸に、また滅びの歴史を刻んでは、納得を刻み込んだ。

 その度に悔みは減り、消えはしなかったが、納得に変わったから。

 だから。

 

  王を散々からかう騎士たちに、子供みたいな怒りを飛ばし。

  少女は苦笑し、自らを振り返った。

 

 今の自分に後悔はあるかい?

 そもそも自分が剣を抜く、などと。

 そんなものは、モルガンに任せてしまえばよかったんじゃないか?

 もしくは……義兄・ケイが言っていたように、違う方法で決めてしまってもよかったんじゃないか?

 そんな、残照が問う言葉に、アルトリアは笑う。

 あの頃のまま、マーリンによく考えたほうがいいと言われた頃の笑顔のままで。

 だから自然に。胸も張らず。飾らぬ少女の笑顔のまま、言うのだ。

 なぜなら。

 

「後悔はある。けれど───」

 

 剣を抜いたあの時の少女の想いはけっして───

 

「私は、間違ってなどいなかった」

 

 間違いなどでは、なかったのだから。

 




◆ネタ曝しです。

*マガス・マッガーナ
 ファンタシースターポータブル2に出現するSUVウェポン。
 敵なのだが、こちらが使うSUVウェポンとは次元が違う。

*族長(オサ)
 ジョジョ第一部、第一話より、太陽の民アステカの叫び。

*ひょっ!? すごい熱じゃ!
 サイボーグじいちゃんGより、じいちゃんなりの熱の計り方。メリメリ鳴ってる。

*フルボコルボバルボ
 ワイルドアームズ2より、ブルボカルボバルボ。
 こんな名前でも傘の名前である。

*デリスカーラーン
 テイルズオブファンタジアより、ダオス様の故郷。
 ここを救うため、マナを滅ぼすことになる魔科学を潰し、なおも行使しようとする人間を滅ぼさんとしたため、魔王と呼ばれる。

*そういう意味で言ったんじゃないと思うなぁ……
 とんでも勇者より、討伐され、蘇ると言っていた魔王が蘇らないように火葬された。

*神秘の世界ブリハザード
 神秘の世界エルハザード。
 異世界転移で異能力モノ、といえば個人的にはコレかなぁ。
 イフリータはOVA版もTV版も好きです。
 陣内の笑い方がまたステキなのですよこれが。

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