どこにでもあるFate/のオリ鯖参戦系の他愛ないお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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彼の者は遠坂時臣暗殺を他愛なく続行中であった

 そんなわけで。

 

「でもさ、本格的に聖杯がいらないものになっちゃったけど、どうするのコレ。なんか嬢の中にもあったから摘出しちゃったけど」

「小聖杯と大聖杯……こんなものがあったなんて……」

「ふぅむ……こんなもんが勝者の願いを叶える願望機だとは、実際に見てみても信じられんもんだのう」

 

 日本のとある場所にある日本家屋。

 屋敷と言って問題ない敷地に、聖杯なんてもう要らん勢が集まり、聖杯談義をしていた。

 

「誰か聖杯欲スィーって人、居るかね」

「そんなの、事情を知らない遠坂とか、間桐じゃないか?」

「うむ。しかしこう、実物を見てしまうとなぁ……タダでくれてやるのも癪ではあるなぁ。どれ、くれてやる代わりにいっちょ戦え、とでも交渉してみるか」

「べつに僕らのものになったってわけじゃないだろ? いらないって同意したからこそ、こんな拠点に集まってんだからな、僕らは」

 

 イスカンダルの言葉に、溜め息混じりに言うウェイバーは、胡坐をかいて座りながら畳に手をつき、ぐるりと屋敷の壁や天井を見た。

 随分と立派な場所だ。

 よくもまあこんな場所を確保出来たもんだ、と呆れてしまう。

 マッケンジーさんを利用していた自分とは大違いだ、とも。

 

「けど、すごいわクロリスト。拠点と知るや結界を張って聖域化までしてしまうなんて」

「これでも自分の領土を持っていた侯爵ですけぇ。癒しの領域作りにゃあ定評がごぜぇます」

 

 既にハサンモードを解除した中井出も、屋敷に癒しが満ちていくと笑みを増やしていった。

 庭に何気なく生えている樹が癒しとマナの樹だ、なんて知ったら、魔術協会なんて卒倒ものである。

 結界はその樹が自然と放つ癒しとマナを逃がさないためのものであり、当然逃げ場がない癒しやマナは内側に溜まる。

 空気も浄化され、中は聖域紛いの場となるわけだ。

 多少の傷など一瞬で治り、深い傷だって時間が経てば完治する。

 

「FUUUM、そういやその……マトー? とかいうところのサーヴァントは見てないなぁ。どんなの?」

「うむ。それならば恐らくはあのバーサーカーがそうであろうな。あの金ピカが遠坂とくるならば、まず間違いはあるまいて」

「バーサーカーとな?」

「ああ。黒い霧みたいなのに覆われて、ステータスが見れなかった」

「狂化されておるのに、やけに技巧に富んだ行動をする者でな。バーサーカーでなかったら我が軍門に下らんかと勧誘しておったわ」

「誘うだけ誘ってみりゃよかったのに」

「そうさなぁ、言われてみれば、ものは試しという言葉もあるくらいだしなぁ」

「これ以上暴れるやつが増えるなんて冗談じゃないぞ僕はっ!」

「はぁ……我がマスターながら、その器のなんとちっさいことか。あぁ嘆かわしい」

「そうだこのタコ、ちっさいぞこの野郎」

「おまけみたいに罵倒するなよ!」

 

 イスカンダル、中井出と並ぶと、いちいちちくちく刺してきて困る。

 劣等感を刺激されると思考が鈍るから、こういう状況はウェイバーにとっては実にやりづらいものだった。

 比較的、話が出来るアインツベルンは外の樹を見て喜んでいるし、魔術師殺しはその隣で穏やかに笑んでいる。抱いているのはイリヤスフィールだ。

 

「……ところで、このさっきからちらちらふよふよ浮いてるの、なんなんだ?」

「マナですよ? 緑色のちっさな粒子。癒しも含んでるから、触れると回復したりする」

「ほう! 聖域だとは言ったが、それほどまでに聖域か! 見事なものだなぁこれは! 欲しい! これは欲しい! ここを余の城、余の拠点と───」

「ここはあの夫婦の家だからやめんさいマスター。寝てるとはいえ、他にも二人居るんだから」

 

 他二人───隣の部屋で寝かせているシャーレイとナタリアである。

 促され、ちらりと見れば、すうすうと寝息を立てている二人。

 じろりじろりとウェイバーにセイバー、ディルムッドに中井出、全員に睨まれれば、征服王もそんな空気を破壊するような気分ではなくなってくる。

 

「はぁ……残念だなぁ、勿体ないなぁ。だがまあ、いずれ征服すればよかろう! それまでは───」

「あのなぁ、言っとくけど、世界征服なんてことを実行しようとしたら、魔術師とかその他もろもろ、全部敵に回すことになるんだぞ!? お前が前に欲しいとか言ってた戦闘機とかだって、あれら全部が! 昔と今じゃ技術レベルとか規模が違うんだよ! 征服したいなら、大統領にでもなってみろーーってんだ!!」

「………………ヒロミツ。そりゃ、ほんとか?」

「いや、現代知識の多少は植え付けられてるでしょーが。ヘタイロイ召喚したってヘタすりゃミサイル一発で全滅ですよ」

「んぬぅうう……!! 余が誇る最高にして最強の軍勢が、よもや一撃と……! 良い! 実に良い! 武技で敵わぬなら知力で戦う! 坊主、人も強くなったものだなぁ! 野を駆け地を削り、岩を掻いては硬きを鍛ち、武器として構えた日々など遥かに過去だ! 強きに向かわば怯えるのみだった者たちが、強くなったものだなぁ……!」

「……お前……」

「しかし征服せずしてなにが余か。よかろう、ならば次代の大統領とやらの座には、この征服王イスカンダルが就いてみせよう!」

「国が亡ぶからやめろぉおっ!!」

「ぬははははは! クリントンだかなんだか知らんが、潔く我が軍門に下るならば、ともに世界を征服する愉悦を───」

「お前のカリスマだと本気でシャレにならないからやめろって言ってるんだよこの馬っ鹿ぁあーーーっ!!」

 

 実に騒がしいことである。

 静かに幻想的な光景を眺めていた気分であった衛宮夫妻は、引きつった笑みを浮かべながらも……こんな状況に安堵した。

 もう、正義の味方を目指すことはないのだろう。

 壊してきたものも、切り捨ててきたものもたくさん。

 それを諦めるということは、切り捨ててきたものを無駄にするということ。

 それでも───

 

「………」

 

 そうとわかっていても、切り捨てなければ救えない命もあったのだと。

 そう考え、進むことにした。そうしなければ、進めないから。そういう仕事だったのだからと、切り捨てた。

 起源弾をたくさんコピーしてもらったが、これも恐らく使うことなどもうないのだろう。

 せめてこれが減ることがないよう願おう。

 そして、どうか……たとえ自分は不幸になろうとも、妻と娘は───と。

 

「あ、ところでさ。ここへの道のり教えてもらいながら来たじゃない? 僕とセイバーちゃん」

「え? あ、ああ、そうだよな」

「途中でなんか、朝がどうとか叫びながら襲い掛かってきた黒仮面をボコボコにしたんだけど、なんなのアレ」

「朝? って、」

 

 説明しつつ、自分の影からドチャアとフードを被った人間を吐き出させる馬鹿者。

 フード付きの白髪なにーちゃんは、なんか血管ムキムキコンテストで優勝狙えそうなほど、血管が浮き出ていた。

 

「で、ボコったらなんか消えた黒仮面さんの後ろでこいつが倒れてたの」

「これ、令呪じゃないか……! こいつ、間桐の人間なんじゃないか……!?」

「え? マジで?」

「その黒いの、叫びながら襲い掛かってきたんだよな?」

「ウヌ。なんかね、必死に朝を求めて叫んでたよ?」

「朝……? 狂暴化してても、なにかしらの思うこととかしたいこととかがあったってことか……?」

 

 正しくはアーサー、なのだが、間延びした叫びばかりしていた所為で、“朝ァアアア!!”としか受け取られなかった。アワレ。

 ウェイバーも必死になって朝に関係のある英雄についてを考えるが、ちぃともかすりやしない。黒騎士、朝、なんだっけ? こんなもんである。巻き戻る前の記憶でいえば、手にしたもののすべてが宝具になる、なんてものもあったが、余計にわからない。

 

「とりあえずこいつ、どうしよっか。起こす?」

「あ、まっ、待て待て待てぇっ! 起こすのは拘束してからに決まってるだろっ!? どうしてお前らはそう“とりあえず行動”なんだよ!」

「偉い人が言いました。やって後悔しろ。ひでぇよね? やって成功しろとか絶対言わねぇのよ? 失敗しろって言ってるようなものだよね」

「受け取り方の問題だろそれはぁああっ!!」

 

 そうは言うものの、ウェイバーもなんとなく気持ちはわかった。

 わかってくれないのだ、大人という者たちは。

 正当な評価を、と挑んだこの聖杯戦争だ、そんな思いでもなきゃ踏み込もうだなんて思うはずもない。

 が、それとこれとはやっぱり話が別なのだ。

 

「……ぅ……」

 

 そんな時、その男がもぞりと動き、目を開けた。恐らく、この屋敷に溜まった癒しが彼の目覚めを速めたのだろう。

 一同に走る緊張。

 目を開け、起き上がった男は咄嗟に身構えるが、

 

「おっと、おかしなことをするんじゃあねぇぜ? ちょいとでも敵意をぶつけてみろ……てめーの大切なお子がひでぇ目に遭うことになる」

「───! なっ……さ、桜ちゃんのことか!」

「そうそう、その桜ちゃんだよォ~~~ッ! 危険な目に遭わせたくなければ質問に答えるんだよホラァ~~~ッ!」

『………』

 

 ああ、こいつほんと外道だ……。その場に居た全員が素直に思ったそうな。

 とりあえず征服王にゴンスと殴られたが、「ニーチェ!」と叫ぶだけで状況を変えるつもりはなさそうだった。

 

「……っ……なにが聞きたいんだ……! 俺に言えることなら話す! だから桜ちゃんは……!」

「まず貴様の聖杯に対する思いとか聖杯戦争に対する意気込みとか、いろいろ聞かせて?」

「え? あ、ああ…………え?」

 

 いきなり柔らかくなった態度に戸惑いつつも、そいつ……間桐雁夜は語った。

 自分は11年前に魔術から離れた存在で、今回マスターになったのもかなり強引な方法であったこと。

 桜ちゃんをあのジジイから助け出すために聖杯が必要であること。

 その他いろいろ。それを聞いた彼は、

 

「よろしい、じゃああげる」

 

 あっさりと聖杯をあげると言った。

 

「ちょちょちょちょっと待てこの馬鹿ぁっ! お前そんなっ、簡単にっ!」

「馬鹿とはなんだこの野郎! いちいち馬鹿馬鹿やかましいですよマスターのマスター! 馬鹿じゃない、博光ですよもう! 大体ここに居る誰もがそんなもんいらないって言ってんだ、そのー……じじい、だっけ? そいつにあげりゃーいいじゃんかさぁ」

「けどなぁ……!」

「そんで? えーとカリヤくん?」

「あ、ああ……」

「キミはその、桜ちゃんを助けられりゃあ聖杯なんてどうでもいいんだね?」

「……ああ。どの道、このザマじゃあ時臣には勝てやしない。言ってやりたいことも、殴ってやりたいことも、いろいろある。でも、俺にはもう……そんな資格なんてなかったんだ。……なぁ、もういいだろう? 桜ちゃんを解放してくれ……。あの子を家族のもとに帰して、幸せに生きてほしい……俺にはもう、それだけで……《がしぃっ》へ?」

「炎が……お前を呼んでるぜ!」

「え? え───」

「間桐の屋敷の位置は地図で確認済み! いくぜカリヤン! お姫様奪還作戦である!」

「奪還……!? 桜ちゃんはお前が《ビジュンッ!》」

 

 ……消えた。

 どこぞかへ転移したんだろう、一同は長い長い溜め息を吐くと、もはや気にせず、癒しとマナが溢れる光景を眺めた。

 

……。

 

 ドドドドドドド!!

 

「オーーーリーーービーーーアーーーッ!!」

 

 行ったことのある近場に転移し、そこから律儀に走ってきた馬鹿者と、そのわきに抱えられた雁夜。

 その二人が間桐の屋敷に到着し、ドアを破壊して入るまでに、そう時間は要らなかった。

 

「おっほっほっほ~~~っ、感じる、感じるぞぅ下衆の気配! 久しく感じぬアルティメット下衆の香りじゃわい! いやぁキミの中に居る蟲と同じ匂いを探すだけで、何処に潜んでおるかもハッキリわかる!」

「げほっ……! だ、だいっ……じょうぶ、なのか……!?」

「ああすまんね、癒しとマナで癒えかけてたのに、外に出たから結構キツイっしょ? でももう安心さ! 何故って? 博光が来た!《どーーーん!》」

 

 とりあえずは臭いを完全に覚えて、雁夜の体に貫手をかます。

 腹を貫いたそれは内臓の中で蠢く蟲を掴み、その一匹に内部の蟲全部を吸引融合させ、引きずり出してみせた。

 傷は引き抜く途中で癒している。

 もちろん、貫かれる瞬間はとんでもなく痛いわけだが。

 

「や、やめろ……! それを殺せば、俺じゃあバーサーカーを操りきれなく……!」

「あらそうなの? じゃあカリヤン、俺に令呪ちょうだい? あぁだいじょぶじょぶ、君が心配してる下衆なら───」

 

 ニコリと笑い、そいつは掌の中に居る蟲を分析、空中に放ると、

 

「この蟲と繋がりのある蟲のみを抜き出し吸い込むブラックホールが出ます。弾けろ」

 

 黒い渦を“創造”した。

 途端、放られたアレな形の蟲はその中に消え、次いで壁をすり抜けてまで引っ張り込まれた呆れるほどの虫が穴へと飲まれ、粘っていた一際大きな力を持つ蟲も飲まれ、飲まれた時点でひとつの蟲へと形を変えた。

 そう、吸い込んだだけだ。滅ぼすものではなかった。

 雁夜は目の前で完成した大きな蟲に吐き気を催し、耐える暇もなくぶちまけた。

 それはぐじゅりと蠢き、人の言葉を発すると、

 

「いやべつに話を聞きたかったわけじゃないから」

 

 がぼぉん、と。自身の影から現れた黒に丸ごと飲まれ、咀嚼され、潰れ、千切られ、絶命した。

 

「じゃ、桜ちゃん、迎えに行こうか?」

「………………え? あ───……ぞ、臓硯、は……」

「ゾウ? ……ああ、あのマーラ様? 食いました」

「食った、って…………あの、怪物を、か?」

「おうさ。頑張ってこっちを食おうとしてるけど無理無理。生きた時間も積んだ地獄も歩んだ沼の深さもなんもかんも足りやしない。毒でも呪いでもなんでも来い。57億の忘却で滅ぼしてくれよう。───さて、ゾーケンってなんだっけ?」

「へ? だから───…………え?」

 

 忘れた。つまり、死んだ。

 黒に呑まれ、名前や経験ごと食い潰され、消滅した。

 しかし食った者のみは覚えており、その深淵にあった腐らず残っていた粒だけを吐き出し、浄化する。

 青い髪をオールバックにした青年、マキリ・ゾォルケンは、そうして……ヒロラインの大地に立った。見せられた未来の醜い自分の記憶など忘れて、今度こそ、自分として歩み出した───一歩目で、ベヒーモスと遭遇してズシームと踏み潰されて絶命し、神父の前で復活した。

 

「マキリ・ゾォルケンって知ってる?」

「あ、ああ……知ってる。偉大な先祖だったって話だ。今でもどっかで生きてるって聞いたけど……はは、眉唾だよな」

「……ウヌ。んじゃ、サックラさんを助けに行きますかぁ」

「ああ。……あれ? どうして助けに行くんだっけ」

「攫われたんじゃない?」

「……そっか。ああ、そうだったな」

 

 間桐臓硯は消えた。

 ただ、ゾォルケンという、下衆になる前の記録だけを残して。

 そうして二人は階段を上り、桜を求めて家探しをするのでした。

 ざっくり言えばあっさり見つかって、もう必要ないからと令呪は中井出の手に移された。

 雁夜と桜は衛宮邸に保護され、蝕まれた体も壊れかけていた心も、少しずつ癒され───

 

「ぬるい!」

 

 ……る筈だったんだが、中井出が桜と雁夜を黒で飲み込み、自身の世界へと引きずり込んだ。

 せっかくだからと、困惑するその場に居た全員も。

 で、辿り着いた場所はといえば……猫の里、とよばれる、大樹ユグドラシルが存在するヒロラインの中でも超がつくほどの聖域であった。

 降り立った途端に傷という傷が癒され、雁夜の髪の色も元に戻り、桜の傷も癒されていた。

 心まではやはりそう簡単にはいかないが、純潔さえ傷として認められ、癒されていた。

 変わり始めていた髪の色も元に戻ると、消えていた目の光が戻ってきて、そこに居た動物達に迎えられると、少しだが……笑顔を見せた。

 

「ほほおう……! こりゃあ見事なものだのう……!!」

「な、なんだよここ……! 明らかにおかしいだろ……! 聖域って、言葉だけじゃ足りないくらいに……その……ええっと……! ああもう! 言葉じゃ足りないだろこんなの!」

「…………ここ、が…………クロリスト、きみの中の世界、なのか……?」

「うんそう。ね、ケリィさ。きみら、ここに住まない? ここには平和があるよ。完全な平和じゃないかもしれないし、望んだものとはやっぱり違うのかもしれないけどさ。好んで争うことなんてない。歳を取りたい時だけ外に出て、屋敷でのんびり暮らせばいい。まあ、ここに来ればここに記憶されたキミに戻るだけだし、向こうで死んでもここに戻るだけなんだけどね」

「ここに……?」

「うむ。もうきみらのこと、記憶しちゃってるから。ここでは自分のステータスの限り、なんでも出来るよ。戦いたかったら戦えばいい。世界征服だろうがなんだろうがやりたい放題だ。ただしエロスは同意がなきゃだめ。無理矢理しようとしたら精霊様から罰が落ちる」

 

 飾らない表情で言われ、切嗣は少し呆然とした。

 そんな彼の肩に光が留まり、見てみれば……それは、小さな妖精だった。

 人の形をした小さな存在に羽が生えていて、それが緑色の光を放っていた。

 

「おやエィネさん、おひさ。元気してた?」

 

 中井出が声をかけるとにっこり笑い、頷いて飛んでゆく。

 そうこうしている内に桜とイリヤは二足歩行する猫たちに囲まれ、もみくちゃにされ、わっしょいされ、アルティメットアニマルセラピー効果で、気づけば笑っていた。

 それを見ていた雁夜は呆然としていたものの、桜の笑顔を見ているうちに涙を溜め、顔をくしゃくしゃにして泣いた。

 いっそ、戦争も忘れ、間桐も遠坂も忘れ、ここで暮らしてもいいんじゃないか。自然とそう思い、けれど自分の幼馴染の顔を思い出すと、それも踏みとどまってしまう。

 そのために血を吐くような世界に身を投じた。

 けど、そんな世界があったから、桜ちゃんは。

 

「カリヤン、悩む必要なんてねーだよ。キミは今、なにを守りたい?」

「……桜ちゃんを」

「キミの苗字とあのお子の苗字は?」

「……っ………………間桐だ……っ……!」

「それで充分っしょ。家族、幸せにしてやんなさい」

 

 雁夜は泣いた。

 心を癒され、傷を癒され、焦がれたために狂っていた思いが癒されると、ようやく自分として“今”を見つめられた。

 愛しい人は、決めたことのために覚悟していたのだ。

 愛していた。

 焦がれていた。

 けど、彼女はそうであるとわかった上で、今の彼女であるのだから。

 ならば自分は、それを受け止めた上で…………彼女の子を、守ってゆこう。

 もう逃げはしないだろう。

 逃げる道なんてあっちゃならない。

 猫に囲まれ、見せてくれた笑顔を……今度は、自分が守り、育んでいこう。

 

「さて、んじゃあ聖杯いらない同盟が出来たところで、メシにでもしますか」

「賛成ですヒロミツ。大盛りでお願いします《ヴァアアーーーン!!》」

 

 提案した途端、騎士王の気迫がMAXになった。

 ちょっと待って? カリヤンから令呪受け取ってから知ったことがあって、是非アーサー王に紹介したいのに。

 そう思いつつも、セイバーの気迫に負けたのか、料理を始めるのでした。

 

 

───……。

 

 

……。

 

 そうして、宴会は開かれた。

 バカデカい大樹ユグドラシルの麓、広く美しい広場に、切株のテーブルがあり、並べられた料理と酒の数々。

 見える巨大な湖にはガノトトスが泳いでおり、その水もまた澄んでいる。

 

「っかぁああーーーっ!! なぁるほどのぉお!! これは美味いわけだ! シビレるわけだ! 英雄王の財宝ではこの味は出せん! 余は感動した!」

 

 喰らう度に腹が空き、飲み込めば幸せが喉を通る。

 あまりの美味さに感動し、ウェイバーが涙しながら水を飲む。その水までもが美味いとくるからたまらない。

 アーサー王は黙々と、本当に黙々と食べている。その味を尊いと、忘れまいとし、無駄な口は開かず、ただ味わう。

 そしてその隣。

 料理を作る途中で、せっかくだからと召喚した間桐陣営のサーヴァント、狂化が解除された彼もまた、セイバーの隣で食事をしていた。

 湖の騎士、サー・ランスロット。

 アーサー王の手で裁かれたいという願いから召喚に応じた彼が、願い通りアーサーナックルで思い切りブン殴られ、ガノトトス湖を幾度か切ったのちに沈み、ガノトトスに銜えられて陸に放り投げられたのが先ほど。

 何故って、断罪してくれというランスロットと、自分は許したというセイバー。

 いっそ気の済むまでブチノメしてあげれば? と提案したのが中井出で、ここならすぐに回復するから、という言葉に……セイバーはようやく頷き、拳を握った。

 中井出の所為で人を殴るのに躊躇が無くなったセイバーは、それはもう怖かった。

 覚悟を決めたランスロットをそれはもう殴る殴る。

 で、気が済むまで殴ったセイバーはやさしく微笑み、さあ、食事ですよと言ったのだ。

 

「………」

 

 ランスロットは複雑な気分だった。

 いっそ、剣で斬り下してくれたなら、と。

 しかし王はそれをせず、拳で散々と殴った。

 

「ほォらァァァァ!! アンタ全然食事が進んでないじゃないのォォォォ!! ちゃんと食べなきゃダメでしょォォォォ!?」

「あっ……いや、私は」

「ご飯はどうするの!? 大盛り? 中盛り?」

「……では、中盛りで」

「なに言ってんのアンタそんな痩せた体でェェェェ!! 男の子はねェ! 少しくらい太ってるくらいが丁度いいの!」

「いや、では何故訊───」

「口答えすんじゃないのォォォォ!! アンタはもうほんと人の揚げ足ばっかり取ってェェェェ!!」

 

 で、現在。

 ランスロットの前には大盛りのご飯。

 ほっくりと炊けた、香りだけでも唾が出る出来栄えだ。

 現代知識を聖杯より頂いたので、当然箸での食べ方も心得ている。

 礼儀と作法に倣い、いただきますを言って口にしてみれば、それのなんと美味きことよ。

 

「……王。私は」

「サー・ランスロット。言葉は不要だ。私は……もう、全てを受け入れ、許した。幾度も経験し、幾度も後悔し、幾度も喜び、幾度も納得した。その上で……起こるべくして起こったことなのだと受け入れたのだ」

「王よ……」

「ただひとつだけ。……あなたは、ギネヴィアを愛していたか?」

「……はい。それだけは、違えることなく」

「ならば、よかった。ただ、奪っておいて結局は結ばれることなく死した、という点に関してのみ、私は怒ろう。それが故の拳だ。思い出すたび後悔してほしい」

「…………確かに、受け取りました」

「さあ、食事の続きだ。食卓では笑顔だろう? 友よ」

「………」

 

 ふっ……と笑い、改めて料理を口にした。

 ああ、美味い。

 積み重なった様々が、死した後に解きほぐされるなどと、誰が思い、死んでゆくのだろう。

 こんな時の果てのような場に召喚され、よもや奪ってしまった相手から断罪され、改めて許されるなど。ともに食事を摂れるなど。

 彼は噛みしめるたび、この味を忘れまいと刻み込んだ。

 刻み込み、そして、その味にこそ涙した。

 

「あなた、サクラっていうのね? わたしはイリヤ! よろしくね!」

「…………うん」

 

 一方で、子供同士の仲が築かれようとする中、切嗣と雁夜はそれはもうソワソワしていた。

 それを見て、アイリスフィールがくすくす笑い、舞弥がこほんと咳払いするくらい。

 癒しとマナが溢れるこの場において、とっくに目を覚ましていたシャーレイとナタリアにはきちんと事情を説明して、その上で切嗣の様子を見て笑っている。シャーレイなどは腹を抱えて。ナタリアは酒のつまみにするかのように、くつくつと笑いながら。

 

「あ、ちなみにヒロラインは一夫多妻とかアリだからね? 好きで生活力があるなら好きにしなさいね」

『───』

 

 その言葉にシャーレイとナタリアがぴくりと動揺したものの、互いの顔を見て笑った。

 いやいやいやいや、と。

 しかし困ったことに、弟だと思っていたケリィがシヴくダンディに。

 ガキだと思っていた切嗣が凛々しい大人な男に。

 困ったことにドがつくほどストライクだったらしい二人は、今さらになってドキドキしていたりした。

 いや、でも自分、死徒だし。いや、でも自分、親みたいなつもりだったし。

 などなど、いろいろな思惑が飛び回るも、結局は時間の問題なのかもしれない。

 ちなみに、現在の正妻さんの返事は。

 

「切嗣を幸せにしてくれるなら」

 

 この言葉に舞弥の目が光り輝いたが、誰もが見なかったことにした。

 あとこの正妻、目が笑ってない。受け入れたら受け入れたで、切嗣は地獄を見そうではあった。

 

「ところで主」

「オウ? どうかした? ディルちゃん」

「その……こう言ってはなんなのですが、騎士として忠義に沿うようなことが、なにひとつ出来ていない気がするのですが……」

「や、べつに戦うことばかりが忠義じゃないでしょ。むしろ僕としては、こんな平和を守ってくれて、一緒に居てくれたら、それこそが嬉しいって思うよ?」

「……この平和を……」

「そ。なんならさ、カリヤンとかサックラさん、イリヤちゃんやアイリスさんとかを守ってほしい」

 

 おまけにウェイバーちゃんも、と言うと、「馬鹿にすんな!」と返された。

 すると、ディルムッドはふっ……と笑うと、なるほどと頷いた。

 

「戦ばかりが騎士の本懐ではない……その通りかと。この命尽きるまで、その命を貫きましょう」

「この世界だと命ってば簡単に尽きるから、あんまりそういうこと言わないの。散歩気分で出かけたらベヒーモスに出会っちゃったりするからね? マジで」

「……ソレは、そんなにも?」

「幻獣クラスかな。とりあえず強い。あとデカい」

「我が宝具では───」

「……皮膚で弾かれる、かな?」

「恐れ入りました!」

「いるなよ!!」

 

 無力を噛みしめ叫ぶランサーと、鋭くツッコむウェイバーの図。

 それを見て豪快に笑うライダーが、ガバガバと酒を呑んでは顔を真っ赤にして上機嫌に一層笑う。

 

「うおお、いかんいかん……! 余がこんなにも酔うとは……! しかもこの気持ちのいい酔い方……んんむ悪くない……! わかるかぁ坊主……! 世には、世界全図を紙にどれだけ描こうとも知り得ぬことが山ほどある……。それを己の足で、目で、舌で知ることこそ、征服なのだ……。知識で教えられて、そうなのかと頷くものの、なにが征服なものか……。んん、ぐぅお……だから…………だからなぁ、余は…………───……」

「ライダー? ……うわ、こいつ寝てやがる……」

「フフッ……好き勝手に飲み食いし、疲れれば寝る。まるで子供だな」

「やめろよランサー、僕はこんなデカい子供の子守なんかしてやるつもりは、これ~~っぽっちもないんだからなっ」

 

 ぐごー、と地響きめいたいびきをかくライダーの隣で、うるさそうにしながらも離れずに食事を口に運ぶウェイバー。その関係を見て、ランサーはもう一度笑った。

 

「ヒロミツ、料理がなくなりました。おかわりはまだですか?」

「どんだけ食うのキミ!!」

 

 そして騎士王は、感動をもっと胃袋に詰めたいと、頬をパンパンにしながらそう仰られたそうな。

 隣に控えるサー・ランスロットは、それを促すように「さ、食事を」とでもいうかのような目であった。

 とりあえずランサーにランスロットへの攻撃許可を出した。

 即座に名乗りとバトルが開始され、油断なく繰り広げられる攻防は、見る者を魅了した。

 ……呆れたことに、こうして始まったこれが、此度の聖杯戦争で一番聖杯戦争していた。

 

「……ところでヒロミツ」

「え? なに? もうおかわり? 今出したばっかじゃないの」

「いえ、そうではなく。その、影からそっと顔をだしているそれは、なんですか?」

「え? ああ、こやつ? サックラさん奪還したあと、ハサンに扮して帰ってた時に出会ったの。ぽそぽそと“あなたは何者ですか”とか言って首掴んできたから、ナニスンダコノヤーロってビンタかましたら、なんか懐かれた」

「……あの。ヒロミツ? それ、紛う事無きハサンなのでは……?」

「え?」

 

 ちらりと見ると、なにやらじーっと中井出を見つめてきている青い短髪の白髑髏仮面さん。

 たまにきゅっと手を握ってきて、改めて顔を見上げてくるのだが、何事かと戸惑っているうちに仮面の下で小さく笑うのだ。

 

「なにやら随分と懐かれているようですが……」

「そうでもないよ? さっきだってサックラさんに触れようとしたら《がぶぅっ!》……!! ぱっははははは……! ここここの子がまたやんちゃでして……!」

 

 噛まれた。で、伸ばした手を引っ込めると、噛んだところをぺろぺろ。

 で、また人を見上げてくると、仮面の下で小さく笑う。

 

「なんなのでしょうね。カリヤ、試しに彼女に触れてみてください」

「え? 俺? な、なんで《ぴとり》ウヴォロシャアアアアア!!《ゲボハァッ!!》…………《どしゃあああ……》」

「うわぁっ!? か、カリヤ!?」

「カリヤンが死んだ! この人でなし!」

「えぇえ!? ま、待ってくださいヒロミツ! 私はただ触れてみてくださいと言っただけで!」

 

 触れた途端、雁夜は血を吐いて倒れた。

 が、すぐに癒しとマナの力で復活した。

 

「……!?」

 

 それを、毒に耐えたのだと勘違いしたサーヴァントが、ここに一人。

 自分の体に触れるだけで毒に侵されるという性質上、自身に触れられる人は居なかった。

 この人は平気だった。恐らく、サーヴァントだから。きっと毒に耐性のあるサーヴァントなのだろう。

 しかし人間は初めてかもしれない。

 そのハサンの仮面の奥、その可愛らしい目が、きゃらんと光った。

 

「ヌ? ……うむ! 彼こそは毒を克服せんと日夜血反吐を吐く修羅よ! きっとキミのことも、受け入れてくれるSA!《キラーン》」

「あ……」

 

 ハサン……静謐(せいひつ)のハサンと呼ばれる彼女は、仮面の奥で再び目を輝かせた。

 それは期待故だ。

 触れれば誰であろうと毒に侵し、殺してしまう自分。

 そんな自分に触れても平気な人が居れば……と常に思っていた。

 けど。だが。見つけた。ここに、触れても平気な……“人”を!

 

「あなたこそ、私のマスター……」

「げっほごほっ! 今、なんか綺麗なお花畑が……あれ?」

「お花……」

 

 自身を花に喩えられたのは初めてだった。

 なんか期待とドキドキの所為で話もまともに耳に通っているのかも疑問だったが、まあともかく初めてだったのだ。

 ハサンは仮面を外し、他のハサンならば削り取ってあるであろう貌ではなく、普通の少女の顔を晒し、頬を赤らめた。

 そもそもこのハサン、百貌のハサンの人格毎に居る一人ではなく、どれかひとつを修めたハサンの中の一人だった筈なのだが、なんらかの事象に巻き込まれ、現界してしまったらしい。

 言ってしまえば最初は居なかった。しかしどこぞの馬鹿が聖杯問答時より時を遡った際、そこに居たサーヴァントを巻き込んだため、王の軍勢に蹂躙され、消える筈だった残りカスのような“アサシンの枠”まで巻き込まれた。

 結果としてアサシンは二人召喚された。百貌のハサンと静謐のハサン。

 一応パスは言峰と繋がっていたからなんとなく一緒に居て、偵察などをしていたわけだが───その先で、なんという出会いが。

 彼女は偶然というものに感謝した。

 

「……、……」

 

 じり、とハサンが近づく。

 一方の雁夜は“なんて格好をしているんだ”とか言いそうになったが、それを言う前に抱き着かれた。

 直後、ウヴォロシャアアアと血反吐をぶちまけたが、マナと癒しですぐに復活。復活するが再び毒で血反吐のループ。

 ハサンはといえばそんな血の色劇場なんて意識の外で、抱き着いたままでも聞こえる心臓の音に、乙女な素顔を淡く染めていた。

 雁夜が死と復活の狭間にある弱々しい力でハサンを剥がしにかかるが、そんな弱々しさを抱擁と勘違いしたハサンはいよいよもって頬を染め、さらに抱き着いた。

 やがて雁夜の吐くものが無くなったところでハサンは顔を持ち上げ、その凛々しい顔を見た。

 雁夜は、“ああこれ、もう無理”って顔で気絶していた。その顔はただただ凛々しく、男らしい姿だったという。

 そんな事情も知らないハサンはその在り方に惚れ込み、一層抱き着き、顔をぐりぐり~っと雁夜の胸にうずめた。

 ゴリゴリと彼の中の何かが削り取られていった。

 

「ああ……カリヤンの髪の毛がまた白く染まってゆく……」

「いい顔で逝ったな、あいつ……。悟りを開くって、ああいうことなのかもな……」

 

 雁夜は風になった。

 男たちが無意識にとっていたのは敬礼の姿であった。

 涙は流さなかったが、無言の男の詩があった。奇妙な友情があった。

 

「じゃあせっかくだし、このハサンお嬢も記録しておこうね。えーと……令呪パターンは、っとぉ…………おし、これでオッケー」

 

 あふれ出るマナパワーでハサンの核を読み取ると、それを雁夜の体に刻み込んでゆく。

 魔術回路は使わない。代わりに、人体にある氣脈にマナ回路を作り上げ、それを基軸としてマナを満たしてゆくと、雁夜の腕に令呪が刻まれた。

 それはこのハサン“のみ”の核の形であり、他のハサン───百貌のハサンとは別として切り取られた核であった。

 故に、抱き着かれているうちに核から流れた霊核が氣脈に馴染むと、彼の体に毒に対する血清めいた耐性が出来てゆく。

 マナが弱まれば再び血も吐くだろうが、彼女の毒で死ぬことは二度となくなった。

 

「んじゃ、宴を続けましょうか」

「ヒロミツ、おかわりを」

「キミはもうちょい自重しましょうね!?」

 

 ランサーとバーサーカーがヒートアップしてバトる中、騎士王は実にマイペースだった。

 のちに気持ちよく寝ていたライダーの顔に、バトルで弾けたガノトトス湖の水がバシャアとかかったあたりでライダー覚醒。

 戦を見るや立ち上がり、突撃を開始。

 やれやれ、騒がしい限りですと食事を続けようとした騎士王のデザートに血がビシャアと飛んだ辺りで我らが騎士王が参戦した。

 王が立った! 食べ物の恨みは怖かった! 実際怖い!

 

「“約束された(エクスゥウ)───」

「ちょっ……ちょちょちょちょっと待てばかぁあっ!! こんなことで宝具解放するやつが───」

「───勝利の剣(カリバー)”───!!」

 

 穏やかな景色が光に覆われました。

 動物と戯れて、笑顔を取り戻した子供は綺麗……と呟き、元々元気だった子供はそれはもう燥いでいた。

 

───……。

 

 で。

 

 ザボシャアア…………

 

『あなたが落としたのはこの愚かなサーヴァントどもですか? それともこちらの黄金のサブリガですか?』

 

 エクスカリバーで湖に沈んだランサー、バーサーカー、ライダーと、こげなところで聖剣使うなアホォー! と殴り飛ばされたセイバーが泉の精霊に持ち上げられ、問われたのが現在。

 問われた衛宮切嗣はとても複雑そうな顔をして、愚かなサーヴァントだと答えた。

 

「なっ、キリツグ! 愚かとは───」

「王コラテメェ、人の聖域でよォも聖剣ブッぱなしてくれたのォ。オォ?《ゴキベキバキゴキ》」

「ゴ、ゴメンナサイ」

 

 王である彼女は、拳をゴキベキ鳴らすクロリストを前に謝った。

 既に胃袋を掴まれている彼女にとって、彼は敵に回したくなかったのだ。

 というか普通に顔面を殴る中井出相手に戦いとか普通に困る。

 そうこうしている内に、泉の精霊に二度と沈まないでくださいねと投げ捨てられ、彼らと彼女は陸に戻った。

 そういう仕様なのか、すぐに衣服は乾いたものの、こんな平和の象徴みたいなところで暴れ回った彼らの羞恥心といったら、それはもうすごかった。

 

「サブリガ……! 私たちの価値はサブリガと同列……!」

「ぐっ……主の前で、なんたる……!」

「む……? そういえば結局、此度の軸では脚絆を買っておらなんだなぁ。おうヒロミツよ、この世界に脚絆は売っておるのか? まさか店などといった文明がないとは言うまい?」

「た~くさんあるでよ、良かったら案内するけど?」

「いいや良い! あると解れば走ってこそよ! 未知とは! 自分の足で拓いてこそ道! さあいざゆかん見果てぬ世界へ! ほれ坊主! ぼさっとしとらんでさっさと来い!」

「うえぇええっ!? ぼぼぼ僕も行くのかよ! だっておまっ……幻獣が、とか……!」

「んーなものは遭遇(であ)ってから考えれば良いだろう。ぬおおおおぁあああっ!!」

 

 征服王はキュプリオトの剣を抜き放ち、空間を切ると神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)を召喚。

 この世界でも問題なく使えたことに口角を持ち上げ、それに乗って豪快に空から外の世界へと旅立った。

 ───直後、宙を舞う災厄、デスゲイズと遭遇して開幕メテオで天に召されたが。

 

「……ヒロミツ。あれは?」

「デスゲイズ。乗り物に乗って空を飛ぶと遭遇する、最強級モンスター。この世界で死んだ生き物の躯とかを取り込んで強くなるから、強さに制限がないの。通常、全人口団結バトルで挑む相手。ソロじゃほぼ無理」

「………」

 

 しばしあと、エーテルアロワノンという大樹と融合した町の教会部分から、ドゴシャーンと征服王が吹き飛んできた。おそらくファザーベントに喧嘩でも……もとい、征服しようとしたのだろう。返り討ちに遭って、シャアアアン……と塵となって消えた。

 

「ライダーが死んだ……!?」

「いや、ここだと死んでも教会で蘇るから。ウェイバーちゃんもマスターも、今頃神父のむかつき具合を耐えてるところだと思うよ?」

「拳一撃で英霊が死ぬって……」

「そういう世界だからって受け入れちゃいなさい。そのほうが、この世界は楽しい」

「……そうですか」

 

 その顔は、なんかもういろいろ諦めた顔だった。

 が、楽しめばいいのだからと笑顔になり、前向きになったようだった。

 

「フムス。これでバーサーカー陣営もオッケイ。英霊と楽しく遊ぶ計画も順調だわさ。あとは───」

 

 あの金ピカさん、どうなっただろう。

 ちらりと思い出し、行ってみることにした。

 

 

───……。

 

 

 一方。

 

「……偵察に出た一人との繋がりが、切れました」

「……間桐雁夜、か。アサシンを倒せる実力を持っているのか? それとも……」

 

 言峰綺礼はふむ、と呟いた。

 夜、教会にて。

 しかしどうしたというのか、その顔は少し困惑に染まりつつある。

 

(少し前から時臣師との連絡がつかない……アサシンを向かわせても、戻ってくる気配もない。いったい……?)

 

 珍しく戸惑いを覚え、そのことにも溜め息を吐いていた。

 そんな一方で、金ピカさんと時臣さんはといえば。

 

「おのれおのれおのれおのれおのれ! おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ!!」

 

 最初のアサシン襲撃から今まで、ずっと攻防を続けていた。

 アサシンは馬鹿正直に、もとい忠実に遠坂時臣の暗殺を狙い、一応まだマスターであるからにはと守ってはいるアーチャー。

 そこに、様子を見に派遣された別のアサシンが辿り着くと、そのアサシン……ザイードは己がマスターより受けた密命を告げ、やってきたハサンをその気にさせた。

 “マスターが様子を見に行くように言ったのは、加勢させるためであったか……!”と。

 お蔭で現在、遠坂邸はハサンカーニバルである。

 対するアーチャー、投擲出来る財宝がないため、遠坂邸にあった高価な剣を手にハサンめらを押し返しては押されていた。

 

「この戦……このザイードが押している……! 体が軽い……もはや恐れるものは無し!」

 

 百の貌のハサンの中の壱、ザイードは笑みを浮かべた髑髏の面を揺らし、共に在るハサンとともにアーチャーと遠坂時臣を圧していた。

 遠坂の魔術も大したものだが、それもまるで舞うかのように避け、「他愛ない……!」と嗤ってみせた。

 

「このハサンめにお任せあれ……! 最高の恐怖と絶望を与えてあげましょうぞ……!」

「その首、このハサンが……!」

 

 迫る戦力と、増える戦力。

 追い詰められる時臣は、冷静で優雅にを心に秘めるが、状況は一向によくはならない。

 

「くっ……! 王よ! このままでは……!」

「たわけ! 貴様も我の臣下であるならば、己が威を見せてみよ!」

「しかしこの数は……! やはり英雄王、あの宝具の解放を───」

「貴様……! このような雑種どもに“乖離剣(エア)”を拝謁させよとぬかすか!《ギャリィンッ!》ちぃっ……! ちらちらと鬱陶しい虫けら風情がぁあっ!!」

 

 剣を振るい、向かってくるハサンを弾き飛ばす。

 しかしハサンはなんでもないようにひらりと舞うとヒタリと着地し、だらんと両腕を下げるや地を駆ける。

 マスター殺しと云われているように、当然時臣も狙われていて、しかし様々な貌がある、というのみでこれといった対人宝具がないことだけが二人を救った。

 確かに多く、確かに強い。が、捌けないほどではないと。

 相手が女性とはいえ、片手で人を持ち上げられるだけの腕力を持つアーチャーがその腕を振るえば、線の細いハサンは当然ながら吹き飛ばされる。

 が、それを数でカバーし、次々と攻める手は実に有効だ。

 いくら英霊とはいえ、人外の能力を持つとはいえ、疲れないわけではないのだから。

 しかも戻ってこないハサンを思い、言峰が次々と様子見を送ってくるため、アサシンは増える一方だ。

 

「よもや捨て駒にするつもりが裏切られるとはな……。フハハハハッ! 時臣よ、貴様は随分と良い師であったのだろうな?」

「っ……まさか、こんなことになるとは……!」

「あの無表情が今頃どのような貌になっているのか……フン、引きずり出して強引に見てやるのも一興というものか?」

 

 臣下の弟子というのなら、と目をかけてやろうと思えば裏切る。

 まったくやってくれる、と英雄王は口を歪めた。

 歪めつつハサンを吹き飛ばし、舌打ちをする。

 確かに筋力もある。フンババを倒してみせた実績もあるのだろう。

 だが、やはり彼はあくまで所持者であり、一を極めた達人ではないのだ。

 剣を振るおうとも決定打に欠ける。

 目が慣れたハサンは振るわれる剣を「他愛ない……」と避けてみせ、曲刀を振るい、その頬に傷をつけた。

 

「っ……おぉおおおおおおおおお!? この我に傷をぉおおおっ!?」

 

 男子を足蹴にする女に激怒するが如く、頬に走った痛みに、王は激怒した。

 だが、怒りに呑まれたとて“乖離剣(エア)”を使うほどの相手ではないと、既に決めつけているアーチャーはそれでも宝物を解放しない。

 そうこうしている内にとうとう内側に潜り込まれ、

 

「任せてください」

「《バゴシャア!》あべし!?」

 

 殴られた。時臣が。

 こう、拳が頬に埋まるほどしっかりと。

 

「くっ、詠唱の邪魔を───! ならば」

「任せてください」

「《バゴシャア!!》たわば!!」

 

 未だ、このハサンめにお任せを……! とハサンが増える中、詠唱もままならない。というか邪魔される。拳で。

 ならばと杖に炎を纏わせ炎剣を作り出し、目の前のハサンに斬りかかる───!

 

「任せてください」

「《バゴシャア!》うべるじぇ!?」

 

 別のハサンに横から殴られた。

 

「お、王! 英雄王ーーーっ! なんか一人だけ執拗に私を拳で……!!」

 

 いや、優雅だ……! 遠坂たる者、常に冷静に、余裕を持って優雅たれ……!

 己を律するように心の中で唱え、いざと前を向き、

 

「任せてください」

「《バゴシャア!》ウヴォア!!」

 

 横からストレートに殴られた。

 

「お前はなんなんだよ!!」

 

 そして優雅さも忘れ、思わず叫んでしまった時臣は悪くない。絶対に。

 

「フハハハハハ……! 我らは百にして一のハサン……!」

「貴様らの動き、既に見切らせてもらった……!」

「他愛ない……!」

「他愛ない……!」

「任せてください」

「《バゴシャア!》おぼぇ!? おっ……おのれっ……!!」

 

 ついでで殴られた時臣師、優雅さを忘れて激怒。

 炎魔術をぶっ放したが、やはりそれすら避けられてしまう。

 

「フハハハハ……! ハサン流・円の動き……!」

「他愛ない……!」

「他愛ない……!」

「英雄王ーーーっ! アサシンが何故か私を囲んで円の動きをーーーっ!」

「自分でなんとかしてみせろたわけめ!」

「任せてください」

「《バゴシャア!》はぼあ!!」

 

 この戦い、ハサンの圧倒的優位な状況であった。

 ハサンが一人、ザイードは高揚した。

 あのアーチャーに、このザイードが、と。

 加勢してくれたハサンにも感謝が尽きない。

 なんか見たことないハサンばっかりだけどきっと気の所為だろう。

 風を纏ったなにかを持った女ハサンとか、筋肉ゴリモリマッチョハサンとか、すらっとした体形の槍を持ったハサンとか、黒い甲冑着たハサンとか居るけど気の所為だ。だって白い髑髏面つけてるし。ハサンだってあれ絶対。

 そんな屈強なるハサンめらに囲まれた遠坂時臣氏の心境。

 

(常に優雅とか無理。遠坂だって人の子なんだよ? アサシンに囲まれてぐるぐる周囲を回られてみなさいよ。……凜、パパ泣きたい)

 

 その時浮かんだ気持ちをなんと唱えましょう。

 初めて彼は、魔術師としてでなく父として、家族に会いたいと思った。そりゃ誰だってこんな状況になれば、役職とか忘れたって文句なんか言いますまい。

 だが知っている。多くの場合の聖杯戦争では、敗北は死にもイコールする。

 ならばこそ、家族を求めてしまった今だからこそ、無様だろうと死にたくないと思ってしまった。

 魔術師としてならば自身の未熟さを呪いつつも、死を当然として受け入れられたかもしれない。

 妻がどう感じようと、魔術師のもとへ嫁いだのならば、それも納得するのだろう。

 だが今は。泣く妻と娘の姿を想うだけで、胸が張り裂けそうだった。

 死ぬわけにはいかない。

 優雅も冷静も捨てもしよう。だから今は───!

 

「っ───」

 

 今持っているありったけ。

 宝石をぶちまけ、爆発させる。

 それは閃光の如く暗殺者を怯ませ、時臣はその隙に英雄王に退くよう進言した。

 答えは当然、否である。

 雑種を前に退けというのか、などという理由を前に、貴重な“生存するための時間”を削ってくる。

 ならば今の貴方が振るえる得物に、いったいなにがあるというのか。

 持っていた剣もとうにボロボロ。

 射出する財宝もなく、他の財宝は雑種に見せていいものではないとくる。

 令呪を使っても険悪の仲になるだけ。

 なにが最強だ、これでは言葉通り宝の持ち腐れだ。舌のひとつでも打ちたくなる。

 

(宝───)

 

 そんな時、脳裏によぎったのは娘の姿。

 凜ではない、もう一人の……間桐に送り出した娘の姿だった。

 宝……ああそうだ、宝だった。いや、今でも宝なのだ。

 今になって思ってしまった。

 魔術師として、何故ああも簡単に送り出してしまったのかと。

 まだまだ父としてをし足りなかったはずだ。

 どころか、まだ一つも父としてを出来ていなかったのではないか?

 ……泣かれてもいい、罵倒されても構わない。

 この戦争が終わったなら、桜を───娘を迎えに───

 

  そう思った刹那。

 

 眼前に自分の顔が映り、それが刃だと気づいた時には、全てが終わっていた。

 




◆ネタ曝しです。

*ニーチェ!
 神は死んだ。
 浦安鉄筋家族より、殴られた際にたまに出る言葉。

*馬鹿とはなんだこの野郎!
 現在BORUTO連載中の池本センセの読み切り漫画、COSMOSより。
 自己紹介した少年時代のバド・ワイザーに対し、マルボロが言った言葉。
 「おめェアレだ、あるか? 名前」
 「……バド」
 「バカとはなんだコノヤロウ!」

*炎がお前を呼んでるぜ!
 KOFシリーズより、草薙さんと八神の掛け合い。

*何故って? 博光が来た!
 僕のヒーローアカデミアより、オールマイトの真似。
 私が来た!

*マーラ様
 グワッハッハー!
 女神転生シリーズより、ご立派様。

*サックラさん
 サクラ大戦で神崎すみれさんがさくらさんを呼ぶ際、なんだか「さっくらさん」と言っているように聞こえる。
 最初は花形美剣の「おったるくん」も「小樽くん」がそう聞こえてるだけなのかなー、とか思ってたらもう普通におったるくんだった。猛者ではない。

*ガノトトス
 モンハンの水竜。アタリハンテイ力学の王者。
 ヒロラインでは棲む場所を探してこの湖に辿り着いた。やさしい水竜。

*恐れ入りました! 入るなよ!
 ジャングルの王者ターちゃんより。
 主にペドロが恐れ入りましたと叫ぶ。ツッコミはヂェーン。

*ナニスンダコノヤーロ!
 テリー&ドリー。イキテルッテ~ナンダ~ロ♪

*ぱっははははは……! この子がまたやんちゃでして……!
 アニメ浦安鉄筋家族より、畑松五郎が腕を噛まれつつも動物を愛している時に言っている言葉。
 アニメでは名前が牛松虎五郎に変わっている。
 アニメでボギー愛子のボギーボムとか見たかった。

*うぼろしゃあああ!
 銀魂的な嘔吐。
 ただしこちらは吐血。

*この人でなし!
 ランサーが死んだ!
 カーニバルファンタズムより、ランサーの恒例。
 フィナルデッドランサーでは頑張ってくれました。

*雁夜は風となった
 ジョジョより、風になったワムウにジョジョがとった姿は敬礼であった。

*サブリガ
 サブリガといえばkittyさん。
 詩人と言えばサブリガ。
 さあ、そこのキミ! このサブリガをあげよう! 穿きたまえ!
 FF11で詩人っていったらサブリガだよね?
 そう思うあなたは電撃プレイステーション派。
 団長の闇王戦、楽しかった! ホームバム・ビ・バー!!
 そしてサブリメンを歌ったあの方に黙祷を。

*デスゲイズ
 FF6にて空に出現する、アンデッドに見せかけてアンデッドじゃない魔物。
 倒すとバハムルの魔石を落とす。なんでバハムルって省略の仕方、やめちゃったんだろね。

*任せてください
 うろジョジョ21の05:45あたりをどうぞ。
 お前はなんなんだよ!

*あべし! たわば!
 北斗の拳より、ザコのみなさまの断末魔。




◆あとがき
 ク~リス~マ~ス~が~今年もやぁてくる~♪
 ロンギヌスの槍が今宵も震えるぜよグブブブブ。きっとそんな聖夜。
 え? ええ、もちろん仕事があります。聖夜に休みだなんてそんなあっはっはっはっは!!
 それより最近は地震だとか雪だとか、いろいろありますね。
 こちらはコーラがバシャったキーボが一度は無事だったんですけど、その後昇天なさいまして。
 新たに買いにいきましたよ。もはや慣れ親しんで久しいワイヤードキーボード600。
 最初はモンハンフロンティアの特典狙いで買ったキーボがきっかけだったなぁ。
 なのに使いやすいのなんの。

 さぁて、来週の他愛ないお話は~?

 来週も他愛ないです。というかたぶん今日UPする。
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