どこにでもあるFate/のオリ鯖参戦系の他愛ないお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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いいから一度、心を開いてじっくり話しなさい

 ドザァ、と。赤い服を着た男が倒れると、その場は静寂に包まれた。

 ただ一人、金色の鎧に身を纏ったサーヴァントだけが驚愕し、舌打ちをしたが。

 

「ふっ……ふはっ! ふははははは!! 綺礼殿! やりましたぞ! なんと他愛ない! このハサンがひとり、ザイードめが! 遠坂時臣を殺りました!!」

 

 まるでダンスのキメポーズのようなものを取り、ザイードは笑った。

 対する英雄王は怒りを鎮め、時臣を見下ろし、フンと鼻を鳴らした。

 

「……良い。討たれたならばそれはそれだ。我のマスターである器ではなかったというだけのこと。喜べよ雑種ども。不出来とはいえ、我のマスターを殺した栄誉を与えてやる」

『………!』

 

 その言葉に、ハサンらは身構えた。

 単独行動スキル。

 マスターを失っても行動出来るその能力によって、アーチャーのサーヴァントはマスターが死んでもしばらくは行動出来る。

 つまり、枷の外れたアーチャーはこの時より、消えるその瞬間までを自由に動けるのだ。

 

「貴様らに格の違いというものを“魅せて”やろう。足掻けよ雑種。我の威を拝謁する栄誉を、機会を、くれてやると言っているのだからな」

 

 アーチャーの背後に巨大な黄金の歪みが出現する。

 一体何事かと困惑するザイードと、その他のハサンらを前に、やがてそれは出現した。

 一言で例えるならば飛行戦艦。

 べつに伊勢型の航空戦艦ではなく、空を飛ぶヨットのようなものだ。

 が、デカさが普通ではなく、それこそ戦艦と呼べる規模。

 当然遠坂邸は出てきたものの大きさによって破壊されたが、

 

「ハサン・口からレイジングロア!!」

 

 一人のハサンの口から放たれた、どこぞの世界の竜王が放つ極光レーザーによって微塵と散った。

 

「………」

『他愛ない……《ハサァーーーン!!》』

「《ブチブチブチブチ》おのれぇえええええっ!!!」

 

 その場に居たハサン全員が一斉にドヤ顔で言うものだから、これにはさすがに王の中の王、激怒。

 

「もう良いわ貴様ら! この剣で屠られることを精々誇り、その上で塵と消えるが良い!」

 

 血管をメキメキ額に浮き上がらせたアーチャーが、鍵のようなものを歪みから取り出すと、それを鍵を開けるような動作でゴチャリと動かし

 

「ハサンラリアットォ!!」

「《ドゴォ!》うぼぉ!?」

 

 その隙にラリアットをくらった。

 

「き、きさ」

「ハサンチョップハサンチョップ!!」

「《べちべちべちべち!!》ぐっ! おのっ、おのれっ!」

「ハサンヘッドバットォッ!!」

「《ゴドォ!》ぐおあっ!? ~~~~貴様ぁっ!! 天と仰ぐべきこの我に、よもやその穢れた身で触れるとは!」

「ハサン毒霧!」

「《ぶしぃっ!》ぐわぁあああっ!?」

 

 先ほどまで散々と遠坂時臣を殴っていたハサンが、今度はアーチャーをプロレス技で翻弄していた。

 いやそもそも、戦いの最中だというのにこんなにも隙だらけな王が悪いのだが。

 

「ハサンアリキックハサンアリキック! ハサンパイプ椅子!」

 

 足を執拗に蹴り、屈めばどっから出したのか、パイプ椅子でゴシャーンと殴った。ヒールな所業である。

 

「貴様……貴様貴様貴様ぁあああ!! その姿、もはや塵すら残らんと知れ!」

「ならば死ぬまで殴るハサン! 覚悟するハサン! オラオラオラオラオラオラーーーッ!!」

「なっ、待っ《ボゴドゴゴゴゴゴ!!》ぶべらはべらっ!」

「ハサンパーーーンチ! ハサンパァンチ! ハサンパァーーーンチ!!」

「ぐはっ! ごはっ! ぐっはぁ!!」

 

 他のハサンたちは驚くばかりだ。

 あの英雄王がああも押されている、と。

 繰り出される連打と痛打。

 見ているだけで───

 

「パンチパンチびんたパンチしっぺパンチしっぺ!!」

「お、おい? そのへんに……」

 

 ……あんまりにも可哀相だったので、ザイードが止めに入った。

 やがて宝具も出せずにゴドシャアアアと床に倒れたアーチャーは、自分をボコボコにした張本人を睨み、震えた。

 我の方が強い筈と。

 こんなところで負けていいはずがないのに、と。

 しかし現実はこの通りであり、怒りが脳を支配し、情けなさが体を震わせ───

 

「ッ───!」

 

 立ち上がり、即座に乖離剣を取り出すや、その財が回転を始めた。

 

「相応しくもない……分不相応にも程がある相手……! だが、貴様のその肉体! 一片たりとも残しはせん!」

 

 乖離剣が回転する。

 暴風が発生し、崩れた遠坂邸をより一層に削ってゆき、しかし……ハサンは静かに、その暴風の中を歩いた。

 

「ヒロッ───ハサン! 無謀です! それは迂闊に近寄っていいものでは───!」

 

 風を纏うなにかを持つハサンが叫ぶが、ハサンは静かに歩み寄る。

 全てを飲み込むような暴風。

 何気なく触れれば、それだけでその部位が千切れ飛びそうなほどの見えぬ刃の中を。

 

「他愛ない……」

「……貴様」

「武器が泣いているハサン。貴様のそれは、貰ったものを大切にしまっておくだけの子供の所業。どのように優れた武具を神より下賜されたとて、所有者が振るい、極めねば、持ち腐れというもの」

「……雑種風情がよくぞ謳った! ならばその身に受けてみよ!」

 

 英雄王が己が誇る武器を振るう。

 集った風が渦状の刃となりて、一人のハサン目掛けて放たれる。

 それを彼は「他愛ない……」とギリギリで避けてみせ、身をミヂミヂと切り裂かれながらも歩んでみせた。轟音によりかき消されたが、ギャアアアムとか叫んでいた。

 

「……、馬鹿な。……馬鹿な! 威力を弱めたとはいえ、乖離剣の余波を喰らったのだぞ!? 貴様は……いったい……!」

「だから言っているハサン。貴様のそれは、その武器の真価にさえ到達していない、我が儘な孺子が貰ったおもちゃを振り回しているにすぎぬ。なんたる児戯、なんたる他愛なさ……。極めておれば、敵う者など唯の一人として居なかったであろうに。……武器が泣いておるわ」

「だっ……黙れ……黙れ黙れ黙れ黙れぇえっ!! 我は《ずっぱぁあああん!!》ぶはぁっ!?」

 

 叫ぶ内に近づき、手が届く距離になれば張り手が飛んだ。

 頬を叩かれ、無様にも地に倒れたその姿を、しかし憐れみは込めずにハサンは見つめる。

 

「お、の……れぇえっ!!《バゴォッ!!》ぐはぁっ!」

 

 次いで、怒りとともに立ち上がったところへ拳。

 鼻っ柱を砕き、振るわれた乖離剣を腕を殴ることで落とさせ、たたらを踏みながら下がってしまう王を追い、顔面に掌底、頬に拳、振るわれた拳を叩き落とし、また殴った。

 

「っ……はず、だ……!」

 

 殴る。

 

「強い、はず……」

 

 殴る。

 

「我の、ほう、が……!」

 

 殴る。

 

「我は───」

 

 殴る。

 

「───」

 

 殴る。

 ずざぁ、と倒れ、鼻血を流し、口を切ったのか血を吐く英雄王。

 震える足を殴りつけて立ち上がり、もはやなんでもよいとばかりに王の財宝を開き、攻撃せんとする。

 しかしそんなものを開いているうちにまた殴られ、壁に激突し、崩れた壁ごと無様に倒れ伏した。

 

「が、は……ぁ……! こんな……こ、こんな…………! 我は、……我は、ァア……!」

 

 鼻が鼻血で溢れ、上手く呼吸が出来ない。

 自然と呼吸は荒れ、パタタッと血を散らしながらも立ち上がると、拳を振るった。

 強い筈なのだ。強いのだ。

 自分は半神半人。生まれの時点で他とは違う。

 最古の英雄であり、伝説も様々だ。

 我こそが王。我こそが英雄。英雄の中の王。

 常に見上げられるべき存在なのに。

 

「がっは!」

 

 何故。

 

「ぐはぁっ!」

 

 なぜ。

 

「我はっ───!!」

 

 積もった怒りを奮わせ、思い切り拳を振るった。

 それを狙われていたとは知らず。

 意識の外から拳が迫っていたことにも気づかず、渾身はあっさりとカウンターで返され、王は再び崩れた床に激突した。

 殴るだけではなく、床目掛けて引っ掛けるように殴り倒された。

 後頭部を強かに打ち、脳が揺れ、すぐに立とうとするも、意識はあるのに体が動かない。

 天の鎖で相手を縛っても、ソレはあっさりと「擬態さ……」とズルリとすり抜け、向かってきた。

 まるで分裂しているかのように、縛っても意味がない。

 立て、立てと、恐らく今まで自分が他人に無様と言った格好でもがき、その手に何かが当たる感触を知るや、それを握り、力を振り絞ってそれを突き出した。

 乖離剣である。

 だがそれはどすんとハサンの胸に当たっただけで終わり、回転も能力の発動もしていなかった。

 

「…………な、ぜ……?」

「使えていないからハサンよ」

 

 言った次の瞬間、ハサンは呆然とする王の真横に並び、

 

「お前は、無力だ」

 

 その頭を掴み、床に強く叩きつけた。

 ……足掻こうと強く握り閉められていた拳はその一撃で解かれ、力なく床に落ちた。

 

   ……我は───無力───、───

 

 力なく崩れ落ちた王がなにかを呟く。

 ごろ、と仰向けに倒れた王は、泣いていた。

 無力さに、自身の強さへの疑いに、自身の在り方への失望に。

 泣きながら、それを打ち砕いた者を見上げ、歯を食いしばっていた。

 

「初めて流す悔し涙か……」

「───っ……、~~……」

 

 おのれよくも。

 まず湧き出したのは鋭い怒り。

 だが、仰ぎ見るべき自分を見下ろす黒きサーヴァントは、嫌悪も憐れみも孕まぬ様相のまま自分の上半身を力強く抱き上げ、他の誰でもない、倒れた己に言ったのだ。

 

「男は何度か泣いて、本当の男になるのさ」

「───!!」

 

 力なく、情けなく倒れた己を抱き上げる強さと、真っ直ぐに自分だけに伝えられた言葉が胸に染みた。

 頬を叩かれた。拳で殴られた。拳骨さえされた。

 幼少の頃は周囲に認められ、選ばれた者なのだと増長し、いつしか見下すことしかしなくなった。

 そんな己を叱れる者すらおらず、朋友は一人と突き進んだ末に今があった。

 泣けばよかったのだろうか。

 神に与えられるままの試練を乗り越え、常に強くあった自分だ。

 そんな自身の道をまちがっていたと言うつもりはない。

 だが、言わずとも、泣くことくらいは許されたのではないか。

 心に溜まったなにかを吐き出すことさえせず、ただひたすらに王であり上に立つ者であったが故に、我は───

 

「っ……、~~……」

 

 涙が溢れた。

 涙が零れた。

 今までの生を振り返るたび、泣かなかったいつかを想うたび、友の死を思うたび、次から次へと。

 ハサンはそんな王を情けなく思うでもなく抱き上げたまま頷き、ザイードはソッとハンケチーフを差し出し、その涙をやさしく拭った。

 

「知らないことを、教えてくれなかったことを、たくさん知っただろう。だが、それでいいのだ。このハサンめらが、そんなお主を知っている。今は存分にお泣きめされい。その涙、このハサンめらが全て受け止め、秘密としよう。男子が思いをぶつけ、殴り合い、泣き、立ち上がったのなら……そのあとは友となるのだ」

「友───」

「よくぞ孤高に戦った。王だ王だと口にしては、孤高であり続けることなどもうないのだ。我らハサンが比類しよう。滅びた都の王ではなく、ただの一人として、ここに在るがよろしい」

「っ……友よ───!」

 

 散々と痛めつけられ、言葉を交わし、叱られた。

 高慢な態度と鼻はへし折られ、それでもなお向かっては、手段という手段を真正面から砕かれた。

 打つ手全てを以てしても届かず、こうして倒れた。

 ならば。

 こんな状況こそを、満足と言うのだろう。

 王は友という久しい言葉が胸に満ちてゆくのを感じ、上手く動かせない震える手でハサンの手を掴み───直後、地面から伸びた黒の触手に呑まれ声にならぬ悲鳴を上げた。

 散々打ちのめされ、弱っていたところに救いがあり、だが、その手があと一歩で空ぶった。

 王の……否、一人のギルガメッシュとしての悲鳴はその夜に消え、あとには呆然と立ち尽くす仲間たちの姿だけが残された。

 

「ヒロミツ……今のはもしや、キャス───」

「恐怖というものには鮮度があります。怯えれば怯えるほど、感情とは死んでゆくものなのです。真の恐怖とは、希望が絶望へと変わる瞬間のことを言う……言ったでしょう? 最高の恐怖と絶望をくれてやる、と《バゴシャア!!》つぶつぶーーーっ!?」

「貴方の仕業かァアアア!! だからといってなにもこんな時にやることはないでしょう! 阿呆なのですか貴方はぁああっ!!」

「だだ大丈夫大丈夫! ちゃんとその後のケアもパーフェクトゥ!! もうとっくに僕の中で癒して、迎え入れておりますとも! 見たこともないような穏やかな笑顔でおりますよ!?」

「そういう問題ではありません! 少しでも感動した私の涙を返してください!」

「しょぉおおがねぇなぁああ~~~っ!! まったくよォオ~~~ッ、しょぉおおおがねぇなぁあ~~~~~っ!! 今から成分分析して返してやるよナランチャァ~~~ッ!!《バゴシャア!》ホルマジオォーーーッ!!」

 

 本当に返そうとしたら殴られた。理不尽である。

 しかしこの王、既に殴ることになんの躊躇も無くなっていた。

 中井出限定であろうが。

 

「ふぅむ、しかし、幕切れは呆気ないものだったのう。遠坂とやらもこれで終わりか」

 

 ゴリモリハサンが、倒れ伏している遠坂時臣の傍に歩み、嘆息する。

 その姿は乖離剣の余波に巻き込まれたのか、結構ボロボロだ。

 それを見下ろし、本当のハサンらはニヤリと笑みをこぼし、ならばこの場に用は無しと姿を消してゆく。

 当然、ザイードも満足そうに頷き、言峰の下へと戻っていった。

 

「……行った?」

「おう、行ったな」

 

 時臣を執拗に殴っていたハサンが呟き、ゴリモリハサンがニヤリと笑いつつ言う。

 彼はうつ伏せに倒れた時臣の背の、丁度心臓部分にドムと拳を落とす。

 すると、ガハッ、と息を吹き返す時臣。殺したわけではなく、仮死状態にしただけだったのだ。そもそもそういった武器で攻撃したのだから当然なのだが。

 

「これで良し、と。どの道、普通なら英雄王と言峰=サンに裏切られてコロがされてたっぽいし、キミの未来を受け入れますじゃ」

 

 ケリィの過去を納得いくまでいじくる過程で、彼がアーチャーと言峰に裏切られることは知っていた。

 そんなのはあんまりなので、こうして迎え入れることにしたのだ。

 もはや桜には嫌われているだろうが、死ぬよりはマシだろう。

 そんなわけで、馬鹿者は影から巨大な口を召喚、ガボォンと時臣を丸飲みさせると、そのままヒロラインへ彼を送った。

 

「これであとはえーと? 誰だったっけ、マスター」

「おう、アサシンのマスターとキャスターのマスターだな。アーチャーの口ぶりからするに、アサシンのマスターとアーチャーのマスターは協力関係にあったのだろう? となれば、監督役とも繋がっていた可能性もあるということ。優雅とぬかす割には姑息千万、これで御三家とは笑わせるわ」

 

 言う割りにはニヤニヤしていて、「ま、どうであろうと征服するのだがな?」とキッパリ。

 やることが変わらないのならば、相手が悪であればあるほど腕が鳴る、と言っているかのようだった。

 

「主。これからどう動かれますか?」

「うす、とりあえず彼、えーと言峰氏? は、悪みたいだし。……勧誘してくる!《ジャーーーン!》」

「主!?」

「アーサー王……彼は阿呆なのですか」

「ああランスロット。彼は真正の阿呆だ」

「だから阿呆じゃなくて博光ですってば! この博光をアホウと呼びたいなら、阿呆と書いてルビでひろみつとでも書きなさい! マイネームイズ……阿呆(ひろみつ)!!」

「それでいいのですか!?」

「おうさ!」

 

 白髑髏の奥で、彼は綺麗な笑顔を見せたのでした。

 見せて、そして、教会目指してスッ飛んでいった。

 

 

───……。

 

 

 一方、教会の奥では。

 

「はっはっはっはっはっは! 綺礼殿! 綺礼殿ォオオーーーッ! このハサンが一人、ザイード! 見事遠坂時臣めを暗殺してきましたぞォーーーッ!!」

「!?」

 

 大変珍しいことに、言峰さんが心の底から驚いていた。

 

「アサッ……アサシン。あ、暗殺に成功した……と。お前は今、そう言ったのか……?」

「フフフ、綺礼殿にもごらんに入れて見せたかったものですなぁ。迫るアーチャーの攻撃の数々を他愛なしと避け、じわじわ時間を掛けて追い詰める手腕……! 庭園で見上げ見下ろされた時はどうしたものかと迷いもし、随分と時間がかかってしまいましたが……、恐れることはないと言った綺礼殿の言、このザイードにも理解出来ました。フフフハハハハ……!」

「………」

 

 暗殺成功。

 ……え?

 いやあの…………え?

 証拠は、と言おうとしたら、得意げに遠坂師が魔術媒介に使っていた杖を渡してきたので、ああこれもういろいろ手遅れだと天を仰いだ。

 ……仰いだ先に、なんか居た。

 

「───!」

「やあ《どーーーん!》」

 

 村人の服に身を包んだ、普段着の馬鹿者であった。

 

「堂々と侵入してみせるとは、中々に豪気なものだな。さて、貴様のようなマスターやサーヴァントは見た覚えがないのだが」

「イレギュラーなものでして」

 

 どこぞのフルフルのように天井に張り付いていたソレが、ヒタッ、と着地。

 友人にでも会いに来たかのような振る舞いと気安さで、

 

「ところでキミ、自分の本質、知りたくない?」

 

 堂々と本題に入ってきた。

 

「───、……なんの、ことだ?」

「隠しても無駄だしダメダメ。キミ、自分の本質、根源で迷ってるクチでしょ。性質は正しく悪なのに、神父の息子に産まれた所為で己をさらけ出せない、みたいな人生。……つまらなくない? キミからはつまらない人間の匂いがプンプンする。人に楽しいを広めたいこの博光としてはその匂いに敏感だし、貴様のような人間はほうっておけねぇのです」

「……ならばどうする。いや、教えられるというのか? サーヴァント風情が」

「ンもぉちろんさぁ★ で、どうする? ノるんだったらその影に足を踏み入れなせい。知りたくないなら、キミはもう一生、それを知ることはない」

「…………」

 

 ───言っておいて、中井出は感心した。

 言った直後、躊躇もなく、そいつは影に踏み出した。

 ザイードが「なにににににににィイーーーッ!? 無警戒が過ぎますぞォオーーーッ!!」とか叫んでいたが、大変よろしい、と一緒に黒で飲み込んだ。

 

「キミの本質を引き出しましょう。キミは確かに悪だ。が、話が通じないわけじゃあない。なにかを祝福することも出来るし、他人の歓喜におめでとうと言うことも出来る。心からだ。それはとても素晴らしい。だから───キミの悔いを潰し、キミをキミという井の中から出して差し上げよう」

 

 ニチャリ。

 そいつの口が三日月のように裂け、笑んだ。

 さあ、中井出を始めよう、という言葉とともに。

 

……。

 

 彼の悔いとはなんだろう。

 彼の過去と経験にこそ問い、その先で、彼は自分の過去において妻を殺めた。

 元々体が弱かった妻が、己の手で絶命する様を、光のない目が見下ろしていた。

 

 彼が残せたものとはなんだろう。

 悪として生まれ、善として生きることを強制され、しかし親の言いつけで戦争では暗躍するという外道をこなす。

 矛盾していると心で唱え、父の背を貫手で貫き、殺めた。

 動かぬ父を見下ろし、何故こんな男の言葉に従っていたのかがわからなくなった。

 同時に、残せたものなどなかったのではと思い到ると、それを探し───見つけた娘の首を掴み、そっとへし折った。

 

 繰り返した。

 悔いとはなにか。改めることとはなにか。

 まだ足りぬと、一生をかけて探すべきを、巻き戻しては探し、破壊し、殺め、見つけられず、ならばまた戻り、殺め───

 ……やがて、違うのではないか、と思い到った。

 

 自らは悪である。それは知っている。

 しかし、悪だから破壊する、ではないのではないか。

 いくら壊しても満たされぬ。

 不幸こそが愉悦となるのではと思ったが、繰り返してみればなんともつまらんものだ。

 ならばなにが足りぬのだとまた繰り返し、殺めず、傷つけるだけにとどめても満たされない。

 自分の中にはまだ何かが足りぬ。

 それが、たとえば心の臓を満たしたなら、それが心の空洞を塞いでくれるのではとも思ったが、そんな都合の良い泥などある筈もない。

 

 だから探した。

 この空白を埋める、満たす、塞ぐなにかを。

 殺める悪から傷つける悪に変わり、傷つける悪から騙す悪へ変わり。

 悪でありつつ、しかしその方向を変えては、満たされるなにかを探し。

 やがて。

 

「───、……」

 

 妻が言った何かが、心の穴を塞いだ。

 呼吸が止まり、目を見開き、思わず妻の肩を掴んでなんと言ったのかを問う。

 身体が弱い妻は驚きながら、少々咳き込みながらも頬を染め、言った。

 

「───、……」

 

 それが、より一層、心の穴を塞いだ。

 穴が塞がれば、自然と満ちてゆく。埋まってゆく。溢れてゆく。

 繰り返すたびに幾度も殺めた妻が、己が心を埋める。

 皮肉な話だ。

 かつては自分の手で殺めることが出来なかったと悔いた相手が、よもや。

 足りなかったのは言葉だったのか。

 殺していては得られぬ筈だ。

 無口でいては得られぬ筈だ。

 そして、あろうことか。

 私の悪としての充足というものが───

 

 

───……。

 

 

 ……。

 

「はっ……!?」

「あ、起きた。で、どう? 自分の根源、起源、見つけられた?」

「……ああ」

 

 言峰は、ともに時間旅行へいきましょうとばかりに過去へ飛んだ男を見て、息を吐く。

 恐ろしいサーヴァントも居るものだ。

 過去へ戻るだけでなく、それを幾度も繰り返させるとは。

 しかも妻を殺め、娘も殺めた自分を見てもなにも言わないとくる。

 

「私の願いはどうあっても叶えられんらしい。妻が居なければ、私は───」

「え? そうなの? じゃあはい《ずるぅり》」

「───」

 

 ちょっと待て。なにをそんな、茶菓子がないから茶菓子出そう、みたいな気軽さで、次元の渦から妻を引きずりだしているのだ。

 教会の椅子に寝かされていた言峰のもとへ、かつての姿のままの妻の体がとさりと重なる。

 思わず抱き留めると、脈打ち、暖かさを感じた。

 馬鹿な……と思うよりも先に、心が高揚していくのを感じた。

 

「で? キミの悪として求めるモノってなんだったん?」

「……簡単なようで、難しいものだった。だが想像してみれば、恐らくは誰にでもそうしていたのであろうことであり……しかし、妻でなければ充足には足りなかったのだ」

「わからん! もったいぶってねーで言えコノヤロー!」

「………」

 

 ズビシと指を突き付けられ、言峰はクッ、と笑む。

 知りたがり屋は早死にするらしいぞ、と返しつつ、しかし恩はある。それを返すとしようと口にする。

 

「妻に些細な意地悪をして、“知りませんでした、こんな意地悪をするなんて”、と私に対する幻想を砕いてやることだ。従順なだけの妻ではなく、黙して耐える妻でもなく。私は───」

「……キミさ、ようするに人恋しかっただけなんじゃないの?」

「フッ……ク、クハハハハ……! そうだな、そうなのかもしれん……! そんななにかを、破壊することで喪失したならばどうなるか。それに気づきたかっただけなのかもしれんな……」

「でも、キミに自覚がなかったから、何度殺したって気づけなかった。でしょ?」

「返す言葉もないな……だが、今はいい。ついでだ、クロリストよ。娘をここに連れてこれるか?」

「遠慮ないねぇキミ。オッケイ、キミが奥さん殺しまくってるうちに、娘さんがどうなるかを追ってたから何処にいるかもわかってる。でも、連れてきてどうするん? 殺す?」

「いいや、ともに暮らす。せいぜいつつきながら、妻と娘の反応に愉悦を感じ、生きるとしよう。……こんなことが出来るのだ、どうせ時臣師は生きているのだろう?」

「おお、さっすが。押忍、生きておるよ?」

「ならばいい。人死にはしばらく見たくない。一丁前に、一人前に、身勝手にも、命を尊いと思ってしまったからな。飽きるほど壊さなければ気づけぬとは、難儀な悪として生まれたものだ」

「ウヌ。ではキミも記録しよう。自動的にアサシンも。……うし、これでオッケー。あとはキャスターだけど」

「さてな。もはや、どうなろうと知ったことではない。殺すのならば好きにしろ」

「オイ。人死には見たくないって言ったばっかでしょーが」

 

 瞳に、力強い光が戻ってゆく。

 それを見た中井出は、「こういうやつも居るのんなー……」と暢気に呟いていた。

 なにが彼をそこまで動かしたのかといえば……恐らくは。

 妻を殺そうとしているところを娘に見られ、その娘に刃物で突かれ、絶命したのがきっかけなのだろう。

 どれほど武を極めても、妻を殺めんとした瞬間に油断しきっていた自分が、ああもあっさり殺されたことがおかしくて仕方がなかった。

 そして、今の今まで自分を殺そうとしていた夫の死に、涙を流して泣いた妻を見て、気づけたことがあったのだ。

 己は確かに悪で。環境が故に生まれる懊悩に苦しみ、自殺さえ考えた。

 しかし娘に殺され、妻に泣かれ、己の矮小さに気づいた。

 あんな小さな存在に殺され、泣く妻すら慰めることも出来ず、何度繰り返しても殺す以外に見いだせなかった自分。

 なんと小さきことか。

 子ですら親のために道を決めた。覚悟を決めた。

 妻はそれでも夫を愛し、私に殺されるのならと抵抗をしなかった。

 幾度も繰り返し、壊すことしか選べなかった己と比べ、なんと歩める道を多く持った者たちだろう。

 ならば己も選べばいい。

 悪としてと決めつけず、悪ではあっても悔いず、笑むことの出来る道を。

 見失ったならば、再びこの男に繰り返させればいい。

 そして、私は───

 

 

───……。

 

 

 ……。

 

「でさ」

「ああ」

「……誰アレ」

「すまない、僕には彼が言峰綺礼だとは、とても思えない」

 

 ヒロライン、ユグドラシルの下にて。

 アルビノであり、体が弱かった言峰の妻クラウディアから、死んでしまう原因を根っこから切り取って、瑞々しいネコット農場産の食べ物をたくさん食べさせ、完治させた。

 生憎とアルビノは治らなかったが、元気にしている。

 その一方で急に連れてこられた娘、カレン・オルテンシアは、父親である言峰にサワヤカ笑顔で高い高いをされ、大層困っていた。

 

「娘さんにさ、病魔に憑かれやすいって妙な体質? みたいなのがあってさ。それを吸いだしたんだけど……これ、どうしよ」

「消すわけにはいかないのか?」

「珍しいモンだからね、ただ消しちゃうのはもったいないかなぁと。一応分析、コピーは出来てるから、まあ消しても問題はないんだけどさ」

 

 言って、吸い出したソレを物体に変換。

 ひょいと投げると、切嗣がコンデンターを構え、起源弾で破壊した。

 

「まあでも、残ってても厄介事しか引き込まなそうだし、切って繋いでバラバラにするのが一番だね」

「……ああ。こういう使い方なら僕もまだ、これに頼れるよ」

 

 穏やかに笑い、ちらりと花畑の先を見れば、子供たちとシャーレイが遊んでいた。

 すっかり吸血衝動も無くなったようで、かつての好奇心旺盛な彼女のまま、元気に騒いでいる。

 が、鶏がすっかりダメになったらしく、若鶏のから揚げとか食べるのは無理らしい。

 あと血が大嫌い。血が嫌いな吸血鬼なんて珍しいものである。正しくは死徒であるが、似たようなものだろう。

 

「しっかし、キミと言峰=サンが警戒し合ってた仲だったとは」

「お互い、随分と遠回りな“青い鳥劇場”を繰り広げていたようだよ」

 

 この世界に連れられ、顔を見合わせた瞬間、双方ともに笑ったのだ。

 腹を抱えて笑ったことなど言峰には初めてのことで、切嗣にしても子供の頃以来だった。

 

「結局僕らは、これはこうだと決めつけてしまっていただけで……してみたいこともなにもかもを勝手に捨て、自ら可能性から遠ざかっていただけだったんだね。……そんなこと、もっと早くに気づけばよかった」

「今からでも遅くないっしょ。まだもうひと仕事残ってる」

「……ああ、そうだね。……聖杯は、どうなっている?」

「一応脱落……まあ、説得完了した人たちの分の魔力的なものはぶち込んでみてるよ? その分、ちゃんと脱落したと思わせるために、聖杯との繋がりは切ってる。なんか臭い泥みたいなのが溜まってきてる。今にも溢れ出しそうだから、言峰=サンに提案された、なんか劇場っぽいところに置いてきたけど」

「そうか……うん? 聖杯とのつながりを切って、サーヴァントは平気なのか?」

「あー、じゃーじょーぶじゃーじょーぶ、即席令呪を無理矢理作って、マスター……ライダーの時みたく受肉させたから。キャスター以外、全員受肉済みよ?」

「………」

 

 切嗣は遠い目をした。

 うん、こいつ本当に無茶苦茶だ、と。

 しかし自分もそんな無茶苦茶に救われたのだから、なにも言わなかった。

 

「………」

 

 目を移せば“理想”と描いてみては、届かなかった光景がある。

 息を吐けば、滲み出るのは笑みばかり。

 変わってしまったのは自分の心ばかりで───父をこの手で殺めたいつかを、震える手で銃を握り締め続けたいつかを、ただ小さく───思い出していた。

 

「さ、桜……」

「……《プイッ》」

「桜、私は───」

「……《プイッ》、《プイッ》」

 

 そんな笑みを浮かべる光景の中でも、遠坂時臣は苦労をしているようだ。

 まさか間桐の魔術がそんなものであったとは知らず、クロリストが忘却させたとはいえ、桜ちゃんには“事実”が刻まれているらしい。

 むしろこの世界は忘却の丸ごとの中にある世界。

 ここに来れば思い出せることがあり、最初は間桐雁夜も遠坂時臣に突っかかったものだ。

 何故彼が怒っているのかを知らない遠坂時臣は、魔術から逃げ出した彼を見下したような目で見たのち、冷静で優雅に対処しようとした。が、静謐のハサン、といったか? 彼女にデコピンをされて、毒に侵され倒れた。

 タネがバレては敵わんと、クロリストが蘇生するフリをしたのちに復活したが、ハサンの遠坂を見る目はゴミクズを見る目であったとだけ。

 そうして事情を聞かされれば、キミが怒るのも無理はないと言って素直に頭を下げた。

 魔術師然であろうとした結果がそれでは、と。

 しかしあくまで魔術師としてが抜けきらない遠坂は、そんな結果もあーだこーだと言い始めたので───馬鹿者は面を上げ、召喚した蟲をぎっしり詰めた巨大な壺に、遠坂を放り投げた。ギャーと悲鳴を上げる遠坂に、外道は言ったのだ。「そのまま一年我慢できる? ねぇねぇ我慢できる? 出来るよね? 魔術師なら当然なんだもんね? ムヒョヒョヒョヒョ!」と。

 

  ……しばらくして解放された遠坂の、間桐桜への土下座はとても綺麗だった。

 

 そんなわけで今も父としての歩み寄りは続いているが、桜は雁夜を父と呼ぶ始末。

 遠坂時臣は、後悔で心を満たし、雁夜くんはそんな遠坂を見て、「こんな時臣が見たかったのか……馬鹿なことしてたな……」とか遠い目で呟き、自分を頼ってくれる桜の頭をやさしく撫でていた。

 

「して、ヒロミツよ。キャスターはま~だ見つかっとらんのか?」

「うす、それがまたどうにも、人殺しとかはしてないっぽいんだよね。したら一発で発見できるのに。たまに血の匂いがして行ってみても、普通に世の中で起こる殺傷事件だったりね?」

「お前、あんないろいろすごいこととか出来るのに、そういう探知とかは出来ないんだな」

「そう言うな坊主。人には得て不得手ってもんがあるもんだろう。大体、前の軸での工房発見は見事であったが、この軸では貴様、なんもしとらんではないか」

「こいつがなんもかんもやっちゃうからだろっ!? 僕だって出来るならっ……! お前、僕の最初の願い、忘れたんじゃないだろうな……」

「はぁん……? おお、そうであったなぁ。なるほど、正当な評価を求める貴様が、それを試せる場を奪われて怒らぬ筈がなかったか」

「あれ? そうなの? それなら先に言ってくれたらよかったのに」

「言う前になんでもかんでもやって、厄介事さえ引き込むお前に言われたくないんだよこの馬鹿ぁっ!」

 

 馬鹿と言われ、博光ですよ失礼なと返す。

 そんなやり取りも慣れたものだった。

 さて、そんな彼が評価を、と願うならば是非もない。

 しかしまずは買い物が先ですと言って、彼らは外へと出掛けたのでした。

 戦争はどうした。

 

───……。

 

 で。

 

「ハサンよ、この服だが、どう思う?」

「ふむ。このザイードの目からして、ギルガメッシュ殿にはそちらより、この黒と白の服が似合うかと」

「……ほう。やはり良い目をしている」

 

 大型デパートにやってきた一同は、早速服を物色していた。

 我先にと選び始めた英雄王は、その隣にザイードを比類させ、服を試着しては青年然とした笑みで笑っている。

 選ばれた服を試着してみて、自身も大層気に入ったようである。

 一言で言うなら、この英雄王、勘違いしたままである。

 自身を追い詰め、殴り、叱り、諭したのは、そのまま本物のアサシンだと思っている。

 故に何人居ようが人格が違うだけでアサシンではあるとし、このハサンを友と認め、比類させていた。

 そしてこのハサン、ザイードも、なんの偶然か美的センスがギルガメッシュ寄りだったため、それはもう盛り上がる盛り上がる。

 黒スーツに身を包み、帽子を被ったハサンは実に気さくにギルガメッシュの傍に居た。

 ……ちなみに、中井出はギルガメッシュにめっちゃ嫌われている。

 財を返したお陰で少しはマシになったが、嫌われている。

 

 さて、そんな一方。

 婦人服売り場では切嗣と綺礼が妻に合う服を競うように探し、妻は妻同士朗らかに笑っていた。

 そんな婦人扱いの中でも、おろおろしている男が一人。間桐雁夜である。

 静謐のハサンにもなにか服を、と思って来たのだが、ハードルの高さに顔を赤くさせていた。

 どういったものが誰に似合う、なんてセンスが、自分にあるとは思えなかったためだった。

 

「……雁夜様。これは……どう、でしょう」

 

 元々、その可愛らしさで相手を誘惑、触れさせて殺すという暗殺をしていた静謐のハサンは、当然ながら美しくも可愛らしく、スタイルもよかった。

 そんなは彼女が今、たった一人を虜にしたいと頑張って服を選び、試着するたび、当然ながら雁夜は顔を真っ赤に染めた。

 露出の少ない清楚なものが好みだという傾向を知ったハサンもまた、そういったものを選び、雁夜の反応を見て少女然とした笑みを浮かべている。服よりもそちらの破壊力が強すぎることには、おそらくまだまだ気付けないだろう。

 

 で、紳士服売り場。

 

「フンッ!《ビシィッ!》フンンッ!!《ムキキィッ!!》……ぬはははは! やはり余にはこういったものが似合っておるのう!」

「お客様困ります!」

「お前ぇっ! なにをその場で着替えを始めてやがりますかぁああっ!!」

「いや、皆が余をじろじろと見てくるのでな? 見たいのであれば余の肉体、拝謁させるのに是非もないと」

「そういう意味で見てたんじゃないに決まってるだろうがぁっ! お前はもうちょっと自分のデカさとか考えろっ! この馬鹿あぁっ!!」

 

 ウェイバーが泣きそうになっていた。ていうかもう涙が滲んでた。

 その一方でディルムッドとランスロットは実に紳士といった感じの服装で、ビシッと決めていた。

 というのも、セイバーが黒服だったために、なるほどとばかりに黒スーツ。

 サングラスもかけてみたら、どこぞの組織のようだった。

 

「キミらね、普段着買いに来たのよ? その格好で衛宮邸の中を歩く気?」

『……!《ハッ!》』

 

 そこまで考えていなかったらしい。

 中井出に言われ、慌てて別の服を探しに走った。

 ……ちなみに、料金は全額中井出持ちであったりした。

 

 一方、子供服売り場。

 

「もう、サクラもカレンも静かすぎ! なんでも好きな物をって言ってたんだから、選べばいいんだってば!」

「そうそう、ケリィからお金も預かってるし、どれ、おねーさんが選んであげちゃおうっ」

「ほんとっ!? じゃあイリヤはあっちのとか───」

「……選んであげるって言われた矢先に自分の好みを押し付けるとは。あはは、元気だなぁ。それにしても……うーん、ケリィの子供かー……自分があの時無事だったら、あのままおじさまやケリィとあの村を出て…………どうなってたのかな。ケリィの隣に居たのかな」

 

 今さらかな、と呟いて、好奇心が導くままに子供たちの世話をした。

 力は加減しなきゃいけない。なかなか難しいものだ。

 暴れたらナタリアに頭ぶちぬかれる約束だから、気をつけないとだ。

 お姉さんだったのに、いつの間にか抜かれた自分を少し寂しく思いつつ、次第に年相応に我が儘を言い出す子供たちに笑顔をこぼした。

 ちなみにナタリアはナタリアで、死んだことになっているなら好都合だと好き勝手に行動している。

 掃除屋めいたことをすることもない……というか、もはや依頼する者も居ないだろうから、気楽な人生を送れそうだ。

 切嗣に養われるのは少々癪ではあるものの、戸籍をつくるまでは仕事も出来ないから仕方ない。

 

「……大きくなったもんだ」

 

 笑いを噛み殺して、航空機が爆発したいつかを思い出す。

 きっとヤツは泣いたのだろうなと。

 自分のヘマで泣かせるとは、自分もヤキが回った。

 なら、今度はもう……いや、これからは、か。

 あんな死んだような目をさせないためにも……

 

(……親代わりらしいことくらい、あの日語ったようにしてやろうか)

 

 あれも今際の際って言うのかね。

 そうこぼして、騒がしいデパート内の茶店で、残りのコーヒーを飲み干した。

 

……。

 

 結局は朝から出掛け、夜に戻るようなことになってしまった。

 戦争なんて知りません、と言わんばかりである。

 そんなわけで衛宮邸の広間にて、買ってきたものを戦利品というならば、それを見せびらかすように皆がそこで袋を開けた。

 

「見よヒロミツ! 穴場というものは本当にあるものだなぁ! あんなデパートの隅っこにある小さな店に、なんとアドミラブル大戦略の限定版が残っておったわ! 残り一つだというのでな、やはり余は運がいい!」

「予想外の出費だよ……ゲームってやつはなんであんなに高いんだ?」

「おー、大丈夫よウェイバーちゃん。ちゃんと領収書があれば経費で落ちるから」

「どこから出るんだよそれ!」

「まったく、ゲームごときで騒がしい限りだ。疾く静まるがいい征服王」

「おお? ゲームごときとは言ってくれるなぁ英雄王。そういう貴様はなにを買った? ……あん? 雑誌? 漫画か!」

「なんだこれ、少年ジャンプ?」

「釣りについての本もこんなに……英雄王よ、あなたはいったい……」

「聖杯戦争だの祭り事だの。日々とは騒げばよいものではない。静かに、しかし己がそうと思った時に嗤えればそれでいいのだ。故に静かに釣りをし、静かにジャンプを読み、笑いたい時に笑う。これに勝る時の過ごし方がどこにある?」

「ほほう。ならばアーチャー、いや英雄王よ。いっちょうゲームと釣り、それぞれで覇を競ってみるか?」

「……ふん。そういえばいつかの問答の際に口にしたことを実行していなかったか。征服王、貴様は我が手ずから───」

 

 ばちばちと火花を散らすくらいに睨み合う二人が、早速ゲーム機を用意してゲームを開始。

 戦略ゲームとして、どちらがよりスコアが高いか、領土を広められるかを競い始めた。

 

「セイバー? セイバーはなにを買ったの?」

「はいアイリスフィール。私はこの消壺を」

「けし……つぼ?」

「そう、消壺です。古き日本に伝わる、燃した薪をこれに入れ蓋をし、真空状態にして火を消すというものです。そしてこれで火が消えた薪は、次に使う時は燃えやすいといいます。ですがアイリスフィール、この壺を侮ってはいけません。これの真価は別にある」

「え、ええ……? そう、なの?」

「はい。この壺の中に石を敷き詰め、その上にサツマイモを入れます。そして蓋をしてコンロにて火で炙る。するとどうでしょう、干しや茹で蒸かしでは味わえぬ、噂の石焼き芋の味を味わえるというのです! ヒロミツが教えてくれました!《パアア……!!》」

「……ヒロミツ」

「いや嘘じゃないよ!? 消壺で作る焼き芋、マジで美味しいから! 安納芋とかこれに石詰めて焼いて食ってみなって! ほんと世界変わるから!」

「ヒロミツ、早速試してみたいのですが! 芋は、芋はありますかっ!?」

 

 少女然とした様相にて、左手に消壺を、右手で中井出の服をぐいぐい引っ張る。

 ああ、食事のことになると本当に少女だなぁこの王様。おっほっほっほ~と笑いながら、中井出はウムスと頷いた。

 と、そこへ待ったをかける湖の騎士ひとり。普段着として購入した衣服を着こなし、心配そうにしている。

 

「アーサー王……芋の味など高が知れているのでは……」

「なにを言うのだランスロット卿! 確かにかつての日の芋は美味とは言えなかった! だが今! この場は遥か未来だ! ……もし、あの頃にこの味があれば……と思えるのならば、私はそんな味に出会ってみたい!」

「王……!!」

 

 そして始まる王と騎士の伝説。いや伝説ではないか。

 そんな問答をよそに、ディルムッドはあれがかの騎士王……? と疑問符を浮かべつつ、主に声をかける。

 

「主。その、これは芋の問答、なのですか?」

「まあセイバーちゃんが居た地域とかってメシがマズかった~とかいう噂もあったし、その通りだったんじゃない? キミとて美味しいものには憧れたもんでしょ?」

「それは……確かに」

「ウヌ。だったら美味を求める心に呆れなんて向けるもんじゃあござんせん。無邪気で素直でいいじゃないですか。というわけで、じゃーん! この博光が焼き芋にぴ~ったりの芋を用意しよう! そして用意する石はコレ!」

「主、これは?」

「まあそのー……ペターライトみたいなもん? いーからいーから。ほらほらセイバーちゃん、いやさアルちゃん、ちょほいと壺を貸してみなされ」

 

 新品の消壺に、石のようなものと芋を詰めてゆく。

 消壺……火消し壺とはいってもいろいろあり、使うならやはり鉄。

 年代物とか特に良し。

 しっかりと詰めたらば、キッチンのコンロの上にドッカと置いて、いざ着火。

 火が灯った瞬間、騎士王はそわそわしだした。

 「あ、あんなに炙ってしまってもよいものなのでしょうか……!」とか「ヒ、ヒロミツ? その、味付けなどは……」とか「少し焦げ臭い気が! ヒロミツ! 私の、私の消壺が!」とか。

 しかしそれらをしっかり宥めつつ、じっくり置いてから火を止める。

 そわそわが最高潮に達しているセイバーの前まで持ってゆき、いざ開帳。

 

「───! ふわあ……!!」

 

 モファアと溢れる湯気とともに飛び出た香りに、セイバーの顔が緩む。

 いつの間に味付けを? と訊こうにも、心が香りに釘づけだ。

 

「ホホ、溢れ出る糖分が石で焼け、良い香りになっておるわ。……さ、アルちゃん、これを」

 

 そんな彼女の前でガサリと新聞で包んだそれを、どうぞと渡す。

 焼き芋といったらやっぱり新聞紙でしょうとばかりに。

 あ、もちろん焚き火の後でならアルミホイルで。

 

「《ホコッ》……! やさしくほどけるように割れるこの柔らかさ……! そしてこの芳醇な甘い香り……! ひ、ヒロミツ、いただいても!?」

「もちろんです、というか、これはアルトリア嬢のものなのですから」

「……では!」

 

 早速一口。

 噛み、口内へいざなうと、もっちりとした歯ごたえと、口内を支配する熱と甘み。

 ある時代の硬くて乾いてて干されてて美味しくもない味が、自分の中で完全に裏返る瞬間を知った。

 

「───ヒロミツ! 過去へ飛ぶ準備を! 私はっ……私はともに駆けた者達に、消壺を渡す義務がある!!」

「ホホホやだ」

「何故です! これがあれば我々はまだ戦えた! 火で炙るだけでこんなにも美味に仕上げるなど、我々にとってこれこそが魔術で魔法ですヒロミツ!」

「あのね、アルちゃん。これは芋の中のでんぷん質が熱によって反応を起こして、甘さになったからこんな味になったの。どんな食材でもこれに入れれば美味になるってわけじゃないのよ?」

「それでもいい! 芋がこんなにも美味しくなるのなら!」

「芋ならなんでもいいわけじゃないよ?」

「なん……だと……!?《ガクッ》」

「アーサー王!?」

「古くは昔、安納芋は馬などに食べさせていたものだとされておりました。しかし焼いてみたら甘くて美味。キミの時代に家畜に食べさせてた芋があったかは知らんけど、たぶん家畜にやるようなものを食えるかーとか言うでしょ?」

「うぐぅっ!? ~~……なんという不条理だ……! 調理法を知らなかったばかりに、我々は……!」

「いやそんな泣きそうな顔で言われても……」

 

 実際、その頃の芋にそれほどのでんぷん質があったのかもわからない。

 焚き火はよくやったというが、アルミ箔もなく灰に突っ込んでおいて、きちんと焼き芋が出来るのかも疑問だ。

 包まなかったためにでんぷん質が流れ出て、やはり水分も乾ききった干し芋みたいになるかもしれない。

 どちらにしろ時代の壁というものだろう。

 でも食べる。過去のいつかを思い出しながら、真剣な顔で噛みしめていた。

 ランスロットも一口齧ってみては、なるほど、王のように床に崩れ落ち、何故あの時にこの味が……! と嘆いていた。

 美味しい食事って、人を高揚させるものね。仕方ないね。

 

  さて。

 

 焼き芋に時間を取られたのち、戻ってみれば英雄王と征服王のゲームバトルは白熱の直中にあった。

 

「おのれ貴様! その地は我が狙っていたというのに!」

「欲しければ力づくで奪ってみせい英雄王! 余は逃げも隠れもせん! どころかこちらから仕掛けてくれるわい!」

「おのれぇえええっ!!」

「あのなぁお前ら……もうちょっと静かに」

『黙っておれ坊主!!』

 

 イスカンダルどころかギルガメッシュにまで坊主と怒鳴られ、ひぃと喉を鳴らすウェイバーは、それでもきちんと二人が喧嘩でも始めないようにと見張っていた。苦労人気質である。

 

「ディルムッド、ウェイバーと一緒に二人のこと見張っといて」

「はっ。……苦労しているな、少年」

「……なんかお前、他人って感じがしないな……」

「何故だろうな……俺もだ」

 

 苦労人同士、なにか通じ合うものがあったらしい。

 溜め息ひとつ、互いに興味のあるものなどを話し合い始めた。

 

「ふむ」

 

 それを見届けると、中井出はとすとすと歩いて次へ。

 少々酒の香りがして、すとんと襖を開け隣の部屋へ行くと、人は居なかったが窓が開いていて、その先の縁側に並んで座った切嗣とシャーレイとナタリアが、なにやらしんみりと話をしていた。

 邪魔するのもなんだしと空を浮いて次へ。歩いたらなんか、屋敷内だっていうのに小枝でも踏みそうだったので。

 

「うん?」

「おや」

 

 次の部屋には言峰綺礼が居た。

 妻のクラウディアと一緒だった。

 免疫力や体を治してからは、普通の人となんら変わらず行動出来るようになったクラウディア夫人だが、その心身ともに言峰に委ねきっていて、まさに聖女である。

 幼女であるカレンは一言「一緒に居たら砂糖吐くから無理です」と言って出て行ったらしい。

 何気に毒舌家らしい。まだあんなにちっちゃいのに。

 面と向かって「皮を剥がしていいですか?」とか言われた時は、さすがの博光もホーコラビックリ。

 しかし実際剥がすのは本物の皮ではなく、面の皮、という意味らしい。

 幸せそうにしていると、そのツラの皮を剥がしたくなるのだそうだ。

 そんなことを思い出した中井出はカレンを探し、見つけ、引きずり込み、過去の記憶から瑞々しい希望と絶望の瞬間を見せてみた。

 

「………」

 

 懐かれた。

 やだ、なにこれ。

 




◆ネタ曝しです。

*オラオラとぶべらはべら
 珍遊機記より、太郎と玄奘。

*パンチパンチびんたパンチしっぺパンチしっぺ
 ジャングルの王者ターちゃんより、ダン国王をミサイルで殺した男を執拗にボコったアレ。

*ギャアアアム
 FF4より、ゼロムスの断末魔。

*お前は無力だ
 幽遊白書より、戸愚呂のセリフ。

*初めて流す悔し涙か
 ジャングルの王者ターちゃんより、マイケルの涙。

*しょおお~~がねぇなぁあ~~~~っ!!
 ジョジョ第五ぶより、ホルマジオ。
 あのねちっこさが……すごく……ペリッシモ、いい……。

*フルフル
 モンスターハンターシリーズのなんか白くべたつくなにかとかを肌から分泌してそうなヤツ。
 これでも一応飛竜らしい。

*なににににににに!!
 加瀬あつし漫画にて、時折叫ばれる言葉。主にカメレオンの椎名くんのイメージ。

*知りたがり屋は早死にするぞ
 魔界塔士SaGaより、白虎さんのセリフ。
 いいセリフですよね。

*こういうやつも居るのんなー……
 のんのんびよりより、れんちょん語。



◆あとがき
 後悔はあっても、預けなければホルマリン漬けとか、桜さんはいろいろと命が重すぎるというか。
 時臣さんもまた結構苦労人なんでしょうなぁ。
 もし聖杯戦争をやらずにいたとしても、人間関係で難儀してたと思うのです。
 さて、ここまで読むともう大体の流れはこげなものかと判られているような気がしますが、ええ、基本は馬鹿話です。なんと他愛ない……といったくらいに。
 そこに微量のシリアスを混ぜる程度。
 そして第一話にて注意した、物語に含まれる注意のほぼがこの馬鹿者が受けたり起こしたりするものです。
 そんな、とっても他愛ないお話。

 次回は衛宮邸の日常をお送りします。
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