どこにでもあるFate/のオリ鯖参戦系の他愛ないお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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悪であれと囁かれ、清くあれと願われた

 楽しい日々が存在するなら、存在するものってのはやがて終わりを迎えるものだと誰かが言った。

 現実としてそれはじわじわと今を蝕まんと膨れ上がり、とうとうその日常ってものを飲み込まんとした。

 

 ……何気ない日常になる筈だった。

 歩く今が聖杯戦争、なんてものの最中じゃなければ。

 たまたま金髪って目立つよねー、なんて話が子供たちから出て、しからばと色というものをいじくり、セイバーの髪を黒く、目を茶にしてみた。

 そんな、彼が再び顎を殴られ「つぶつぶーーーっ!」と叫ぶ、どこにでもあるような他愛ない日常の1ページになる筈だった。

 

 それは、そんななんでもない一日が、あとは風呂にでも入って寝るだけ、という夜に訪れた。

 

「《ピキュリリィイイーーーン!!》……! 来た! 血の匂いだ!」

「あの、ヒロミツ? それだけ盛大に血を流しながら、血の匂いもなにも……」

「これキミが殴ったから流れてるんですけど!? じゃなくて! キャスターが動いたぞ!」

「なっ……!? 本当ですかヒロミツ! 場所は───」

「あっち! ……あっちってなにあったっけ!?」

「あっちって……おいライダー!」

「おう! 方角からして最初に工房を作っていた排水口だな! 以前確認に行った時はおらなんだが、わざわざ移動を繰り返しておったか!」

「しかし血の匂い……主、やはり未然に防ぐことは───」

「いや、どうにも殺人って感じの匂いじゃないのよね。人、死んでないわ。ただこの血の匂いには覚えがあって、それにプラスして、キミらも感じたことのある気配ってのを感じられると思う」

「気配? ───」

 

 言われ意識してみると、確かに感じるものがあった。

 それは繋がり。

 現代に召喚された瞬間から感じていたそれは、今嫌な気配とともに繋がりをじくじくと蝕んでいる。

 それはつまり───

 

「聖杯!? 馬鹿な! 何故聖杯と血の匂いが混ざるようなことが!」

「で、血の匂いだけどね、これたぶんキャスターのマスターのものだわ。…………えーと……嫌な予感、語ってみていい?」

 

 その言葉で大体想像がついたのか、くつろぎ切っていたギルガメッシュが鼻を鳴らす。

 

「下衆が。己がマスターに聖杯を埋め込んだか」

「そうそれ。たぶん生かしたまま利用するために、文句言わない肉塊が欲しかったんじゃない? ちとイカレた男だったし。で、聖杯といえばどこぞの劇場っぽいところに置いてきたわけじゃない? 拠点をぽんぽん変えてる最中に見つけられたんじゃないかなぁと」

「ふぅむ……今さら聖杯に頼るような願いが無いとはいえ、無造作に置いておったのが災いしたか。で、ヒロミツよ。敵の規模はどんなもんだ? 人に聖杯を埋めたくらいで、なにがどうなるわけでもないとは思うのだがなぁ」

「ちょっと待て」

 

 ライダーの中井出への質問に、使い魔を飛ばしたウェイバーが待ったをかける。

 で、使い魔を通しての現場を見た彼は、一言。

 

「……バカデカい、肉のバケモノだ」

 

 と言った。

 

……。

 

 急ぎ、お子めらを寝かしつけ、その監視を雁夜に任せた全員が近場に転移し、その目で見たものは───肌色に血管のようなものが無数に走ったものから、巨大なタコかイカのような触手が伸びたバケモノだった。

 デカい。呆れるくらいデカい。それがうぞうぞ動き、血を噴き出しては朽ちて、しかし再生してゆく。

 近くまでくると余計に酷い。血の匂いと、なにかが腐った匂い。

 そんなものを川にまき散らしながら、それはグヂュルグヂュルと移動し、陸に上がろうとする。

 

「あぁジャンヌ……我が聖処女よ……! 必ずやこのジル・ド・レェがこの戦いに勝利し、あなたの魂の解放を成就させましょう……! 見ていてくださいジャンヌゥウ!! 聖杯を得て破壊する者と化した我がマスターとともに、私はあなたの魂をお迎えにあがります!」

 

 触手が蠢き、コンクリートを容易く砕く。

 そのたびに血肉が飛び散り、雨生龍之介であったそれが気持ちの悪い声をあげた。

 まるで血と臓物を永遠に吐き出すバケモノ。

 しかしバケモノの声は悲鳴のようであっても歓喜に溢れ、零れ落ちる己の血肉の色に感動しているかのようだ。

 だから暴れる。より血肉を見るために。

 だから暴れる。より自分を破壊するために。

 しかし再生するため死なない。

 動くたびに大海魔と聖杯とが融合したらしい体は道や川を汚染し変色させ、腐らせてゆく。

 

「そんな……聖杯を取り込むなんて……!」

「ライダーのマスター、下がって。もはや話の通じる状況ではない」

「わかってるよそんなこと……! けど、じゃああれをどうするってんだよ……!」

「破壊するほか、ないだろうな」

「おやディルちゃんわかってらっしゃる。でもまあ、ちょっと破壊するのは待ってね? 上手くすりゃあ浄化できるかもだから」

「主!?」

「浄化……!? そんなことが可能なのですか!?」

「どうあれ、汚物が混ざってしまっては手に取る気分も起きん。故に許すぞクロリスト、あれは破壊して構わん。王の決定だ。疾く滅ぼせ」

「だから待てっつーの。ようはアンリマユってのが混ざって汚染されたなら、別のなにかを混ぜるか、アンリマユを乖離すりゃいいわけだ」

「乖離……? 貴様、よもやそのようなことに我の“乖離剣(エア)”を───」

「いや必要ないから大丈夫。こっちにゃそういう能力もあるから」

「……、そ、そうか? まあ、それならばいいのだが……な?《ちらちらちらちら》」

(うわああ……もっと構えオーラがすごい……どうすんだよクロリスト……!)

(いや知らんよ俺に振られても! なにあのイチゴ味の構って欲しいサウザー様みたいな反応!)

(ああうざったらしい……! どうにかしてくださいヒロミツ! 他に手を伸ばしそうで鬱陶しいです……!)

(ムーリー!!)

 

 まあ、なにはともあれ。

 

「んじゃ、いっちょ巨大生物討伐作戦でも始めますかぁっ!! みんな、お覚悟───よろしいか?」

「ぬはははは! いつでも構わん! 余は常に臨戦態勢であるからな!」

「僕だっていつでも来いだ! けど、強化魔法はかけとくぞ」

「なんと!? 貴様いつの間に───まあいいコテ! うっしゃあそれではこれより聖杯とのバトルを開始します! さあおいでなさい移動要塞エーテルアロワノン! キミに相応しい舞台が勝手に向こうからやってきた!」

 

 左腕の霊章から右手で剣碑ジークフリードを抜き放ち、右腕の霊章から巨大長剣の鞘、ランドグリーズを抜き出し、剣を鞘へ納めるやその切っ先を地面に突き刺し能力を解放。

 器詠の理力と呼ばれる能力が武具に眠る意思を目覚めさせ、その中から大樹が都市を巻き込んだ巨大要塞、エーテルアロワノンを召喚。

 それに合わせてイスカンダルもヘタイロイを召喚。固有結界としてではなく朋友のみを連続召喚してみせ、それぞれが要塞へと乗り込む。もちろん魔力的バックアップはヒロライン経由である。

 

「っしゃあ覚悟完了!! 地上戦と要塞戦に分かれて行動せよ! 川から気色悪い数の海魔が上がってきてるから、地上戦担当はそいつらの一掃! 要塞戦参加者はバリスタや大砲、魔導砲を駆使して戦え! 魔術が使えるならどっちでも良し! 大技使えるなら要塞の先端広場からぶっ放してもOK! マナは大樹から溢れ放題である! 好きなだけ暴れてみせよ! っつーわけで征服王号令よろしくぅ!」

「おう! 今宵我らは、欲するが故に召喚されし器にこそ挑まんとする! 願うものなど数あれど、頼る器など我らには不要! 叶えるべくは己が足でありその目とその腕である! 故に汚物しか落とさぬ汚染の塊の破壊を目指し、いざ益荒男たちよ! 我らを繋ぐ器とやらに、太古の雄姿を刻もうぞ!! ───……蹂躙せよぉおおおおおおおおおっ!!」

『うおぉおおおおおおおおおおおおおっ!!』

 

 絶叫。

 それとともにこの場に居る全員が行動を開始して、巨大生物バトルは始まった。

 途中、なにやら戦闘機らしきものが化け物の上を通りすぎようとしたが、伸びた触手に襲われ───

 

「小林ィイーーーーーーーッ!!」

 

 誰かの絶叫が轟いた。

 

「なんてやつだ……! 戦闘機を食いやがった……!」

「パイロットはヒロミツのやつが転移させたようだがな。ではいくぞ坊主! 宝具を使いたい放題とは、ぬははははは! 実に心躍るわい!!」

「……いずれ僕だけでもそう出来るようになってみせるさ」

「おう! 励めよ坊主! 満足したらば余の臣下となるがいい! 共に制覇の愉悦を味わおうぞ!」

「言ってろ、ばか。───あぁああららららららぁあぃいいっ!!」

「ふはははははは!! AAAAALaLaLaLaLaLaieeee!!」

 

 ライダーが駆ける。

 神威の車輪を走らせ、“遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)”を解放し。

 バリスタと砲弾が飛び、肉塊を破壊した矢先から再生するバケモノのもとへ。

 

「まいったな……汚染された分だけ部位が分裂している……。これでは起源弾の1、2発じゃあ破壊しきれない」

「だったらロケットランチャーでも持ってくるか?」

「よしてくれナタリア、そのジョークは笑えない」

 

 地上戦部隊では銃火器を好き勝手に使う二人。

 切嗣が起源弾を放ち、ナタリアは海魔の足止めとばかりにキャリコを高鳴らす。

 起源弾一発につき確実に一匹は破壊出来るものの、あとからあとから湧いてくる海魔の数には果てがないように思えた。

 肉塊に一発ブチ込んでみたが、言った通り部位が分裂しているらしく、その部位しか破壊できない上にすぐに再生する。

 核があるのならそこに打ち込まなければ終わりそうにない。

 それこそ海魔の本体か、聖杯を埋め込まれた人間か、はたまた聖杯自体か。

 

「ケリィ! 話はいいから次次!」

「ああ、わかってるよシャーレイ……フッ!」

 

 手をメキメキと変異させ、肉弾戦で戦うのはシャーレイ。そして、マジカル☆八極拳の使い手である言峰綺礼だ。

 魔術と呼吸法で身体能力を向上、身を固くさせ、拳で海魔を破壊する人間。スゴイね、人体。

 

「召喚に必要な術式の大元を断ち切ってしまえば、海魔も消える……か。ならば醜悪なる怪物よ、我が紅槍にてせめて華々しく散るがいい!」

「これほどの巨大さでは秘匿もなにもないな……早急に消滅させなくては」

 

 一方ではディルムッドがゲイ・ジャルグで魔力を断ち切り現界要素を破壊、海魔を破壊し、一方では時臣が宝石魔術で海魔を破壊、炎剣で両断を繰り返していた。

 また、要塞の上ではヘタイロイたちが数あるバリスタや大砲で遠距離攻撃を仕掛けまくり、天蓋広場では手に魔力を込めたアイリスフィールが魔導砲発射装置を殴りつけ、巨大な魔力の塊を発射。

 肉塊に直撃すると大爆発を起こし、肉を大きく抉ってみせた。

 

「おのれおのれおのれぇええ!! この忌々しい匹夫どもがぁあっ!!」

 

 攻撃を受けたと知ればキャスターも黙っていない。

 魔力で聖杯大海魔を操り要塞へと攻撃を仕掛ける。

 巨大な触手が肉片をボドボド散らしながら振るわれ、しかしそれが黄金の空気の壁によって弾かれた。

 

「なっ……!?」

 

 凝視するは要塞の先端広場。

 そこに、聖剣を鞘に納め、大樹に突き立て両手を置く騎士王一人。

 

「この護り、容易く突破できると思うなよ、下郎」

「“騎士は徒手にて死なず(ナイト・オブ・オーナー)”……さあ、武具は山ほど此処にある。怪物よ、滅びる覚悟は出来たかな?」

 

 先端広場に無数に突き刺さる武具。

 中井出がランスロットの宝具の能力を聞いて、単体で遠距離攻撃が可能な武具を置いていったものだ。

 手にすると武具は黒く染まり、赤い血脈のようなものが走ってゆく。

 それを無遠慮に振るってみせれば、それだけで赤黒い剣閃が空を裂き、呆れる速度で肉塊を断ち切り消えた。

 これには、振るったランスロットも少々ビビった。

 なんてものを置いていくのだ、あの馬鹿者はと思わんばかりである。

 

「きぃいいいいっ!! ジャンヌよ! これは試練だとでもいうのですか! 忌々しい塵芥どもが我が宿願を! 我が夢を邪魔立てするこれが! ならば私は《ベチィ!》ぎぃいいいいいいいっ!?」

 

 叫び、魔力を充実させ、なにかを放とうとした瞬間、キャスターのカエルのような大きな目に何かが激突する。

 思わず涙を散らし、目を閉じたその瞬間、もう片方の目で見たそこに、黒いなにかが居た。

 しなる触手で潰しにかかるもそれはひらりと避けてみせ、

 

「他愛ない……!」

 

 ニヤリと笑んだような白い仮面を揺らし、笑ったのだ。

 そうしてキャスターの怒りがアサシンに向けられた瞬間、その眉間に槍が刺さる。

 ドコォ、と鈍い音が鳴り、頭蓋も脳も貫通し、肉塊までもを貫通し、川を爆発させた。

 

「そこな下郎、見事無様に我が友の誘導に引っかかってくれたな。貴様が動きを止めるのを待っていた。貴様の汚物にまみれた身で、我の宝物を汚すことなどしたくはなかったからな」

 

 故に、放たれたのは中井出が用意したカルドグラスという紫の槍。

 貫通に特化した槍であり、ひとたび放てば所持者が止めるまで止まらぬとさえ言われている。

 ───が、貫かれたキャスターの体がぐしゃりと崩れ、グジュリグジュリと再生されてゆく。

 肉塊を車輪で破壊しながら突き進んでいたライダーとウェイバーはこれに驚き、舌打ちをした。

 

「ぬう、あやつめ、自身まで聖杯に埋もれおったか!」

「そんなの、出来るもんなのか!?」

「あくまで苗床にしたのはマスターの肉体なのだろうよ。そこに召喚した海魔を敷物にし、そこから聖杯の力を吸い出しておるのだ。工房を作って引きこもり、人の命を魔力に変えるようなことをせんかったのはまだよいが、よもや聖杯を魔力供給のエサにするとはな……!」

「どうするんだよこんなの……! 聖杯を壊すっていったって、決定打にかけるだろ……!」

「いや。英雄王の……“乖離剣(エア)”、といったか。あれならばあるいは───」

「あるいは聖杯かマスターに、あいつ……ランサーの……ゲイ・ジャルグ、だっけ? あれを刺せば───」

「それをするにはちと肉が厚すぎるな。余の宝具でもってしても、轢き潰した先から再生する始末ではな」

「だったらさっきの! あの魔導砲っていうのが当たった瞬間だ!」

「いいや、当たったのを確認してから突き刺しに行ったのでは、再生する肉に巻き込まれるだけだ。となれば、再生が間に合わんほどの一撃をくれてやる必要がある」

「そんなの……」

 

 ないだろ、と言いそうになった時、そういえばと思い出す。

 セイバー……アーサー王が時々衛宮の屋敷でぶっ放してた宝具。

 あれを思い切り使えば───!

 

「聖杯が満たされればいよいよジャンヌ! あなたを救うことが出来るのです! さあ……聖杯に命を注ぐ者は何者なるやぁああ!!《ドコォッ!》……アギ? ア───ガアァアアアアアアッ!?」

 

 肉塊の上にて不敵に笑うキャスター。

 その額に、切嗣が放った起源弾が突き刺さる。

 途端に血を吐き暴れ出すキャスターが、崩れ、塵となった。

 が、それが消えたというだけで、海魔の触手がキャスターの形になり、キャスターとなった。

 

「……ありゃあもう、英霊というよりは聖杯に汚染されちまったバラバラななにかだな」

 

 ライダーが感情の乗らぬ声で呟いた。

 ジャンヌジャンヌと叫ぶだけで、もはやろくに意識もないのかもしれない。

 聖杯を汚染した悪の数がその身を犯し、目的だけを口にしては、もはやなにも見えぬ怪物となったのかもと。

 

「人を巨大な肉塊にしちまうようなものが、普通なもののはずがあるまいて。そんなもんから供給した魔力とて同じだ。多少でも取り込んだ時点で内側から汚染されるだけだろう。ありゃあそういうものだと余は見ておる」

 

 事実、キャスターはもはやジャンヌジャンヌ言うだけで見境が無い。

 ちらちらとうろつくアサシンを狙ってみては躱され、他愛ないと笑われている。

 が、攻撃力はちょっとしたものだ。一撃一撃が宝具クラスとなれば、長引かせれば長引かせるほどここら一帯が大変なことになる。

 

「おぅいヒロミツ! 乖離とやらはまだ出来んのか!」

「予想以上に海魔が邪魔臭いし肉塊は邪魔臭いしで大変なのですよぅマジで! とりあえず一発ぶちかますから、離れといて!」

「おう! ……おう? ちょっと待てヒロミツ、そりゃあそのー……どのくらいだ?」

「え? 好きなだけ? さぁああて後悔するなら今が旬! フゥウウルッ───ブラストォオオオオッ!!」

 

 中井出が武器を天に掲げ、マグニファイというスキルで武具の潜在能力を解放。

 さらに強化系能力の解放とリミッター解除までをすると、村人の服を象っていたブリュンヒルデも鞘と剣へ戻し、中井出は鞘であるランドグリーズの力を解放。

 剣にその力を宿していくと、最後に鞘までもを剣に吸収させ、力を込めて構えた。

 すると巨大長剣に、景色が変色するほど、まるで輝きという輝きの全てが剣に吸収されているかのように世界の色が抜け落ち、剣に集ってゆく。何度も、何度も。

 

「溜めて溜めてこらえてこらえて一気に放つゥウウウッ!!」

 

 剣を振るった。

 途端、音が吹っ飛んだ。

 奪われた色が爆ぜるように世界を埋めたと思えば、肉塊は吹き飛び大海魔は弾け飛びキャスターは千切れ飛び。

 

「ディルちゃんGO!!」

「はっ!!」

 

 音が戻った刹那、ディルムッドが駆け、槍を振るう。

 しかしあと一歩のところで肉塊は一気に再生し、ディルムッドを飲み込むようにして───鋭い雷に呑まれ、再び消し飛んだ。

 

「これはっ───否!」

 

 雷の正体などあとでいい。今は、再び抉れたことで出来たこの好機を勝利へ繋ぐ!

 

「貫け───“破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)”!!」

 

 魔力的効果を打ち消す赤の槍が、抉れた肉塊の奥、召喚術式の大元に突き刺さる。

 媒体であったらしいなにかがビグリと震え、悲鳴を上げてディルムッドを触手にて締め殺そうとするが、ディルムッド目掛けて伸びた触手が停止、崩れ去っていった。

 海魔の召喚媒体は殺せたらしい───が、聖杯は、肉塊は違う。

 すぐに再生が始まり、ディルムッドの体を飲み込み始めた。

 

「ディルちゃん! お逃げなさい!」

「おそれながら主! これだけの巨大な海魔……一度貫いた程度では術式を殺しきれません! 我が破魔の紅薔薇は、触れたままでなくては効果が───!」

「なんですって!? じゃあ刺したままでいいから退きなさい!」

「……っ……お許しを。その命、聞けそうにありません……! 既に、足が潰され───」

 

 言った途端、足に絡まり潰してみせた肉塊が、まるで塩を落とされたナメクジのように萎縮し血を吐いた。

 

「……! これは《ガッ!》はっ───!?」

「ここは退きますぞ! ランサー殿!」

「アサシン!?」

 

 足が解放されたディルムッドを、朽ちて消えてゆく海魔を踏み潰しながら川を渡ったアサシンが肩に担ぎ、救った。

 そして再び海魔の残骸を踏み、跳躍し辿り着いた岸には、ナイフを舐め、投擲するセレネの姿が。

 

「即席の毒ナイフ、です。効果はあまり、長くないから……」

 

 聖杯に侵されたとはいえ、元が人だったからか毒は効いたらしい。

 ナイフが刺さるとセレネの毒の体液に身を萎縮させ、嫌がった。

 しかし毒まで飲み込むと再び再生し、川を汚染しながら蠢き、岸へ上がろうとする。

 

「アサシン……かたじけない」

「いえいえ、お気になさらず。こうなれば我らは一蓮托生。必ずや勝利し、あの日々へ戻りましょうぞ」

「……ああ!」

 

 移動要塞内の大樹まで戻ったディルムッドは、急速に足が癒されるのを感じ、それが完治するまでを待った。

 

「とはいえゲイ・ジャルグはヤツの体内。あとは───」

「あ、だいじょぶ、キャスターと聖杯は切り離したから」

「主……!?」

「いやー、危なかったねぇ。ランスロット卿がレールカノン撃たなきゃ、飲み込まれてたかもだよ?」

 

 すとん、と隣に馬鹿者が下りてくる。

 ディルムッドが助けられたのち、肉塊が萎縮している内にキャスターの乖離を実行。

 それは見事成功したのだが。

 

「困ったことに、海魔が聖杯側にくっついちゃっててね……そっちも乖離しようと思ったら、肉塊が回復しちまったぜよ」

 

 言って、ゴドシャアと遠慮も無しにキャスターを地面に落とす。

 完全に気を失っているようで、落下しようが目を覚まさなかった。

 

「主……キャスターは、どのように?」

「コロがしたら聖杯が発動するから注意ね? 今発動なんかしたら、あの殺人鬼の願望が叶えられるよ? 最悪のカタチで。しかもキャスターもさっきまで融合状態にあったから、ヘタすると汚染されたジャンヌ・ダルクが召喚されるかもしれない」

「っ……それは……!」

「ウヌ、さすがにジャンヌさんが可哀相でしょ。だからちょっと行ってくるね?」

「……はっ!? 主、行くとはどこへ───」

「おっほっほっほ~、この博光は、英雄と楽しみたいと宣言したのよ。故に、こやつの過去とも向かい合わせてくる」

「なっ、あっ、主ーーーっ!?」

 

 言っている間にビジュンと空間転移してしまった。

 さすがに無茶だ、狂った人物の過去など、と思ったのだが、一分後あたりに普通に戻ってきた。

 

「やあ《どーーーん!》」

「……ただ今帰還致しました、ジル・ド・レェに御座います」

「…………」

 

 戻ったら、ディルムッドに唖然とした表情で見られた。

 キャスターの姿は騎士っぽいものに変わっていて、人の皮で作られていた本も持っていない。

 顔は、相変わらず目はデカいが凛々しい顔つきだ。

 

「普通に聖処女に会わせて、聞く耳持つまでブン殴りまくって正気にもどして、話をさせてきたよ?」

「些か力技に過ぎましたが、きちんと受け取れたので……まあ、よしとしましょう。それよりもヒロミツ卿? まずはあの聖杯をなんとかしなくては」

「おうさ。ていうかあの海魔、戻せない?」

「うむむ……無理ですね。既に私の制御下を離れ、聖杯に支配されております」

「うわー事後処理も出来ないとか傍迷惑な……ああまあ、とりあえずあと一人英霊分のパワーをくべて、聖杯を発動させなきゃならん」

「主? それは他の英霊のものと同じく、別の力で代用しては───」

「あぁダメダメ、入るのは聖杯に影響を与えられるヤツじゃなきゃならんのよ。アンリマユと同じく、この世全ての悪……だっけ? まあそれを解放出来るようなやつじゃないと」

「では……?」

 

 足が回復し、姿勢を正したディルムッドは嫌な予感に駆られながら問う。

 と、キャスターがふむと頷いて、言った。

 

「罪は償わなければならないでしょう。ならば、このジル・ド・レェにお任せを」

「アホをお言いでないよ、キミが入ったら少年少女虐殺聖杯が出来上がるわ」

「むぅ……では、どういたしますかな?」

「ホホ、そこでこの博光の出番である。幸いにしてこの身はサーヴァントである。死ねばくべられるし、この身は武具宝殿。悪を押し付けられたコゾーの一人くらい切除するのになんの問題もなかとよ?」

「───! 主!」

 

 嫌な予感が当たった。ディルムッドは拳を握り抗議しようとするが、中井出は手を突き出して待った待ったとばかりに言う。

 

「ディルムッド、主として心から命じる。見逃せ。忠義を以て」

「……っ……あ、主……! あなたという人は、俺に、俺にそうまでして……!」

「いや、なに心配してるのか知らんけど死ぬつもりはありませんよ? ただ見逃しなさい。大丈夫、キミの忠義は穢しません」

「───……主よ……」

「んで、戻ったらまたセイバーでもからかっちゃろう。ブホッシュ、あやつまだ黒髪茶眼だから、からかい甲斐があるのですよゴホホホホ……!!」

「……この男、良い外道気質をお持ちですね。ともすれば、子供を殺し続けた私のような───」

「あらそういうこと言う? せっかく過去からジャンヌのサークレット強奪してきたのに。あーあ、これを聖遺物扱いして、ジャンヌ召喚しようと思ってたんだけどなー」

「あなたこそ我が神である!! このジル・ド・レェ、一生崇め続ける所存にございます!」

「ベンハー!」

「《ドス!》ウボオア!?」

 

 調子の良いキャスターがストレートに殴られた。

 それはそれとしてきちんと魔法陣を描くと、そこに癒しとマナをふんだんに織り交ぜる。

 何故って、こんな血なまぐさい場所に聖処女を呼び出そうものなら、反転しちゃいそうだし。

 なので詠唱もより清らかなものにして、聖杯で呼ぶのではなく剣碑を拠代にして、召喚を実行。

 なにせ、聖杯が肉の塊になってしまっているから。あんなものを拠代にしたら、デヴなジャンヌが現れてキャスターが発狂しかねない。

 そんなわけでいざ召喚。

 するとどうでしょう、こげな臭くて肉塊と臓物もどきと海魔の死体がべっちゃりな場所なのに、強烈な閃光が闇夜を照らし、上空から太陽の如く輝く聖処女が、光を纏って降りてくるじゃあないですか!

 

「……サーヴァント・ルーラー、現界いたしまし───え?」

「おぉおおおおおお゙お゙お゙ぼっぉほぉおおおお!! ジャァアンヌゥウウウ!! 我が聖処女《ブスリ》マおガァあアアーーーッ!?」

 

 召喚した途端にキャスターが突貫! ……したら目潰しされた。

 

「相変わらず飛び出ていますね、ジル。突き甲斐がありそうです。……けれど、その。はぁ。随分とまた、黒に染まりましたね」

「ぐぉおぅう……! ジャ、ジャンヌ……! 我が聖処女……! 私は、私は……! あなたを見捨てた神を───!」

「信じることを強制するつもりも強要するつもりもありません。が、信じなければなにも始まらない。疑ってかかれば行動は鈍るし、いつしか自分の歩みさえ信じられなくなる。……神は、我々を見捨ててなどいませんよ。ただ、救うことなど出来ないのです。人にとっての様々な正義がある限り、神はひとつの正義を選ぶわけにはいかないのですから」

「ジャンヌ……おお、ジャンヌ……」

「あと聖女と呼ぶのはやめなさい。むしろ処女処女って、女性に対して失礼というものでしょう。人をなんだと思っているんですかブン殴りますよ」

「ジャンヌ!?《がーーーーん!》」

 

 この聖女、自由である。

 なにせ聖女聖女と周囲がどれだけ呼ぼうが、彼女自身は一度たりとも自分がそうであると思ったことなどないとくるのだから、過去の話とはいえ、英雄になった、ではなく英雄にさせられた、などという意味もわかりそうなものである。

 果たして過去の英雄の中に、本当に英雄になりたかった者などどれほど居たのだろう。

 ジャンヌの言葉を聞いて、中井出は静かにそんなことを考えた。

 と、まあそれはそれとして。

 

「召喚士。私を呼び出した理由はなんですか? 調停者としての力を望むような光景には、少なくとも私には見えません」

「人に“清くあれ”って願われた光が欲しかった。ちょっとさ、“悪であれ”って願われた誰かさんを解放してやりたいんだけど、手伝ってくれる?」

「人の救済が目的……なんですか?」

「人なのか英霊なのか。まあともかく聖杯に呑まれたとある凡人を乖離させたいのだ」

「それは無茶というものです。人は神にはなれません。神の真似ごとをして、聖杯にくべられた魂を切り離すなんて」

「や、無茶がどうとかそういうのはどうでもいいんだ。やる。決まってるの。手伝って?」

「………」

 

 強引な物言いに、ジャンヌはきょとんとした。

 けれど、自分を召喚した際にここまでの神秘性を自分に与えた張本人。

 さらに言えば彼と繋がったパスから流れる、異様なまでの魔力と癒しと、そして想いの力。

 

「ちなみにね、僕は神ってものを信じておりません。人が勝手に神だ神だと呼ぶものを、信じちゃあおらんよ。出会えたならきちんと一人として数えて、その上で馬鹿やって仲良くなりたいって思ってる。姿も形も知らんで勝手に信頼押し付けて、失敗すれば神を恨む? そりゃいかん。だからね、ジャンヌ。僕は神でも聖女でもなく、貴様を信じます。他の意見なんぞどうでもヨロシ。他を信じたらキミへの知識が聖女で埋まる。それじゃあ意味がない」

「召喚士……」

「あ、名前の交換してなかったね。やあ僕博光。中井出さん家の博光くんだよ? どこにでも居るような他愛ない存在さ。ちょっと世界を救ったことがあって、友達と仲間と家族全員に裏切られたことがあって、様々な信頼関係を作った人に忘却されたことがあって、その果てに子供を救って死んだら火事場泥棒扱いされて燃やされて灰にされた愚者にござる」

「…………そうまでされて、何故人のために?」

「え? ……人のため、違う。僕、自分のため、動く。俺がこの状況が嫌だから動くの。他人のためでも他人の所為でもねーのよ?」

「………」

「………」

 

 ジャンヌはじっと中井出を見た。

 その目を見れば、大体の者がどんな思いを自分に向けているのかがわかったからだ。

 けれどその目から感じられるのは信頼。

 しかも、その信頼が“このお方ならばこの状況をなんとかしてくださる!”といった、信仰にも似たものではなく。

 “一緒になんとかしようぜッ! 大丈夫大丈夫なんとかならぁ!”のような、まるで友達にでも語り掛けるような信頼だったから、ジャンヌは───

 

「おうコラてめぇなにガンくれてんだコラオゥ? お? なんだ? もしかして俺とやろうってのか?《ブスリ》マおガァアアーーーーッ!!」

 

 何故か眉間にシワを寄せながらポケットに手を突っ込み、ズカズカ近づいてきた馬鹿の目をつついた。

 それが、場を和ませる冗談だと受け取った上で。

 

「わかりました。あなたの提案を受けます」

「ならサミングしなくてもよかったじゃない! ひどい! なんてひどい!《ズキズキズキズキ》」

「友として見て、そういった信頼を向けてくれるのなら、私もそれを返すまでです。……まちがっていますか?」

「───……キミを燃やしたやつらは馬鹿だねぇ。反発なんざしないで、手ぇとって友達になっときゃよかったのに」

 

 言って、ひょいと手を掲げた。

 ジャンヌはきょとんとしたが、それがある行動を促すものと気づいて、ぱあっと表情を明るくして……その手をぱしーんと叩いた。ハイタッチである。

 

「僕ァね、意思があるなら友達になって、馬鹿騒ぎして世というものを楽しみたい馬鹿なの。信頼したなら友達で仲間で家族だ。勝手に信頼するから、裏切るのも怒るのも好きにしておくれね?」

「受け取りました。さあ行きましょうひ、ひー……ヒロミツ、さん。はい。ええ」

 

 なんでか顔を赤らめて名前を呼ぶことに躊躇していたが、一度呼べばヨシと呟き、前を向いた。

 内心、“友達出来た……! 友達……!”とか思っているのだが、そっとしておこう。

 

「ジャンヌよ! 私は!? 私はあなたへ」

「うるさい」

「《ブスリ》ハゴォガァアアーーーーーッ!!」

 

 そしてサミング。

 しかし遊んでいる暇はそろそろ無さそうだった。

 

「皆さま頑張ってくれとります。さっさと片づけませう」

「はい。とはいえ、どうするのですか?」

「え? 聖杯の中に突っ込むのよ? ほらあれ」

「…………え?」

 

 指差された肉塊を見て、「聖…………杯?」と呟いた。

 “聖……”、の部分で肉塊を見て、“……杯?”の部分で中井出を見て、こてりと首を傾げた。

 いちいち行動が可愛い。

 

「うす。この馬鹿者がマスターだった殺人鬼に聖杯を埋め込んだらしくてね? 器として不出来だった所為なのか、中身が溢れ出したーみたいな状況なの」

「…………ジル」

「はいなんでしょう聖処女《バゴシャア!!》ジャップス!」

 

 駆けよったらカウンターで顔面殴られた。目潰しどころではなかった。

 

「すみません召喚士……うちの馬鹿が……《ずぅうううん……》」

「べつにキミの所為じゃねーでよ。今はそれをなんとかせやろーって、僕も皆さまも方法を考えておったところじゃけぇ。そんなわけで、僕と一緒にあの中に入って、“悪であれ”と願われたただの凡人を引きずりだすの」

「ええ、そういうことならば。けれどその、入るとは、どのように?」

「あぁじゃーじょーぶじゃーじょーぶ、どこぞの白い人妻から、聖杯の器としての核のパターンをコピーしてきたから、これを身にまとって聖杯に触れれば侵入なんてチャメシゴト! っつーわけで行こうぜジャンヌ! レッツラゴー!」

「《がばぁっ!》わぁっ!?」

 

 脇に抱えられた。光り輝く聖処女が。

 その事態に、ジャンヌ自身は「こういう時は横抱きなのでは……」と思わなくもなかったものの、なんというかこんな雑というか、飾らない接され方に喜んでいる自分も居た。

 

「けれどあの肉の厚さでは、聖杯の核がどこにあるかなど───」

「ちと時間かかったけど、分析は済んでるから任せておきんさい! 各馬一斉にスタートォッ!!」

「ひゃぁああああっ!?」

 

 跳躍、そして飛翔。

 宙に浮かされた巨大な剣が火を噴いて空を飛ぶ。

 その剣によって空を飛んだジャンヌは、それはもう目はぱちくり。両手は中井出の服と腕をぎうーと掴んで、高く高く上昇する様子に少し目を輝かせた。

 鳥のように飛んでみたいと思ったことがある。なにものにも縛られず、自由に。

 もちろん叶うわけもなかったが、まさか死んでから叶うなんて。

 

「じゃ行きますか」

「え? あっ、はいっ! …………はい? あの、ひろっ、ヒロミツ、さん? ここからそのー……どのように」

「え? 聖杯まで急降下してぶちかましますが?」

「《ギャオッ!!》───………………ぃぃぃぃいいいやぁあああああっ!?」

 

 その日、空の中途からいきなり流れ星が降りました。

 それは巨大で醜い肉塊を容易く貫くと内部で大爆発を起こし、その爆発は上空にある雲おも焼くほどの規模であり……肉塊は吹き飛び、ベチャゲチャと川に飛び散ったそうな。

 他への飛び散りは白い人妻が張った光る糸で作られた壁が落とし、遠坂がそれらを焼いたそうです。秘匿とかもう少し考えて欲しいものだが……と泣きそうな顔で言っていたが、無理に優雅に構えようとして逆にヘンな顔になっていた。

 

 

───……。

 

 

……。

 

 暗い昏い、体にへばりつくような暗さの中に居た。

 動こうとすればなにかが体にまとわりついているようで、ジャンヌは少し不気味に感じる。

 自分を抱えていた馬鹿者はひょいとジャンヌを下ろすと、はぐれないようにね? と手を繋いだ。

 それからパスを通して想いの力が流れてくると、ジャンヌが纏っていた光が強いものになって、まとわりついていたものを吹き飛ばす。

 

「……ヒロミツさん、ここは……」

「聖杯の中だよ。うひゃーはー、人妻がいっぱいだー……」

 

 中には白い人妻がいっぱいだった。

 目を閉じて、黒と赤を混ぜたような淀みの中を漂っている。

 しかしそんな人形めいたそれらが突如として目を見開き、口を三日月のように開いて笑い───

 

「服着ろ変態!!」

『《バゴシャア!!》ペサァーーーッ!?』

 

 馬鹿者に頬を殴られ吹き飛んでいった。

 他の白い人妻は、人妻が吹き飛んでいった方を見て、中井出を見て、慌てて逃走。

 

「な、な……ななな……!」

「おおいやだわほんと、人に裸を見せてあんなに笑顔になるなんて。きっと変態だよ」

「………」

 

 言われて、確かにと頷いてしまった。

 なにも殴らなくても、なんて言おうとしたのに、その言葉も消えるくらいの説得力だった。

 

「じょっ……女性でも、遠慮もなしに殴るのですね……」

「老若男女の差別はせんよ? 愛でるべきは愛でますけど、基本が外道な博光ですもの。差別なんぞしてたら誰とも友達になれませぬ」

「───…………そうですね。ふふ、ええ、そうだと思います」

 

 握られた手を握り返して、歩き出す。

 向かうべき場所はなんとなくわかる。

 禍々しいなにかがその先にあって、歩を進めるたびに自分を羨み嫉妬しているように感じるのだ。

 なんで。どうして。自分はこうなのに、なんで、とばかりに。

 勝手な嫉妬だと思う。

 目も合わせていないうちから、清くあれ、なんて願われた相手を妬むなんてアホらしい。

 そうなるとわかっていた生であっても、悔いはなかったといえばきっと違うのだ。

 やりたいこともあった筈だ。

 普通に大人になって、平和に生きることだって、無理なわけでもなかった筈だ。

 それでも。

 

「アヴェンジャー……」

 

 近づく毎に理解してゆく。

 その先にあるなにかを。

 清くあれと願われたからこそ、悪であれと願われたそれの禍々しさが。

 サーヴァントとしての名を知り、その在り方を知り、容姿を知り。

 その上で、その禍々しさを身に纏った少年が形作られてゆくのを、その目で見守った。

 気安く声などかけられない。

 この場に漂う暗さと昏さが自身をそうさせ、ジャンヌは唇を噛むように───

 

「アーンーリー! あっそびっましょー!」

「!?」

 

 気安く声をかける隣の馬鹿者に、それはもう驚愕した。

 しかも声をかけた途端に赤黒いなにかが蠢き、襲い掛かってくるではないか!

 

「いけジャンヌ、清らかフラッシュだ」

「ありませんよ!!」

 

 今こそ出番だとばかりに促してくるが、言われたって知るもんかそんなもの!

 そうこうしている内に、無数の人の顔が集まったような赤黒いなにかが迫る。

 ジャンヌは思わず身を竦ませてしまう。

 

「来るか、淀みよ。ならばこの博光も相応の技を見せねばなるまい……!」

「ひ、ヒロミツ、さん?」

 

 しかしそんな竦みも、きゅっと握られる手から伝わる想いに癒された。

 もしかしたらなんとかなるのでは、なんて───

 

「うるさい」

 

 ズパームと、迫るそれをビンタで叩き落とす隣の馬鹿に、再度驚愕した。

 

「えなぁあなななな!? なにを!?」

「え? なにって…………“リーダーうるさい”?」

「技名を訊いているのではなくて!」

「まあまあ! 僕らは遊びの誘いにきたのですよジャンヌ! なのでそれ以外はどうでもヨロシ! さあレッツシャイニング! 後悔するなら今が旬! フルブラストォオオッ!!」

「ひやぁああああっ!?」

 

 なにかを解放した中井出から、手を通してなにかが流れてくる。

 するとジャンヌの体から放たれる光が輝きを増し、なおも襲い掛かろうとする淀みを押しのけてゆくではないか。

 対する淀みはこちらが輝けば輝くほど、これでは勝てぬと淀みを圧縮、黒くて赤い世界を一点に集中させるかのように、眼前の黒い球体へと集めてゆく。

 すると中井出はすぐに、穢れが剥がれた部分を聖域で浄化し、逃げられぬよう埋めていった。

 

「で、淀みの大元の後ろにもシャイニング・壁を創って、と。じゃあ歩こう」

「え? あるっ───え?」

「僕らは輝きの果てを目指して進むのさ! これぞシャイニング・圧殺」

「え? え? えぇええーーーーーっ!?」

 

 彼と彼女は手を繋いで進んだ。

 それはまるで、明日を目指すためにすすむ、どこぞかのRPGとかのEDのようであり、俺達の戦いはこれからだ! 的な様相のまま、輝きを目指して進んだ。

 傍から見れば、手を繋いで明日へ進むヒーローとヒロイン。

 現実は光と光で相手を挟んで圧殺する外道である。

 

「おお、見よ、光に挟まれ、圧され、穢れが壊れたレコードめいた悲鳴をあげるではないか」

「見よじゃなくてですね!? あのこれやり方が相当あれなんですが!? 救いに来たのでは!?」

「救うにしても、この“悪であれエネルギー”が邪魔だからね。まずはこれを破壊しないと」

「───……あ…………なるほど。そういうことならば躊躇はいりませんね!」

「うす。ただね、どうあれ一度は聖杯は発動させるよ? 願いを叶えなきゃ、中身を吐き出せないんだ。だから、たぶん逃れられない惨劇は起こるだろうけど───お覚悟、よろしいか?」

「それは、のちの救いになるのでしょう?」

「うん。それは約束する。悪を押し付けられたガキャアも助かるし、聖杯も次からは名前の通りの聖なる杯になるよ」

「そう……ですか。安心しました」

「信じちゃっていいの? 嘘かもしれんのに」

「あなたを信じます。“私が守りたかった国”はきっともう無いのでしょうけれど、かといって全てを見捨てたいかといったら違うのです。まずは目の前に居る、手を繋ぐ友を信じられないで、いったいなにを救えるというのですか」

「そっか。───じゃあ行こうジャンヌ!」

「ええ! この輝きの果てへ!」

 

 そうして───そう。

 

 ───そうして、二人は駆けだした。

 

 笑顔で、この輝きで人を救えると信じて。

 

 そう、ジャンヌは笑顔だった。

 

 異端と言われ、否定されてなお意思を貫き、死した自分だ。

 

 その意思が、意志が、今、輝きとなって人を救うのだ。

 

 それ故の、希望に溢れた笑顔、希望に溢れた疾駆だった。

 

 駆けて駆けて───

 

 駆けすぎて、穢れが吹き飛んだ少年まで潰した。

 

 その後、中井出は輝ける聖女の拳でボコボコにされた。




◆ネタ曝しです。

*イチゴ味のサウザー様
 北斗の拳イチゴ味より、サウザー。
 基本うざい性格。

*ムーリー!
 親愛なる殺し屋様より、マモーティ・ヤルケンの叫び。
 ユーアー・シツレイ!

*まあいいコテ
 千絵かなスィ。
 3年奇面組より、雪国のチビしさを教えんとする豪くんの嘆き。

*すごいネ、人体(はぁと)
 バキより、魔法滅土荒威(マホメドアライ)。
 アライスマイルのステキさは異常。

*ためてためて、こらえてこらえて、いっきにはなつ!
 聖剣伝説より。
 ミニ漫画の中にそんなのがあったのよ。

*ベンハー!
 ベン・ハー。
 4年1組起立より、この時から既に殴る時や殴られた時に、普通じゃない言葉を言っていた。

*ペサァーーーッ!?
 ピューと吹くジャガーより、ヘナップの次。

*いけジャンヌ、清らかフラッシュだ ありませんよ!
 いけ矢島、じゅうまんぼるとだ ねぇよ!
 トゥハートアンソロより、吉田創氏の漫画。

*リーダーうるさい
 世紀末リーダー伝たけしより、野生味あふれたたけしの奥義。
 落ちてきた雷を、うるさいの一言とともに掌で叩き落とす。


◆あとがき
 次回は第四次聖杯戦争終了から、ちょっとした日常回。
 あ。あとオリキャラ名物キャラ設定を少々。
 べつに知らなくても暇潰しとして読んでくれれば十分です。
 細かな感動も喜びもいらない……ただささやかな暇潰し道具たれ、みたいな小説になればいいなぁ。
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